北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

馬の診療

ある馬産家の死

先日、

町内の馬産家の#さんが亡くなった。

成績の良い種牡馬を何頭も飼養し、

重種馬の生産界では知らない人は居ない、

全道的にあまねくその名を知られた種馬屋さんだった。

私は若い頃から#さんの種馬所に通い、

全道各地から集まってくる繁殖牝馬の

発情鑑定や妊娠鑑定をしながら

重種馬の繁殖を勉強させてもらった。

#さんは

私の馬の繁殖検診の技術を

育ててくれた恩人のひとりだった。

背が高く逞しく豪快な風貌で

まさに荒くれ男という感じの人だったが

馬に対してはとても優しく

種馬の扱いが抜群に上手な人だった。

短気で怒りっぽく

獣医師なら皆一度は怒鳴られた経験を持ち

恐ろしい存在でもあったが 

後腐れのない気持ちの良い性格の人だった。

良い馬を見ると目を細めて

心から馬を褒め

馬談義が止まらなくなる

馬一筋に生きている人だった。

晩年は体調を崩し

経営は息子さんに譲りつつも

春の繁殖シーズンになり

私が馬の直検をしていると

必ず家から出て来て

「お茶飲んでゆきなさい。」 

と、声を掛けてくれる人だった。 

そんな#さんが

今年の春は姿を見ないな

と思っていた矢先 

訃報が届いた。

私はその晩お通夜に参列した。

翌日

仕事にかかったところで

事務所から電話がかかって来た。

IMG_5567#さんの牝馬の1頭が

今朝から急に倒れて立てないという。

我々診療所の獣医師は

緊急の往診でその牝馬を懸命に治療したが

IMG_5568治療に反応せず

頭を投げ出し苦悶して

とうとう死んでしまった。

#さんのお葬式当日の出来事だった。

血液所見には特に異常値は見当たらなかった。

004 2019.05. 馬解剖所見には

「結腸〜小結腸粘膜出血」

とだけ書かれており

それ以外の箇所には異常が見られなかったようだ。

005 2019.05. 馬2急性の腸炎だったと思われたが

それにしてもあっという間の出来事だった。

よく言われることだが

馬屋の親父さんが亡くなると

その家の馬を1頭

道連れにして逝くものだ

と言われている。

今回もまさに

そうだったようだ。


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M木先生おめでとう!!

北海道NOSAI研修所長のM木先生が、

このたび学位(博士号)を取得された。

IMG_5299その論文のタイトルは、

「重輓馬における超音波画像検査を利用した卵巣・子宮の診断基準の策定」 

というもので、

重種馬(輓馬)に関するM木先生の長年の研究の集大成である。

牛の乳房炎やその他色々、

IMG_5300牛馬の診療に関して幅広い知識と経験と、

常にその最先端を走っておられるM木先生は、

北海道にとどまらず日本全国の牛馬の獣医師の間では、

その存在を知らない人はいない。

M木先生は

私より一年早くNOSAIに就職し

IMG_5301牛馬の臨床獣医師として15年以上のキャリアを積んでから

北海道NOSAI研修所へ転身した。

そこでNOSAI新人や若手の研修指導ををしながら

自らも常に研究テーマを持ち続けて

今回その集大成をまとめられた。

普通のNOSAI獣医師ではなかなか出来ない

IMG_5302マルチなスーパー獣医師なのである。

私は、M木先生と

ほぼ同期のNOSAI獣医師として

色々と先生の仕事のお手伝いをしたり

自分の仕事に対して助言をもらったり

IMG_5322公私にわたって

長い付き合いをさせてもらっている。

特に重種馬(輓馬)の診療に関しては

共に同じ道を歩んで来た。

そんなM木先生は

IMG_5336同期の桜

と言って良い存在である。

昨日は

帯広畜産大学のN保先生の計らいで

学位取得の祝賀パーティが開催され

私もそれに招かれて出席させて頂いた。

IMG_5328畜大OBのM宅先生はじめ

現役の畜大の先生方や

開業されたI井先生や

私の同僚の十勝NOSAIの臨床家の先生方が

帯広市内のホテルに集まり

和やかなお祝いをした。

重種馬(輓馬)の繁殖

というテーマでの今回の学位取得は

生産力の低下している重種馬生産地と

そこで働く獣医師にとって

とても励みになる出来事である。

M木先生は

「これは私の新たなスタートです。」

と何度も言っていた。

先生の幅広い視野と人脈と

若い獣医師に対する抜群の指導力は

この学位取得によって

ますます磨きがかかり

輝きを増すに違いない。

M木先生の今回の学位取得は

我々のような牛馬の臨床現場の獣医師はもちろん

畜産系の大学や

業界の関係者にとって

とても嬉しく有難い

朗報だと言えよう。

M木先生

本当におめでとうございます!

今後ともどうぞよろしくお願い致します!


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ぼちぼち始まる馬の繁殖

私が就職した30数年前は、

我が町に重種の繁殖牝馬が300頭以上いて、

飼養戸数はざっと40〜50件。

ところが今では、

重種の繁殖牝馬の数は20頭にも満たず、

飼養戸数はたったの5件。

ずいぶんと減ってしまったものである。

寂しい限りなのだが

それは全道的な傾向であった。

重種馬の生産力は

後継者不足で

がた落ちしてしまった。

そしてついに

重種馬の需要と供給のバランスが崩壊し

極度の供給不足となった。

重種馬の需要に変化がほとんどないにもかかわらず

重種馬の供給が極度に低下した。

その結果として

重種馬の価格が跳ね上がった。

それが今から約6年前の出来事だった。

その後

重種馬が高く売れるからと

新規の重種馬の生産牧場が

ぼちぼちと参入してきたが

一度減ってしまった重種馬の生産力は

そう簡単に元に戻せるものではない。

重種馬の生産牧場を

新しく立ち上げる資金のほうは

多くの資本家たちから

注ぎ込まれるようになってきたが

実際に

牧場で重種馬を養い

交配や分娩を管理する人がいないのだ。

お金や人を

なんとか集めても

生産技術を教える経験者や技術者がいない。

一度衰えてしまった重種馬生産の技術力は

そう簡単に回復させられるものではないのである。

重種馬の値段が跳ね上がってから約6年

今、我が町の重種馬の生産力は

底を打った横ばい状態が続いている。

いつになったら

重種馬の生産力が回復するのだろうか

その責務の一端は

私自身にも降りかかってくる。

そんな状態の中で

今年もまた

春がやってきた。

春の訪れと同時に

重種馬の繁殖シーズンがやってきた。

遅ればせながら我が町の重種馬たちにも

41F6AD17-6D7A-47C5-B72A-DDD661A99B0F発情が来るようになり

仔馬も生まれ始めた。

昨日は

3頭の重種馬の直腸検査をした。

83E4FD86-B1BB-4F95-A083-317A48A17EADその3頭は全て

町外の繁殖牝馬たちだった。

我が町内には

人気の種牡馬がいて

その馬を交配させるために

全道から繁殖牝馬が集まってくる。

5D029FEE-DEDB-4F9B-AB92-A250F2A78FBE種馬所のΩさんによれば

今年はすでに

15頭の種付け(交配)をしたという。

繁殖牝馬の肛門に手を入れて

馬糞をかき出しながら

私は

また重種馬の繁殖シーズンが

ぼちぼち始まったな・・・

と感じていた。


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火気厳禁の不妊治療(2)

