北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

藍生×【itak】合同イベント

素晴らしいイベントだった。

俳句結社「藍生」の全国の集いと、

北海道の俳句集団 【itak】との、

合同イベントが、

7月14日(土)・15日(日)の2日間にわたって行われた。

1日目は

お笑いコンビ・ペナンペパナンペさんの漫才

演歌師・岡大介さんのかんから三線投げ銭ライブ

黒田杏子さん・夏井いつきさん・吉田類さん・橋本善夫さん・五十嵐秀彦さんによる

当日出句の俳句を選評するトークショー 

IMG_3884が行われた。

まさに錚々たるメンバーでのイベントで

集まった人の数は250名以上となった。

かでる2・7の大会議室は満員。

青山酔鳴さんをはじめとする【itak】 のメンバーが

続々と準備を始める中に

私もちゃっかりと入り込んで

少しお手伝いさせていただいた。

我が親愛なる同僚獣医師の頑黒和尚ことH田獣医師が

【itak】の 幹事の1人になっていて

当日の応援を頼まれていたこともあるが

それより何より

夏井いつきさんとその師匠の黒田杏子さんの

生の声を聞きたいというのが大きかった。

IMG_3883内容は盛りだくさんで

この場でそれを書き切ることは

とうてい無理なことだが

俳句を中心としたイベントで

これほど活気のあるイベントは

今まで経験したことがなかった。

五十嵐秀彦さんがことあるごとに言っていた

【itak】は組織ではなく運動である

という意味がまた少し

理解できたような気がした。

完成された組織ではなく

未完成な運動だからこそ

どこまでも動いて動いて

その中に活気が生まれるのだ。

そのことを最もよく理解して

自らを奮い立たせて動きに動いている

青山酔鳴さんの行動力が

とても大きな存在で

その姿を見て

若いスタッフの皆さんをはじめ

私のような者さえ

そこに吸い込まれるように

動いてゆく・・・

これぞ運動体の実現だと私は思った。

1次会場のかでる2・7から

新札幌のホテルエミシアへ

バスで移動し

懇親会が行われた。

この懇親会がまた素晴らしかった。

そのクライマックスは

歌手の豊川容子さんの歌だった。

アイヌ語の子守唄や

叙事詩「ユカラ」は

IMG_3889聞いていると

天地万物の霊や魂が

豊川さんに乗り移って

美しい音色の声を上げているような

不思議な感覚に陥って

心を深く揺さぶられた。

IMG_3893最後は

参加者全員を巻き込んで

熊や兎や鹿になりかわり

みんなで踊りを踊るという

最高潮の盛り上がりで

IMG_3894懇親会が終了した。

「ユカラ」を

じっと聴き入っていた

黒田杏子さんの姿が

とても印象的だった。



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研修医制度

先日、

帯広畜産大学の、

研修医の先生たちと一緒に、

IMG_3845往診に回る機会があった。

大学を卒業して、

その後数年、

色々なところで働いていた獣医師の中で、

再び学問の道をメインに、

IMG_3847進もうとされている、

若き精鋭である。

大学病院における二次診療ばかりではなく

我々のような現場の末端の獣医師の

一次診療の経験を

IMG_3849少しでも積み上げたいという事のようだ。

今回は特に

産業動物の獣医療の中でも

今やなかなか経験することの少なくなった

重種馬の診療を

IMG_3850一緒に経験したいという事だった。

この日はたまたま

午前中に1件(蹄葉炎)

午後から2件(発情鑑定と蹄病)

