北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

牛の診療

土ぼこり(ブラウンアウト?!)

昨日の往診は、

町内の高台の地区を中心に回った。

我が幕別町は、

十勝平野のほぼ中心に位置し、

幕別丘陵と呼ばれる小高い丘陵地帯である。

春から夏にかけての風の強い日は、

とりわけ西風の強い日は、

日高山脈から吹き下ろす風

いわゆる日高おろしが

十勝西部の平野を抜けて

我が町の丘陵地帯にぶつかる。

ぶつかった風は

幕別地区の畑作地帯の土を巻き上げる。

初夏の畑作地帯は

播種したばかりのコーン畑や

定植したばかりのビート畑や

その他野菜などもまだ根が張っておらず

土がむき出しのままである。

しばらく雨が降らないと

IMG_5577畑の土は乾燥し

風に飛ばされる。

昨日の往診の道は

風に飛ばされる土ぼこりが

いたるところで舞い上がっていた。

特に風の強い高台の地区では

舞い上がった土ぼこりが行く手をふさぎ

IMG_5578視界を遮り

車の運転に支障を来した。

厳冬期の地吹雪と同じように

視界を遮られて

私は思わず

車を徐行させながら往診せざるを得なかった。

これが雪ならばホアイトアウトだが

土ぼこりだからブラウンアウト?!とでもいうのだろうか。

雪は冷たくても溶けるから綺麗だが

土ぼこりは暖かくても消えることがなく

目や口の中に入って

目や口を開けていられなくなる。

車の中は

吹き込んだ土ぼこりで

ジャリジャリに汚れてしまう。

昨日のラジオやテレビのニュースでは 

北海道の道東自動車道で

土ぼこりによる視界不良で

玉突き事故が3件も発生し

通行止めになったと報じていた。

これはまったく

他人事ではないニュースだった。

以下の写真3枚は

IMG_5574高台地区にある酪農家△さんの

チューリップ畑。

今が盛りのこのチューリップは

毎年綺麗な姿で目を楽しませてくれるのだが

IMG_5575昨日は

強風と土ぼこりを

必死に耐えている姿だった。

私もその姿を楽しむことなど出来ず

IMG_5576飛んでくる土ぼこりに

しばらくすると

目を開けていられなくなり

そそくさと退散した。 


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現代の公共牧場

先日の午後からの仕事は、

ホルスタインの育成牛の妊娠鑑定を約60頭。

妊娠の有無を確認するばかりではなく、

同時に公共牧場の職員が、

これらの牛達に防虫薬のついた放牧用の耳標を、

IMG_5541耳に装着してゆく。

この仕事は、

我々畜産関係者の初夏の風物でもある。 

若い育成牛たちを

広大な公共牧場へ放ち

豊富に草が伸びた夏の放牧地で

秋まで伸び伸びと育てるのが

その目的である。

今年は何頭の牛が入牧するのだろうか?

IMG_5543わが町の小さな公共牧場なので

数百頭にとどまっているようだ。

入牧の頭数がかつてより少なくなった事に加え

おどろいたのは

入牧を希望した農家さんがたったの3件だということ。

昔は町内で何十件もの畜産農家さんが

公共の育成牧場への入牧を希望して

家畜車が何台もやってきては

次々と入れ替わりつつ

朝からお祭り騒ぎで

若牛達を入牧させたものだ。

それがなんと

最近はたったの数件なのだ。

IMG_5546もっとも

その数件の農家さんは皆規模が大きくて

1件で数百頭もの若牛を扱っているところなのだが。

牛の頭数はほとんど変わらずに

農家さんの戸数が激減した

現代の畜産の現状を

ここでも実感することができる。

ただし

公共牧場への入牧頭数と戸数が

これほどまでに減ってしまった理由は

単なる経営規模の変化ばかりではない。

もう一つの理由は

あまり言いたくはないのだが

伝染病の蔓延である。

放牧地特有のピロプラズマなどの原虫病もさることながら

最近では

特に問題視されているのが

牛白血病

牛伝染性下痢粘膜病(BVD-MD)

ヨーネ病

の3つである。

この3つの伝染病は

畜産経営の規模の拡大傾向とともに

増加の傾向を見せており

必死な清浄化対策をしているにもかかわらず

蔓延し続けている。

公共牧場への

入牧牛の減少の

大きな理由になっているのだ。


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育成牛の胸部の外傷(4)

左右の胸に深い傷を負った育成牛。

2週間の治療で、

ひとまず治癒としたものの、

創部には大きな腫れが残り、

その腫れの中身は、

炎症による浸出液(漿液)が溜まっていた。

漿液であれば

膿瘍や血腫と違って

悪影響は少ないだろうと

そのまま様子を見ることにした。

それから

約1ヶ月の時間が経過した。

先日たまたま

別件で〓さん宅に往診に行った時

例の育成牛を見せてもらった。

その写真がこちら

IMG_5379「・・・あれ・・・あんまり綺麗に治ってないね・・・」

「そうですね。」

「・・・左のほうはまぁ、腫れが引いてカサブタになってきてるけど・・・」

「そうですね。」

「・・・右側の傷、まだ汚くて腫れも残ってる・・・」

IMG_5378「そうなんですよ。」

「・・・縫ったところ、開いちやったみたい・・・」

「そうなんですよ、実はこれ・・・右側のパイプに当たっちゃうんで・・・」

「・・・?」

「餌をやると、前に出て、当たっちゃうんです・・・」

IMG_5377「・・・なるほど・・・」

「当たらないようにするのが難しくて・・・」

「・・・そーなんだ・・・」

傷の手当てと

その後の治療法も手探りで

ベストとは言えなかったが

こういう結果になっているのを

目の当たりにすると

手術の後の管理の難しさ

さらには

育成牛の飼育環境の厳しさ

などを

考えざるを得ない。


(この記事終わり)


