北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

臍ヘルニア簡易整復術

へそヘルニア1子牛の臍ヘルニア。

ヘルニア輪が指3本程度まで、であれば

外科手術をしなくても

圧定するだけで治ってしまうものである。

圧定方法もいろいろ試されている。

私もいろいろ試行錯誤、というよりは

日本全国、いろいろな先生方が

苦労して、より良い方法を考え出されているのを拝見し
へそヘルニア2
ありがたく猿真似させてもらっている(笑)

今、私が採用している方法は

Tensoplast(テンソプラスト)

という、布製のバンデージを使用した方法。

丈夫で、粘着力が強く、通気性もあるようだ。

これをヘルニアの部分を中心に

ぐるぐると巻いて

へそヘルニア3ヘルニアを圧定すればよいだけ、なのだが・・・

肝心のヘルニア部分が

きちんと完納されていないと

ちょっとしたバンデージのズレなどで、失敗する事がある。

そこで、ひと工夫。

これは元同僚のK獣医師から教わった方法なのだが

体温計のキャップを、タコ足ウインナーのように切込みを入れて

へそヘルニア4写真のように、バンデージに貼り付け

この部分をまず先にヘルニアを完納させた部分へ押し当てる。

そうやって、ヘルニア部分をしっかりと固定・完納しておいてから

残りのバンデージを1本すべて使って

幅広く巻いてゆく。

ヘルニア部分を中心にして

最後肋骨付近から腰角前縁あたりまでまいておけば

ヘルニアがズレてテープの端からこんにちは、する事はないだろう。

へそヘルニア5あまり強く巻くと、子牛は苦しがって

体をひねったり、立てなくなったりするが

ちょっと強めかな、と思っても

子牛が平然としていれば大丈夫。

10日〜2週間

巻いておけば、小さなヘルニアはだいたい治っている。

いろいろな方法がある中で、現在の私のやり方を紹介してみた。

これをお読みの貴方は、どんな方法でやっていますか?

楽しい去勢

和牛の去勢の準備に取り掛かっていると

飼い主のαさんは、これから去勢される牛になにやら話しかけている。

「パパはねー、こういう事ほんとは好きじゃないんだよー、ゆるしてねー。」

去年の12月生まれにしては、体格がずいぶん小さい。

「この牛、すっかりひねちゃってね。この体格でしょ・・・負け組、ペットみたいなもんですよ・・・それでも売るんだったら去勢しなきゃ売れないよ、って言われて。・・・あれー?、お兄ちゃん・・・泣いてるのー?」

αさんに保定してもらって、得意の二玉同時捻転法(豆作法?!)で無事終了。

「これやったらなんだか、こっちまで、ちんこの奥が2、3日ぎゅーって痛いようで・・・あぁーっ・・・」

αさんのしゃべりが可笑しくて、私は術中ほとんどクスクス笑っていた。

「あ、もう終わったんですか?よかったー・・・じゃなよいねー、かわいそうにねー。立派にお毛も生えてたのにねー。でもなんだかすっきりしたねー、お兄ちゃん。」

去勢ひとつで、これだけ楽しめる農家を私はほかに知らない。

1頭だけで帰るのは、もったいないなー(笑)

 