長期不受胎の重種繁殖牝馬の、

子宮の中へ灯油を注入する不妊治療。

IMG_5257そんな物を子宮に入れることを、

よく思いついたものだ、

と思った。

が、よく考えてみると

子宮内膜の洗浄と再生を目指すために

子宮内へ注入する薬剤の

IMG_5258多くは水溶物

すなわち水に溶ける薬剤であり

水和性の高いものばかりだった。

そこへ、一つの発想転換として

水和物ではなく

油性の液体による

IMG_5259子宮内膜の洗浄と再生へと

発想が行くのは自然の成り行きかもしれない。

水で落ちない頑固な汚れは

油で落とせるのではないか

と考えるのは

クリーニングに携わる人の

自然な発想なのかもしれない。

帯広畜大のN保先生の指示に従って

前日に

灯油100ml+生理食塩水100ml=200ml

を子宮内に注入した馬の

子宮洗浄をすることにした。

いつものように道具をセットして

陰部を洗浄していると

ほんのりと灯油の匂いが鼻を突いた。

助手をしてくれたΔさんに

子宮内を還流させた洗浄液を

ガラスのコップに受けてもらった。

IMG_5279写真は

1回目の還流液

から

4回目の還流液までを

順番に撮影したものである。

IMG_5280最初の還流液には

白濁した液の中に

非常に多くの絮片が混ざり

それが

還流を繰り返してゆくたびに

IMG_5281絮片の数も白濁の程度も

少なくなっていった。

18リットルのタンク一杯の洗浄液(生理食塩水)を

ほぼ使い切って

子宮洗浄を終えた私は

IMG_5282N保先生の指示通りに

最後に抗生物質の溶液を注入して

作業を終了した。

今後は

この馬に発情が来たら

普通に種付けをすればよいという。

この馬の洗浄液の状態などを

翌日、メールでN保先生に報告したら

その返信メールに

わたくしの経験では注入後4日で交配した18歳のクオーターホース雌馬が受胎しましたので、そのくらい空ければ次の発情で交配できると思います。」

という心強い言葉が書いてあった。

この馬の今後も、楽しみである。

IMG_5283以上

とても簡単な手技であり

しかも

灯油は安価である。

長期不受胎馬を抱えて

治療に困っている飼主さんと獣医師は

ぜひ試してみていただきたい治療法である。

ただ一つ

注意しておくことは

火気厳禁!!!

タバコを吸いながらの治療は

絶対ダメである。


(この記事終わり)


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火気厳禁の不妊治療(1)

十勝管内の重種馬で、

長期にわたって不受胎の繁殖牝馬を、

その道のスペシャリストの先生に診察してもらい、

受胎率の向上を図る事業が行われている。

IMG_5253十勝農協連が主催となり、

帯広畜大のN保先生がその中心的な指導をされている。

我が町の◯牧場で飼われている重種馬1頭も

その事業のお世話になっており

昨年の暮れに検診を受け

IMG_5249先日その診断が下され

診断に従って

治療が施されることになった。

その治療法とは

ちよっと驚きの方法であった。

まず

長期不受胎の対象馬に 

プロスタグランディンとエストラジオールを投与して

子宮頸管を弛緩させる。

弛緩させた子宮頸管外口を通して

子宮の中に薬剤を注入する。

こう書けば

普通の子宮の治療のようだが

ここで使用する薬剤が 

ちょっと驚きの薬剤

IMG_5257何と

「灯油」

なのだ。

子宮内へ繋げたシリコンチューブの

IMG_5258外側に漏斗を付けて

その漏斗の中へ

灯油100ml+生理食塩水100ml

を混ぜ合わせた200mlを注入する。

「カリフォルニアなどの乾燥した地域では、この灯油に火が引火することがあるそうです。」

IMG_5259「え、ほんとですか?」

「そういう注意書きが書かれているんですよ。でも、ここは湿度があるから大丈夫ですね。今日は雪が降るみたいだし。」

N保先生はニコニコしながらそういった。

火気厳禁の先端技術なのだ。

注入した日はそれで終了。

IMG_5262「明日、子宮洗浄をお願いします。」

N保先生から

私は翌日にこの馬の子宮洗浄をするように指示を受けた。 

「子宮洗浄して、その洗浄液を見たら、驚かれるかもしれませんよ。」 

「汚れが出るんですか?」

「はい、きっと。」

IMG_5263N保先生はニコニコしながらそういった。

長期不受胎の馬の子宮内に入れる薬剤として

かつては流動パラフィンがよく用いられて来た。

それはただ入れっぱなしだった。

しかし

今回注入した灯油は

翌日に洗い流す必要があるという事だった。

「洗い終わったら、この抗生物質を入れておいてください。」

IMG_5265N保先生から手渡されたのは

子宮注入用のネオポリシダールという商品名の

抗生物質だった。


(この記事続く)



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重種馬の気腫胎(3)

腐敗の始まった胎児を引き出し、

胎盤を剥離して取り出し、

とりあえず仕事がひと段落ついたところで、

私は同僚のT獣医師に電話を入れた。

私が午前中終えているべき残りの診療件数を告げると、

T獣医師はそのほとんどを引き受けてくれた。

「じつは、昼からもその馬の子宮洗浄する予定なんで・・・」

「わかりました、こちらの診療は全て行きますから、大丈夫です。お疲れさまでした。」

こういう時はやはり

常にチームで仕事をこなしている診療所の

メリットが活きるのである。

ヘルプをしてもらったおかげで

私は鵑気鵑凌芭鼎諒夘佞韻鬚罎辰りと終えることができた。

そして

診療所に戻り

昼食の弁当を食べて

午後からの仕事の準備に取り掛かった。

重種馬の流産の後は

多くの場合で子宮洗浄をしておくべきである。

特に今回のような

胎児の腐敗が始まっている流産の場合は必須である。

私は再び鵑気鸞陲妨かい

IMG_5062子宮洗浄をして

仕事を終えた。

ただ

少し残念で淋しかったのは

子宮洗浄を私と飼主の鵑気鵑2人で終えたということ。

機会の少なくなった馬の診療には

若い獣医師を一緒に連れて行きたかった。 

私の若いころは

管内に今よりも10倍以上の数の馬がいたから

少しでも馬の診療の経験を積もうとして 

こんな時は必ず

先輩獣医師と一緒に付いて行って

色々細かいところまで

仕事を覚えたものである。

だが、今

これだけ繁殖雌馬の数が減ってしまうと

獣医師の馬の診療技術取得の

機会も

その必要性も

薄れてしまった。

IMG_5063私にはそれが

残念で淋しいのである。 

せめて

記事に残しておかなければ

淋しくて仕様がないのである。


 (この記事終わり)