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育成牛の胸部の外傷(3)

術後5日目にして、

ようやく普通に寝起きするようになり、

食欲が正常に戻り、

なんとか助かったな、

と思えた育成牛。

左右の胸部に深い傷を負った牛に遭遇することは

今までそれほど多くはなく

ましてやその部分に 

手術を施すなどということは

あまり経験することがなかったので

どうなることかと思っていたが

回復の兆しを見せてくれたことで

ひと安心をした。

「でも先生、この腫れは・・・」

「・・・中身はなんだろうね。」

次の課題は

左右の創部にできた

プカプカと波動感のある

ハンドボール大の腫れだった。

IMG_5214こういう腫れ物の中身を

手っ取り早く検査するには

穿刺をすればよい。

超音波診断も大事であるが

常に持ち歩いていないので

IMG_5211注射器と針があれば簡単にできる

穿刺検査を私はいつもやっている。

今回は

右側と左側でそれぞれ穿刺をしてみた。

すると

色の濃さこそ少し違うものの

IMG_5215どちらも漿液が吸引されてきた。

漿液とは

炎症が起こった時に出てくる浸出液である。

もしここで

吸引した液体が

半透明な漿液ではなく

真っ赤な血液だったら

どこかでまだ出血が起こっている可能性があり

貧血の手当てをしなければならない。

また、もしここで

吸引した液体が

半透明な液体ではなく

クリーム色の化膿汁だったら

激しい細菌感染が続いている可能性があり

抗生物質の投与とともに

切開、排膿、洗浄、などの処置をしなければならない。

IMG_5247しかし

今回はそのどちらでもなかったので

「・・・このまま様子を見ましょうか。」

ということになった。

牛は手術後2週間で

IMG_5245治療を打ち切り

あとは

自然治癒力に任せて

様子を見ることにした。

とりあえずの

治癒判定である。


(この記事終わ・・・ろうと思ったけど、もうちょっと続く)


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育成牛の胸部の外傷(2)

胸部に深い傷を負った育成牛。

創部からは肉片が垂れ下がり、

IMG_5188そこに手をいれると、

手がすっぽりと入り、

指先が肋骨に触れた。

牛は食欲がなく、

呼吸も速く、

呆然と痛みに耐えているようだった。

IMG_5190ただ、

幸いな事に、

肋骨という丈夫な防護壁のおかげで、

胸腔内までの損傷はなく、

肺そのものも無事のようだった。

それは

手を入れた時に

IMG_5192空気の漏れがなかったからだが

あらためて

肋骨という防護壁の機能を

肌で感じることができた。

創部を洗浄して

えぐれた肉片を切除した。

IMG_5196その後

できるだけ奥の方から

筋層を縫合し

皮膚を縫合し

ドレーンを装着した。

縫合したのは

IMG_5202牛の右側胸部の派手な傷で

もう一方の左側胸部の傷は

皮膚が切れておらず

挫滅しているだけだった。

他それは手で押すと

IMG_5187ブカブカと波動感があったが

あえて切開はせず

そのまま放置する事にした。

抗生物質を毎日打つように指示して

飼主の〓さんと牛は帰って行った。

翌日

牛は全く食欲がなく

立っていることが辛いのか

終始横臥していた。

傷口を下にして寝てしまうので

傷の手当てができず

仕方がないので

リンゲルやブドウ糖などの補液をして

全身症状に対する治療を続けた。

手術をしてから5日目

〓さん宅へ往診にゆくと

IMG_5208牛は立ち上がっていた。

「今朝から、すぐ立つようになったんですよ。」

〓さんの奥さんがそう言った。

「餌も、今日からだいぶ食べるようになりました。」

「・・・それは良かった。」 

IMG_5209「でも先生、この傷どうなんですか。」

「・・・。」 

「腫れ上がって来たんですけど。」 

立ち上がった牛の

左右の胸部を見ると

どちらの創部も

ハンドボールくらいの大きさに

IMG_5210腫れ上がっていた。

手術をした右胸の創部には

装着したドレーンが

もう役目を果たさずに

ぶら下がっていた。


(この記事続く) 



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育成牛の胸部の外傷(1)

「ホルの育成が胸から何か出ている・・・」

という稟告で向かった〓牧場。

「そのまま様子を見てようと思ったんですけど、元気がないので・・・」 

診ると、

右の下胸部から真っ赤な肉片のようなものが垂れ下がっていた。

「・・・どうしたの?」

「パドックで発情の牛が暴れたみたいで、この牛が扉に挟まれてたんです・・・」

「・・・扉?」

「パドックを仕切る観音開きになっている扉の、半開きの真ん中のところに乗っかってて・・・」

「・・・そのまま動けなかったの?」

「前にも後ろにも行けずに挟まってしまって、扉の鎖を切って、ようやく救出したんです・・・」

「・・・それが昨日?」

「はい、元気そうだったんですが、今日はもうボーッとしてて餌も食べなくて・・・」

「・・・ここで詳しく診るのは大変だから、午後から手術室に運んで来てくれる?」

「わかりました・・・。」

かくして

IMG_5185午後から運ばれて来た牛の

胸部の写真がこれである。

左右の下胸部に挫創があり

特に右の創部からは

布状の脂肪組織のようなものが垂れ下がっていた。

IMG_5187手術台に寝かせて

毛刈りをして

その部分に手を入れると

これがなかなか深い傷だった。

私の手はそのまますっぽりと創部に隠れ

IMG_5188進入させた指先に

肋骨が触れた。

傷の幅は15僂曚匹世

傷の深さも15儖幣紊△

その部分の筋肉と結合組織と脂肪組織が

IMG_5189えぐり出されたような傷だった。

扉の角の部分が当たっていたらしく

深くえぐられていた。

こんな外傷を見るのは

私の経験でも初めてのことだった。

深い傷だったが

胸膜には達していないようだった。

もし、胸膜が破れていたら

呼吸困難に陥っているはずだが

この牛は

呼吸が浅くて早く促迫ながらも

呼吸は出来ているようだった。

創部から空気が漏れてくることもなかった。

「・・・どうしましょうか・・。」

私と助手をしてくれたS獣医師は

IMG_5190しばし思案の後

とりあえず

傷をもう少し開いて

えぐり出された部分を切除し

そのあとの創部を

縫合することにした。


(この記事続く)



