北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

馬の診療

重種馬つながりの新年会

「研修所のM木先生が講義に来られるので、その晩飲みませんか?」

帯広畜大のN保先生からの電話だった。

私は二つ返事でもちろんOK。

その日を楽しみに待ち、

先日、帯広の居酒屋へ集合した。

私が小上がりで待って居ると、

まずN保先生がやってきた。

続いて、M木先生がやってきた。

「あともう一人は・・・?」

「I井先生です。もう少し待ちますか。」

「I井先生と飲むのは、久しぶりですねー♪」

しばらくして、I井先生がやってきた。

「どうも、お待たせしました。」

「お久しぶりですねー。」

「この面子と聞いたら、外せないですよ(笑)」

 「・・・では、乾杯。」

和やかにはじまったプチ新年会は

私の敬愛する先生方ばかりの

嬉しい飲み会だった。

今回の4人の獣医師の共通項といえば

重種馬の繁殖である。

かつて重種馬の繁殖管理や分娩管理についての

データーを集めて共同研究をしたことがあった。

その後

M木先生は十勝NOSAIから野幌の研修所へ

I井先生は畜大から開業へ

N保先生はJRAから畜大へ

と、それぞれの道を進まれて

重種馬の繁殖に止まらず

皆さん、多方面で

八面六臂の活躍をされている。

そんな獣医療界の最先端をゆく3人の先生方と

気のおけない飲み友達で居られる私は

つくづく幸運であると思った。

これも、重種馬の繁殖に興味を持って

今まで仕事をしてきたおかげかなと思った。

重種馬に感謝である。

M木先生とは、もうかれこれ30年近い付き合いになるし

I井先生とN保先生とも20年以上、いろいろとお世話になってきた。

若い頃は

このメンバーで飲んだ時は

仕事の話ばかりをしていたような記憶がある。

各地方の色々な獣医学会などへ

私がたまに参加する時には

3人の先生方は、必ず講師や座長などで参加されているので

私にとっては、3人とも学問の師という思いがある。

夜遅くまで飲んでも

学問と仕事の話ばかりをしていたのは

皆さん本当に、真摯に仕事に打ち込まれているからだろうと思う。

今回の飲み会も、そういう感じで始まったが

少し違ってきたのは

それぞれのご家庭のことやら趣味のことやら

プライベートな話題でも

いろいろと盛り上がるようになってきたことだ。

私もついつい、日頃の由無し事を話しまくって

気持ちよく発散をさせていただいたような気がする。

みなさんそれぞれ

色々な人生の荒波を乗り越え?!

IMG_0987円熟味を増して

ますます進化し続ける

3人の先生方なのであった。

「またやりましょう!」

楽しい時間は瞬くまに過ぎ

またの再会を約束して

それぞれ

深夜の帯広の街を

後にしたのだった。


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hig先生・来帯(5)

「骨が折れようが、腸が捻れようが、産道に穴が開こうが、治す方法はあります。」

IMG_0491hig先生は講演会の最後を、

こんな言葉で締めくくった。

死亡原因の上位を占める難しい症例でも、

治す方法は「ある」、

というメッセージである。

多くの難しい症例に立ち向かって来たhig先生の言葉には重みがある。

それは、長年培ってきたサラブレッドの個体診療技術に対する

hig先生の経験と自信に裏付けられた言葉だと思われる。

IMG_0501では、これに対して

我々十勝の

あるいは牛の診療の多い地区全ての

獣医師たちの個体診療技術は

自らどれだけの経験と自信を持っているだろうか。

目の前の馬が、目の前の牛が、

骨が折れたら・・・本気で治療せず(できず)に・・・廃用・・・

腸が捻れたら・・・本気で治療せず(できず)に・・・廃用・・・

産道に穴が開いたら・・・本気で治療せず(できず)に・・・廃用・・・

我々は、そんなことを繰り返してきたのではないだろうか。

死亡原因の上位を占める難しい症例を前にして

我々牛の診療主体の地域の獣医師は

それらの牛や馬を廃用にすることで終りとし

その症例の詳しい記録を残さず

未来の症例治療に役立たせるデータの蓄積もせず

繰り返し襲ってくるそれらの症例を

繰り返し右から左に

同じ様に廃用にするばかりで

治癒に向けて本気で個体診療をするのを怠ってきたのではないだろうか。

我々牛の診療が主体の獣医師たちは

ある時期から・・・

病牛を治療をすることよりも、病牛の発生を予防をすることに重点を置くようになり

病牛の個体を診ることよりも、病牛の少ない牛群を管理することに重点を置くようになり

そのような牛群のなかで

不幸にして病気になってしまう個々の牛に対しては

個体診療技術を駆使して治癒させる方法を選ばず

生産性、コスト低減、群管理、などという大義名分の下に

病気の個体を安易に抹殺処分にしてきたのではないだろうか。

ある時期から・・・

その「ある時期」とは

いつ頃からなのか、といえば

プロダクションメディスン(生産獣医療)という考え方や

ハードヘルスマネジメント(牛群健康管理)といった考え方が

わが国の酪農業界に入ってきた時期と

一致するのではないかと

私は考えている。

当時はこの新しい考え方が業界内を席巻し

予防獣医学・生産獣医療こそ

これからの新しくて輝かしい獣医療であり

個体診療をしている獣医師というのは「火消し屋」に過ぎない

などと揶揄されたものである。

しかし、今

慢性的な牛不足による

牛の個体価格の高騰がつづく酪農業界の中で

我々牛の獣医師が求められるようになってきたのは

かつて「火消し」と揶揄されていた

個体診療の技術なのである。

個体診療というものは

薬物や医療施設や医療器具を駆使した

獣医師でなければできない

獣医師本来の仕事といえるだろう。

それに対して

生産獣医療や疾病予防というものは

薬物や医療施設や医療機器などはほとんど使わない管理技術であり

本来は畜産経営者や経営コンサルタントがするべきもので

獣医師が本来すべき仕事とは違うものなのではないかと思われる。

牛の診療が主体の獣医師たちは、今

獣医師本来の仕事である

個体診療の技術に

もう一度立ち返って

個体診療の技術を

真剣に学び直す時期に来たのではないだろうか。

主にサラブレッドを診療する獣医師である

hig先生の講演を拝聴して

私は

そういう思いを強くした。


(このシリーズ終わり)