重種馬の診療が有ったので

IMG_3853研修医の先生たちは

私の診療車の後に付いて回ることになった。

研修医の先生たちは

さすがに社会人の経験もある方ばかりなので

IMG_3854往診もスムーズだった。

右も左もわからない大学生の実習生を

手取り足取りしながら連れて歩くのも

それなりに面白いけれども

現場の事情をある程度わかっている

IMG_3856研修医の若い先生たちとの仕事は

受ける質問の内容なども鋭くて

とても充実した中身の濃い

仕事ができたように思う。

私としては

IMG_3857特別な事は何もするわけもなく

ただ普段どおりの事をしただけなのだが

それが

研修医の先生たちには

初めてのことが多かった。

IMG_3860これはつまり

いかに重種馬の診療の機会が減ってしまったのか

ということであり

ちょっと寂しい思いもしたが

それはまた有意義な機会を提供できた

IMG_3862という事でもあり

私は複雑な思いだった。

この日の最後の往診先に

たまたまタイミングよく

重種馬の削蹄師のN坂さんがいた。

IMG_3863一連の写真は

全道を股にかけて

重種馬の削蹄している

N坂削蹄師の

削蹄と蹄病治療の技である。

IMG_3866これを

研修医の先生たちに

体験してもらったのは

この日の

予定外の

収穫だったと思う。



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ボロボロな牛たちの涙

牛が涙もろい動物であることは、

あまり知られていない。 

IMG_3766小中学校の授業でも、

大学の講義でも、

そんなことは教えない。

だが

牛が涙を流しているところを

写真に収めようと思えば

いくらでも集めることができる。

IMG_3761牛が涙を流すのは

不本意なことをされた時のようである。

不本意なことをされて

不愉快になったり

恐怖心が湧いたりした時に

涙を流すようである。

牛の涙の写真を撮るためには

頭をロープで縛らないと

動かれてしまってうまく撮れない。

写真に撮る時は

頭をロープで縛らざるを得ない。

IMG_3762牛の涙は

頭をロープで縛ることによって

涙が涙管を逆流して

物理的に涙が溢れ出るだけだ

という説もあるが

鼻先を目より低く縛った時にも

牛は涙を流すので

その説明には無理があると思われる。

IMG_3844先日は

起立不能で

ボロボロになっている牛が

滂沱の涙を流していた。

この牛は

頭をロープで縛っていないが

弱って大人しく

写真のような

滂沱の涙を流していた。



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ボロボロな乳牛たち

チーズやバターやヨーグルトなどに、

IMG_3649加工しない「牛乳」、

すなわち「生乳(せいにゅう)」の需要が、

本州では、

年を追うごとに、

高まっているという。

IMG_3826それを受けて、

北海道内の酪農は、

減産から増産へと、

大きく転換している。

IMG_3826道内から道外への

生乳の移出の量は 

平成15年を境に

グンと上昇し始めた。

本州の酪農家と

北海道の酪農家は

かつては生乳生産で対抗し

南北戦争

などと言われたものだが

それが平成15年に決着がつき

北海道の酪農の勝利に終わった

と言うこともできる。

勝利に歓喜しているわけではないが

北海道の酪農家は今

生乳の買い取り価格の上昇

子牛の価格の上昇

などで景気が良い。

搾乳すればするだけ収入が増え

そのためにお産させた乳牛は

IMG_3050せっせと乳を搾られる。

生まれた方の子牛も

将来の乳牛候補として

飛ぶように売れてゆく。

北海道の酪農家にとって

IMG_3049これは良いことなのだろう。

しかし

それぞれの酪農家を

一軒一軒よく見てみると

IMG_3048一概に良いとは言えない部分がある。

特に

牛の健康管理

という面から眺めてみると

IMG_1909それは顕著である。

搾乳した生乳を

どの酪農家も同じように販売していて

出荷乳量だけを見れば

IMG_1020どの酪農家も同じように見える。

ところが

搾乳する乳牛の

健康状態には

IMG_0940それぞれの酪農家によって

雲泥の差がある。

私は、最近

よく思うことがある。

IMG_0358「ボロボロの牛が増えたなぁ・・・」

北海道の牛たちは

以前よりも

ボロボロになってきているのではなかろうか。

IMG_0357それは

生乳の需要の増加に伴う

増産体制と

密接に関係しているように思われる。



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ばんえい競馬観戦記 2018.7.1.

青山酔鳴氏と三品リッキー氏と私という、

3人の俳句仲間による、

ばんえい競馬観戦が実現した。

実現したといっても

この日は『トリニテ』というバンドの北海道ツアーの、

帯広でのライブが夕方からあり、

それに参加することがメインだったので

それまでの時間つぶし(!?)ということで、

7月1日の第1レースだけを観戦することにしていた。

1日に10レースもある競馬開催で

初っ端の第1レースのみを観戦するという

まさに、1レースだけの「一発勝負」をするという粋な企画である。

帯広競馬場に隣接したレストランで

ゆっくりと食事をし

14時40分発走の第1レースに向けて

私は気持ちを集中させていった。

酔鳴、リッキー、両氏は

私のばんえい競馬についての薀蓄(!?)を

とても素直に聞いてくれるので

私は嬉しくなり

自分の競馬体験などを次々と話して

それが止まらなくなっていた。

「あ、14時過ぎたから・・・そろそろ場内に入りますか。」

私は2人を先導するように競馬場内に入り

IMG_3825競馬ブックを一冊購入。

たった1レースだけの勝負といえども

いや、だからこそ

自分の持っている予想力の全てをかけて

このレースの馬券を買いたい

と思ったのだ。

「パドックは見ないとね。」

と、私が言えば

「そーね、私はパドックでお馬さんの良し悪しを見たいのよ。」

と、酔鳴氏が応える。

梅雨のような雨が降る中で

私たちはパドックでしばし馬たちを観察した。

「あの2番の馬、いいんじゃない?」

と、酔鳴氏。

「いいねー、俺もそう思う!」

と、リッキー氏。

2人とも2番キタノサカエミントに心を惹かれた様子。

「おデコに白いお星様が可愛いよねー」

「うん!」

2人ともこの馬をいたく気に入ったようだった。

しかし私の目は、その馬よりも

9番カツラミライの落ち着き払った歩き方に惹かれていた。

「じゃあ、次は馬体重、見に行きますか。」

私たちは馬体重が掲示してある場所へ向かった。

このレースは2歳馬、すなわちまだ生後2年そこそこの若い馬たちのレースで

人で言えばまだ高校生のインターハイといったところ。

まだ成長期の馬たちのレースである。

馬体重表を見ると、ただ1頭

2番キタノサカエミントだけが2週間前の前走より体重を落としていた。

他のすべての馬たちは体重が増えていた。

「成長期の馬の馬体重は普通に増えているはず、よく食べて体重が増えた馬が勝負をかけている・・・」

私はここでもまた持論を展開。

それに従って、体重16Kg増の8番プリュネルと21Kg増の6番ツカサゴールドと12Kg増の1番メトーフクヒメに注目した。

そして私は、本命◎をパドックで好印象だった9番カツラミライ(この馬も12Kg増)とし

この馬から体重が順調に増えている上記3頭を絡める馬券を買うことにした。

IMG_3824馬券を買い終えて外へ出ると

降っていた雨は少し小降りになっていた。

第二障害の側で発走を待っていると

酔鳴氏とリッキー氏もやってきた。

馬券の発売締め切り時間が迫っているというアナウンスが流れた。

「私やっぱり、あの可愛かった2番の馬の馬券、買っておこうかしら・・・」

と、酔鳴氏は心残りの様子だった。

私はそれに応えるように

「でも結果は一つだから、そこは取捨選択したんだから。」

「そう・・・でもねー・・・」

「レース結果は1つしかない。馬券を3通り買ったら、もうその時点で2つは外れてる。」

「・・・でもねー・・・」

「手広く買えば買うほど、外れ馬券を無駄に増やして買うことになるよ。」

「・・・うーん・・・」

諦めきれない酔鳴氏とリッキー氏を前に

私はまた持論を展開。

この時点で私はなぜか

自分の買った馬がきっと来るだろうという自信があった。

馬券の発売が締め切られ

ファンファーレが鳴り

スタートが切られた

小雨の降る中

鈴を鳴らして馬達がやってきた。

勝負どころの第2障害に差し掛かった。

場内から声援が飛んだ。

真っ先に障害を越えたのは

2番キタノサカエミントだった。

私の買った馬達はなかなか障害を越えて来ない。

2番を先頭にして次々と馬が障害を越えて来る中で

9番カツラミライがようやく5番手で障害を越えた。

しかし、時すでに遅く

勝負の大勢は決まった。

2番キタノサカエミントは快調な足運びで1着でゴールイン。

2着には3番シマノルビーが入り

3着に9番カツラミライが入った。

私の買ったその他の馬達はみな馬群に沈んだ。

対抗馬として期待していた8番プリュネルに至っては

第2障害をまともに越えられず

障害の頂上でうずくまって失格に・・・

「・・・。」

私はしばらく呆然とその馬を見送っていた。

「・・・2番・・・来たのね・・・」

「・・・(笑)・・・」

酔鳴、リッキー、両氏は苦笑い。

配当は、単勝2番で7.9倍というおいしい馬券になった。

が、私たちは誰もその馬券を手にしてはいなかった。

IMG_3823場内の雨は

また強く降り始めた。

私たちはその雨の中を

やや速い足取りで競馬場を後にした。


(・・・2番の馬・・・買っておけばよかったネ・・・)



