北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

馬の診療

サラブレッドの過疎地域

十勝の馬といえば、

今は「ばんえい競馬」用の、

体重が800〜1000キロ程度の大きな重種馬である。

しかし、

私が就職した頃の

およそ30年前の十勝には

体重が400〜500キロ程度の軽種馬(サラブレッド)も、

かなりの頭数が飼われていて、

当時の我が幕別町には、

重種馬が約800頭、

軽種馬が約300頭、

も飼われていたのである。

それが

あれよあれよという間に

飼養頭数が激減し

今では

重種馬が数十頭、

軽種馬に至っては数頭、

IMG_6090という

まことに寂しい

風前の灯のようにな状況になってしまった。

「ばんえい競馬」がかろうじて存続し

今、十勝では重種馬の生産意欲が

IMG_6091息を吹き返しつつある中で

十勝の軽種馬(サラブレッド)の

生産意欲は

特に高まることもなく

このままでは後継者もなく

自然消滅してしまうのではないかという

IMG_6094危機的状況になっている。

それでも我が町には

「十勝軽種馬農協」の事務所があり

十勝の組合員さんが十数人名を連ねて

細々と軽種馬(サラブレッド)の生産に励んでいる。

IMG_6095先日、珍しく

我が診療所にサラブレッドがやってきて

後肢の外傷の治療をして帰っていった。

サラブレッドは重種馬よりも

気性が激しいので

IMG_6098保定や局所麻酔には

多く気を使う。

久しぶりだったので

思わず緊張してしまう

そんな診療だった。


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孤児馬の下痢

前回の記事は、

育児放棄された和牛の仔の下痢だったが、

今回の記事は、

孤児となった重種の仔馬の下痢である。

孤児になった原因は、

生後10日目で親馬が腸捻転で死亡してしまったことによる。

サラブレッドの生産地であれば

代用の母馬、すなわち乳母(うば)馬

が用意されて

孤児馬は乳母馬に育てられ

事無きを得ることが多いだろう。

ところが

繁殖牝馬が激減してしまった重種馬の生産地では

そう簡単には乳母馬が見つからない。

死産したり、生後の仔馬が死んでしまったりしする繁殖牝馬は

毎年現れるのだが

哺乳されなければ

その牝馬のお乳は1週間程度で出なくなってしまう。

また、タイミングよく乳母になれそうな馬がいたとしても

飼主さん同志が知り合いではなかったり

知っていても仲が悪かったりした時は

孤児馬に乳母馬に出会うことが難しく

非常にハードルの高い状況になっている。

今回の飼主の◎さんも

乳母馬を見つけることができなかった。

仕方なく、止むを得ず

生後10日の孤児馬を

人工哺育することになった。

馬の人工哺育は

牛の人工哺育よりも

はるかに体力を消耗する。

◎さんは朝6時から3時間おきに

馬用の人工ミルクを仔馬に与え続けた。

6時、9時、12時、15時、18時、21時、0時

の7回を毎日繰り返した。

毎日毎日の繰り返しだから 

午前3時だけはキツイのでパスをして 

奧さんと二人で毎日繰り返した。

途中、仔馬が熱を出したり

便がゆるくなったり

元気が無くなったりすると

診療所に電話がかかってきた。

そんなことを何度も繰り返しながら

生後5ヶ月が過ぎた。

仔馬はぐんぐん大きくなった。

5ヶ月が過ぎると

仔馬は共済の保険に加入する資格を得る。

保険に加入した後は治療代が安くなる。

先日、この仔馬の便がまたゆるくなった。

IMG_6024元気は良いのだが

下痢が治らない。

血液検査をしてみると

低タンパク、貧血が見られるものの

その他ミネラルバランスには異常がなかった。

◎さんに話を聞くと

すぐ便がゆるくなるので

離乳の餌としての配合飼料などを控えめにしていたという。

ここで、親がいる仔馬であれば