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重種馬の気腫胎(2)

朝いつものように、

診療所で往診準備をしている時、

電話がかかってきた重種馬の流産。

最初に行ってすぐ終わらせるつもりの仕事が、

IMG_5045すでに1時間を経過。

ようやく馬を保定して、

陰部に手を入れた。

「・・・。」

「どうだい?・・・」 

「・・・やっぱり流産だね。」 

膣内には胎児の前肢が1本と

その奥に胎児の頭頂部があった。

頭部の下にもう1本の前肢の腕節があった。

「・・・鼻先が下向いて、前肢も1本折れ曲がってるよ。」 

「やっぱりダメだったか・・・」 

「・・・ちょっと引っ張ってみるか。」

私はこちらを向いている前肢を掴んで

強く引っ張ってみた。

しかし

胎児はほとんど動かなかった。

曲がっている前肢は簡単に直ったので

両前肢を掴んで引いてみたが

胎児は全く動かなかった。

分娩予定日までにはまだ3ヶ月ある流産胎児だから

引っ張れば出てくるだろう

という安易な読みは外れてしまった。

「・・・鼻先が曲がって下向いてる・・・これを直さないと出てこないか。」

胎児といえども

馬の鼻は長い。

頭部の整復は牛よりも困難である。

私は車に戻って

粘滑剤の準備をした。

IMG_5056バケツのぬるま湯に粉末の粘滑剤を溶き

カテーテルに付けた漏斗に汲んで

カテーテルのもう一方の先を膣の奥へ押し込んで

膣壁と子宮壁にへばりついている胎児を剥がすように

粘滑剤を流し込んでゆく。

途中で親馬の怒責が強くなり

IMG_5060カテーテルは何度も押し出されてしまうのだが

めげずに粘滑剤の注入を繰り返した。

胎児の両前肢を押し込んだ拍子に

胎児の鼻先がこちらに向いてきたので

さらに前肢を押し込んで

胎児の頭部を整復する事ができた。

「・・・よし、これでもう一度引っ張ってみるか。」

チェーンをかけてあった前肢をそのまま引いてみた。

しかし

胎児は思ったほど動かなかった。

努責による胎水は

少し腐敗臭がした。

「・・・中で腐って膨らんでるみたいだね、これは滑車で引くしかないか。」

私は再び診療車に戻って

産科用の滑車を持ってきて

馬の後方の柱に一方の端を結び

もう一方の端を胎児の肢のチェーンに結んだ。

飼主の鵑気鵑惑呂良’韻犬鰺かせているので馬の頭部から離れることはできず

後方での助産の作業は全て私一人でしなければならなかった。

(ここからの写真はエグいので閲覧注意)

IMG_5055滑車のロープは思ったよりもきつく動かなかった。

さらにぎゅーっと滑車のロープを引くと

急に楽になった

と、思ったら

チェーンをつけてある前肢が一本だけ

肩のあたりから、ちぎれて出てきた。

「・・・あー、ちぎれちゃった。」

IMG_5057胎児の腐敗が進み

片と肋骨の結合部が緩くなってちぎれてしまったのだった。

もう片方の前肢を引いても

また同じようにちぎれてしまう可能性がある。

私は仕方なく

前肢にチェーンをかけることをあきらめて

そのチェーンを胎児の首にかけて引っ張ることにした。

チェーンをかけ直してもう一度滑車を引くと

IMG_5058重い手応えとともに

胎児が引き出されてきた。

ドサッ・・・と胎児が落ちるとともに

残りの胎水が排出されてきた。

「出たかい?・・・」

「・・・うん、やっと出た・・・だけど後産がまだだいぶ付いてるから。」

私は子宮の中に手を入れて

胎盤の剥離を始めた。

妊角のほうは簡単に取れてきたが

不妊角の奥のほうに強い付着があった。

それをゆっくりと手で剥離して

IMG_5059先端までちぎれずに

なんとか胎盤も全域取り出すことができた。

この時点で

手元の時計を見たら

午前11時半を過ぎていた。

治療時間は2時間を超えていた。


(この記事続く)

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重種馬の気腫胎(1)

朝の往診先を振り分けて、

各獣医師が往診へ出かける時間帯に、

重種馬生産農場の鵑気鵑ら電話がかかって来た。

「尻から何か出てるんだけど、流産でないべか?」 

こういう稟告の時は、

ほぼ間違いなく流産である。

まずは

どの往診よりも先に

その馬の流産を確認してから

今日1日の往診を巡ってゆくことに決めた私は

往診の最初に鵑気鸞陲亡鵑辰拭

「あの馬なんだけど、今そこの枠場に入れるから。」

鵑気鵑捕まえた馬の後ろを追うように

私たちは馬を枠場の中へ誘導した。

馬は、用意した枠場に

すんなりと入った

と、思いきや

突然驚いたようにバックした。

枠場の後ろのロープを渡す暇もなく

再びゲートインのやり直しとなった。

今度は少しゆっくりと

少しずつ枠場の中へ誘導した。

馬は、ようやく

枠場の中に入った

と、思いきや

再び驚いたようにバックしようとした。

しかし今度は

鵑気鵑頭絡のロープを

前方の柱に結んでいたので

馬は後ずさりできず

首を伸ばして

柱に結んだロープを思い切り引っ張り

後肢をバタつかせた。

「・・・危ない!・・・」

と思って私は馬から離れた。

鵑気鵑惑呂料以で柱に結んだロープの端を握っていた。

IMG_5036馬は

枠場の中で後肢を滑らせて

しゃがみ込んでしまった。

横に張ったロープに首が引っかかり

苦しそうな鼻息をあげた。

「あーあ、こりやダメだ、足元が凍れて滑るんだな。」

鵑気鵑麓鵑砲かったロープを鎌で切り

IMG_5038馬の態勢を楽にさせて

一声かけると

馬は枠場の中で立ち上がり

すぐさまバックして枠馬から遠ざかった。

「この馬、枠に入るの嫌いなの?」

「そうなんだよ。すぐバイキ(バック)ばっかりしやがって、癖なんだ。」

「危ないね・・・。」

「・・・ちょっと待ってくれよ。今、砂を持ってくるから。」

IMG_5043鵑気鵑蓮∀半譴梁元に

目の荒い砂を撒き始めた。

一通り撒いたところで

鵑気鵑隼笋

馬を再び枠場に誘導しようと馬を追った。

IMG_5042ところが

馬は一向に枠場に入ろうとしない。

撒いた砂を嫌っているのか

一歩も枠場に近寄ろうとしない。

「枠場に入れるの諦めるか・・・」

「・・・その方がいいね。そこの柱にロープ渡して、寄せてやるか。」

IMG_5045鵑気鵑隼笋

馬を小屋の隅の柱に繋ぎ

馬の体にロープを巻くように保定し

尻尾を別のロープで縛り上げた。

さらに馬が暴れないように

IMG_5046鼻捻りをした。

「よし、これでようやく診れるね。」

私はカッパに着替えて

手袋をはいて

診察の準備をした。

鵑気鵑硫箸僕茲討ら

すでに

1時間近く経過していた。

私は馬の陰部に

手を挿入した。

「・・・。」


(この記事つづく)


