北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

牛の診療

仔牛の下顎の腫れ(毎度!)

すっかりお馴染み(!?)、

IMG_1205となった仔牛の顎の腫れ。

そのほとんどは、

口腔内の細菌が、

歯肉(はぐき)に感染して、

それが歯肉深く侵入し、

IMG_1207下顎をぷっくりと腫らして膿瘍になる。

私の記憶の中ではすべてが下顎で、

上顎が腫れた仔牛を見た憶えがない。

下顎が好発部位であるようだ。

なぜそうなのか?

IMG_1210それはまだよくわからないが

牛の下顎とその周辺には

細菌感染しやすい構造と

その後の

膿瘍を形成しやすい構造が

IMG_1213きっとあるのだろう。

今回の腫れも

その例に漏れぬ

典型的な下顎の膿瘍だった。

穿刺をして

IMG_1217膿瘍であることを確認し

そのまま頭部を保定して

メスで切開。

中の膿汁を絞り出して

軽く洗浄して

IMG_1219抗生物質を投与して

創部はそのまま開放して

終了。

後日

綿棒に採取した膿瘍の

細菌検査の結果が送られて来た。

αーstreptococcus(レンサ球菌)

BlogPaintが検出された。

仔牛に限らず

牛の体にできた膿瘍を

出来るだけ綿棒で採取して

細菌検査に出すことにしているのだが

症例数がそれほど多くないので

なかなかデーターが集まらず

牛の体表の膿瘍における

感染細菌の菌株の傾向

というものは

まだなかなか掴むことができていない。

っても、まぁ

傾向など掴めなくても

特に困ったことにはならないから

そうなっている訳なのだが。


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ピアス(耳標)落ち牛

「子牛の耳から血が出てます・・・」

そんなFAXが、

和牛生産者の¢さんから送られて来た。

「縫ってもらいたいので、よろしくお願いします・・・」

いつもは

電話での往診依頼が来ることの多い¢農場だが、

この日ばかりはなぜか、FAXによる往診依頼だった。

FAXの印刷でそう言われてしまえば仕方がない、

縫合の準備を完璧にして¢農場へ向かった。

「耳標が取れちゃったんです・・・」

「あー、ほんとだ。」

生まれてまだ数日の仔牛だったが

とても元気が良く

捕まえることさえ大変な

IMG_1324やんちゃ坊主だった。

耳標を付けたばかりなのに

その耳標を何かに引っ掛けて

引き千切ってしまったのだろう。

IMG_1325出血していた耳は

大きく裂けていた。

「このまま放っておいてもいいかなとも思ったんですけど・・・」

「こんな小さいうちから耳裂けじゃあねぇ。」

「そうなんです。このままずっとこんな耳では・・・」

「見た目が悪いと、いろいろね。」

「そうなんです。それに、耳標をまた付けなきゃならないと思うと・・・」

「ちゃんと繕っておいた方がいいですよねぇ。」

「そうなんです・・・」

耳を触られるのを嫌がる仔牛を

セラクタールで鎮静して

IMG_1326縫合に取り掛かった。

乾燥していた創面に

カミソリを当てて

剃毛を兼ねて新鮮創にし

IMG_1327角針で縫合した。

縫合を終えて

アンチセダンで鎮静を解くと

仔牛はたちまち元気になり

IMG_1328ロープを強く引っ張って暴れ始めた。

やはり相当なやんちゃ坊主である(笑)

耳標(ピアス)の落ちた牛は

親牛では良く見かけるが

IMG_1329それらはすべてそのまま放置されている。

それを一々縫合して繕うことは

私は、かつて一度も経験がなかった。

しかし

耳の裂けた牛は

どこか哀れな感じがする。

まだ小さな仔牛の時から

そんな哀れな姿で一生を送るのは

ちょっとかわいそうだと思う。

それに加えて

牛の個体を確認をする場合

耳の裂けた牛は

番号がわからないので

確認に手間がかかる。

牛の外見を良くするためばかりではなく

牛の管理の徹底のためにも

こういう耳の縫合の仕事は

もっとあってもいいのかな

と思った。


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また乳房の出血かと思いきや(!?)

「乳房から出血してるみたいなんですけど・・・」

そんな往診依頼がまたやって来た。

(またか・・・) 

と思って、話を聞いたら、

今回はさすがに、♯牧場の牛ではなく、

♭ファームの牛だった。

♭ファームに到着して

出血をしているという牛を診ると、

今度の出血は

乳房表面を走る静脈からではなく

乳頭の損傷部からの出血だった。

IMG_1281右後の乳頭が

写真のごとく

縦に裂かれる様に

約10儷瓩損傷している。

しかし、損傷は

乳頭管まで達しておらず

この乳頭の生命線は守られているようだった。

「・・・うーん、縫ったらなんとかなるかなぁ・・・」

「これを見つけた搾乳担当の人が、そうしてほしい、って言ってました。」

「・・・いつ頃、見つけたの?」

「午前中の搾乳の時だそうです。」

「・・・じゃぁまだ、半日くらいしか経っていないね。」

「そうだと思います。」

「・・・んじゃぁやってみるか。」

「お願いします。」

「・・・それにしても・・・汚い乳房だねぇ・・・」

「そうですね。」

IMG_1282♭ファームの従業員君は

どこか他人事の様な口振りだったが

言われた事はちゃんとやってくれた。

損傷した乳頭に触ると

牛が嫌がって暴れるので

枠場に入れて治療をしたいところなのだが

IMG_1283この♭ファームには

枠場がない・・・。

仕方がないので

牛を壁ぎわに繋いで

フリーバーンの扉を寄せて来て

細長い三角形の中に牛を挟み

牛が尻を振らないように保定し

IMG_1284そこで鎮静剤をかけて

扉の外側にしゃがんで

そこから手を伸ばし入れて

乳頭の縫合をすることにした。

損傷部の汚れを洗っていると

この乳頭の乳房が

乳房炎になっていることもわかった。

「・・・乳房炎にもなってるから、ちょっと腫れてるね・・・」

「そうですか。」

「・・・縫ったところがちゃんと付くかどうかわからないよ・・・」

「そうですか。」

「・・・このあと、もっと腫れるよ・・・寝床も汚いしねぇ・・・」

「そうですね。」

「・・・抗生物質の注射も打つからね。」

「わかりました。」

相変わらず他人事のような従業員君だが

言った事はちゃんと理解してくれたようだ。

ともあれ

乳頭損傷の応急的な縫合を終えて

道具を片付けて

帰路に着いた。

乳牛を飼う場所が

スタンチョンの繋留から

フリーストールやフリーバーンのような

繋がない形式にする酪農場が増えた昨今

乳頭損傷の事故は

減って来たように思うのだが

最近はそれが

そうでもなくなったように思う。

その理由として

フリーストールやフリーバーンにおける

牛の過密状態

があるのではないかと

私は思っている。


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S木牧場さん!

