昨日の昼前の追加往診。

稟告は「放牧地で産前起立不能」。

こういうときは普通、乳熱をはじめ子宮捻転や脱臼などが思い浮かび

そういう状況の中で、難産介助をしなければならず、厄介なことが多い。

到着すると、牛舎裏手の広大な牧場に、親牛が1頭だけぽつんと座っていた。

「こいつだけ離れてるから、どうしたかと思ったら・・・予定日まではまだ5日以上あるんだけど、そろそろかな・・・」

△さんの息子の話を聞きながら、直検手袋をはいて

膣の中に手を入れてみた。

胎児には触れず、子宮頚管に触れた。

子宮捻転はない。

開きかかったような頚管から、尿水が漏れて来るのみ。

「・・・ん?」

「・・・。」

胎児を確認できないので、膣から手を抜いて、その手を直腸へ挿入し、子宮の外側から胎児を探してみた。

「・・・ん?・・・これは、いないなぁ・・・」

「え?・・・いない?・・・ほんとに?」

信じられないという顔の△さん親子。

「これはもう出ちゃった後だね。」

「牧場のどこかに落としてきたってか・・・」

「うん。それもね、これは今日や昨日じゃないね。」

子宮筋は既に収縮を始めていた。

後産(排出胎盤)のかけらは一切なく、開きかかっていたように見えた頚管は

実は閉じかかっている頚管だとわかった。

△さんの親父さんは、おもむろに牧場の中へ胎児を探しに歩き出した。

息子さんと私で親牛の治療をし、終わった頃、親父さんが帰ってきた。

「いないな。」

「死産にしても胎児を確認できないと、保険も下りないから、困ったねぇ。」

そんなことを言っていたら、遠くから牧場の牛たちがぞろぞろと戻ってきた。

「あれっ、牛がみんな何か見てるぞ。」

と、息子。

帰ってくる牛たちを良く見ると、皆途中で止まって、牧場の囲いの外を気にしながら帰ってくる。

我々は、その方向へ直行した。

fb07e509.jpgそこにはなんと、子牛が一匹うずくまっていた。

「・・・生きてるな。」

「・・・雌だ。」

「・・・すっかり乾いてるね。」

3人顔を見合わせて、安堵した。

診察してみると、体温も正常だった。

ただ、便がまだ胎便の最後のほうが残っているようだった。

初乳をしっかり飲ませておく事だけ念を押して

私は帰路についた。