北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

牛の診療

牛が好きになる漫画本♪

(株)KADOKAWA・発行のコミック、

DA57B0B1-29BC-4E86-9003-3CB51F1EC866『毎日、牛まみれ』・牛川いぬお・作、

を読んだ。

この人の漫画はどこかで見ていて、

何故かとても印象深く記憶に残っていて、

先日、それをまとめた一冊の本が出た、という情報を得たので、

早速ネットで購入したのだ。

漫画本は気軽に読めて楽しい。

しかも

内容が酪農現場の仕事とあって

あっという間に読み切ってしまった。

そして

思っていたよりもずっと面白く

深い内容だったことに感動した。

「毎日、牛まみれ」

というタイトルからして

私の心を惹きつけるのに十分だが

ページをめくって行くにつれて

実際に作者と一緒に酪農の現場に立っているような

臨場感の中に入り込んでゆくのだった。

とにかく、牛の絵が上手だと思った。

牛を普通に写実的に描いている絵があると思えば

牛をデフォルメして漫画チックに描いている絵もある。

それらの牛の絵のすべてが

とても表情豊かなのである。

しかもその豊かな表情は

決して擬人化し過ぎておらず

我々がいつも見ている本当の牛の表情を外れていない。

これはよほど鋭い観察眼と

牛の心理を読み取れる感性がなければ

できないだろうと思った。

盛り沢山の内容の中から

私が特に好きになったシーンを

2つあげておきたい。

1つ目は

牛どうしのペロペログルーミングの話

BB8EFED3-E31F-47EA-ACD2-2FC701A35C8Bそれを描いている絵がとてもかわいらしく

誰が読んでも牛の気持ちが伝わって来る。

それでいて無理がなく

本当の牛の行動が描かれている。

これほど牛の心理を良く観察して理解し

それを表現している漫画があるだろうか

F772167D-8E22-4BE8-BF55-CA9A43C83159と感動してしまった。

さらに、そのシーンに対して

作者は牛の行動だけにとどまらず

こんなコメントを書いている

「誰かのために頑張っても、それが必ずしも報われるわけではないのは、人間も牛も一緒なのかもしれない」

そして、さらに

「思いがけない形で苦労が報われることがあるのも、人間社会と一緒なのかもしれない・・・」

今まで、こんな言葉が出てくる酪農関係の本を

私は読んだことがなかった♪

2つ目は

子牛のトラブル(この話では疥癬症)の話

酪農場の社長がなかなか薬を買ってくれず

子牛の管理に支障が出たとき

農場にやってきた肥育農家のオヤジが

それを見て激高して発した言葉

「おう、なんやこの牛は?!、社長どこや、社長だせやコラァ」

そして、さらに

「社長、あんた、どんな管理しとんねん!!、牛がカワイソウって思わんのか!!、この仕事なめとったら承知せんぞコラァ、わかっとんのか・・・」

これまた今まで、こんな言葉が出てくる酪農関係の本を

私は読んだことがなかった。

5E74C695-2181-4A2C-9EEA-4D233EB7A2D1何と、胸のすく

すばらしい言葉だろう♪

この漫画本の

ほんの一部を紹介したにすぎないけれども

私はこの漫画の作者

牛川いぬおさんにすっかり魅了されてしまった。

この本を読んだ後に

酪農場へ仕事に行くと

牛たちの表情が違って見えてくる。

99281ADA-B0AF-4CEB-B5CB-6F350456460Dこの本を読んだ人は皆

今までよりもずっと

牛のことが好きになっている。

そんな不思議なことが起こる

魅力的な漫画本♪

是非お勧めしたい一冊である。


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牛の処女膜

「ホルの育成牛に発情が来たけど、授精できない・・・」

▼牧場からそんな電話がかかって来た。 

よく聞いてみると、

「人工授精の注入棒が、うまく入らない・・・」

のだという。

もう少しよく聞いてみると、

「子宮頸管外口がよく分からず、奇形なのではないか・・・」 

という。

なるほど、

私もかつて何頭か、

そんな未経産の牛に遭遇したことがあった。

せっかく1年以上、その牛を育てて 

めでたく発情が来て

さあ種付け、と思った時に

そんなことになってしまうと

飼主さんの落胆は大きい。

先天的な生殖器の異常では

治療は無理であり

保険金をもらうこともできない。

繁殖用のホルスタインの雌牛が 

いきなり

食肉用の牛になってしまうという

そんな辛い診断をしなければならないのか、と思いつつ

▼牧場へと向かった。

問題の牛は

よく成長した元気なホルの育成牛だった。

「若い授精師さんが、何度も挑戦したんですが、入らないんです・・・」

外陰部が紅潮して緩んでいる。

私は長年愛用の注入棒を差し込んでみた。

すると

その棒の先がスーッと奥に進み

注入口から尿が漏れて来た。

子宮頸管ではなく

その手前の尿道に入ってしまうのだ。

何度やっても

子宮頸管外口ではなく

尿道口に入ってしまうのだ。

「・・・ははー・・・これはもしかして・・・」 

私はかつて

こういう牛にも遭遇したことがあった。

「・・・これは奇形じゃないよ、きっと・・・」

私は即座に

飼主さんに辛い診断を宣告しなくて済むだろうと思った。

「・・・膣鏡を入れてみるからね・・・」

私は注入棒を

膣鏡に持ち替えて

牛の外陰部から

その膣鏡を上向き加減に

膣の背壁を沿うような角度で挿入し

少し力を入れて

さらにその膣鏡を強く挿入した。

プツン・・・

という感触があり

膣鏡は根元まで挿入された。

挿入した膣鏡のネジを巻いて開くと

開いたところから

ドロリ・・・

と白く濁り気味の発情の粘液が流れ出して来た。