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hig先生・来帯(4)

hig先生の講演の三番目の山場は、

骨折の話だった。 

馬の三大死亡原因の一つに数えられる骨折は

四肢をよく動かす馬に非常に多い外傷事故であり

特にサラブレッドのような気性の激しい競走馬では

職業病的な大怪我と言えるだろう。

そんな骨折に立ち向かい

数々の難しい症例を治癒させてきた

hig先生の骨折治療の話は

たいへん説得力があるが

一方で

サラブレッドをほとんど診ることのない我々十勝の獣医師たちにとっては

雲の上の存在かもしれない。

しかし、そんなレベルのhig先生が

IMG_0488今回は

雲の下まで降りてきて

重種馬の骨折の治療

さらには

牛の骨折の治療について

IMG_0498非常に丁寧に

解説してくれた。

我々が骨折の治療をするといえば

今現在は、キャストを巻く外固定ばかりである。

そのキャストの巻き方にはまだまだ間違いが多いとhig先生は言う。

「下巻きの綿は不要。」

綿をグルグルと厚く巻き

それからキャストをぎゅうぎゅう圧迫して巻くのは間違いで

骨折部が固定されず、かえって骨癒合の妨げになる。

「下巻きはストッキネットで薄く、キャストはコロコロと転がすように」

巻いてゆくのがよいと言う。

それは、重種馬や牛でも同じことで

馬や牛の四肢は解剖学的に言うと

「足ではなく指である」

からである、とhig先生は言う。

ただし

そのようなキャスト巻きによる外固定が成功するのは

筋層の薄い、中手骨や中足骨の骨折である。

筋層の厚い、橈骨や脛骨さらに上腕骨や大腿骨は

「キャストによる外固定では限界が」

あり

たとえ骨癒合しても、変形して癒合するなど

きちんと治癒しない確率が高い。

そこで登場するのが

プレートによる内固定の技術である。

hig先生は、Bovine orthopedics(牛の整形外科)という本の中から

「牛では、プレート固定が通常もっとも安定した内固定を提供する。」

「内固定は、経済的に高価な牛の骨折だけでなく、いくつものタイプの骨折において、外科手術による、速く、問題のない治癒が達成される。」

IMG_0503という言葉を引用して

我々十勝の獣医師たちに

プレートによる内固定技術の習得を

強く勧めている。

「牛の骨折で、今までは治せなかった骨折が治せるようになる」

という技術。

それが

IMG_0502プレートによる内固定の技術である

と、hig先生は明言しているのだ。

その詳しい内容は、ここでは書ききれないが

hig先生が、今回の講習会でもっとも言いたかったことの一つが

これだったことは間違いないと思う。

IMG_0495それは

今回の講習会のために

hig先生はわざわざ、和牛子牛の後ろ足を一本と

必要最小限のプレート固定の道具を持ってきて

我々の目の前で、プレート固定を実際に披露してくれた

ということでもよくわかる。

この時

私と、後輩のS本獣医師が

子牛の足を保定・保持する役目をやったのだが

私が全く初めての経験だったせいで、要領を得ず

骨折部位の仮止めまでの時間をかなり長引かせてしまった(汗)

NEC_0034ただ、そのおかげで

私はこの歳で初めて

牛の内固定術の実習をすることができ

なんとなくこんな感じで進めてゆくものなのだ

ということを、身を以て体験することができた♪

会場にいた獣医師のの中でも、私と同じように

牛の内固定技術を実際に見るのは

全く初めてだったという獣医師が

きっと

多くいたに違いない。


(この記事もう少し続く)


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hig先生・来帯(3)

馬の3大死亡原因の中の、

IMG_0488「分娩事故」は、

我々十勝の獣医師をはじめ、

どこの獣医師でも経験することがあるだろうと思う。

それは、飼主さんが馬をなぜ飼っているかといえば、

その多くが、仔馬の生産のために飼っているからである。

重種馬を飼う農家さんも、その例外ではない。

我々は、重種馬の生産地で働いているのである。

ところが今・・・

その重種馬の生産が大きな転機を迎えつつある。

重種馬を生産する農家さんが

いよいよ居なくなってしまったのである。

多くが高齢で廃業してしまった、

おきまりの後継者不足である。

その理由はいろいろだが

最も大きな理由は、おそらく

生産した重種馬の値段がずっと安く低迷し

重種馬を飼っていても利益が出なかった事だと思う。

そんな状態が10年以上も続いていた。

重種馬農家の後継者たちは

多くが馬の生産をやめ

安定収入を得るために、和牛の生産に切り替える家も多かった。

重種馬生産の辛抱も限界を超えていたのだ。

ところが、去年あたりから

重種馬の値段が、一気に上昇してきたのである。

重種馬の供給が、とうとう需要に追いつかなくなったのである。

詳しい理由は省略するが

数年前の倍以上の値段で重種馬が取引されるようになった。

とうとう値段が底を打ったのだ。

今後は、きっと

我々獣医師にも、重種馬の診療依頼が増えて来るに違いない。

IMG_0532そのような状況の中で

hig先生の「馬の分娩事故」への獣医療についての

さまざまな言葉には

我々重種馬の生産現場の獣医師にとって

とても重要な事が含まれていると思った。

まずは

「正常な分娩について知る必要がある。」

これは全く当たり前のことである。

異常なお産の時ばかり呼ばれていては

どこか異常なお産で、どこが正常なお産なのか

認識できないのでは、話にならない。

ところが、今の若い獣医師たちの実際は

馬の正常な分娩にさえ、立ちあう機会が激減してしまっている。

いちいち獣医師を呼ぶほどではない、馬の正常なお産を

若い獣医師諸君は、自ら積極的に

体験できるような働きかけが重要であると思う。

臨床獣医師として、何事もそうであるが

特にお産については

いくら本を読んで勉強しても

いくらビデオを見て勉強しても

それでは不十分なのである。

とにかくまずは、1人でも多くの獣医師が

馬の正常なお産を、実際の現場で体験してほしいと思う。

これが、「分娩事故」に対応できる獣医師になるための

最初の一歩であると思う。

それができてから、ようやく

難産介助、帝王切開、などの技術を

習得してゆくのが良いと思う。

難産介助については、hig先生曰く

「2人以上で行う。」

「20分で進展がなければ全身麻酔を考える。」

また、帝王切開については

「止血をしっかりする、胎盤は剥がさない!」

これについては

私も痛い経験があったので

全くその通りだと、身に沁みて思った。

馬の全身麻酔をする機会は

我々十勝の獣医師にはそれほど多くない。

しかし

全身麻酔の話の時に、hig先生から

「麻薬施用者の免許を取っている方はどれだけいますか?」

と、問われて

その場で手を挙げたのは

なんと、私1人だった・・・

ということは

麻薬に指定されている麻酔薬(主にケタミン)を取り扱える獣医師が

今回の聴衆の中では、私だけ、ということ。

BlogPaintこれにはちょっと、私が驚いてしまった。

十勝の獣医師全員が、麻薬施用者になる必要はないけれども

少なくとも、1診療所に1人くらいは

麻薬施用者を配置しておくべきではないかと

私は思った。


(この記事続く)


