牛は泣き虫

牛は泣き虫である。

特にホルスタインは泣き虫である。

酪農家へ往診に行き、

健康を損ねた搾乳牛を診て、

点滴治療をすることになり、

その牛にモクシをかけて、

近くの柱に頭を縛りつけ、

長い首を引き伸ばして、

その頸静脈に、

太い針を刺そうとしたその瞬間、

針を持った手の上に、

温かい雫が、

ぽとり

と落ちてきた。

牛の涙だった。

体調が悪くて

ややくぼんだ目に

透明な涙を溜めて

その涙が

ぽろりぽろり

と落ちてくる

牛が泣いているのだ。

声はほとんど出さず

不安げに

悲しげに

私の方を

じっと見ながら

牛が

静かに

泣いているのだ。






左の写真の道具を使う

「牛のニコイチ捻転去勢法」

の動画をYouTubeにアップしています。

ここを→クリックして
 
　見ることが出来ます。  
　
 

Comments

[1. きなこ]

牛の涙が出ているかどうか、は、脱水の程度の指標になりますか…？

乗馬ではあまり見たことがないですが、
牛のほうが体内の水分量が多いのでしょうか…？

情緒的な記事に散文的疑問で恐縮です。

[2. 豆作]

＞きなこさん
涙腺の局所的現象なので
全身の脱水の指標にはならないと思います。
馬は牛よりも涙を出さない動物だと思います。
また、牛のほうが馬よりも
涙の出やすい過酷な環境で飼われている
とも言えるかもしれないです。

[3. m.k]

涙の出やすい過酷な環境、…、

牛さ〜ん、
牛さんの涙は見るだけで悲しいです。

[4. 豆作]

＞m.kさん
牛の健康を守るためのガイドライン
牛の労働基準法が欲しいですね。

[5. anko]

泣きますよね。。。
麻酔するにも最初は針刺すし、どうしたって何もしないわけにはいかないですから
「まあまあそう泣くなよ〜」とか「痛いよな〜」と話してみてます。
我々はちょっと針が手に刺さったり、風邪ひいただけで大騒ぎするんですから、その苦悩はいかばかりか。

[6. 豆作]

＞ankoさん
こちらを向いていない方の目からも同様に涙を流しています。
個体差があるようで
ウルウルするだけの牛もいれば
ぼろぼろ涙をこぼす泣き虫もいますよね。

[7. hig]

感傷に走るのも良いのですが、一般の方に信じ込まれると困るので科学してみる必要があると思います。

下瞼は涙を溜める役割をしています。鼻涙管の開口部（涙点）は目頭側（内隅角）にあるので、静脈注射のために鼻を高くするように保定すると、排液ができなくなり涙がこぼれる”だけ”なのかもしれません。

全身麻酔してほとんど意識がない馬もよく涙をこぼします。「可哀想に、痛いんだ」と言う牧場の人がいますが、これも横臥させたことで鼻涙管が働かないから”だけ”だと思っています。手技の痛みとも関係なさそうに感じます。

[8. 豆作]

＞hig先生
その説明には疑問点があります。
涙の量が通常よりも増えないと
ぽろぽろとこぼれることはないと思います。
通常よりも涙の量が増えるような
何らかの原因があるのではないかと思われます。
またもう一つの疑問点は
人の場合と比較すると
坂本九さんの歌にもあるように
「涙がこぼれないように」人は上を向きますが
牛が上を向くだけで「涙がこぼれる」というのは
その逆なので理解しづらいです。
物理的な角度の変化による流涙ではなく
涙の絶対量が急激に通常より増える
何らかの原因があると考えた方が自然だと思います。

[9. hig]

俳人としての感傷に茶々を入れるようになって申し訳ありません。

もうしわけありませんついでに・・・・
肉食獣、猿類は、顔の正面に眼があるので、上を向くと涙がこぼれ難いですが、草食獣は顔の側面に眼があるので、吻側を挙げると目じりから涙がこぼれやすいのです。

涙の量を測る方法はあるようなのですが・・・科学しても仕方がないことかもしれません。

平岩米吉をご存知でしょうか？
歌人にして、愛犬家だった人です。犬は笑うのか？を真面目に研究していたそうです。

めずらしき　犬の笑いと訪う人に
毛並み逆立て　怒る我が犬

[10. 豆作]

