北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

牛の診療

手遅れの子宮捻転

おめでたい令和元年を、

締めくくる話としては、

非常に残念な話であるけれども、

先日の酪農家の▼牧場で、

往診中に言われた追加の診療、

「・・・乾乳の牛なんですけど、1頭追加で診てもらえますか?・・・全然食べなくて・・」

ということで、

乾乳牛舎へ行って診察。

乾乳の牛は分娩予定日が近いので、

まずは必ず胎児が無事かどうか

子宮が無事かどうか

を確認することが重要である。

今回もそのセオリーにのっとって

陰部から手を入れてみると

手が途中で先に進まなくなり

時計の反対回りに吸い込まれるような感覚

「あー、これは捻れてるね、子宮捻転だよ。」

陰部から手を抜いて

その手を肛門に入れて直腸検査をすると

直下の子宮の頚管部分がタオルをねじったように絞られていた。

グリグリの子宮捻転だった。

「いつから食欲がなかったの?」

「・・・たぶん・・・昨日とか、おとといとか・・・2、3日前から食べてなったかも・・・」

「曖昧なんだね。予定日はいつ?」

「・・・あと1週間くらいのはずです・・・」

「帝王切開するから、午後1時半に牛を連れてきて。」

「・・・わかりました・・・」

そんな経過で連れてこられた▼牧場の乾乳牛を

IMG_6364手術台に乗せて

左下腹部を切開して

子宮を探索すると

パンパンに張った子宮が触知された。

IMG_6365腸管や大網をよけて

その子宮のしょう膜面を露出させて

その色をみると

写真のように

紫がかった暗赤色だった。

IMG_6366「これは・・・」

「鬱血がひどいですね・・・」

「時間が経ってますね・・・」

「ダメですねこれは・・・」

「そうですね・・・」

「このままTV廃用にして閉じましょう・・・」

「そうしましょう・・・」

手術に関わった獣医師の意見は一致した。

私は診療用のスマートホンを取ってきて

連合会に第1報を入れた。

IMG_6367折り返し連合会からテレビ電話がかかってきて

第2報でこの牛の術創と子宮を映し

子宮捻転の予後不良ということで

死期切迫の1号廃用を認定してもらった。

それから術創を縫って閉じて

IMG_6368牛を立たせて

家畜車に戻し

その家畜車を見送った。

牛が生きていても死んでしまっても

IMG_6369処理場への搬入は明日という予定になった。

手術室の外は

重たい霙(みぞれ)が降っていた。

おめでたい令和元年を

IMG_6370締めくくるには

あまりにも

残念な結果に終わった症例を書いたが

こういう症例が

最近増えているように思うのは

私だけだろうか。


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難産「双子、頭位」の1例

「お産なんですけど、足は触れるのに、頭が触れなくて・・・お願いできますか?」

深夜1時に枕元の携帯電話が鳴り、

▼畜産の従業員のM君の声が聞こえてきた。

「・・・了解。」

▼畜産は多くの従業員を抱える酪農場だ。

今まで何度も

頭が触れないからということで

従業員が逆子だと判断して

産道に来ている胎児の前肢を後肢だと思い込み

強引に牽引し

側頭位にしてしまって整復できず

帝王切開になったという例が多くあった。

(・・・今回もまたそうだったら嫌だな・・・)

そんなことを考えながら▼畜産に到着し

カッパに着替えながら

従業員のM君に質問した。

「・・・引っ張ってないかい?」

「まだ引っ張ってないです。頭が触れないときは引っ張るなって、獣医さんに言われてますから・・・」

「・・・本当に?」

私はそう言いながら産道へ手を入れた。

「前肢だと思うんですけど・・・」

「・・・うん、確かに前肢だね。頭も触れるよ。」

「そうですか・・・」

「・・・でも、・・・あれっ?」

「何か・・・」

「・・・肢が3本あるぞ。これは双子だよ。」

「双子ですか・・・」

胎児はまだ産道の奥でうごめいていた。

頭部もぐるぐると動いていた。

「・・・ちよっと待って、ヘッドワイヤー持ってくるから。」

3EC7C1CE-516B-417C-8776-C4B868303701前肢が3本と頭が奥でうごめいているのだが

この頭が動いている胎児の前肢は

その横で触れる3本の前肢のうち

どれがこの子の前肢なのか。

確信が持てない場合は

まだ牽引してはいけない。

こういう場合私は

その頭にヘッドワイヤーをかける。

ワイヤーをかけた頭部を軽く引いてみる。

引いた頭部に連動して産道へ乗ってくる前肢が

この子の前肢である。

その2本の前肢と頭部が同じ胎児のものだと確信したとき

はじめて胎児を強く牽引する。

今回もそのようにして

ワイヤーをかけた頭部をゆっくりと軽く引いてみた。

すると・・・

「・・・うーん前肢が1本しかついてこない。」

「3本の前肢のうちの1本だけですか?・・・」

「・・・そう・・・あっ、もう1本あったよ、4本目が。」

「4本目ですか・・・」

「・・・でも4本目は曲がってる。」

ワイヤーをかけた頭部と連動している前肢は

1本はこちらを向いていたが

2本目は腕節で曲がっている前肢屈折位だった。

曲がった前肢の球節に手が届くようになったので

そこにチェーンをかけて整復し

ようやく胎児の1子目の前肢と頭部がそろった。

F3190B17-ACF9-4CED-BF53-F27980A32970「・・・よし、これで引っ張るよ。」

「わかりました・・・。」

従業員のM君とあと2人の従業員で

胎児が娩出された。

「・・・じゃあ、次にもう1頭引くよ。」

75EF335B-FBD4-4158-9253-0A0F1101C056「はい・・・」

私は2子目の胎児の

頭部が産道に来ていることを確認して

2子目の胎児の前肢にチェーンをつけなおし

従業員君たちに牽引を促した。

6BFE48E3-AB71-4F14-9CA8-73AF70FC463D2子目の胎児も娩出された。

「どっちも結構デカイっすね・・・。」

F1の胎児は

どちらも無事に生きていて

どちらも♂だった。

22C9ABD3-0CB3-470E-81BE-6DE7EEC7AB8C今回は

先に来ていた胎児の前肢の

左前肢の1本が屈折している状態で

難産になったわけだが

従業員のM君が

今までの経験をもとに

胎児の肢を無理に牽引しなかったのが

良い結果を生んだようである。


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難産「臀位」3連発

前回と前々回の記事を書いてから、

次の当番の日の夜中は、

平穏無事だった。

夜が明けて、

そのまま通常勤務時間になるのか、

と思った矢先に、

Ωさんから電話がかかって来た。

Ωさんは前回の記事で「臀位」の難産介助に行った酪農家である。

「・・・初産のお産なんだけど。」

「はい。」

「・・・なんか、また・・・尻から来てて、出ないんだわ。ちょっと来てもらえるかな?」

「はい・・・了解、行きます。」

Ωさんは

前回の記事で臀位の整復をした酪農家である。

その家からまた同じょうな稟告の難産の往診依頼だった。

(マジかよ・・・)

