酪農家の⌘牧場からの電話で、

稟告は、

「数日前から尻尾を上げて、産気づいているようなのだが・・・」

というものだった。

朝の往診の振り分けをしていた我々獣医師たちは、

皆それを聞いて、

共通した病名をを頭に思い浮かべていた。

「(子宮)捻転ですかね・・・」

「気腫胎かも・・・」

⌘牧場にはK獣医師が往診することになった。

「昼からの帝王切開も、ありですね。」

「そうですね。」

午前中の

自分の往診を終えて

診療所に戻ってみると

手術室には手術の準備がされていた。

「やっぱり手術ですか?」

「ええ。捻転ではなかったんですけど、全然出なくて。化け物かも・・・」

「奇形ですか?」

「尾位なんだけど、何だかおかしいんですよ。」

牛が運ばれてきて

K獣医師とT獣医師が手術室に入った。

昼の弁当を食べ終えた私は

準備室で

午後からの往診の用意をしていると

隣の手術室で助手をしていたT獣医師が来て

「安田さん、ちょっと手伝ってもらえますか?」

「・・・出ないの?」

「何だかおかしいんで。」

「・・・やっぱり奇形?」

急いで手術用の手袋を履いて

牛の腹腔内の

子宮を探り

胎児の前足らしきものを掴み

T獣医師のメスが

子宮を切りやすくなるまで引き上げた。

「重いですね・・・」

子宮の創口から

前肢を1本出して掴んでも

もう1本の前肢がなかなか掴めなかった。

K獣医師の手がようやくもう1本の前肢を掴み上げ

2本の前肢が創口に現われたが

「なんだか曲がってませんか・・・」

「奥に頭があるんですけど・・・」

「デカイですね・・・」

「眼窩には指がかかるんですけど・・・」

「鈍鈎(どんこう)使いますか・・・」

我々の後ろで見ていたS獣医師に

IMG_2240鈍鈎を用意してもらい

それを胎児の眼窩に掛けて

術創を鋏でさらに開大して

前肢と同時に引いてゆくと

ようやく

IMG_2241子熊の頭のような

巨大な頭部が現われた。

前肢を縛り付けたロープを

チェーンブロックのフックに付け替えて

さらに胎児を吊り上げてゆくと

IMG_2242巨大な胸部が現われ

さらに巨大な臀部が続いて現われ

最後に太い後肢2本が現われ

見上げるほどの

過大児の全貌が現われ出た。

IMG_2243「・・・。」

あまりの大きさに

我々は一瞬言葉を失った。

「・・・うわー、で・・・っかい。」

「生きてますよ・・・。」

IMG_2244床に降ろされた巨大な胎児は

鼻で大きな呼吸を開始した。

しばらくすると

頭を上げようとしては

その大きな頭部を

床に投げ打っては四肢を動かし

とうとう頭を上げた。

IMG_2248「・・・何キロありますかね。」

「80キロ、いや90キロ・・・」

「これだけ太くてデカかったら100キロあるかも・・・」

「ところで、この牛の分娩予定日は?・・・」

「来年の1月7日だそうですよ・・・」

IMG_2245「えっ?・・まだ予定日来てなかったの?・・」

「まだ2週間も早い・・・」

「そんなことあるのか・・・」

我々はあまりの胎児の大きさと

その異常さに

ただただ

驚くばかりだった。


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左の写真の道具を使う


「牛のニコイチ捻転去勢法」

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