「産気づいているんだけど、足が出てこない。手を入れてみたら、尻尾(シッポ)しか触らない。」

そんな稟告で往診に行ったФ牧場。

手を入れてみると、

なるほど尻尾しか触らない。

臀部が産道に座り込むように進入し、

両後肢の先端は前方へ向いてしまっている。

いわゆる臀位(でんい)の胎児失位の難産である。

このままではどうしようもないので、

手を入れて後肢の腿から先を探ってゆくと、

胎児の右後肢の飛節に触れた。

飛節からさらに先の中足骨部にはなんとか手が届くものの

いきなり中足骨を手で握ることは不可能だった。

「まずは飛節に産科チェーンを掛けますね。」 

こういう手元から遠いところは

産科ロープよりも産科チェーンの方が操作しやすい。

軽い産科ロープの先端は飛節の上から向こうへ落としにくいが

重い産科チェーンの先端は飛節の上から向こうでタラリと垂れ下がる。

垂れ下がったチェーンの先端を

こんどは飛節の下から手を回して指で拾って手繰り寄せれば

産科チェーンを飛節に掛けることができる。

産科チェーンの操作は

重力を味方につけることができるのだ。 

めでたく産科チェーンを飛節に掛けることができたら

掛かったチェーンの手元をФさんに持っていてもらって

こんどは胎児の臀部を押して押して押しまくる。

飛節をチェーンで固定しておいて臀部を押せば

次第に飛節が産道近くへ引き出されてくる。

再び後肢を手で探ると

中足骨部から球節まで触れるようになっていた。

そこで産科チェーンのかかっている部分を

できるだけ中足骨の遠位に押しやって

もう一度チェーンを固定してもらって

私は再び胎児の臀部を押しまくる。

そして手を入れると

後肢の球節からさらにその先の蹄まで手が届くようになる。

そこでさらに産科チェーンのかかっている部分を球節にセットする。

セットした球節の部分の蹄が骨盤の内側へ向くように手で補助して

Фさんにチェーンを強く引いてもらい

それと同時にもう片方の手で胎児の臀部を強く押す。

ここが勝負どころだ・・・

グググっと胎児の右後肢が曲がって産道を通り抜け

右後肢の蹄が陰部から外に出てきた。

「よし、これで後肢が1本整復できたね。じゃもう1本。」

今度は左後肢の整復である。

もう片方の肢も

全く同じ操作をして整復をするのだが

最初の右後肢の整復の時よりも

胎児の位置と産道内に余裕ができているので

左後肢の整復は最初の右後肢の整復より

それほど時間がかからなかった。 

7BA576D9-702C-45F7-A404-15460148542Cついに後肢が2本

産道から外へ出た。

「これで、普通の逆子(さかご)と同じになったから、あとは引っ張るだけ。」

私とФさんは滑車を用意して

後肢の牽引の準備をした。

「ちょっと待って・・・、チェーンをロープに掛け替えるから。」

26F6478D-E236-41B7-AEF1-41920147725Aここは念のためなのだが

強く牽引するときは

産科チェーンよりも産科ロープの方が

胎児の肢へのダメージが少ない。

万が一とてもキツくて中足骨の骨折が起こるかもわからないと思った私は

念のために掛かっているチェーンをロープに掛け替えた。

「よし、引っ張って。」

尾位(逆子)胎児の後肢と臀部が

476D3DAC-A65E-4702-870D-8E6FF4C95D5D陣痛と共に現れて

胎児が牽引娩出された。

「お、まだ生きてるね。」

「ぶら下げて、羊水を吐き出させよう。」

私とФさんは2人で大きな胎児を抱きかかえ

近くにあった鉄柵に胎児の後半身を引っ掛けて 

1DA90C9D-18EC-4ADE-9198-7CD29201A4E2しばらく宙吊り状態にして

羊水を吐き出させた。

尾位では胎児の頭が最後まで子宮の中にあるので

羊水を飲み込んでいることが多い。

胎児が目をパチクリさせはじめたので

Фさんは胎児を床へ下ろし

E3597D2D-8D01-4146-913D-73F64336BA8B親の顔をそこへ導いた。

親牛は胎児を舐め始めた。

「そこそこの大きさの胎児だね、♂、♀、どっち?」

「・・・♀だ・・・♪」

「ちょっと待ってよ。もう1匹腹の中にいるかもしれないから。」

「え、双子だってかい?、おい、それは勘弁だなー・・・」 

「でもね、子牛がシッボから出てくるときって、双子が多いんだよ。」 

「もう片方が♂だったら、がっかりだな・・・(笑)」 

私は過去の経験から

双子の可能性を強く疑った。

恐る恐る

陰部から手を入れて

胎児がもう1つ入っていないかどうか

手をいっぱいに伸ばして子宮内を探った。

「あー・・・いないね、これ1匹だけだね。」 

「良かったー・・・♪」 

Фさんと私は

顔を見合わせて安堵した。

Фさんは60代前半

私は50代後半

息子さんと奥さんは外出中で

初老男子2名だけの

難産介助の仕事だった。


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左の写真の道具を使う


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