広い放牧地に親仔を放して

栄養のある青草をたっぷりと食べさせられるのだが

この孤児馬を同じ場所に放牧させるのは

色々な危険が伴うので

それは出来ず

制限された時間の中で放牧し

粗飼料の足りない分は乾草を与えていた。

当然のように粗飼料の摂取不足

配合飼料との給与バランスが崩れ

下痢気味となる。

加えて、放牧が制限されることによって

運動不足になる。

孤児の仔馬の

人工哺育と育成には

大変な苦労がつきまとう。

重種馬の生産地の

悩み事の一つである。


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ミニチュアホースの鼠径ヘルニア

生まれて間もないミニチュアホース、

元気は良くて、

お乳も吸うのだが、

股の付け根が膨れているという。

飼主の鵑気鵑それを気にして、

電話をかけてきた。

麕匸譴砲弔い匿濃,垢襪

399A92CB-9E7A-4E0D-AA2F-90B51575F4F6なるほど

内股の根元が膨れている。

触診してみると

鼠径部にヘルニアが認められた。

仔馬の腹腔によく起こるヘルニアは

臍ヘルニア



鼠径ヘルニア

がある。

前者は文字通りの

腹壁のど真ん中のお臍にできる。

そのヘルニア輪(穴)は楕円形をしていて

直径数センチ以下の小さなもヘルニア輪であれば

馬体の成長とともに相対的に小さくなり

放っておいても自然治癒することが多い。

またヘルニア輪が大きくて外科手術をすることになっても

臍は位置が良いので手術しやすく治癒率も高い。

これに対して

鼠径ヘルニア

DB93C298-218B-42A5-8563-13C9B4822B74内股の根元

すなわち腹壁と後肢の付け根との間の

間隙からヘルニアが起こる。

そのヘルニア輪(穴)は細長く

精巣からつながる精索もあるので

ヘルニア自体も複雑で

輪(穴)を閉じるのが難しい。

たとえ外科的な処置で閉じたとしても

後肢の根元は強い力が掛かって動くところなので

縫い閉じた部分が切れてしまって再発することが多い。

強い動きによって細菌感染の機会も高まり

臍ヘルニアに比べて治癒が困難である。

仔馬の鼠径ヘルニアを

縫い合わせて治すのは

なかなか難しく

私は過去3例の手術経験があるけれども

そのすべてが細菌感染により

治癒までに数週間から数か月間掛かった。

さて

今回のミニチュアホースの鼠径ヘルニアだが

ヘルニアの大きさはクルミ実程度

10410122-6A8B-4F28-9F22-2C51E61D4A3C仔馬自体は元気で哺乳も正常

ということで

何もせず

そのまま経過を観察することにした。

仔馬が大きく成長するにつれて

鼠径部のヘルニア輪が相対的に小さくなり

自然治癒することを期待することにした。

399A92CB-9E7A-4E0D-AA2F-90B51575F4F6ただ・・・

難点が一つだけある。

ミニチュアホースというのは

大きく成長しないのが特徴の馬である。

この仔馬もきっと

ミニチュアホースゆえ

大きく成長してはくれないだろうから

ヘルニアがいつ自然治癒するのか

予測は難しく

ずっと見守るしかないのである。


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サラブレッド牝馬の外傷縫合の一例

十勝地方の重種馬の生産は、

ばんえい競馬が帯広に残っているおかげで、

頭数や戸数は減りつつも、

瀬戸際で何とか持ちこたえて、

絶滅の危機は免れている。

しかし

十勝地方の軽種馬の生産、

すなわちサラブレッドの生産牧場は、

いよいよ絶滅の危機を迎えているように見える。

そんな数少ないサラブレッドを生産する∇牧場から

「繁殖牝馬が怪我をして、血が止まらない・・・」

という電話がかかって来た。

∇さんの話によると

「昨日突然お尻から出血したので流産したのかと思った・・・」