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hig先生・来帯(2)

「馬はどういう病気で死亡するのか?」

IMG_0488という問いに、

hig先生は過去のデーターに基づいて、

「腸捻転」、「分娩事故」、「骨折」、

の3つを挙げ、

それを馬の3大死亡原因であるとしている。

まず第1の、腸捻転の部の解説の中で

私の印象深かったhig先生の言葉のひとつは

腸捻転・変位の中で

最も多い、結腸の捻転・変位は、

「ほとんどが前回りである。」

というものだった。

つまり、結腸捻転の馬が立っているとしたら

その結腸は「前回り」にでんぐり返るように捻転している、ということである。

これはとても役に立つ言葉だと思われる。

実際に馬の結腸捻転に遭遇した時

この言葉を頭に入れておけば

万が一、開腹手術することになっても

腹腔内を無駄に掻き回してしまう事がないように思えるのだ。

さらに手術中の注意点として、曰く

「周囲を汚染させない、すなわち、病巣部をできるかぎり術創から離す。」

「疑わしきは、切除する。」

「血行を確保する。」

「漏れないように吻合する。」

「狭窄しないように吻合する。」

これはすべて、hig先生の長年の経験から発せられた言葉であろうと思う。

我々が万が一、馬を開腹して腸管手術をせざるを得なくなってしまった時

この言葉は覚えておけばきっと役に立つだろうと思う。

しかも、これらの注意点は

牛の腸管手術においてもまったく同じことが言えるので

我々のような牛を主に診る獣医師にとっても

大いに役に立つ言葉であると思う。

また

IMG_0499さらに

馬の疝痛の

脱水時の

内科的治療においては

「補液ではなく大量の輸液を、持続点滴すべし。」

あるいはまた

盲腸や結腸の便秘において

「従来のさまざま下剤は、流動パラフィン以外はみな疑問。」

「ヒマシ油が診療所にあったら、すぐ捨てなさい。」

「便秘には、経口の等張電解質液を1時間に5リットル、自然落下で投与。」

IMG_0489などという言葉は

我々重種馬の診療現場で

内科治療する場面があれば

もう明日からでもすぐに役立つ言葉であろう。

そしてhig先生は

疝痛の部の解説の最後を

こんな言葉で締めくくった。

「Who can save the colic horse ?」

すなわち

「誰が、その馬を、助けるのか?」

そして、曰く

「我々獣医師が助けなければ、その馬は、苦しみ抜いて死ぬだけだ。」


(この記事続く)


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hig先生・来帯(1)

私が敬愛してやまない獣医師&同窓の朋友、

NOSAI日高家畜診療センターの、

ドクターhig先生が、

十勝獣医師会の講習会の講師として招かれ、

十勝NOSAIの本所で講演をしてくれた。

hig先生は、この季節にはもう何年もの間

あちらこちらの講習会や学会で講演に飛び回り

今や日本の、馬の臨床獣医師の第一人者であることは

誰もが認めているところだと思う。

帯広畜産大学や駒場の十勝牧場などには何度か来られているようだが

十勝獣医師会の講習会の講師として十勝NOSAI に来てもらったのは

今回が初めてではないかと思う。 

演題は「サラブレッドの生産地のMadicine&Surgery」

日高地区の馬の多くがサラブレツドであり

十勝地区の馬の多くが重種馬であるという事情は違うが

だからこそ

日高地区の馬の診療技術は大きく進歩して来たのであり

hig先生はその牽引役を長年努めているのだ。

その内容は

馬の臨床の先進国(主に欧米)の技術を日本に取り入れて実践した30数年間だった

とhig先生は言う。

NOSAI日高の診療センターという性質上

最初の診療(一次診療)では手に負えない

酷い怪我や重い病気にかかった馬たちが

放っておいたら死んでしまう・・・

という状態で運ばれてくる。

そういう診療所で積み重ねたデーターによれば

IMG_0488馬が死亡する原因となる病気は、主に

「腸捻転」、「分娩事故」、「骨折」

の3つ、であるという。

これが、馬の三大死亡原因、というわけだ。

この三大死亡原因の病気に対して

果敢に立ち向かって来たhig先生の

IMG_0499豊富な臨床経験と

そこで培われて来た

高度な診療技術を

我々十勝の臨床獣医師達のために

実に解りやすく披露してくれた。

IMG_0498hig先生が30数年もの長い間に

実際に手がけて来た症例の披露であり

しかもそれが、学術データーとしても

しっかりとまとめられ、考察が加えられているので

単なる症例の披露に終わる事なく

また単なるデーターの羅列に終わる事もなく

我々聴衆の頭の中にすーっと入ってくるのだった。

その詳しい内容を全てこの場に書くことは到底できないが

hig先生のブログ「馬医者修行日記」

書いている先生本人の解説付きで

ゆっくりと読ませてもらったような講義だった。

その講義の、節目節目には

hig先生の人柄がにじみ出るような

名言、格言、引用文、が織り交ぜられていた。

その全てを私が受けとめる事ができたかどうかは全く自信がないが

私なりに感銘を受けたhig先生の「名言」がいくつかあったので

それを少し書いておきたいと思う。

先ずは・・・

(この記事続く)


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野幌出張(2)

家畜診療技術北海道地区発表会は、

乳牛7題、肉牛4題、馬1題、の計12演題の発表があった。

IMG_0443その中から、

優秀な発表と見做されたのは、

以下の2題、

「乳牛における分娩後子宮捻転の12症例に関する検討」

                         北海道ひがしNOSAI     風間 啓  氏

「国内で初めて確認された牛コレステロール代謝異常症の4症例」

           オホーツクNOSAI     鴇田 直子  氏

この2題は

来年の2月に東京で行われる

家畜診療技術全国発表会で講演されることが決まった。

詳しい内容は

いずれ、「家畜診療」誌に掲載されると思われるので

楽しみにしていて頂きたいが

どちらもすばらしい内容だった。

IMG_0419前者の発表は

「分娩『後』子宮捻転」、という

今までとは病態の違う珍しい子宮捻転の症例を

12例も収集し、学術的な検討を加えた報告だった。

また後者の発表は

2015年に世界で初めてドイツで報告された

「牛コレステロール代謝異常症」という新しい遺伝病を

早くも2016年に、国内で4例も確定診断したという報告だった。

どちらの先生の発表も

常日頃の症例に対して

異常を見逃さない鋭い観察力と

あくなき探究心と

新しい症例であることを裏付ける

獣医学術知見の広さとを

兼ね備えいてたたからこそできる

レベルの高い発表だった。

IMG_0420それ以外の演題発表も

さまざまな角度からの新知見

斬新な発想にあふれた内容で

とても楽しく拝聴させて頂いた。

演者の先生方のほとんどが

NOSAIに勤め始めて10年前後の新進気鋭な先生方だった。

その中に、20年勤めた先生が1人おり

さらに、私だけが

NOSAIに勤めて30年以上経っているロートル獣医師だった(笑)