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角川「俳句」7月号

再び月刊誌角川「俳句」の、

IMG_3798今度は7月号の、

今日の俳人(作品7句)という欄に、

私の作品7句を

載せていただいた。

この手の月刊誌に、

こういう形で私の俳句が掲載されたのは、

全く初めてのことなので、

私にとってこの号は記念すべき一冊になった。

IMG_3800掲載された7句について、

簡単な解説文をつけているが、

それをさらに詳しく言うと、

この7句は全て今年の4月22日に詠んだ句である。

朝早く家を出て

帯広駅から特急に乗り

札幌からは各駅停車に乗り換えて岩見沢まで行き

岩見沢の阿弥陀寺というお寺での

「北の虚子忌」句会に参加した時に詠んだ句である。

この句会は

昨年まで依田明倫翁が主催していた句会だったが

今年は明倫翁亡き後の

遺志を継いだ佐藤宣子さんが中心となって行われた。

私は宣子さんを応援したい気持ちで

初めて参加したのだった。

その直後

折よく角川書店から自作品7句の出句依頼が来た。

それはまるで

依田明倫翁が差し向けてくれた掲載依頼のように感じた。

ありがたく引き受けて

記念すべき月刊誌への出句が

初参加の「北の虚子忌」での句になったという次第。

角川書店と明倫翁に感謝を申し上げたい。

また

この7月号の66〜67頁には

私の敬愛する今井肖子さんの文章も掲載されている。

本号の「報告句を抜け出す」という特集記事の執筆者の1人として

「語順を変える」という作句法が解説された文章である。

クリックして是非詠んで頂きたいのだが

IMG_3801この中身がとても解りやすく

且つ高度な内容になっていることに

私はさすがホトトギスのベテラン俳人の言う事は違うな

と思った。

この文の見出しに「初級」という文字が付いているが

今井肖子さんのこの文の内容は

初級者にとどまらず

どのような俳人にとっても大切なことであるのは

読んでみればすぐ判る。

我々が作句と添削をするときに

非常に重要なところを

初級者にもわかるように易しく書いてあるのだ。

「物事が良くわかっている人は、易しくわかりやすい言葉で話す」

とよく言われるけれど

この文章はまさしくそれだと思う。

肖子さんの詠む俳句もまたしかり。

今井肖子さんとは

先日の日本伝統俳句協会の総会と懇親会の時お会いした。

前々回の懇親会のときもそうだったが

また声を掛けて頂き

私の作品についての感想なども色々話して頂いて

私はとても嬉しくありがたく勉強させてもらっている。

月刊「俳句」7月号に

そんな今井肖子さんの文章を発見して

読むことができたのは

幸運だった。

今月号の「俳句」は私にとって

とても大事にしたい記念すべき一冊

となった。


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角川「俳句」6月号

俳句の総合誌、

IMG_3803角川「俳句」の6月号の150頁に、

五十嵐秀彦さんの文章が載っている。

歳時記に載せたい季節の言葉、

という特集記事の中で、

「わたしのくにの季節の言葉」

という見出しが付いている。

日本各地の地方色の強い季節の言葉を

複数の執筆者がそれぞれ

担当して執筆している中で

IMG_3802秀彦さんが北海道代表として

挙げているのは

「気嵐(けあらし)」

という言葉である。

けあらしは

気温が氷点下15℃以下になる地方でないと

見ることができない現象らしい。

その解説文の最後に

北海道の俳人が詠んだ「気嵐(けあらし)」の俳句が

何句か載せられていて

その中に私の一句


 けあらしや熱湯流れいる如し  豆作


があった。

これは厳寒期の十勝川で詠んだもの。

俳句の総合誌に

例句として私の作品が活字になるのは

とても嬉しいものだ。

五十嵐秀彦さんに感謝したい。

また

同じ6月号の186〜189頁には

現代俳句時評「こどもたちの今」と題した

阪西敦子さんの文章が載っている。

内容はクリックしてぜひ読んで欲しい。

IMG_3805小・中学生の国語教育と俳句

東京の江東区における取り組みと

今後の色々な課題が

深い洞察を通して書かれていて

IMG_3806とても示唆に富む俳句時評である。

じつは

阪西敦子さんとは

先日の日本伝統俳句協会の総会の席で初めてお会いして

懇親会から二次会までご一緒させていただき

意気投合して

色々と俳句の話をすることができた方である。

とても聡明な印象を受けた俳人で

この日の私の大きな収穫の一つだった。

そんな人の文章を

俳句総合誌上で発見して

読むことができたのは

これもまた嬉しいことである。


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新しいタイプの往診依頼

「食欲不振の牛が4頭いるんですけど、診てもらえますか・・・」

∀牧場の息子さんから、そんな往診依頼が来た。

∀牧場は牛の総数が50頭程度の育成牧場である。 

そんなところの牛が4頭も、

食欲不振になったというのは尋常ではない。

私はとっさに伝染病や食中毒などの、

集団的な病態を思い浮かべた。

∀牧場に着くと

息子さんがやって来た。

「4頭も食欲がないって・・・どうしたの?」

「$さんの預かりの牛なんですけど・・・ファームノートの反芻量が落ちてるんで・・・」 

「ファームノート?」 

「はい・・」 

ファームノートというのは

帯広市に本社のあるIT企業が売り出している牛群管理システムである。

農場の牛の1頭1頭の首にセンサー(首輪型ウェアラブルデバイス、という)を取り付けて 

IMG_3792そのセンサーが感知する情報(歩行数、休息時間、反芻量、など)を

本社にある人工知能へ発信してそこで集約し

契約者のスマートフォンへそのデーターを還元するシステムである。

飼主はその牛群のリアルタイムのデーターを24時間活用することができる。

「ファームノート、か・・・」

私は、これは新しいタイプの稟告だ、と思った。
IMG_3794
「ここ数日、反芻量が落ちている牛がいるんで、ちょっと気になって・・・」

「ファームノートの反芻量・・・ってどうゆう数字なの?」

 「単位はわからないんですけど、正常な時は「6」で、それより下がると落ちているらしいです・・・」

「で、今回の4頭はどれくらいの数値なの?」

IMG_3791「上がったり下がったりするんですけど、「1.7」とか「4.3」とか・・・」

ファームノートが発信する反芻量は

グラフ化されて飼主のスマートフォンに届くようになっている。

私は、その端末の画面を見せてもらった。

「なるほど、これがそのグラフなのね。」

IMG_3793「はい、そうです・・・この緑の棒グラフが反芻量です・・・」

