酪農の経営規模拡大の波に乗って、
繋ぎの古い牛舎からフリーストール牛舎へと、
一大転換をした酪農家がいる一方で、
繋ぎ方式のまま、酪農を続けて、
現在に経っている牧場ももちろん多くある。
繋ぎ牛舎は、フリーストールよりも
乳牛の自由意思は制限されるものの
強い個体を制御し、弱い個体の面倒を見るのには適していて
それぞれ個体の能力に合わせた、きめ細かな管理をすることが出来る。
繋ぎ牛舎の牧場では、朝と夕の2回の搾乳時までの間は
乳牛たちを、牛舎の外の放牧地やパドックに出して
空の下の、広い空間に開放することにより
乳牛たちに適度な運動をさせて
ストレスを発散させることができる。
そして、飼い主はその時の行動を日々観察することによって
発情や体調の変化をいち早く察知することができる。
そんな理由で、繋ぎ飼い方式のにこだわっている酪農家は多い。
しかし、そんな酪農家にも、経営規模拡大の波は
否応なしに打ち寄せてくる。
牛の個体管理を、繋ぎ方式で維持しつつ
繋ぎ牛舎の牛床を増やし、牛舎を伸ばすように増築する酪農家が
ひところ大変多かった。
そうやって、繋ぎ牛舎のままで
搾乳牛の頭数を増やしてきた酪農家たちが
そろって突き当たる問題があった。
搾乳牛を増やすということは
それに授精をした妊娠牛を増やすということであり
搾乳を終えて分娩を控えた乾乳牛が増えることになる。
乾乳牛が増えれば、乾乳牛の居場所も増やさねばならない。
その乾乳牛が皆、分娩をするから
分娩をする場所も増やさねばならない。
分娩する牛が増えれば、仔牛が増える。
仔牛が増えたら、哺乳施設を増やさなければならない。
哺乳が終わった仔牛たちは、育成牛となる。
育成牛の施設も増設しなければならない。
そしてそれぞれのステージの牛に対して
世話をする働き手、すなわち人員が必要になる。
牧場の働き手を、もっと増やさなければならない。
さらに、理想を言えば
牛たちが運動できる広い敷地も
その頭数が増えた分だけ増やさなければならない。
搾乳牛を増やすということは
牧場の全ての施設、全ての人員、全ての敷地面積
を増やさなければ、本当の経営規模拡大ではない。
繋ぎ牛舎の搾乳牛を増やすとは、そういうことであり
当然予測できることではあるが
繋ぎ牛舎を増設しはじめた時に
直ちに、その他の施設や人員や運動場までも増やす準備をするような
そんな用意周到な酪農家は、ほとんどいなかったのが実感である。
多くの酪農家は、まず搾乳牛を増やし
搾乳施設以外の施設や人員は増やさぬままに
だんだんと、色々なステージの牛たちが
それぞれの施設で満員の定員オーバーになって
それぞれのステージの牛が全て満杯で窮屈になり
いよいよどうにもならなくなって
そこで働く人たちの疲労も極限になり
そんな状態になって、ようやく
周囲の施設や人員や運動場をやむなく増やして対応してきた。
さらに牧場の敷地面積までも増頭数に合わせて広げるような牧場は、ほとんどなかった。
牧場で働く適正な人員の確保も
家族だけで頑張るか、従業員を雇うか、で悩むことになる。
今まで頑張ってきた祖父母は老い
自分も妻も老い始め
子供達は後を継ぎそうもない。
そんな状況の中で
これ以上の牛の増頭、増築、増員、は
経済的、肉体的にもう限界。
しかし、ただちに廃業を考える気も起こらない。
今までの繋ぎ牛舎のままで
従業員は雇わず、家族経営のままで
自分のこだわってきた酪農をやれるところまで
続けてゆくためには、どうするか。
これからは、自分たちの体は老いるばかり。
かつてのようなバリバリの体力はもうなく
日々老いてゆく。
そんなことを
ついに悟った酪農家が
繋ぎ牛舎の酪農で、苦渋の選択する
切り札的な、画期的な飼養管理方法が
ここに、ついに出現することになる。
経営規模拡大の波にのまれて、大変な思いをしつつ
しかも、後継者はいない、先行きは見えない
そんな、施設不足、人員不足の
繋ぎ牛舎の酪農家が、苦渋の選択をする
切り札的な、画期的な飼養管理方法が
そこに、ついに出現することになる。
それは、しかし
じつは・・・
乳牛たちにとっては
悪夢のような
天国から地獄へ変わってしまうような
辛く悲しい飼養管理方法でもある。
酪農関係者の皆さんならば
もうお分かりでしょう・・・
(この記事続く)
左の写真の道具を使う
「牛のニコイチ捻転去勢法」
の動画を撮りました
写真をクリックして
ご覧いただけます
コメント一覧 (10)
-
- 2015年09月24日 20:50
- TMRセンターですね 笑
-
- 2015年09月25日 05:20
- >姫じおんさん
コメントいただいて嬉しいです♪
ありがとうございます。私も55歳になりました。
牛が外でくつろいでいる姿を見ると癒されますね。
どうか、牛たちを長生きさせる方向
そして繁殖力を優先する方向で
経営を考えて行って欲しいと思います。
-
- 2015年09月25日 05:27
- >とある酪農家
なるほど、TMRセンターの餌ですか!
