北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

新生仔牛の中手骨骨折・再び(3)

今回の中手骨骨折の治療は成功しそうだ、

ようやくそんな気持になれたのは、

治療から2週間が経った時に撮った、

X線画像を見た時だった。

そしてその翌日、

早速私は、

♯さん宅へ往診に向かい、

キャストを巻き直すことにした。

IMG_2078前回のように

キャストを外して行くにしたがって

異臭が漂ってきたり

患肢が冷たくなっていたり

IMG_2079していないだろうかという不安は

今回は

昨日見たX線画像によってほぼ払拭されており

確実に治癒に向かっているという

IMG_2080安堵の心持ちでキャストを外すことができた。

キャストを外すと

蹄の先まで暖かく血が通い

骨折部位が癒合を始めている前肢が現われた。

化膿したり壊死していたりしていないことを確認し

IMG_2081私は再び患肢に

伸縮包帯と

アルミホイルと

キャストを

IMG_2084順に巻いて行った。

今のところ、私が行っている骨折の外固定は

こういう方法なのであるが

前回の記事のhig先生のコメントにあるように

IMG_2085もっと良く、もっと相応しい材質の下巻き

ストッキネット、エバーウールシート等、があるようなので

これをお読みの現役の獣医師の皆さんは

ぜひこれからは

IMG_2087hig先生のコメントを参考にして

より良い材質の下巻きを診療所に常備して

それを使えるよう努力して頂きたいと思う。

さて

2回目のキャスト固定が終わり

その日からまた

2週間が経過した。

IMG_2194私は再び♯牧場へ赴き

この仔牛の最後の治療をすべく

ギブスカッターで

キャストを外した。

BlogPaint患肢はほぼ完全に

骨融合をして

仔牛の中手骨骨折の治療は

これをもって終了の宣言をして

♯牧場を後にした。

ところが・・・

翌日

♯さんから

電話がかかってきた。



(この記事続く)



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新生子牛の中手骨骨折・再び(2)

産科チェーンによる牽引で、

仔牛の左右の中手骨を骨折させてしまった、

酪農家の♯さんは、

その後産科チェーンを使わず、

産科ロープを使って無理な牽引は止めている様であった。

ところが今回、またしても、

生まれたばかりの仔牛の右前肢の中手骨の骨折。

なんという不運であろうか。

そして、それを治療した獣医師の私は最初、

♯さんの稟告が嘘で、

本当はまた、チェーンの牽引によって骨折させたのではないかと疑っていた。

それも♯さんにとってはまことに不本意なことであったに違いない。

しかし

エックス線画像を診ることによって、

今回は、牽引による骨折ではなく、

親牛に踏まれたことによる骨折である可能性が高いことがわかった。

ということは

今回の骨折部位周辺の軟部組織のダメージは

前回の骨折部位周辺のダメージよりは軽度であろう

と推測することが出来た。

私も、♯さんも

今度こそは

骨がちゃんと癒合して

仔牛が助かってくれることを

心から願っていた。

そんな思いを抱きつつ

2週間が経過した。

♯さんの仔牛はとても元気だった。

BlogPaint前回の失敗したときの仔牛も元気だったから

子牛の外見からは

中手骨がちゃんと癒合しているかどうかは

全くわからない。

仔牛を寝かせて

子牛の前肢のエックス線撮影をした。

そしてその足で東部診療所へ走り

エックス線フィルムのカセッテを

現像機械へ挿入した。

祈るような気持ちで画面を見る私の

目の前のモニターに現れた画像は

左のような画像だった。

IMG_2072「・・・。」

「癒合してるんじゃないですか?」

一緒に画面を覗いていた後輩のM獣医師がそう言った。

「・・・そう?」

「大丈夫ですよ。」

IMG_2071「・・・そう、・・・だといいんだけど。」

「いいんじゃないすか。」

「・・・これがね、骨折した翌日に撮った写真なんだけど。」

私は、携帯電話に保存されている2週間前の

この子牛の骨折部位の画像をM獣医師に見せながら

それを、目の前のモニターに映し出された今日の画像と

IMG_2074比較してみた。

上が2週間前の画像で

下が今日の画像。

「・・・白い部分が出てきているみたいなんだけど。」

IMG_2075「あー、比べてみるとよくわかりますね。」

私は、今回の骨折が

何とか治癒に向かいつつあるとを確認し

胸をなでおろしたのだった。

ちなみに

最後の2枚のエックス線画像は

IMG_1843今回の症例ではなく

前回の失敗例すなわち

左右の中手骨がどちらも癒合しなかった症例の画像である。

今回のものと比べて明らかなのは

2週間たっても

IMG_1844骨折部位には

白い化骨細胞の出現が

全く見られず

むしろ黒く変化して

壊死していることである。



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新生子牛の中手骨骨折・再び(1)

