「ボニーの後産が残ってぶら下がってるんだけど・・・」

そんな稟告を朝一番に受けて駆けつけた∂牧場。

「昨日の晩にお産したと思うんだけど、仔馬が見当たらないんだよね・・・」

「・・・いないんですか?」

「うん、多分キツネが持っていったんじゃないかと思うんだけど・・・」

「・・・ちょっと診せてくださいね。」

枠に入れて、その胎盤のぶら下がっているポニーの産道を触ってみたら

胎盤の中に、胎児の額(おでこ)だけが触れた。

「・・・これ、まだ産んでないですよ。」

「え。そうだったの・・・腹が小さくなったから産んだとばっかり思い込んでた・・・」

子宮の中は胎水が乏しく既に乾き気味だった。

しばらくそのままで失位の整復を試みたが、産道が狭くて小さく、うまく行かない。

「ちよっとバトンタッチしてくれる?・・・粘滑剤持って来るから・・・」

image私は同行したN獣医師と交代した。

「それに、俺の腕じゃちょっと太すぎてやりづらい・・・」

N獣医師は小柄な女性で

いつも出来るだけ、ポニーの診療の時には手伝ってもらうようにしている。

「・・どう?・・・足も頭も曲がっているけど直せそうかい。」

「今、足は一本直ったんですけど・・・頭が・・・。あの・・・プラニパート打ってみたらどうですか・・・」

「・・・分かった。いま持って来る。」

プラニパートとは、子宮弛緩効果のある注射薬である。

それを静脈に注射して、さらに粘滑剤を何度も投入。

N獣医師はミニチュアホースの産道に両手を入れて操作している。

「頭、なおりました・・・それと・・・もう一本の足も来ました・・・プラニパート効きましたね。」

「・・・よし。じゃあロープをかけて引っ張ろう。」

私と∂さんのは、狭い小屋の中で小さな足に繋いだロープを牽引した。

しかしこれがなかなかキツかった。

胎児は死亡して時間が経っているらしく、軽く腐敗臭がした。

ミニチュアホースといっても、小さいのは胎児だけではなく

親馬の産道もそれだけ狭く小さいわけである。

N獣医師が胎児の頭を繰り返し誘導して、遂に頭が陰部の外へ露出した。

あとはもう強く引っ張るだけである。

握力が落ち、息が切れ、ようやく胎児が娩出された。

image「いやー、けっこうデカいな。」

「・・・こんなのが入ってたとはなー。」

出された胎児の頭部は毛がすっぽりと抜けて

写真のように、地肌がむき出しの白い顔になっていた。

頭部の整復をしているうちにそこだけ毛が抜けたと思われる。

ミニチュアホースといえども

難産の難易度は全く変わらなかった。

大きな重種馬の難産との違いをあえて探すならば

私の腕では太すぎて、産道での整復操作が難しかったことぐらいか

と、思われた。

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