「反芻量が落ちてる4頭、診せてもらおうか。」

「はい。」

私は、連動スタンチョンに入っている牛たちの中から

反芻量の落ちているという4頭を

順次、診察していった。

1頭目は、体温38.7、聴診による第1胃動ほぼ正常、便正常、眼光良し。

2頭目は、体温38.8、聴診による第1胃動ほぼ正常、便正常、眼光良し。

3頭目は、体温38.7、聴診による第1胃動ほぼ正常、便正常、眼光良し。 

4頭目は、体温39.2、聴診による第1胃動ほぼ正常、便正常、眼光良し。

であった。

4頭すべて妊娠牛だった。

私はこれらの牛たちが

伝染病や食中毒ではないことを確認した。

「反芻量が落ちてるっていうのは、暑さなのか・・・理由はよくわからないな。」 

「そうですか、$さんから獣医に診てもらってくれって言われたもんですから・・・」

「とりあえず、健胃剤出しておくから、それを飲まして様子見てね。」

「わかりました・・・」 

かくして私は

ファームノートのデーター上で変化の見られた牛の治療(?)を終えた。

治療・・・といってもこれは従来の治療ではなく

予防的な診療行為になるだろう。

考えて見ると

こういう仕事は

私のようなNOSAI診療所の治療型(火消し)獣医師のする仕事ではなく 

牧場専属のコンサルタントの予防型(火の用心)獣医師のする仕事であろう

と、思った。

ちなみに

診察した4頭の中で

2番目に診た牛は非常に気性が荒く 

体温計を肛門に入れようとする時大暴れして

後脚を何度も蹴り上げる牛だったので

私は危うく

1発蹴りを喰らうところだった。 

フアームノートの首輪のセンサーは

牛の気性の荒さは

感知してくれないようだ・・・


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足元清浄装置

¢さん宅の子牛の治療を終えて、

いつものように、

足を洗おうと牛舎の入り口付近に戻り、

水道の蛇口を探していると、

IMG_3779なにやら見慣れぬ物を発見。

それは、

排水溝の上に置かれ、

四角い縦長の二枚組の箱状物で、

内側の左右と底に白いブラシが出ており、

IMG_3782水道からのホースが付いていて、

ブラシの部分に水が噴出するようになっていた。

「これ、足を洗う装置?」

「そう。」 

「へー、すごいなー。」 

「いいでしょ。」

「初めて見たなー。」 

「このあいだ市場に行ったときあって、いいなと思ってね。」

IMG_3780「こうやって足を入れるのね。」

「そう。」 

「あ、キレイになる。」 

「なるでしょ(笑)」 

「これはいい。」 

パイプの手摺りがついているので

それを掴んでいると

足を動かしても体が楽である。

良い装置があるものだと感心して

私は左右の足を洗った。

IMG_3781「でも値段が(笑)」

「いくら?」 

「5万くらい。」 

「やっぱり結構するねー」

「うん。」 

「でもそれだけの値はあるかなー。」 

我々のように

毎日牧場を訪問する獣医師にとって 

どの家にもこのような装置があったら

どんなにか衛生的で

かつ仕事が楽になるか 

そう考えると

各JAさんには

補助を出すなどして

足元清浄装置の

設置を推進してほしいものだ

と思った。 

ただ

ひとつ気になるのは

厳冬期に

凍結しないかどうか

である。


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小麦の花

「花は花でも、

小麦の花は、

いとけなきかな、

人知れず」

我が国の「麦」は、

「米」のようには守られていないので、

外国からの安い小麦の輸入攻撃により、

麦の生産は大打撃を受け、

小麦畑は激減してしまった。

しかし

北海道の十勝地方では

我が国の中では辛うじて

小麦の産地として

その面目を保っている。

TPPの合意によって

先行きの不安は増す一方であるけれど・・・。

IMG_3774本州ではどれくらい

小麦畑が残っているのだろう。

本州の小麦は

4月下旬から5月上旬にかけて開花期を迎えるらしいが

IMG_3772北海道の小麦は

6月中旬の今が

小麦の開花期である。

写真はここ数日の

小麦畑の

IMG_3771小麦の穂に

まるで白っぽい塵がついたような

いとけない花たちである。

現在作付けされている小麦は

北海道の気候に合うように改良された

IMG_3770「きたほなみ」という品種がその主流だ。

「きたほなみ」は主に麺類の原料になる。

もう一つ最近よく見かけるのが

「ゆめちから」という品種で

強力系の小麦でパンの原料になる。

IMG_3769いずれも

米に次ぐ重要な作物である。

歳時記を見ると

小麦に関する季題としては

麦の芽、麦の穂、麦秋

などがあるけれども

麦の花は載っていない。

それほどに

地味で

俳句の題材にもならなかった花である。

小麦の産地として

辛うじて生き残っている

十勝地方に

住んでいる俳句詠みの私としては

小麦の花を詠んだ俳句くらいは

詠んでおきたいものだ

と思うのだが・・・。


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病気の総合デパート

「お産なんですが、子宮捻転みたいなので、来て欲しい・・・」

そんな電話が診療所にかかって来たのは、

午後3時を過ぎた頃だった。

「・・・わかりました、すぐ行きます。」

電話の主の♭牧場の分娩用の古い牛舎で、

牛は産気づいて少し苦しんでいるようだった。

手を入れると、

産道が普通に捻れていた。

用手法でしばらく

子宮を押していると

何度かの陣痛のうちに

胎児の頭が産道に乗って来たので

子宮捻転は整復され

普通のお産となった。

産道は狭かったが

滑車を使って

F1の♀の胎児を

無事に出産させることができた。

「有難うございます、よかったです!」 

臨床獣医師は

難産介助が成功した後

飼主さんからこう言われるのが1番嬉しい。

「よかったー!」

という

飼主さんの

この一言を聞くと

我々臨床獣医師は生き甲斐を感じる。

この一言を聞くために

我々は仕事をしていると言ってもいいだろう。

満たされた気分で帰路につき

診療所でカルテを書き

夜間当番の時間帯に

入ろうという矢先に

電話がかかって来た。

「さっき子宮捻転で診てもらった牛なんですけど・・・」

♭牧場からだった。

「・・・どうしました?」

「子宮脱になっちゃったんですけど・・・」

「・・・えええーっ!、わかりました、すぐ行きます。」

 ♭牧場に着くと

さっきの牛の産道から

子宮が間違いなく脱出していた。

「・・・立てないですか?」 

「産んでからは立っていないです・・・」