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天高く「牛馬」肥ゆる秋

「天高く馬肥ゆる秋」という言葉は、

私のような畜産関係者の間では、

まだまだ身近な現実としてある。

しかし、

我が国に飼われている馬が、

これほどに減ってしまうと、

肥えた馬の姿を探すのが大変である。

特に減っているのは農耕馬と言われていた重種馬である。

我が国にはもう農耕馬などは存在しないと言ってよいだろう。

農耕の仕事の合間に生れた「ばんえい競馬」が、

辛うじて北海道の帯広競馬場に残り、

IMG_4040かつての農耕馬が、

ばんえい競走馬として、

辛うじて生きる道(就職先)を与えられている。

かつてはどこの農家にも居た馬が

ばんえい競走用に特化して飼養される様になり

その生産や育成は

ごく一部の農場で細々と行われているにすぎない。

IMG_4365そんなごく一部の農場も

後継者が少なく

多くが廃業してしまった。

「天高く馬肥ゆる秋」

そろそろこの言葉も過去の物になってしまうのではないか

という危機感を感じないでもない今日この頃である。

天高く〇〇肥ゆる秋

肥えるのは

もちろん馬ばかりでは無い。 

先日馬の往診に行った公共牧場には

その何十倍もの数の牛が

妊娠鑑定のために集められていた。

IMG_4366馬に比べて

牛の需要は

全く衰えを見せない。

特にホルスタイン(乳牛)の雌の需要は

かつて無いほど高まっている。

その理由は色々あるのだが

一つだけ挙げておきたいのは

生乳生産の省力化という名の下に

乳牛の雌の

酪農場における

過酷な労働がある。

公共牧場の広々とした放牧地に

のんびりと草を食んでいる牛たちの

IMG_4366幸せな姿は

多分ここで終わる。

彼女たちは下牧した後

しばらくして子牛を産み

その後

搾乳牛としての過酷な労働者となる。

労働環境のよい酪農家で飼われれば

彼女たちは長生きをして

天寿を全うすることもあるが

労働環境の悪い酪農家で飼われれば

彼女たちは疲れ果てて

おどろくほどの短命でこの世を去る。

乳牛の「使い捨て」である。

その結果、乳牛の数は減り

需要に追いつかぬ「負のスパイラル」となる。

最近

そんな労働環境の悪い酪農家が増えている様な気がしてならないのは

きっと私だけではないだろう。

彼女たちの労働環境の悪化に

歯止めをかけることは

農業軽視の我が国の経済状況の中では

なかなか難しい。

彼女たちにはもちろん

「労働基準法」

も、存在しない。


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ロバ(驢馬)の難産 (3)

残念な結果になってしまったロバ(驢馬)の難産だったが、

我々農業共済組合(NOSAI)の獣医師にとっては、

珍しい症例だと思ったので、

あえて記事にしてみた。

BlogPaint血液検査も一応しておいたので

ロバの難産後の血液所見も

ここに貼り付けておく。

ロバはポニーと大きさがほぼ同じであり、

ロバの診療はポニーの診療をするようなイメージでやれば、

それほど間違うことは無いと思われる。

使う薬品の量なども

ほぼポニーの診療に準ずればよいと思われる。

ただ

ここで問題なのは 

ポニーは共済の保険診療ができるのだが

ロバは共済の保険診療ができない

という事である。

ボニーは馬なので共済保険に加入できるが

ロバは馬とは見なされず

したがって

ロバの診療については

保険の効かない非加入畜の診療料金を

飼主に請求しなければならない。

実は

これがべらぼうな金額設定になっている。

共済保険に加入していない動物

すなわち、非加入畜の診療料金の設定は

我が組合では大きく分けて3つに分類されている。

すなわち

「小」動物・・・犬や猫など

「中」動物・・・羊や山羊など

「大」動物・・・牛や馬など

BlogPaintだが、これが

実はべらぼうな金額設定になっている。

ざっと比較すると

保険加入畜の料金を1とすれば

非加入畜「小」は、その約2倍

非加入畜「中」は、その約3倍

非加入畜「大」は、その役5倍

の診療費が請求される設定になっている。

もし

保険に加入していないポニーの診療があったら

ポニーは馬なので

「大」動物という料金設定の中で、診療費が計算される。

ポニーは成馬でも体重が100キロ程度の小さな体な馬なのだが

馬であるという事で

サラブレッドや重種馬と同じ診療料金が掛かり

ちょっとべらぼうな診療料金になってしまう。

だからポニーを飼う畜主は

自分のボニーを共済保険に加入して

何かあったときにべらぼうな診療費を払わずに済むようにしている。

では

ロバの飼い主はどうかというと

ポニーのように保険に加入することが・・・できない。

農業共済保険の対象としてロバは馬とは見なされないのである。

ところが

今回のように

ロバが病気になり

共済の獣医師の診療を受けなければならなくなった時は

診療料金はボニーに準じた計算方法

すなわち、非加入畜「大」が適用されて

べらぼうな診療費がかかってしまうことになる。

IMG_3241ロバは

保険の対象としては馬と見なされず、保険に加入できないのに

診療費を計算する時は馬のような「大」動物と見なされて

べらぼうな金額の診療費が請求される

これは

何かおかしくないだろうか?