しかし、私にはそれがとても心地よかった。

若い先生たちと同じ土俵に立って発表していると

自分も昔、どこかで学術発表をした時に感じた

緊張感のようなものが蘇って来て

新鮮な気持ちに成れたのだった。

IMG_0425発表会の合間の

休憩時間や

食事の時間などにも

若い獣医師の先生方に混じって

色々な質問や雑談を交わすことが出来たのは

今回の出張の大きな収穫だった。

発表会が終わった日の夜には

懇親会が設けられていた。

そこではさらに

参加者の先生方と

あまねく情報交換をすることか出来た。

若い先生方の中には

私のブログを読んでくれている方も意外に多く

そこでまた話が盛り上がることもしばしばだったのは

望外の喜びだった。

宴もたけなわな所で

とりあえずの締めという事になった。

M木先生から指名されていた私は、立ちあがって

今日の各症例発表との一期一会に感謝し

それから発表者の皆さんへ賛辞と

全国発表会へ駒を進めた2人の先生方の

発表の成功を祈念して万歳三唱!をして

この場をなんとか締めくくった。

懇親会には
 
北海道NOSAI連合会のH田家畜部長も

札幌からはるばる参加してくれていた。

H田家畜部長というのは、ご存知の通り

IMG_0421又の名を「頑黒之和」

あるいは又「頑黒和尚」

と名乗る人物である。

この人と私が

ひとたび隣り合わせて杯を乾せば

北海道獣医師会雑誌の文芸欄

果ては北海道の俳句界に話が及ぶのは

もう避けることが出来ない(笑)

締めの挨拶が終わった直後

隣の頑黒和尚曰く

「ここで一句、ってやらないの?」

「・・・余裕なかったよ」

「俺ならやるよ。」

「・・・そっかぁ(笑)」

頑黒和尚氏から

鋭く突っ込まれてしまった私。

いみじくも、俳人ならば

そこで一句は欲しかったわけだ(汗)

では、その代わり

今この記事で

その宿題に応えて一句・・・


 野幌の初雪解ける熱気かな   豆作



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野幌出張(1)

全国農業共済会が主催する、

家畜診療技術発表会の北海道地区予選会が、

野幌(のっぽろ)の北海道NOSAI研修所で、

毎年開かれている。

今回私は、その発表会に演題を持って行く事になった。

とはいっても

実は、最初からこの会に発表する予定だったのではなく

9月に旭川で行われた北海道獣医師会三学会の方へ出す予定だった

「腹腔洗浄によって回復したミニチュアホースの腹膜炎の1症例」

という発表が、十勝を襲った台風10号の被害で没になり

十勝NOSAI家畜部の計らいで

急遽こちらの発表会に参加させてもらう事になった。

職場命令の出張は、JRを使って移動することが原則になっている。

しかし、十勝地方の鉄道(JR)はまだ台風10号によって寸断されたままであり

IMG_0398札幌方面へ行くためには

未だに代行バスとJRを乗り継いで

4時間近くかけて行かなければならない。

しかも、JRの臨時特急は1日3往復しか運行していない。

そのおかげで今回の出張は

普段であれば1泊2日であるところを

2泊3日のプランに延長された。

これが、返って私にはとても有り難く

余裕の出張旅行を堪能できる事になった。

IMG_0403帯広からの代行バスは空席でガラガラだった。

そのバスでトマム駅まで行き

トマム駅からは臨時特急列車に乗り換えて札幌へ向かうのだが

その臨時特急列車もまたガラガラに空いていた。

道東から札幌方面へ行く人たちの交通手段は

現在、わざわざ高くて時間のかかるJRを使う人は

非常に少なくなっているようだった。

札幌駅に中途半端な時間に到着した私は

NOSAI研修所の研修課総括のM木先生にメールを打った。

「ご無沙汰してます!これからそちらへ伺います。」

しばらくすると返事が返ってきた。

「今日来るのは何時頃?、予定なかったら一杯やりますか。」

私の返信はもちろん、了解♪

M木先生はNOSAIの1年先輩で

十勝NOSAI時代からの長い付き合いの朋友である。

M木先生の勤務終了時刻を待ち

研修所の近くの居酒屋へ。

M木先生と飲むのは数年ぶり♪

ビールジョッキを傾けながら

ゆっくりと、色々な話をすることができた。 

IMG_0407はじめは、明日の発表会に備えて

軽〜く、飲むつもりだったのだが

話が弾んでくるに連れて

焼酎のお湯割りの注文が止まらなくなり

気が付いた時には

午後10時をとっくに回っていた(笑)

翌日

IMG_0408発表会は午後からだったので

少々飲み過ぎた頭をリフレッシュさせるべく

買い物がてら

研修所の周りを散歩することにした。

IMG_0414野幌市街の四番通り付近は

ナナカマドの並木が真っ赤に色づいていた。

消防大学校の側を通って

三番通り付近へ出ると

IMG_0415今度は銀杏並木の

明るい黄色一色の世界になった。

じつに広々とした

静かな街の佇まいだった。

私はそんな街をのんびりと徘徊しながら

午後からの発表会で

しゃべる内容などを反芻していた。


(この記事続く)