重輓馬の蹄底腐爛

重輓馬の繁殖牝馬の蹄管理の悪さ。

最近は特にひどくなっているような気がしてならない。

「削蹄せにゃイカンと思ってるんだけどサ・・・」

なんせ皆さん高齢で、口は動けど、体が動かない。

伸ばし放題、割れ放題。跛行しなけりゃそれでいい・・・

息子夫婦には、馬なんて儲からないから早く売ってくれと圧力がかかるし・・・

削蹄するモチベーションは、下がる一方だろう。

私が就職した頃は、あちこちで馬を枠に入れて

馬の手入れに余念のない親父さんたちがいたものだがなぁ・・・


BlogPaintさて、左前肢の支跛。

検定器で、反応のあるところに見当をつけて削り

二重底になっていたところを剥がしたら

化膿汁がじわりと滲み出して来た。

白線上ではなく

蹄叉でもないから

病名は蹄底腐爛でいいのかな。

こういう場所が見つかれば、もう「勝ち」である(笑)。
馬蹄2
最近愛用しているのが

小型の電動ドリル。

ホームセンターなどで、安く買える。

昔は、葉状刀やT字型のドリルなどで

手動でコキコキと穴を掘って

病巣部を除去していたが

これを使い出したらもう、そんなことはやっていられなくなった。

大きさも深さも自由自在な穴を開けられる。
馬蹄3
化膿汁が尽きて

血液が出てくる程度まで

穴を掘り広げる。

ここまで掘ると

馬が痛がって暴れたりするので

しっかり保定し

時には、沈静も必要だろう。

電動ドリルだと

正直楽しくなってどんどん削ってしまうし(笑)
馬蹄5
血液が出る程度に掘ったら

今度は薬剤を浸み込ませた脱脂綿で

穴を埋める。

特別な薬はいらないと思う。

私は牛用のFRパスタを良く使う。

脱脂綿は大きめにして

マイナスドライバーなどで

少しずつしっかりと穴埋めをする。

詰めるのに、いろんな道具を使ってみたけれど

大きなマイナスドライバーが

いまのところ、私には一番使い易く、愛用している。

最後に抗生物質を打って、治療終了。

症状によっては、数日の投与と、脱脂綿の詰め替えを行う予定だ。

敗戦

「安田さん、最近元気ないね。…ボーッとして。」

 朝の往診準備をしていたら、同僚のT獣医師にそう言われた。

「…あ、うん。」

「敗戦ショック?」

「…うん・・・やっぱわかる?」

息子たちのS学園高校野球部は、今年の夏の大会で支部予選を突破できず敗退してしまった。

昨年は甲子園まであと1勝のところまで行ったのに、今年は甲子園どころか、北・北海道大会の旭川スタルヒン球場さえも行くことができなかった。

甲子園に行けそうなチームだ、という期待が大きく、生徒も指導者も、そして後援会も相当気合を入れていたのだが・・・

いろいろ原因はあるはずで、一口ではいえないけれど

気合が入りすぎて、肝心な本試合の前くらいから、チームに「疲れ」が見えていたことは、事実だった・・・

そんなことが、試合が終わってからずーっと頭の中をぐるぐると駆け巡り、仕事中も抜けきれない・・・

「早く元気出さないと。車の運転も気をつけないとだダメですよ。」

「・・・うん。」

bf9cbfb2.jpg「これ。昨日、往診先でもらったドリンク。」

「・・・」

「往診前に飲んで、シャキッとしなきゃ。」

「あ、ありがとう(笑)。」

同僚のT君は優しかった。



うにごはん

うに2今までにいろいろな魚介類を

多くの方からい貰ってきたが

「ウニ」をいただいたのは

初めてのことだった。

発泡スチロールの箱を開けると

生きたムラサキウニがぎっしり・・・

よく見ると、鋭利な棘が

ウニウニと動いている。

私は、こんなウニを手に取るのは、全く初めてのことだ。
うに1
包丁で二つに割ると

磯の香りがあふれ出した。

生殖巣という

おなじみの黄色い部分を

スプーンで取り出して

ボウルへ入れていったら

大きなボウルで半分にもなった。

わさび醤油を付けて

何度も口へ運ぶ。
うに3 
うーん・・・うまいなー♪

暖かいご飯に乗せて

きざみ海苔をふりかけて

ウ二丼にした。

写真は、ウニ丼をかき混ぜて

ウニご飯になったもの。

これを箸でたっぷりとすくって口へ。

うーん・・・うまいなー♪

私は今まで、ウニと言うと
うに4
どこか薬臭くて

たくさん食べられなかったのだが

今回のウニはまったく新鮮だった。

さらに残ったウニを

水と味噌と玉子とを混ぜて、あたためると

ウニ味噌が出来た。

これに長ネギののみじん切りを加えて

日本酒を飲みながら、少しづつ食べるのが、またウマイ♪

いやー、ウニ三昧の一日でした。


ウニは漢字で、「海胆」あるいは「雲丹」などと書く。

歳時記によれば、春の季語らしい。

旬はちょっとすぎてしまったようだが

とても新鮮な味わいを体験をさせていただいた。感謝。


 雲丹割くやおろかな日々の続きをり  角川源義

牛の呼吸数

酪農情報誌などでは最近、暑熱対策(ヒートストレス対策)の特集が目白押しだ。

その中で、まず最初のポイントにあげられるのが牛の呼吸数である。

先日読んだ某酪農情報誌には

 「・・・正常値である50〜60回/分よりも多ければすでににヒートストレスを受けている・・・」

また、別の某団体の情報誌には

 「通常の呼吸数は50〜60/分程度のものですが、暑熱時には80回/分以上になり・・・」

という記述があった。

私は、これらを読んで

 「え?!」

と思った。

通常の牛の呼吸数はそんなに多かっただろうか?

