午後2時過ぎに、

▲畜産から難産の追加往診が入り、

同僚のK獣医師が往診に行っていた。

そのK獣医師から3時頃連絡が入り、

帝王切開することになった。

分娩予定日はほぼ今日だという。

胎児の臀部が産道に進入している

いわゆる「臀位」なのだが

手に触れるのは臀部ばかりで

後肢の手がかりは全くなく

胎児は子宮の奥深くに下がったままらしい。

連れてこられた難産の親牛は

まだ2産目の元気な牛だった。

「もう一度手を入れて、難産介助してみますか?」

K獣医師がそう言った。

「いえ、その必要はないです。すぐ帝王切開しましょう。」

帝王切開の準備をしていた私と同僚のT獣医師は

口を揃えるようにそう答えた。

ひとたび帝王切開をする事を決めた牛を

診療所の手術室に連れて来たときに

方針変更をして

経膣分娩を試みることはよくある事だ。

しかし

記憶を過去に遡って

その結果を振り返ってみると

帝王切開を中止して経膣分娩に切り替えて

娩出した牛の親子には

ロクなことが起こらなかった。

多くの胎児が結局は死亡し

多くの親牛が産後の疾病に悩まされた

という経験ばかりが

私の記憶の中に入っていた。

「切る(帝王切開)と決めて連れて来たのだから。」

「ムダなことはしないで、すぐ切りましょう。」

「はい、そうですね。」

我々3人の意思は一致した。

牛を寝かせて

左下けん部を切開し

そこから手を入れて子宮を探る。

牛の陣痛とともに第1胃が膨らみ

それがまるでエアバッグのように

創口から飛び出して来る。

目当ての子宮は腹腔の奥底に沈んでいて

胎児を掴む手がかりが乏しい。

しかし、何とか

沈んだ子宮の表面に胎児の肘(ひじ)の部分を発見して

それを手掛かりとして子宮ごと胎児を掴む。

用意しておいたインジェクターで第1胃ガスを抜き

第1胃を腹腔内へ押し込む。

この時

もう1人の獣医師が子宮を掴んだまま

頑張って支えていると

その下に第1胃を押し込むことによって

子宮が創口の方へ上がって来る。

「・・・ようやく、子宮を持ってこれた・・・」

「創口から(子宮を)出せますか?」

「・・・いや〜、それは無理・・・」

「じゃあ、(腹腔の)中で切りましょうか。」

「・・・そうして下さい・・・」

私は、子宮を手で支えながらそう言った。

K獣医師がメスで子宮をまず10僂曚廟擲した。

その切開創から手を入れて

胎児の前肢を掴むことができた。

「・・・足を掴んだんだけど・・・」

「持って来れますか。」

「・・・なんだか変・・・硬いですね・・・」

「奇形、ですか?」

「・・・そうかも・・・」

掴んだ胎児の前肢の球節は硬く曲がったままだった。

さらに、その隣にある頭部に手を回し

前肢と頭部を創口から露出させた。

そこに産科チェーンを巻き付け

そのチェーンを備え付けのチェーンブロックのフックに掛けて

IMG_4721ゆっくりと胎児を引っ張り上げてゆく。

途中で、創口をメスで拡げながら

ゆっくりと胎児が引き出される。

「・・・胎児の体が曲がってますね・・・」

「硬直してますね。」

IMG_4718「・・・奇形というよりは、死後硬直ですか・・・」

「そうですね、時間経ってますよ。」

「・・・すぐ切って正解でしたね・・・」

「これは(経膣では)直せない。」

「・・・ですね・・・」

IMG_4716摘出された胎児は

目が暗く窪んでいて

四肢や体幹が硬直しており

子宮の中に収まっている形のまま

前肢2本を

まるでカマキリのように

空中に遊ばせて

死後硬直していた。


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左の写真の道具を使う


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