「搾乳中にパーラー内で倒れて立てなくなってしまったので、すぐ来て欲しいのですが・・・」

そんな往診依頼を受ける牛の獣医の診療所は、

最近、随分と増えているのではないだろうか。

その電話の相手は、

多くが大規模酪農家の従業員。

時間は搾乳開始時刻から、

およそ数十分経った頃。

(またか・・・)

この日夜間当番の私は

夕方、

そんな電話を受けて往診に向かった。

〓ファームに着いて、

搾乳パーラーの前の、

ホールディングエリアに近いところへ車を止める。

こういう場合は、だいたい

立てなくなった牛がホールディングエリアの側に引き出されて

そこでうずくまっていることが多いからだ。

「・・・牛はどこですか?」

私は、出合わせた〓ファームの従業員に尋ねた。

「アッチ、デス。」

外国人従業員が示した先は

搾乳パーラーの方向だった。

「・・・えっと、どこかな?」

搾乳中に立てなくなった牛が

よく寝かされているいつもの場所には

今日は牛が見当たらなかった。

「・・・どこだろう?」 

そこへ

いつも獣医に対応してくれる日本人従業員の◉君がやってきた。

「安田さん!、こっちなんです。」 

◉君が指している方向は

ロータリーパーラーの外縁の

人が搾乳作業をする場所だった。

「・・・そっちかい。」

「はい、ここです。」

「・・・え、どうしたのこれ?」

「搾乳してたら急に、前足がガクガク震えてきて、寝てしまって・・・」

「・・・ここに落っこっちゃったの?」

「そうなんです、ずるずると。」

「・・・。」

「こんなことになってしまって・・・」

「・・・ここじゃ、牛を吊り上げる機械は入ってこれないよね。」

「そうなんです。」

「・・・自力で立たないと、大変だなぁ。」

「なんとか立たせて下さい、お願いします。」

IMG_0352「・・・うーん。」

聞くと、この牛が分娩したのは2ヶ月前。

分娩後には起立不能症にはならなかったものの

その後、足腰の具合が悪く

関節炎と橈骨神経麻痺と診断されて

数回の治療を受けていた。

体温は39.6℃でやや発汗があった。

牛の様子と病歴から考えて

低カルシウム血症をおこして立てなくなったというよりも

それ以外の理由がありそうだった。

足の痛みに耐えられなくなって崩れ落ちたのか

低血糖のケトーシスでふらふらになった可能性もある。

とにかくこの牛が自力で立ってくれないと

今後の搾乳作業に支障が出ることになる。

IMG_0353私は治療を開始した。

血液を採取してから

リンゲルとブドウ糖の補液

副腎皮質ホルモンと抗生物質に

消炎鎮痛剤を加えて注射した。

「・・・この注射が終わったら、しばらく様子を見て。」

「わかりました。・・・夜中までに立ってくれるといいけど。」

「・・・何かあったらまた連絡してね、俺、今夜当番だから。」

「わかりました。」

(次の搾乳時間までに、自力で立ち上がって欲しい・・・)

私は、従業員の◉君と

全く同じ気持ちで

〓ファームを後にした。

(この記事続く)


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