で、調べてみると

名著で名高い

『牛の臨床検査診断(Clinical Examination of Cattle)』

G.Rosenberger 編 其田三夫 河田啓一郎 訳 P82

いわゆる「ローゼンベルガー」の記述には

 「正常な呼吸数は、成牛では15〜35/分、子牛では20〜50/分である・・・」

とあった。

ずいぶん違っているではないか。???。

そんな疑問をもって、ここ1ヶ月ばかり、往診先の牛の呼吸数を気にして見るようにした。

6月中旬は気温が低く雨がちだった。

健康な牛たちの呼吸は、おおかた2秒に1回程度。すなわち約30回/分だった。

6月下旬は急に晴天が続き暑くなった。

健康な牛たちの呼吸数を数えてみると、1秒に1回、すなわち約60回/分という牛も少なくなかった。

特に運動もしていないのに、黙って牛舎に居るだけなのに

牛の呼吸数というのは、環境の変化だけで、あっさりと2倍以上になってしまうようだ。

「ローゼンベルガー」の記述の続きを読んでみると

 「・・・呼吸数は、個体の変化(運動と興奮の影響)と環境の変化(特に気温)に影響を受けやすく、夏または風通しの悪い牛舎、あるいは若牛や妊娠末期の牛では、冬や戸外の場合、あるいは老齢雄牛または非妊娠雌牛に比べると、呼吸数はかなり多い。」

とあった。

なるほど・・・

ならば、初めに挙げた二つの雑誌の、通常50〜60回/分、という数字は

牛の正常呼吸数の「上限」として理解しておくのが良いかもしれない。

それと

地域の気候の差というものがある。

縦に長い日本列島、北海道と本州や四国・九州では、牛の通常の呼吸数には大きな違いがあることが想像される。

我々北海道の獣医師にとっては、疑問に思う呼吸数も

南国の獣医師にとっては、全く正常な呼吸数と思うかもしれない。

あなたの周りの牛の呼吸数・・・

実際、どれくらいですか?

 

 

 

直検用手袋

我々牛馬の臨床現場の獣医師にとって

直腸検査用の手袋は必需品中の必需品である。

丈夫で、薄くて、安くて・・・

この条件を満たすものが何種類かあったのだが

ここ10年くらい、それほど大きなモデルチェンジもなく現在に至っていた。

ところが、先日から我が診療所の棚に

今までとはかなり異なるタイプの直検手袋が登場した。

直手1写真左は

今まで使っていたタイプ。

右が、新登場の直検手袋。

「SENSITIVE GLOVES」

とある。

「感度良好直手也」 ってか?!。

made in France

とある。

N澤組さんが輸入元。

直手2どことなく、ファッショナブルな直手だ。

腕の部分が細く

全体が長い。

写真ではわからないが

肩の部分が斜めにカットされていて

手袋が脱げないように支えやすくもなっている。

材質も今までのより、滑らかな感じだ。

「なんか、コンドームみたいですね・・・(笑)」

後輩獣医師のY君の感想である。

発想が若いなー(笑)。

   *     *     *

Фさんの繁殖検診の時、私もこの新手袋を使ってみた。

細くてフィット感が良い。

「先生、ピンク色の手袋なんですかー、珍しいワー」

Фさんの奥さん、さっそく反応。

「あーこれね・・・初めて使ってみるんだけどね・・・」

「なんか、可愛らしいワー」

「・・・そーかな?。・・・。」

奥さんと二人だけの繁殖検診だったし

(・・・コンドームみたいでしょ?)