ところがよく見ると

「外陰部の直下に傷があってそこからの出血だった・・・」

そして

「血はそのうち止まると思って手持ちの抗生物質を打って様子を見ていた・・・」

しかし

「今朝になってもまだ出血しているようだ・・・」

ということで

∇牧場に着いて

FBC8681B-BDEF-42BC-9DAD-111D33C030F2馬を簡易の枠場へ入れて

問題の箇所を診ると

外陰部の下にもう一つの外陰部が出来たかのような

縦に深い傷が口を開けていた。

「・・・これは縫わないとだめですね。」

4A79BDE3-6FD6-4D7E-AEAA-5DA27425834A「お願いします・・・」

しかし

このままで患部を触るのは危険である。

私は簡易枠の後方に

古畳を立ててもらい

4D8A027C-83D7-41EE-AE3C-EE4B16A7AC23蹴られても直接当たらぬようにした。

さらに

∇さんに鼻捻をしてもらった。

患部を洗浄して

触診して見ると

330EF41F-CD63-4DF2-A4B4-71DB1E563605幅約20僉⊃爾橘10僂曚匹

えぐられたような外傷で

奥の筋層からはまだ少し出血が続いていた。

馬は意外な程おとなしかった。

「20才の老齢なんでね・・・」

97D133C7-3C55-4988-A7F2-55275E8B4FA3それでも

∇さんの話では

今年の春先に

タニノギムレットという種牡馬を交配したのだという。

懐かしのダービー馬である。

ともあれ

馬が大変おとなしいので

8A6EB18E-2587-42C7-B8AC-500802474E96私は縫合処置を開始した。

創の最深部の筋層を寄せ

もう一度浅い部分の筋層と皮下織を寄せると

ようやく

出血のしたたりが止まった。

DA68EB32-A1DA-4B9E-A54A-2EEA80B79D85最後に皮膚を結節で縫合。

筋層を縫っているときは

馬はほとんど動かなかったが

皮膚を縫っているときに

馬は痛がって少し動いた。

121F78C6-547B-4FCC-91EC-08A1B5562176しかし

縫合するのにはほとんど支障のない

おとなしい痛がり方で

∇さんと私は

この牝馬をなだめて声をかけながら

最後まで縫い上げることができた。

98610F50-1F35-4D80-8E96-AD6BF07516E7サラブレッドの外傷を

往診先で縫合するのは

何年振りだろう。

重種馬では数年に1度は外傷縫合することがあるが

サラブレッドを縫うのは本当に久しぶりのことだった。

0429BC54-FFA1-4C63-A6F9-E6A3A8A4C6A6私が使っている道具は

写真のように

全く必要最小限の道具に過ぎない。

保定をする道具も

簡易枠場とロープと
52186C69-2A6C-45D3-8A96-1B1DEC0F31BC
鼻捻り一本に過ぎない。

今回は鎮静剤や局所麻酔剤を使わずに

処置をすることができたのは

ひとえに

この馬がとてもおとなしい馬だったからだ。

6CC5D679-6DB3-4CB5-8B2A-4D6E7F950AE4気性の荒い馬だったら

こうは行かなかっただろう。

そこで

現在のサラブレッドの生産地で行われている

最先端の縫合治療は

どのように保定し

どのように治療しているものか

サラブレッドの治療に詳しい先生方に

教えていただきたいと思う。


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共進会出品馬・当日の怪我

音更町の十勝共進会の、

和牛と馬の部の当番獣医師の仕事を仰せつかり、

7月18日の朝、

事務所を出て会場へ向かっていると、

共進会事務局の十勝農協連のS藤さんから、

電話がかかってきた。

「今どこでしょうか?」

「会場に向かってるところですけど。」

「馬が怪我したので、至急お願いします!」

「はい、あと10分くらいで着くと思います。」