IMG_5715発情粘液の後から

鮮血が滲み出して

ポタポタと落ちて来た。

「・・・たぶんこれでよし・・・これは処女膜だよ・・・」

「処女膜ですか?・・・」

「・・・たまに膜が硬くて厚い奴がいるんだよ・・・」

私は膣鏡を抜いて

再び愛用の注入棒に持ち替えて

その棒の先端を膣内に挿入した。

IMG_5713もう片方の手は

直腸から子宮頸管をつかんでいる。

子宮頸管外口と思しきところへ

注入棒の先端を誘導すると

その先端は

子宮頸管外口へスーッと入った。

「・・・今度は普通に・・・頸管に入るようになったから・・・」

「ほんとですか・・・」

「・・・もう大丈夫、次回の発情で普通に授精できるよ・・・」

「ありがとうございます・・・」

私は

久しぶりに

ホルスタインの育成牛の

処女膜破りを経験したのだった。


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首の腫れ物(4)

長い間、

乳牛の診療をしていて、

頻繁に遭遇する体表の膿瘍。

その中でも今回の膿瘍は、

特に印象的な症例となった。

搾乳牛の頸部背側に、

ラグビーボールをふた周りも大きくしたような、

巨大でしかも深く、

切開して手を入れた時、

頚椎をほぼダイレクトに触れるような所まで、

膿瘍が侵入していた。

場所が場所だけに

切開に伴う出血やその他のダメージに対して

色々配慮した方が良かったという反省点も多かったが

ともあれ

何でこんなところに

こんな大きな膿瘍ができたのか?

それを解明することは重要だった。

実は

その答えは簡単だった。

写真を見て頂けれは直ぐわかると思うが

BlogPaint牛を繋いでいるタイストールの

横に渡してある2本のパイプ(ネックレール)のうちの

上の方の位置が

適正な位置ではない。

赤のペンで囲った部分は

牛の膿瘍のほぼ頂点にあたる。

黄色く囲った部分は

ネックレールが牛の頸部のその部分に当たって

対応する部分だけがテカテカに光っている。

△さんの搾乳牛が採食しているのを

ずっと観察していると

TMR(まぜ餌)が目の前に撒かれると

牛は首を伸ばしてそれを食べ始める。

65819324_2293160414234312_3676162813312630784_nその時

ネックレールが低いので

頸部がネックレールに当たる。

食欲旺盛な牛はそれに構わず

首を伸ばして餌をさぐると

牛の前半身の体重が

前肢ではなく

ネックレールに当たっている頸部にかかり

頸部背側の1点に

牛の前半身の体重がかかる。

△さんの他の牛達を観察していると

多くの牛達が

前足を浮かすほど首を差し出して

餌をがむしゃらに食べている。

よく見ると

ほとんどの牛達が

頸部背側の

ネックレールに当たる部分が

瘤(こぶ)になっていた。

コブというかタコというか

ほぼ全ての牛の頸部背側に

ネックレールダコ

が出来ていたのである。

その中で

今回の牛は特別にタコのダメージがひどく

そこに細菌が感染して

膿瘍が形成されていったものと思われる。

タイストールの

ネックレールの位置を直さない限り

この様な症例は

後を絶たないだろう。


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首の腫れ物(3)

切開手術をした翌日、

△さん宅へ様子を見に行くと、

牛は変わらぬ様子で、

普通に餌を食べていたが、

私を見るなり、

緊張した面持ちで立ち上がった。

一番心配していたのは

出血だったが

それはもう止まっていた。

IMG_5618しかし

腫れの大きさは

あれだけ大量の膿汁を

排膿したにもかかわらず

腫れがほとんど変わっていなかった。

これはどういうことなのか?

IMG_5619おそらく

膿汁に替わって

血液と漿液が充満し

そのために

腫れの大きさはさほど変わらぬように見えるのだろう。

ここで

縫合したところをすぐに抜糸して

内容を排出してしまえば

腫れは小さくなるかもしれないが

昨日切開したばかりの創部から

また出血が始まるのは嫌だったので

今日はそのまま縫合部を放置して

毎日抗生物質を投与することにした。

そして

それから1週間後

縫合部分の抜糸をした。

腫れは相変わらずのように見えたが

IMG_5639若干の

萎れた感が観察された。

更に

それから1週間後

この牛の様子を見にいった。

IMG_5706腫れは相変わらず大きかった。

切開部からは

血餅が漏れていた。

しかし

牛は元気で

普通に餌を食べているし

乳量もそこそこ出ているということなので

IMG_5707この牛に何かこれ以上

施すことも無くなったので

治療を終えることにした。

腫れはまだかなり大きい。

外見はまだグロテスクである。

しかし

手術前の腫れの大きさから比べると

手術後の腫れはその7割程度になり

IMG_5602緊張感は薄れていた。

このような頸部背側の

深い膿瘍を切開したのは

初めての事だった。

IMG_5638反省点は多々あり

なかなか綺麗には行かないものだが

今後の参考になれば幸いである。

それにつけても

なぜ

こんな大きな膿瘍が

頸部背側に出来てしまったのか?

その原因は何だったのだろうか?


(この記事つづく)



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首の腫れ物(2)

腫れ物にメスを入れてゆく。

皮膚を切り、

筋肉の層を切り、

筋肉の血管から出血のある中

更に切り進む。

切った層の深さが指の長さ以上(100mm)になっても

まだ筋肉層だった。

更に深く手を入れると

硬い膜のような物に触れた。

この硬い膜は何だろうか・・・?