とは、さすがに言えなかった。

腟脱

腟脱1子宮脱はほぼ100%分娩時に発生するのに対し

腟脱は時期を問わずに起こる。

その遠い原因は、結局分娩時に遡るのかもしれないが

腟や子宮を支持する靱帯や筋肉の「緩み」が

腹圧に耐えられなくなった時に腟が脱出してしまうのだろう。

この症例は、分娩後約1ヶ月。

「じつは、乾乳にする前から腟脱だったのさ。」
腟脱2
$さんによると

「乾乳中は陰部を縫ってもらっといたの。お産が始まったら、外して、普通に産んだよ。・・・その後腟が出てくるかと思ったら、なんともなくてさ。いいかなーって思ってたんだ。」

ところが数日前から、また腟が脱出するようになってしまったのだという。

「出てるとやっぱり、調子悪そうにしてるんだよな。」

腟脱は肛門直下なので、汚染されやすい。

腟脱3脱出部を洗浄して、$さんに押さえてもらって

陰部の縫合を開始する。

「獣医さんによって、縫い方とか、道具とか、色々だよね(笑)。」

乾乳時は、絹糸とビニール管でおさえる縫い方だったらしい。

私は、この20年間、写真のように包帯を糸代わりにし、ビューナー針で縫い上げる方法を採用している。

子宮脱の整復後と全く同じ方法である。

腟脱4「腟の内壁が切れて、糞で汚れてたし、抗生物質打っておくからね。」

「うん。」

「このままにして、搾れるでしょ。」

「うん。」

「種付けは・・・もうしないほうが・・・」

「え?何いってんの。するよー。」

「ほ、ほんとに?付けづらいし、管理も大変だと思うんだけど・・・」

「大丈夫だって。発情来たらさ、入り口に適当に精液ぶちまけとけばいいでしょ。」

「・・・ま、まぁ・・・それでいいっちゃいいんだけど(汗)」

なかなか大胆な$さん。

こうなったら

腟脱の牛の長命連産記録に

挑戦してもらうか・・・

馬の妊娠鑑定・技術と需要

馬の繁殖季節も、最終段階に近づきつつある。

重輓馬の繁殖農家で、交配を6月いっぱいで締めてしまう所は少ないけれども

6月も後半となると、妊娠鑑定にも気合が入ってくるものだ。

超音波1今年から使い始めた超音波診断装置。

軽量で肩にぶら下げながら、妊娠鑑定ができる。

バッテリー式だから、どこでもOK。

去年までは

重たい本体と、端子と、プリンターと、すべて箱に入れて運び

現場でそれらをコードで接続して、コードリールで電源をとってもらい

ようやく撮影して、プリントアウトし

という作業を、毎回繰り返していた。

機会が重たいので、車にいちいち積むのに腰が痛くなったものだ。

10年以上、毎年その繰り返しだった。

この機械になったら、その苦労が消えてしまった。

超音波2超音波で妊娠鑑定する事が

こんなに楽になったとは!

ホント嘘みたいに楽なのだ。

その理由の一つに

牛の繁殖検診での

超音波装置の普及があるだろう。

重輓馬の診療でいくら使っていても

使う人口が少ないので、なかなか進化した機械が現れなかったのに

牛で使うようになったら、あっという間に良いものが出てきた。

需要「増」・・・なんだね(笑)

でもまた、新たな悩みがじわりと来つつある。

せっかく、手軽に超音波診断ができるるようになったのに

肝心の、繁殖牝馬の数が減る一方。

馬の妊娠鑑定そのものの

需要「減」・・・歯止めは掛かるのだろうか(泣)

デントコーン畑

05db6bbe.jpg「天気悪いねー」

「晴れないねぇー」

これが日々の往診先での決まり文句になって

もう、3週間以上たってしまった。

「牧草刈りたくても刈れないねぇ・・・」

09bd5b3f.jpg「デントコーンなんて、黄色くなってきたよ・・・」

牛の飼料作物で、作付けの多いデントコーン。

牧草の収穫のタイミングも心配だが

ここまで雨が続くと、デントコーンの成長も心配になってくる。

77a0d6af.jpg三枚の写真は、すべてデントコーン畑。

すべて同じ日に撮った、町内の別の畑。

一枚目は、ごく一般的なデントコーン畑。

二枚目は、雑草だらけ、だいじょうぶかな?!。

三枚目は「マルチ」という覆いをかぶせて、温室効果を高めた手厚い畑。

私の以前回ったM町では、内陸性の気候だったので

デントコーンにマルチをかける風景はほとんど見当たらなかったのだが

今回っているT町は、海に近く冷涼なので、マルチをかけた畑をよく見かける。

「ここ数年は天気が良くてね、マルチかけなくても良いデントコーンが穫れるんだよ・・・」

という声もあったが、はたして、今年はどうだろう。

これから暑い日が続き、作物は一気に成長して、遅れを挽回するのか?