「生まれたばかりの仔牛の足がおかしい・・・」

酪農家の♯さんからの電話だった。

♯さんといえば、

つい最近の1ヶ月ほど前に、

産科チェーンで仔牛の前肢を牽引し、

両前肢の中手骨を骨折させて、

結局治せずに処分したばかりの酪農家である。

なんと・・・また仔牛の骨折か・・・、

到着して、仔牛の右前足を診ると

着地不能でひどく腫れている。

「・・・これは、折れてるよ。」

IMG_2006「ほんとに?」

「・・・また助産で引っ張ったの?」

「いや、引っ張ってない。」

「・・・ほんとに?」

IMG_1996「ほんとに引っ張ってないよ、自然に生まれてたんだ。」

「・・・ほんとに?」

「ほんとだって。」

「・・・とにかく、またキャスト巻かなきゃダメだね。」

IMG_2008「よろしく頼みます。」

「・・・とにかく、今度こそ、治さないとね。」

あらためて触診してみても

仔牛の右前肢は間違いなく骨折していた。

IMG_2010それも、中手骨の遠位の

ちょうど産科チェーンをかけて牽引する位置である。

私は♯さんが嘘をついているのではないかと

ずっと疑っていた。

IMG_2011本当はまた産科チェーンをかけて牽引して

また仔牛の前肢を骨折させてしまったけれども

私に呆れられることが恥ずかしくて

咄嗟に嘘がついて出たのではないかと

IMG_2012ずっと疑いつつも

♯さんをそれ以上は追求せずに

前回と同じような方法で

前肢を牽引して

IMG_2017下巻きはバンデージのみ

その上にアルミホイルを巻き

その上からキャストを巻いた。

抗生物質を投与し

翌日

エックス線撮影をした。

IMG_2018その画像が

下の写真である。

骨折部位が真っ直ぐではなく

前方向に屈折したまま

キャストを巻いてしまっている。

前肢の牽引方向が悪かったことを示している。

牽引する包帯の結び目を

仔牛の前肢の掌側ではなく背側にすべきだったのだ。

そのご指摘は甘んじて受けることにして

骨折した部分をさらによく見ると

IMG_2022この骨折は

中手骨の掌側よりも背側の方に

ダメージの大きい折れ方をしていた。

これは

何か大きな圧力が

IMG_2020背側から掌側の方向へ掛って

その圧力によって骨折をしたような折れ方をしていた。

すなわち、これは

産科チェーンの牽引による骨折ではなく

親に踏まれたことによる骨折ではないか

と想像される骨折の画像だった。

♯さんは

つまらぬ嘘をついていたわけではない・・・と

この画像を見た私は

そう思い

♯さんの発言を

やっと信用することができた。


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日本伝統俳句協会全国大会in群馬

日本伝統俳句協会の第28回の全国大会が、

IMG_22649月9.10日の2日間にわたり、

群馬県は榛名山麓の伊香保で開催された。

私がこの大会に出るのは、

4年前に札幌で行われた大会以来2回目だ。

群馬は私の所属俳句誌「桑海」の編集部があり

私の敬愛する俳人村上鬼城の活動した土地であり

IMG_2269私の娘の住むところでもあり

何かとご縁か深い場所。

娘に会うことや桑海の句友の皆さんと会うことなど

いろいろな理由を重ねて

職場から休みを頂いて

大会に参加して来た。

開催地は終日好天に恵まれ

たいへん気持ちの良い吟行をすることが出来た。

IMG_2272吟行の気持ち良さに加えて

会場の宿の温泉に浸かる心地よさと

懇親会のお酒のうまさも加わり

申し分なく楽しさを満喫することができた。

しかし

あまりにも心地の良い時間のなかで

当日、詠んだ俳句のほうは

全く成績が振るわなかった(笑)

そのような大会での

稲畑汀子会長の講評はいつものように

「選に入らなくても良いのです。こうして皆さんと俳句を作るという事が良いのです。」

IMG_2300という、優しい言葉を聞き

今回もそのお言葉に慰められることになった(笑)