北海道獣医師会雑誌の今月号に、

十勝の広尾町の酪農家、

S木牧場さんが紹介されていた。

IMG_1313「私の職場紹介」

というシリーズの記事だ。

執筆者は、

元十勝NOSAIの獣医師だったNさんで、

このS木牧場に嫁ぎ、そこを職場として紹介している。

私はかつて、Nさんとは

同じ診療所の同僚の獣医師として、

約5年間一緒に働いたことがある。

Nさんが現在の自分の職場

IMG_1310すなわちS木牧場で

主婦として

母として

そして獣医師として

頑張っている姿を

獣医師会雑誌の記事を通して

知ることができた。

読んでいるうちに

一緒に働いていた頃のNさんの面影と

往診に通っていた頃のS木牧場を思い出し

とても懐かしく思った。

IMG_1316と同時に

S木牧場が

多くの困難を乗り越えながら

現在に至り、素晴らしい酪農家として

さらに日々進化しつつあるということが

Nさんの文章の隅々から伝わってきた。

その文章は

理路整然としていて

堅実かつ謙虚

そして

地にしっかりと根を張った

酪農家としての自信と

獣医師としての自負が

至る所で感じられる好文章である。

興味のある方は

特に

酪農家の方々には

是非クリックして

全文を読んでいただきたいと思う。

この文章の中で

最も、私の心に響いたのは

「今後の北海道酪農に望むこと」

という章の中の

「欧米のやり方を真似しても成功しません。『日本の土と草で牛を飼う』を忘れてはいけないと思います。」

IMG_1312というNさんの言葉だ。

この言葉は

酪農家であり

かつ

獣医師である

Nさんだからこその

説得力があり

とても重みのある言葉だと思う。


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乳房からの出血(三たび!!)

「乳房から、また出血してるのですが・・・」

#牧場からの往診依頼だった。

なんと・・・

またまた乳房からの出血である。

半ば呆れながらも、

事態は大変なことになりそうな気配もあるので、

いつものように緊張した面持ちで、

#牧場に到着してみると、

IMG_1250問題の牛はすでに、

パーラーの枠に入れられていて、

肢を上げられていて、

乳房の出血部位を治療する準備が、

全て万端に整っている状態だった。

前々回

前回

に引き続いて

今回もまた、全く同様に

乳房の外側面を走る静脈に

穴が開いて

そこからの出血だった。

IMG_1251「・・・またか。」

「・・・はい。」

3回目もまたもや

乳房のほぼ同様の箇所から

勢いよく出血している牛を目の前にして

この出血の原因が

カラスの仕業であることを

もはや誰一人として

IMG_1253疑う者はいなかった。

私は再び

いや、三たび

この乳房の出血部の血管を縫合し

止血剤を打ち

治療を終えた。

IMG_1254頻度のそれほど高くない

乳房側面の血管縫合

という手技を

ここ1ヶ月も経ぬ間に3回も

繰り返し行っていると

なにやら、時間が空回りして

タイムスリップしているような気分になった。

そして、更には

こころなしか

IMG_1255自分自身の

乳房の血管の縫合処置の

手際がよくなって

技術が上達したようにも感じていた。

短時間に反復練習

いや

反復「本番」を

3回も繰り返せば

誰だってきっとそうなるに違いないと思った。

「・・・カラス、何とかしないとね。」

「・・・そうですよね。」

短期間に3回繰り返された

カラスの獣害だが

このままではいつ4回目が起こるかわからない。

大事なのは

治療技術などよりも

予防対策であることは

もはや言うまでもない。


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乳房からの出血(再び!)

「乳房から、また出血しているのですが・・・」

#牧場からの電話だった。

#牧場では、たったの10日前に、

乳房からの出血で往診したはかりである。

またか・・・

最近多すぎるなぁ・・・

と感じつつ、#牧場のフリーストールへ行ってみると、

IMG_1177写真のように、牛床と通路が、

赤い血で染まっていた。

「今のところ、血は止まったみたいなんですが・・・」

「でも、この前と同じみたいだから、枠に入れて、縫っておいたほうがいいね。」

「わかりました。」

牛は歩いているうちに

IMG_1184また左の内股あたりから出血を始めた。

枠に保定して

左足を挙げて見ると

左足の下腿部に隠れていた出血部位が露呈し

消毒液で洗浄すると

乳房の周囲を走っている血管から

IMG_1187血が放物線を描いて噴き出した。

10日前の牛は

乳房の右側の血管に穴が空いていたが

今日の牛は

乳房の左側の血管に穴が空いていた。

その血管の傷は見事に

IMG_118810日前の症例と左右対称の

全く同じような位置にできた傷だった。

とりあえず、前回と全く同じ縫合をして

出血を止めて、止血剤を打ち

治療を終了した。

それにしても

たったの10日という短い期間に

乳房の出血に2例も遭遇するとは

IMG_1189いまだかつてない出来事である。

それも

乳房の左右の内股の部分。

それは・・・

牛が立っている時は

後肢の下腿部に隠れて見えない部分。

IMG_1125しかし・・・

牛が横臥した時だけあらわになる

そんな場所の血管が

集中して損傷を受けたのだ。

「これは、やっぱりカラスしかありえないよね。」

「そうですね。」

想像すると

BlogPaintカラスは左の絵のごとく

横臥している牛の

後肢の下腿の付近に止まり

そこから乳房の表面に走っている血管を狙って

嘴でつついて出血させたのだろう。

カラスのそんな姿が

浮かび上がってくるのだった。 


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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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フリーマーチン、語源の「新説」