「・・・ハンガーで吊りましょう。」

♭さんが牛を吊る準備をしている間に

私はこの牛に注射するための

カルシウム剤を車から取って来た。

子宮脱の牛は低カルシウム血症になっていることが多いので

いつものように

牛の頸静脈に針を刺すために

頭部を保定しようとした

その瞬間 

牛は大きく頭を振り上げ

私と反対側の床に

バッタリとその頭を打ち付けて

深い息を吐いて 

視線が中空を泳ぎはじめた。

IMG_3685「・・・あっ・・・これは・・・」 

「なんか変ですね・・・」 

「・・・これは、まずいな・・・死んじゃうな・・・」 

「え、マジですか・・・」

「・・・あ・・・だめだ・・・」 

「・・・」 

牛は最後の大きな息を吐いて

あれよという間に死んでしまった。

子宮脱を整復している途中や

子宮脱を整復した直後に 

その牛が死んでしまうことは

私は何度も経験しているが

今回はまだ整復にとりかかる前に

死んでしまうという

あっという間の出来事だった。

IMG_3687「・・・マイッタな、これは。」

「・・・」

「・・・指示書を書きますね。」

「・・・」

私は数時間前の満たされた気分とは真逆の

飼主さんの沈黙「・・・」という

最悪の雰囲気の中で

死亡畜処理の指示書を書いて

♭さんに渡し

解剖の依頼をすることにして

帰路に着いた。

後日

処理場の獣医師から剖検の書見が送られて来た。

BlogPaintそれによると

私が最も疑った腹腔内の出血はなく

うっ血型の心筋症

という所見が記されていた。

この牛はどうやら心臓も相当弱っていたらしい。

それにしても

1頭の牛が1回のお産で

子宮捻転と子宮脱が立て続けに起こったのを

診療した経験は

私には

過去を振り返っても

なかったように思う。

そしてさらに剖検によって

うっ血型心筋症が顕著だったとは

過去の記憶を辿っても

あまりなかったように思う。

この牛は

疲れ切ってボロボロになってしまっていたようで

まさに

病気の総合デパートのような症例だった。



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第31回日本伝統俳句協会総会・授賞式

平成29年度の日本伝統俳句協会の、

第31回通常総会とそれに続く協会賞授賞式に行って来た。

6月9日(土)の前夜に東京へ入り、

IMG_3735その夜はまず大学時代の同級生、

H山S一教授と奥さんのS子獣医師に会い、

品川駅付近で一献を傾けた。

この日のご両人は、

浦和レッズのサポーターのスタイルで登場(笑)

IMG_3736私と会うためにわざわざ、

試合の終わった後に品川まで来てくれて、

ささやかな前夜祭をしてくれた。

同級生はいくつになっても

昔のままで話せるのがいい。

声をかけてくれたご両人に感謝である。

翌日

午後からの総会を前に

IMG_3743千葉にいる兄夫婦と

群馬にいる長女が

時間を作ってくれて

東京駅の食堂街でランチ。

ささやかなお祝いをしてくれた。

長女と兄夫婦と会うのは

IMG_3742何年ぶりだろう。

兄にはいつも

静岡に住む両親のことなど

任せっぱなしであり

加えて、今日は

お祝いをしてくれた。

ありがたいことである。

長女と兄夫婦に別れを告げて

雨の中を

永田町の都市センターホテルへ向かった。

1時30分から始まる総会に駆け込んだ時

すでに稲畑汀子先生の挨拶が始まっていた。

恐縮して着席し

総会の間中しばらく汗が止まらなかった。

活発な意見が出た総会が終わり

場所を変えて

懇親会と各賞の授賞式が行われた。

IMG_3739今回は私も表彰される側で

最後にスピーチをすることになっていたので

前々回の時と違って

美味しい料理の味もお酒の味も

緊張でよくわからなかった(笑)

挨拶が無事終わったところで

IMG_3740肩の荷がどっと下りて楽になった。

協会の理事さんでほぼ同世代の有志の方々が

二次会を設定してくれたので

総会後は雨の中を

神楽坂というところへ移動し

再び乾杯の恩恵に預かった。

今度は肩の荷が下りた後なので

ワインも料理も大変美味しく

最後まで堪能することができた。

一流の俳人の方々と出版社の方との

こんな二次回は全く初めての事で

とてもありがたく

心の底から嬉しかった。

その日は再び東京に泊まり

翌日は実家の静岡へ。

そこで再び長女と会い

両親とともに食事をして

そこで一泊。

翌日は老父母の家の中の雑事などを

あれこれと済ませて

午後の新幹線に乗って帰路についた。

IMG_3741写真の花は

静岡駅前の未央柳(ビヨウヤナギ)。

この日

静岡は全国で最高気温となる32℃を記録。

羽田から飛行機で帯広に向かい

空港に着いて気温の掲示を見たら

帯広空港の気温は5℃だった。

夢のような東京・静岡の旅から

現実に引き戻された

そんな瞬間だった。



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重種馬の下顎骨切歯部の骨折(2)

「今日治療している時に写真を撮ればよかったです、あれほど酷かったとは思えないくらい落ち着いています。」

さらに、

「草はがっつり詰まっていましたが・・・。感染や過形成に注意します。」

この馬が帰って行った数日後、

競馬場のF獣医師からそんな連絡が入った。

さらに数日後、

「調子よく食べているようです。」

再びF獣医師から連絡が入り、

32243674_1973453589635316_540315991167467520_n撮った写真を送ってくれた。

左の写真がそれで

詰まった食べ物を洗い流した後の

傷口がまだ生々しい。

「こんなことがあっても懲りずに鎖を噛んでいる、と厩務員氏がぼやいていました。」

ということだった。

それからさらに

1週間後

「ここ1週間来院していないので、経過を見せに近々来てもらうようにお願いしてみます。」

という連絡が入り

それから、しばらくは

音沙汰がなかった。

便りのないのは良い便り・・・

と思って

約1ヶ月経過した頃

F獣医師から久々に連絡が来た。

「臭いもなく、過形成もなく順調です。レースにも勝ってます。相変わらず綱を噛む癖はあり、懲りてませんが(笑)、厩務員氏はよろこんでます。ありがとうございました。」

というメッセージとともに

IMG_3680数枚の写真が送られて来た。

経過はとても順調のようだ。

今回私は

たまたま初診を担当したが

IMG_3682創部の摘出以外は特に何もしていない。

それよりも

怪我の後の

F獣医師の続けた丁寧な治療によって

IMG_3683順調に回復することができたと思われる。

したがって

お礼を言いたいのは

こちらの方である。

どうもありがとうございました!