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かつて見たこともない牛糞

私が診たのは2診目だった。

F0D273C5-E7DA-4A5E-836C-047124D4C63B食欲は廃絶、

眼球は陥凹、

歩様は蹌踉、

そして何より驚いたのが、

便の性状だった。

直腸検査をして探ってみると

クリーム状の黄白色の泥状便、

AC4B6F88-D98D-4988-9EDE-C6EBEE56F12F直検手袋に張り付き

それはとても糞便というべきものではなく

化膿汁と呼んだ方がふさわしい代物だった。

生後16か月齢のホルスタイン雌

授精はひと月前に済ませていたという。

この時期のホルスタインの雌は

いわば青春真っ盛りの元気のよい頃なので

病気も少なく、たとい病気になっても回復する力を持っている。

BlogPaintそんな年頃の牛が

げっそりと体力を失い

かつて見たこともないような

クリーム色の下痢便を排泄して苦しんでいた。

その後

この牛は毎日点滴と抗生物質の治療が施された。

しかし

C1CA9A6D-3291-44D6-9CF6-4A50ED154AAB一度も好転の兆しを見せることなく

次第に衰弱し

起立困難から起立不能状態となり

第9病日に死亡してしまった。

畜主のΘさんからは最後まで諦めることなく

この牛に精いっぱいの治療をしてほしいと頼まれていた。

EF3E2632-7AC6-4A92-A1C8-EAC2F3C6B122にもかかわらず

我々の治療の効果はほとんどなく

おそらく数日の延命効果にとどまり

最悪の結果となってしまった。

後日

病畜処理場から

病理解剖の結果が送られてきた

BlogPaintそこには一枚の写真とともに

「小腸(とくに空腸後半から回腸)の充出血著明」

とだけ一言記されていた。

臨床所見では血便は肉眼では気付かなかったが

解剖所見では小腸の出血性腸炎という診断だった。

したがってこの牛の死因及び病名は

出血性腸炎。

いわゆるHBS(出血性腸症候群)の一つであったと思われる。


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ホルスタインの選別精液からジャージーが!

「安田さん、聞いてくださいよ・・・」

◎ファームの牛の乳熱の治療をしている時、

従業員の♯君が話しはじめた。

「このあいだホルの雌ダネを付けた牛から、ジャージーが生まれたんですよ・・・」

「・・・え?、どういうこと?」 

「ホルの雌ダネなのに、どう見てもジャージーみたいなメスが生まれたんですよ・・・」 

雌ダネ、というのは、

メスが生まれる確率が高くなるように、

加工された牛の精液のことである。 

性選別精液と言われるもので

酪農家のあいだでは広く普及され市販されている。

ホルスタインの人工授精に

普通の精液を使うと

オスとメスがほぼ1対1で生まれてくるが

この選別精液(雌ダネ)を使うと

メスが約90%の確率で生まれてくる。

精液というのは

オスの遺伝子を持った精子(Y精子)と

メスの遺伝子を持った精子(X精子)の

2種類が1対1で含まれている。

その精液を

特殊な機械に通すことによって

Y精子とX精子をふり分けて

雄の生まれやすい精液とメスの生まれやすい精液を作るのである。

メスの生まれやすい精液は

酪農家にとって

搾乳牛を確保するために好都合で

選別精液(雌ダネ、X精液ともいう)は

あっという間に全国に普及した。

◎ファームの牛の授精にも

選別精液が使われていたのである。

IMG_5216「・・・でも、何でジャージーが生まれて来たの?」

「繁殖台帳を確認したら、1回しか付けて(授精して)いないんです・・・」

「・・・その1回が雌ダネ(X精液)だったの?」

「そうなんです。最初は授精師さんが間違えたんじゃないかって思って問い合わせたんですけど・・・」

「・・・じゃないの?」

「JAの授精師さんは間違ってなくて、話は仕入先のABS(アメリカンブリーディングサービス)まで行ったんです・・・」

IMG_5217「・・・。」

「そうしたら、関東の方の牧場でも、この精液で同じような事があったらしいんですよ・・・」

「・・・ジャージーが生まれて来たの?」

「そうなんですよ。正確にはジャージーとホルスタインのF1ですけど、茶色くて小さくて・・・」

「・・・それでしっかりメス?」

「そうらしいです、製造元ではジャージーの雌ダネも作っているらしいんですよ・・・」

IMG_5218何でこんなことが起こったのか。

謎であるが

その原因を想像してみると

ホルスタインの選別精液を製造する工程で

ジャージーの選別精液が混入した

という可能性がある。

選別精液の製造所で

ジャージーの選別精液と

ホルスタインの選別精液が

IMG_5220同じ機械でられていて

何かの理由で

それが混ざってしまった

と考えられる

混入事件である。

これをお読みの畜産関係者の皆さんは

選別精液を使っていて

こんな経験したこと

ありますか?