仔牛の♂♀の双子のことを、

業界ではフリーマーチンと呼んでいる。

なぜそんな名称になったのかというのは、

意外にナゾで、

今のところ、

新得の畜産試験場の先生から教えて頂いた説が、

最も信頼できる説であるようだ。 

フリーマーチンの語源については

私もこのブログの約10年前の記事に書いたのだが

先日、なんとそこへ新しい書き込みがあり

フリーマーチンのマーチンというのは

正しく発音すると

マーチン(Martin)ではなく

マーシャン(Martian)である

という書き込みなのだった。

マーシャン(Martian)とは何かというと

日本語に訳せば

「火星人」である。

仔牛の♂♀の双子は

じつは火星人(マーシャン)と呼ばれていて

それが次第にナマって

フリーマーチンと呼ばれるようになったという説である。 

なるほど

こんなところにも 

地球の大気圏外の大宇宙の影響があったのである。

Unknown大宇宙からの影響・・・

といえば・・・

♂♀の双子のフリーマーチンが・・・

火星人(マーシャン)
ならば・・・

我々がよく遭遇する宇宙人・・・

すなわち子宮脱星人は

何と呼ばれるのだろう。

子宮脱は英語で Uterine  prolapse(プロラプス)であるから

子宮脱星人は

プロラプシャン(Prolapsian)

である。

お、なかなかいい呼び名じゃないか。

では子宮捻転星人は

何と呼ばれるのだろう。

子宮捻転は英語で Uterine torsion(トージョン)であるから

子宮捻転星人は

トージョニアン(Torsionian)

である。

おお、なかなかいい呼び名ではないか。

images




子宮脱星人(プロラプシャン)

子宮捻転星人(トージョニアン)

これは、なかなか

カッコいい♪


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深夜の雪

「お産なんですけど、破水したのに、陣痛が全く始まらないんです・・・」

「わかりました。すぐ行きます。」

携帯電話が鳴ったのは、

午後9時30分を過ぎた頃だった。

和牛の繁殖農家の⌘さんからだった。

夜道に診療車を走らせて約20分、

空には星が見えていたが、

どういうわけか、

細かい雪がチラチラと降り続いていた。

・・・夜の風花・・・?!

