「今夜の当番、安田さんですよね、往診入ったんですけど。」

終業間近の事務所の掃除をしていると、

同僚のT獣医師がそう言いながらやってきた。

「Рさんの牛が子宮脱だそうです。」

「はい・・・」

「それが、お産して6日目・・・の子宮脱だそうです。」

「・・・えっ?・・・何それ・・・、」

私は耳を疑ったが、

それを隣で聞いていた同僚のベテラン獣医師数人は、

産後数日経過してからの子宮脱を治療した経験があると言った。

しかし、私は30年以上牛の臨床をやっているが、

産後6日目の子宮脱を治療するのは始めての経験であった。

Рさんへ向かう途中

(きっと膣脱なんじゃないのかな・・・)

という疑いをずっと持って

Рさん宅に到着して

牛の後ろに立つと

牛の陰部からは何も露出していなかった。

「立つと見えないんですけど、寝てるときに出るのが、子宮みたいなんで・・・」

Рさんの言葉を聞きながら

膣内へ手を挿入してみると

膣内には、膣壁ばかりではなく

硬くしまりかけている肉塊に触れた。

3D751B9A-EF29-4E88-AE87-2FC372E4ED5Cそれを手で掴んで

膣外に引っ張り出してみると

写真のような

小さな宮埠がいくつか付いた

明らかな子宮の内壁だった。

「・・・こりゃ、ほんとに子宮だ・・・」

6BEE0D15-4DD0-4B73-B258-AC58AFD1A884私は驚きつつ

この小さな子宮脱部分の反転を直そうと

押したり引いたりしてみたが

反転した子宮に固定感と支点がないので

私の手の動きと一緒に子宮もただ前後に動くだけで

反転部分は一向に戻る気配はなかった。

「・・・こりゃ、手だけじゃ直せないな・・・ちょっと待ってて・・・」

7786E1F0-6499-464D-A964-8EF1642D3BEE私はいったん診療車に戻り

子宮脱整復捧をもって牛の後に戻った。

そして、1.2mほどある子宮脱整復捧を

膣の中へと押し込んでいった。

途中50cmほど入れたところでかなり強い抵抗が有ったが

819AAD7E-6659-4DE6-A37C-5405FD52E098さらに強く力を入れて押し込んだら

ぐぐぐっという感触から

ずぼっという感触に変わったと思ったら

整復捧がほぼ根元近くまで一気に入ってしまった。

こんなに深く入ってしまって大丈夫だろうか・・・と思い

CB007284-036E-4787-8E93-35BFE9A8F129あわてて整復捧を抜き出し

また手で膣内を触診すると

子宮の肉塊は消えてなくなっていた。

子宮頚管が普通の産後の牛のように閉じ気味にこちらを向いていた。

「とりあえず、子宮脱は治ったみたい、後はその中に抗生物質を入れときますね・・・」

3815B564-1177-477E-AB00-FEE573401729私はそう言って、言ったとおりの治療を施して

帰路についた。

うまく子宮が整復できていれば

明日はあえて診察に来なくてもいいと思った。

そう思っていた私の頭の中から

Рさんの牛の事は

かなりのスピードで消え去ろうとしていた。

ところが

翌日の朝

Рさんから

電話がかかって来た・・・


(この記事つづく)


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