あったら教えて欲しいです。


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ぬいぐるみ(2)

腹部の皮が、

およそ座布団一枚ほど、

ベロリと剥がれてしまい、

それを縫合するのに、

2時間以上を要した大怪我をした和牛。

縫合手術をした3日後の写真がこちら。

IMG_5115漿液が浸出して

腫れ上がっているのは

予想通りだった。

縫合部の一端から 

その漿液が漏れ出しているのも

IMG_5119予想通りだった。

和牛の乳房は

乳牛ではないので小さく

腫れ上がった外傷部に押しやられて

仔牛が乳首を吸いづらい状態になっていた。

しかし

それでも

お腹の空いた仔牛は

母牛の乳首を探し出して吸っているらしく

乳頭は仔牛の唾液で光っていた。

母牛の食欲は正常で

元気も良いので

このままの状態で

外傷部にはさわらずに

抗生物質の注射のみを続けることにした。

そして

それから20日経った時の写真がこちら。

母子ともに

全く普通に

IMG_5182他の親牛たちに混じって

パドックの中に放たれていた。

縫合部の腫れは

相変わらずあるものの

その腫れ具合は

4分の1程度に縮小しており

IMG_5184以前よりも

乳房がよく見える状態になっていた。

仔牛は全く普通に

母牛の乳首に吸い付いて

哺乳をしているようだった。

母牛も全く普通に

IMG_5178カメラを向ける私を警戒し

我が子をかばうように

立ちはだかって

こちらを見るのだった。


(この記事終わり)


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ぬいぐるみ(1)

先日の、

まだ寒さが厳しい頃、

午前中の往診を終えて、

診療所に戻ってみると、

和牛の親子が運ばれて来て、

親牛が手術台に仰臥保定されていた。 

IMG_5100その下腹部には、

写真のように、

巨大な切創があった。

「すごいですね、この傷は・・・」

「でしょ。」

「どうしたんですか・・・」

「古い馬小屋の馬栓棒を乗り越えて出ようとしたんみたいで。」

IMG_5101「何かに驚いたんですか・・・」

「そう、丁度尖がったところがあってね。」

「そこに引っ掛けて、ですか・・・」

「かぎ裂きになってべろっと剥がれて。」

飼主の△さんの父さんは

牛にすまなそうにそう話した。

「この親牛は随分と仔牛を可愛がるやつでね。」

手術台に寝かされた親牛の

IMG_5103顔の前には仔牛がいて

心配そうに

親牛の様子を伺っていた。

この牛の主治医はS獣医師だった。

K獣医師が助手に入り

2人で大きな切創の縫合手術が始まった。

私はまだ往診から帰って来たばかりだったので

IMG_5102昼食の弁当を食べて

再び手術の様子をうかがってみると

縫合にはかなりの時間がかかっているようだった。

単純な作業ではあるが

範囲が広いので

IMG_5104時間がかかっているのだ。

死腔を作らぬように

剥がれた皮膚と皮下組織を

丹念に拾いながらの縫合手術は

思ったより大変そうだった。

IMG_5105私は自分のカルテを書くために

何度か机に戻っては

写真を撮りに手術室を往復した。

そして約2時間後

縫合手術は終わりに近づいた。

IMG_5106S獣医師とK獣医師の額には

大粒の汗が光っていた。

最後の皮膚を縫っている時

私はふと

これはまるで

牛の大きなぬいぐるみを縫いあげているように思えた。

「これってなんだか、ぬいぐるみみたいですね。」

IMG_5110「・・・。」

「・・・。」

2人の先輩獣医師は、苦笑していた。

そんな冗談が通じないほど大変な作業だったようだ。

私はちょっと反省して

親牛の頭の方に目を移した。

IMG_5111親牛の顔の前には

仔牛が寄り添うように

しゃがんでいた。

2時間近くにわたる長い手術で

立っているのに疲れて

座っているのだった。


(この記事続く)



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「第三の手」初産の和牛の子宮脱

朝の往診先の振り分けがおわり、

Σ牧場の仔牛の治療の準備をしていると、

Σ牧場から再び電話がかかってきた。

「さっき分娩した初産の和牛が子宮脱なんで、すぐ来てください!」

これは直ちに行かなければならない。

それにしても、

この間も朝イチで和牛の子宮脱があったばかりだ。

私は今、どうも

あの忌まわしい子宮脱星の支配下に入ってしまい

子宮脱星人になっているようである。

Σ牧場へ着くと

Σさん兄弟が分娩房で

悪戦苦闘していた。

しかし、子宮脱の経験は過去に何度かあったようで

脱出した子宮の下に清潔なマットを敷いて

EB55BF5E-D4A2-437E-8FF6-106A7FCB54A0ぬるま湯を用意して

手袋をはいて

Σさんはすで自分の手で

子宮を約半分押し込んでいるところだった。

「この牛、立てないの?」

「ええ、さっき産んだばかりで、仔牛が大きくて結構キツかったんで・・・」

「これなら、そのまま残りを押し込めそうかな?」

「はい、出ている部分はあと半分くらいなんで、なんとか・・・」

「わかった、じゃあ一緒にやりましょう。」

私はΣさんと場所を交代し

押している子宮をそのまま引き受けた。

F2B3CFFD-084A-4505-B880-3AAE090EFABAその時

両手で子宮を押しながら

Σさんに

子宮脱整復棒で一緒に押してもらうように頼んだ。

この棒は

本来であれば

子宮を完納した後

腹腔の中の子宮の反転を直すために使う道具なのだが

12570983_948233651925150_1223774235_n[1]今回とっさに思いついたのは

飼主さんの手が空いているので

この棒によって

自分の両手に加えて

「第三の手」として飼主さんにも子宮を押してもらう

という方法だった。

親が立てず

腰も吊り上げないままに整復を始めて

そのまま半分まで押し込んだのならば

親牛の努責に負けずに

間髪入れずに

さらに子宮を押し込むのが最も早い方法である。

私の両手と

Σさんの整復棒よる「第三の手」が協力して

間もなく子宮は腹腔内に完納された。

そしてその後は

子宮脱整復棒の本来の使い方で

腹腔内の子宮の反転を取り除き

陰部をビューナー針と包帯で巾着縫合し

D6B8D977-AD1C-4211-96DF-95752291B622抗生物質とリンゲルの補液と

念のためのカルシウム剤を投与した。

親牛は横臥したままだったが

努責は治まっているようだった。

私は明日また来ることを告げて

そそくさと、次の往診に向かった。

翌日

血液検査の結果が来た。

BlogPaintこの牛の血中カルシウム値は

8.3 /dl

だった・・・

今回の子宮脱のおもな原因は

低カルシウム血症とは考えにくく

強い努責が有り余った物理的なものだったのだろうか?