(この記事おわり)



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重種馬の下顎骨切歯部の骨折(1)

「下顎の歯が折れて、骨も折れたみたい・・・」

という稟告の、▽さんの若馬。

競馬場から下げてきたという現役競走馬だった。

枠馬に入れて、

鎮静剤を打って、

IMG_3526下唇をめくってみると、

下顎の右側の3本の切歯が、

根こそぎ外側へ変位していた。

「・・・これは、どうして」

「頭絡を左右の鎖で繋いでたら、その鎖を口でイジっていて・・・」

「・・・鎖ですか」

「何かに驚いて暴れた時に、鎖が口に引っかかったみたいで・・・」

IMG_3529「・・・歯が根こそぎエグれてますね」

「もうビックリしちゃって・・・」

「・・・グラグラしてますね」

「直らないですか・・・」

「・・・顎は動かすところだから、取ってしまうしかないでしょう」

「大丈夫ですか・・・」

「・・・鎮静剤が効いているうちに取っちゃいましょう」

「そうですか・・・」

IMG_3530私は

有り合わせの道具で

グラついている3本の切歯の根元を削ぎ落とし

最後はメスを使って結合組織を切断し

変位している部分を摘出した。

「あ、取れた・・・」

「・・・大きな骨には異常がないから、噛めるでしょう?」

「それは大丈夫みたいです・・・」

「・・・歯が抜けた穴からばい菌が入るから、抗生物質を続けてください」

IMG_3533「わかりました・・・」

「・・・抜歯したようなもんですから、大丈夫ですよ」

「そうですか・・・」

「・・・あとは競馬場の先生にお任せしましょう」

抗生物質の注射をして

競馬場へ戻して

今後はそこの診療所の先生に

経過を診てもらうようにした。

治療を終えて

事務所に戻った。

IMG_3536事務所には馬の下顎の骨格標本があったので

摘出した部分の切歯部をよく洗い

それを並べて置いて

標本と比べてみた。

切歯3本ばかりではなく

下顎骨の先端もかなり削げ落ちていた。

IMG_3537「抜歯したようなもんですよ・・・」

などと軽く言ってしまったが

こうやって見ると

摘出した部分は意外に大きくて深く

今後のことが

ちよっと心配になってきた・・・


(この記事続く)



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篆刻印の超グレードアップ♪

昨日帯広で、

9月に行われるコラボ展示会の打ち合わせがあった。

写真、美術、建築、書道、俳句、のコラボレーションという、

毎年どうなるのか、

まるでわからない不思議な展示会で、

とてもワクワクする。

その中心的人物の一人で、

IMG_3721前衛書道の大家、

八重柏冬雷先生が、

なんと、

私のために、

篆刻印(てんこくいん)を彫ってくれた♪

打ち合わせ会議に間に合わせて

IMG_3720持って来てくれたのだ。

伝統俳句協会賞のお祝いということで、

大変ありがたく頂戴した。

とても嬉しい♪

私が今まで使っていた篆刻印(落款印)は

市販の消しゴムをカットして

豆作をもじった

マメサックルの図柄を彫ったという

IMG_3725かなりお恥ずかしい代物で

いつまでもこれを使ってるのも

なんだかなぁと思っていた処だった。

そんな矢先に

タイミングよく

素晴らしい贈り物を戴いた。

まさに

天から授かった

宝物である♪

八重柏冬雷先生によれば

IMG_3718この文字の字体は

「篆書体(てんしょたい)」の中の

「金文」という

古代中国の青銅器に彫られていた字体で

いわゆる象形文字からちょっと進んだ書体だそうだ。

これからは

一生涯の唯一の

宝物として

この篆刻印を使って

自分の作品を

揮毫してゆけたら

いいなと思う。

八重柏冬雷先生

どうもありがとうございました!



