今回の低気圧の通過によって

十勝地方には久しぶりに雨が降った。

「雨は楽でいいねぇ。」

「ホント、これが雪だったら大変なことになってたよなー。」

というのが、今日の往診中の会話になっていた。

往診中の何気ない会話は

仕事をスムーズに行うためには欠かせないものだ。

さて、雨の降る季節になったという喜びとともに

馬の発情鑑定の仕事も、ぼちぼちと入るようになってきた。

imageこの時期の馬の発情鑑定は

昨年受胎しなかった空胎馬が多い。

受胎せず分娩をせずに春を迎えた馬は

いつ頃から発情が始まるかというと

十勝地方ではだいたい3月の中旬頃からである。

だいたいお彼岸の頃、夜よりも昼が長くなる頃から

空胎馬に発情が来るようになる。

ここで非常に重要なことは、何度も言っているように 

imageシーズン最初の空胎馬の発情は

通常の発情よりも発情している期間が非常に長いことである。

通常の発情が4〜5日なのに比べて

この時期の発情は14〜15日続くことがザラなのである。

すなわち、いつまでも発情兆候がおさまらず

主席卵胞がなかなか排卵してくれないのだ。

ちまたの馬屋さん達は、これを「ダラぶけ」と称している。

学術用語では、これを「移行期の発情」と言う。

無発情期から発情期への移行期という意味である。

英語では、これを「Transitional Heat (トランジショナル ヒート)」と言う。

実際現場で、飼い主さんや種馬屋さんへ説明するとき

どの言葉を使うべきかは、獣医師の判断であるが

「ダラぶけ」という言葉を使わないと、スムーズな会話にならないのは当然のことである。

「移行期・・・」「トランジショナル・・・」などという言葉を口にしたとたん

飼い主さんや種馬屋さんから「はぁ?」という顔をされることになる。

しかし、学術会議や研究発表の場では

「移行期の発情」あるいは「Transitional Heat」という言葉を使うべきだろう。

こういう、現場と学問の場とのギャップに悩むのが

これまた臨床獣医師の仕事なのだと思う。

私は若い頃、こういうギヤップをなんとかしなければ成らないと、いろいろ力んでいたのだが

最近は、こういうギャップをそのまま認め、楽しむようになった。

臨床現場は、飼い主さんとのスムーズな会話が大切である。

言葉の壁は極力避けたほうが良いだろうと私は思っている。

現場は学術用語よりも慣習的な言葉が力を発揮するのである。

「ダラぶけ」もその一つ。

昔から馬を飼って苦労してきた人たちが

馬の状態を伝達するために使い始めた言葉なのだ。

「ダラぶけ」

じつに解りやすくて

いい言葉じゃないか。

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