私は半ば呆れた感じで

朝日の昇る道を急いだ。

「あっちの育成舎の裏にいるんだ・・・」

牛舎に到着して産道に手を入れる。

前回と同じ牛舎で

前回と同じ初産の牛で

前回と同じ「臀位」の難産だった。

今回の親牛は自力で立つことができた。

私はカッパを着て

子宮弛緩剤のプラニパートを親牛に注射し

臀位の整復を始めた。

今回の臀位もまた

いわゆる普通の

一般的な臀位だった。

まず、曲がっている後肢の飛節の先の

中足骨のできるだけ遠位にチェーンをかけ

かかったらその部分を

できれば球節を超えて繋の部分へ移動させる。

その状態で産科チェーンを固定し

その後肢の飛節をグイグイと押す。

球節を固定しておいて

飛節をグイグイ押せば

IMG_6497後肢の先端が産道へ進入して来て

後肢の失位が整復される。

その時のコツは

球節に手をあてがって

産道の恥骨に胎児の蹄先が引っかからない様にするとよい。

後肢の片方が整復されると

IMG_6499産道に余裕が生まれ

もう片方の後肢は比較的整復しやすくなる。

両方の後肢が整復されたならば

あとは尾位のお産と同じなので

胎児をひたすら牽引すればよい。

チェーンのまま牽引するよりは

IMG_6501できたらロープに付け替えて牽引した方が

胎児の肢には優しい牽引になる。

ひたすら牽引しようとしたのだが

今回は前回よりも

胎児が大きく

前回よりも時間が経過していたようで

IMG_6505産道と胎児の滑らかさに欠け

大きな負荷がかかった。

滑車を取り付けて牽引すると

親牛ごと引きずられて

親牛はとうとうしゃがんでしまった。

胎児はなかなか出てこなかった。

IMG_6504丁度そこへ

JAの職員が2人やって来たので

その2人にも牽引に参加してもらって

滑車をひたすら牽引し

やっとの思いで

胎児を娩出させることができた。

IMG_6507今回の胎児も

残念ながら

すでに死亡していた。

初産の親の栄養状態と

飼育環境が過密なのが

気になる症例だったのは

前回と全く同様である。



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難産「臀位」介助の一般的な1例

その日の夜は、

前回の記事に書いたごとく、

変則的な「臀位」の難産を終えて、

事務所に戻ってカルテを書き終え、

しばらくウトウトしていた。

すると、当番の携帯電話が鳴った。

「お産なんだけど・・・尻から来てるみたいで・・・診てくれんかい・・・」

「・・・わかった、直ぐ行きます。」

(また臀位かよ・・・)