それともずっとぐずぐずしたままで夏が終わってしまうのか?

不作の年ほど、畑の管理の良し悪しの差が出る、というけれど・・・

 

 


 


ケトージス

分娩後の泌乳量の増加に伴い

乳牛のエネルギー要求量はぐんぐん上がってくる。

ところが、その要求を満たすだけの採食や消化ができないと

牛の体は、自分の体内の脂肪を利用してでも、泌乳量を維持しようとする。

まさに身を削ってでも、乳を出そうとする。

乳牛の悲しき性なのか?!

牛体内の脂肪は、血液中に出て

遊離脂肪酸となって漂い、肝臓へ集まる。

肝臓に集まった脂肪酸は分解され、エネルギーに変わり利用されるが

この分解過程で発生する副産物が、ケトン体という物質である。

二日酔いで残ったアルコールを分解した時に出る副産物の、アセトアルデヒドに良く似た物質である。

このケトン体が、体中に充ちあふれている状態が『ケトージス』である。

吐く息に混ざって、ツーンと臭い。

牛は食欲がなくなり、ボーっとしてくる。

私の経験的に、体温は39.0℃ジャストのことが多い気がする。

分娩後1ヶ月たった頃が一番なりやすいようだ。

ケトージス時にケトン体は、中枢神経を侵し

歯ぎしり、流涎、旋回、開口

などの神経症状を引き起こす。

写真は、神経型ケトージスの牛を保定したところ。

くちゃくちゃ、バタバタと、うるさく落ち着きがない。

神経型が出るような牛群は

他に何頭もケトージスの牛が居るといっていいだろう。

ケトペーパーケトージスの診断は、とても簡単だ。

「サンケトペーパー」という試験紙に

乳汁を垂らして、乳中にケトン体があれば

紫色に変色する。

楽になったよなぁ・・・

昔は乳汁ではなく尿検査だったので

牛の導尿をよくやったものだが

このサンケトペーパーの出現で、導尿の機会は激減した。

画期的な試験紙だったんだなぁ・・・

治療は、ブドウ糖の注射・点滴、副腎皮質ホルモンの注射、プロピレングリコールなどの糖源物質の経口投与、で良くなることが多い。

治療法のほうは昔からあまり変っていないかもしれないね・・・

タガログ語

今日はΠさんの牛の繁殖健診だった。

Πさんの奥さんは、フィリピン人。

結婚して10年以上になるというから、もう立派な酪農家の母さんである。

日本語ももちろんペラペラだが、たまに、ご愛嬌で間違えたりする。

「この牛は妊鑑?」

「そう。授精は4月イツカ・・・あ、間違えた、4月ツイタチですね。」

「・・・日本語の数字難しい?」

「難しいですねー。4日(ヨッカ)、と8日(ヨーカ)、も発音が紛らわしいのね。」

「そーだね。数字で普通はイチ・ニ・サンなのに、日にちになると、ツイタチ・フツカ・ミッカ・・・」

「なんでツイタチっていうのか不思議ね・・・10日(トウカ)や20日(ハツカ)・・・っていうのも。」

「30日のことをミソカっていうのは知ってた?」

「知らないー」

「古い言い方だからもう使わなくなったけど、でも12月31日はオオミソカっていうのは知ってた?」

「知らないー」

「晦日(ミソカ)の中で、一年の一番最後だから大晦日って言うんだけど、大晦日だけは今でも良く使うよ。」

「そーなんだー」

「ひーふーみー・・・から来てるのかな。でも、ツイタチというのは確かになんでそー言うんだろうね。」

「英語はもっと簡単で分かりやすいですよー」

「うん、そーだね。・・・ちなみに、タガログ語で1・2・3てどういうの?」

「・・・イサ・・・ダラワ・・・タッロ・・・(笑)」

「うーん、ぜんぜんわからん(笑)」

こんな事を喋りながらの繁殖健診は、とても楽しかった。

時間はかかったけど。

仕事が終わったところで、もう一度聞いてみた。

「さっきのタガログ語の1・2・3、ちょっと紙に書いて教えてくれる?」

「・・・いいですよー(笑)、ぜひ、憶えてくださいねー」

Πさんの奥さんはニコニコして教えてくれた。

(暇な奴だなまったく・・・)

