「へそが腫れている」、
という稟告で診たホルスタインの仔牛の、
症状は少し複雑だった。
初診時の症状は臍ヘルニア、
腹壁には明瞭なヘルニア輪が触知でき、
そのヘルニア輪はまだ小さかったので、
しばらく様子を見ていたところ、
「へその腫れがだんだん大きくなってきた」
ということで再診をした。
すると
あったはずのヘルニア輪が触知出来ずに
腹壁に腫れた部分の根元は
太い臍帯で埋まっていて
可動性が無く
臍の部分は硬くて丸みを帯びた腫瘤物となっていた。
その日に往診したT獣医師が
腫れた部分を穿刺してみたら
最初は硬い漿液が少々
場所と角度を変えて再び穿刺すると
今度は茶色い腸管内容物が採取されたという。
腫れた部分を穿刺した時の内容が変化するとは
いったいどのような腫れ物なのか
これは一筋縄では行かない
複雑な症例のような気がする。
様子を見ていると腫れはどんどん大きくなってしまうようだ。
こうなってしまった以上、出来るだけ早いうちに
外科的処置を施したほうが良いだろう。
我々獣医師はそういう判断に至った。
翌日
午後一番にこの仔牛が運ばれてきた
一般症状が悪いわけではないので
元気一杯だったが
手術台に寝かせて
まずは超音波検査の端子を当ててみた。
腹壁から前後方向斜めに切り取った画像には
黒く抜けた部分にキラキラと白く光る模様が見えた。
これは典型的な膿瘍の画像だった。
そ例外の部分にも丁寧に端子を当ててみたが
結合組織ばかりで他に特徴的な画像は見えなかった。
腸管のヘルニアと思われた部分は
腹腔の中へ
落ちているのだろうと推測できた。
しかし、ヘルニア輪とおぼしき穴は
どこにも開いてはいなかった。
次に、毛刈りをして
切皮して
結合組織を剥がしつつ
腫瘤物を出来る限り
術創から独立させて
それを手でつかみ
もう一度穿刺を試みた。
すると、
漿液と化膿汁の混ざったものが採取された。
これはやはり膿瘍なのか。
根元の部分を糸で縛り
腫瘤の根元の臍帯移行部にメスを入れて
根本を切断し
膿瘍と思われる部分を
丸ごと摘出しようと取り掛かった
すると
メスを入れた臍帯部から
クリーム色の硬めの農汁がはみ出してきた。
「あー、やっぱり膿瘍だね。」
これは予想通りの事だったが
その部分から臍帯を通じて
腹腔内へ
クリーム色の農汁が
こぼれないように注意をしながら
腫瘤物を摘出するという
少々緊張する手技が必要になった。
(この記事続く)
左の写真の道具を使う
「牛のニコイチ捻転去勢法」
の動画をYouTubeにアップしています。
ここを→クリックして
見ることが出来ます。
という稟告で診たホルスタインの仔牛の、
症状は少し複雑だった。
初診時の症状は臍ヘルニア、
腹壁には明瞭なヘルニア輪が触知でき、
そのヘルニア輪はまだ小さかったので、
しばらく様子を見ていたところ、
「へその腫れがだんだん大きくなってきた」
ということで再診をした。
すると
あったはずのヘルニア輪が触知出来ずに
腹壁に腫れた部分の根元は
太い臍帯で埋まっていて
可動性が無く
臍の部分は硬くて丸みを帯びた腫瘤物となっていた。
その日に往診したT獣医師が
腫れた部分を穿刺してみたら
最初は硬い漿液が少々
場所と角度を変えて再び穿刺すると
今度は茶色い腸管内容物が採取されたという。
腫れた部分を穿刺した時の内容が変化するとは
いったいどのような腫れ物なのか
これは一筋縄では行かない
複雑な症例のような気がする。
様子を見ていると腫れはどんどん大きくなってしまうようだ。
こうなってしまった以上、出来るだけ早いうちに
外科的処置を施したほうが良いだろう。
我々獣医師はそういう判断に至った。
翌日
午後一番にこの仔牛が運ばれてきた
一般症状が悪いわけではないので
元気一杯だったが
手術台に寝かせて
まずは超音波検査の端子を当ててみた。
腹壁から前後方向斜めに切り取った画像には
黒く抜けた部分にキラキラと白く光る模様が見えた。
これは典型的な膿瘍の画像だった。
そ例外の部分にも丁寧に端子を当ててみたが
結合組織ばかりで他に特徴的な画像は見えなかった。
腸管のヘルニアと思われた部分は
腹腔の中へ
落ちているのだろうと推測できた。
しかし、ヘルニア輪とおぼしき穴は
どこにも開いてはいなかった。
次に、毛刈りをして
切皮して
結合組織を剥がしつつ
腫瘤物を出来る限り
術創から独立させて
それを手でつかみ
もう一度穿刺を試みた。
すると、
漿液と化膿汁の混ざったものが採取された。
これはやはり膿瘍なのか。
根元の部分を糸で縛り
腫瘤の根元の臍帯移行部にメスを入れて
根本を切断し
膿瘍と思われる部分を
丸ごと摘出しようと取り掛かった
すると
メスを入れた臍帯部から
クリーム色の硬めの農汁がはみ出してきた。
「あー、やっぱり膿瘍だね。」
これは予想通りの事だったが
その部分から臍帯を通じて
腹腔内へ
クリーム色の農汁が
こぼれないように注意をしながら
腫瘤物を摘出するという
少々緊張する手技が必要になった。
(この記事続く)
左の写真の道具を使う
「牛のニコイチ捻転去勢法」
の動画をYouTubeにアップしています。
ここを→クリックして
見ることが出来ます。
私は子牛の臍を自分で手術することはほとんどないのですが、うちの執刀医たちは臍膿瘍を切開しないで塊として取り出そうと苦心しています。
大事なのは切り込む前に、臍静脈、臍動脈、臍帯、膀胱の状態を超音波と触診で把握することと、塊そのものに切り込まず、必要なら脇から腹腔を開けて、丸ごと摘出することだと思います。