そんな風情のあることを考えている間も無く

⌘さん宅に到着。

「分娩予定から、もう2週間遅れてるんです。」 

牛は大きな和牛で

今回が6産目だという。

「全然いきまないので、心配で・・・。」

手を入れると、胎児は生きていたが

産道の開きがまだ不十分だった。

「お産をさせる前に、まずカルシウム剤を打ちましよう。」 

和牛といえども

6産目ともなると、低カルシウム血症になることがあるし

今の産道の状態では

いきなり助産をするには少し早い気がしたので

カルシウム剤を打ちつつ

ひと呼吸置いてから、ゆっくり助産した方が良いと判断した。

それに加えて

⌘さんの和牛は半月ほど前に

お産の発見が遅れて、胎児が死んでしまった事故があったばかりだった。

そういうことがあると

次のお産の時は

絶対に死なせたくないという思いから

早く獣医を呼んで、万全を期すということになる。

私は、そういう⌘さんの気持ちを強く感じていた。

そういう場合、実際には

呼ばれるのが早すぎてしまうこともある。

カルシウム剤を打ち終わり

ひと息ついてから

「じゃあ、始めましょうか。ロープと滑車をセットして・・・」

「はい。」

「産道が狭いから頭にもワイヤをかけますね。」

「はい。」

「まず頭だけ軽く引いて・・・そう・・・」

「・・・」

「頭が・・・産道に・・・よし、乗ってきた。こんどは足をゆっくり引いて・・・」

「・・・」

「そのままゆっくり・・・仔牛のおデコが全部出たら・・・滑車を強めに引いて・・」

「・・・」

「よし、頭が出た。・・・引いて、引いて・・・」

IMG_1129ここは絶対に

生かして出さなければならなかったので

私も少し緊張したが

胎児は無事に誕生した。

IMG_1130大きめの♂だった。

産科道具を片付けて

挨拶を交わして

帰路につくと

来るときには星が見えていた空は

雪雲に覆われて

雪が盛んに降り始めていた。

途中の道ではさらにそれが激しくなり

IMG_1132分岐点や交差点が

降る雪でよくわからなくなってきた。

慣れている道だというのに

曲がる交差点を一つ間違えて

IMG_1134あらぬ所へ向かいそうになり

また引き返し

さらに激しくなる吹雪の中を

対向車にも気をつけながら

路肩にも落ちないように気をつけながら

IMG_1137ようやく

宿泊している事務所まで帰ってきた。

帰りの道のりは

行きの道のりの

倍近くかかったような

深夜の雪の中の往診だった。


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乳房からの出血

「乳房から血が出ていて、止まらない・・・」

午後3時頃、#牧場から電話が入った。

乳房からの出血の治療は、

1週間前に♭牧場でもやったばかりだった。

よく当たるなぁ、

と思いつつ、

#牧場の牛を診ると、

IMG_1100右後肢の飛節以下が血で真っ赤に染まっていた。

乳房はそこに重なる面がやはり血で真っ赤に染まっていた。

牛の顔を見ると、

その部分をしきりに舐めていたのだろう、

鼻と口が血で染まっていた。

IMG_1122「どこで見つけたの?」

「フリーストールから牛を追い始めた時、ポタポタ血が垂れていたんです。」

「今は、血は止まってるみたいだけど。」

「そうですね。」

「でも、また何かの拍子に出血するといけないから、どこから出ているか見ておこう。」

IMG_1102「はい。」

「右の後肢をロープで縛り挙げてみようか、削蹄するときみたいに。」

「わかりました。」

従業員の@君は、搾乳パーラーの中で手際よく

牛の右後肢を上げてくれた。

IMG_1111「あー、ここから出てるみたいだねー。」

「ほんとだ。」

「縫って、止血しておこう。」

「はい。」

従業員の@君は、牛の頭をモクシで固定し

牛の尻側にもロープをかけて

この牛をしっかりと保定してくれた。

出血部分と見られる箇所は

乳房の内側を走る7mmほどの太さの静脈だった。

小型の針に吸収糸をつけ

IMG_1112まず2針縫い

糸の張りを緩めて

出血のなくなったかどうかを確認して

まだ少し

血が滲んでくるので

IMG_1118もう1針

血がほとんど滲まなくなって

ダメ押しのもう1針

きれいに止血されたところで

縫合を終了。

その後、止血剤(バソラミン)を注射して

IMG_1120治療を終了した。

「出血の原因、なんだろう、何か思い当たるものあるかい?」

「えーっと、だいぶ前、この器具に引っ掛けて出血した牛がいました。」

その器具とは

パーラーで搾乳する時に

IMG_1121ミルカーのチューブを固定するための金属製のフックだった。

「これか・・・。」

「でも・・・」

「搾乳する前にストールで見つけたんだったら・・・」

「つつかれた・・・」

「奴らに・・」

「やっぱり、カラスですか・・・」

「その方が、ありえるかもね・・・」

IMG_1126今日の#牧場の周辺には

カラスの鳴き声が響いていた。

近くの電線や

牛舎の屋根に止まって

こちらの様子を伺っているカラスたちに

IMG_1123携帯のカメラを向けると

賢いからスたちは

危険を察知したように

空に舞い上がり

近くのカラマツの林に移動していった。


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乳房の膿瘍

稟告は「起立不能」だった。

牛が坐り込んでいるところへゆくと、

ずいぶんと疲れた表情の牛が、

一瞬、私を恨めしそうに見て、

また視線を遠くへ移した。

「ずっと乳房炎やっていたんですけど・・・今朝から、立てなくなってしまって・・・」

IMG_0940▲牧場の従業員は、

そう言って牛を立たせようとして、

体を揺すってみたりしたが、

牛は数センチ体を持ち上げただけで、

再びへたり込んでしまった。

「左の前の乳房が、ずいぶん腫れているね。」

「はい、そこがずっと悪かったんです・・・」

私は左の前の乳頭を掴んで

乳汁を絞り出そうと

乳房を押してみたら

ポチャ・・・ポチャ・・・

という音がした。

何か、液体が溜まっているような音だった。

乳房に液体が溜まる、と聞けば

乳牛を知らない人であれば

乳房に乳汁が溜まっている、と思うかもしれない。

しかし

乳房に蓄えられる乳汁というのは

乳腺細胞とその周囲にぎっしりと溜るので

乳房をどれほど揺すっても

決してチャポチャポというような

水分の溜まったような音は聞こえることはない。

この音は明らかに異常だった。

「何か悪いものが溜まっているんだね。」

私は即座に、これは乳房の膿瘍だと思った。

「針を刺して中身を吸ってみるね。」

IMG_0939車から注射器と留置針を取ってきて

乳房の問題の箇所へ

ゆっくりそおっと穿刺した。

「あー、やっぱり・・・」

刺した針の口から

水分の高い化膿汁が吹き出てきた。

▲牧場の従業員君はこれを黙って見つめていた。

IMG_0938「・・・。」

「ずいぶん我慢したねぇ・・・」

「立てるようになりますかね・・・」

「わからないけど、やるだけやってみよう。」

私は、穿刺した針をそのままにして

この牛の治療の準備を始めた。

補液剤と抗生物質を持ってきて

投与を開始しようと牛に近づいた時

IMG_0941牛はもがきながら

足を踏ん張って

バタつきながらも

なんとか自力で起立した。

「あ、立った!」

▲牧場の従業員君は少し驚いたようだった。

この牛に、どれ程の気持ちがあったのかは

未だに不明だが

不健康な体ながらに

この牛が

一生懸命生きようとしていることは

間違いのないことであり

毎日数キロに満たない乳汁を

搾り出しながら生きていることも

間違いのないことであった。

BlogPaint後日

この乳房の膿汁の

細菌検査の結果が来た

それによれば

αーstreptococcus

が検出された。


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仔牛の跛行の原因は・・・

生まれて1週齢の仔牛が、

突然、

右の後肢を引きずり始め、

立つことさえままならず、

その症状は、

次第に悪化してきた・・・という

そんな稟告で向かった★ファーム。

問題の仔牛を診てみると

哺乳欲はそこそこにあるが

介助をしないと立つことが出来ない。

右の後肢を動かすことが出来ない。

立たせて歩かせてみると 

右後肢の懸垂跛が著しい。

股関節付近が

大きく腫れ上がっている。

股関節付近の打撲か?

股関節炎か?

股関節の脱臼か?

親牛に踏まれたのか?

骨盤の骨折か? 

などの症状が頭をよぎる中

触診をしてみると

ソフトボール大に腫脹した

右の股関節付近には

波動感があった。

「針を刺してみよう。」

超音波装置は

一人一台づつは持ち歩いていないので

こういう腫れ物の内部を診断するための

手っ取り早い方法は

穿刺検査である。

注射針を刺してみると 

IMG_0911「ああ、これは・・・」

トロリとしたクリーム状の

化膿汁が吸引されてきた。

股関節部に形成された

大きな膿瘍だった。

どうしてこんなに大きな膿瘍が

このような場所にできたのか

理由はよくわからなかったが

治療方法は簡単だ。

「切って出しましょう。」 

私は

膿瘍の切開術の準備を始めた。

ここまでくればもう

この先は一本道である。

IMG_0914仔牛を寝かせて

抗生物質を注射し

切開部分の周囲の毛を刈り

洗浄消毒して

IMG_0916メスを入れる。

切開部からは

思った以上の

大量の膿汁が溢れ出てきた。

IMG_0919指で圧迫すると

さらに大量の膿汁が溢れてきた。

ゆびを入れると

膿瘍の内腔は

IMG_0921私の拳が入ってしまいそうな大きさだった。

内容をほぼ全部絞り出すと

仔牛の右後肢は

左右対称の正常な姿に戻った。

IMG_0924治療はこれで

無事終了した。

念のため

化膿汁をスワブに採り

細菌培養を依頼した。

BlogPaint結果は写真の通り

「好気性菌の発育を認めず 」

という

コメントが返ってきた。


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後肢吊り上げ法による子宮「脱」整復(2)