相変わらず

子宮脱というのはナゾの多い疾病である(笑)

Σ牧場に行ってみると

120F1FB1-7993-4E7E-AA5F-B5A0D23C6550昨日の牛は

昨日のうちに立ちあがり

今朝からは食欲も正常に回復していた。

生まれた子牛も元気だった。

それを確認した私は

陰部の縫合部を抜糸し

抗生物質を投与し

治療を終了した。


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削蹄後の跛行(4)

削蹄の次の日から右後肢の跛行を呈し、

飛節から蹄冠までの腫れが引かず、

X線検査によって近位趾関節の亜脱臼が疑われた、

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3初産のホルスタイン。

患部にキャストを巻いて、

暫くは痛みが和らいだかに見えたものの、

その後幹部のキャストずれの傷から細菌感染を起こし、

患部が化膿して大きく腫れてしまった。

IMG_4694その後、

キャストを外し、

抗生物質の投与を再開して、

痛みと跛行は小康を得たようだった。

しかし、

IMG_4890腫れは変わらず

その1週間後

食欲が無くなったと言うことで往診したら

第四胃変位になってしまっていた。

第四胃変位になったと同時に

66820447-4AD0-43B0-8AA5-C197EA4EB607泌乳量はほぼゼロになってしまった。

普通は乳牛が第四胃変位になったら

即刻開腹手術を実施するのだが

この牛の場合

足が悪く歩行や起立が困難な事と

泌乳量が全くないことで

開腹手術をしたところで

この牛の飼養価値はあるのだろうか

と言う考えが

飼主のΛさんの脳裏にはあったのだろう。

結局手術は延期され

内科治療が施された。

内科治療を数日施したら

8D8762EC-5AC2-4949-9371-AD12E9A06465元気が出現し食欲も回復して来た。

しかし

泌乳量はゼロのままだった。

すなわち、お乳はもう上がってしまったのだった。

Λさんはそのままこの牛を、足場のよい乾乳牛の群へ移動させた。

そこに入れると、起立や歩行が楽になると言う事だった。

Λさんはこの牛の即刻の自家淘汰を考えたが

起立や歩行が楽そうなので

そのまま飼い続けて

うまく行けば肉をつけて

屠場へ肉として出荷する予定にした。

それから2週間近く

この牛はΛさん宅の乾乳牛舎で飼われ続けた。

しかし

牛の状態は思ったほど良くならなかったらしい。

先日、往診に行った同僚獣医師の話によると

この牛は、残念ながら

食肉にすることもできず

病畜処理場へ運ばれて

処分されてしまったそうだ。

泌乳量はゼロで

共済保険の適用も難しく

肉にもなれず

残念な結果になってしまった。

乳用牛が思わぬ事故にあい

ひとたびその飼養目的に叶わなくなり

理想の飼養目的から外れざるを得なくなると

このような結果になってしまう。

家畜という牛の

運命は

哀れである。


(この記事終わり)


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削蹄後の跛行(3)

右後肢の外側蹄の、

基節骨と中節骨との関節、

すなわち「近位趾関節」に外力が加わって、

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3ズレ(亜脱臼)を起こし、

痛みと腫れが治らないという 、

今回の初産のホルスタイン。

困った末に 

苦しまぎれの治療法として

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4F患部をキャストで巻くという

普段やっている単純なナックルの整復法を試みた。

キャストを巻いた後の数日間は

寝起きもスムーズで

うまく行ったように思われた。

ところが

IMG_4827キャストを巻いてから4日目の朝

飼主のΛさんから電話がかかってきた。

「また痛くなってきたので、痛み止めでも打ってもらえないだろうか・・・」 

そこで、痛み止めとしてスルピリンをしばらく打ってもらうように指示した。

その後、10日間は音沙汰がなかったが

11日目に電話がかかってきた。

「やっぱり痛がるんで、キャストはもう外してもらえないだろうか・・・」

再びΛさんの牛舎に行って

キャストを外しはじめると

なにやら嫌な匂いが立ちこめてきた。

キャストの上端の辺りの皮膚が擦れて

そこから細菌が感染し

IMG_4828化膿していた。

化膿の範囲は思ったより広く

キャストを巻いた部分の

上半部の傷から

大量(約200ml)の膿が出てきた。

「・・・抗生物質を使わないと」

「痛み止めだけじゃだめだったか・・・」

「・・・キャストを巻いたことで蹄の負担は軽くなってよかったんだけど」

「体重が今度は足の上の方にかかって擦れちやった・・・」

「・・・もっと早くから抗生物質打っておけば良かったかもしれないね」

私は、キャストを外し終えた後

IMG_4829化膿して自壊している箇所を洗い

イソジンゲルを塗布したガーゼを当てて

その上からバンデージを巻いた。

「・・・これから毎日抗生物質を続けて、来週包帯の交換に来ますね」

「お願いします・・・」

IMG_4889そして翌週

包帯を交換し、抗生物質を続け

そのまた翌週も

包帯を交換し、抗生物質を続け

そのまた翌週

IMG_4890包帯を外して

そのまま包帯は装着せずに様子を見ることにした。

それからまた1週間が経ち

再び、Λさんから電話がかかってきた。 

「あの牛、食欲がなくなってきたんだけど・・・」

その日Λさんに往診に行ったのは

同僚のK獣医師だった。

K獣医師が往診から戻って来て言った。

「あの牛、四ぺん(第四胃左方変位)だよ・・・」 


 (この記事、もう少し続く)