こんなこともあるのかと

私は少しあきれながら

再び仕事着を着て

夜道を走り

Ωさんの牛舎に到着。

「あっちの育成舎の裏にいるんだ・・・」

着いて産道に手を入れる。

初産の牛の難産だった。

「・・・あー、ほんとだ。これは尻から来てるよ・・・親は立てるかい?」

「今立たせる準備してるるから・・・」

99F25843-070D-40A3-B954-2F6896D66851胎児の失位整復は

親牛を立たせてやるのが基本である。

牛が寝たままの失位整復は

整復する人も寝ながらやらねばならず

怒責もキツくなるので骨が折れるのだ。

Ωさんが牛を立たせる準備をしている間に

416765FC-F560-4555-AFB4-241FC2CCD3B2私はカッパを着て

子宮弛緩剤のプラニパートを親牛に注射した。

今回の臀位はいわゆる普通の

一般的な臀位だった。

まず、曲がっている後肢の飛節の先の

中足骨のできるだけ遠位にチェーンをかけ

FFC18762-42A2-476D-B14D-9ACBA586F21Dかかったらその部分を

できれば球節を超えて繋の部分へ移動させる。

その状態で産科チェーンを固定し

その後肢の飛節をグイグイと押す。

56DF04D7-2419-4EB4-9B70-BC73135FEEFE球節を固定しておいて

飛節をグイグイ押せば

後肢の先端が産道へ進入して来て

後肢の失位が整復される。

FFC87719-B690-419D-8AFB-6445C07695A9その時のコツは

球節に手をあてがって

産道の恥骨に胎児の蹄先が引っかからない様にするとよい。

後肢の片方が整復されると

BD816927-783B-48D6-A1FD-1C6829B4AA9D産道に余裕が生まれ

もう片方の後肢は比較的整復しやすくなる。

両方の後肢が整復されたならば

あとは尾位のお産と同じなので

2D7A4A6D-3885-432E-BA07-1E9BCF468CF4胎児をひたすら牽引すればよい。

チェーンのまま牽引するよりは

できたらロープに付け替えて牽引した方が

胎児の肢には優しい牽引になる。

EA8A7A34-F751-447B-B787-8C337252157D今回の胎児は

残念ながらすでに死亡していた。

初産の親の栄養状態と

飼育環境が過密なのが

ちょっと気になる症例だった。


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難産「臀位」介助の変則的な1例

「お産なんですけど、双子みたいで・・・」

先日の当番の携帯から、

酪農家の♭さんの声が聞こえてきた。

「・・・はい、すぐ行きます。」

双子の難産はよくある事だ。

そして多胎の牛の難産は

単胎の時よりも胎児が小さいので

比較的に整復しやすい。

どんな双子なのだろうと

少し楽しみな気分も混ざりつつ

♭さん宅に到着。

「昼間に1頭産んだんです、でも、またリキみ始めて・・・」 

「・・・2頭目がいたのね。」

「そうなんですけど、なかなか出てこなくて・・・」

「・・・親牛、立てないの?」

「はい・・・昼間は立ってたんですけど・・・」 

とりあえず

寝たままで立てない親牛の

産道に手を入れてみた。

「・・・ん・・・。」

「きついですか・・・」 

「・・・お尻から来てるね・・・でも・・・。」 

「・・・。」 

臀位だった。

しかし普通の臀位よりも

胎児が産道へ進入していて

強い怒責とともに

臀部が産道にはまり込んで

胎児を押すことも引くこともできなかった。

親牛が立てないので

その嵌まり込み様は

にっちもさっちも行かない状態だった。

産道からわずかに覗いているのは

胎児の臀部と

右の飛節の先端だった。

「・・・これは、ちょっと困ったな・・・」 

臀位の場合

IMG_6377普通は胎児の曲がっている後肢を整復して

尾位の状態にしてから

後肢を牽引するのが普通である。

しかし

今回の場合

胎児の後肢を母体の中で整復することは

IMG_6379ほぼ不可能だった。

強い怒責とともに

胎児の臀部と飛節が完全に産道へ進入してしまっていた。

「・・・そのまま引っ張るしかないか・・・」

私は、胎児の後肢の整復はせず

産科チェーンを飛節に掛けて

IMG_6380そのチェーンをロープに取り付けて

♭さんに強く引いてもらった。

後肢が少しづつ

外陰部から姿を現し

さらに♭さんに強く引いてもらうと

後肢の飛節から先の遠位部が

IMG_6381ビュンと

バネが外れた様に 

勢いよく

飛び出て来た。

後肢が1本外へ出て来た。

「・・・よし、そのまま引いちゃおう!・・・」 

IMG_6382私は♭さんに

さらにそのまま引っ張る様に指示した。

ここまで来たらもう引っ張るしか方法がない。

「・・・ずっとそのまま、行っちゃって!・・・」

♭さん夫婦に牽引を促すと

胎児は少しずつあらわれ

IMG_6393腰部から胸部があらわれ

ついに頭部と前肢があらわれ

お産が終了した。

 親牛は頭を投げ出していた。

親牛にリンゲルとカルシウム剤を投与している時

♭さんが

IMG_6396「昼間に1頭目が生まれた後、これで終わりだと思って自分でカルシウム剤を打ったんです・・・」 

「・・・そうしたら、もう2頭目が押されて出ようとして、こうなったのね。」

「はい、まさかもう1頭いるとは・・・」 

「・・・思わなかった・・・と(笑)」 

双子の胎児の

2頭目の臀位を

後肢の整復をせぬままに

強引に引っ張ったケースは

あまり記憶がない。

毛の生えていない流産胎児では

何度もやっているけれど

分娩予定日前後の

通常胎児で

こんな牽引をやったのは

あまり記憶がなかった。


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黒毛和種の1ヶ月早産

「お産の予定日まで、まだあと1ヶ月あるんだけど・・・さっきまで足が出とって・・・」

「・・・お産、始まっちゃったの?」

「それが、さっきまで出とった足が・・・立ち上がったら、引っ込んで・・・」

「・・・それは診に行った方が・・・。」

「ちよっと頼めるかい・・・」

「・・・わかりました。」

午前の往診の途中に

そんな緊急の電話が入った。

和牛の繁殖の◎さんからだった。

牛舎の前に車を停めて

外に出ると

◎さんがいた。

「ずいぶん早いね・・・」

「・・・うん、すぐ近くにいたんでね(笑)、ところで牛は?」

IMG_6336「牛舎につないであるよ・・・」

ストーブ小屋を通って牛舎へゆくと

一頭だけポツンと繋がれた和牛の母牛がいた。

「あれ・・・?、なにか出てるぞ。」

「・・・これは、もう仔牛出ちゃってるね。」

IMG_6337親牛に近づくと

親牛の外陰部からは膜が丸く膨らみ出て

その下に真黒い和牛の仔牛が

呼吸もなく

ぐったりとして横たわっていた。

「死んでるのか・・・?」

「・・・いや、心臓は動いてるみたい。」

「息してないな・・・。」

「・・・ちよっと待ってよ・・・」

IMG_6338私は真黒い早産の胎児の

人工呼吸を始めようと

仔牛に近づき

肋骨に手をかけた。

すると

手をかけただけで

まだ何もしていないのに

仔牛が浅い呼吸をはじめた。

「生きとるのか・・・?」

「・・・生きてるみたい・・・」

IMG_6356しばらく見ていると

仔牛は弱く頭を振り

顔を上げて

再び今度は大きく頭を振った。

「生きとる・・・」

「・・・大丈夫そうだね。」

私はこの仔牛が命を取り留めたことを確信した。

とても小さな和牛の仔牛だった

分娩予定日よりも1ヶ月近く早い早産だから

当然かもしれないが

これだけ小さな仔牛が生まれたら

このお産は

双子なのではないか・・・

という疑いを抱かざるを得ない。

獣医師は難産の診療を終えた時

その仔牛が小さくて

少しでも双子の疑いが生じたときは

必ず双子のもう1子が子宮内に残っていないかを確認しなければならない。

IMG_6357今回も早速

親の外陰部に手を入れて双子かどうかを確認した。

子宮の中には

胎児らしきものは何も触ることができなかったので

今回はこの小さな仔牛1匹のみのお産であった。

和牛の早産というのは

思い出して見てもあまり記憶に残っていない。

ホルスタインの双子の早産に呼ばれるのは日常茶飯事たが

黒毛和種の単子の早産に呼ばれるのは

珍しいことなのかもしれない。


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仔牛受難の季節到来

全道各地に寒気が入り、

雪が降り、

その後に強い風が吹き、

風が止んで小春日となり、

再び低気圧が来て、

雨や雪を降らせ、

再び寒気が入り、

強い風が吹き、

そんなことが繰り返される季節になった。

本格的な冬のはじめは

風邪を引き易いので

防寒と風邪の予防に

最も気を使う。

寒い場所から暖かな場所へ

自由に行き来できる人間が

もっとも風邪を引きやすい季節。

そんな季節は

家畜たちにとっても

もっとも風邪を引きやすい季節に他ならない。

家畜たちは人間と違って

寒い場所から暖かな場所へ

自由に行き来することが出来ない。

IMG_6332寒ければ

その寒さにじっと耐えるしかない

拘束された身である。

親牛も仔牛もその例外ではない。

特に

仔牛は親牛よりも寒さに弱い。

寒さのダメージというのは

体が大きくなるほど少なくなると言われている。

家畜の体が大きくなればなるほど

体重あたりの表面積が小さくなるので

寒さに影響されづらくなる。

それに対して仔牛たちは

IMG_6333体重の割に

体表面積が大きいので

寒冷のストレスを受けやすく

結果的に風邪を引きやすくなる。

最近の往診にも

仔牛の治療が増えて来たような気がする。

治療ばかりではなく

仔牛の死亡の確認の仕事も増えて来たような気がする。

IMG_6334死んでしまった家畜を処理する

病畜処理場のデーターによれば

夏の暑い時期は

親牛の搬入が増え

冬の寒い時期は

仔牛の搬入が増えるという。

仔牛の管理を今一度

見直してほしい季節である。


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逆子(尾位)と首曲がり(側頭位)の見分け方

「お産なんですけど、頭が触れなくて・・・」、

難産で往診に呼ばれる時、

こういう稟告を言われることは非常に多い。

お産が始まって、

胎児の肢が2本産道に来ているのは確認できた。

正常なお産であれば2本の肢のすぐ奥に

胎児の鼻先、すなわち頭が来ている。

ところがその頭が確認できないと

「頭が触れなくて・・・」

ということになる。

なぜ頭が触れないのか?