牛を吊る道具もなく、

場所も状態も制限されたために、

止むを得ず採用することになった、

後肢吊り上げ法による、

子宮脱の整復だった。

しかし、

採用してみると、

これが実に楽で、

スムーズに子宮を腹腔内へ完納することができる、

IMG_0897なかなか良い方法だった。

子宮の整復を終えた後

IMG_0902

陰部を巾着縫合して

吊った牛を下ろし

後片付けをしていると

「あれっ・・・」

牛の様子がおかしくなってきた。

断続的に大きく

四肢をばたつかせるようになった。

目を見開き

口を大きく開けるようになった

「あっ・・・これはヤバイ・・・」

気付いた時はもう

四肢のばたつきと

開口露舌の繰り返しは止まらず

眼光はしだいに彼の世へ向かって

死出の旅立ちを始め

数分後には

息を引き取ってしまった。

「・・・ダメだったか・・・」

「・・・ダメでしたね・・・」

「・・・親子で逝っちゃったか・・・」

「・・・そうですね。」

「・・・助けられなくて申し訳ない・・・」

「・・・いや、でもなんかこの牛、こうなっちゃうような気がしたんですよ。」

£さんの

落胆と慰めの混ざったような言葉に

妙に納得させられた私だった。

それから私は

淡々と後片付けを続け

診断書を書いて£さんに手渡し

次の往診へと向かった。

BlogPaint翌々日

血液検査の結果が来た。

検査項目には

これと言った大きな異常値は見られないようだった。

最も気になっていた

カルシウム濃度は

7.2 m/dl

と、

低値ではあるが

それが影響しているとは言い難い

微妙な値だった。

今回の牛の

子宮脱の原因は

いったい、何だったのだろうか・・・

そして

子宮脱の整復した直後に

死亡してしまった原因は

いったい、何だったのだろうか・・・





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後肢吊り上げ法による子宮「脱」整復(1)

1月2日の午前、

往診2軒を終えて3軒目へ移動中に、

携帯電話が鳴った。

 「£さんの牛が子宮脱らしい。頼みます。」

緊急携帯を持っているS獣医師からの連絡だった。

 到着した時、親牛は

首を投げ出して横臥していた。

「朝7時頃産んだんですけど、その後、9時頃来たら子宮が・・・」 

仔牛は残念ながら死産、

親牛も力なく頭を上げることもできず

牛舎の柵に背中を向けて横臥していた。

「これでは、牛の腰にハンガーを掛けられないね。」 

BlogPaint起立不能の牛の子宮脱を整復するには

横臥したままでは腹圧が強くてうまく行かないので

骨盤(産道)を高い位置に保定する必要がある。

その場合、私は普通はカウハンガーを腰に取り付けて

骨盤(産道)を持ち上げて整復する。

ところが今回の場合は

それがうまくできそうにない。

「とりあえず、まずカルシウムを打って・・・」

£さんの牛は和牛だった。

しかし、子宮脱で起立不能で

経産牛の場合は

経験上ほとんどが低カルシウム血症であったから

私は採血の後、ためらわずカルシウム剤を投与した。

カルシウム剤を打ちながら£さんとしばし思案。

「このままだと吊れないし・・・」 

「ハンガーはかけられないですね・・・」 

「寝返りもできないし・・・どうしよう・・・」 

「後ろ足を縛って吊り上げますか?」 

「それ、いいかもしれない・・・やってみようか・・・」

£さんの機転で治療方針が決まった。 

後肢吊り上げ法である。

後肢吊り上げ法・・・というのは

普通は

子宮「捻転」を整復する時に採用する方法だ。

しかし、今回は

子宮「脱」を整復するために採用することになった。

私には初めての試みだった。

IMG_0886記念すべき瞬間(!?)の到来となったので

準備をしながら

£さんの奥さんにカメラマンをお願いした。

後肢を吊り上げて

骨盤(産道)を適当な位置まで持ち上げると

IMG_0892これがなかなか

整復するのに良いポジションとなった。

今回の子宮は胎盤停滞はしていなかった。

微温湯で洗浄し

IMG_0893用手整復に取り掛かった。

子宮は脱出してからまだ数時間以内で

半分程度の脱出で

浮腫もなかった。

IMG_0896怒責もあまり強くなかった。

子宮脱はあっさりと

整復されて

腹腔内に戻すことができた。


(この記事続く)

 
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淑気?、粛気!満つ。

今年は元旦と二日が勤務の日だった。

本年初めての往診1件目は、

◉さんの和牛の治療だった。

治療を終えて車に乗ろうとすると、

◉さんが隣のD型牛舎の入り口で、

私に向かって手招きをしている。

何かなと思って、

D型牛舎のそばまで行くと

「先生、今ね、隼が来てるんですよ。」 

「ハヤブサ・・・?」 

「そう。めちゃくちゃ緊張してますよ。」 

「緊張・・・?」 

「ええ。いつもこのD型には鳩や雀の鳴き声がすごくうるさいんですけど、今日はもう・・・」 

「今日は・・・?」

「しーんと、静まり返ってるでしょう。」 

「あ・・・そう言われれば、そうだね。」

「今この中、めちゃくちゃに張り詰めてますよ。」

◉さんはそう言って

D型牛舎の入り口を細く開けて

そぉーっと、中に入って行った。

私も◉さんの後について

そぉーっと、足を踏み入れた。

「あそこらへんに、やられた鳩の死骸が落ちてるはずなんですけど。」 

「隼にやられたの・・・?」

「はい。たしかこの辺に・・・あれっ?、無いな、おかしいな・・・」

「・・・?」

「そうか、きっと猫が持って行っちゃったんだな。」

IMG_0876「・・・。」

「でも、ほら!、ここに鳩の羽根が散らかってるでしょ・・・」

「あっ、本当だ。」

IMG_0878「この上に、いるんですよ。隼が、ほら!、あそこの簗に、止まってるでしょ・・・」

「あっ、本当だ。」

「隼って、意外に小さいんですよ。」

IMG_0877「ほんとだ・・・、鷹とか鳶よりも小さいんだね。」

「でも凄く速いですよ。」

「だろうねー・・・」

「鳩なんて、今日はもうビビりまくってますよ。」

「・・・うん。」

「雀もたくさんいるのに、簗のかげに隠れてて、1羽も見えないですから。」

「ほんと全然見えないね・・・いないみたいだけど。」

「でもいるんですよ。あ、・・・あそこに鳩がいますね。」

「あっ、本当だ。」

IMG_0879「首だけ出して、様子を伺ってる。」

「ずいぶん首長くしてるね。」

「いつも鳩と雀でうるさい牛舎が、こんなに静か。」

「面白いもんだねー。」

「しばらく隼を逃さないで、こうしておこうと思って(笑)」

元旦の朝の牛舎に

淑気(しゅくき)満つ、ではなく

静粛なる恐怖に満ちた

粛気(しゅくき)満つ、である。

1件目の初仕事の家で

初夢の縁起物の

鷹ではないけれども

同じ猛禽類の

隼を見ることができたのは

何か縁起が良い知らせ!?

