「お産なんですけど、お尻から来てるんですけど・・・」、

という電話は、

良くある稟告である。

先日の牧場からの電話もそうだった。

「わかりました、すぐ行きます。」

牧場に着いてカッパを着て

助産の準備をしながら

(きっとまたいつもの臀位、そして双子かな・・・)

私はそんな予想を立てていた。

分娩房へ行くと母牛は寝たままだった。

産道に手を入れると

尻尾と臀部が侵入していた。

陣痛が弱くても親が寝たままでは整復が難しい。

「立てないの?・・・」

「・・・はい、・・・カルシウムはまだ打ってないです。」

「じゃあ、まずカルシウムを打ってからにしよう・・・」

「・・・了解です、じゃその間に親牛を吊る準備します。」

ベテランの場長と従業員君とが

テキパキと牛の保定と吊起の準備をしてくれた。

カルシウムとリンゲル液とプラニパートを投与し終わり

親牛の腰にハンガーを取り付けて

ゆっくりと吊り上げて

再び産道に手を入れた。

胎児の臀部のすぐ奥に

胎児の飛節を触ることができた。

「まずは後ろ足を直すから・・・」

私は子宮の奥に向いて要る後肢の球節にチェーンをかけて

臀部と飛節を押し込みながら

後肢の1本目そして2本目を整復した。

ところが

後肢の蹄が2本とも陰部の外へ向いているのにもかかわらず

胎児の臀部がまだその近くにあって

産道が窮屈で胎児が動かない。

(あれ・・・この臀部と後肢は別の胎児なのかな・・・?)

臀位は双子が多いので

一瞬、そんな考えが頭をよぎった。

だが、たとえそうだったとしても

この胎児の臀部は

いったん産道の奥へ押し込んでやらねばならない。

後肢につけたロープを従業員君に持っていてもらって

私は胎児の臀部を思い切り押した。

産道にはまり込んでいる臀部は

なかなか奥へ落ちなかった。

と、その時

ズボッ・・・

と胎児の後肢の1本が伸びて

膝と飛節が陰部の外にあらわれた。

その瞬間、私の目の前がぼやけ

生ぬるい胎児の羊水と尿水が顔にかかった。

そしてまたズボッ・・・

と2本目の後肢が伸びて

2本の膝と飛節が陰部の外にあらわれた。

その奥には先ほどの臀部があった。

胎児は1つだけだった。

「よし・・・これでやっと普通の逆子になった・・・みんなで引っ張って・・・」

場長と従業員君と私の3人は

用意した滑車で胎児の後肢を引いた。

IMG_1444臀部が外へ出た後

胸部が外へ出るまでまた強く引いた。

そしてようやく

胎児の頭が出て助産が終わった。

大きな♀の胎児だったが

残念ながらすでに息はなかった。

IMG_1443「普通にお尻から来てるんじゃなかったよ・・・」

「・・・いやーキツかったっすね」

「お尻と後肢が2本とも同時に産道に入っちゃってた・・・」

「・・・それでよけいにキツかったんすか」

「そう、まるで産道の中でお座りしてるみたいな格好だったね・・・」

これはいわゆる「臀位」というより

IMG_1442その新しいバリエーションとして

「正座位」⁉︎

と言ってよいかと思った。

この胎位は

片足のみの経験はあったが

両足が揃って正座して

産道に詰まったという難産は

私の今までの記憶に無いものだった。


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