共進会の当番獣医師は

かつて何度もやった事があるが

向かっている途中で診療依頼をされたことは未だかつて無かった。

会場に着くと

S藤さんが待っていて並んでいる厩舎小屋へ案内された。

怪我をしたのは

生後4ヶ月の当歳馬だった。

右の後肢の管部から球節にかけて

縦に約20僂寮攸呂世辰拭

水槽に後肢を突っ込んでしまい暴れたらしい。

「これは、すぐ縫いましょう。枠場はありますか。」

飼主さんばかりではなく

会場スタッフや周囲の見物客も見守る中

親と仔馬は小屋から出て枠場へ移動した。

親用の枠なので大きかったが

ロープを数本使って仔馬に合うようにして

肩と腹へもロープを巻いて保定。

飼主さんと助手さん達の手際はとても良かった。

鼻捻をかけてドミトールで鎮静し

患肢ではない方の足をロープで縛り上げると

枠場の横から患部を診察する事ができた。

ビルコン溶液でよく洗い

薄い筋層と皮下組織を連続縫合で寄せていると

仔馬が足の力を抜いて寝そうになった。

飼主さんはじめ助手の人たちが

約250kgほどの仔馬の体を支えてくれた。

皮膚を6針(だったと思う)結節縫合していると

仔馬はいよいよロープに体を預けて

息苦しそうに体をだらりと落としてきた。

飼主さん達が必死で仔馬の体を支える中

イソジンゲルを塗ったガーゼを患部に当てて

伸縮包帯を巻いて抗生物質を筋注し

なんとか処置を終えた。

だらりとした仔馬の頸静脈にアンチセダンを打ち

しばらくして仔馬に起立を促すと

仔馬はバタバタと枠場の中で立ち上がった。

診療は終了し

親仔馬は控えの小屋へ帰っていった。

IMG_5809「このまま、もう帰ろうかと思ったんだけど・・・」

飼主▪️さんが言うと

そのお父さんと思しき人が

「明日まで様子見るべ・・・」

と、この馬の出品を諦めていない様子だった。

しばらくして、共進会の初日が始まった。

IMG_5810▪️さんの親仔馬は

測尺と歩様検査に参加する事ができた。

仔馬は多少右足をかばっていたが

なんとか無事に終える事ができた。

その翌日

朝一で▪️さんの幕舎へゆき

怪我の仔馬に抗生物質を打ち

明日と明後日も同じように打つように指示し

その後地元の獣医師にガーゼの交換をしてもらうように指示し

私からも地元のNOSAIの診療所へ連絡しておいた。

雨が次第に降り始めたが

その中で

共進会二日目の

比較審査が始まった。

IMG_5813その比較審査にも

この親仔馬はなんとか出品する事ができた。

仔馬は相変わらず右足をかばっていたが

痛みも軽度のようで

歩きにはほぼ支障はなかった。

比較審査の結果の発表が行われ

IMG_5815この親仔馬は

2等賞を獲得する事ができた。

雨の中で

怪我をして

慌ただしい共進会になったが

出品された全ての牛馬の

トラブルはこの1件のみ。

当番獣医師としての仕事は

この当歳馬の治療のみ。

IMG_5820▪️さんは大変だったと思うが

当番獣医師としては

この仔馬の診療だけで

なんとか無事に

仕事を終える事ができ

ホッとしている。


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ある馬産家の死

先日、

町内の馬産家の#さんが亡くなった。

成績の良い種牡馬を何頭も飼養し、

重種馬の生産界では知らない人は居ない、

全道的にあまねくその名を知られた種馬屋さんだった。

私は若い頃から#さんの種馬所に通い、

全道各地から集まってくる繁殖牝馬の

発情鑑定や妊娠鑑定をしながら

重種馬の繁殖を勉強させてもらった。

#さんは

私の馬の繁殖検診の技術を

育ててくれた恩人のひとりだった。

背が高く逞しく豪快な風貌で

まさに荒くれ男という感じの人だったが

馬に対してはとても優しく

種馬の扱いが抜群に上手な人だった。

短気で怒りっぽく

獣医師なら皆一度は怒鳴られた経験を持ち

恐ろしい存在でもあったが 