ポニーであれば保険に加入すればいいが

IMG_3240ロバにはそれができないのである。

ロバに何かがあった時には

まったく何の保障も無い

無保険診療を受ける他は無いのである。

今の診療料金体制は

見直すべきではないだろうか。

ロバの診療を経験して

そんなことを思った

今回の症例だった。


(この記事終わり)


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ロバ(驢馬)の難産 (2)

難産したロバ(驢馬)は、

IMG_4110翌日の往診の時も、

立つことができなかった。

点滴と抗生物質の治療が続けられた。

その翌日の往診の時も、

立つことができなかった。

首を投げ出したままで、

頭を上げることもできなかった。

点滴などの懸命な治療が続いた。

食欲は全くなかった。

その翌日も

親驢馬の症状は変わらなかった。

「・・・助かるんでしょうか・・・」

「頭を上げて、立ってくれればいいんだけど・・・」

「・・・あの・・・それと・・ロバは共済の保険がきかないんですよね・・・」

「そう・・・」

「・・・もう七万円くらいかかっているって聞いたんですけど・・・」

「そうなんだよね・・・」

「・・・症状がよくならないのなら・・・このままずっと治療しても・・・」

「治療代がかさむだけになる・・・」

「・・・ちょっと考えさせてもらえますか・・・」

⌘牧場の奥さんは

⌘さんと相談して

翌日からは点滴治療などを中止して

自分で抗生物質の筋肉注射をしながら

この親驢馬の看病をしたい

という希望を伝えてきた。

獣医による治療をしてやりたいが

この先治癒する見込みの薄い親驢馬の

治療費かかさんでしまう

という現実からの

苦渋の結論だった。

我々獣医師としても

前例のない驢馬の

難産後の治療について

予後を正しく判断できる知識も経験もなかった。

結局

我々は⌘さんに抗生物質を預けて

治療を中止した。

それから5日後

⌘さんの奥さんから連絡が入った。

親驢馬の症状は改善せず

ずっと苦しんでいるようであり

このままではかわいそうなので

楽にさせてやりたい

すなわち

安楽死させてほしい

という連絡だった。

IMG_4129私は⌘牧場へ向かった。

親驢馬は

以前よりも苦しそうな息をしていた。

奥さんが見ていないところで

注射を打ち

親驢馬を旅立たせた。

合掌


(この記事もう少しつづく)


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ロバ(驢馬)の難産(1)

「・・・飼っているロバが立てなくなった。」

という電話が⌘牧場から掛かってきたのは、

先日の昼過ぎだった。

午後からの公共牧場の繁殖健診の前に、

IMG_4030⌘牧場のロバを診に行った。

ロバは写真のようにうずくまり、

なんとも苦しい表情をしていた。

「・・・昨日は普通に立って歩いたんですけど、さっき来たらこんなで・・・」

お腹が大きく膨らんでいる。

急性腹症かとも思ったが

直検をしようとしたら

胎児の肢が産道にあるのを発見した。

「お産の予定日はいつ?」

「・・・それはわからないです・・・」 

⌘牧場のロバたちは

雌雄同じ場所に飼われていて

いつ交配したのかは全くわからない状態であった。 

「普段は勝手に生まれているのね。」 

「・・・はい、そうなんです・・・」

「これはお産で、出なくて苦しいんだよ。」

「・・・そうだったんですか・・・」 

膣内を探ってみると

産道の奥に胎児の頭部も確認出来た。

IMG_4033しかし

前肢も頭部も潤いがなく

既に死亡しているようだった。

「とにかく、このお腹の子を引っ張って出すしかない。」

「・・・はい・・・」 

「粘滑剤作るからバケツにぬるま湯と、胎児を引くロープ持ってきて。」 

「・・・わかりました・・・」 

ロバの難産介助というのは

初めての経験だった。

ただし、これに似た仕事として

ポニーの難産介助はよくやるから

それに準ずればよかった。

しかし

ロバの胎児の頭部は大きかった。

ロバ(驢馬)の体型というのは

ポニーよりも四肢が細く

耳が大きく頭が大きく

四肢の割には胴体が太い。

いま難産している驢馬の胎児も

頭部がようやく出たものの

それから先が

なかなか出てこなかった。

粘滑剤をたっぷり入れて

滑車ロープで牽引するのだが

IMG_4036頭が出てからも

なかなかそれ以上進まず

親驢馬もろ共にロープで引きずられてしまう。

仕方がないので

親驢馬の頭側をもう一本のロープで固定して

胎児の前肢に付けたロープを牽引した。

滑車の強い牽引力をもってしても

IMG_40373人がかりの

キツイ難産だったが

ようやく親驢馬と胎児は

引き裂かれるようにして

なんとか娩出することができた。

産後の親驢馬はもちろん立つことはできず 

呆然と首を投げ出し

空虚になったお腹を晒していた。

IMG_4038既に死亡していた胎児は

毛が抜けて皮が露出している部分もあった。

私は親驢馬に点滴をセットして

明日また治療に来ること告げて

次の往診へ向った。


(この記事つづく) 



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研修医制度

先日、

帯広畜産大学の、

研修医の先生たちと一緒に、

IMG_3845往診に回る機会があった。

大学を卒業して、

その後数年、

色々なところで働いていた獣医師の中で、

再び学問の道をメインに、

IMG_3847進もうとされている、

若き精鋭である。

大学病院における二次診療ばかりではなく

我々のような現場の末端の獣医師の

一次診療の経験を

IMG_3849少しでも積み上げたいという事のようだ。

今回は特に

産業動物の獣医療の中でも

今やなかなか経験することの少なくなった

重種馬の診療を

IMG_3850一緒に経験したいという事だった。

この日はたまたま

午前中に1件(蹄葉炎)

午後から2件(発情鑑定と蹄病)

重種馬の診療が有ったので

IMG_3853研修医の先生たちは

私の診療車の後に付いて回ることになった。

研修医の先生たちは

さすがに社会人の経験もある方ばかりなので

IMG_3854往診もスムーズだった。

右も左もわからない大学生の実習生を

手取り足取りしながら連れて歩くのも

それなりに面白いけれども

現場の事情をある程度わかっている

IMG_3856研修医の若い先生たちとの仕事は

受ける質問の内容なども鋭くて

とても充実した中身の濃い

仕事ができたように思う。

私としては

IMG_3857特別な事は何もするわけもなく

ただ普段どおりの事をしただけなのだが

それが

研修医の先生たちには

初めてのことが多かった。

IMG_3860これはつまり

いかに重種馬の診療の機会が減ってしまったのか

ということであり

ちょっと寂しい思いもしたが

それはまた有意義な機会を提供できた

IMG_3862という事でもあり

私は複雑な思いだった。

この日の最後の往診先に

たまたまタイミングよく

重種馬の削蹄師のN坂さんがいた。

IMG_3863一連の写真は

全道を股にかけて

重種馬の削蹄している

N坂削蹄師の

削蹄と蹄病治療の技である。

IMG_3866これを

研修医の先生たちに

体験してもらったのは

この日の

予定外の

収穫だったと思う。



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重種馬の下顎骨切歯部の骨折(2)

