「とねっこの足が痛い・・・」

そんな往診依頼で向かったÅ牧場に到着するやいなや、

「とねっこ、連れてくるの手伝ってくれ・・・」 

私が手渡されたのは、ナスカンのついた引き綱だった。

Åさんと私は、馬の放牧してあるパドックに入り

足の痛い当歳馬よりも、まずその親馬を捕まえた。

この当歳馬は、まだ親から離してはいないのだった。

Åさんが親馬をつかんだ後、私が当歳馬に近づいて、頭絡に綱をつけた。

「枠馬まで連れてくから・・・」

私は、Åさんの引く親馬の後から、足の痛い当歳馬を引いて行こうとした。

ところが・・・

この当歳馬の跛行がひどく、なかなか歩こうとしない。

左の前肢を着地するのを嫌う、重度の支跛だった。

「引っ張らないで、後ろからボッてくれんか・・・」

私は当歳馬の後ろに回り、尻や尻尾を押した。

ところが・・・

パドックから枠場までの道が

先日の雪と雨と、今朝のシバれで

つるつるのスケートリンク場になって、うまく押す事ができない。

当歳馬は足が痛いから、依然として歩くのを嫌っている。

歩きを嫌がる当歳馬は、当歳といっても

すでにもう7ヶ月齢にもなっている重種馬だから

体重は300キロはゆうに超えている。

そんな当歳馬を私一人で押しても、足元が滑るだけだった。

「親の尻尾に、とねっこ結ぶから、引き綱こっちへかしてくれ・・・」

Åさんは私の持っていた綱をとって、親馬の尻尾へ結び

IMG_4812親馬を、枠場のほうへと歩かせ始めた。

すると、さすがに重種馬の1馬力である。

当歳馬はいやがおうにも、親に引っ張られて

左前足をかばいながら、ピョヒピョコと跛行しながら歩き出した。

やっとの思いで、枠場に入れて

肩ロープをして、さらに後ろ足を跳ねて飛び出さぬように縛り

IMG_4798鼻ネジをかけて、ようやく

患肢を挙上させる事ができた。

検蹄器で左前蹄を挟んで行くと

蹄外側のすこし割れているような部分の鉗圧に反応があった。

そこを軽く削蹄し、白線の部分の汚れを取り

黒さが消えないところに、葉状刀を差し込んで穴をこじ開けて行くと

「!!!・・・」

当歳馬は激しく痛がり、枠の中でバタバタと暴れた。

しかし、大きく暴れる0コンマ数秒前に

私の葉状刀は、患部の病巣を捉えていたので

IMG_4794そこから灰色の化膿汁が出た。

さらにもう少し、こじ開けると

黒っぽい血の混じった液が出てきた。

「もういいんでないか・・・」

「うん。蹄病軟膏つけたガーゼ、詰めとくから。」

IMG_4795「やってくれ・・・」

私は、蹄病軟膏をたっぷりとガーゼに取り

こじ開けた穴にそれを充填した。

「抗生物質、打つからね。」

ベニシリンを筋注し、残ったペニシリンを差し出して

IMG_4799「明日から三日間、打っといてくれる?」

「俺がか?・・・」

「無理?」

「おまぇ無理に決まってるべや、こんなウルサいとねっこ・・・」

「そうだね(笑)・・・わかった。明日は注射だけ打ちにくるね。」

IMG_4807「頼んだぞ・・・」

かくして、われわれ診療所の獣医師は

しばらくÅさんの、この当歳馬の治療に

毎日通う事になった。

Åさんについて一言付け足すと

IMG_480580歳を超えた、超ベテランの馬屋さんである。

老夫婦二人で、まだ重種馬の生産をしているのだ。

重種馬を、飼ってくれているだけで

私にとっては大変ありがたい存在なのである。

私を含めて、獣医師達は

IMG_4803Åさんの馬でどれだけ馬の勉強をさせてもらったことか

その感謝の気持ちを持って

この馬の治療をしなければならないと

私は思っているのである。


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左の写真の道具を使う


「牛のニコイチ捻転去勢法」

の動画を撮りました

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