いつまでもそんな事ではいけないのと思うのだが。

それでも我が花鳥諷詠の若干の進歩といえば

今大会の事前に行われる募集句の部において

IMG_2271稲畑汀子会長の選に

私の一句


 雨のまだ降り手にとどきさうな虹   豆作


が入ったこと。

当日は全然ダメでも募集句の方でなんとか

進歩を感じ得たのはちょっと嬉しかった。

さらに

大会の講演で

「西洋の詩と東洋の詩、特に日本の詩」

と題した有馬朗人(ありま・あきと)氏の講演が大変面白かった。

有馬朗人氏は国際俳句交流協会の会長さんで

俳句をユネスコの無形文化遺産に登録することを目指している方である。

俳句をそういう無形文化遺産というものに登録することについて

IMG_2301色々意見はあるようだが

私はそれも結構なことではないか

と思っている。

俳句を文化遺産に登録しようがしまいが

俳句という日本の文芸は揺らぐこと無く

この世界に生き続けるものであろうと思うからである。

歌舞伎や能、和食あるいはヨガなども

すでにユネスコの無形文化遺産に登録されているらしいが

それらと同様、俳句も揺らぐことはないだろう。

ユネスコの無形文化遺産のリストを見ると

そこに登録されているものの共通点は

「西洋人の知らない文化」

という西洋中心の考え方が根底にあるように思える。

歌舞伎や能は登録されているが

ミュージカルやオペラは登録されていない。

和食は登録されているが

フランス料理は登録されていない。

そういう西洋人の勝手に基づくユネスコの文化遺産運動など

俳句にとっては針小な事だと思う、が

西洋人に俳句というものを理解させる一助になるのであれば

それも結構なことだろう、と私は思う。

今回私は、有馬朗人氏の講演をはじめて拝聴したが

さすがに東大学長や文部大臣などを務めた方の話は

非常にわかりやすく、聞いていて飽きのこない楽しいものだった。

まさに講演のプロ、教壇に立つプロ、だと思った。

西洋の詩歌と東洋の詩歌を比較することでその違いが浮き彫りになり

だからこそユネスコの無形文化遺産に俳句を登録すべきではないか

という有馬氏の考え方は、とても明瞭でよく理解することが出来た。

ただ、有馬朗人氏はこの運動に積極的だが

稲畑汀子先生はこの運動に対しては

勝手におやりなさい

というスタンスに見えた。

ともあれ

今回の吟行会は

榛名湖畔の花野だったが

私にはもちろんはじめての経験だった。

その中で、私の収穫出来た事といえば、何と言っても

IMG_2289北海道ではなかなか体験することのできない「季題」との出会いであった。

すなわち、左の写真の上から順に

「ゆうすげ」

「松虫草」

IMG_2279「吾亦紅(ワレモコウ)」

「女郎花(オミナエシ)」

「藤袴(フジバカマ)」

などの秋の植物だ。

IMG_2283こういう北海道ではなかなか出会うことのできない季題を

生で体験できる機会は

北海道に住んでいる限り

そう多くはない。

IMG_2296インターネットで未知の季題の写真を見たり動画を見たりしても

それは視聴覚だけの刺激であり

大きさも拡大と縮小がなされており

本物の季題とは程遠く

IMG_2291結果、良い俳句を詠むことはできない。

未知なる季題と対面し

それを生で感じることが出来たのは

とても有意義なことだった。


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重種馬の蹄病治療用ドリル

重種馬の蹄病を治療する機会は減ってしまった、

しかし、減ったとはいっても、

我が診療地区に重種馬が飼われている限り、

ゼロになることは無い。

1年に数回くらいの頻度ではあるが、

重種馬の蹄病治療の依頼が、

忘れそうになる頃にやってくる。

それに備えて私なりの準備をしていることは

以前の記事にも書いている。

約8年前の私のブログに書いた

電動ドリルを使った蹄病の治療法である。


その記事には

当時の私の蹄病治療の考え方と

IMG_2217手動ドリルではなくて

電動ドリルを使った治療法が書いてある。

基本的な考え方は当時と今と変わっていないのだが

8年前に比べて

重種馬の蹄病治療の機会は

明らかに減ってしまい

そして

私は8年前から比べて8歳年をとった(当たり前だ)。

その間

私の蹄病治療の考えや方法を

私よりも若い獣医師たちに

どれだけ伝達することが出来たのか・・・

と、考えると

これが大変お寒い状況であることに

今更ながら気付いた。

今もし

重種馬の蹄病の治療の依頼があったとき

私が出勤していれば私が対応することになるが

それだけでは若い獣医師たちに伝達することができないので

若い獣医師たちと一緒に往診へ向かい

彼らと一緒に治療の場に臨まなければならない。

そこで実際に治療をやって見せなければならない。

しかしそれだけではまだダメで

やって見せた手技を

こんどは彼らが実際にやってみなければ

本当の技術の伝達ができたことにはならない。

さらにそのためには

私の使っている道具を

いちいち私から借りて使うのではなく

私の使っている道具と同じ道具を

若い獣医師たちにも常に持っていてもらわなければならない。

ここでちょっと思案をした。

重種馬の蹄病治療のポイントは

蹄の炎症箇所を特定することであり

さらに特定した箇所に向けて

蹄底からドリルで穴を開けることが重要になる。

そのために必要な道具が

治療用のドリルである。

しかし

若い獣医師たちにいきなり

私が使っている電動ドリルを勧めるには

技術の取得の流れとしてはちょっと無理がある。

まずは手動ドリルを持ち歩き

それを使いこなせるだけの経験を

ある程度積んでからでないと

この技術を伝達することは難しいと考えた。

そこで

いつも懇意にしている重種馬の削蹄師

N坂氏に電話をして

手動のドリルを作ってもらうことにした。

自分でドリルを作れない私は情けないが

こういう事はその道のスペシャリストに頼んだ方が

良いものを作ってくれるものである。

IMG_2185左の写真は

そのN坂削蹄師に作ってもらった

重種馬の蹄病治療用の

手動ドリルの3点セットである。

IMG_21843点セットを3人分

我々獣医師のために

作ってくれた

削蹄氏のN坂氏に感謝!



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臍ヘルニア + 臍膿瘍 (2)

初診時は明らかなヘルニアだった子牛の臍が、

数週間後にはヘルニア輪が判らなくなり、

その代わりに臍帯の膿瘍が、

急激に大きくなって、

ヘルニア輪を埋めている。

今回の子牛の臍がそういう状態になっていたことが

手術を進めているうちに

明らかになってきた。

理想を言うならば

手術のメスを入れる前に

より詳細な超音波検査などで状態を十分に把握し

それに適した術式を選択して

手術に臨むべきところだったのだろう。

しかし

我々の診断力と経験の蓄積は

そのレベルまで至らず

臍ヘルニアと膿瘍とが

どのような具合になっているのかは

半信半疑のままで

いわゆる試験的な開腹という意味を含んだ手術だった。

IMG_2125その結果

膿瘍らしき部分を

丸ごとそっくり衛生的に摘出する事はできず

腫瘤物の腹腔側の根本にメスを入れたとき

化膿汁が吹き出るという事態になった。

IMG_2127そうなってしまったからには

そのままとにかくも切り進み

摘出できるものは出来るだけ摘出し

噴出した化膿汁は出来るだけ排除し

摘出した後の腹膜から

IMG_2128臍帯につながっている

いろいろな腹腔内の構造物を

ともかくも出来る限り洗浄した。

洗浄してからは

腹膜、僅かな筋層と皮下組織、皮膚

IMG_2131と縫い進み

閉腹して

手術を終了した。

飼主さん宅に帰ってからは

この牛には毎日

IMG_2132抗生物質の投与が行われている。

現在もまだ

抗生物質の投与を続けているが

今ところ

この仔牛はたいへん元気である。

IMG_2134気になっていた下腹術部の熱感と腫脹は

非常にゆっくりではあるが

すこしづづ治まって

正常な腹壁に戻りつつあるようだ。

そして先日

IMG_2162この牛を最後に診た同僚の獣医師も

熱感と腫脹は確実に治りつつある

という判断をしたが

念には念を入れて

さらに10日間

抗生物質だけは打ち続けてもらうように指示して

この子牛の治療を

終了した。


(この記事終了)


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臍ヘルニア + 臍膿瘍 (1)