と、いう事にしておこう

と思った。


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今年の死亡牛、廃用牛。

今年の1年間で、

私はどれだけの家畜の死亡を確認し、

どれだけの家畜の廃用に立ち会い、

その処理のために、

どれだけの診断書を書いて来ただろうか。

事務所でカルテを書き終わって、

ふと、そんな思いが湧いて来たので、

今年度の私が書いた、

死亡・廃用・の診断書の数を数えてみた。

今年度なので、

平成28年の4月から12月までの、

9ヶ月間に、私が書いた診断書の数である。

IMG_0864それらはほぼ全部

牛だった。

それは

103枚あった。

9ヶ月間に103枚ということは

103 ÷ 9 = 11.5

1ヶ月に約12頭の死亡診断書を書いている計算になる。

これを1年に換算すれば

103 ÷ 9 × 12  =  137.3

1年間で約137頭の牛たちの

死亡を確認し

廃用のに立ち会って

診断書を書いて来たことになる。

こんなことをわざわざ集計してみたのは

今年が初めてのことで

去年や一昨年は

そのようなことは考えもしなかった。

しかし、今年は

どういうわけか

死亡を確認した牛

あるいは廃用にした牛の

BlogPaint数が気になって仕方がなかった。

なぜかというと

その数が

年々増えているのではないかという感じがするからだ。

今年はこの、年間約137頭の死亡廃用という数が

どういう意味を持つのかということを考えてしまうのだった。

たとえば、人の医療現場の場合

年間137人の死人を扱う臨床医師など、いないと思う。

3日に1度のご臨終に立ち会う臨床医師など、いないと思う。

しかし牛の臨床獣医療の現場では

多くの臨床獣医師が、私とそれほど変わらない数の

死亡・廃用の診断書を書いていると思われる。

繰り返すが、「臨床」獣医師が、である。

牛の命を救うために

牛が健康を取り戻すために

働いているはずの「臨床」の獣医師が、である。

死亡・廃用野診断書を書いた牛というのは

屠殺場で食肉にすることさえ出来ない

哀れな死に方をした牛たちである。

「臨床」の獣医師が

これほどの数の牛の

「ご臨終」に立ち会っているのである。

今年の締めくくりの記事として

なんとも湿っぽい話ではあるが

これを書かずにはいられない

そんな思いが私にはある。

この記事をお読みの

獣医師諸君!

あなたは今年

何頭の牛の死亡を確認し

何頭の牛の廃用に立ち会いましたか?

教えていただけると嬉しいです。

では皆様

どうぞ良いお年をお迎え下さい。


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難産介助(側頭位の整復)

「前足は来ているのに、頭が全く触れないんですが・・・」

そんな電話が来て向かった、〓牧場の牛の難産。

手を入れてみると・・・

なるほど前足ばかりが産道へ侵入していて、

頭には全く触ることができない。

完全な側頭位になっていた。

強い陣痛の隙を狙って、

腕を手一杯挿入して、

その奥を探ってみると、

胎児の耳の先端と後頭部に、

辛うじて指先が触れた。 

胎児の頭は、完全に向こうを向いてしまっていた。

胎児は自らは全く動かなかった。

「直せますか?」

「やってみましょう。」 

私は側頭位の整復を試みることにした。

そのままでは陣痛(怒責)がきついので

IMG_0801子宮内の収縮がを抑えるために

プラニパート(塩酸クレンブテロール)を注射。

羊水が減っていたので

プロサポ(粘滑剤)を約10リットル注入。

IMG_0797そうしておいてから

用手整復に取り掛かった。

今回の難産介助の

ポイントはいうまでもなく

胎児の頭である。

まず胎児の前足を目一杯押し戻したが

胎児の頭の向きは変わらず

IMG_0799手掛かりが耳の先端のみ

というのは変わらなかった。

そこで産科器具のショットラーを使って

胎児の頸を挟むこと数回試みた。

ところが、私はショットラーを1つしか持っていなかったので

2本使った組み合わせ技(たぐり寄せ)ができなかった。

しばらく胎児をゆするなどしたが進展がなかった。

IMG_0795そこで登場させたのが

この産科器具

名前はなんというのかは知らない。

器具の中央には

IMG_0794HAUPTNER

という印字が彫られている。

この器具に

産科チェーンを取り付け

この器具を胎児の頸と胴体の隙間に差し入れる。

IMG_0794胎児の頸の背側から差し入れた器具の先が

胎児の頸の腹側から差し入れた手に辛うじて触れた。

それをたぐり寄せることで

胎児の首に産科チェーンを掛けることができた。

そのチェーンを引きながら

しばらく胎児を強くゆすり

再び手を入れてみると

耳の先端しか触ることのできなかった胎児の頭部の

額と眼窩に手が届くようになった。

眼窩に手が届けばしめたものである。

眼窩に指を掛けることができれば

IMG_0800そこへ今度は

産科鈎(こう)を掛けて

掛けたロープをそのまま保持し

胎児の足を強く押し込む。

と、胎児の頭が

上を向くように

反転し始めて

ついに

こちら向きになった。

これで胎児の頭部の整復が完了した。

次に

押し込むことで屈折してしまった前足2本を

整復した頭部の横に揃えて戻し伸ばして

ようやく

産道の上に

胎児の頭と前足2本が揃った。

「よし、これであとは、普通のお産だね。」

〓牧場のスタッフといっしよに

滑車を使って胎児を牽引した。

IMG_0792大きなメスだった。

しかし

残念ながらすでに死亡していた。

親牛は疲れて寝ていたので

カルシウム剤などの補液をセットして

IMG_0793産科道具を片付けて

次の往診先へと向かった。

朝1番目の診療だったが

時計を見ると

午前11時を回っていた。


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初産牛の子宮脱(2)