「今日治療している時に写真を撮ればよかったです、あれほど酷かったとは思えないくらい落ち着いています。」

さらに、

「草はがっつり詰まっていましたが・・・。感染や過形成に注意します。」

この馬が帰って行った数日後、

競馬場のF獣医師からそんな連絡が入った。

さらに数日後、

「調子よく食べているようです。」

再びF獣医師から連絡が入り、

32243674_1973453589635316_540315991167467520_n撮った写真を送ってくれた。

左の写真がそれで

詰まった食べ物を洗い流した後の

傷口がまだ生々しい。

「こんなことがあっても懲りずに鎖を噛んでいる、と厩務員氏がぼやいていました。」

ということだった。

それからさらに

1週間後

「ここ1週間来院していないので、経過を見せに近々来てもらうようにお願いしてみます。」

という連絡が入り

それから、しばらくは

音沙汰がなかった。

便りのないのは良い便り・・・

と思って

約1ヶ月経過した頃

F獣医師から久々に連絡が来た。

「臭いもなく、過形成もなく順調です。レースにも勝ってます。相変わらず綱を噛む癖はあり、懲りてませんが(笑)、厩務員氏はよろこんでます。ありがとうございました。」

というメッセージとともに

IMG_3680数枚の写真が送られて来た。

経過はとても順調のようだ。

今回私は

たまたま初診を担当したが

IMG_3682創部の摘出以外は特に何もしていない。

それよりも

怪我の後の

F獣医師の続けた丁寧な治療によって

IMG_3683順調に回復することができたと思われる。

したがって

お礼を言いたいのは

こちらの方である。

どうもありがとうございました!


(この記事おわり)



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重種馬の下顎骨切歯部の骨折(1)

「下顎の歯が折れて、骨も折れたみたい・・・」

という稟告の、▽さんの若馬。

競馬場から下げてきたという現役競走馬だった。

枠馬に入れて、

鎮静剤を打って、

IMG_3526下唇をめくってみると、

下顎の右側の3本の切歯が、

根こそぎ外側へ変位していた。

「・・・これは、どうして」

「頭絡を左右の鎖で繋いでたら、その鎖を口でイジっていて・・・」

「・・・鎖ですか」

「何かに驚いて暴れた時に、鎖が口に引っかかったみたいで・・・」

IMG_3529「・・・歯が根こそぎエグれてますね」

「もうビックリしちゃって・・・」

「・・・グラグラしてますね」

「直らないですか・・・」

「・・・顎は動かすところだから、取ってしまうしかないでしょう」

「大丈夫ですか・・・」

「・・・鎮静剤が効いているうちに取っちゃいましょう」

「そうですか・・・」

IMG_3530私は

有り合わせの道具で

グラついている3本の切歯の根元を削ぎ落とし

最後はメスを使って結合組織を切断し

変位している部分を摘出した。

「あ、取れた・・・」

「・・・大きな骨には異常がないから、噛めるでしょう?」

「それは大丈夫みたいです・・・」

「・・・歯が抜けた穴からばい菌が入るから、抗生物質を続けてください」

IMG_3533「わかりました・・・」

「・・・抜歯したようなもんですから、大丈夫ですよ」

「そうですか・・・」

「・・・あとは競馬場の先生にお任せしましょう」

抗生物質の注射をして

競馬場へ戻して

今後はそこの診療所の先生に

経過を診てもらうようにした。

治療を終えて

事務所に戻った。

IMG_3536事務所には馬の下顎の骨格標本があったので

摘出した部分の切歯部をよく洗い

それを並べて置いて

標本と比べてみた。

切歯3本ばかりではなく

下顎骨の先端もかなり削げ落ちていた。

IMG_3537「抜歯したようなもんですよ・・・」

などと軽く言ってしまったが

こうやって見ると

摘出した部分は意外に大きくて深く

今後のことが

ちよっと心配になってきた・・・


(この記事続く)



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交配(種付け)後の馬の子宮洗浄

「種付けした後、汚れが出る・・・」、

そんな稟告で、

子宮洗浄をすることになった。

交配(種付け)後の馬の子宮洗浄は、

今シーズンになってからは、

初めてのことだ。

20年ほど前だったら、

繁殖牝馬の数が今よりも、

10倍はいたので 、

今頃は頻繁に数え切れぬほど、

交配後の子宮洗浄をしたものだが、

最近はめっきり減ってしまった。

今回はたまたま、

同僚のC獣医師が同行したので、

子宮洗浄をしているところを、

写真に撮ってもらった。

馬を枠馬に入れて

尾巻きをする。

子宮洗浄用の生理食塩水18リットルの

ポリタンクを枠馬にぶら下げる。

外陰部をスポンジに付けた石鹸でよく洗い

洗浄用の三又のついたシリコンチューブを

タンクの蛇口にセットして

コックをひねる。

三又の短い方の チューブを塞いでおいて

長い方のチューブから洗浄液を出しながら

それをまず膣内に挿入する。

子宮洗浄の前にまず膣洗浄を行う。

IMG_3483膣が洗浄されたら 

チューブの先を持った手を

手とチューブ諸共に

子宮外口から子宮内へすっぽりと挿入する。

挿入した手を魚のヒレのように動かしで

IMG_3491チューブの先から出てくる洗浄液を

子宮の中に満べんなく行き渡らせる。

子宮内に洗浄液が 満杯になったら

シリコンチューブの三又の部分の

タンクにつながっている方を封鎖して

短くついているチューブの方を解放すると

IMG_3486子宮内に溜まった洗浄液が

どっと排出されてくる。

子宮洗浄の還流液は

ガラスのコップなどで受け止めて 

その色や絮片の有無などをよく観察する。

今回の還流液は

IMG_34851回目は米のとぎ汁状に白濁していた。

2回目はそれがかなり薄まって

3回目には肉眼でほぼ透明な洗浄液になった。

絮片は認められなかった。

IMG_3488交配(種付け)後の子宮の汚れとしては

それほど重症ではない

急性の子宮内膜炎であろうと診断した。

子宮に入れている手で

IMG_3490子宮内膜を摘まんでその触感を診ても

異常な触感は認められなかった。

この馬は

排卵していたので

今回の発情での交配(種付け)これで終わり。

そういう場合に私がよく使う

子宮内注入の薬剤は

動物用イソジン液である。

シリコンチューブの短い先に

市販の漏斗を取り付けて

イソジン液を注いでもらえば

IMG_3492それがチューブを通って

子宮内へと注入される。

イソジン液が子宮内へ入ってきたら

また入れている手のひらを魚のヒレのように動かして

子宮内へ満べんなく行き渡らせて

手とシリコンチューブ抜いて

子宮洗浄が終了する。

ここで一つ大切なことは

子宮内に一度挿入した手とチューブは

手技の最初から最後まで

ずっと入れっぱなしで

手を何度も出し入れしないことだ。

出し入れするたびに

外の汚れを

子宮の中に入れてしまうことになるからである。

多くの場合

動物用イソジン液が功を奏し

このまま受胎する可能性さえあるが

再び汚れを出すようであれば

今度は交配(種付け)前にも洗浄する必要があるかもしれず

その時は汚れた液を培養して

細菌検索もすべきであろう。


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重種馬の帝王切開 (3年ぶり)