「へそが腫れている」、

という稟告で診たホルスタインの仔牛の、

症状は少し複雑だった。

初診時の症状は臍ヘルニア、

腹壁には明瞭なヘルニア輪が触知でき、

そのヘルニア輪はまだ小さかったので、

しばらく様子を見ていたところ、

「へその腫れがだんだん大きくなってきた」

ということで再診をした。

IMG_2091すると

あったはずのヘルニア輪が触知出来ずに

腹壁に腫れた部分の根元は

太い臍帯で埋まっていて

可動性が無く

臍の部分は硬くて丸みを帯びた腫瘤物となっていた。

その日に往診したT獣医師が

腫れた部分を穿刺してみたら

最初は硬い漿液が少々

場所と角度を変えて再び穿刺すると

今度は茶色い腸管内容物が採取されたという。

腫れた部分を穿刺した時の内容が変化するとは

いったいどのような腫れ物なのか

これは一筋縄では行かない

複雑な症例のような気がする。

様子を見ていると腫れはどんどん大きくなってしまうようだ。

こうなってしまった以上、出来るだけ早いうちに

外科的処置を施したほうが良いだろう。

我々獣医師はそういう判断に至った。

翌日

IMG_2094午後一番にこの仔牛が運ばれてきた

一般症状が悪いわけではないので

元気一杯だったが

手術台に寝かせて

まずは超音波検査の端子を当ててみた。

IMG_2095腹壁から前後方向斜めに切り取った画像には

黒く抜けた部分にキラキラと白く光る模様が見えた。

これは典型的な膿瘍の画像だった。

そ例外の部分にも丁寧に端子を当ててみたが

結合組織ばかりで他に特徴的な画像は見えなかった。

IMG_2106腸管のヘルニアと思われた部分は

腹腔の中へ

落ちているのだろうと推測できた。

しかし、ヘルニア輪とおぼしき穴は

どこにも開いてはいなかった。

IMG_2114次に、毛刈りをして

切皮して

結合組織を剥がしつつ

腫瘤物を出来る限り

術創から独立させて

IMG_2113それを手でつかみ

もう一度穿刺を試みた。

すると、

漿液と化膿汁の混ざったものが採取された。

これはやはり膿瘍なのか。

IMG_2122根元の部分を糸で縛り

腫瘤の根元の臍帯移行部にメスを入れて

根本を切断し

膿瘍と思われる部分を

丸ごと摘出しようと取り掛かった

IMG_2124すると

メスを入れた臍帯部から

クリーム色の硬めの農汁がはみ出してきた。

「あー、やっぱり膿瘍だね。」

これは予想通りの事だったが

IMG_2125その部分から臍帯を通じて

腹腔内へ

クリーム色の農汁が

こぼれないように注意をしながら

腫瘤物を摘出するという

少々緊張する手技が必要になった。


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乳熱 + 乳頭損傷

前々日の深夜、

同僚のT獣医師が当直の時、

産後起立不能症で診た☆さんの乳牛は、

血液検査の結果低カルシウム血症だった。

立てることは立てるのだが、

まだ足元がふらついているということで、

通常時の往診でまた☆さんの牛を診ることになった。

その牛は繋ぎ牛舎の一角でうずくまっていた。

「あれから立ち上がったんで、足場の良いところに移動したんですが・・・」

浮かない顔の☆さんは話を続けた。

「またすぐ寝て、その後また立ったんですが、同居の牛に乳頭を踏まれたみたいで・・・」

「あらま・・・どこの乳頭?、寝たままじゃあ分からないけど、今は立てるの?」

「なんか、また立てないんです。」

「じゃあ、まず吊って立たせて。」

「はい。」

私はカルシウム剤とリンゲルと抗生物質を用意

その間に☆さんはこの牛の吊起の準備をした。

吊ればなんとか立つらしいので

IMG_2145まずは吊起をして立たせて

踏まれたという乳頭を診察した。

踏まれた乳頭は左前の乳頭の先端部だった。

先端から約3センチ程度が黒く変色し

皮膚が剥がれ乳管が挫滅して
IMG_2142
泌乳することができなくなっていた。

「あー・・・これは、この部分は切って落としたほうがいいね。」

「はい。」

「今、注射セットしてから、切る準備するから。」

「お願いします。」

IMG_2155私は抗生物質を打ち

カルシウム剤などの補液を開始して

再び診療車に戻り

消毒液とハサミと輪ゴムを準備した。

再び吊起ハンガーで腰を挟んだままの牛の元へ戻り

IMG_2156やっと自力で立っている牛の

左前の乳頭を掴んで洗浄し

その先端の挫滅部位がすべて取れる長さを

切断した。

IMG_2146牛はほとんど動かなかった。

痛みもあっただろうが

それよりも全身症状によって

痛がる余裕もなかったのだろう。

IMG_2149切断した乳頭の先端からは

溜まっていた乳汁が噴き出してきた。

しばらくその乳汁の勢いが続き

次第にその勢いが衰え

IMG_2152ほとんど出なくなったところで

こんどは輪ゴムを三重にして

乳頭の切断面ら1センチ程度のところに掛けて

切断面の止血をした。

IMG_2151この処置はいつもの方法と全く同じである。

「取り合えず、これでよし、注射が終わったら外してね。」

「はい。」

「乳頭に付けた輪ゴムは搾乳の時に外してね。」

IMG_2154「はい。」

私はすべての処置を終えて帰路に着いた。

翌日

同僚のK獣医師に診察してもらった時

この牛はもう立って歩くようになっていたので

その時点でこの牛の治療は終了した。

その後☆さんからは何も連絡はないので

経過は順調のようだ。


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現役獣医師が書いた小説!