子宮脱星を支配するナゾの巨人、

子宮脱大魔王の正体を暴くために取り組んできた(?!)、

子宮脱最中の牛の、

血中カルシウム濃度の測定。

先日ようやく、

最も気になっていた初産の牛の、

子宮脱時におけるカルシウム濃度を測定する機会を得た。

これまで私がカルシウム濃度を測定してきた子宮脱の牛たちは

たしか7〜8頭だと思ったが

全て経産の牛であった。

それらの血中カルシウム濃度は

ことごとく低値で

ことごとく 3〜4 mg/dl 前後の

強い低カルシウム血症を示していた。

そこで

私は

「牛の子宮脱の必要条件の一つは、低カルシウムである。」

という仮説を立ててみた。

この仮説を実証するためには

経産牛子宮脱の血液ばかりではなく

どうしても、未経産牛

すなわち、初産の子宮脱の牛の

血中カルシウム濃度も測定して

それが、経産牛と同様に

低カルシウムであることを示さなければならなかった。

IMG_0507そして先日、とうとう

その機会がやってきたわけである。

もし、臨床検査センターに出した

初産の子宮脱の牛の血液が

低カルシウムであったならば

私の仮説は

俄然、現実味を帯びてくることになる。

私は、その結果が

臨床検査センターのWEB上に出されるのを

楽しみに待っていた。

そして

先日ついにその結果を見た。

それは以下の写真の通りだった。

BlogPaint











クリックして拡大して見ていただければわかるが

血中カルシウム濃度は

9.7 mg/dl 

・・・ということは

正常値。

・・・ということは

私の立てた

「牛の子宮脱の必要条件の一つは、低カルシウムである。」

・・・という仮説は

見事に否定されてしまった。

低カルシウム血症は牛の子宮脱の必要条件ではなかったのだ・・・

経産牛の子宮脱には

必ずといってよいほど見られる低カルシウム血症が

初産牛の子宮脱では

見られなかった。

私の推理は根底から崩れ去ってしまった。

子宮脱という病態と

低カルシウム血症という病態が

私の頭の中では強くリンクしていたのに

今回の血液検査で

その両者が一気に

遠く離れて

どこかへ飛んで行ってしまった。

窓の外を見ると

遥か夜空の銀河の淵の

子宮脱星のある方角から

私をあざ笑うような

子宮脱大魔王の

不気味な声が

微かに

聞こえてくるのだった・・・


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初産牛の子宮脱(1)

先日のまだ暗い早朝、

子宮脱の往診依頼が入った。

子宮脱の治療は約3ヶ月ぶりか、

子宮脱星を支配する子宮脱大魔王は、

当直の私にビーム照射することを忘れてはいなかったようだ(泣)。

「昨日の夜お産して、今朝来たら子宮が・・・」

「何産目?」

「初産です。」

初産・・・

初産の子宮脱だった。

私はとうとう、初産の子宮脱に遭遇した。

じつは、初産の子宮脱に遭遇することを

私はここ数年

密かに待ち望んでいたのだった。

なぜかというと

それは

血中カルシウム濃度を測ってみたかったからだった。

ここ数年

私は牛の子宮脱に遭遇するたびに

治療の前にまず採血をして

血中カルシウム濃度を測るようにしている。

そして

ここ数年

それらの牛たちの血中カルシウム濃度は

ことごとく、全て、低値だった!

その事実に基づいて

私はある仮説を立てている。

それは

「牛の子宮脱の必要条件の一つは、低カルシウムである。」

というものだ。

但し

ここ数年、私が遭遇した子宮脱の牛は

全て、経産牛だった。

したがって

測定した血中カルシウム濃度は

全て、経産牛のデーターだった。

さて

牛の臨床獣医師であれば

誰もが当然

経産牛の分娩時の血中カルシウム濃度は下がっているものが多いが

初産牛の分娩時の血中カルシウム濃度は下がっていないものが多い

という事を知っている。

今回

ここで、もし

初産牛の子宮脱時の血中カルシウム濃度が

低値になっている事を確認することができたら

私の「牛の子宮脱の必要条件の一つは、低カルシウムである。」という仮説は

仮説から真実へと大きく前進することになる。

私は

IMG_0504初産の子宮脱の牛を目の前にして

内心少しワクワクしながら

採血をして

カルシウム剤を投与してから

IMG_0505子宮脱整復の治療に取り掛かった。

牛は自力では立つことができなかったので

カウハンガーを装着し

吊起しながら

IMG_0508子宮を押し込み、整復した。

整復棒を挿入し、子宮を完納し

外陰部を巾着縫合した頃

牛はようやく立つことができた。

IMG_0511全ての応急処置を終え

事務所に戻り

カルテを書き

臨床検査センターへ

血液検査の依頼書を書いた。

はたして

今回の

初産牛の子宮脱の

血中カルシウム濃度はいかに・・・


(つづく)


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食品安全基本法!(2)

「食品安全基本法」という法律について、

私が5年前のこのブログに書いたことを、

ここでもう一度繰り返して書いてみたいと思う。

それは・・・

この法律は平成15年(2003年)に制定された法律で

日本の食品衛生の根幹となる法律である。

この法律の画期的なのは、その目的、基本理念だといわれている。

それは、すなわち

国民の生命及び健康の保護」

IMG_0580である。。

今となっては当たり前の考え方のようだが

制定当時、存在していた古い食品衛生法の

食品に対する法律の基本理念というのは、そうではなく

その文言というのは

「・・・もって、公衆衛生の向上及び増進に寄与する。」

という、健康よりも産業発展の重視とも取れるような

曖昧な表現によって結ばれていた。

それが

この「食品安全基本法」では

「・・・もって、国民の健康の保護を図る。」

という、国民の健康をまもる

という文言がはっきりと入ったものになったのだ。

法律の目的が

産業保護から健康保護へ

生産者保護から消費者保護へ

と大転換したのである。

しかも、この「食品安全基本法」は

諸々の法律の中でも位の高い「基本法」であり

その所管も、農水省や厚労省ではなく

内閣総理府の消費者庁にある。

わが国の食品に関する考え方は、この7〜8年の間に大きく変わったのである。

その理由は・・・

「食品安全基本法」の制定のころは

ガット・ウルグアイラウンド合意を発端として

わが国の食品の流通はタガが切れたように増大している。

それにつれて、大規模な食中毒(平成8年のカイワレ菜のO−157、平成12年雪印大樹工場ブドウ球菌)