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十勝馬まつり

「十勝軽種馬農協」という組織がある。

文字通り、

十勝地方の軽種馬の生産者で構成する農協である。

ここで言う軽種馬とは 、

サラブレッドのことである。

すなわちこの農協は、

十勝地方のサラブレッドの生産者で構成する農協である。

その組合員の戸数は、

わずかに10数戸。

繁殖牝馬の数は、

わずかに数10頭の、

小さな生産者団体である。 

十勝地方の馬の生産と言えば

ペルシュロンやブルトンやベルジャン、といった重種馬が主体で

サラブレッドの生産は影が薄いけれど

JRAから補助を受けながら

頑張ってサラブレッドを生産し続けているのである。 

そんな十勝軽種馬農協の事務所と

IMG_0313種牡馬の繋留所(種場所)が

我が町にある。

ここの馬たちは、NOSAIには非加入であるけれども

我々獣医師は年に何回か

ここで繋留されているサラブレッドの種牡馬や

そこへ種付けにやってくる繁殖牝馬の

診療をする機会がある。

IMG_0314先日は

ここの種牡馬の最長老が老衰で亡くなった。

種牡馬といっても昭和63年生まれの爺様

28歳という高齢で

悠々と余生を過ごしていた。

その名は「リンドシェーバー」。

競馬ファンの人であれば

きっとご存知に違いない。

朝日杯3歳ステークスで

あの名馬マルゼンスキーの樹立した記録を塗り替えてレコード勝ちした馬である。

IMG_0306それから25年。

華やかな現役時代とはうって変わって

静かな最晩年を十勝で過ごし

先日、静かに息を引き取った。

IMG_0312私はその翌日

この馬の死亡診断書を届けに

十勝軽種馬農協の事務所へ行った。

とても良い天気だった。

IMG_0310そして、その日は折しも

十勝軽種馬農協が毎年主催する

十勝馬まつりが行われている日だった。

家族連れの一般客が多く訪れ

IMG_0309ポニー馬車や

乗馬体験などがあり

地元の生産関係者と

競馬ファンと

子供達で賑わっていた。

とても和やかな

秋晴れの一日だった。


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ポニーの蕁麻疹

「皮膚にブツブツが出来てるんだけど・・・」

そんな稟告で往診した★さんのポニー。

「元気や食欲はあるんだけど・・・」

枠馬に入っていた馬は、

確かに皮膚にブツブツができていた。

蕁麻疹のようだった。

IMG_5830「これは蕁麻疹みたいですね。」

「というのは・・・?」 

「アレルギー。」

「・・・?」

「過敏症。」

「・・・?」

「ほら、人でもあるでしょ。」

「・・・。」

IMG_5831「痒くなったり、ブツブツできたり。」

「・・・うん。」

「何か刺激されて、それに必要以上に反応しちゃうやつ。」

「あー・・・。」

「何の刺激だかわからないけど。」

「変なもの食べたのかい・・・?」

「そういう可能性、ありますね。」

「何食べたんだか・・・?」

「食べた物だけじゃないかもしれない。」

IMG_5832「・・・?」

「虫に刺されたとか。」

「そんなことあるの・・・?」

「あるかもしれない。」

「・・・?」

「刺されたところを見たことはないけれど。」

「蜂とか・・・?」

「わからないけど、こういう蕁麻疹は夏から秋に多い。」

「あー・・・。」

「だいたい草や虫が元気のいい時に多い。」

IMG_5833「そうなんだ・・・。」

「痒がってないですか。」

「いやー、どうだべ・・・。」

「痒くて、あちこちに擦り付けて皮剥けちゃうのもいる。」

「それは・・・。」

「すりっぽ、ってきいたことあるでしょ。」

「あー・・・あるね。」

「それもアレルギーなんだけど、痒がってないですか。」

「いやー、あまり痒くはないみたいだけど・・・。」

「とりあえず、注射打っておきますね。」

「うん・・・お願いします。」

蕁麻疹のような過敏症の

原因を特定するのはなかなか難しいが

症状は間違いなく蕁麻疹のようなので

とりあえず

抗ヒスタミン剤を打って様子を見ることにした。

翌日

そのポニーの皮膚には

若干の模様が残っていたものの

その皮膚の変化はかなり軽減していた。

そのようなわけで、翌日は

そのまま何もせず様子を見ることにした。


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誇るべき、日本の牛、日本の馬。

音更町の家畜共進会場で、

IMG_5849第47回十勝総合畜産共進会、

肉用牛の部、種馬の部、

が開催された。

私はこの日たまたま休日をもらっていたので、

前夜の激励会と、

当日の審査会を、

ゆっくりと拝見させてもらった。

ここで出品される肉用牛は全て、

黒毛和種である。

褐毛和種(いわゆる赤牛)の部も設けられているが、

やはり、日本全国的に

黒毛の需要が圧倒的に多いようだ。

その黒毛和種の

肉用牛としての改良レベルを

十勝全体で高め

上位に選ばれた牛たちは

さらに全道(全北海道)大会、全国大会へと

コマを進めることになる。

黒毛和種の生産は、世界の中でも

言うまでもく日本が最も盛んである。

IMG_5847他国の追随を許さぬ

世界のトップレベルの

誇るべき「日本の牛」の畜産と言うことができる。

ここが、実に

酪農業界のホルスタインの生産とは違うところ

であると思う。

同様に

馬の部に出品される馬たちは

全て、農用馬と呼ばれる重種馬である。

重種馬の生産目的は

もちろん、ばんえい競馬である。

ばんえい競走用の馬の生産の

改良レベルを

十勝全体で高めるのが

馬の部の共進会の目的である。

今や、日本の重種馬は世界のどこ馬よりも

大きく、太く、逞しくなっている。

それは世界でただ一つの

ばんえい競馬が存在しているからである。

それに供用される馬たちの改良は

言うまでもく日本が最も盛んである。

IMG_5848他国の追随を許さぬ

世界のトップレベルの

誇るべき「日本の馬」の畜産と言うことができる。

ここが、実に

軽種馬業界のサラブレッドの生産とは違うところ

であると思う。


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重種馬の生産意欲の高まり

我が町の馬の繁殖シーズンも、

そろそろ大詰めを迎えている。

我が町の馬の・・・と言うよりも、

我が町を含めた道内の他町村の繁殖牝馬の・・・繁殖シーズン

と言ったほうがいいかもしれない。 

IMG_5804それだけ

我が町の重種の繁殖牝馬は

頭数が減ってしまっているのだ。

しかし

地元の牝馬の数は減っているものの

今年から供用されている

我が町の種牡馬の人気が

なかなかのものだったので

他所の町から種付けにやってくる牝馬が多く

その馬たちの発情鑑定や

IMG_5803不妊治療や

妊娠鑑定などの頭数が 

今年は、久しぶりに多かったように思う。

これはとてもありがたいことだった。

10数年前から

我が町の重種馬の飼養頭数は

恐ろしい勢いで減り続けていて

その歯止めが全くかからず

消滅寸前の様相を呈していた。

