「動物福祉」にしろ「アニマルウェルフェア」にしろ、

それを実践することは、

特別なことでもなんでもない、

と私は思うのである。

苦しそうな牛を見て「・・・かわいそうだ。」と思い、

その苦しみを解いてやろうとする心。

飢えている牛を見て「・・・そうかそうか。」と思い、

その飢えを満たしてあげようとする心。

そういう心がなければ、

「牛を愛する心」がなければ、

乳牛など飼育できるものではない、

と私は思うのである。 

自分は酪農ビジネスとして牛を飼育しているのだから、

そいうい心は必要がなく邪魔でさえある、

などと言う人もいるが、

そんなドライな感覚の酪農家にさえ

「牛を愛する心」がゼロの酪農家はいない、

と、私は信じている。

乳牛は我々と同じ赤い血が流れ

空気を吸っては吐き

水を飲み食物を食べては排泄し

我々人間となんら変わりのない生き方で生きている

と思えばなおさらである。

「牛を愛する心」を持って

酪農を実践することは

特別なことでもなんでもないだろう

と、私は毎日酪農家を往診して回りながら

そう思ってやってきた。

そういう現場に

突然登場したのが

家畜福祉、アニマルウェルフェアの考え方に基づく

認定制度だった。

「牛を愛する心」というものを

科学的に分析をして

いろいろな項目に分け

その実践の程度をチェックして

客観的に評価して

そこに線引きをして

合格不合格の差別化を図り

合格したもののみを

特別に「アニマルウェルフェア認定牧場」に認定し

そこから生産された乳製品に付加価値をつける。

という活動を始めたのが

アニマルウェルフェア畜産協会である。

この活動について

私は基本的には素晴らしい活動であり

これからもっと普及してほしいと思っている。

しかし、同時に

この活動は科学的手法の限界をよく表している

とも思うのだ。

「牛を愛する心」を科学的に分析して

いろいろな項目に分けて

その実践の程度をチェックして

客観的に評価して

そこに線引きをして

合格不合格の差別化を図り

合格したもののみを

特別に「牛を愛する心の程度の高い牧場」に認定し・・・

・・・そんなことをやっていれば

不合格になって認定されない牧場の人たちは

IMG_0357気分を害し

怒り出す人も少なくないだろう。

科学的手法というものは

多くがこういうものであると私は思っている。

科学的手法は

「愛する心」という奥ゆかしい感情を

上から目線で観察するだけなのである。

気分を害された人たちは

IMG_0358「口で言わずに、手本をやって見せてくれよ!」

と言い出す人もきっといるだろう。

ところが

実際のところ

酪農家の牧場形態は十人十色であり

牛の飼い方や接し方は十人十色であり

「牛を愛する心」の「お手本」と言えるものを

IMG_0910具体的に示すことなど、

そう簡単にできるものではないだろう。

「アニマルウェルフェア」の基準が

曖昧になるのはそのためだろうと思う。

ここに、私は

科学的手法の限界を感じるのである。

「愛」や「心」に対する科学的研究は

可能だが

その成果を現場に還元した時の

貧弱さ、底の浅さ、腹立たしさ、虚しさ、は

人の恋愛心理学などの成果を見れば、容易に想像がつく。

そんな、科学的手法の限界を感じつつ

IMG_0940毎日毎日

今回掲載した写真のような

疲れ切った牛達を前にして

私は

治療の薬を手にしたまま

暗澹たる気持ちになるのである。

科学的手法に頼ることなく

もっと広く

もっとあまねく

特別なことでなく

普通に「牛を愛する心」を持って

IMG_1020全ての酪農家が

それを忘れず

それを実践しながら

「健康な牛」を飼えるようになる方法は

ないものだろうか・・・

そのヒントになることが

実は

前回の記事に寄せられたコメントの

最後の方に書かれているコメントの中に

あるような気がするのだが・・・


(この記事続く)


人気ブログランキング


IMG_2775
左の写真の道具を使う


「牛のニコイチ捻転去勢法」

の動画をYouTubeにアップしています。

ここを→クリックして