創面を広げるように横に切り

手を深く入れて

この硬い膜のようなものに

メスを入れた。

プツリ・・・

という感触があった。

その数秒後

切った創面に

クリーム色のとろりとした液体が溢れてきた。

膿汁だった・・・

ということは

この大きな腫れ物は

血腫ではなく膿瘍であった。

牛の頸部背側の

深部にできた大きな膿瘍だった。

切開層をメスで広げて

手がすっぽりと入る大きさまで切開すると

大量の膿汁がとめどなくあふれ出てきた。

IMG_5606助手のH獣医師に

膿瘍を両手で押してもらうと

更に残りの膿汁がたくさんあふれ出てきた。

5リットル以上はあっただろうか。

膿汁の勢いが減ったところで

BlogPaint水道のホースを創部に突っ込み

その先端を膿瘍の奥へ挿入して

膿瘍の内壁を洗った。

排泄されてくる微温湯が

米のとぎ汁のように

BlogPaint次第に透明感が出て

さらにそれを続けると

排出液はほぼ透明になった。

ホースを抜いて

そのまま牛を手術台から下ろした。

創部からは出血が続いた。

IMG_5614止血のために

大きめのタオルを創部に挿入し

そのまま手術を終えるつもりだった。

ところが

しばらくすると

大量の血液を含んでヌルヌルになったタオルが

創部から出てきて落ちてしまった。

創部からは尚も出血が続いた。

数分様子を見ていたが

創部からの出血の勢いは治らなかった。

これだけ出血していると

そのまま牛を返すわけにはゆかなかった。

そこで仕方なく

創部を止血縫合することにした。

ズタズダに切れた筋層からの出血は

血管を特定することができなかったので

IMG_5615筋層を大きく針で掬い

出血が止まるまで繰り返すという

かなりラフな縫合をした。

ようやく

出血が止まったので

抗生物質を投与し

牛を△さんの元へ返すことにした。

△さんには

明日また往診して

様子を見に行くことを伝えた。

(この記事つづく)


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首の腫れ物(1)

「隣の牛、首が腫れてきたんでけど・・・」 

繁殖検診をしている途中で△さんがそう言った。

隣の牛の首を見ると

頸部の背側がラグビーボール大に腫れていた。

「・・・食欲は?」

「あります・・・食べてるからいいか・・・」

「・・・いや、でもこれはでっかく腫れてるね。」

「何なんですかね・・・繁殖に影響ありますか・・・」 

「・・・これだけ腫れてたら、ないとは言えないね。いつからこんなに?」 

「最近急に大きくなったような・・・」 

「・・・検診終わったら、穿刺してみよう。」

「はい・・・。」 

かくして

△さんの牛の繁殖検診を終えて

手持ちの注射針(18G・1-1/2)をシリンジに付けて

腫れ物にへ垂直に差し込んでゆき

シリンジのピストンを引いた。

しかし

注射器の中へは何も吸引されてこなかった。

場所を変えて何度も垂直に差し込んでは

ピストンを引くが

注射器の中へは何も吸引されてこなかった。

何度かやっていると

注射器の中にごくわずかの量の

黒っぽい血液が吸引されるだけだった。

「・・・?・・・。」 

「何ですかね・・・」

「・・・血腫じゃないのかな・・・?」 

「そうですか・・・」

「・・・血腫ならもう少し様子を見るか、小さくなるかもしれないし。」

「はい・・・」 

そんなことがあってから

約2週間後 

再び

△さんの繁殖検診の日がやってきた。 

「あの首の腫れた牛、小さくならないんですけど・・・」 

 「・・・全然?」

「はい・・・何とかなんないですか・・・」

「・・・うーん、じゃあ切ってみるか。」 

「お願いします・・・」 

かくして

その翌週の午後

△さんが

この牛を手術室に連れてきた。

BlogPaintその時の写真がこれ。

手術台に牛を寝かせ

大きく腫れている部分に

まずエコーを当ててみた。

しかし

厚い筋肉組織らしきものが映るばかりだった。

IMG_5603この腫れの正体は

血腫だと言ったものの

確証はなく

エコー画像も

診断の手助けには

いまいちならなかった。

「・・・切って見るしかないか。」

私はエコープローブを

メスに持ち替えて

腫れ物にメスを入れた。

すると・・・


(この記事続く) 


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土ぼこり(ブラウンアウト?!)

