漢字は、ひらがなやカタカナあるいはアルファベットに比べて

そこに含まれる情報量が非常に多い。

ひらがなやカタカナやアルファベットが、

一字だけではほとんど意味が判らないのに比べて、

漢字はたった一字を見ただけでも、

その情報が読み手にしっかりと伝わって行く。

明治時代の初期には前島密(まえじまひそか)などの学者や

一部の教育者などが唱えた

日本語を全てローマ字表記にしよう

という「ローマ字表記運動」というものがあったそうだが

その試みはあえなく消えてしまった。

日本語表記の中の、漢字のもつ優れた情報伝達機能は、

そんな西洋追随主義の試みを一蹴したのだった。

正岡子規は、漢字のもつ情報伝達能力をよく解っていて

それを高く評価し、漢詩もよく作っていた。


 送夏目漱石伊予行
 (明治二十九年 子規)

去矣三千里 送君生暮寒
空中掛大岳 海末起長蘭
僻地交友少 狡児教化難
晴明期再開 莫後晩花残


夏目漱石も、また然りで

漱石晩年の自作漢詩群は特に有名だ。

   自 画  
 (大正五年 漱石)

唐詩読終寄欄干
午院沈沈緑意寒
借間春風何処有
石前幽竹石間蘭



同じ短詩文芸でも

短歌や俳句に比べると

漢詩の持つ情報量が圧倒的に多いことは一目瞭然。

短歌や俳句では言い切れないような、ひとつの物語を

漢詩は起承転結の四つの章で表現できる文芸といえる。

また

二つの対となる字句を一つの漢詩のなかに併記して

その意味を対照的に印象的に浮かび上がらせるという

「対句(ついく)」の表現も

漢詩ならではの美しい技である。

子規や漱石が作っていたのは、正統的な漢詩で

私の提唱する「現代漢詩」とは品格がまるで違うけれど

そんな漢字のすばらしい力を

我が「現代漢詩」としても、当然のように

最大限に利用しない手はない。

今回紹介する「現代漢詩」は

主に私が仕事中に感じたことをテーマにしたものを集めてみた。

おヒマでしたら、ご賞味ください。


    食 欲 

牛胎盤用手除去
鼻曲露汁着衣浸
烏賊塩辛夕食卓
形色極似箸不伸


 電 牧 

夕暮往診放牧場
電気牧柵足跨行
股間衝撃稲妻走
急所抱込涙少漏


 蹄病処置

後肢跛行牛枠入
集中視線蹄底瘍
頭上開口肛陰門
襲来飛沫黄金瀧 


 繁殖検診

氷点下日長続冬
多頭直検全身凍
尿意限界暫失礼
貧茎縮上誤方向


 宝石塵

往診助産厳寒期
温水馬穴湯気昇
差込朝日映細氷
眩輝微粒漂結晶 


 腰振運動

繁殖障害直検牛
獣医片腕浅挿入 
抵抗激烈左右振
反復横跳続永久


 中耳炎

獣医道具聴診器
装着部分被糞尿
不知挿入両耳穴
翌朝掻痒垢多量


 肉 球

洗車完璧往診車
猫多牧場一軒目
外装足型跡付泥
内席掻回高価薬


 新年会

酪農青年大酒宴
偶然獣医車通行
呼止乗込泥酔人
名目往診無賃送


 紙吹雪

車上置忘診療簿
緊急追加慌発進
空中乱舞公文書
糞泥付着茶色染


 猛 照

深夜往診裏道行
郊外宿屋恋愛用
一台躊躇後進入
興味津々仕事忘


 小売価格

牛乳一本数百円
清涼飲料水同額
生産原価雲泥差
酪農救済殆無策


 黄黒黄黒

青空往診眺爽快
運転鼻歌窓全開
巨蜂飛込顔面襲
動揺蛇行車旋回


 経 産

分娩手伝老婦人
感情移入大声震
陣痛母牛返咆哮
経産同志相通心

 
 漁農比

漁師休業燃料高
魚群増殖海中繁
酪農休業飼料高
牛群飢餓死無惨


 役 割

開業獣医忙診療
病畜回復被感謝
共済獣医忙検案
死畜確認如通夜


 制度弱体化

開業獣医戦恐恐
喰付外部寄生虫
共済獣医棲温温
吸付内部寄生虫


  鏡

自由牛舎米国化
強者中央過肥坐
弱者片隅削痩立
競争社会拡格差



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左の写真の道具を使う


「牛のニコイチ捻転去勢法」

の動画を撮りました

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