あるいは、平成13年の肉骨粉によるBSE、平成14年牛肉の偽装事件、など

食品の安全性を脅かす事件が相次いで発生するようになる。

そんな背景から誕生したのが

平成15年の「食品安全基本法」、というわけである。

その理念の第二項には

「食品の供給に関する一連の行程の各段階における安全性の確保」

という文言も明記されている。

これはどういうことかというと

食品が誕生する最初の段階から

最後の国民(消費者)の口に入るまで

一貫した、安全性の確保がなされなければならない、ということなのである。

と・・・

まぁ、およそこういう事を

私は5年前に書き

「食品安全基本法」という法律を

自分なりに理解していた。

あれから5年ほど経った今年

また再び「食品安全基本法」についての講習を受けた。

再びの講習を受けている最中に

突然私の頭の中に

ある思いがこみ上げてきた。

それは単なる思い付きに過ぎないものだが

それが消えずにどんどん膨らんできて

どうしようもなくなってしまった。

その思い、とは何かというと

国民の健康を護る」という言葉を

IMG_0580さらに拡大できないのか

という思いである。

わが国で食品を消費しているのは

われわれ国民である事は言うまでもない。

IMG_0581しかし、わが国で

食品を消費しているのは国民(ヒト)だけではない。

わが国の家畜(ヒト以外の飼育動物)たちも

餌という食品を消費しているではないか。

IMG_0595国民が食品を食べる構図と

家畜が餌という食品を食べる構図に

どれほどの違いがあるのだろう。

我々と同じ気候風土の中で生きている家畜たちである。

我々が食べる食品と、家畜たちが食べる食品(餌)

IMG_0596そのどちらもが

消費する者の知らぬところで生産され

年々流通量が増大している。

「食品安全基本法」は

「食品の供給に関する一連の行程の各段階における安全性」

を監視することによって

国民の生命および健康を護る」

を実現しようとするものである。

IMG_0601私は

獣医師として

この法律の理念を

もう一つ拡大させて

「家畜の食品(餌)の供給に関する一連の行程の各段階における安全性」

を監視する

「家畜食品安全基本法」

というものが制定されることを期待する。

その目的は

もちろん

家畜の生命及び健康を護る」

である。


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食品安全基本法!(1)

私の妻が経営している、

「カフェ・モッキンバード」という名の店は、

実際は、いわゆるカフェなどではなく、

単なる「場末の飲み屋」であることは、

地元の皆さんにはすっかり知られるようになった。 

しかし、そんな店であっても、

一応はまぁ、一つの飲食店であり、

飲食店という所には、必ず

IMG_0768「食品衛生責任者」

という者を置かなければならない事になっている。

私の妻の店の場合

その、食品衛生責任者は本人ではなく

開店当初から、私がその責務を担っている。

獣医師であると、講習をせずとも

食品衛生責任者になれたからだった。

ところが、平成15年に

食品安全基本法という法律が制定されてからは

獣医師であろうが誰であろうが

食品衛生責任者になるためには

必ず講習を受講しなければならないという事になった。

その第1回は、今から5年前の平成22年に行われた。

その時の様子は、過去の私の記事にも書いた通りである。

それから約5年が経過して

IMG_0539今年の11月、再び

食品衛生責任者の講習会が開かれ

それを受講せよとの通知が我が家にも届いたので

先日の月曜日に

私が受講しに行く事になった。

IMG_05405年前の前回

この講習会を初めて受講した時

意外にも

非常に面白い内容だったので

今回も期待して、私は講習会に足を運んだ。

IMG_0541聴いてみると、今年も期待通りの

とても面白く、ためになる内容だった。

例えば、食中毒の話。

食品衛生に関する話のメインといえば

やはり食中毒の話なのだが

IMG_0551病原性大腸菌O157、腸炎ビブリオ、サルモネラ・・・

ノロウイルス、アニサキス・・・などなど・・・

話を拝聴していると

ヒトの食中毒とはなんと恐ろしく

現代社会を浮き彫りにする、集団病理なのか

というのが、よくわかった。

IMG_0546過去の事例を何例か紹介してもらいながら

我が国の食中毒事故の発生から収束、予防法まで

懇切丁寧な話を聴くことができた。

思えばこの5〜6年間

我々はいろいろな食中毒のニュースを耳にしてきた。

IMG_0585また食中毒事件に発展しなくとも

「食品安全基本法」「違反」したことで

マスコミに取り上げられて

大騒ぎになったニュースがたくさんあった。

それらの多くが

食品というものを大量に生産

食品というものを大量に売買

食品というものを大量に運搬

食品というものを大量に消費する。

そんな現代社会が生み出した

社会病理のような一面を持っている。

ここでいう「食品」というものは

我々人間が食べる品物であることは言うまでもないが

私はそこで、ちょっと考えた。

食べ物を食べると言う行為をするのは

我々人間だけではない・・・

ヒト以外の動物達もまた

食べ物を食べている・・・

特に、家畜たちは

飼料という名の食品を

毎日大量に食べているではないか・・・

そして

それらの飼料は

毎日毎日、大量に生産され

毎日毎日、大量に売買され

毎日毎日、大量に運搬され

毎日毎日、大量に消費されている。

そんな畜産業界にも

飼料にまつわる様々な事故が起こっている。

それは人間社会の食品衛生業界と

全く同じような

瓜二つの社会病理的な一面があるのではなかろうか・・・

そして、そのメインは、やはり

食中毒ではなかろうか・・・


(この記事続く)


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