午前中の往診が終わる頃、

*牧場の親方から電話がかかってきた。

「先生、馬の妊娠鑑定1頭してくれるかい。」 

「・・・いいよ。」 

「おれの馬じゃないんだけどさ。」 

「・・・。」 

「あれ、あそこの〓の沢で馬飼ってる調教師の▼さんとこに来てる馬で、保険入ってないんだよ。」

「・・・、NOSAIの保険入るつもりはないの?」

「いや、ないわ、きっと。」

「・・・じゃあそれなりの料金掛かっちゃうけれど、いいの?」 

「うん。そのことは▼さんにちゃんと言ってあるから。」 

「・・・了解。じゃあ、昼から行きます。」 

 〓の沢の馬厩舎は、かつてある土建屋の社長さんが馬の生産していたが

景気が悪くなって手を引き、立派な施設だけが残っている。

そこへ、ばんえい競馬の調教師の▼さんが馬を入れているのだった。

▼さんが引いてきたのは立派な青毛の牝馬だった。

IMG_4973「この馬の登録書とかありますか?」

「今は、手元にないんだけど、11才だ。」

「料金は、非加入の料金になりますけど・・・」

「あぁ、それはわかってるよ。」

非加入畜の診療料金と支払い方法を確認してから

私は、カッパを着て直検手袋を履いて

枠場に入れられたこの馬の肛門に手を入れ

妊娠鑑定をした。

「種付けしたのはいつですか?」

「5月に産む予定とかいってたかな。」

「じゃあ、6月の種付けですね、何ていう種馬かわかりますか?」

「いや、わからない。」

私は大方の見当をつけて、馬の腹腔を探った。

妊娠7ヶ月の馬だと、胎児に直接触れればラッキーだが

胎児に触れることができなければ

子宮の大きさと下がり具合

そして、卵巣を掴んで、その位置と遊走性等を診て

妊娠か非妊娠かを判断することになる。

これには何頭も妊娠鑑定をした経験がものをいうのである。

馬糞を掻き出しながら、大きくて深い腹腔を探っていると

想像していたより手前の方に、子宮を確認した。

さらにその子宮から辿って、左右の卵巣を掴んだ。

子宮も卵巣も、発情期に触診するものと

さほど変わらない位置と大きさだった。

「あーこれは、とまってませんね。妊娠マイナスです。」

「そうかい、わかった。どうもありがとう。」

老調教師の▼さんは、大きくうなづき

厩舎へと馬を引き連れて行った。

さて、ここで

十勝NOSAIの組合員以外の非加入の馬を

直腸検査のみで妊娠鑑定した場合

その料金がいくらになるかは

事故外カルテの料金表によって計算される。

今回の場合は

車両負担金(非加入ー大)      ・・・1,575円

妊娠鑑定・直検法・馬(非加入ー大) ・・・5,796円

となり、合計 7,371円 となる。

ちなみに

これがもし

十勝NOSAIの保険の加入馬であった場合は

車両負担金(加入事故外)      ・・・315円

妊娠鑑定・直検法・馬(加入事故外) ・・・1,050円

となり、合計 1,365円 となる。

加入馬と非加入馬で

まったく同じ診療行為をして

その差は、7,371 - 1,365  =  6,006円

となる。

私は個人的に

この差は大きすぎるのではないかと思っている。

こんなに差があるのならば

保険に入って安く診てもらおうと思う飼主さんもいるかもしれないが

それよりも、今、目の前の保険に入っていない馬が

妊娠しているかどうか知りたいのに

妊娠鑑定料金のあまりの高額に

その依頼をためらってしまう飼主さんも

多いのではないかと思うからだ。

馬の飼主さんが、妊娠鑑定の依頼をためらえば

我々獣医師の、馬の妊娠鑑定の仕事の機会が減る。

馬の妊娠鑑定間の機会が減れば

我々獣医師は、妊娠鑑定の経験を積むことが難しくなる。

経験を積むことが難しくなれば

若い獣医師の技術がなかなか向上せず

その結果、我々NOSAIの獣医師の技術は

馬の飼主さん達から信頼されなくなる。

信頼されなくなれば

ますます診療の機会が減る。

これは

馬の診療技術の継承に

悪影響を及ぼしているのではなかろうか。

そんな悪循環が

十勝地方の獣医師と馬の飼主さんの間で

ずっと続いてきたのではなかろうか。


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左の写真の道具を使う


「牛のニコイチ捻転去勢法」

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