先週の月曜日、

午前の往診の最中の携帯に、

珍しく隣町の先輩のO獣医師から電話がかかってきた。

「馬の難産なんだけど、変だ。胎児は死んでるみたいで、陣痛が全く無い。」

私は、電話口から帝王切開を一緒にやろうという雰囲気を感じた。

とりあえずもう一度、経膣の分娩介助を試みて、

駄目だったら、また電話をしてくるという事で一度携帯を切った。

しばらくしてまた電話が鳴った。

「やっぱり駄目だ。切るしかないから、頼むわ。」

「わかりました。じゃあ、2時に連れて来て下さい。」

案の定の展開だった。

私も覚悟を決め

こちらの診療所の若い獣医師たちに

手術の準備と麻酔の準備としておくように頼み

午前中の往診を終えて

昼食を急いで食べ終えたところへ

隣町のИさんの馬が運ばれてきた。

牛用の手術台を使う、重種馬の帝王切開が始まった。

導入はドミトールとケタラール

維持はGGE+ドミトール+ケタラールのトリプルドリップ

879134D4-C072-468E-A431-0EAE1C9CAC2F右横臥で左下部を切開。

保定は牛よりも頑丈に縛る。

麻酔がしっかりできれば

あとは牛の帝王切開と同じ流れで

腹腔をあけて

子宮をあけて

胎児を縛って吊り上げて摘出。

今回の胎児はすでに死亡して時間がたっており

F224476D-6952-420D-AE4E-2FEF42D2A3C270キロ以上はあろうかという胎児で

胎位は尾位だった。

母馬は2日前まで乳を漏らしていたが

その後乳か上がって陣痛も全く消えてしまっていたという。

羊水はほとんど消えて粘調の悪露になりつつあった。

胎盤は無理に剥がすと出血多量になるので臨機応変にすべきだが

今回は胎盤も簡単にはがれたので全部摘出した。

C5D99E86-1961-45B2-A8AA-DF68BEC1FA36子宮の縫合も牛と同様の一層縫合。

子宮を生食でよく洗い腹腔へ戻した。

腹壁から皮膚までの縫合は

牛よりも頑丈に

腹膜、筋層筋膜、皮筋皮下、皮膚、の4層をそれぞれに縫った。

縫い終わる頃に維持麻酔を止め

7571B35C-61AA-4876-92DF-A0AA195276A8リンゲルなどの補液に切り替えた。

右横臥のまま寝ている母馬をそのままにして

スタッフ一同後片付けを始めた。

牛の帝王切開と違って

全身麻酔をしているので

手術が終わってから直ぐに叩き起こしてはいけない。

A69DAA24-52E2-4DEE-8F10-BD62F3BB773C麻酔が覚めるのをゆっくりと待つことが大切である。

今回は横臥から座位になるまで約30分かかった。

座位になってから起立するまで約10分かかった。

起立してから歩行し始めるまでさらに約10分かかった。

術後約50分でようやく家畜車に乗り

馬は隣町へと帰っていった。

FB2109BD-5556-4118-A458-CC80E9BC50BDそれから3日後

先輩のO獣医師から

電話がかかってきた。

母馬は

食欲も回復し

経過は順調だという事だった。

仔馬は駄目だったけれども

CE90DEFB-CA36-43F5-9A31-C718E5FA3EC1親馬が助かったことで

また次の繁殖への望みをつなぐことができたのは

良い事だった。

診療地区の重種馬の数が

激減してしまった中で

自分の執刀した帝王切開は

じつに3年ぶりだった。


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なんとなく輓馬(ばんば)♪

先日の日曜日、

午後から約半日、

ぽっかりと暇で何も予定が無かったので、

「ばん馬でも見に行くか・・・」と思いつき、

きっと暇にしているだろうと思われる、

飲み友達のH田さんにラインを入れたら、

予想通りのOKの返事(笑)。

っそく適当な時間に、

帯広競馬場へ行き、

好き勝手に馬をながめつつ、

適当に馬券を予想しつつ、

ゆるーく競馬を楽しむことになった。

帯広競馬場は、

札内の我が家から、

乗り換えの無いバスで約20分で行ける。

車で行かずにバスで行くのは、

もちろん飲むためだ。

H田さんは奥さんと二人で車でやってきた。

それもどちらかが飲むためだが

今日は私のお願いで奥さんが運転手になってくれた。

いつもはその逆が多いのだか(笑)

ともあれ

「飲んじゃったら、馬券予想が当たらない・・・」

などと言いつつも

「飲まないで予想したって、当たらないんだから・・・」

という事になり

「じゃあ、軽く・・・」

と、H田さんと私は

売店のカウンターでコップ酒を注文。

日の高いうちから喉を潤すのはいいものである♪

さらに愛すべきばん馬たちの息遣いが聴こえ

迫力のあるレースが至近距離でみられるのは

世界でただ一つ、この帯広競馬場だけ

と思うと、いっそう幸せな気分になってくる♪

インクの匂いも心地よい競馬新聞を開き

IMG_3319次のレースの記事を読む。

この日はゆるい北風が吹く天気のよい日だった。

馬場コースの水分は1%程度で乾燥していた。

ばんえい競馬の馬場は

普通の走る競馬と違って

馬場の水分が少ないほど重くなる。

馬場の砂が乾燥すればするほど

橇の滑りが悪くなるのだ。

IMG_3311水分の低い日のレースは

水分の多い日のレースよりも

パワーの勝負になる。

今日のレースのポイントは

「パワーのある馬」だ

と私は思った。

パワーのある馬とはどんな馬かといえば

体の大きな馬であり

体重の重い馬であり

太い四肢を持つ馬であり

水分の低い砂に負けない大きな蹄を持つ馬であろう。

さらに過去の成績で水分の低いレースを好走した馬は

パワーのある馬といってよいだろう。

IMG_3314実際に

パドックで馬たちの体の大きさ

四肢の太さ、蹄の大きさ、を見比べると

微妙な違いが見えてくる。

さらに新聞で

過去の成績と水分と馬体重をチェックすると

「パワーのありそうな馬」

が浮かび上がってくる。

さらに、その馬たちの

年齢や性別などをチェックすると

「7〜8才以上の牡馬」

が浮かび上がってくる。

今日は、つまり

体の大きな牡馬に有利な日だろう。

今日はデカくてゴツくて少し不器用でもいいから

力で押してゆくパワータイプの馬に有利な日だろう。

それは同時に

体の小さな牝馬には不利な日という事も言える。

パワーはそれほど無くても足が速くて器用な馬は

今日のような天気と馬場状態では

その長所が生かされないのではないか。

ほろ酔い気分の頭で考えた割には

今日の私の馬券作戦はなかなかのものだった。

この馬券戦術は功を奏し

初っ端の第6レースの連腹とワイドが的中!