と、思われたかもね(笑)

 

     1   イサ   isa

     2   ダラワ   dalawa

     3   タッロ   tatlo

     4   アパ   apat

     5   リマ   lima

     6   アニム   anim

     7   ピト   pito

     8   ワロ   walo

     9   スィヤム   siyam

  10   サンポ   sampo

 

いつか、これを使う機会が来たら・・・

きっと楽しいだろうナ・・・

 

蕨(わらび)

蕨(わらび)は、日本の代表的な山菜だ。

十勝地方では、6月初旬〜中旬にかけてがシーズンである。

5月初旬のギョウジャニンニク(アイヌネギ)から始まって、6月の蕨で終わるという感覚が私にはある。

ところが、この蕨は歳時記によると、「春」なのである。

わらび1歳時記では春は2月〜4月。

十勝地方の蕨は、それから2ヶ月も遅いのだ。

6月は、暦の上ではとっくに「夏」である。

季語というのは主に京都の季節感を基準としているので

北海道に住んでいると、いろいろな季語で大きなズレを感じる。

まぁそれも楽しんでしまえばよいのだが、全国俳句大会などでは

入選に不利である事は否めないですね(笑)。

わらび2先日、馬屋のΦさんの奥さんが蕨をどっさり抱えて帰って来た。

「先生も持っていきな。」

「ありがとう・・・でも今日は当直なんで、家に持って帰れないんですけど。冷蔵庫に入れとけばいいのかな?」

「あー・・・それはだめだ。一晩置いちゃうと、硬くなるんだ。すぐ茹でておいたほうがうまいんだよ・・・。よし、わかった。今日茹でておくから、明日取りに来な。」

「それはどうも!」

そうして食べるばかりにしてくれたやつをもらってきて

切って、鰹節をかけて、醤油をかけて、いただいた。

シャキシャキ感と、軽い粘りと、ほろ苦さが、口の中いっぱいに広がった。

 

 石激垂水之上乃左和良妣乃毛要出春爾成來鴨
 いわばしるたるみのうえのさわらびのもえいづるはるになりにけるかも
                                    万葉集