先日何気なく、

我々の職場の機関紙「月刊NOSAI」の、

平成28年8月号が回覧で回ってきて、 

パラパラとめくっていたら、

私の目が、

ある記事に釘付けとなった。 

IMG_2047それは、

「自著自薦」というページ だった。

そこに紹介されていたのは

『獣医さんのイタイ恋』 文芸社  

という本で

著者は

ちばNOSAI連 西部家畜診療所 八千代出張所

に勤務する現役の獣医師 清水秀茂 氏


だった。 

その内容は

NOSAIの家畜診療所を舞台とした小説だった。

それも恋愛小説だという。

早速インターネットの書店から購入し

IMG_2046先日読了した。

読後の感想は

今まで味わったことのない感動的なものだった。

それは何と言っても

話の内容が「あまりにも身近すぎる!」からだった。

我々十勝NOSAIと

この小説の舞台になっている千葉NOSAIとは

規模の大小はあれども

仕事の内容は全く同じと言って良い。

登場するNOSAIの獣医師たちも

登場する酪農家の数々も

どこにでも居そうな人達と、どこにでもありそうな農場ばかりだ。

そこで繰り広げられるさまざまなシーンも

蹄病治療、乳房炎、繁殖障害、第四胃変位、難産、子宮脱、子宮捻転・・・

さらに家畜伝染病の予防や緊急時の対応まで・・・

我々が毎日遭遇している牛の診療のシーンなのだ。

そのシーンを書いている本人が現役の臨床獣医師であるから

描写がリアルなのは当然と言えば当然なのだが

その筆の見事なことに感動してしまう。

さらに、そのリアリズムは

往診の現場ばかりではなく

診療所に戻ってきて行うデスクワークや

さまざまな臨床検査まで及ぶ。

さらに、そのリアリズムは

複数の獣医師スタッフが協力しながら運営する

NOSAIの診療所が抱えている

さまざまな人間関係にも及び

その内部の詳細まで赤裸々に描かれている。

その組織運営の描写は

NOSAI組織の上層部の獣医師にとどまらず

その上の理事さんたちにも及び

それも実にリアルなのだ。

読んでいて「あまりにも身近すぎる!」ので

私は何度もうなづいたり笑ったりしながら

感動のうちに読み終えることができた。

その中で最も感心したことは

我々臨床獣医師の現場のリアリズムに満ち溢れたこの小説が

恋愛小説になっているということ。

牛の臨床獣医師の職場で

職員同士の間で恋愛物語が生じるのは

最近の獣医師の男女比から見れば当然で

我々の十勝NOSAIも例外ではないだろう。

それがまた

この小説の大きな魅力になっている。

畜産の生々しい現場と

若者たちの初々しい恋愛とは

一見ミスマッチのようなイメージが湧くけれども

実はそうではなく

畜産という動物の生命が躍動する現場と

恋愛という人間の生命が躍動する現場は

非常に共通するものが多く

根本は同じなのではないか

そんな思いを抱かせる小説だった。

畜産も恋愛も

考えてみれば

どちらも生々しいのである。

ともあれ

現役の臨床獣医師の方々はもちろん

畜産関係者の皆さん

畜産関係に進む学生諸君などに

是非一読をお勧めしたい

素晴らしい小説である。


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顔の高さの大膿瘍

「腰角(ようかく)の辺りが腫れている・・・。」

そんな稟告だった★さんの搾乳牛。

IMG_2060腫れた部分を触診すると、

波動感があった。

こういう場合は、

ほとんどが膿瘍、

あるいは血腫である。

「針を刺してみましょう。」

IMG_2061空の注射器で穿刺すると、

クリーム色の膿汁が、

穿刺部分から溢れて来た。

「切開しましょう。」

腰角の大膿瘍であることが確定したので

メスで切開することにした。

汚い膿汁が床にこぼれても良い場所へ

牛を移動させて切開することになった。

最も良いのは

牛を枠場に入れることなのだが

★さんの家の枠場はもうほとんど使われておらず

土間の片隅に埃をかぶって仕舞い込まれていて

引き出して使うのも大変なので

土間の一角に頭を結んで保定して

そのまま切開をすることにした。

結果的に

これがマチガイの大元だった。

枠場に保定しておけば

牛のお尻は自由がきかない。

しかし

頭だけ繋いだ状態では

牛のお尻は扇状に

いくらでも横振りすることができる。

私はそれを甘くみていた。

さらに

この牛の膿瘍の大きさと

それが目の高さにあるということを

あまり考慮せずに

いつものように

長い手袋を履いただけで

切開手術を行ってしまった。

すなわち

カッパを着用しなかったのだ。

これもまた大きなマチガイだった。

顔の高さにある牛の大膿瘍を

枠場に保定せずに頭を繋いだだけで

カッパも着ないで

切開手術をするとどうなるか。

IMG_2062結果は

写真のごとく

切開のメスを入れた瞬間に

牛は驚いて尻を振り

私の胸から下の着衣は

嫌な匂いの膿汁を

大量にかぶり

IMG_2063カッパを着ていなかったおかげで

悲惨な状態になってしまった。

生ぬるい膿汁にまみれた私は

自分の着衣を洗いながら

30年以上

牛の臨床獣医師として仕事をして来た

自分の技術の

全く成っていないこを

大反省・・・

下手クソ・・・

ああ恥ずかしい・・・

膿汁が噴き出す写真などを撮ろうとして

肝心なことを忘れていた自分を恥じた。


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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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逆襲なるか

たかがインスタント焼きそば、

されどインスタント焼きそば、

北海道では何と言っても、

マルちゃん(東洋水産)の「やきそば弁当」 の右に出るものはいない。

00535246「やき弁」は、北海道において絶大なシェアを誇り、

その数とその種類は年々増えつづけ、

まさにそれは「やき弁」の王国を作り上げていると言ってよい。

その勢いはとどまることなく、

数年前のある事件をきっかけにしてさらに加速し、

津軽海峡を渡り、

本州へと拡がって行った。

そのある事件とは、

本州のインスタント焼きそばの王様である

ペヤング (まるか食品)「ソースやきそば」の、

異物混入事件だった。

それを境にして

「やき弁」は様々なバージョンの商品を従えて

本州へ一気に攻め入った。

これで

我が国のインスタント焼きそばの勢力地図は

大きく変貌し

「やき弁」が天下を統一するのではないか

と、思われたが

受けて立つ「ペヤング」は負けなかった。

本州のコンビニやスーパーでの

「ペヤング」人気は衰える気配を見せず

「やき弁」の猛攻をこらえにこらえて

少しづつ体力を取り戻し

IMG_1239ついに

今年の春

北海道へ逆襲を始めた。

それが「ペヤング」の

「納豆やきそば」だったことは

以前の記事で書いた。


IMG_2057そして先日

私は

近所のスーパーで

「ペヤング・ソースやきそば」の

普通バージョンの姿を発見した。

とうとう、ついに

基本バージョンどうしの

IMG_2058いわば、大将どうしの

ガチンコの勝負が

北海道のわが町の

スーパーの店頭でも

始まったのだ。

「ペヤング」はいったい

どこまで本気なのだろうか?

「やき弁」の王国は

果たしてどうなるのだろうか?

目が離せない状況になって来た。


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乳房からの出血(四たび!)

「乳房から血が出て止まらないんだけど・・・」

緊急用の携帯に、酪農家の∩さんの声が響いた。 

「とりあえず、押さえるかつまむかして、止めておいて・・・」

私はそう言って、∩さん宅へ診療車を走らせた。 

出血をしている牛は乾乳牛だった。

パドックの連動スタンチョンに1頭だけ繋がれた牛の

腹の横にしゃがみ込んで

IMG_2036∩さんの息子が

乳房の出血部位を布で押さえていた。

「ちょっと出血しているところを見せてくれる?」

∩さんの息子が押さえている布を少し離すと

乳房の血管から血液が勢いよく吹き出て来た。

IMG_2037「あー、了解、ここだね。縫って止血する準備するから、もう少し押さえててね。」

私は縫合の準備をし

出血部位をまず鉗子で挟み

止血縫合してから

止血剤を投与して

IMG_2038治療を終えた。

しかし

また

乳房の左右に浮き出ている乳静脈からの出血!

「これは、カラスのしわざに違いないね。」

IMG_2039「カラスっすか?」

「うん、間違いないね。」

私は傷を見たときから

そう確信していた。

それは

IMG_2040約半年前

♯牧場で

わずか3週間の間に

3頭がまったく同じ部位から

出血しているのを

IMG_2041立て続けに治療した経験に基づいた確信だった。

参考のために

過去の3回の出血の記録を

この記事に貼り付けておこう。


 2月24日の乳房からの出血(♯牧場にて)


 3月8日の乳房からの出血(♯牧場にて)


 3月17日の乳房からの出血(♯牧場にて) 


このとき

♯牧場には

カラスの大群が

牛舎の周りを取り囲み

大きな声で鳴いていた。

その後♯牧場では

ハンターを呼んでカラスの大群を追い払って 

乳房からの出血事故は

ぱったりと無くなった。

あれから半年

♯牧場で追い払われた吸血カラスの1羽が

今度は∩牧場にやって来て

また悪さを始めたのではないか

などと

心配してしまう症例だった。

∩牧場の乾乳パドックの

傍で

数羽のカラスが鳴いていた。 


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重種1才馬の鼻梁の外傷(2)