＞hig先生
牛の頭を縛って頚静脈に注射をするとき
涙をこぼす牛というのは、むしろ少数派で
多数派の牛は涙をこぼさないのです。
少数派の泣き虫な牛に
特別な事情があると思わざるを得ないというのが
私の考えです。
涙をこぼす牛をことさら取り上げることが
感傷であると言うのはその人の勝手ですが
私には感傷という言葉だけでは括り切れない現実が
そこにあるような気がしてなりません。
平岩米吉という人を私は知りませんでした。
とても興味深い方を教えていただいて感謝です。

めずらしき　牛の涙と訪う人に
　　　泥を浴びせて　逃げる牛群　　（豆）

[11. N.K]

点滴で牛を縛るときに、上向き（鼻先が上向き）に縛っても下向きに縛っても涙は出るようです。私は涙する牛が少数派とは思いません。モクシで締まってるのか？やはり涙が増えてるのか？わかりませんね。牛の喜怒哀楽や疼痛反応の仕方などの研究ももっと進んでくれるとありがたいですね。

[12. 豆作]

＞N.Kさん
この記事を書いてから気になり始め
今日は手術して寝かせた牛の目を観察したのですが
その牛は涙もろくなかったようで
下になった目からも上になった目からも
涙はこぼれていませんでした。
涙がこぼれる時というのは
頭部の物理的な角度の変化によってこぼれるというよりは
その牛の涙の絶対量によってこぼれたりこぼれなかったり
するのではないか、と推測されました。

[13. きなこ]

馬術競技場で、「一昨日競技に出て、明日もハードな競技に出るから、ホエキしてほしい」と頼まれた16才のサラブレッド、やや疲れているようす、が、左側からビタミンーリンゲルを輸液していると、半眼になって眠そう、、と、700入れたくらいから、涙を流しだしました（驚）さらに驚いたのは、左側は眼を閉じて涙を流しているのですが、右側の顔は、眼をぱっちり開けて、涙もなく、普通の顔でした！
「イルカは脳の半分ずつ寝れるそうだけど、馬も出来るのかな？！立って寝たりするし！！」と、選手の人たちと盛り上がりました。
もしかして左眼おかしいのか？と、後で見に行くと、両目ぱっちり開けて、目やにもなく、元気に餌をモシャモシャ食べていました。
馬は元気になって、次の日の競技もバッチリでした！・・但し選手が最後まで乗っていれば(^_^;)

馬も半分脳ずつ寝れるとしたら、大発見ですよね。

[14. 豆作]

＞きなこさん
とても面白い出来事ですね。
半身ずつ寝るのであれば
立っていても大丈夫なのでしょうか?
牛の場合はどうなのでしょう?
イルカもそうならはクジラやシャチもそうなのでしょうか?
興味は尽きないですね。

[15. きなこ]

進化分類上、牛ほうが、イルカに近い（鯨・偶蹄目と、イルカと牛は同じ目です、馬は奇蹄目）ので、牛のほうが可能性はあると思います！

[16. 豆作]

＞きなこさん
なるほど。
実に興味深い話です。
イルカと牛が生物学的に
近しい関係とは！
イルカの保護に熱心な人は
牛の保護にも心を寄せて欲しいですね(^^)

[17. きなこ]

点滴で涙を流したのを見た馬はその一頭だけです、牛とはだいぶん違うようですね。
その馬はその時、非常にリラックスしていました、保定も無口を馴れた人が持っているだけで、自然に立っていて、どちらかというと嬉し涙に見えました、「あ〜極楽、極楽」みたいな。
点滴中に気持ちよくなるのか、半眼になってうつらうつらしてヨダレを垂らす馬はよく見ます、夏バテの脱水改善処置のとき。
中高齢の馬の中には、疲れたとき点滴用意して行くと、馬のほうから「あ、獣医さん打って〜！」と頸を伸ばしてくる馬もいるように思います、リンゲル→体が楽になる、と経験上分かっているのじゃないか？と思いますね。
逆に、イヤな馬は、単純に暴れますよね、
馬が泣いてガマンすると思うときはないです、
嫌なこと→逃走または闘争、という分かりやすい動物なのでしょうか。。