その理由は、大きく分けると2つである。

‖杙の首が曲がって頭が真っすぐ来ていない。

胎児が逆子である。

この2つの違いをまず見極めることが

助産するにあたって何よりも大事な事になる。

,世辰疹豺腓

絶対にそのまま胎児の肢を牽引してはならない。

牽引してしまうと、側頭位になり、帝王切開をしなければ胎児は助からなくなる。

△世辰疹豺腓

そのまま胎児の肢を牽引すればよい。

,鉢△

対処方法が全く違うので

ここが、助産の何よりも大きなポイントとなる。

,両豺腓梁杙の肢は

「前肢」である。

△両豺腓梁杙の肢は

「後肢」である。

したがって

産道に来ている胎児の肢が

「前肢」なのか「後肢」なのかが判れば

この手の難産の最大の難関をクリアすることができる。

5DA928A6-9FF0-466A-8857-DF9F990DBBF9その判断のポイントは

「腕節(わんせつ)」の有無である。

産道で胎児の肢を手探りすると

まず蹄と球節があり

その手を奥に差し入れて

50〜80センチほど手を入れたところに

誰が触っても明らかな角度のある部分が確認できる。

それは

「前肢」であれば「肘(ひじ)」であり

「後肢」であれば「飛節」である。

ところが

「肘」と「飛節」との違いを

直接触って判断するのは意外に難しい。

頭が触れずに焦って助産をしていると

「肘」の部分を「飛節」と判断して

逆子と判断してしまうことが多い。

,任△襪里豊△犯獣任

そのまま胎児の肢を牽引してしまい

胎児を死なせてしまうケースが

相も変わらず非常に多い。

「頭が触れない・・・」となった時は

5DA928A6-9FF0-466A-8857-DF9F990DBBF9胎児の肢の

「球節」と

「肘」あるいは「飛節」と

その中間の形態を慎重に触ってゆくことが大切である。

「前肢」ならば

「肘」との間に「腕節」という関節がある。

32DC7608-3818-404D-836C-91116E62D3B9「後肢」ならば

「飛節」との間に関節は無い。

中間に関節が一つ有るか無いかが

重要なポイントになる。

こうして

胎児の肢が

「前肢」なのか「後肢」なのかを

100%間違うことなく判断することができる。

牛のお産では相も変わらず

857D734F-2946-4E15-B9FC-3EFDCD7F4F31逆子(尾位)と

首曲がり(側頭位)との

見極めを誤り

胎児を死なせてしまう事故が多い。

仔牛が1頭でも多く

無事に生まれる事を願って

このことは繰り返し

書いておきたいのである。


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嘔吐が治らなかった黒毛和種の仔牛

「食欲はあるのに嘔吐する」

という稟告の黒毛和種の仔牛、

月齢は約4ヶ月。 

牛が嘔吐するというのは、

反芻の時になんらかの理由で食べこぼしただけで、

その後自然と治ってしまう場合が多い。

今回の症例も

そういうケースではなかろうかと予想しつつ

経過を観察しながら

消炎鎮痛剤と抗生物質の投与が続けられた。

ところが

嘔吐が一向におさまらない。

第2診目、第3診目、も嘔吐が消えず

第4診目には血液検査をしたところ

BUN(血中尿素窒素)とγグロブリンの

若干の高値が見られた以外は

異常値は見られなかった。

だが

長引く栄養摂取不足と

飲水不足によって

削痩が進んで行った。

原因への療法が明確にできぬまま

対症療法としての栄養剤の輸液を増やさざるを得ず

毎日の点滴療法をしばらく続けることになった。

抗生物質の種類も変えながら

約10日間の対症療法が続けられた。

しかし

嘔吐は一向におさまることがなく

仔牛は削痩せてゆくばかりだった。

この仔牛はもともと体格が極端に小さく

月齢4ヶ月になったにも関わらず

体重は80kg程度だったので

それがさらに痩せてゆくとなると

みすぼらしさは増す一方だった。

「諦める・・・しかないか・・・」

治療を開始してから20日以上が経った時

飼主の★さんとの間で

遂にそういう話になった。

まず、この仔牛を予後不良として共済廃用とし

その後、帯広畜産大学に搬入して

病理解剖をしてもらおうと連絡を取ったが

秋の学会シーズンということで

大学の先生方を捕まえることができなかった。

止むを得ず

いつものように

地元の病畜処理場へ搬入することにした。

解剖の依頼書を付けて仔牛を搬入し

解剖結果を待った。

IMG_6178すると

処理場で病理解剖を担当しているO星先生から

剖検結果の丁寧な解説文が返ってきた。

その解説に曰く

「食道に異常を認めず、咽頭の粘膜に黒く変色した部分あり。炎症かどうかの判別はできないが、異常所見はその部位のみ。写真を参照下さい。」

IMG_6177という文章とともに

3枚の写真が添えられて

わかりやすく線と言葉が添えられていた。

これで、この仔牛は

「写真の部分の咽頭炎によって嘔吐がおさまらなかった」

ということが判明した。

生前診断が出来ずにモヤモヤとした気分が

これでスッキリとし

飼主の★さんにも説明をすることができた。

今回は残念な結果となってしまったが

明確な解剖の所見が得られたことで

何とか次に遭遇するであろう未来の症例に対して

参考になるものを残すことができた。

いつものことだが

処理場の諸先生方には

特に今回のO星先生には

感謝申し上げたい。



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F1の「半ミイラ」胎児

先日の当直の朝、

搾乳開始頃の時間に⌘フアームに呼ばれ、

乳熱(低カルシウム血症)の牛を診て、

事務所に帰ってカルテを書いていると、

再び⌘牧場から電話がかかってきた。

今度は、難産だという。

さっきついでに言ってくれれば良かったのに