後腐れのない気持ちの良い性格の人だった。

良い馬を見ると目を細めて

心から馬を褒め

馬談義が止まらなくなる

馬一筋に生きている人だった。

晩年は体調を崩し

経営は息子さんに譲りつつも

春の繁殖シーズンになり

私が馬の直検をしていると

必ず家から出て来て

「お茶飲んでゆきなさい。」 

と、声を掛けてくれる人だった。 

そんな#さんが

今年の春は姿を見ないな

と思っていた矢先 

訃報が届いた。

私はその晩お通夜に参列した。

翌日

仕事にかかったところで

事務所から電話がかかって来た。

IMG_5567#さんの牝馬の1頭が

今朝から急に倒れて立てないという。

我々診療所の獣医師は

緊急の往診でその牝馬を懸命に治療したが

IMG_5568治療に反応せず

頭を投げ出し苦悶して

とうとう死んでしまった。

#さんのお葬式当日の出来事だった。

血液所見には特に異常値は見当たらなかった。

004 2019.05. 馬解剖所見には

「結腸〜小結腸粘膜出血」

とだけ書かれており

それ以外の箇所には異常が見られなかったようだ。

005 2019.05. 馬2急性の腸炎だったと思われたが

それにしてもあっという間の出来事だった。

よく言われることだが

馬屋の親父さんが亡くなると

その家の馬を1頭

道連れにして逝くものだ

と言われている。

今回もまさに

そうだったようだ。


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M木先生おめでとう!!

北海道NOSAI研修所長のM木先生が、

このたび学位(博士号)を取得された。

IMG_5299その論文のタイトルは、

「重輓馬における超音波画像検査を利用した卵巣・子宮の診断基準の策定」 

というもので、

重種馬(輓馬)に関するM木先生の長年の研究の集大成である。

牛の乳房炎やその他色々、

IMG_5300牛馬の診療に関して幅広い知識と経験と、

常にその最先端を走っておられるM木先生は、

北海道にとどまらず日本全国の牛馬の獣医師の間では、

その存在を知らない人はいない。

M木先生は

私より一年早くNOSAIに就職し

IMG_5301牛馬の臨床獣医師として15年以上のキャリアを積んでから

北海道NOSAI研修所へ転身した。

そこでNOSAI新人や若手の研修指導ををしながら

自らも常に研究テーマを持ち続けて

今回その集大成をまとめられた。

普通のNOSAI獣医師ではなかなか出来ない

IMG_5302マルチなスーパー獣医師なのである。

私は、M木先生と

ほぼ同期のNOSAI獣医師として

色々と先生の仕事のお手伝いをしたり

自分の仕事に対して助言をもらったり

IMG_5322公私にわたって

長い付き合いをさせてもらっている。

特に重種馬(輓馬)の診療に関しては

共に同じ道を歩んで来た。

そんなM木先生は

IMG_5336同期の桜

と言って良い存在である。

昨日は

帯広畜産大学のN保先生の計らいで

学位取得の祝賀パーティが開催され

私もそれに招かれて出席させて頂いた。

IMG_5328畜大OBのM宅先生はじめ

現役の畜大の先生方や

開業されたI井先生や

私の同僚の十勝NOSAIの臨床家の先生方が

帯広市内のホテルに集まり

和やかなお祝いをした。

重種馬(輓馬)の繁殖

というテーマでの今回の学位取得は

生産力の低下している重種馬生産地と

そこで働く獣医師にとって

とても励みになる出来事である。

M木先生は

「これは私の新たなスタートです。」

と何度も言っていた。

先生の幅広い視野と人脈と

若い獣医師に対する抜群の指導力は

この学位取得によって

ますます磨きがかかり

輝きを増すに違いない。

M木先生の今回の学位取得は

我々のような牛馬の臨床現場の獣医師はもちろん

畜産系の大学や

業界の関係者にとって

とても嬉しく有難い

朗報だと言えよう。

M木先生

本当におめでとうございます!