って、これ、早春の歌なんだけど・・・

ウシノオトシゴ

昨日の昼前の追加往診。

稟告は「放牧地で産前起立不能」。

こういうときは普通、乳熱をはじめ子宮捻転や脱臼などが思い浮かび

そういう状況の中で、難産介助をしなければならず、厄介なことが多い。

到着すると、牛舎裏手の広大な牧場に、親牛が1頭だけぽつんと座っていた。

「こいつだけ離れてるから、どうしたかと思ったら・・・予定日まではまだ5日以上あるんだけど、そろそろかな・・・」

△さんの息子の話を聞きながら、直検手袋をはいて

膣の中に手を入れてみた。

胎児には触れず、子宮頚管に触れた。

子宮捻転はない。

開きかかったような頚管から、尿水が漏れて来るのみ。

「・・・ん?」

「・・・。」

胎児を確認できないので、膣から手を抜いて、その手を直腸へ挿入し、子宮の外側から胎児を探してみた。

「・・・ん?・・・これは、いないなぁ・・・」

「え?・・・いない?・・・ほんとに?」

信じられないという顔の△さん親子。

「これはもう出ちゃった後だね。」

「牧場のどこかに落としてきたってか・・・」

「うん。それもね、これは今日や昨日じゃないね。」

子宮筋は既に収縮を始めていた。

後産(排出胎盤)のかけらは一切なく、開きかかっていたように見えた頚管は

実は閉じかかっている頚管だとわかった。

△さんの親父さんは、おもむろに牧場の中へ胎児を探しに歩き出した。

息子さんと私で親牛の治療をし、終わった頃、親父さんが帰ってきた。

「いないな。」

「死産にしても胎児を確認できないと、保険も下りないから、困ったねぇ。」

そんなことを言っていたら、遠くから牧場の牛たちがぞろぞろと戻ってきた。

「あれっ、牛がみんな何か見てるぞ。」

と、息子。

帰ってくる牛たちを良く見ると、皆途中で止まって、牧場の囲いの外を気にしながら帰ってくる。

我々は、その方向へ直行した。

fb07e509.jpgそこにはなんと、子牛が一匹うずくまっていた。

「・・・生きてるな。」

「・・・雌だ。」

「・・・すっかり乾いてるね。」

3人顔を見合わせて、安堵した。

診察してみると、体温も正常だった。

ただ、便がまだ胎便の最後のほうが残っているようだった。

初乳をしっかり飲ませておく事だけ念を押して

私は帰路についた。

牛の下半身

牛の「下半身」という言い方は、普通言わない。

牛は「後半身」という言い方をするのかな。

あるいは「後躯」というのが正しいのかな。

でもなんだか馴染みがない感じで、「下半身」というのが私にはシックリ来てしまう。

ともあれ

牛の下半身、いや後半身の故障は非常に多い。

牛床管理等の施設の問題と慢性的な運動不足が、その背景にあることは間違いないだろう。

股関節脱臼3股関節脱臼2股関節脱臼1

 

 

 

 

 

 

下半身、いや後半身の故障で最も多く深刻なのは、股関節脱臼だろう。

起立不能となって廃用処分になる牛は日本全国、年間でどれだけいるのだろう。

症例の写真を収集しようと思えば、いくらでも集まる。

起立不能状態から立ち直っても

下半身、いや後半身の異常にはまだまだたくさん遭遇する。

球節のナックルや関節炎なども頻繁に発生している。

腓骨神経麻痺腓腹筋断裂飛節周囲炎

 

 

 

 

 

 

左は腓骨神経麻痺、真中は腓腹筋断裂、右は関節周囲炎。

これらの症例写真も、集めようと思えばいくらでも集まる。

それだけ牛の後肢には負担がかかっていると言ってもいいだろう。

右脛骨骨折左の写真は

右脛骨(下腿骨)骨折!

牛ではここまで見事に折れるのは珍しいが

こういう個体が出る伏線にはきっと

ナックル、関節炎、股関節脱臼等の発生が

何例もあったに違いないのだ。

こういう、いわゆるダウナー症候群(downer cow syndrome)は

酪農を取り巻く情勢のなかで、今後

増える事はあっても、減る事はなさそうである。

どうにかして歯止めをかけたい、と思っているのだが・・・

 

牛獣医師の下半身

オーバーズボン いろいろ試して履いているのだが

ここ一年近く、続いている診療スタイルの

いちばん外側に長靴と一緒に履くのが

このオーバーズボン

本当はオーバーズボンではなくて、雨合羽の下履きだ。

1枚1500円程度。

これより安いやつは、材質が悪く、長持ちしない。

ちょっとでも破けると、そこから水や汚物がしみてきて使い物にならない。

基本的に、下半身は完全防水のスタイルだ。

どんなに僅かでも、糞尿が付着した獣医師の下半身と長靴は

1軒1軒、終るごとに、水できれいに洗い流す事が大切だ。

牛の診療は、特に下半身が汚れやすい。

フリーストールでの仕事が多くなると、なおさらだ。

また、子牛や起立不能牛や蹄病の治療等の時は

私は、ひざまづいて仕事をするように心がけている。

中腰が辛いんでね(笑)。

結果、下半身は、いくら汚れても良いようなスタイルになって来たというわけだ。

ただ・・・

この、下半身完全防水スタイル

弱点は

蒸れること(湿)。

これからの季節は特にそうなのだ。

少し高くてもいいから、「丈夫」で「完全防水」で、なおかつ「蒸れない」

というオーバーズボン、どこかにないでしょうか?

 

 

 

前哨戦

883faa4f.jpg今日は休みをいただいて、これから札幌円山球場へ向かう♪

「春」の高校野球、全道大会の応援である。

我が息子の十勝代表・白樺学園は、おととい札幌地区の強豪・北海学園札幌に勝ち

今日はベスト4をかけて、空知地区代表・駒大岩見沢と対戦する。

白樺学園は、去年の「夏」の北・北海道大会、決勝戦で

駒大岩見沢に勝てず、あと一歩のところで甲子園出場ができなかった。

甲子園につながる今年の「夏」の北大会を占う意味でも

今日のこの「春」の対戦には、是非とも勝って

宿敵・駒岩にプレッシャーをかけておきたい所だろう。

幸い、札幌の天気は良さそうだ。

子供達のハツラツとしたプレーを応援して

元気をもらって帰って来ようと思う♪

 