「安田君、@さんの馬の傷、化膿してるよ。」

私が初診してから4日目、

@さんに往診に行って来た同僚のK獣医師がそう言った。

「・・・そうですか。」

「あれじゃあ、共進会は出られないな。」

「・・・そう・・・ですか。」

今回の馬の外傷の処置について、

私はきれいに治せる「強い自信」は持ってはいなかったものの

なんとか治ってくれるだろうという「普通の自信」はあり

その漠然とした期待の中で

この馬の傷についてさほど気にかけていなかった。

しかし、同僚の獣医師からそう言われると

これは、失敗してしまったか・・・

という反省の気持ちが急に膨らんできた。

それから3日後

私が今度は@さんの馬を診た。

枠馬に入れて傷をよく見ると

IMG_1901なるほど、傷口は

きれいに縫い合わさってはおらず

10cmほどに渡って

腫脹して肉芽が盛り上がり

痛々しい状態になっていた。

「・・・化膿させてしまって、申し訳ない。」

「・・・。」

「・・・縫った糸は、ほどけちゃった?」

「取れてはいないようだ。」

「・・・でも、共進会は出せないか。」

「いや、出すよ。」

「・・・そうなの?」

「だから治してくれって言ってるべや。」

私は@さんがまだ

この馬の共進会出場を諦めていないことを確認した。

しかし、こうなってしまった以上

あとは、抗生物質を注射し続けて

この馬の傷口が早く

目立たなくなるのを待つことしかできなかった。

その次の@さんの診療日は

同僚のS獣医師に行ってもらった。

「安田君、@さん、共進会に出すの断念したよ。」

帰ってきたS獣医師がそう言った。

「・・・そうですか。」

「結構、傷が深かったみたいだね。」

「・・・ええ、上手く縫えたかと思ったんですけど。」

「あの腫れはなかなか引かないね。」

それから3日後

私は再び@さんの馬を診に行った。

やはり傷はきれいに治っていはなかった。

IMG_1906「・・・共進会、出すのやめたの?」

「ああ。」

「・・・そうなの?」

「これじゃお前、カッコ悪いべや。」

「・・・。」

私は@さんに

きれいに治すことができなかったことを詫びた。

最善を尽くしたつもりだったが

創口を縫合する前に

もっと清潔に洗い

メスなどで新鮮な創面を作ってから

もっと慎重に縫合すべきだったと

反省点を挙げた。

それから

数日後

共進会が終わり

この馬を治療する予定だった日に

@さんから連絡があった。

この馬を、育成屋さんに売ったので

もう治療に来なくても良いという連絡だった。

私は、売れてよかったという気持ちもあったが

無事に売れたというわけではない、と思った。

本当であれば

@さんは、この馬を共進会に出品し

商品価値が最も高くなったところで

高い値段で売りたいと思っていたに違いない。

しかし、それはできなかった。

いろいろと

反省点の多い症例となってしまった。

買われて行った先がどこかわからないので

この馬の傷の状態は

もはや確認するすべも無くなってしまった。

あとはこの馬の鼻の腫れが引いて

きれいに治ってくれることを

祈るのみとなってしまった。

反省点の多い症例だった。


(この記事終わり)


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重種1才馬の鼻梁の外傷(1)

「・・・共進会に出す馬が、顔に怪我をした・・・」

そんな電話が、

馬産家の@さんからかかって来たのは、

夜間当番の早朝だった。

IMG_1866馬を枠場に入れて顔を診ると、

馬の長い鼻梁に約15cm程度の切り傷があった。

よくみると、ヨードチンキを塗布した後の色が付いており、

傷口からは出血と漿(しょう)液が垂れた後のような汚れがあった。

「これは・・・何時頃、怪我したの?」

「・・・きのうの晩。」

「ヨーチン付けてあるね。」

「・・・ああ。でも治りそうもないから、縫ってくれ。」

「たしかこの馬、共進会に出すやつだったよね。」

IMG_1862「・・・そう。」

「共進会は何日だっけ?」

「・・・あと2週間。」

「そっかー、うーん。」

「・・・縫って治してくれ。」

「まぁ、やれるだけやってみるか。」

「・・・きれいに治してくれよ。」

「うーん、まぁやってみるか。」

IMG_1869馬に鎮静剤を投与し

鼻捻をかけて保定し

傷の周囲を

ビルコン液を染み込ませたスポンジで

ジャブジャブと洗い

汚れを落として

再び傷を良く見ると

何か鋭利なもので

鼻梁をザクッと切ってしまったような傷だった。

IMG_1876長さは上下に15cm程度

頭部に近いところの傷がもっとも深く

その深さは2cmほどあった。

出血は無く

薄いピンク色の創の断面は

皮下組織がほとんどで

奥のほうは骨に達しているようだった。

私は過去に

こういう筋肉の無い鼻梁の切創を縫合した経験を

思い出せなかったので

行き当たりばったりの処置となった。

IMG_1877洗浄した創口の頭側の深い部分に

角針を刺して、吸収糸をかけて

そこを起点に連続で皮内縫合をしてゆく。

この方法は

牛の開腹手術の最後の

皮膚を皮内縫合する方法と同じだった。

熟慮してそういう縫合法を選択したのではなく

とっさに思い浮かんだのが、この縫合方法だった。

しかし、いつも牛の手術で慣れている方法なので

スムーズに縫いすすみ

縫合処置は数分で終わった。

IMG_1879縫合処置をした切創は

手で広げようとしても広がらないように

針の縫い目もわからないように

皮内縫合された。

この縫合処置によって

なんとかこの1才馬を

十勝共進会に出品させたいという

@さんの願いが叶えられるかどうか。

私は、きっとこれで何とかなるだろうと

抗生物質を投与し

あと三日間の抗生物質の投与を指示して

帰路についた。


(この記事続く)


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大忙しの星の下(2)

帝王切開によって、

側頭位の胎児を無事に摘出したまでは良かったが、

IMG_1949親牛の状態がどうも良くなかった。

それは、手術中に輸液をしようと、

頸静脈に針を刺した時、

留置針がなかなか血管に入らず

結局乳静脈に切り替えたことからも感じていた。

IMG_1950親牛は血圧が下がっているようだった。

血圧が下がっているから

頸静脈を圧迫してもなかなか血管が浮き出ず

針を血管に入れることが難しかったのだ。

IMG_1951その理由はよくわからないが

そのために

前肢の血流も弱くなり

手術台で下になっていた右肩付近の圧迫により

右前肢の神経麻痺が生じてしまったものと思われた。

IMG_1952麻痺によって右腕節(前膝)に力が入らず

カックン、と曲がってしまう。

「キャスト・・・しますか・・・。」

とにかく、この牛には

ちゃんと4本足で立って

IMG_1953家畜車の荷台に乗ってもらわないと困るので

応急的な処置として

右前肢の腕節がカックンとならぬようにキャストを巻くことにした。

キャストを巻き終わった牛は

ぎこちなくも、なんとか歩行して

IMG_1955家畜車の荷台に乗ることができた。

家畜車を見送り

手術室を片付けていると

診療所の職員達が

次々と出勤してくる時刻になっていた。

翌日

この牛が無事でいるかどうか

ちゃんと自力で起立できているかどうか

心配だった。

この牛の飼主さんは

搾乳牛たちを昼夜

繋ぎっぱなしで飼っている酪農家で

敷きわらをたっぷりと敷いた独房というものがない。

そういう独房がないところで飼われている牛は

足腰が弱ると、立ちたくてもうまく立てずに

そのままダメになってしまうリスクが高い。

さらに

牛の前肢にかかる体重というのは

後肢にかかる体重よりもはるかに大きく

特性樹脂のキャストを厚く巻いても

割れてしまうことがあり

この牛に巻いたキャストも簡単に割れて

キャストの効果が無くなってしまうのではないかという

心配があった。

しかし

IMG_1957往診した同僚獣医師の話によれば

牛の前脚の状態は良く

神経麻痺は消失し

寝起きは普通で食欲もあるということだった。

その翌日

IMG_1956牛の状態はさらに改善して

寝起きも食欲も良好だということで

キャストを外すことにした。

この日のキャストは

案の定、腕節から近位の部分が

IMG_1960割れてしまっていた。

しかしそれは

この牛の前肢の神経麻痺が完全に消失し

寝起きが自由にできるようになり

右前肢の機能が

完全に回復した証拠でもあった。

(この記事終わり)