昨日の往診は、

町内の高台の地区を中心に回った。

我が幕別町は、

十勝平野のほぼ中心に位置し、

幕別丘陵と呼ばれる小高い丘陵地帯である。

春から夏にかけての風の強い日は、

とりわけ西風の強い日は、

日高山脈から吹き下ろす風

いわゆる日高おろしが

十勝西部の平野を抜けて

我が町の丘陵地帯にぶつかる。

ぶつかった風は

幕別地区の畑作地帯の土を巻き上げる。

初夏の畑作地帯は

播種したばかりのコーン畑や

定植したばかりのビート畑や

その他野菜などもまだ根が張っておらず

土がむき出しのままである。

しばらく雨が降らないと

IMG_5577畑の土は乾燥し

風に飛ばされる。

昨日の往診の道は

風に飛ばされる土ぼこりが

いたるところで舞い上がっていた。

特に風の強い高台の地区では

舞い上がった土ぼこりが行く手をふさぎ

IMG_5578視界を遮り

車の運転に支障を来した。

厳冬期の地吹雪と同じように

視界を遮られて

私は思わず

車を徐行させながら往診せざるを得なかった。

これが雪ならばホアイトアウトだが

土ぼこりだからブラウンアウト?!とでもいうのだろうか。

雪は冷たくても溶けるから綺麗だが

土ぼこりは暖かくても消えることがなく

目や口の中に入って

目や口を開けていられなくなる。

車の中は

吹き込んだ土ぼこりで

ジャリジャリに汚れてしまう。

昨日のラジオやテレビのニュースでは 

北海道の道東自動車道で

土ぼこりによる視界不良で

玉突き事故が3件も発生し

通行止めになったと報じていた。

これはまったく

他人事ではないニュースだった。

以下の写真3枚は

IMG_5574高台地区にある酪農家△さんの

チューリップ畑。

今が盛りのこのチューリップは

毎年綺麗な姿で目を楽しませてくれるのだが

IMG_5575昨日は

強風と土ぼこりを

必死に耐えている姿だった。

私もその姿を楽しむことなど出来ず

IMG_5576飛んでくる土ぼこりに

しばらくすると

目を開けていられなくなり

そそくさと退散した。 


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現代の公共牧場

先日の午後からの仕事は、

ホルスタインの育成牛の妊娠鑑定を約60頭。

妊娠の有無を確認するばかりではなく、

同時に公共牧場の職員が、

これらの牛達に防虫薬のついた放牧用の耳標を、

IMG_5541耳に装着してゆく。

この仕事は、

我々畜産関係者の初夏の風物でもある。 

若い育成牛たちを

広大な公共牧場へ放ち

豊富に草が伸びた夏の放牧地で

秋まで伸び伸びと育てるのが

その目的である。

今年は何頭の牛が入牧するのだろうか?

IMG_5543わが町の小さな公共牧場なので

数百頭にとどまっているようだ。

入牧の頭数がかつてより少なくなった事に加え

おどろいたのは

入牧を希望した農家さんがたったの3件だということ。

昔は町内で何十件もの畜産農家さんが

公共の育成牧場への入牧を希望して

家畜車が何台もやってきては

次々と入れ替わりつつ

朝からお祭り騒ぎで

若牛達を入牧させたものだ。

それがなんと

最近はたったの数件なのだ。

IMG_5546もっとも

その数件の農家さんは皆規模が大きくて

1件で数百頭もの若牛を扱っているところなのだが。

牛の頭数はほとんど変わらずに

農家さんの戸数が激減した

現代の畜産の現状を

ここでも実感することができる。

ただし

公共牧場への入牧頭数と戸数が

これほどまでに減ってしまった理由は

単なる経営規模の変化ばかりではない。

もう一つの理由は

あまり言いたくはないのだが

伝染病の蔓延である。

放牧地特有のピロプラズマなどの原虫病もさることながら

最近では

特に問題視されているのが

牛白血病

牛伝染性下痢粘膜病(BVD-MD)

ヨーネ病

の3つである。

この3つの伝染病は

畜産経営の規模の拡大傾向とともに

増加の傾向を見せており

必死な清浄化対策をしているにもかかわらず

蔓延し続けている。

公共牧場への

入牧牛の減少の

大きな理由になっているのだ。


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育成牛の胸部の外傷(4)

左右の胸に深い傷を負った育成牛。

2週間の治療で、

ひとまず治癒としたものの、

創部には大きな腫れが残り、

その腫れの中身は、

炎症による浸出液(漿液)が溜まっていた。

漿液であれば

膿瘍や血腫と違って

悪影響は少ないだろうと

そのまま様子を見ることにした。

それから

約1ヶ月の時間が経過した。

先日たまたま

別件で〓さん宅に往診に行った時

例の育成牛を見せてもらった。

その写真がこちら

IMG_5379「・・・あれ・・・あんまり綺麗に治ってないね・・・」

「そうですね。」

「・・・左のほうはまぁ、腫れが引いてカサブタになってきてるけど・・・」

「そうですね。」

「・・・右側の傷、まだ汚くて腫れも残ってる・・・」

IMG_5378「そうなんですよ。」

「・・・縫ったところ、開いちやったみたい・・・」

「そうなんですよ、実はこれ・・・右側のパイプに当たっちゃうんで・・・」

「・・・?」

「餌をやると、前に出て、当たっちゃうんです・・・」

IMG_5377「・・・なるほど・・・」

「当たらないようにするのが難しくて・・・」

「・・・そーなんだ・・・」

傷の手当てと

その後の治療法も手探りで

ベストとは言えなかったが

こういう結果になっているのを

目の当たりにすると

手術の後の管理の難しさ

さらには

育成牛の飼育環境の厳しさ

などを

考えざるを得ない。


(この記事終わり)


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育成牛の胸部の外傷(3)

術後5日目にして、

ようやく普通に寝起きするようになり、

食欲が正常に戻り、

なんとか助かったな、

と思えた育成牛。

左右の胸部に深い傷を負った牛に遭遇することは

今までそれほど多くはなく

ましてやその部分に 

手術を施すなどということは

あまり経験することがなかったので

どうなることかと思っていたが

回復の兆しを見せてくれたことで

ひと安心をした。

「でも先生、この腫れは・・・」

「・・・中身はなんだろうね。」

次の課題は

左右の創部にできた

プカプカと波動感のある

ハンドボール大の腫れだった。

IMG_5214こういう腫れ物の中身を

手っ取り早く検査するには

穿刺をすればよい。

超音波診断も大事であるが

常に持ち歩いていないので

IMG_5211注射器と針があれば簡単にできる

穿刺検査を私はいつもやっている。

今回は

右側と左側でそれぞれ穿刺をしてみた。

すると

色の濃さこそ少し違うものの

IMG_5215どちらも漿液が吸引されてきた。

漿液とは

炎症が起こった時に出てくる浸出液である。

もしここで

吸引した液体が

半透明な漿液ではなく

真っ赤な血液だったら

どこかでまだ出血が起こっている可能性があり

貧血の手当てをしなければならない。

また、もしここで

吸引した液体が

半透明な液体ではなく

クリーム色の化膿汁だったら

激しい細菌感染が続いている可能性があり

抗生物質の投与とともに

切開、排膿、洗浄、などの処置をしなければならない。

IMG_5247しかし

今回はそのどちらでもなかったので

「・・・このまま様子を見ましょうか。」

ということになった。

牛は手術後2週間で

IMG_5245治療を打ち切り

あとは

自然治癒力に任せて

様子を見ることにした。

とりあえずの

治癒判定である。


(この記事終わ・・・ろうと思ったけど、もうちょっと続く)