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ついでの難産

この日の午前中の最後の往診は、

和牛繁殖農家の〓さんの、

妊娠鑑定だった。

やっている最中に、

「1頭お産前の牛がいるんだけど・・・ちょっと診てくれます?」 

ついでの仕事を頼まれた。

よくあることである。

妊娠鑑定を全て終え、

その牛に手を入れてみると、

胎児の足がすでに産道に来ていた。

しかし

「中で死んでるみたいで・・・」 

〓さんの話では

ここ数日忙しくて

分娩の監視が疎かになっていて

今朝気づいたらこんな状態だったという。

胎児の足はやや膨れた感じで

手を奥に入れると

死んで膨れ気味の頭部に触れた。

気腫胎のようだった。

「・・・このまま引っ張ってもきっと無理だから、粘滑剤を入れますね。」 

私はバケツ1杯の粘滑剤を作って

それをカテーテルで胎児と子宮の隙間に注入。

胎児と子宮の間に粘滑剤が 行きわたるように手を添えながら 

粘滑剤が溢れてくるまで注入。

「・・・これで引っ張ってみましょう。」

胎児の足に産科ロープを付けて

その先に牽引の滑車をつけて

胎児を牽引する

が、胎児はほとんど動かなかった。

牽引の力に耐えられず

親牛が寝てしまった。

「・・・これは引っ張っても無理だから、帝王切開しましょう。」

 「はい、お願いします・・・」

「・・・胎児はもうダメだけど、親をなんとか助けるということで。」 

「わかりました・・・」 

親牛はその後

なんとか立つことができたので

〓さんの家畜車に乗って

この牛は、診療所の手術室に運ばれて来た。

私は大急ぎで昼飯の弁当を食べて

IMG_3559帝王切開に取り掛かった。

同僚のK獣医師とT獣医師が助手に入ってくれた。

重たくパンパンに張っている子宮から

大きな死亡している気腫胎児を摘出し

子宮と腹膜と筋層と皮膚を縫い上げ

IMG_3560牛が乗った手術台を下ろし

寝ている牛に

起立を促した。

しかし

牛は立つことができなかった。

IMG_3561「・・・ハンガーをつけて吊り上げましょう。」

牛の腰角にハンガーを取り付けて

チェーンブロックで吊り上げた。

しかし

牛は前足を踏ん張ることができず

IMG_3562立つことができなかった。

「・・・ちょっと休ませて、補液治療ましょう。」

リンゲル、ブドウ糖、を投与し

30分程経った頃

再び起立を促した。

しかし

牛は立つことができなかった。

「・・・このままここに置いておきましょう、私は今日当直なんでずっと居ますから。」

〓さんには自宅に帰ってもらうことにして

今日はこの牛が立てるまで

このまま手術室に置いておくことにした。

「・・・牛が立ったら、連絡しますから取りに来てくださいね。」

「わかりました・・・」

私達は牛が寝ているままの手術室を片付け

勤務を終えた。

夜になり

私は手術室に居る牛と

同じ診療所の中で夜を明かすことにした。

午後8時頃、水を与え、補液治療をした時は

IMG_3563牛はまだ立てなかった。

午後11時頃、水を与え、治療をした時は

牛はまだ立てなかったが

牛の頭の向きが変わって居た。

立とうとする意思はあるようだった。

午前1時頃、様子を見に行ったとき

牛の呼吸が少し荒くなって居た。

しばらく観察していたが

牛はやはり立つことができなかった。

午前4時頃、様子を見にゆくと

牛は頭を横に倒し

動いていなかった。

死んでしまった。

私は直ぐ、〓さんに電話を入れた。

「・・・牛、死んでしまいました。」

「そうですか、じゃあ取りにゆきます・・・」

「・・・いや、取りに来なくてもここから処理場へ持ってゆけますから。」

「そうですか・・・」

「・・・指示書のコピーを後で届けます。」

「安田さん、やっぱり取りにゆきますよ・・・」

「・・・ここからそのまま処理場へ持ってゆけますけど。」

「うん、そうだけど、やっぱり取りにゆきます・・・」

私は、それを断る理由はなかったので

〓さんの言うことに従った。

「・・・そうですか、じゃあ指示書を書いて待ってますね。」

30分ほどたち

〓さんは自らこの死亡した牛を取りにやって来た。

そして黙々と

牛の足にワイヤを取り付けて

牽引滑車で牛を荷台に乗せて

死亡した牛とともに

自宅へ帰って行った。

手術室で死亡した牛は

ここから直接

処理場へ運ぶこともできるので

こんな手間をかけることは

無駄な作業と言えるのだが

〓さんは

この牛を

どうしても、もう1度

自宅に連れて帰りたかったのだろう。


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「牛に感謝」(6)

牛の死体が毎月何頭も出て、

それに慣れてしまう、

大規模酪農場。

IMG_3577そこで働く人の

「牛に感謝」

をする気持ちは乏しくなってしまう。

そんな大規模な酪農を、

世界にさきがけて始めたのは、

欧米諸国、

特にアメリカの酪農である。

結論を先に言おう

アメリカ人は

「牛に感謝」

をしない人たちなのだ。

何千頭規模の巨大な酪農場では

おそらく

牛の死体が毎週運び出されては

処理されているはずである。

そこで働く人たちの

心は痛まないのだろうか。

「牛に感謝」

の気持ちがある人であれば

心が痛むはずである。

しかし

彼らの心は痛んではいないように見える。

だからこそ

巨大な規模の酪農を考案し

牛の死体がたくさん運び出されるような

大規模酪農を平然と実践している。

そこで働く従業員もさることながら

そのような大規模な酪農場の

責任者(経営主)には少なくとも

「牛に感謝」

をしない人であろう。

「牛に感謝」をしていないので

牛に申し訳ないことをしている

とは思っていないのであろう。

欧米諸国の人たちは

「牛」に申し訳ない

とは思わず

「神」に申し訳ない

と思っているのである。

日頃から

「牛に感謝」をするのではなく

「神に感謝」をしている人たちである。

欧米の自然観の根底にあるキリスト教では

人間以外の動植物には

魂(霊)が存在しない。

魂(霊)が存在しない「牛」という動物に向かって

申し訳ないと謝罪する意味がないのである。

「牛」という魂のない動物を創って

人間の日々の食糧として提供してくれる

「神」に対して感謝するのが

欧米人の考え方である。

欧米諸国で行われる謝肉祭は

「神に感謝」する儀式であり

「牛に感謝」する儀式ではない。

全ての心の痛みは

神の前で懺悔することによってのみ解消される。

牛の前で懺悔をすることはない。

したがって

牛の魂(霊)を慰める牛魂の碑などは

欧米には存在しない。

すべては

神の前で懺悔するだけでよい。

実に合理的な考え方だ。

そしてそれは

実に都合の良い考え方だ。

人が牛を殺してしまう罪は

目の前の牛には謝罪せず

教会の神の前で懺悔をすれば

それで許されるのである。

そんな都合の良い考え方がまかり通るほど

この世は甘くない

と、「牛」そのものに感謝をしている私は思う。

欧米人の心は

特にアメリカの大規模酪農家の心は

牛が死んで死体が運ばれてゆくとき

きっと

「オー・マイ・カウ(牛)!」

ではなく

「オー・マイ・ガー(神)!」

と叫んでいるのだろう

・・・

IMG_3578牛たちが本当にかわいそうで

牛たちに気の毒な

まことにゆゆしい

酪農の大規模化である。

・・・

我が国で

酪農の大規模化を推進する方々に

このシリーズ記事を捧げたいと思う。


(この記事おわり)



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「牛に感謝」(5)

「牛に感謝」をする気持ちが、

だんだん乏しくなってゆく、

「ゆゆしい」事態の、

日本の酪農業界の現実を、

説明してきた。

その「ゆゆしい」事態

を招いている原因が、

酪農の大規模化であることを、

説明してきた。

では

そもそも

酪農の大規模化というのは

detail_farming_draw03いったい誰が

やり始めたのだろうか?

乳牛を飼い

その乳を搾ってそれを売るという酪農家の

人口が減ってゆく中で

出荷乳量を維持するためには

1戸あたりの搾乳頭数が増えるのは当然だが

それを「ゆゆしい」ものとは認識せず

むしろ

その大規模化に拍車をかけているのは

大規模化を良しとする考え方である。

酪農の大規模化を良い事と考え

それを我が国の酪農に導入し

推し進めてきた人たちの

模範(モデル)になった酪農は

欧米の酪農

それも特に

アメリカの酪農である。

USFOOD020_435j我が国の酪農業界は

ここ数十年にわたって

アメリカの酪農に大きな影響を受け続け

それを良いものとして見習い

それを必死に勉強して

自国の酪農に取り入れてきた。

アメリカの酪農技術を取り入れる中で

同国の乳牛の獣医技術も

同時に勉強して取り入れてきた。

それによって

我が国の酪農の生産性というものは飛躍的に伸びた。

detail_farming_draw04牛1頭あたりの乳量

酪農家1戸あたりの乳量

共に目を見張るような伸びを見せてきた。

そのこと自体はおそらく良い事であろう。

だが・・・

良い事と思われるものの中には

必ずと言ってよいほど

弊害があることを知らねばならない。

我が国の酪農がお手本としてきた

欧米の酪農

特にアメリカの酪農にも

いろいろな弊害があることを

我々はそろそろ

気づかなければならない時が来た

と私は思っている。

模範として来ただけに

その弊害に気づかず

detail_farming_draw02むしろ

その弊害に目をつむって

アメリカの酪農をひたすら良いものとして

盲目的に取り入れて来た

という側面が

我が国の酪農業界にはある。

ここに「ゆゆしい」事態を招いている

根本的な原因がある

と私は思っている。

根本的な原因というのは

今回ずっと書いて来たテーマである

IMG_3577「牛に感謝」

をするという

気持ちの問題であり

心の問題であり

思想の問題であろう

と私は思っている。

そこをもう少し

掘り下げてみたい。 


(この記事続く)



