タイガ1「平素ご無沙汰しております。過日はユニークな句集をお送りいただき有難うございました・・・この度友人の娘さんが、障害をもつアムールトラの命の記録として『タイガとココア』を出版されました・・・」

こんな書き出しの手紙を添えて、一冊の本が届いた。

送ってくれたのは、私が小学生時代の幼友達のお母さんのEさんだった。

歳は私の母とそう変わらないだろうから、80歳にはなられているだろう。


「ふと峰(豆作の本名)さんの事が頭にうかび、お宅のお子さまは大きくなられているのかしらなどと思いつつ、よろこんでいただけるかな?などと思い、お送りさせていただきます。」

思いがけない人からの、嬉しい頂き物だった。

私の句集が、こんな立派な本に化けたのも嬉しいが

それよりも、幼い頃お世話になったおばさんが、私のことを思い出してくれた事のほうがずっと嬉しかった。

嬉しいやら照れくさいやら、なのであった。

    *     *     *

本をめくってみると、これがまた素晴らしい飼育記録である。タイガ2

生まれつき後肢に障害を持つ

双子のアムールトラの♂と♀。

テレビでも取り上げられたりしていたので、ご存知の方も多いだろうと思う。

写真が豊富で、パラパラ見ているだけでも、十分楽しめる。
タイガ3
大動物といっても、草食獣の牛や馬と、肉食獣のアムールトラでは、まったく違う。

私はトラについては素人同然である。

障害の無い健常なトラを育てるのさえ、大変なことだろうと思うのに

釧路市動物園のスタッフは、障害あるトラの双子を、見事に育て上げている。

私は、釧路市動物園は2度行ったことがある。

地方都市の小さな動物園であり、旭山動物園のような入場者は見込めないだろう。

障害のあるトラを育てることを決断した山口園長。

飼育の後ろ盾を快く引き受けた釧路市長。

この辺の苦労話も見逃せない所だ。

昨年、♂のタイガのほうは、軟骨形勢不全症が原因と見られる窒息で死亡してしまったらしいが

♀のココアのほうは、今も元気でいるらしい。

タイガの死にあたって、飼育係の大場さんの言葉が印象的だった。

「知らず知らずのうちに情がうつっていたのかな・・・。個人の感情は入れずに、飼育屋としてシビアに冷静にいこうとずっと思ってきたんだけど、そうでなかったと初めて気づいた。いままでは技術的に上手に飼って、長生きさせてあげようと思ってきたけど、そういうのともちがう。あいつらはおれにとって本当に大事な存在だったんだなと・・・。たった1年3ヶ月だけど、あの子らはすごい記憶を与えてくれた。タイガには『ありがとう』としか言えないです。ココアはこのまま元気でいてくれればいい。それだけですよ」

動物飼育のプロの、厳しさと、優しさ、を感じた。