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育成牛の胸部の外傷(2)

胸部に深い傷を負った育成牛。

創部からは肉片が垂れ下がり、

IMG_5188そこに手をいれると、

手がすっぽりと入り、

指先が肋骨に触れた。

牛は食欲がなく、

呼吸も速く、

呆然と痛みに耐えているようだった。

IMG_5190ただ、

幸いな事に、

肋骨という丈夫な防護壁のおかげで、

胸腔内までの損傷はなく、

肺そのものも無事のようだった。

それは

手を入れた時に

IMG_5192空気の漏れがなかったからだが

あらためて

肋骨という防護壁の機能を

肌で感じることができた。

創部を洗浄して

えぐれた肉片を切除した。

IMG_5196その後

できるだけ奥の方から

筋層を縫合し

皮膚を縫合し

ドレーンを装着した。

縫合したのは

IMG_5202牛の右側胸部の派手な傷で

もう一方の左側胸部の傷は

皮膚が切れておらず

挫滅しているだけだった。

他それは手で押すと

IMG_5187ブカブカと波動感があったが

あえて切開はせず

そのまま放置する事にした。

抗生物質を毎日打つように指示して

飼主の〓さんと牛は帰って行った。

翌日

牛は全く食欲がなく

立っていることが辛いのか

終始横臥していた。

傷口を下にして寝てしまうので

傷の手当てができず

仕方がないので

リンゲルやブドウ糖などの補液をして

全身症状に対する治療を続けた。

手術をしてから5日目

〓さん宅へ往診にゆくと

IMG_5208牛は立ち上がっていた。

「今朝から、すぐ立つようになったんですよ。」

〓さんの奥さんがそう言った。

「餌も、今日からだいぶ食べるようになりました。」

「・・・それは良かった。」 

IMG_5209「でも先生、この傷どうなんですか。」

「・・・。」 

「腫れ上がって来たんですけど。」 

立ち上がった牛の

左右の胸部を見ると

どちらの創部も

ハンドボールくらいの大きさに

IMG_5210腫れ上がっていた。

手術をした右胸の創部には

装着したドレーンが

もう役目を果たさずに

ぶら下がっていた。


(この記事続く) 



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育成牛の胸部の外傷(1)

「ホルの育成が胸から何か出ている・・・」

という稟告で向かった〓牧場。

「そのまま様子を見てようと思ったんですけど、元気がないので・・・」 

診ると、

右の下胸部から真っ赤な肉片のようなものが垂れ下がっていた。

「・・・どうしたの?」

「パドックで発情の牛が暴れたみたいで、この牛が扉に挟まれてたんです・・・」

「・・・扉?」

「パドックを仕切る観音開きになっている扉の、半開きの真ん中のところに乗っかってて・・・」

「・・・そのまま動けなかったの?」

「前にも後ろにも行けずに挟まってしまって、扉の鎖を切って、ようやく救出したんです・・・」

「・・・それが昨日?」

「はい、元気そうだったんですが、今日はもうボーッとしてて餌も食べなくて・・・」

「・・・ここで詳しく診るのは大変だから、午後から手術室に運んで来てくれる?」

「わかりました・・・。」

かくして

IMG_5185午後から運ばれて来た牛の

胸部の写真がこれである。

左右の下胸部に挫創があり

特に右の創部からは

布状の脂肪組織のようなものが垂れ下がっていた。

IMG_5187手術台に寝かせて

毛刈りをして

その部分に手を入れると

これがなかなか深い傷だった。

私の手はそのまますっぽりと創部に隠れ

IMG_5188進入させた指先に

肋骨が触れた。

傷の幅は15僂曚匹世

傷の深さも15儖幣紊△

その部分の筋肉と結合組織と脂肪組織が

IMG_5189えぐり出されたような傷だった。

扉の角の部分が当たっていたらしく

深くえぐられていた。

こんな外傷を見るのは

私の経験でも初めてのことだった。

深い傷だったが

胸膜には達していないようだった。

もし、胸膜が破れていたら

呼吸困難に陥っているはずだが

この牛は

呼吸が浅くて早く促迫ながらも

呼吸は出来ているようだった。

創部から空気が漏れてくることもなかった。

「・・・どうしましょうか・・。」

私と助手をしてくれたS獣医師は

IMG_5190しばし思案の後

とりあえず

傷をもう少し開いて

えぐり出された部分を切除し

そのあとの創部を

縫合することにした。


(この記事続く)



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かつて見たこともない牛糞

私が診たのは2診目だった。

F0D273C5-E7DA-4A5E-836C-047124D4C63B食欲は廃絶、

眼球は陥凹、

歩様は蹌踉、

そして何より驚いたのが、

便の性状だった。

直腸検査をして探ってみると

クリーム状の黄白色の泥状便、

AC4B6F88-D98D-4988-9EDE-C6EBEE56F12F直検手袋に張り付き

それはとても糞便というべきものではなく

化膿汁と呼んだ方がふさわしい代物だった。

生後16か月齢のホルスタイン雌

授精はひと月前に済ませていたという。

この時期のホルスタインの雌は

いわば青春真っ盛りの元気のよい頃なので

病気も少なく、たとい病気になっても回復する力を持っている。

BlogPaintそんな年頃の牛が

げっそりと体力を失い

かつて見たこともないような

クリーム色の下痢便を排泄して苦しんでいた。

その後

この牛は毎日点滴と抗生物質の治療が施された。

しかし

C1CA9A6D-3291-44D6-9CF6-4A50ED154AAB一度も好転の兆しを見せることなく

次第に衰弱し

起立困難から起立不能状態となり

第9病日に死亡してしまった。

畜主のΘさんからは最後まで諦めることなく

この牛に精いっぱいの治療をしてほしいと頼まれていた。

EF3E2632-7AC6-4A92-A1C8-EAC2F3C6B122にもかかわらず

我々の治療の効果はほとんどなく

おそらく数日の延命効果にとどまり

最悪の結果となってしまった。

後日

病畜処理場から

病理解剖の結果が送られてきた

BlogPaintそこには一枚の写真とともに

「小腸(とくに空腸後半から回腸)の充出血著明」

とだけ一言記されていた。

臨床所見では血便は肉眼では気付かなかったが

解剖所見では小腸の出血性腸炎という診断だった。

したがってこの牛の死因及び病名は

出血性腸炎。

いわゆるHBS(出血性腸症候群)の一つであったと思われる。


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ホルスタインの選別精液からジャージーが!