それが牛たちに合った餌ではないと
乳牛たちの寿命を縮めることになりますね。
その側面からの考えに思い至りませんでした。
給食センターの餌の設定オーバーは
確かに大きく影響していますね。
-
- 2015年09月25日 20:50
- 何度も私のブログで書いていますが、大型農家ほど底力がありません。
http://blog.goo.ne.jp/okai1179/e/82f30e9e4a828b4f93d90be0783e13d9
結局投資が増えるだけで、周辺産業が潤うばかりなのです。地域によって異なるでしょうが、少なくとも北海道の場合は自給飼料による搾乳が、乳牛も草も土地も健全になります。大型農家、高泌乳化は周辺産業にとって有難いのです。獣医も同じです。
十勝共済も、乙になるB−Aの技術料の6割以上は、開腹手術収入が占めているのです。
それと、必ず食糧問題は起きます。人間のです。人と競合する穀物を何時まで、家畜に供給し続けるのでしょうか?
http://blog.goo.ne.jp/okai1179/e/4d3b3978daeb93b5aa2196bdb282f743
それと現在、家畜福祉の乳牛版の作成に取り組んでいます。やはり多頭化が問題と思っています。飼養頭数の制限や、穀物給与の制限に取り組むべきと考えています。
私の見ている農家で、45頭で家族7人南オ藤生Uもなく暮らしています。平均乳量は7000キロ行きません。昨年45頭搾乳で、治療費は年間35万円でした。獣医さんは儲かりません。そろそろ、酪農家は自分の目線で営農するべきなのです。
-
- 2015年09月25日 21:00
- この45頭搾乳農家には、10産以上の牛が4頭います。11産目の牛を先日、乳熱で治療しました。初めての乳熱でしたが、一回の治療で立っています。今は元気に搾乳しています。
昨年親から経営を引き継いで、15年くらいになりますが初めて300トンを切ったのですが、一番経営内容が良かったと言っています。
乳代の3割ほどの個体販売があり、収入全般に対する手取りは、50%ほどです。1200万円ほどでしょうか。前のコメントの、表をよく見ていただければわかりますが、大型農家、高泌乳農家は牛の事故も多く、乳代に占める穀物代が50%近くになっています。
TMRセンターですが、酪農大学の友人の経営分析が「農業と経済」5月号に掲載されています。自給飼料の向上にもなっていないし、経営の好転にもつながっていません。補助で成り立っているだけなのです。
そもそも、TMRは牛に沢山穀物を与える、とても危険なシステムなのです。
-
- 2015年09月26日 06:00
- >そりゃないよ先生
貼っていただいたアドレスの記事を拝見し
今回の私の記事の問題点を
統計数字を出すことで裏付けていただいたように思いました。
以前から指摘されているように
乳牛たちは、穀物を腹に詰め込まれ
能力限界ギリギリまで乳をしぼり出しています。
その結果体力に余裕、余力がなく
寿命も縮まっている
という現実が見えてきますね。
-
- 2015年09月26日 06:03
- >そりゃないよ先生
「中庸の徳」という考え方が必要ですね。
-
- 2015年09月26日 20:08
- >中庸の徳
うまい!!
チキチキバンバン症候群
地域で一番を目指している農家より地域で2番
3番の農家の方が儲けている。
2番、3番の農家は1番の農家の良い所だけ
真似すれば良く先頭走るリスクもない。
いっぽう地域で一番を目指す農家は周囲の目を気にして
いらぬ所に投資し、国もこのような農家には補助を
出しまくる。
最先端を走っているような気持ちはセーブ効かなくなり
「他の農家さんに言っても理解できないが
あんたなら分かる。だから他の農家には内緒にしてくれ。あんただけの得値だから。」
など機械屋などのセールストークに乗せられてしまう。
これ自意識が仇ってやつでです。
昔、コンビニチェーンロー◎ンの宣伝で
「地域で一番、チキチキバンバン」っての
やってました。
儲けるなら地域で2番が良いと取引農家さんに
言ってます。
「地域で一番、負債も一番」になりがちです。
-
- 2015年09月26日 20:32
- >モウエサさん
「中庸」という考え方は
仏教や道教などの東洋の哲学によく現れますが
西洋の思想ではあまり見かけることがないように思います。
東洋で酪農をやるのであれば
その風土で生まれた考え方をベースにやる方が良いと思うのです。
あとは、これからの日本の酪農を担う世代の人たちが
我々のような老境に入りつつある酪農関係者の言うことに
耳を傾けてくれるかどうか、ですね・・・。
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そして、お誕生日おめでとうございます‼
うちの牛舎も老朽化が進んでいて所々修理しながら使っていますが、手間もかかり大変です💦毎日外には出していますが天気には左右されるし、出し入れもスムーズにはいきません(笑)
けど、畑でリラックスして寝てる牛達を眺めてるとやっぱりやめられないですよ〜