重輓馬の生産現場において
経過の長くない、突然襲ってくる蹄葉炎症状の場合
すなわち急性の蹄葉炎のタイプには
経験上、大きく二つに分けられているのではないかと思う。
1つ目は、「食餌性蹄葉炎」。
これは育成中の若馬や、肥育馬などによく見られるタイプ。
その多くが配合飼料の過剰給与、劣悪な粗飼料の給与などによって
腸内細菌の環境が悪化し
細菌の死滅や異常繁殖により、エンドトキシンが血中に放出され
それが起炎物質となって蹄葉炎を発症する、と考えられているものだ。
2つ目は、「産褥性蹄葉炎」。
これは分娩直後の繁殖牝馬の子宮内環境が
難産や胎盤停滞、悪露停滞などによって悪化し
子宮内の細菌の死滅や異常繁殖により、エンドトキシンが血中に放出され
それが起炎物質となって蹄葉炎を発症する、と考えられているものだ。
どちらも
蹄の激しい痛み、歩行困難、歩行不能、起立不能、などの症状が出る。
先日診療した繁殖牝馬は
分娩(死産)の翌日から歩けなくなりその翌日には起立困難になった。
写真はようやく自力で簡単に起立できるようになった4診目。
立って餌を食い出したのだが、前肢の蹄が痛いのだろう。
体重を大きく後ろへずらし、前肢の負担をなるべく少なくなるように立っている。
初診をした獣医師は、当然「産褥性蹄葉炎」を疑って
補液とともに、子宮洗浄を実施した。
しかし、子宮には胎盤停滞も悪露停滞もなく、洗浄液は特に汚れておらず、子宮の収縮も良好だったという。
すなわち、この馬の蹄葉炎の原因が子宮内環境の悪化によるものではない、という事になる。
ならばこの蹄葉炎の原因は、腸内の細菌環境の悪化によるものではないかと推察された。
こういうことは、私もしばしば経験する。
産後、急性の蹄葉炎になった馬の子宮洗浄を実施して、子宮内環境が悪化していない例はかなりの数になる。
以前から私は思っている事がある。
産後に発症する蹄葉炎のうち、子宮内環境の悪化によるものはそれほど多くないのではないか?
「産褥性蹄葉炎」という病名をつけられた馬のほとんどは、じつは「食餌性蹄葉炎」なのではないのか?
そして、そもそも「産褥性蹄葉炎」なるものの病態はあるのだろうか、本当は「食餌性蹄葉炎」だけではないのか?
分娩前の馬に与える粗飼料の質
すなわち、冬期に与える粗飼料の質が
あまりにもひどい、という実態が
私のそんな考えを、後押しするのである。
コメント一覧 (10)
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- 2012年05月08日 20:04
- 死産の翌日には起立困難になり、4診目ですから、分娩5日目くらいですよね。それで子宮内がきれいですか?
劣悪な粗飼料でも、かわりに濃厚飼料を多給することがなければ蹄葉炎にはつながらないように思いますが・・・・
蹄の管理やボディコンディションはどうですか?
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- 2012年05月08日 20:19
- 豆作先生こんばんわ!馬の事ではないのですが、餌について最近気にしてるんです。放射能の影響を受けて今年から自家乾燥を与えられなくなりました。おなかを壊したり、立てなくなったり、あたりまえの事なんでしょうが食べ物って大事なんですね。和食から洋食に変わったようなもんだから牛たちも大変だ・・。こないだ言われた通りよく観察してがんばります。
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- 2012年05月09日 04:59
- >みなぽんさん
>食餌性の蹄葉炎の方が、このような事の背景的に、問題になっているになっているのでは!?って事ですね。
そのとおりです。
>胎盤停滞・・・産褥熱・・・すべての馬が、は行を呈するということではない!?
そのとおりです。
>分娩前の運動不足、濃厚飼料の過給、粗飼料の不安定・・・等が、産後の蹄葉炎に関与しているのでは!?っとい事でしょうか?