[18. 豆作]

＞きなこさん
私も馬の点滴中に
涙を流したのを見たことはないです。
牛では頻繁にあります。
牛の方が我慢を強いられても
じっと耐える印象があります。
牛は諦めが早く涙を流し
馬は諦めが悪く怪我をするまで暴れる。
牛で一般的なスタンチョンへの繋留や
フリーストールへの閉じ込めは
馬ではあり得ない飼い方ですね。

[19. ちびしゃん]

種付け時に涙を流した繁殖牝馬がいました。
その時は鼻ネジが痛かったのかな、と思ったのですが種馬所のスタッフの方が『とても良い発情の時は牝馬の目が潤むよ』と言っていたの思い出しました。
馬は気持ち良いと涙が出るのでしょうか？

[20. 豆作]

＞ちびしゃんさん
そうですか。
それは初めて聞きました。
馬は本交ですからね。
牛はどうなのでしょう。
牛はほとんど人工授精なので
牛の場合はそういうことが起こるのを
見ることは出来そうに無いです。
それにしても
心を動かされる話ですね。

[21. きなこ]

ちびしゃんさん

夏バテ時の点滴の馬は気持ちよさそうですが、ヨダレを垂らす馬はたくさんいますが、どの馬も涙は出ませんね。

牝馬は発情期のピークに（種付けしなくても）涙を出す、という説は、たしかムツゴロウさんの本？で読んだことがあります。

普段でも馬の涙が出る場合は、こちらでは鼻涙管の狭窄を疑います。輸液中に左側だけ涙が出た馬は、それを疑いました。

ちなみに、ウチの息子（中学生）が疝痛になってのたうちまわりましたが、病院で痛み止めとリンゲルを点滴されていると、クカ〜と寝てしまいました。人も点滴は気持ち良いみたいです。疝痛は痛み止めと輸液で治りました。馬といっしょでした。

[22. きなこ]

ムツゴロウさんの本？で読んだことはありますが、私は牝馬が泣くのは見たことがありません。
フケになると、ちょっと触っただけでも「ヒーッ！」と言って蹴ってくる、こっちが泣きたくなるようなジャジャ馬ぞろいです(^^;

豆作先生の情緒的記事に失礼いたしました。

[23. 豆作]

＞きなこさん
ヒトの場合われわれは病気で出る涙と
感情から出る涙をよく区別できますが
ヒト以外の動物の場合は
それをなかなか区別することができず
どうしても科学的な分析だけで終わってしまうことが多いようです。
動物の感情というのは
なかなか理解しづらいですが
哺乳類同士ならばある程度の感情理解は出来るかと想像します。

[24. 豆作]

＞きなこさん
ムツゴロウさんのような方だけではなく
もう少し一般的な方々も
動物の感情についての理解を深める必要があるのではないかと私は考えています。
万葉の古人などは現代人よりも
その点では優れていたのではないかと想像します。

[25. きなこ]

馬術は、馬の感情を正しく忖度する（流行語！）こと抜きには、成り立ちません。
馬は気持ちいいと涙を流す、と、不正確な？情報の発生源となることを憂慮しました。
ムツゴロウさん？の本でも、牝馬の発情周期に関連づけて書かれていたと思います。馬が泣くシーンを撮りたいカメラマンに、次は３週間後だ、みたいな。う〜ん性的興奮に関連するのかな？牡馬も興奮すると鼻水出ますよね？
馬はリラックスするとヨダレが出る、というのは、あると思います、昔から馬術書でも言われていることです。先人は馬をよく見ているな〜！と思うことは多いです。
今でも、競技でよいパフォーマンスを求めるために、馬の感情理解は必要なのだと思われます、上手な人ほど繊細に常に考えているように思います。

牛の感情理解も進むとよいですね。

[26. 豆作]

＞きなこさん
少なくとも平安時代の貴族が乗るための
牛車を操る人たちは
暴走させないように
牛の感情を正しく忖度していただろうと
想像できます。
どのような技術があったのか
文献などがあれば読んでみたいです。