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削蹄後の跛行(2)

簡単におさらいすると、

今回の初産のホルスタインの、

削蹄の次の日から始まった右後肢の跛行。

初診から毎日、

消炎剤の注射と塗布、

および抗生物質の注射を、

10日間続けたが、

治療には全くと言って良いほど反応がなく、

飛節から蹄冠部までの腫脹も変化することがなかった。

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4F10診目のX線検査によって、

外側蹄の近位趾関節のズレ、

亜脱臼らしき画像が得られた。

原因は定かではないが

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3何か尋常ではない外力が

牛の右後蹄にかかり

近位趾関節がダメージを受けたと思われる

そんなX線画像だった。

BlogPaintそれを参考にして

治療を考えなければならない。

私の技術レベルでゆくと

あと残された方法は

キャストによる外固定

それしかもう残されてはいなかった。

翌日さっそく

それを実行した。

IMG_4694写真のように

患部をキャストで巻くだけである。

この方法は

いわゆるナックル状態になっている球節を

外固定する方法と同じである。

IMG_4698しかし

いわゆるナックル状態(腱の異常)と

今回の近位趾関節脱臼(関節の異常)との

大きな違いは

患部が腫れている

ということである。

腫れて膨らんでいる患部を

キャスト固定したらどうなるのか

いろいろ想像されて

どれもあまりよろしくない姿が思い浮かぶのであるが

それでも

もう残された方法はこれしかないということで

やるだけやってみた

IMG_4699そんな

今回のキャスト固定だった。

だが

キャストを巻き終えた牛は

意外にも

患肢をすんなりと着地して

すくっと立ってくれた。


(この記事続く)



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削蹄後の跛行(1)

「削蹄した次の日、足が痛くなって腫れてきた・・・」

そんな稟告で診たΛさんのホルスタイン。

右後肢の飛節から球節にかけて腫脹し、

負重困難、水腫様の腫れも認められた。

打撲なのか、

関節炎なのか、

あるいはフレグモーネか、

とりあえず、考えられる処置として

消炎鎮痛剤と抗生物質の投与、

患部へ直接の消炎剤の塗布、

が続けられた。

普通このような治療を1週間程続ければ

ほとんどのケースで治癒に向かうものである。

122C074A-B552-4F5B-A891-47C43637744Aところが・・・

今回の牛の跛行は

一向に改善する気配がなかった。

抗生物質の種類を変えて

再び数日間の投与を続けてみた。

しかし・・・

それでも今回の跛行は

一向に改善する気配がなかった。

何やら難しい症例になりそうだったので

跛行を始めた日から数えて9日目に

患部のエックス線撮影をすることにした。

その画像がこれである。

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3相変わらず下手くそな写真であるが

よく見ると

外側の基節骨と中節骨の関節面が

ズレているように見える。

関節面のズレとともに

73E5E815-B47C-45D3-8A4F-F9C54A5B62C1関節が前方へ突出しているように見える。

骨折はないようだが

関節面がズレているということは

脱臼しているといっても良いのではなかろうか。

この牛の肢には

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4Fいったいどんな外力が加わって

このような姿になったのだろうか。

そんなエックス線画像を

目の前に置いて

しばしの思案。

0E5FDF60-A635-4EAE-83BC-F972B629DAF8さて

これからこの牛に

どのような治療をすればよいかと< />
あれこれと

考えなければならなくなった。


(この記事続く)



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帝王切開部位・右派?・左派?

「これから帝王切開だそうです。」

夕方追加往診に行っていたS獣医師から連絡が入った。

診療所に残っていた私はそれを聞いて、

今日の超過勤務を覚悟した。

それから約20分後にS獣医師が戻って来た。

H獣医師らと手術室で帝王切開の準備をひと通り終えて、

さらに20分ほど経ったところで、

牛が運ばれてきた。

牛を手術台に保定するとき

私は手術台のアームがいつもとは逆の

向かって右側が伸びていることに気がついた。

「あれ、右の下けん部を切るんですか?」

「うん、いつもとは違うんだけど、やってみようかと思って。」

S獣医師からそんな答えが返ってきた。

最近の我が診療所で行われる帝王切開は

牛の頭部を向かって左側に結び

牛の左側を上側にする

いわゆる左横臥で寝かせて

左の下けん部を切開する術式がほとんどである。

その理由は

第四胃変位の手術の時と同じ保定なので慣れている。

切開部位のほぼ直下で胎児を摘出することができる。

などが挙げられるが

実は難点もある。

それは

子宮を操作している時

大きな第一胃が邪魔になるという点である。

第一胃にガスが溜まってくると

牛の陣痛に共なう怒責によって

まるで大きなエアバッグのような第一胃が

切開創から飛び出してくることがよくあり

それが手術の進行を遅らせるのだ。

それを防ぐために

私はいつも第一胃のガスを抜くための

インジェクターを用意して手術をしている。

それでもやはり第一胃の怒責は煩わしいものである。

IMG_4976「右側を切ったら、それがないからね。」

S獣医師が右横臥を試みたのはそういう理由らしい。

ただ、右下けん部切開にも難点がある。

それは

子宮を操作している時

円盤結腸の周りを走る空回腸が

怒責に伴ってニョロニョロと出てくるので

IMG_4980それを避けるのが煩わしいという点である。

右を切ったら空回腸

左を切ったら第一胃

どちらかが邪魔になる

という点では同じことなので

要はその対処法に差があるかということだが

IMG_4982それぞれ慣れてしまえば大差はないように思われる。

今回私は

助手のそのまた助手として

周辺をサポートするだけの簡単な仕事だったので

写真を撮らせてもらったが

いつもと左右が逆の手術は

IMG_4982なんとなく

鏡に映った映像のようで

撮っているだけでも不思議な気分になった。

過去を振り返ってみると

以前はよく右横臥で右下けん部切開で帝王切開をしたものだが

IMG_4985いつの間にやら

左横臥で左下けん部の帝王切開ばかりをするようになっていた。

それはなぜかというと

邪魔になる消化管云々がその理由ではなく

どうやらその理由は

第四胃変位の手術と同じ体位で横臥させる

IMG_4986ということに慣れてしまったからのようである。

牛を寝かせるまでに

何も考えずに

体が勝手に動くのは

やはり

IMG_4987第四胃変位の手術と同じ

左横臥なのである。

なんだ

そんなことか(笑)

さて

これをお読みの獣医師の方々

あなたは帝王切開の時

どんな体位でやっていますか?