今後ともどうぞよろしくお願い致します!


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ぼちぼち始まる馬の繁殖

私が就職した30数年前は、

我が町に重種の繁殖牝馬が300頭以上いて、

飼養戸数はざっと40〜50件。

ところが今では、

重種の繁殖牝馬の数は20頭にも満たず、

飼養戸数はたったの5件。

ずいぶんと減ってしまったものである。

寂しい限りなのだが

それは全道的な傾向であった。

重種馬の生産力は

後継者不足で

がた落ちしてしまった。

そしてついに

重種馬の需要と供給のバランスが崩壊し

極度の供給不足となった。

重種馬の需要に変化がほとんどないにもかかわらず

重種馬の供給が極度に低下した。

その結果として

重種馬の価格が跳ね上がった。

それが今から約6年前の出来事だった。

その後

重種馬が高く売れるからと

新規の重種馬の生産牧場が

ぼちぼちと参入してきたが

一度減ってしまった重種馬の生産力は

そう簡単に元に戻せるものではない。

重種馬の生産牧場を

新しく立ち上げる資金のほうは

多くの資本家たちから

注ぎ込まれるようになってきたが

実際に

牧場で重種馬を養い

交配や分娩を管理する人がいないのだ。

お金や人を

なんとか集めても

生産技術を教える経験者や技術者がいない。

一度衰えてしまった重種馬生産の技術力は

そう簡単に回復させられるものではないのである。

重種馬の値段が跳ね上がってから約6年

今、我が町の重種馬の生産力は

底を打った横ばい状態が続いている。

いつになったら

重種馬の生産力が回復するのだろうか

その責務の一端は

私自身にも降りかかってくる。

そんな状態の中で

今年もまた

春がやってきた。

春の訪れと同時に

重種馬の繁殖シーズンがやってきた。

遅ればせながら我が町の重種馬たちにも

41F6AD17-6D7A-47C5-B72A-DDD661A99B0F発情が来るようになり

仔馬も生まれ始めた。

昨日は

3頭の重種馬の直腸検査をした。

83E4FD86-B1BB-4F95-A083-317A48A17EADその3頭は全て

町外の繁殖牝馬たちだった。

我が町内には

人気の種牡馬がいて

その馬を交配させるために

全道から繁殖牝馬が集まってくる。

5D029FEE-DEDB-4F9B-AB92-A250F2A78FBE種馬所のΩさんによれば

今年はすでに

15頭の種付け(交配)をしたという。

繁殖牝馬の肛門に手を入れて

馬糞をかき出しながら

私は

また重種馬の繁殖シーズンが

ぼちぼち始まったな・・・

と感じていた。


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火気厳禁の不妊治療(2)