「安田さん、聞いてくださいよ・・・」

◎ファームの牛の乳熱の治療をしている時、

従業員の♯君が話しはじめた。

「このあいだホルの雌ダネを付けた牛から、ジャージーが生まれたんですよ・・・」

「・・・え?、どういうこと?」 

「ホルの雌ダネなのに、どう見てもジャージーみたいなメスが生まれたんですよ・・・」 

雌ダネ、というのは、

メスが生まれる確率が高くなるように、

加工された牛の精液のことである。 

性選別精液と言われるもので

酪農家のあいだでは広く普及され市販されている。

ホルスタインの人工授精に

普通の精液を使うと

オスとメスがほぼ1対1で生まれてくるが

この選別精液(雌ダネ)を使うと

メスが約90%の確率で生まれてくる。

精液というのは

オスの遺伝子を持った精子(Y精子)と

メスの遺伝子を持った精子(X精子)の

2種類が1対1で含まれている。

その精液を

特殊な機械に通すことによって

Y精子とX精子をふり分けて

雄の生まれやすい精液とメスの生まれやすい精液を作るのである。

メスの生まれやすい精液は

酪農家にとって

搾乳牛を確保するために好都合で

選別精液(雌ダネ、X精液ともいう)は

あっという間に全国に普及した。

◎ファームの牛の授精にも

選別精液が使われていたのである。

IMG_5216「・・・でも、何でジャージーが生まれて来たの?」

「繁殖台帳を確認したら、1回しか付けて(授精して)いないんです・・・」

「・・・その1回が雌ダネ(X精液)だったの?」

「そうなんです。最初は授精師さんが間違えたんじゃないかって思って問い合わせたんですけど・・・」

「・・・じゃないの?」

「JAの授精師さんは間違ってなくて、話は仕入先のABS(アメリカンブリーディングサービス)まで行ったんです・・・」

IMG_5217「・・・。」

「そうしたら、関東の方の牧場でも、この精液で同じような事があったらしいんですよ・・・」

「・・・ジャージーが生まれて来たの?」

「そうなんですよ。正確にはジャージーとホルスタインのF1ですけど、茶色くて小さくて・・・」

「・・・それでしっかりメス?」

「そうらしいです、製造元ではジャージーの雌ダネも作っているらしいんですよ・・・」

IMG_5218何でこんなことが起こったのか。

謎であるが

その原因を想像してみると

ホルスタインの選別精液を製造する工程で

ジャージーの選別精液が混入した

という可能性がある。

選別精液の製造所で

ジャージーの選別精液と

ホルスタインの選別精液が

IMG_5220同じ機械でられていて

何かの理由で

それが混ざってしまった

と考えられる

混入事件である。

これをお読みの畜産関係者の皆さんは

選別精液を使っていて

こんな経験したこと

ありますか?

あったら教えて欲しいです。


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ぬいぐるみ(2)

腹部の皮が、

およそ座布団一枚ほど、

ベロリと剥がれてしまい、

それを縫合するのに、

2時間以上を要した大怪我をした和牛。

縫合手術をした3日後の写真がこちら。

IMG_5115漿液が浸出して

腫れ上がっているのは

予想通りだった。

縫合部の一端から 

その漿液が漏れ出しているのも

IMG_5119予想通りだった。

和牛の乳房は

乳牛ではないので小さく

腫れ上がった外傷部に押しやられて

仔牛が乳首を吸いづらい状態になっていた。

しかし

それでも

お腹の空いた仔牛は

母牛の乳首を探し出して吸っているらしく

乳頭は仔牛の唾液で光っていた。

母牛の食欲は正常で

元気も良いので

このままの状態で

外傷部にはさわらずに

抗生物質の注射のみを続けることにした。

そして

それから20日経った時の写真がこちら。

母子ともに

全く普通に

IMG_5182他の親牛たちに混じって

パドックの中に放たれていた。

縫合部の腫れは

相変わらずあるものの

その腫れ具合は

4分の1程度に縮小しており

IMG_5184以前よりも

乳房がよく見える状態になっていた。

仔牛は全く普通に

母牛の乳首に吸い付いて

哺乳をしているようだった。

母牛も全く普通に

IMG_5178カメラを向ける私を警戒し

我が子をかばうように

立ちはだかって

こちらを見るのだった。


(この記事終わり)


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ぬいぐるみ(1)