IMG_5805それにつれて

私が手がける馬の繁殖の仕事も

当然のように減り続けて

自分の仕事が激減したという虚しさだけに止まらず

重種馬の繁殖の獣医療自体が途絶えてしまうのではないかという不安が

年々増している状況だった。

ところが今年は久しぶりに

そんな不安を払拭できる要素が現れたのだ。

その最も大きな出来事は

やはり

昨年来の重種馬の高値

ということになるのだろう。

重種馬の高値がしばらく続けば

あちこちで生産意欲を高める人が

必ず現れるものである。

生産意欲が高まってくれば

その要求に従って

我々の仕事、すなわち

重種馬の繁殖の獣医療に対する期待も高まってくる。

今年の繁殖シーズンを振り返ると

そんな生産意欲の高まりと

我々の馬の繁殖獣医療に対する期待の高まりが

ほんの僅かであるけれども

感じられるようになった。

そんな期待に応えるために

我々は重種馬の繁殖診療の技術を

しっかりと継承してゆかねばならないと

あらためて思った。

今年はそんな繁殖シーズンだった。

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最後の1頭、誕生♪

昨夜の深夜1時半頃、

枕元の携帯電話が鳴った。 

「・・・袋が見えてきたから、大至急頼む。」 

分娩遅延の馬のいるΑさんからの往診の依頼だった。

急いで馬小屋まで車を飛ばして、

到着した時には、

IMG_5650写真のように、 

すでに生まれていた。

仔馬の後肢2本はまだ胎胞に覆われて、

臍帯(へその緒)はまだ微かに脈を打っていた。 

生まれたばかりの仔馬と

産んだばかりの親馬は

共に寝そべり

鼻で呼吸をしていた。

その傍らに

飼い主のΑさんがしゃがんでいた。

「無事に出てよかったね。」 

「・・・。」 

「オス、メス、どっち?」

「・・・まだわからん。」 

「おっきな子だね。」

「・・・そうでもないんでないか。」 

「いやぁ結構でかいよ。」 

 「・・・ずいぶん遅れたからな。」

IMG_5663「何日遅れたの。」 

「・・・24日。」 

「予定日は?」 

「・・・24日。」 

「5月24日・・・が予定っていうことは・・・」 

「・・・だから24日だって。」 

「そっか(笑)じゃあ発情1周期まるまる遅れたっていうことだ。」

「・・・そうだ。」 

仔馬が頭を上げ始め

親馬が仔馬のことを気にし始めた。

「いま頃のお産は、寒くなくていいね。」 

「・・・。」

「メスみたいだね。」 

「・・・そうか、ま生きとったら、どっちでもいいわ。」 

「やっぱりでかいよ。」 

「・・・メスにしては肢が太いかもな。」 

「種馬はどこの?」

「・・・Mさん。」 

「いい子できたね。」 

「・・・ま、こんなもんでないか。」 

「こいつだけどうしてこんなに遅れたのかね。」 

「・・・この親は、おととしも遅れて、その時は死産だったからな。」 

「それで心配で、アリナミン何度も打ってたんだ。」 

「・・・そうだ。それが効いたんでないか。」 

「それはどうかわかんないけどね。結果オーライだね。」

「・・・この親、自分ばかり肉つきやがって。」

「そういう親、いるよね。お腹の仔がなかなか育たないのかね。」 

「・・・だから遅れんのか。」

「栄養分の行き先のちがいで、遅れたり早くなったりなのかもね。」

「・・・。」 

親馬が仔馬を舐め始めた。

「・・・一服するべ。」

私たちは

Αさんの家に上がり

居間の監視モニター画面の前に座り

この親仔を引き続き見守りながら

お茶で一服することにした。 

1時間ほど経ったところで

再び馬小屋へ行ってみると

IMG_5667親は立ち上がり

引き続き仔馬を舐めていた。

胎盤(後産)がまだぶら下がっていたので

オキシトシンの注射を打ち

そのまま帰路に着いた。

翌朝

往診の1番最初にΑさん宅に寄ってみた。

昨日の親子は

特に問題なく

普通の親仔馬の姿で

馬小屋の中に立っていた。

「後産は出たの?」 

「・・・今朝、おまえが帰ってからすぐ出た。」

「仔馬のうんち出た?」

「・・・でた。浣腸もした。」

「じやあもう大丈夫だね。」

「・・・なかなか乳首に吸い付かんのよな。」

「これだけ元気に乳探ってれば、大丈夫だよ。」

IMG_5668仔馬は親の乳を探り

親馬は仔馬の鼻先へ白い乳を漏らしていた 。

仔馬が乳首に吸いつくのは

もう時間の問題だった。

私はひと安心して

次の往診地へと向かった。 

かくして

わが町の重種馬の

今年最後のお産も 

ようやく無事に終わったのだった。 


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馬の分娩遅延

我が町内で飼養されている重種の繁殖牝馬の、

IMG_5514今年のお産も、

とうとう残す所あと1頭 となった。

かつては毎年100頭近く生まれていた仔馬も、

今では20頭を割ってしまった。

さみしい限りの状況だが、

せめてその仔馬たちの全てが、

無事に生まれてほしい。

今年は今のところ、全頭無事に生まれている。

しかし、気がかりなのは

この最後の1頭の

分娩予定日は5月の24日だということだ。

今日は6月11日だから

もう予定日から18日も遅れていることになる。

馬の分娩が、予定日から大きくずれるのはよくある事で

私も過去にそれに関する記事を書いたことがある。

しかし、よくある事と言いながら

その理由は未だによくわかっていない。

よくわかっていないから

予想ができなくて苦労をする。

苦労をしながら、みんないろいろ考える。

そして

馬の分娩遅延の理由には色々な俗説が生まれる。

例えば

(1)交配時の排卵遅延説・・・

最終交配日から排卵が大きくずれて、そのまま分娩も遅れるという説だ。

しかし、排卵は遅れてもせいぜい1週間が限度だろうし

分娩の遅延は説明できても、分娩が予定より早まる事は説明できない。

(2)個体差説・・・

妊娠期間が先天的に長い個体がいるという説。

これは、調べればそういう傾向を持つ個体が見つかるかもしれない。

逆に妊娠期間の短い個体も見つかるかもしれない。

しかし、本気で調べたデーターにはお目にかかっていない。

(3)栄養説・・・

妊娠中に摂取した栄養(エネルギー)が少ないと、分娩が遅れるという説。

母馬の栄養ばかりではなく、胎児の成長にも影響している事は推測できる。

この説はまるで、桜の開花予想に積算気温が関係しているという説に似ている。

高栄養の馬群は分娩が予定より早く

低栄養の馬群は分娩が予定より遅れる

あるいは

なんらかの理由で長期間採食量が落ちている個体は

分娩が予定より遅れる傾向がある

というのは、私の過去の経験を振り返っても

その傾向は、無くは無い・・・ような気もするのである。

しかし、これも本気で調べたデーターにはお目にかかってはいない。

他にも、どんな俗説があるのか

興味深い所ではある。

ともあれ、今はわが町の

残りあと1頭となった重種牝馬のお産が

無事に終わってくれる事を

祈るのみである。


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ミニチュアホースの腹膜炎(3)