IMG_4989枠場で立位ですか?

手術台で横臥位ですか?

横臥位の場合

右横臥ですか?

左横臥ですか?


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自力で分娩した牛の親子は要注意!

先日の宿直の、

18時30分頃に携帯電話が鳴った。

「今日産んだ親牛と、その仔が元気ないんですけど・・・診てもらえますか?」

酪農家の▽さんからだった。

牛舎に着くと、仔牛がいるカーフハッチに案内された。

「難産だったらしくて・・・でも親のほうは、さっき見たら餌食ってたんで、様子みることにします。仔牛のほうを診てください。」 

仔牛はカーフハッチの中でうずくまっていた。

体温35℃以下、心音が弱く、呼吸も弱かった。

「お産は、だいぶきつかったの?、いつ生まれたの?、親は初産?」

「朝5時頃だと思います。見つけた時はもう生まれてたんですけど・・・親は経産牛です。」

「自力で生まれてたのね。」 

「はい・・・」

よくある事だが

自力で分娩し終わっている牛を見つけた時は

もう事態の山場が過ぎているので

安心して仔牛を移動させて

普通に様子を見ている飼主さんが多い。

しかし

最近のホルスタインは

足腰が弱く踏ん張りがきかなくなっているので

相当な難産であったと想像するべきである。

飼主さんが介助するのが当たり前になっている中で

介助のない自力分娩をした牛の親子は

親子共々相当な体力を消耗をしている可能性が高い。

そういうお産の直後の牛の親子は

いつよりもまして注意を払っておかなければならない。

今回はまさにそういうケースだった。

時間は19時を過ぎ

夜の厳しい寒気が忍び寄って来た。

「仔牛の体温が下がりすぎてるね。外のハッチで治療するのは、ちょっとなー。」

「寒すぎますか?」 

「うん、ここじゃ寒すぎるから、どこか部屋の中に持って行こう。」 

「わかりました。」 

IMG_4973私と▽さんの息子は

冷たくなりかけている仔牛の四肢を持って

処理室の事務机の前に運び込んだ。

処理室の中はプラスの気温だったので

ここで点滴治療をすることにした。

仔牛は体温が下がっているばかりではなく

BlogPaint血圧もかなり下がっていて 

頚静脈がなかなか見つからなかった。

数分後ようやく頚静脈に留置針を差し入れることに成功し

点滴治療を開始して

明日また治療に来ると▽さんに告げて

その夜はそのまま帰路に着いた。

翌朝

事務所の外の温度計の気温は

−16℃を指していた。

診療業務が始まった頃

▽さんから電話がかかってきた。

「昨日の仔牛・・・死んでしまいました・・・」

残念な結果になってしまったが

今の時期にはよくある事だ。

繰り返しになるが

もう一度書いておく。

飼主さんが介助しないで

自力で分娩した牛の親子は

いつも以上に

体力を消耗しているので

要注意!