IMG_3315第7、第8レースは外したが

第9レースのワイドが的中。

その内容を見ると

人気の牝馬が馬群に沈んでいる。

やはり今日はパワーのある牡馬の来る日なのだ。

そして迎えた本日のメインレース・陽炎特別

1D5FCB9C-D9E0-492A-9D06-3BD74F400A0Fぐりぐりの本命は

センゴクエース 牡6才

その相手として有力なのが

.▲汽劵螢絅Ε札ぁ_9才

▲札ぅ魁璽イン 牝8才

ぅサラキク 牝7才

Εンシャノココロ 牡7才

馬場の水分は0.9%に下がっていた。

この日最低の水分になっていた。

さて・・・

今日の私の馬券作戦で行けば

牝馬を捨てて牡馬を狙う

という事だったから

△鉢い量毒呂麓里討

から、,鉢Δ硫看呂鮖弔靴

1-3 1-6 3-6

の馬連とワイドを買う・・・

・・・べきだった。

実際このレースの結果は

1着センゴクエース 2着.▲汽劵螢絅Ε札ぁ3着▲札ぅ魁璽イン

で決まった。

牡馬のワンツーで決まったのだ。

私の今日の馬券作戦を

徹底していれば

大勝利・・・

・・・するはずだった。

ところが私は

このレースの直前のパドックで

ぅサラキク 牝7才の

あまりにも美しい姿に心を奪われてしまった。

鹿毛や栗毛や青毛という馬たちの中で

1頭だけ連銭芦毛の白く美しい姿。

IMG_3316しかも

ぅサラキクは

1月のヒロインズカップで

ぶっちぎりの1着になっており

その時私はこの牝馬の馬券を買っていて

良い思いをさせてもらっていた。

「キサラキクは外したくないなー・・・」

その一瞬、ほろ酔いの頭から

冷静な馬券戦術が消え去り

ぅサラキクからの馬券を

たくさん買ってしまった。

その結果は上記の通り・・・

このレースのぅサラキクは

水分の低い第2障害で止まってしまい

そこをなかなか越えられず取り残され

なんと、最下位・・・

たくさん買った馬券は紙切れに・・・

馬券に勝つには

「情」は禁物だ・・・

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NOSAI保険の切り替え

1年毎に掛けられるているNOSAIの保険は、

今月末で終了し、

来月からはまた新しい年度の保険が始まる。

昨日から、

うちの診療所の事務室と会議室は、

その保険の年度切り替えの業務で大忙しである。

入れ替わり立ち替わり、

組合員さんがあらわれ、

手続きを終えて帰ってゆく。

私のような下々の獣医師が、

その引き継ぎ業務の手続きに関わる仕事は、

デスクワークではなく、

実際に牧場へ赴いて、

事務所で交わした契約内容に間違いがないかを確認する作業である。

すなわち

保険にかけた家畜の個体に間違いがないか

その頭数に間違いがないかを確認する作業である。

IMG_3230昨日は

町内の組合員さんの中で

主に馬を飼育している牧場を中心に

その個体の確認と

頭数の確認に回って来た。

IMG_3231病気やケガの往診と違って

あまり切迫感のない仕事ではあるが

1頭たりとも間違ってはならない

重要な仕事でもある。

少しでも疑問点があれば

IMG_3233飼い主さんを呼ぶか

あるいは電話をかけて

疑問点を解決しなければならない。

昨日はたまたま

うちの診療所に実習に来ている学生さんを連れて

IMG_3235個体と頭数の確認作業に回った。

学生さんは馬が好きだということで

馬屋さんを回る私の車に同乗した。

種雄馬の農家さん

繁殖牝馬の農家さん

IMG_3237育成馬の多い農家さん

乗馬やポニーの多い農家さん

などを順に回り

最後のオマケに見て回ったのは

驢馬も飼っている農家さん

馬小屋に驢馬を飼って

驢馬の繁殖をしているのだ。

IMG_3241驢馬の親子は

馬よりも長い耳を動かして

とても可愛らしい(笑)

もっとも

驢馬は

NOSAIの保険の対象ではないので

加入はできないのだが。


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繁殖牝馬がやってきた♪

重種馬の高値が続いている。

当才馬も1才馬も繁殖牝馬も、

4〜5年前と比べたら、

約3倍というバカ高値である。

妊娠している繁殖牝馬が軒並み200万円というから驚きである。

4〜5年前が安すぎたとも言えるのだが、

いずれにせよ、

現在は高い相場が続いている。

高い相場が続くということは

需給のバランスからいえば

需要が伸びているか

供給が不足しているか

のどちらかになるわけだが

現在の状況というのは

明らかに「供給不足」である。

重種馬を生産する人がいないのだ。

生産者の高齢化

後継者の不足

という以前から言われていて解決できない問題が

いよいよ切羽詰まってきたところへ

追い討ちをかけるように

輸入馬の激減という国際状況が重なっている。

重種馬というのは牛と違って

ずっと前から完全に

輸入自由化商品だった。

国内で不足すれば

外国産の重種馬が輸入されて

価格は安定していた。

ところが最近はどういうわけか

主な供給元であるカナダ産の馬が輸入されなくなっている。

重種馬の需要は大きく分けて2つ。

1つは「ばんえい競走馬」

2つ目は「馬肉」である。

どちらの需要も安定しているのだが

輸入馬が入らなくなったということで

ばんえい競走馬を欲しがる人と

馬肉用の馬を欲しがる人が

国内の市場でぶつかり合う。

いま

北海道の重種馬は

この2種類の買い手によって競争が起こり

価格がつり上がっている状況なのだ。

北海道の馬産にとって

「ばんえい競走馬」と

「馬肉用の馬」と

どちらの需要も大切なのだが

あえて優先順位をつけるとすれば

「ばんえい競馬」>「馬肉用の馬」

IMG_2330とするべきで

その方が健全な馬産であろう。

ところが今

馬肉用の馬の需要が強く

ばんえい競走馬としての素質を持った馬たちが

若いうちに馬肉用の馬として買われてしまうことがあるらしい。

これはちよっと困ったことである。

IMG_2328馬の相場が高いということは

そういう事情もあるのだ。

そのような状況の中で

先日わが町のある畜産農家さんが

重種馬の繁殖牝馬を5頭導入し

NOSAIの保険に加入して頂いた。

IMG_23355頭のうち4頭が妊娠ブラス。

今年の春には

仔馬が生まれる予定だ。

久しぶりの馬の頭数の増加に

私は素直に嬉しかった。

IMG_2334ただし

生まれてくる仔馬たちは

いきなり「馬肉用の馬」ではなく

まずは「ばんえい競走馬」として

立派に育って

競馬場で活躍してもらいたい。


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