1枚目の写真は腹腔洗浄した翌日。

それから3日間、この馬は餌を全く食べなかった。

IMG_5299排便はほとんどなく、

下腹部の術創周辺には、

盤状の冷性の浮腫(むくみ)があらわれ、

縫い終わった創部からは、

僅かだがポタポタと漿液(腹水か)が漏れ出ていた。

ドレーンを装着していれば

そこからスムーズに廃液されたと思われた。

体温は37℃台に下がり、心拍数は遅めの50台

血液検査で目立ったのは、血清たんばく質の低下だった。

リンゲル液とアミノ酸製剤の輸液と

抗生物質を投与し続けた。

2枚目の写真は腹腔洗浄をしてから5日目。

IMG_2076食欲が現れた。

便の量は僅かに増えたが、

硬い便と泥状の軟便を繰り返し排泄した。

下腹部の浮腫は少しづつ縮小し

漿液の漏出も止まっていた。

体温は37 ℃台で、心拍数も5〜60台だった。

血清タンパク質は上昇傾向に転じた。

さらにリンゲル液とアミノ酸製剤と

抗生物質の投与をし続けた。

3枚目の写真は腹腔洗浄してから10日目。

IMG_2075食欲は上昇し、活気が出てきた。

便の量も増え、形状も安定した。

外に出たがる仕草をするようになったので

日中は放牧することにした。

体温は38℃台、心拍数は7〜80台になった。

血清たんばく質も6mg/dl台に回復。

治療を中止して

様子を見ることにした。

IMG_54384、5枚目の写真は

それから1ヶ月以上経った時のもの。

他の馬たちとは、別の牧区に入れられていたが

元気、食欲、排便、歩様

全て問題はなかった。

普通の健康なミニチュアホースと同様に

IMG_5440牧場の中を元気に走り回っていた。

やっとの事で捕まえて

下腹部の術創を見たが

創部の状態も良好だった。

(今回の症例は、今年9月の上旬、旭川で開催される北海道獣医師会の学術三学会で演題発表をする予定です。興味のある方は、どうぞ聴きに来てください。)

(この記事おわり)


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ミニチュアホースの腹膜炎(2)

災いは忘れた頃にやってくる・・・

という言葉もあるように、

私はこのミニチュアホースのことをほとんど忘れかけていた。

図3そんな私の眼の前に、

救いようのなさそうな腹部の膨隆している、

苦しそうなその馬と再会してしまったのだ。

これはもはや、ダメではないのか・・・

図4そんな第一印象だった。

だが、飼主の△さんは、なんとか命だけでも助からないかという。

ダメもとで、外科的な処置をするほかはない・・・

そんな思いで、診療所に戻り

午後からの開腹手術の準備をした。

ドミトール+ケタラールで倒馬し

GGEとのトリプルドリップ法で麻酔を維持する。

推定の体重がわずか50圓覆里如普段使う量の10分の1だ。

IMG_2997仰臥保定して、バリカンで毛を刈り

パンパンに膨らんでいる腹部に超音波を当ててみた。

どこを当てても、エコーフリーな黒い画面がほとんどで

どこがどうなっているのかは全く把握できなかった。

「切ってみますね。」

私は立ち会っていた△さんにそう言って

正中部を約5僂曚廟擲した。

IMG_5240その途端・・・

黄色く混濁した腹水が飛び出てきた。

まるで、液体を入れた風船に穴を開けたような勢いで

創口から噴水のようにアーチを描きながら飛び出てきた。

IMG_2002「すごい量だ・・・」

手術に参加した人たちの視線が、腹水のシャワーに釘付けになった。

「やっぱり腹膜炎だ・・・」 

黄色い腹水に混ざって

卵とじのようなフィブリン様の絮片も

時折創口から飛出してきた。

腹水がほとんど出終わったところで 

助手をしているS獣医師が

創口から手を入れて、腹腔内を探索した。

すると、骨盤腔の付近に20僉15冂度の塊に触れ

その周りにフィブリン様の物質が付着していたので

それを手で剥がした。

それは、腹腔内膿瘍の自壊であることが想像できた。

(実は、一昨日の十勝獣医師会の学術研究発表会の時、「腹腔内の所見はどうだったのか」、というご質問をいただいた。その時私は、自分では腹腔内に手を入れていなかったので、はっきりした探索所見を答えることができなかった。そこで昨日助手をしたS獣医師に、腹腔内を探索した所見を聞いたところ、上記のような腹腔内の様子を語ってくれたので、ここにあらためて、質問の答えを書かせていただきました。) 

この後はもう

腹腔内を大量の洗浄液で洗うしかない・・・

「タンク、使いましょうか。」

そこで、機転を利かせたのはもう1人の助手のO獣医師だった。

重種馬の子宮洗浄に使う20リットル入りのタンクに生理食塩水を作り

IMG_5245その中に抗生物質を入れて、腹腔洗浄液とし

その液をシリコンチューブで創口へ導き

洗浄液が溢れ出てくるまで注入した。

注入したところで、腹腔内に手を入れて、液を隅々まで行きわたらせ

その後、馬を手術台ごと傾けて、洗浄液をほぼ全量排出させ

その操作を2回繰り返したところ、排液は透明感を帯びてきた。

排液が全て終わった後、生理食塩水のボトルに抗生物質を入れたものを

IMG_5249腹腔内へ注入し、閉腹した。

術後、馬は直ぐに立ち上がり

車に乗って、帰宅した。

(この記事続く)


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ミニチュアホースの腹膜炎(1)

1枚目の写真は、今から約2年前の、

図2平成26年4月に診療した△さんのミニチュアホース。

「後産が残っている」という禀告で、

手を入れてみたら、まだ胎児が居た。

側頭位の難産だった。

プラ二パートの投与と粘滑剤の注入によって、

失位した頭部を整復して、

なんとか娩出させることが出来た。

胎児は死亡していたが

その後、数日の治療で

親馬は元気を取り戻した。

このときの様子は

2014.4.20.の私のブログ記事に書いたとおりである。

2枚目の写真は

図1
それから半年たった平成26年9月、

△さんから、この馬の子宮洗浄の依頼が来たときのもの。

「発情が来たので交配したが、その後、血の混ざった粘液が出ておかしい。」という禀告。

子宮洗浄をしようとして、膣の中へ手を入れたら

子宮頚管外口部が穿孔しているのを発見。

子宮洗浄を中止した。

私は暗澹たる気持ちになった。

△さんには、

この馬はもう助からないかもしれない

と告げて、抗生物質の投与を

数日間続けた。

そうしたところ

この馬はなんと

その3日後には餌を食べ始め

元気に走り回るようになった。

このときの様子も

2014.10.17.の記事に書いた通りである


それから

1年と6ヶ月の歳月が流れた。

そしてこのミニチュアホースが

図3突然、体調を崩したのは

今年の平成28年4月だった。

△さんの禀告は

「お腹がパンパンに膨らんで、異常な大きさになっている。」というものだった。

図4熱発して呆然佇立。

腹腔を穿刺してみたところ

化膿性の腹水が吸引されてきた。

このミニチュアホースの2年前からの病歴を考えれば

腹膜炎であろう事は、容易に想像できた。

「これはもう、このままにしていたら死んじゃいますよ。」

「なんとか命だけでも助からんかい?」

「うーん、こうなったらもうお腹を切って、中の悪いものを出すしかないか。」

「手術かい?」

「はい、もうそれしか方法はない・・・、ダメもとでやってみましょうか。」

「お願いします。」

かくして私たち診療所のスタッフは

この日の午後

この馬の開腹手術をすることになった。

(その結末は・・・明日・・・十勝NOSAI本所で開催される「十勝獣医師会・学術研究発表会」でも発表します。)

(この記事続く)


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新種牡馬がやってきた!