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大忙しの星の下(1)

複数の獣医師がチームを組んで、

仕事についているNOSAIの家畜診療所では、

夜間の当番はその人数によって、

均等に割り振られて、

仕事量の偏りがないようにしているのが普通である。

夜間の往診の数は、

1年間の平均件数を計算してみると、

診療所チーム内のどの獣医師も、

だいたい1件〜2件の間に均等に収まるものらしい。

ところが

1ヶ月程度の短い期間でこれをみると

それぞれの獣医師によって

夜間往診の数が極端に偏ることがある。

ある獣医師は、往診が全くない0件の夜が何回も続くのに

ある獣医師は、毎回深夜まで何件もの往診に呼ばれて睡眠不足になる

という現象が起こる。

夜の往診の忙しさには波があるのだ。

その波は、診療所内の獣医師の仕事内容を

支配下に置く「大忙しの星」の気まぐれなパワーの現れのようである。

先日の

早朝5時頃

私の個人携帯に

その日の夜間当番用の携帯から

電話がかかって来た。

最近、夜間当番で大当たりが続いているS獣医師からだった。

乳牛のお産で、胎児の頭が後ろを向いた側頭位らしい。

緊急の帝王切開をすることになり

私は手術の助手をするべく診療所へ向かった。

診療所へ着くと

手術室にはすでに帝王切開の準備がされていた。

「最近よく当たるね。」

「そうですねー(笑)」

S獣医師は、前回の夜間当番の時も

深夜に乳牛の帝王切開と、早朝の和牛の難産介助をしていた。

その後数日、別の獣医師が当番をした夜は

特に難産や深夜の往診はなかったのだが

昨夜からのS獣医師の当番でまた難産が発生した。

(大忙しの星の下に完全に入っているのだ・・・)

親牛を手術台に寝かせて

術野の毛刈りと洗浄消毒を終えて

さぁこれからメスを入れて

帝王切開を始めようとした時

当番用の携帯電話が鳴った。

和牛の難産で逆子のようなので来てほしい、という往診の依頼だった。

手術に取り掛かろうとしていた私たちは

その往診依頼に対して、事情を説明し

手術をある程度終えるまで、今しばらく待ってもらうように伝えた。

IMG_1947そしてまた帝王切開に取り掛かった。

ホルスタインの母親の子宮の中で側頭位になっていた大きな♂ホル仔牛を

無事に生きて出すことができた。

「あとは、縫うだけなんで、安田さん和牛の往診に行ってください。」

「わかりました、じゃ、後はよろしく。」

私は手術から離れ

診療車に乗って和牛の難産介助に向かった。

(大忙しの星の下に私も入ってしまった・・・)

和牛繁殖農家の◯さん宅は診療所から車で5分程度の近い家だった。

手を入れてみると

確かに逆子だったが

その胎児の後肢の隣に前肢があり

その前肢の隣に頭が来ているという状態

すなわちそれは双子の難産だった。

後肢を押し戻すと

もう片方の前肢がその奥に現れたので

前肢2本と頭が同じ胎児のものであることを確認して

IMG_1946まず正常位の1仔目の胎児を牽引娩出

次に尾位の2仔目の胎児を牽引娩出

無事に介助が終わり

私は再び診療所へと車を走らせた。

診療所の手術室では

S獣医師が術創の最後の皮膚を縫い始めたところだった。

IMG_1948術野の縫合が終わり

牛が手術台から降ろされた。

ところが

この母牛が、今度は

IMG_1949なかなか立つことができない。

カルシウム剤を注射して

気合を入れて起立を促しても

立てなくなってしまったので

仕方なくハンガーで吊起することにした。

IMG_1950ハンガーにてなんとか吊り上げて

立たせたものの

右の前肢の負重ができず

3本足でようやく体を支えるのみ。

どうやら

右前肢の橈骨神経が麻痺してしまったようだ。

これでは歩行することもままならず

家畜車の荷台までどうやって歩かせるのか

(大忙しの星のバワーは容赦がない・・・)

さて、どうするか・・・

(この記事続く)

 

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コラボ展・Freedom of Expression(表現の自由)(4)

コラボ展・Freedom of Expression(表現の自由)は、

8月1日(火)をもって無事終了した。

7日間にわたる展示と、

数十分のパフォーマンス、

それを見るために会場へ足を運んでくれた人は、

600人以上になったようだ。 

会場の職員の方によれば、

コラボ作品ばかりの展示会は、 

帯広市民ギャラリーの催しとしては、

とても異色でユニークなものだったそうだ。 

私個人としては

「俳句」ばかりではなく

発表の場がなかなか得られなかった「漢詩」について

このような発表機会を得ることができたのが

とても嬉しい事だった。 

北海道獣医師会の会員の方ならばご存知かもしれないが

毎月会誌に載る、あのような漢詩が

地元十勝の書家の皆さんの筆と

写真家と美術家の手によって

こんなにも素晴らしい作品になって

展示させていただけることは

漢詩たちにとっても、私にとっても

大変幸せなことだった。

その作品を、いくつか

ここに記録しておきたい。

クリックして大きくして見ていただければ幸い♪



           
IMG_1984   地産乃幸

  細断玉葱挽肉炒
  茹芋練混球状整
  塗粉溶卵衣付揚
  狐色熱々大皿盛


 「窓」 高橋朴宗×安田豆作×古川こずえ





 IMG_1983IMG_1982  通過法案

 平和農村広尾道
 踏切注意鳴警報
 左右見切幸福発
 危険加速愛国行


  「通過法案」 白石弥生×安田豆作×古川こずえ
 




IMG_1980IMG_1988  放置国家

 現在戦争禁止国
 改憲戦争可能国
 加担戦争常習国
 将来戦争依存国


  「放置国家」 阿部安伸×安田豆作×古川こずえ





IMG_1986IMG_1987   素舞布

  以後僕達何信来
  夜空向側明日待
                   由君伝達握手返
                   我心軟所絞現在


 「素舞布(SMAP)の歌」 八重柏冬雷×安田豆作×古川こずえ





IMG_1991前列左から

古川さん(写真家)

阿部さん(美術家)

後列左から

IMG_1992

八重柏さん(書家)

白石さん(書家)

(高橋さん(書家)は、お仕事で不在)

皆さん

どうもありがとうございました!

