「10ヶ月齢の黒毛和種の、

あまり発育の良くない痩せた肥育素牛を、

市場で買ってきて1ヶ月ほど養ったところ、

おヘソがぷっくりと膨らんできた。」

という稟告。

診てみると

臍ヘルニアだった。

買った時はひどく痩せていて

臍の腫れはなかったそうだ。

しかし食欲が増して成長するにつれて

臍が腫れてきたという。

私の知る限り、牛の臍ヘルニアは

幼少時には目立っていても

成長するにつれて目立たなくなってゆくものだが

今回の場合はその逆パターン(?!) だった。

「放っておいて良いだろうか?」

という飼主さんの問いに

私は首を縦に振る事ができず

早期にヘルニア輪を縫合して閉じる手術を勧めた。

そして昨日

その手術をすることなになった。

ヘルニア輪は4指が入る程度のものだったが

11ヶ月齢の食欲旺盛な若牛だったので

前日から絶食をしてもらって腹圧を減らしておいた。

術前の写真をうっかり撮り忘れたので

術後の写真のヘルニアの部分を加工して

BlogPaint術前の垂れ下がったヘルニア嚢を

黄色い色で塗りつぶして再現してみたのが

最初の写真である。

鎮静剤によって寝かせて

手術台に仰臥保定。

ヘルニア整復の術式は簡単だ。

ただし

♂の場合は臍帯のすぐ後方に尿道口があり

手術中に排尿したり

術後の創部が汚染したりしやすいので

BlogPaint切開部分は写真のように

尿道口を避けるような

前方に弧を描く半円形(U字形)で切開する。

この方法は

十勝NOSAIの同僚のM島獣医師が考案したものである。

こうして切開して

皮下の結合組織を注意深く剥がしてゆき

ヘルニア輪を露出させる。

そこにヘルニア嚢を落とし込み

IMG_1677ヘルニア輪を縫合する。

ヘルニア輪の縫合は

ベストオーバーパンツ縫合という

衣服を重ねるような仕上がりにする縫合法だ。

IMG_1678糸を二重に使い

腹壁への針の入れ方は

上から下 → 上から下 → 下から上 → 下から上

と縫って行けばよい。

今回はそれを3針入れて

IMG_1680ヘルニア輪を十分に閉じる事ができた。

それから

死腔を造らぬように

結合組織の寄せ縫いをして

U字形に離れている臍帯の皮膚を

IMG_1683術創に蓋をするように縫い付けて

整復手術は無事終了した。

鎮静剤の拮抗剤を打ち

牛は数分で元気を取り戻した。

IMG_1684飼主さんに抗生物質を渡し

3日間投与するように指示し

牛を家畜車に乗せて

帰って行く家畜車を見送った。


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左の写真の道具を使う


「牛のニコイチ捻転去勢法」

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