今年の春から、わが診療地区のM畜産で、

新しく供用されている重種馬の種牡馬(しゅぼば)、

すなわち種馬(たねうま)の評判が上々で、

種付けの依頼が続々と集まっている。

IMG_5205その名は「インフィニティー」。

ばんえい競馬ファンの人であれば、

この馬が

一昨年のばんえい記念の1着馬で

去年のばんえい記念の3着馬で

今年のばんえい記念の4着馬という

輝かしい実績をもって引退してきた馬であることは

ご存知だと思う。

ばんえい競馬の最高峰のレースに3年連続で出場して

この好成績は伊達ではない。

先日我が町に到着して

私がその個体確認にM畜産へ行った時にも

巡回種付けの準備で、外に繋がれていた。

インフィニティの父方の祖父は

我が町で生まれた名種牡馬センショウリ(その父はジャンデュマレイ)

母方の祖父は

これも名馬ヒカルテンリュウ(その父はマツノコトブキ)

という十勝の名血統で、申し分がない。

IMG_5179数日後にまた、馬房へ行くと

インフィニティーは、飼槽の窓から顔を出して

私の手や顔に食いつかんとばかりに

顔を伸ばして、戯れるようなしぐさをした。

その精悍な顔つきが

ちょっとお茶目な悪戯小僧に見えた。

IMG_5174「インフィニティー」という言葉は

日本語で「無限大(∞)」という意味がある。

良い馬には、自然と

良い名前が付いているものである。

極度の生産不足に陥っている、今の重種馬の生産地で

数少ない繁殖牝馬をことごとく受胎させて

IMG_5215生産力回復のための

期待の星として活躍して欲しい。

種馬としての

まさに、「無限の」可能性を秘めた

新種牡馬が

我が町にやってきたのだ。


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重種繁殖牝馬の高騰

我が診療地区でもようやく、

仔馬の姿を見ることが出来る季節になった。

馬はご存知の通り、季節繁殖動物である。

馬の居る地域で仕事をしていれば、

IMG_5154生まれたばかりの仔馬を見ると

あぁ、やっと春が来たんだな、と思う。

昔は、ほとんどの日本人が

生活の中で、仔馬を見て

そこで皆、同じような季節感を抱いていたに違いない。

仔馬から感じる季節感が

そういう人たちの手で、色々な文芸に表現されることで

仔馬というものが、春の季題として

自然に選ばれて、定着して

歳時記に掲載されるに至ったのだろう。

IMG_5157仔馬と同じように

昔から、日本人は

生まれたばかりの仔牛の姿も、見ていたであろうけれども

仔牛というのは、季題にはなっていない。

昔から、日本では

生まれたばかりの仔牛は

季節を問わずに1年中見られていたのだろうと推測できる。

さて

IMG_5158そんな仔馬であるが

今、その値段がうなぎのぼりに高騰しているという。

重種馬で、それは特に著しいらしい。

その理由は、以前のブログ記事「需給バランスの、崩壊。」を読んで頂きたい。

ここではさらに

新しい情報として

重種馬の仔馬をこれから産むという母親の繁殖牝馬の値段が

今、とんでもないらしい。

どんなに血統的に悪かろうと、無名であろうと

重種の繁殖牝馬は今、受胎さえしていれば

150万円以上なのだという。

去年や一昨年であれば

おそらく50〜60万円だった孕みの繁殖牝馬が

軒並み、3倍近い値段で売買されているらしい

というのだから、驚きである。

と、同時に

重種馬の生産現場においては

農政による流通の混乱予防の対策などは皆無であり

全くの野放し状態であることで

こんな状態になっているというのが

情けなく、残念で、呆れてしまうのである。

このような有様では

これからの若い重種馬の生産者は

生業が安定して続くなどとは、とても思えないだろう。

重種馬生産の後継者が育たないのは

そんな理由も有るのではないかと思う。


 骨太の仔馬ぞ母はペルシュロン    豆作



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需給バランスの、崩壊。

牛の価格が高騰しているが、

馬の価格もなぜか高騰している。

IMG_5101ここで言う馬とは、

サラブレッドではなく

ばんえい競馬用や肉用の重種馬のことである。

初妊牛の値段がひと頃の倍になっているのと同じように、

重種馬の値段もひと頃の倍になりそうな勢いである。

その理由は

十勝馬事振興会のS々木会長さんの言葉を借りれば

「需給バランスの、崩壊。」

だそうである。

IMG_5108「需要」とはすなわち

ばんえい競馬に走らせる馬、と

九州で肉料理にする馬、である。

ばんえい競馬の厩舎には年間4〜5百頭の重種馬が入厩するが

その数には大きな変化はない。

九州の肉業者には年間数千頭の重種馬が買われてゆくが

その数は増える傾向にあるという。

日本の馬肉産業は年間7〜8千頭の重種馬を消費しており

その半数以上はカナダなどからの輸入でまかなっていたが

円安で輸送コストがかかることと

カナダ国内の馬の数も生産者の減少で減っているということで

九州の肉業者は北海道の重種馬を

今まで以上に買いに来ているらしい。

IMG_5107一方

「供給」はどうかいうと

これが最も深刻で

生産者の数はここへ来てもますます減る一方である。

これは私が日々の馬の診療の中で

強く感じていることである。

往診先がどんどん減っている。

今年のわが町の重種馬のNOSAI保険の加入頭数も

またまた過去最低を更新してしまいそうな状況である。

既存の馬の飼主さんたちは馬を増やす体力がなく

廃業を余儀なくされる馬産家が後を絶たない。

一方で、馬産を新規で始める人もなかなか現われない。

供給不足は出口が見えない状況なのだ。

そんな理由で

「需給バランスの、崩壊。」

と言う現象が起こっているのである。

この先、重種馬産業のはどうなるのか

なかなか先は読めないが

需要は底堅いものがあるのだから

供給の崩壊を食い止めれば

復活してくるのかもしれない。

IMG_5102これをお読みの畜産農家の皆さん

牛もいいけれど

馬も、今

飼ってみたら面白いかもしれませんよ。


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牛馬語の俳句

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