夜間当番の終了時間の間際、

◇牧場の従業員のS君から電話が入った。

「子宮捻転なんですけど・・・」

私は朝の診療所の通常の受付時間までには、

帰って来れないことを覚悟して、

◇牧場へ車を走らせた。

着いて手を入れてみると、

S君の言うとおりの子宮捻転ではあったものの

捻れはそれほど強くはなく

胎児の足と頭部には何とか触れることが出来た。

2次破水は終わっているようだった。

こういう場合も、まずは

用手整復法を試みる。

胎児の前肢を反捻れ転方向へ押す

胎児の頭部を反捻れ転方向へ押す

子宮の内壁を反捻れ転方向に押す

などの技を繰り出していると

胎児があるタイミングで

ぐるっと動いた。

子宮の捻れが解消されたようだった。

その拍子に胎水もあふれ出てきた。

そして

胎児の前肢が2本

産道へ押されて進入してきた

さらに頭部も押されて産道へ

進入してくる

はず

なのに・・・

「あれ?、頭はどこだ?」

頭部がうまく触れなくなった。

先ほど胎児が自分で動いたとき

胎児の頭部が前肢の陰に回り

そのまま子宮の奥のほうへ行ってしまったようだ。

ここで、頭部をキープしないとまずいことになる。

私はとっさに前肢2本を産道深く押し込み

スペースの空いたところで腕を奥に入れて

胎児の頭部を探った。

「あー、あったあった、頭が、でも、鼻先と下顎は触れるんだけど、その先が・・・」

鼻先や下顎に指先が触れるだけでは不十分であった。

頭部をキープするには、耳から後頭部にかけて

ワイヤーをまわすのがベストであり

それが出来なければ

せめて眼窩(眼の窪み)に指がとどかなければならない。

眼窩に指がとどけば

12D9EF2C-6433-4A83-9A41-9D6304704911そこに

難産介助の強い味方である

鈍鈎(どんこう)を引っ掛けて

胎児の頭部をキープすることが出来る。

ところが今

私の指先は、眼窩まではとどかず

下顎さえも、指で掴むことが出来なかった。

「・・・ちよっとS君・・・手袋はいて・・・手を入れてみてくれる?・・・」

「はいー」

「・・・S君なら、頭の下顎を掴めるだろ?・・・」

「どうかわかんないですけどー」

S君は身長183cmの大男で

手足も非常に長く

◇牧場のちょっとしたお産なら

簡単に介助できる腕を持っている。 

私は産道から手をぬいて

S君にバトンタッチをした。

「・・・頭のどこでもいいんだけど・・・手で掴める?・・・」

「はいー、なんとかー、」

「・・・掴めたら・・・少し揺さぶって・・・」

「こーですかー、あー、」

「・・・少し引っ張れる?・・・」

「こーですか、あー、なんとかー、」

「・・・よし、替わって!・・・」

S君から交代した私は

再び産道に手を入れた。

すると

胎児の眼窩が

私の手にとどく位置来ていた。

「おー、頭が来てるよ、さすがS君!。」

私は直ちに

鈍鈎を眼窩に引っ掛けて

胎児の頭部をキープした。

キープしてから

胎児の前肢2本に産科ロープを装着。

前肢2本をまだ引かずにそのままにして

キープした頭部の眼窩にかかっている紐を

7101953F-5ADA-4BAD-BD35-566198B7B283ゆっくりと牽引するよう指示。

すると

胎児の頭部が

ぐぐぐと、産道に乗ってきた。

「よし。これから先は、普通のお産と一緒。」

63B7E9D9-B48E-44D7-B08C-2E236E1168BE私はS君と共に

胎児を無事に介助娩出させた。

おおきなF1の♀の胎児だった。

産後の一通りの仕事を終えてから

私はS君と肩をくっつけ合わせて

BF0B3993-A4DE-4315-A6D5-27289406EF1B自分の腕とS君の腕の

長さを比べてみた。

写真のとおり

S君の腕はとても長く

私よりも

3688FD43-CC42-4C5A-BF88-EEA9EFB84ADC5cm近く長かった。

このS君の腕は

鈍鈎とともに

難産介助の強い味方

であった。

予想よりも早く仕事が終わり

帰路についた。

診療所の朝の始業時間までには

帰って来れないことを覚悟していたが

S君の腕のおかげで

遅刻せずに間に合うことがてきた。


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左の写真の道具を使う


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