(このシリーズ記事終わり)


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コラボ展・Freedom of Expression(表現の自由)(3)

コラボ展のヤマ場は、

7月30日の午後から行われたデモンストレーション、

そのテーマの1つが「扉(とびら)」。

大きな和紙に、出品者6名が、

公開の場で、それぞれの書の仕上げを行なった。

6名の出品者のうち3人が書家だった今回は、

八重柏さんはじめ書家の方々のみごとな筆で、

斬新な作品が仕上がった。

私はその端くれとして

漢詩を1首書き留めた。



ご覧いただけましたでしょうか(笑)

IMG_1985






それに引き続いて

もう1つのテーマである「生まれくる光」。

その象徴としての「卵」のパフォーマンスを

私が行うことになった。

当初はただ

配られた卵に何か文字を書くだけの予定だったが

そこに何を書こうかと思案しているうちに

「謡曲・高砂」の台詞を書くことを思いついた。

IMG_1965その台詞を書いているうちに

書くだけでは何となく物足りないので

その台詞を謡ってみることを思いついた。

その後、会場の準備でたまたま

その謡いの練習をしようとしていた時

帯広能楽同好会の土田さんが居合わせて

「地謡のお手伝いしましょうか、藤田さんにも声かけてみますよ。」

という心強いお言葉をもらってしまった。

そのようなわけで、話は急遽盛り上がり

当日は、「謡曲・高砂」風アレンジによる

卵のパフォーマンスを披露することなになった。



ご覧いただけましたでしょうか・・・。

念のために書いておくと

このパフォーマンスはあくまでもコラボであり

本物のお能(謡曲・高砂)とはかけ離れた素人パフォーマンスである

ということで見て頂きたいと思う。

したがつて、今こうして自分の舞う姿を見ると

顔から火が出るほど恥ずかしいが

コラボ展ならではの自由な雰囲気の中で

皆さんと一緒に楽しませていただく事ができた。

私の思いつきで突然に

謡と舞の場所を設けていだだいた

コラボ展出品者代表の古川さんには

心から感謝を申し上げたい。

IMG_1971また、私の拙い舞を

地謡で盛り上げていただいた

帯広能楽同好会の

土田さんと藤田さん

どうもありがとうございました。


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コラボ展・Freedom of Expression(表現の自由)(2)

コラボ展・Freedom of Expression(表現の自由)の、

IMG_1966前半の3日間が終了した。

3日目の7月29日には、

私は展示会場の受け付をしていた。

帯広駅の地下1階のギャラリーというのは、

やはり人通りが多い所なので、

じつに色々な人たちが、

IMG_1967展示会場に訪れて、

作品を見てくれる。

私が案内ハガキを配った人たちからの反応も上々で

受付のテーブルの上の花も

IMG_1963何と私の同僚の獣医師が

思いがけなく贈ってくれた花で

私はとても嬉しかった。

また

私の俳句仲間の1人からも

IMG_1944美しい生花を頂き

それもまた大変嬉しかった。

この展示会にはもちろん

一緒にコラボに参加した私以外の

5人方々も

それぞれの知り合いの方が訪れて来ては

IMG_1962作品を興味深く覗き込んだり

作品の解説を聞いたりしていた。

私にとっては

同僚の獣医師や俳句仲間の訪れが嬉しいのは言うまでもないことだが

さらに私以外のメンバーのお知り合いの方々

すなわち書道、写真、美術、の関係の方々と

お話ができるチャンスが沢山できて

普段はなかなか話をする機会のない方々との

新しい出会いが沢山あった。

IMG_1961コラボに参加すると

ジヤンルの違う方々との交流が

一気に広がるということを

昨日1日で実感したのだった。

これは素晴らしいことだと思った。

コラボ展は今日から後半の3日間となる。

IMG_1964本日7月30日は

コラボ参加者6名全員が

ギャラリーに集う日でもある。

そして13時00分から

デモンストレーションを行う。

初めは6人の合作の

壁一面を飾る大きな書の

仕上げをするというパフォーマンス。

そのテーマは「扉(とびら)」

そのあとには

もう一つのテーマでもある「生まれくる光」

という言葉を象徴する「卵」のパフォーマンス。

書のパフォーマンスは

主に書家の3人の方がメインだと思うが

卵のパフォーマンスは

主に私がメイン(⁉︎)である。

どんなものになるのか

今でもよくわからない。

IMG_1965最後の写真は

卵のパフォーマンスに

私が使おうとしている道具である。

拡大して見ていただくと

何ーんとなく

どんなものか

想像できるでしょうか?(笑)


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コラボ展・Freedom of Expression(表現の自由)(1)

最初の写真は今年の4月の末に、

IMG_1402何をするのかわからないままに、

私が自分の顔の形を金網に取っているところ。

その日から昨日の作品搬入まで 、

私はこのたびの、

Freedom of Expression(表現の自由)、

IMG_1935というコラボ展に、

参加をしているにもかかわらず、

この顔型の金網がどんな展示物になるものやら、

さっぱりわからなかったのだが、

IMG_19372昨日ようやく

それが

展示会場の天井から

布を被ってこちらを向くように

IMG_1939飾られることになるのがわかった・・・ 

メンバーは6人。

仕掛け人は写真家の、古川さん

書家の、八重柏さん、白石さん、高橋さん

IMG_1940美術家の、阿部さん

そして、俳句と漢詩作家(⁉︎)の私。

昨日の午後
とうとう

IMG_1941その展示準備が完了した。

完了した日の夕方

勝毎と道新の

2人の新聞記者が取材にやって来た。

IMG_1943場所は、帯広駅地下1階の

帯広市民ギャラリー。

7月27(木)から8月1日(火)までの6日間の開催。

人通りの多いところなので

IMG_1945ちょっと時間のある方は

駅地下1階へふらっと立ち寄って

作品展示をご覧いただけるととても嬉しいです。

また、7月30日(日)の午後1時からは

出品者6人が全員揃って

それぞれがパフォーマンスを行う予定です。

何をするかはお楽しみに(⁉︎)

このパフォーマンスを見に来ていただけると

さらに嬉しいです♩



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