私はそう考えています。
>背景には、餌と運動不足の関係が大きいのですね!?
大きいと思います。
乳牛での乾乳期の飼養管理が大切なのと全く同様に
馬での分娩前すなわち冬期の飼養管理が重要だと思います。
治療のポイントは、産後の血液濃縮(Htの急上昇)の緩和と、PHの補正、という目的で
リンゲルや重曹の輸液をしっかりすることだと思います。
食餌性蹄葉炎と治療法は同じです。
子宮洗浄も少なくとも一度は必要ですね。
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- 2012年05月09日 05:19
- >hig先生
子宮内が「きれい」というより「異常が見られない」と言った方が良いと思います。
「異常のない」子宮内は洗浄をしてみると、粘調で悪臭も出血もなく、還流液が数回で透明感を帯びて来ますが「異常な」子宮内だと滲出液や血液や悪臭で粘度も低く、何回還流してもきれいになりません。
劣悪な粗飼料は腸内細菌のバランスを崩し、カビ毒を含んでいたり、PHの緩衝作用なども低いので、通常量の濃厚飼料の給与でも蹄葉炎につながるのではないか、と考えています。
蹄の管理は軽種馬に比べれば、皆よいとはいえませんが、それほど悪くなくても「足に来る」馬はいます。育成馬の場合は蹄の管理は皆普通にやっていると思います。
ボディコンディションは、高いものが多いですね、濃厚飼料と粗飼料のバランスだと思います。
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- 2012年05月09日 05:26
- >うたこさん
乾草の良し悪しを知るには、飼料分析をしてもらうのが一番良いと思いますが
手っ取り早い方法として、牛や馬の「食いっぷり」である程度分ると思います。
いつまでも減らない草、しぶしぶ食べている草、と
眼の色を変えて、あっという間に平らげてしまう草、との違いがわかるはずです。
牛や馬が「喜ぶ」粗飼料をあたえることは何よりもまして重要なことですね。
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- 2012年05月09日 18:19
- 豆作先生
ありがとうございました。
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- 2012年05月09日 19:33
- 先生の記事を見てると馬も牛も
状態の悪い粗飼料を与えると
同じ症状を示すんですね。
蹄葉と言えば全体重が乗っかる
もっとも下にある組織。
人間で言うなら’血のめぐりが
悪くなった’でしょうか。
ただ人間の場合は動物と違って
旨いもん食い過ぎるとなりますよね。
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- 2012年05月10日 06:53
- >みなぽんさん
又コメント宜しくお願いします!
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- 2012年05月10日 06:56
- >モウエサさん
なるほど、痛風と蹄葉炎は
発生機序が異なるとは思いますが
ちょっと似ているかもしれませんね。
美味いものを食いすぎるとなるし
痛いのは足の先ですからね(笑)。
ただ、蹄葉炎のほうがずっと厄介な難病ですね。
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話題で、とても勉強になりました。
ありがとうございました。
もう少し、基本的な事をお聞きしていいですか?
子宮炎からくる産褥性の蹄葉炎よりも、
食餌性の蹄葉炎の方が、このような事の背景的に、問題になっているのでは!?って事ですね。
胎盤停滞・・・産褥熱・・・すべての馬が、は行を呈するといことではない!?
分娩前の運動不足、濃厚飼料の過給、
粗飼料の不安定・・・等が、産後の
蹄葉炎に関与しているのでは!?
っとい事でしょうか?
最近自分が診た馬は・・・畜主いわく、
分娩前から、足首が腫れてくる・・・
とのことでした。
そして、胎盤停滞後に、は行を呈しました。
・・・やはり、その背景には、餌と運動不足
の関係が大きいのですね!?
あと、治療のポイントも良かったら、
簡単に教えてください。
長々、書き込み、失礼致しました。
追伸・・・なかなか馬の事を教えてくれる方が
自分の周りにいないもので・・・
すいません。