先日の、

まだ寒さが厳しい頃、

午前中の往診を終えて、

診療所に戻ってみると、

和牛の親子が運ばれて来て、

親牛が手術台に仰臥保定されていた。 

IMG_5100その下腹部には、

写真のように、

巨大な切創があった。

「すごいですね、この傷は・・・」

「でしょ。」

「どうしたんですか・・・」

「古い馬小屋の馬栓棒を乗り越えて出ようとしたんみたいで。」

IMG_5101「何かに驚いたんですか・・・」

「そう、丁度尖がったところがあってね。」

「そこに引っ掛けて、ですか・・・」

「かぎ裂きになってべろっと剥がれて。」

飼主の△さんの父さんは

牛にすまなそうにそう話した。

「この親牛は随分と仔牛を可愛がるやつでね。」

手術台に寝かされた親牛の

IMG_5103顔の前には仔牛がいて

心配そうに

親牛の様子を伺っていた。

この牛の主治医はS獣医師だった。

K獣医師が助手に入り

2人で大きな切創の縫合手術が始まった。

私はまだ往診から帰って来たばかりだったので

IMG_5102昼食の弁当を食べて

再び手術の様子をうかがってみると

縫合にはかなりの時間がかかっているようだった。

単純な作業ではあるが

範囲が広いので

IMG_5104時間がかかっているのだ。

死腔を作らぬように

剥がれた皮膚と皮下組織を

丹念に拾いながらの縫合手術は

思ったより大変そうだった。

IMG_5105私は自分のカルテを書くために

何度か机に戻っては

写真を撮りに手術室を往復した。

そして約2時間後

縫合手術は終わりに近づいた。

IMG_5106S獣医師とK獣医師の額には

大粒の汗が光っていた。

最後の皮膚を縫っている時

私はふと

これはまるで

牛の大きなぬいぐるみを縫いあげているように思えた。

「これってなんだか、ぬいぐるみみたいですね。」

IMG_5110「・・・。」

「・・・。」

2人の先輩獣医師は、苦笑していた。

そんな冗談が通じないほど大変な作業だったようだ。

私はちょっと反省して

親牛の頭の方に目を移した。

IMG_5111親牛の顔の前には

仔牛が寄り添うように

しゃがんでいた。

2時間近くにわたる長い手術で

立っているのに疲れて

座っているのだった。


(この記事続く)



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「第三の手」初産の和牛の子宮脱

朝の往診先の振り分けがおわり、

Σ牧場の仔牛の治療の準備をしていると、

Σ牧場から再び電話がかかってきた。

「さっき分娩した初産の和牛が子宮脱なんで、すぐ来てください!」

これは直ちに行かなければならない。

それにしても、

この間も朝イチで和牛の子宮脱があったばかりだ。

私は今、どうも

あの忌まわしい子宮脱星の支配下に入ってしまい

子宮脱星人になっているようである。

Σ牧場へ着くと

Σさん兄弟が分娩房で

悪戦苦闘していた。

しかし、子宮脱の経験は過去に何度かあったようで

脱出した子宮の下に清潔なマットを敷いて

EB55BF5E-D4A2-437E-8FF6-106A7FCB54A0ぬるま湯を用意して

手袋をはいて

Σさんはすで自分の手で

子宮を約半分押し込んでいるところだった。

「この牛、立てないの?」

「ええ、さっき産んだばかりで、仔牛が大きくて結構キツかったんで・・・」

「これなら、そのまま残りを押し込めそうかな?」

「はい、出ている部分はあと半分くらいなんで、なんとか・・・」

「わかった、じゃあ一緒にやりましょう。」

私はΣさんと場所を交代し

押している子宮をそのまま引き受けた。

F2B3CFFD-084A-4505-B880-3AAE090EFABAその時

両手で子宮を押しながら

Σさんに

子宮脱整復棒で一緒に押してもらうように頼んだ。

この棒は

本来であれば

子宮を完納した後

腹腔の中の子宮の反転を直すために使う道具なのだが

12570983_948233651925150_1223774235_n[1]今回とっさに思いついたのは

飼主さんの手が空いているので

この棒によって

自分の両手に加えて

「第三の手」として飼主さんにも子宮を押してもらう

という方法だった。

親が立てず

腰も吊り上げないままに整復を始めて

そのまま半分まで押し込んだのならば

親牛の努責に負けずに

間髪入れずに

さらに子宮を押し込むのが最も早い方法である。

私の両手と

Σさんの整復棒よる「第三の手」が協力して

間もなく子宮は腹腔内に完納された。

そしてその後は

子宮脱整復棒の本来の使い方で

腹腔内の子宮の反転を取り除き

陰部をビューナー針と包帯で巾着縫合し

D6B8D977-AD1C-4211-96DF-95752291B622抗生物質とリンゲルの補液と

念のためのカルシウム剤を投与した。

親牛は横臥したままだったが

努責は治まっているようだった。

私は明日また来ることを告げて

そそくさと、次の往診に向かった。

翌日

血液検査の結果が来た。

BlogPaintこの牛の血中カルシウム値は

8.3 /dl

だった・・・

今回の子宮脱のおもな原因は

低カルシウム血症とは考えにくく

強い努責が有り余った物理的なものだったのだろうか?

相変わらず

子宮脱というのはナゾの多い疾病である(笑)

Σ牧場に行ってみると

120F1FB1-7993-4E7E-AA5F-B5A0D23C6550昨日の牛は

昨日のうちに立ちあがり

今朝からは食欲も正常に回復していた。

生まれた子牛も元気だった。

それを確認した私は

陰部の縫合部を抜糸し

抗生物質を投与し

治療を終了した。


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削蹄後の跛行(4)