と思ったが

大きな牧場では一晩に何度も往診することは

よくあることだ。

従業員の◎君の手に負えない難産ということで

そう簡単ではないだろうという覚悟をして

その牛の産道に手を入れて見ると

「・・・?」

「逆子だと思うんですけど・・・」

「・・・なんだか硬いね。」

「まだ奥にある感じで・・・」

「・・・直るかな。」

「飛節だと思うんですけど・・・」

「・・・後肢が向こう向いちゃってるね。」

手の長い◎君がそう言う通り

逆子らしき胎児は産道の奥にあった。

子宮外口(頚管)は開いているが

胎児のお尻と飛節だけが触れる

いわゆる臀位だった。

飛節から手を辿って

足根部を掴んで飛節を押してみた。

臀位の場合はこうすると

球節から蹄先が触れるようになり

球節を手で掴んでもう一度飛節を押すと

手を使っただけで後肢が整復される。

ところが今回はそれがうまくゆかない。

関節が異常に硬くて曲がりづらいのだ。

「・・・奇形かな、これは。」

反転性裂胎かもしれないと思いながら

帝王切開も視野に入れつつ

もう一度整復を試みた。

今度は足根部にチェーンをかけて◎君に軽く固定してもらい

私は全力で臀部と飛節をグイグイと押し込んだ。

硬く硬直した飛節と球節が

次第にこちらを向いてきた。

「・・・もう一度!」

◎君がチェーンで牽引している後肢が

ぐぐっと動いて

後肢の1本がようやく整復された。

もう片方の後肢も同様にして整復し

両後肢がこちらを向いた。

「・・・よし、これであとは、引っ張るだけだ。」

異常に硬くて細い感じのする後肢2本にロープを掛け直して

産科器具でで牽引すると

なにやら硬くやせ細った

怪しげな形の胎児の下半身が現れた。

かなりの抵抗があったが

ここまできたら牽引するしかない。

さらに牽引すると

急に大きくなった胎児の上半身が現れた。

そのまま一気に牽引すると

ようやく胎児がすっぽりと娩出された。

「・・・!、なんだこれは。」

「!(◎_◎;)・・・」

出てきた胎児は

上半身はまともなF1胎児だった。

IMG_6124しかし

下半身は干からびたようにやせ細り

スルメイカの様に

足は硬くねじ曲がり

関節は可動性なく

IMG_6122下半身だけミイラ化が進んでいる様な

「半ミイラ」状の胎児だった。

見た目がエグいので

この写真は閲覧注意かもしれない。

だが、こんな胎児のお産を経験することは

IMG_6128これから先

きっと無いだろうと思うので

学術的な記録として(?!)

ここにアップしておこうと思う。


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初産和牛の育児放棄

初産の和牛の難産、

産道が狭く、

陣痛が弱く、

胎児は大きな♂で、

幸い無事に娩出させることができた。

IMG_5939ところが

産んだ後の親牛の行動がよくない。

産んだ仔に近づかない。

まるで恐ろしいものを見るように

警戒して近づこうとしない。

普通ならばここで少しづつ

仔牛に近づいて

我が仔として認識して

舐め初めるなどのスキンシップが始まるのだが

IMG_5938今回の牛は

自分が産んだ仔牛に興味がなく

育児をしようともしない様子だった。

酪農家の初産のホルスタインならば

そのまま普通に親子を離し

別に用意しておいた初乳を飲ませて

普通に人工哺育へ

となるのだが

和牛の繁殖農家は

仔牛を母親のお乳に付かせなければならない。

しかし

今回はそれがうまく行かず

結局

飼主さんが人工哺育することになった。

IMG_6023それから1週間後

この仔牛が下痢をしたという知らせを受け

点滴治療を3日間続けて

なんとか回復させた。

IMG_6022それからまた1週間後

この仔牛がまた下痢をしたという知らせを受け

点滴治療を2日間続けて

再び回復させた。

ここの飼主さん和牛の人工哺育法は

1日3回の授乳である。

もっと授乳回数とかかる時間を増やし

1回に与えるお乳の量を減らして

自然哺乳に近づけることが理想であるが

それは飼主さん側の負担増となり

難しくなってくる。

日本中

どこの和牛生産農家も

きっと同じ問題を抱えているはずである。

  
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飼主さんの「難産」

「仔牛が下痢でぐったりしてるから、すぐ来て欲しい。」

和牛の繁殖農家の§さんから、

電話が来たのは朝の6時頃だった。

§さん宅に着くと、

牛舎の片隅に繋がれて

ぐったりしている仔牛がいた。

仔牛はいるのだが

§さんが見当たらないので

軽くクラクションを鳴らして

往診に来たことを家に知らせた。

ところが§さんはなかなか出てこない。

しばらく待っていると

家の中から

§さんの奥さんが出て来て

少し慌てたようにこちらに向かって歩いて来た。

「・・・おはようございます!・・・」

「おはようございます。治療はこの仔牛でいいんでしょ?」

「・・・はい・・・でも今、うちの父さん、難産で・・・」

「えっ、難産の牛もいるの?、それは大変だ。その牛はどこに?」

「・・・いえ・・・、牛じゃなくて・・・」

「牛じゃない?」

「・・・本人が・・・難産で・・・」

「本人が?」

「・・・トイレからなかなか出てこないんです・・・」

「大の方?」

「・・・はい(笑)・・・」

「うははは(爆)」

§さんの奥さんは

頓知の効いた人だ。

うまいことを言うもんだと

感心しながら

大笑い。

しばらく待っていると

§さんの父さんがやって来た。

心なしか

スッキリしたような顔をしていた。

IMG_5805下痢の仔牛の治療を開始して

輸液をセットして

抗生物質を打ち

仔牛の番号を確認。

治療している間

私は

込み上げてくる笑いを

抑えることができなかった(笑)