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巨乳の乳牛の四変手術

乳牛はみな巨乳である。

沢山の乳を搾るために、

そのように改良(改変)されて来たのだから、

仕方のないことであるが、

そのおかげで、

色々なところに支障が出る場合もある。

先日、

四胃変位の手術をするために連れて来られた牛は、

超・巨乳、だった。

手術台に寝かされて

仰臥姿勢にすると

巨大な乳房が

前方へはみ出して来て

四変手術の切開部位である

傍正中線付近が

すっぽりと覆われてしまった。

一部分だけ覆われて手術しづらい

という事は過去に何度もあったけれど

今回は手術予定部位がほぼ全域

超・巨大乳房によって覆われてしまう。

IMG_4830仕方がないので

この巨大乳房にロープをかけて

後方へ引っ張り

そのロープの先端を後方に固定することにした。

いつもは四肢を縛っているロープを

IMG_48311本余計に使って巨乳の固定をした。

こんなことをするのは初めてだった。

巨乳を固定した後は

写真のように普通に

バリカンで毛刈りをし

IMG_4832普通に手術を終えることができたが

こういう牛の共通項として

巨乳の割りには

体がやせ細って

腹囲が巻き上がっている。

IMG_4833そのために

巨乳が前方へはみ出して

手術の邪魔になるのである。

乳牛の体型の

遺伝的な改良が進むのは

良いことだと思うが

どれもこれも良くなるというものではなく

時には体型が崩れて

それが返ってあだになってしまう

という場合もある。

家畜の改良というのは

遺伝子ばかりを良くすることではなく 

飼われる環境も

同時に改良して行かなければ

本当の改良にはならないのだろう

と、つくづく思う症例だった。 


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今年最初の難産介助

今年の年末年始は、

元日から2日までが私の当番だった、

静かな朝日を浴びて診療所へ向かい、

大晦日から元日まで当番だったT獣医師と新年の挨拶を交わし、

元日はT獣医師と約半分づつ仕事を振り分けて、

それぞれの往診先へ出掛けた。

午前中の最後の往診先で仔牛の治療をしているとき、

ポケットの携帯電話が鳴った。

「お産なんですけど・・・仔牛が大きくてなかなか出ないみたいで・・・」

和牛繁殖農家の★さんからだった。

到着して分娩の予定日を聞いてみると

「12月14日なんですけど・・・2週間以上遅れてるんで・・・ちょっと心配で・・・」

産道に手を入れて診ると確かに肢が太い。

頭部はその奥で少し横を向いていた。

「・・・あー、これは頭にワイヤーをかけたほうがいいね。」

「お願いします・・・」

手持ちのループワイヤーで頭部を確保し

まず頭部だけをゆっくりと牽引する。

頭部は軽い抵抗感とともに産道に乗ってきた。

次に両前肢にロープをかけてそれをセットした滑車に接続する。

滑車につないだ前肢と

ワイヤーで確保した頭部を

交互に少しづつ牽引してゆく。

頭部が最もキツくなる膣をおでこが完全に通過して

後頭部まで出たところで

前肢につないだ滑車だけを強めに一気に牽引する。

胎児の骨盤が完全に通過して

ドサッと生まれてきた。

大きな♂だった。

IMG_4903「よかった・・・無事に生まれた・・・」

「・・・今年最初のお産の仕事は、無事でよかった。」

「ありがとうございます・・・」

新年早々、これは幸先の良いことかもしれない。

そして

その夜

午後6時半過ぎに当番の携帯電話が鳴った。

「また、お産なんですけど・・・仔牛向きが悪いのか・・・なかなか出なくて・・・」

なんと、また同じ和牛繁殖農家の★さんからだった。

到着して再びカッパを着ていると★さんが来て

「昼間の牛よりも簡単に出せるかと思って・・・色々やってみたんですけど・・・」

という。

産道に手を入れて診ると、昼間の産道よりも乾燥感が強く、胎児の頭部もより奥にあった。

「・・・あー、これも頭にワイヤーをかけないと駄目だね。」

「お願いします・・・」

私はふたたびループワイヤーで頭部を確保したが

昼間の牛の胎児よりも頭部が乾燥していた。

親の陣痛が強く羊水ばかりが先に出てしまっている様子だったので

胎児の頭部にワイヤーをかけるのに倍以上の時間がかかった。

なんとかワイヤーをかけて

まず頭部だけをゆっくりと牽引する。

頭部はかなりの抵抗感とともに産道に乗ってきた。

次にすでに両前肢にかけてあったロープを滑車に接続する。

滑車につないだ前肢と

ワイヤーで確保した頭部を

交互に少しづつ牽引してゆく。

頭部が最もキツくなる膣をおでこが完全に通過して

後頭部まで出たところで

前肢につないだ滑車だけを強めに一気に牽引する。

胎児の骨盤が完全に通過して

ドサッと生まれてきた。

今度は、大きな♀だった。

IMG_4907「よかった・・・無事に生まれた・・・」

「・・・羊水がかなり抜けてたみたいで、キツかったね。」

「でも無事に生まれて・・・よかった・・・」

「・・・元日に同じ家の牛のお産を2回手伝ったの、たぶん初めてかも。」

「そうですか・・・ありがとうございました・・・」

新年早々、これは重ねて

幸先の良いことかもしれない。

気温が下がり寒い夜だったが

この日の夜の往診はそれだけだった。

翌日は、ほぼ普通量の仕事をこなして

元日から2日にかけての当番を無事に終了させることが出来た。

さて

今日(3日)から6日まで

私の正月休みが始まる♪

3日の予定は、午前中に帯広神社へ初詣。

午後からは、帯広競馬場でばんえい競馬の観戦。

4日の夜は、旧友と焼鳥屋で一杯やってから夜のジャズライブ。

5日の午後は、帯広能楽同好会の初稽古。

6日は朝から札幌で、ホトトギスと伝統俳句協会の新年句会。

予定がびっしり(笑)

天気も良さそうだ。

正月休みを思いきり楽しもうと思う♪


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和牛難産後の子宮脱(2)

朝の往診の準備中に緊急で入った子宮脱の整復。

その日になんとか整復して、

翌日の往診の時は起立していてくれないかと、

淡い期待を抱いていた。

しかし、

翌日その牛は起立できなかった。

症状は全身の発汗が見られ、

相変わらず呆然として食欲不振だった。

血液検査の結果、血清カルシウムは

6.2 ml/dl だった。

その翌日の治療内容も

血液検査の結果を参考にしながら

カルシウム製剤とマグネシウム製剤と抗生物資の投与をした。

その翌日

牛の食欲が回復。

発汗もおさまり表情に活気が出てきた。

血中のミネラルその他の性状が好転したようだった。

しかしながら

起立することができなかった。

リンゲルなどの補液とVB1などの栄養剤と抗生物質を投与した。

その翌日

22C9DA86-8091-4391-AC14-2E4CFB32703B牛の食欲はほぼ正常化。

起立しようとする意志が感じられ

過肥で重い体を前肢だけで引きずり

這いずり回すようになった。

しかしながら

起立することができなかった。

這いずり回る牛の

下腹部に異常を発見した。

6605BCF1-5012-42A9-820C-DBE14519F586右の下腹部が大きく膨れ上がり

触ると波動感があった。

腹壁ヘルニアが強く疑われた。

更に

左後肢はほとんど動かすことができないことも

だんだん明らかになってきた。

骨盤腔内の神経麻痺が疑われた。

鎮痛剤と神経賦活のためのVB1剤が投与された。

その翌日

症状はそれ以上改善することはなかった。

B9962135-C07C-4162-B347-70336C6E8E32食欲はあるものの

腹壁ヘルニアの疑われる腹部の異常は顕著で

左後肢は全く動かすことができず

這いずり回る力が

昨日より少し衰えてきたように感じられた。

ここで私は

Θさんと相談し

この牛を廃用にすることにした。

その手続きをしている間

「・・・ああ・・・かわいそうな事をしちゃった・・・牛が気の毒で・・・ごめんなさいね・・・」

Θさんの母さんは

何度も何度も

この牛に話しかけていたのが

印象的だった。 


(この記事終わり)


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