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「牛に感謝」(4)

前回は、

酪農の大規模化が、

牛の死体に対して鈍感になる行為であり、

牛を大切にしなくなる行為であり、

IMG_3577「牛に感謝」する気持ちを乏しくする、

「ゆゆしき行為」であることを説明した。

「ゆゆしい」というのは、

「そのまま放っておくと、取り返しのつかないことになる」、

という意味である。

酪農の大規模化の「ゆゆしさ」の、

裏付けになっている事は、

まだ他にもある。

例えばまた

飼養頭数50頭のA牧場と

飼養頭数500頭のB牧場があるとする。

いま

A牧場で伝染病が1頭発生したとすると

それが接触感染してゆく恐れのある頭数は50頭である。

B牧場で伝染病が1頭発生したとすると

それが接触感染してゆく恐れのある頭数は500頭である。

もう少し具体的にいうと

例えば 

A牧場で口蹄疫が1頭見つかったとすると

殺処分する頭数は50頭であるが

B牧場で口蹄疫が1頭見つかったとすると

殺処分する頭数は500頭である。

023どちらがダメージが大きいかは

一目瞭然であろう。

(写真は動衛研HPより)

A牧場の50頭の殺処分と

B牧場の500頭の殺処分では

人員の派遣規模も

補償金額も

10倍になる。

口蹄疫は相変わらずアジアの隣国で発生しているので

いつこのような事態になるかわからない。

また、口蹄疫ではなくて

ヨーネ病の場合は

すでにもう現実に

日本のあちらこちらの酪農家で発生している。

我が町も例外ではない。

具体的な農場名はもちろん言えないが

A牧場のような50頭規模の酪農家では

定期的に

1日で50頭のヨーネ病検査のための採血と採便を続けているし

B牧場のような500頭規模の酪農家でも

定期的に

1日で500頭のヨーネ病検査のための採血と採便を続けている。

A牧場のヨーネ検査は数時間で済むが

B牧場のヨーネ検査は丸1日かかる。

検査に訪れる関係機関の労力には

10倍の開きがあり

牧場のスタッフの協力も労力も

00510倍の差があり

その疲労度は10倍になる。

(写真は動衛研HPより)

大規模酪農家の伝染病対策は

小規模酪農家の伝染病対策よりも

効率が悪くなる。

大規模酪農家の生産性が高いのは

その農場が健全に機能している時だけであり

いったん伝染病などの機能の麻痺が起こると

そのダメージは

逆に

非常に大きくなることを

理解していなければならない。

小規模酪農家よりも

大規模酪農家の方が

伝染病に弱いのである。

酪農の大規模化は

まことに

「ゆゆしき行為」

である。


(この記事続く)


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「牛に感謝」(3)

加入しているNOSAI保険の、

牛の死亡率が、

毎年毎年、

常に高いような酪農家は、

「牛に感謝」する気持ちが乏しい、

ということを前回の記事に書いた。

ここではさらに

そんな死亡率の高い酪農家の中でも

IMG_3577とりわけ

「牛に感謝」する気持ちが乏しい

と思われる酪農家に

焦点をしぼり込んでみたいと思う。

例えば今

牛の死亡率が4%の酪農家A牧場と

同じ死亡率が4%の酪農家B牧場があるとする。

A牧場の飼養頭数は50頭

B牧場の飼養頭数はその10倍の500頭であるとする。

そうすると

A牧場では1年間に2頭の牛が死に

B牧場では1年間に20頭の牛が死ぬことになる。

A牧場は約半年に1頭のペースで

牛の死体の処理をする。

B牧場は約3週間に1頭のペースで

牛の死体の処理をしなければならない。

半年に1度死体を処理する牧場主と

3週間に1度死体を処理する牧場主と

どちらが

牛の死体を処理する事に慣れているかは

一目瞭然である。

A牧場とB牧場を比べて

BlogPaintどちらが

牛の死体に対して

鈍感になっているかは

誰でもわかるはずだ。

牧場全体が

牛の死体に対して鈍感になりやすいのは

A牧場よりもB牧場のほうである。

規模の大きい牧場が

牛の死に対して鈍感になっていることは

私は日頃いやというほど感じている。

牛の死に鈍感になるということは

牛の命を大切にしない傾向になっているのであり

牛を大切にしなくなっているのである。

規模の小さい酪農家よりも

規模の大きい酪農家のほうが

IMG_2340「牛に感謝」する気持ちが

より乏しくなっているというのは

私は日頃いやというほど感じている。

半年に1頭牛が死んでゆくA牧場と

毎月1頭〜2頭の牛が死んでゆくB牧場と

NOSAI保険の死亡率が同じであっても

牧場主がと牧場のスタッフが

牛の死に直面する

その回数は

10倍の開きがある。

「牛に感謝」

をする気持ちの差も

10倍とはいわぬまでも

A(中小規模)牧場とB(大規模)牧場では

かなりの気持ちの差が有ることは

容易に想像できるだろう。

いま

依然として酪農業界は

牧場の規模拡大を推し進めている。

だが

酪農の規模拡大は

牛の死体に対して鈍感になる行為であり

牛の命を軽んじる行為であり

牛を大切に飼えなくなる行為であり

牛を不健康にする行為であり

「牛に感謝」

をする気持ちを減らしてゆく行為である

DD208694-BB64-4D20-B12C-96C24DD548BA酪農の規模拡大は

「ゆゆしき行為」

と言わざるを得ない。


(写真の記事は、5月18日北海道新聞朝刊)

酪農規模の拡大には

莫大な資金が必要であり

後戻りのできない行為でもある。

これから

自分の農場の規模拡大を

真面目に考えている

酪農家の方たちは

この事実を

もう1度

よく考えていただきたいと思う。

本当に

「牛に感謝」

の気持ちのある酪農家ならば

本当に

牛を大切にする酪農家であれば

規模の拡大とは違う道を

考えるのではないか

と私は思うのだ。

(この記事続く)


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豆作(まめさく)

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