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残暑の難産介助

「お産で足が変・・・らしいんだけど・・・」

昼過ぎの暑い時間帯に追加往診が入った。

「よろしくお願いします・・・今、俺共進会場にいるんで・・・ヘルパーが家にいるんで・・・」

「・・・了解。直ぐ行きます。」

きのうはホルスタインの全道共進会。

酪農家のΣさんは、牛を出品している最中だった。

牛舎に着くと、見慣れないヘルパーさんがいた。

分娩房で寝ている牛は

陣痛で力んでいる様子もなく

ぐったりと疲れ切っているように見えた。

陰部からは

胎児の肢が一本だけ見えていた。

手を入れてみると

仔の肢は後肢だった。

もう一本の肢は産道の奥の方にあり

なかなか手が届かなかったが

それも後肢だった。

なんとか球節を掴んで引っ張ってくることができ

それからは普通の尾位(逆子)の分娩介助である。

しかし尾位の介助の時

胎児が生きていると

必ずといって良いほど足を動かすものだが

今回の胎児の肢は全く動かなかった。

胎児の肢に介助ロープと滑車を取り付けて

ヘルパーさんと力を合わせて牽引すると

かなりキツかったが

大きな♂の胎児が出てきた。

胎児はすでに死後硬直が始まっていた。

陣痛微弱だったために胎児が死亡したのか

他に原因があって胎児が死亡したのか

定かではないが

残念な結果になった。

介助を終えてカッパを脱ぐと

カッパの裏側は汗に濡れ

下着も汗に濡れていた。

親牛にカルシウム剤などの補液を施し

足を洗って帰る支度をしていると

33B8249E-2401-42C9-B459-8663165B65E8Σさんのばあちゃんがやってきた。

「・・・安田さん、スイカ食べるかい?」

お盆にのせた角切りのスイカは

目にまぶしい赤い色をしていた。

「・・・あんまり甘くないかもしれんけど。」

18A95441-AF78-49DB-88C4-7A845838A1F3そのひと切れを取って

口に含むと

冷えたスイカの香りとともに

甘い果汁が口の中一杯に広がった。

「ん!、うまーい!」

E5F3BD56-29A0-40B9-AFBC-BAEF307E40D4「・・・そうかい(笑)」

残暑の中で

カッパを着る難産介助は

暑さがより身に堪えるのだが

このスイカの一切れで

それを吹き飛ばすことができた。


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牛だかり

先日の午前中最後の診療中に、

和牛の難産の追加往診が入った。

牛舎の傍に車を止めて、

難産介助を数十分。

子牛は娩出させたものの

時間が経っていたので

残念ながらすでに息は絶えていた。

ほぼ分娩予定日通りのお産だったが

産道が狭く

胎児が大きく

かつ尾位(逆子)だった。

「頭が来ていない・・・」

という稟告だったので

最悪の側頭位を心配したが

その事態は免れて

経膣で牽引するだけで済んだのは

不幸中の幸いだった。

しかし

強い牽引によって

親牛は産後しばらく立てなかった。

親牛の手当をするために

薬を取りに診療車に戻って見ると・・・

「・・・ん?・・・」

開けたままのハッチバックの周りが

IMG_5863なにやら騒々しい。

育成の牛たちが

放し飼いにされていて

それが集まって中を覗いていた。

牛だかり

が出来ていた。

好奇心旺盛な育成牛たちは

私のことに構わずに

診療車内の道具や薬を

あれこれと物色していた。

「・・・こら〜、どけどけ(笑)・・・」

IMG_5864妙に人馴れしている育成牛たちは

なかなかよけてくれなかった。

最近

和牛の子牛を

農場内で放し飼いにしているのを

よく見かけるが

流行っているのだろうか?

誰か推奨しているのだろうか?

子牛のストレスは少なく

良い飼い方なのかもしれない

と、思った。


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・・・先ず、水飲んで!