削蹄の次の日から右後肢の跛行を呈し、

飛節から蹄冠までの腫れが引かず、

X線検査によって近位趾関節の亜脱臼が疑われた、

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3初産のホルスタイン。

患部にキャストを巻いて、

暫くは痛みが和らいだかに見えたものの、

その後幹部のキャストずれの傷から細菌感染を起こし、

患部が化膿して大きく腫れてしまった。

IMG_4694その後、

キャストを外し、

抗生物質の投与を再開して、

痛みと跛行は小康を得たようだった。

しかし、

IMG_4890腫れは変わらず

その1週間後

食欲が無くなったと言うことで往診したら

第四胃変位になってしまっていた。

第四胃変位になったと同時に

66820447-4AD0-43B0-8AA5-C197EA4EB607泌乳量はほぼゼロになってしまった。

普通は乳牛が第四胃変位になったら

即刻開腹手術を実施するのだが

この牛の場合

足が悪く歩行や起立が困難な事と

泌乳量が全くないことで

開腹手術をしたところで

この牛の飼養価値はあるのだろうか

と言う考えが

飼主のΛさんの脳裏にはあったのだろう。

結局手術は延期され

内科治療が施された。

内科治療を数日施したら

8D8762EC-5AC2-4949-9371-AD12E9A06465元気が出現し食欲も回復して来た。

しかし

泌乳量はゼロのままだった。

すなわち、お乳はもう上がってしまったのだった。

Λさんはそのままこの牛を、足場のよい乾乳牛の群へ移動させた。

そこに入れると、起立や歩行が楽になると言う事だった。

Λさんはこの牛の即刻の自家淘汰を考えたが

起立や歩行が楽そうなので

そのまま飼い続けて

うまく行けば肉をつけて

屠場へ肉として出荷する予定にした。

それから2週間近く

この牛はΛさん宅の乾乳牛舎で飼われ続けた。

しかし

牛の状態は思ったほど良くならなかったらしい。

先日、往診に行った同僚獣医師の話によると

この牛は、残念ながら

食肉にすることもできず

病畜処理場へ運ばれて

処分されてしまったそうだ。

泌乳量はゼロで

共済保険の適用も難しく

肉にもなれず

残念な結果になってしまった。

乳用牛が思わぬ事故にあい

ひとたびその飼養目的に叶わなくなり

理想の飼養目的から外れざるを得なくなると

このような結果になってしまう。

家畜という牛の

運命は

哀れである。


(この記事終わり)


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削蹄後の跛行(3)

右後肢の外側蹄の、

基節骨と中節骨との関節、

すなわち「近位趾関節」に外力が加わって、

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3ズレ(亜脱臼)を起こし、

痛みと腫れが治らないという 、

今回の初産のホルスタイン。

困った末に 

苦しまぎれの治療法として

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4F患部をキャストで巻くという

普段やっている単純なナックルの整復法を試みた。

キャストを巻いた後の数日間は

寝起きもスムーズで

うまく行ったように思われた。

ところが

IMG_4827キャストを巻いてから4日目の朝

飼主のΛさんから電話がかかってきた。

「また痛くなってきたので、痛み止めでも打ってもらえないだろうか・・・」 

そこで、痛み止めとしてスルピリンをしばらく打ってもらうように指示した。

その後、10日間は音沙汰がなかったが

11日目に電話がかかってきた。

「やっぱり痛がるんで、キャストはもう外してもらえないだろうか・・・」

再びΛさんの牛舎に行って

キャストを外しはじめると

なにやら嫌な匂いが立ちこめてきた。

キャストの上端の辺りの皮膚が擦れて

そこから細菌が感染し

IMG_4828化膿していた。

化膿の範囲は思ったより広く

キャストを巻いた部分の

上半部の傷から

大量(約200ml)の膿が出てきた。

「・・・抗生物質を使わないと」

「痛み止めだけじゃだめだったか・・・」

「・・・キャストを巻いたことで蹄の負担は軽くなってよかったんだけど」

「体重が今度は足の上の方にかかって擦れちやった・・・」

「・・・もっと早くから抗生物質打っておけば良かったかもしれないね」

私は、キャストを外し終えた後

IMG_4829化膿して自壊している箇所を洗い

イソジンゲルを塗布したガーゼを当てて

その上からバンデージを巻いた。

「・・・これから毎日抗生物質を続けて、来週包帯の交換に来ますね」

「お願いします・・・」

IMG_4889そして翌週

包帯を交換し、抗生物質を続け

そのまた翌週も

包帯を交換し、抗生物質を続け

そのまた翌週

IMG_4890包帯を外して

そのまま包帯は装着せずに様子を見ることにした。

それからまた1週間が経ち

再び、Λさんから電話がかかってきた。 

「あの牛、食欲がなくなってきたんだけど・・・」

その日Λさんに往診に行ったのは

同僚のK獣医師だった。

K獣医師が往診から戻って来て言った。

「あの牛、四ぺん(第四胃左方変位)だよ・・・」 


 (この記事、もう少し続く)


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削蹄後の跛行(2)

簡単におさらいすると、

今回の初産のホルスタインの、

削蹄の次の日から始まった右後肢の跛行。

初診から毎日、

消炎剤の注射と塗布、

および抗生物質の注射を、

10日間続けたが、

治療には全くと言って良いほど反応がなく、

飛節から蹄冠部までの腫脹も変化することがなかった。

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4F10診目のX線検査によって、

外側蹄の近位趾関節のズレ、

亜脱臼らしき画像が得られた。

原因は定かではないが

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3何か尋常ではない外力が

牛の右後蹄にかかり

近位趾関節がダメージを受けたと思われる

そんなX線画像だった。

BlogPaintそれを参考にして

治療を考えなければならない。

私の技術レベルでゆくと

あと残された方法は

キャストによる外固定

それしかもう残されてはいなかった。

翌日さっそく

それを実行した。

IMG_4694写真のように

患部をキャストで巻くだけである。

この方法は

いわゆるナックル状態になっている球節を

外固定する方法と同じである。

IMG_4698しかし

いわゆるナックル状態(腱の異常)と

今回の近位趾関節脱臼(関節の異常)との

大きな違いは

患部が腫れている

ということである。

腫れて膨らんでいる患部を

キャスト固定したらどうなるのか

いろいろ想像されて

どれもあまりよろしくない姿が思い浮かぶのであるが

それでも

もう残された方法はこれしかないということで

やるだけやってみた

IMG_4699そんな

今回のキャスト固定だった。

だが

キャストを巻き終えた牛は

意外にも

患肢をすんなりと着地して

すくっと立ってくれた。


(この記事続く)



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