1度事務所に戻って往診の受付をして、
その日の午前中の、
牛の往診をひと回りした後 、
再び◆さんの馬の様子を見に行った。
疝痛で、寝たままで、
きっと苦しんでいるのだろう・・・、
もうそのままあの世へ行ってしまったかもしれない・・・、
そんな暗い気持ちを抱いて、
馬の寝ていた場所をのぞいてみると、
そこには馬がいなかった。
「あれ?・・・立ってどこかへ行ったな・・・牧場のほうだべか・・・」
家から出てきた◆さんが言った。
◆さんと私は、放牧場の奥の方へ馬を探しに行った。
馬は、放牧場の最も奥の森との境界線に立っていた。
前足で土を掻く仕草などをして
やはりどこか腹の調子が悪そうだったが
足取りはしつかりとしていた。
牧場から連れ戻して
枠場に入れて診察した。
体温37.8 心拍数50 呼吸数約16
腸の蠕動は左側で短く聴こえるのみだった。
直腸検査では、宿便わずかで
直腸内はほぼ空虚だった。
「どうだい先生・・・。」
「・・・。」
馬の症状は改善したとは言い難かった。
しかし
今朝のような、横臥して苦悶している症状よりは
だいぶマシになったので
これはもしかすると
通過障害が改善する可能性があるのではないか
(腸捻転ではないかもしれない・・・)
という考えも
僅かばかり
脳裏に浮かんだのだった。
この馬に付いている仔馬は
立っている母の乳房をしきりに突いて
あまり泌乳しない乳首を何度も吸っていた。
いま・・・
パソコンに向かって
この記事を書いている私が思うには
この時点で
一か八かの開腹手術による外科的整復を
どこかの施設で実施することができたならば
この馬の命を救うことができたのかもしれない
と思うのである。
だが・・・
実際には
我々十勝NOSAI「東部」事業所の獣医師が
重種の繁殖牝馬の腸捻転を
開腹手術によって治癒させた症例は未だになかった。
また・・・
十勝NOSAI「北部」のA町では数例の治癒例があったと聞いていたが
今年は、たまたまタイミングが悪く
麻酔機器の更新準備をしているらしく
また、麻酔のできるスタッフの転勤や退職などもあり
対応が難しい状態であるとも聞いていた。
また・・・
飼主の◆さん側にも
色々な気の毒な、家庭内の事情があり
治癒の確率の低い開腹手術に踏み切るには
高いハードルがいくつも立ちはだかっている
という状況だった。
「・・・先生・・・注射と薬で、できること、やってくれや。」
「・・・うん・・・」
私は
押し寄せてくる無力感を振り払いながら
この馬に補液をはじめた。
そして
迷った挙句
流動パラフィンと整腸剤の経鼻投薬をした。
「・・・便が通じてくれるといいんだけれど・・・」
補液と経鼻投薬の治療を終えて
私は祈るような気持ちで
◆さんの家を後にした。
週末のこの日の
午後から、私は
どうしても抜けられない用事があり
この馬の
これから先のことは
同僚のK獣医師に託して
事務所でカルテを書き終えて
ずっと祈るような気持ちのまま
帰宅した。
(この記事続く)
左の写真の道具を使う
「牛のニコイチ捻転去勢法」
の動画をYouTubeにアップしています。
ここを→クリックして
見ることが出来ます。
その日の午前中の、
牛の往診をひと回りした後 、
再び◆さんの馬の様子を見に行った。
疝痛で、寝たままで、
きっと苦しんでいるのだろう・・・、
もうそのままあの世へ行ってしまったかもしれない・・・、
そんな暗い気持ちを抱いて、
馬の寝ていた場所をのぞいてみると、
そこには馬がいなかった。
「あれ?・・・立ってどこかへ行ったな・・・牧場のほうだべか・・・」
家から出てきた◆さんが言った。
◆さんと私は、放牧場の奥の方へ馬を探しに行った。
馬は、放牧場の最も奥の森との境界線に立っていた。
前足で土を掻く仕草などをして
やはりどこか腹の調子が悪そうだったが
足取りはしつかりとしていた。
牧場から連れ戻して
枠場に入れて診察した。
体温37.8 心拍数50 呼吸数約16
腸の蠕動は左側で短く聴こえるのみだった。
直腸検査では、宿便わずかで
直腸内はほぼ空虚だった。
「どうだい先生・・・。」
「・・・。」
馬の症状は改善したとは言い難かった。
しかし
今朝のような、横臥して苦悶している症状よりは
だいぶマシになったので
これはもしかすると
通過障害が改善する可能性があるのではないか
(腸捻転ではないかもしれない・・・)
という考えも
僅かばかり
脳裏に浮かんだのだった。
この馬に付いている仔馬は
立っている母の乳房をしきりに突いて
あまり泌乳しない乳首を何度も吸っていた。
いま・・・
パソコンに向かって
この記事を書いている私が思うには
この時点で
一か八かの開腹手術による外科的整復を
どこかの施設で実施することができたならば
この馬の命を救うことができたのかもしれない
と思うのである。
だが・・・
実際には
我々十勝NOSAI「東部」事業所の獣医師が
重種の繁殖牝馬の腸捻転を
開腹手術によって治癒させた症例は未だになかった。
また・・・
十勝NOSAI「北部」のA町では数例の治癒例があったと聞いていたが
今年は、たまたまタイミングが悪く
麻酔機器の更新準備をしているらしく
また、麻酔のできるスタッフの転勤や退職などもあり
対応が難しい状態であるとも聞いていた。
また・・・
飼主の◆さん側にも
色々な気の毒な、家庭内の事情があり
治癒の確率の低い開腹手術に踏み切るには
高いハードルがいくつも立ちはだかっている
という状況だった。
「・・・先生・・・注射と薬で、できること、やってくれや。」
「・・・うん・・・」
私は
押し寄せてくる無力感を振り払いながら
この馬に補液をはじめた。
そして
迷った挙句
流動パラフィンと整腸剤の経鼻投薬をした。
「・・・便が通じてくれるといいんだけれど・・・」
補液と経鼻投薬の治療を終えて
私は祈るような気持ちで
◆さんの家を後にした。
週末のこの日の
午後から、私は
どうしても抜けられない用事があり
この馬の
これから先のことは
同僚のK獣医師に託して
事務所でカルテを書き終えて
ずっと祈るような気持ちのまま
帰宅した。
(この記事続く)
左の写真の道具を使う
「牛のニコイチ捻転去勢法」
の動画をYouTubeにアップしています。
ここを→クリックして
見ることが出来ます。
この後母馬は仔馬と別れなければならなくなるのですね。。。