「・・・先ず、水飲んで!」

十勝地方のは今日も、

午前中から30℃越えを記録。

往診先の酪農家Åさんの牛を診る前に、

IMG_5858先ずは奥さんに、

水分の補給を促した。 

Åさんの奥さんの顔は汗でぐっしょりと濡れていた。

昨日の夜も

十勝地方は気温が下がらず

25℃以上の熱帯夜だった。

朝晩は涼しいという十勝の気候を裏切るような

IMG_5860連日の熱帯夜で

酪農家の方々はすでに搾乳の時間から

汗びっしょりの労働が続いている。

気温が35℃に迫る昼間

往診先で獣医に対応してくれるのは

ほとんどが母さん達である。

父さん達は

主に機械に乗る仕事をしている時間帯である。

IMG_5859母さん達が着ている作業着は

汗でびしょびしょになっている。

私も汗でびしょびしょだが

往診先を変わるたびに

その移動中の車の中で

エアコンの涼しさに浸ることができる。

IMG_5861しかし

往診先の母さん達はそうは行かない。

どの家の母さん達も

首や頭にタオルを巻いて

ほほを紅潮させて

茹で上がったような顔をしている。

私はここ数日の猛暑の中

往診先に到着して

母さん達の顔を見たら

「・・・先ず、水飲んで!」

と、言っている。

「そーねー、さっきも飲んだんだけどねー。」

母さん達は

明るくそう答えるのだが

顔は皆んな

茹で上がっている。


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良い酪農家・悪い酪農家

われわれ獣医師にとって、

往診した先の牧場の牧場主が、

反社会的勢力の人かどうか見極めることは大切である。

しかし、

飼われている家畜にとって、

自分を養ってくれる牧場の牧場主が、

反社会的勢力であるかどうかは全く問題ではない。

飼われている牛にとっては

自分を養ってくれる飼主が

愛情を持って飼ってくれるかどうか

それが最も重要な問題である。

人間社会の中で

飼主がどんな立場の人であれ

飼われている牛にとっては

自分に愛情を注いでくれていさえすれば

それで良い。

人間社会の中で

飼主がどんなに偉い人であっても

飼われている牛から見れば

単なる飼主なのであり

自分に愛情を注いでくれなければ

つらいだけである。

牛にとって

飼主が自分たちに愛情を注いでくれるかどうか

その一点が重要なのである。

牛に愛情をそそいでいる牧場は

良い牧場である。

その反対に

牛に愛情を注がない牧場は

悪い牧場である。

良い牧場で飼われている牛たちは

健康である。

悪い牧場で飼われている牛たちは

不健康である。

われわれ

牛を診療する獣医師は

健康な牛たちのいる

良い牧場には

ほとんど往診には行かない。

不健康な牛たちのいる

悪い牧場には

毎日のように往診に行く。

IMG_5807それは

牛の病気を診療する獣医師として

当たり前のことである。

しかし

飼育環境が

一向に改善されない

IMG_5806悪い牧場へ

毎日毎日通うことが

当たり前になってしまうのは

とてもよくない事である。

われわれ獣医師の

精神衛生的な面から考えても

とてもよくない事なのである。


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牛が好きになる漫画本♪

(株)KADOKAWA・発行のコミック、

DA57B0B1-29BC-4E86-9003-3CB51F1EC866『毎日、牛まみれ』・牛川いぬお・作、

を読んだ。

この人の漫画はどこかで見ていて、

何故かとても印象深く記憶に残っていて、

先日、それをまとめた一冊の本が出た、という情報を得たので、

早速ネットで購入したのだ。

漫画本は気軽に読めて楽しい。

しかも

内容が酪農現場の仕事とあって

あっという間に読み切ってしまった。

そして

思っていたよりもずっと面白く

深い内容だったことに感動した。

「毎日、牛まみれ」

というタイトルからして

私の心を惹きつけるのに十分だが

ページをめくって行くにつれて

実際に作者と一緒に酪農の現場に立っているような

臨場感の中に入り込んでゆくのだった。

とにかく、牛の絵が上手だと思った。

牛を普通に写実的に描いている絵があると思えば

牛をデフォルメして漫画チックに描いている絵もある。

それらの牛の絵のすべてが

とても表情豊かなのである。

しかもその豊かな表情は

決して擬人化し過ぎておらず

我々がいつも見ている本当の牛の表情を外れていない。

これはよほど鋭い観察眼と

牛の心理を読み取れる感性がなければ

できないだろうと思った。

盛り沢山の内容の中から

私が特に好きになったシーンを

2つあげておきたい。

1つ目は

牛どうしのペロペログルーミングの話

BB8EFED3-E31F-47EA-ACD2-2FC701A35C8Bそれを描いている絵がとてもかわいらしく

誰が読んでも牛の気持ちが伝わって来る。

それでいて無理がなく

本当の牛の行動が描かれている。

これほど牛の心理を良く観察して理解し

それを表現している漫画があるだろうか

F772167D-8E22-4BE8-BF55-CA9A43C83159と感動してしまった。

さらに、そのシーンに対して

作者は牛の行動だけにとどまらず

こんなコメントを書いている

「誰かのために頑張っても、それが必ずしも報われるわけではないのは、人間も牛も一緒なのかもしれない」

そして、さらに

「思いがけない形で苦労が報われることがあるのも、人間社会と一緒なのかもしれない・・・」

今まで、こんな言葉が出てくる酪農関係の本を

私は読んだことがなかった♪

2つ目は

子牛のトラブル(この話では疥癬症)の話

酪農場の社長がなかなか薬を買ってくれず

子牛の管理に支障が出たとき

農場にやってきた肥育農家のオヤジが

それを見て激高して発した言葉

「おう、なんやこの牛は?!、社長どこや、社長だせやコラァ」

そして、さらに

「社長、あんた、どんな管理しとんねん!!、牛がカワイソウって思わんのか!!、この仕事なめとったら承知せんぞコラァ、わかっとんのか・・・」

これまた今まで、こんな言葉が出てくる酪農関係の本を

私は読んだことがなかった。

5E74C695-2181-4A2C-9EEA-4D233EB7A2D1何と、胸のすく

すばらしい言葉だろう♪

この漫画本の

ほんの一部を紹介したにすぎないけれども

私はこの漫画の作者

牛川いぬおさんにすっかり魅了されてしまった。

この本を読んだ後に

酪農場へ仕事に行くと

牛たちの表情が違って見えてくる。

99281ADA-B0AF-4CEB-B5CB-6F350456460Dこの本を読んだ人は皆

今までよりもずっと

牛のことが好きになっている。

そんな不思議なことが起こる

魅力的な漫画本♪

是非お勧めしたい一冊である。


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牛の処女膜

「ホルの育成牛に発情が来たけど、授精できない・・・」

▼牧場からそんな電話がかかって来た。 

よく聞いてみると、

「人工授精の注入棒が、うまく入らない・・・」

のだという。

もう少しよく聞いてみると、