 

北海道B&W(ブラック&ホワイト)ショー

5月末に開催される、北海道B&W(ブラック&ホワイト)ショーは

毎年、安平町早来で行なわれているのだが

今年は早来会場の改修工事のため、十勝の音更町で開催される事になった。

このいわゆる「春の全道ブラック&ホワイト」を十勝でやるのは、初めてのことであるらしい。

主催は北海道ホルスタイン改良協議会。

すなわち各地域の改良同志会の上部団体だ。

ちなみに・・・

いわゆる「秋の家畜総合全道共進会」は何度か十勝でも行なわれていて

毎年暑い最中にやっているやつである。

こちらの主催は北海道ホルスタイン農業協同組合。

何だかややこしいが

要は、毎年春と秋にホルスタインの全道レベルの共進会が年2回ペースで開催されている、というわけである。

競馬の天皇賞が春と秋に年2回やるのと似てるかな?!

ともあれ全道共進会だから規模もそこそこ大きいのだ。

今日(5/30)〜明日(5/31)までの2日間にわたる審査がある。

しかし牛たちはその2日前から随時搬入され、出品準備などをするので

実際のところは、一昨日(5/28)からスタートしているのである。

私はその前半(5/28〜5/29)の当番獣医師を任されていた。

B&Wショーが始まるまでの準備の2日間

私は会場に缶詰だった。

しかし、気温が20度とどくかどうかという涼しさだったので

牛たちも体調を崩すことなく、おおむね元気だった。

したがって私は・・・3食昼寝つきの孤独で優雅な生活だった(笑)。

全道共進会というと、暑さと換気不良で牛が熱発し、気道感染が多いというイメージがあったのだが

今回は、熱発牛は一頭も出なかった。

ただし、前半の今朝までの話だけどね。

審査が始まる今日と明日の当番を、同僚のO獣医師にバトンタッチし、私は先ほど任を解かれた。

共進会の当番獣医師は、ヒマであるほど良い。

O君もヒマだといいねー(笑)。

枇杷

82b06d09.jpg往診先で山菜などをよく頂く季節になっが

昨日は、今だかつて貰ったことの無いものを頂いた。

本州から送って来たのだという。

歳時記によれば『枇杷(びわ)』は夏の季語で

5〜7月に実をつける。

白い小さな花が咲くのは11月だという。

これじゃあ北海道では、枇杷は育たないね。

* * *

かつて枇杷の葉のエキスが酪農業界で流行ったことがあった。

『乳房炎に効く』と。

北海道に無い植物のエキスを、北海道の酪農家が血眼になって探し求めている姿は、なんかヘンだった。

乳房炎の研究や防除対策が進んでいる今では

もはや笑い話にすぎないけどね(笑)。

托卵鳥

昨日の往診中に、郭公(カッコウ)の声を聞いた。

この辺りでは毎年、5月の下旬に渡って来るようだ。

あのなんともトボケた声を聞くと、もう夏か・・・、という気分になる。

カッコウは自分では巣を作らずに、モズやホオジロなどの巣に卵を産み

その他鳥の親に子供を育ててもらうという

いわゆる『托卵』で繁殖する事は、よく知られている。

トボケた声に加えて、ちゃっかりした行動、なかなかなヤツである。

受精卵移植に、どこかしら似ているような気もする。

供卵鳥?(笑)

    *   *   *

『たくらんけ』という言葉がある。

酒に酔っ払ってベロベロになりつつ、なおも喋り続けているような状態を言うようだ。

「昨日〇〇さんが、飲んでたくらんけになって・・・」

などという。

私の妻が良く使う言葉なのだが、これは北海道弁らしい。

北海道出身者以外でこの『たくらんけ』を使う人を私は知らない。

なかなか面白い言葉だ。

まさか『托卵気』とは書かないとは思うけど(笑)

    *   *   *

161dd75f.jpg往診先の馬屋さんの

婆ちゃんからいただいた

大きな沢庵。

去年も確か、もらって食べたような気がする。

毎年毎年、漬けているのだろう

形といい、色といい、じつにいい感じ。

まさに絶品。

味も絶品であることは、言うまでもない。

  郭公や牧場終りの登山口

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