分娩後6日目という珍しい時期の子宮脱、
その初診で整復棒を深く差し込んで、
とりあえず整復したものの、
その後の食欲廃絶、
起立不能となり、
これは子宮穿孔から腹膜炎にでもなってしまったかと、
心配しながらの治療が1週間続いた。
そして7診目、
Рさん宅に行くと、
牛舎のタイストールには、
牛の姿はなかった。
昨日のРさんの話だと、
自力で立った時に外へ出す
ということだったので
私は牛舎の外のパドックへ目をやった。
そこへРさんの奥さんがやって来た。
「牛、外に出したの?」
「はい、そこにいますよ。」
見ると
治療していた牛がパドックの雑草の中にポツンと立っていた。
診察しようと近寄ると
牛はにげまわるよにスタスタと歩いた。T38.8 P100 起立自由 食欲回復傾向。
「胃の動きもよくなってるし、大丈夫だね。今日で終わりにしましょう。」
「はい。」
私はこの牛に最後の抗生物質を筋注して、
治療を終了した。
その後、現在まで約2週間
この牛は元気にしているようだ。
腹膜炎はおそらく無いと思われる。
ただ、どうして
分娩後6日も経って子宮脱になったのか?その原因として考えられるのは
分娩直後から子宮の反転があり
それがいつまでも治らずに残っていたのではないだろうか?
さらに、この牛はストールで立つのが下手なので
普通の牛よりも子宮が押し出される腹圧が強かったのではないだろうか?
それに加えて、やはり低カルシウム血症があったのではないか?
すなわち
「子宮の反転」
「腹圧」
「子宮の軟化」
という3つの特殊な事情の重なりを考えた。
そして
今回の珍しい子宮脱から
一般的な分娩直後の子宮脱の原因にまで
想像を巡らせてみると
まず
胎児や胎盤の娩出に伴って生じる
「子宮の反転」
という第1の現象があって
怒責や横臥(起立困難)によって生じる
「腹圧」
という外力と
低カルシウムなどによって起こる
「子宮の軟化」
という現象
この3つが重なって
子宮脱が誘発されるのではないだろうか?
この3つの現象は
子宮脱の三要素(!?)
とでも言えるのではないか?
この三要素の重なりが
ある限界を超えた時
子宮脱が発生する(!?)
そんな子宮脱の発生機序を
おぼろげながら
想像させるような
今回の症例だった。
(この記事終り)
左の写真の道具を使う
「牛のニコイチ捻転去勢法」
の動画をYouTubeにアップしています。
ここを→クリックして
見ることが出来ます。
コメント一覧 (4)
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- 2017年10月22日 20:06
- >馬好きさん
白血球の単位はそれで良いです。
牛の体温は39.3℃までは平熱とみなされています。
心拍数100もよくある値で
これをもって腹膜炎と診断することは無理だと思います。
-
- 2017年10月22日 22:42
- 私が子宮脱の最大要因は、胎盤停滞と思っているんは、数日後の子宮脱には胎盤停滞が必ずあったからです。今回のは違ったようですが、順調なら翌日にはラグビボール大にまで収縮する子宮が、生々しく見えているのも気になります。
(1)での廃用の件少し書きます。子宮切除した牛ですが、反転する子宮が堅くなって戻せず仕方なく、子宮内に腸管や膀胱がないことを確認して、頸管から少し手前の(戻すと奥になります)5センチほど辺りを、強力なゴムで縛って切断します。縫合はしません。できません。子宮の莢膜を合わせるので必要ないと判断しました。
この牛は順調に回復して、ほぼ搾り切ったのですが、繁殖障碍の対象にならないかと言うことが問題になりました。連合会からは対象になるという回答をもらいました。
そこで問題になったのが病名です。当然私は”子宮脱”を主張したのですが、産褥期病名で5号廃用はおかしいという反論です。そこで種牛が睾丸炎で切除した場合、睾丸炎という病名になるので、仕方なく子宮炎いう診断書を提出しました。ところが存在しない子宮が病名になるものおかしいという見解でした。
こんなやり取りを何度か繰り返しましたが、連合会は十分廃用対象になるというのであれば、病名は私の判断に任せろと押し切って、子宮炎にしました。この間2カ月ほども経過していました。認定はしていただきました。
ところで、今回農業災害補償法がなくなりますよね。新農業保険法の趣旨だと、このように搾り切った牛は廃用、補償の対象にならなくなるのでしょうね。
-
- 2017年10月23日 04:39
- >そりゃないよ先生
ご苦労の滲み出るお話
ありがとうございます。
現場の実情と
制度の番人との
腹立たしくも面白いやり取りは
我々のよく経験するところですね。
これからの農業政策は
ますます現場の実情から離れ
お金のことだけに執着してゆくように感じます。
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白血球数の単位は×10²/mlでしょうか?
体温39度の発熱と心拍100。子宮の背側の穿孔で子宮内の貯留物は腹腔内には漏れなかった。
やはり腹膜炎ではないでしょうか?