「子宮頸管外口がよく分からず、奇形なのではないか・・・」 

という。

なるほど、

私もかつて何頭か、

そんな未経産の牛に遭遇したことがあった。

せっかく1年以上、その牛を育てて 

めでたく発情が来て

さあ種付け、と思った時に

そんなことになってしまうと

飼主さんの落胆は大きい。

先天的な生殖器の異常では

治療は無理であり

保険金をもらうこともできない。

繁殖用のホルスタインの雌牛が 

いきなり

食肉用の牛になってしまうという

そんな辛い診断をしなければならないのか、と思いつつ

▼牧場へと向かった。

問題の牛は

よく成長した元気なホルの育成牛だった。

「若い授精師さんが、何度も挑戦したんですが、入らないんです・・・」

外陰部が紅潮して緩んでいる。

私は長年愛用の注入棒を差し込んでみた。

すると

その棒の先がスーッと奥に進み

注入口から尿が漏れて来た。

子宮頸管ではなく

その手前の尿道に入ってしまうのだ。

何度やっても

子宮頸管外口ではなく

尿道口に入ってしまうのだ。

「・・・ははー・・・これはもしかして・・・」 

私はかつて

こういう牛にも遭遇したことがあった。

「・・・これは奇形じゃないよ、きっと・・・」

私は即座に

飼主さんに辛い診断を宣告しなくて済むだろうと思った。

「・・・膣鏡を入れてみるからね・・・」

私は注入棒を

膣鏡に持ち替えて

牛の外陰部から

その膣鏡を上向き加減に

膣の背壁を沿うような角度で挿入し

少し力を入れて

さらにその膣鏡を強く挿入した。

プツン・・・

という感触があり

膣鏡は根元まで挿入された。

挿入した膣鏡のネジを巻いて開くと

開いたところから

ドロリ・・・

と白く濁り気味の発情の粘液が流れ出して来た。

IMG_5715発情粘液の後から

鮮血が滲み出して

ポタポタと落ちて来た。

「・・・たぶんこれでよし・・・これは処女膜だよ・・・」

「処女膜ですか?・・・」

「・・・たまに膜が硬くて厚い奴がいるんだよ・・・」

私は膣鏡を抜いて

再び愛用の注入棒に持ち替えて

その棒の先端を膣内に挿入した。

IMG_5713もう片方の手は

直腸から子宮頸管をつかんでいる。

子宮頸管外口と思しきところへ

注入棒の先端を誘導すると

その先端は

子宮頸管外口へスーッと入った。

「・・・今度は普通に・・・頸管に入るようになったから・・・」

「ほんとですか・・・」

「・・・もう大丈夫、次回の発情で普通に授精できるよ・・・」

「ありがとうございます・・・」

私は

久しぶりに

ホルスタインの育成牛の

処女膜破りを経験したのだった。


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首の腫れ物(4)

長い間、

乳牛の診療をしていて、

頻繁に遭遇する体表の膿瘍。

その中でも今回の膿瘍は、

特に印象的な症例となった。

搾乳牛の頸部背側に、

ラグビーボールをふた周りも大きくしたような、

巨大でしかも深く、

切開して手を入れた時、

頚椎をほぼダイレクトに触れるような所まで、

膿瘍が侵入していた。

場所が場所だけに

切開に伴う出血やその他のダメージに対して

色々配慮した方が良かったという反省点も多かったが

ともあれ

何でこんなところに

こんな大きな膿瘍ができたのか?

それを解明することは重要だった。

実は

その答えは簡単だった。

写真を見て頂けれは直ぐわかると思うが

BlogPaint牛を繋いでいるタイストールの

横に渡してある2本のパイプ(ネックレール)のうちの

上の方の位置が

適正な位置ではない。

赤のペンで囲った部分は

牛の膿瘍のほぼ頂点にあたる。

黄色く囲った部分は

ネックレールが牛の頸部のその部分に当たって

対応する部分だけがテカテカに光っている。

△さんの搾乳牛が採食しているのを

ずっと観察していると

TMR(まぜ餌)が目の前に撒かれると

牛は首を伸ばしてそれを食べ始める。

65819324_2293160414234312_3676162813312630784_nその時

ネックレールが低いので

頸部がネックレールに当たる。

食欲旺盛な牛はそれに構わず

首を伸ばして餌をさぐると

牛の前半身の体重が

前肢ではなく

ネックレールに当たっている頸部にかかり

頸部背側の1点に

牛の前半身の体重がかかる。

△さんの他の牛達を観察していると

多くの牛達が

前足を浮かすほど首を差し出して

餌をがむしゃらに食べている。

よく見ると

ほとんどの牛達が

頸部背側の

ネックレールに当たる部分が

瘤(こぶ)になっていた。

コブというかタコというか

ほぼ全ての牛の頸部背側に

ネックレールダコ

が出来ていたのである。

その中で

今回の牛は特別にタコのダメージがひどく

そこに細菌が感染して

膿瘍が形成されていったものと思われる。

タイストールの

ネックレールの位置を直さない限り

この様な症例は

後を絶たないだろう。


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首の腫れ物(3)

切開手術をした翌日、

△さん宅へ様子を見に行くと、

牛は変わらぬ様子で、

普通に餌を食べていたが、

私を見るなり、

緊張した面持ちで立ち上がった。

一番心配していたのは

出血だったが

それはもう止まっていた。

IMG_5618しかし

腫れの大きさは

あれだけ大量の膿汁を

排膿したにもかかわらず

腫れがほとんど変わっていなかった。

これはどういうことなのか?

IMG_5619おそらく

膿汁に替わって

血液と漿液が充満し

そのために

腫れの大きさはさほど変わらぬように見えるのだろう。

ここで

縫合したところをすぐに抜糸して

内容を排出してしまえば

腫れは小さくなるかもしれないが

昨日切開したばかりの創部から

また出血が始まるのは嫌だったので

今日はそのまま縫合部を放置して

毎日抗生物質を投与することにした。

そして

それから1週間後

縫合部分の抜糸をした。

腫れは相変わらずのように見えたが

IMG_5639若干の

萎れた感が観察された。

更に

それから1週間後

この牛の様子を見にいった。

IMG_5706腫れは相変わらず大きかった。

切開部からは

血餅が漏れていた。

しかし

牛は元気で

普通に餌を食べているし

乳量もそこそこ出ているということなので

IMG_5707この牛に何かこれ以上

施すことも無くなったので

治療を終えることにした。

腫れはまだかなり大きい。

外見はまだグロテスクである。

しかし

手術前の腫れの大きさから比べると

手術後の腫れはその7割程度になり

IMG_5602緊張感は薄れていた。

このような頸部背側の

深い膿瘍を切開したのは

初めての事だった。

IMG_5638反省点は多々あり

なかなか綺麗には行かないものだが

今後の参考になれば幸いである。

それにつけても

なぜ

こんな大きな膿瘍が

頸部背側に出来てしまったのか?

その原因は何だったのだろうか?


(この記事つづく)



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