長期不受胎の重種繁殖牝馬の、

子宮の中へ灯油を注入する不妊治療。

IMG_5257そんな物を子宮に入れることを、

よく思いついたものだ、

と思った。

が、よく考えてみると

子宮内膜の洗浄と再生を目指すために

子宮内へ注入する薬剤の

IMG_5258多くは水溶物

すなわち水に溶ける薬剤であり

水和性の高いものばかりだった。

そこへ、一つの発想転換として

水和物ではなく

油性の液体による

IMG_5259子宮内膜の洗浄と再生へと

発想が行くのは自然の成り行きかもしれない。

水で落ちない頑固な汚れは

油で落とせるのではないか

と考えるのは

クリーニングに携わる人の

自然な発想なのかもしれない。

帯広畜大のN保先生の指示に従って

前日に

灯油100ml+生理食塩水100ml=200ml

を子宮内に注入した馬の

子宮洗浄をすることにした。

いつものように道具をセットして

陰部を洗浄していると

ほんのりと灯油の匂いが鼻を突いた。

助手をしてくれたΔさんに

子宮内を還流させた洗浄液を

ガラスのコップに受けてもらった。

IMG_5279写真は

1回目の還流液

から

4回目の還流液までを

順番に撮影したものである。

IMG_5280最初の還流液には

白濁した液の中に

非常に多くの絮片が混ざり

それが

還流を繰り返してゆくたびに

IMG_5281絮片の数も白濁の程度も

少なくなっていった。

18リットルのタンク一杯の洗浄液(生理食塩水)を

ほぼ使い切って

子宮洗浄を終えた私は

IMG_5282N保先生の指示通りに

最後に抗生物質の溶液を注入して

作業を終了した。

今後は

この馬に発情が来たら

普通に種付けをすればよいという。

この馬の洗浄液の状態などを

翌日、メールでN保先生に報告したら

その返信メールに

わたくしの経験では注入後4日で交配した18歳のクオーターホース雌馬が受胎しましたので、そのくらい空ければ次の発情で交配できると思います。」

という心強い言葉が書いてあった。

この馬の今後も、楽しみである。

IMG_5283以上

とても簡単な手技であり

しかも

灯油は安価である。

長期不受胎馬を抱えて

治療に困っている飼主さんと獣医師は

ぜひ試してみていただきたい治療法である。

ただ一つ

注意しておくことは

火気厳禁!!!

タバコを吸いながらの治療は

絶対ダメである。


(この記事終わり)


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火気厳禁の不妊治療(1)

十勝管内の重種馬で、

長期にわたって不受胎の繁殖牝馬を、

その道のスペシャリストの先生に診察してもらい、

受胎率の向上を図る事業が行われている。

IMG_5253十勝農協連が主催となり、

帯広畜大のN保先生がその中心的な指導をされている。

我が町の◯牧場で飼われている重種馬1頭も

その事業のお世話になっており

昨年の暮れに検診を受け

IMG_5249先日その診断が下され

診断に従って

治療が施されることになった。

その治療法とは

ちよっと驚きの方法であった。

まず

長期不受胎の対象馬に 

プロスタグランディンとエストラジオールを投与して

子宮頸管を弛緩させる。

弛緩させた子宮頸管外口を通して

子宮の中に薬剤を注入する。

こう書けば

普通の子宮の治療のようだが

ここで使用する薬剤が 

ちょっと驚きの薬剤

IMG_5257何と

「灯油」

なのだ。

子宮内へ繋げたシリコンチューブの

IMG_5258外側に漏斗を付けて

その漏斗の中へ

灯油100ml+生理食塩水100ml

を混ぜ合わせた200mlを注入する。

「カリフォルニアなどの乾燥した地域では、この灯油に火が引火することがあるそうです。」

IMG_5259「え、ほんとですか?」

「そういう注意書きが書かれているんですよ。でも、ここは湿度があるから大丈夫ですね。今日は雪が降るみたいだし。」

N保先生はニコニコしながらそういった。

火気厳禁の先端技術なのだ。

注入した日はそれで終了。

IMG_5262「明日、子宮洗浄をお願いします。」

N保先生から

私は翌日にこの馬の子宮洗浄をするように指示を受けた。 

「子宮洗浄して、その洗浄液を見たら、驚かれるかもしれませんよ。」 

「汚れが出るんですか?」

「はい、きっと。」

IMG_5263N保先生はニコニコしながらそういった。

長期不受胎の馬の子宮内に入れる薬剤として

かつては流動パラフィンがよく用いられて来た。

それはただ入れっぱなしだった。

しかし

今回注入した灯油は

翌日に洗い流す必要があるという事だった。

「洗い終わったら、この抗生物質を入れておいてください。」

IMG_5265N保先生から手渡されたのは

子宮注入用のネオポリシダールという商品名の

抗生物質だった。


(この記事続く)



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重種馬の気腫胎(3)

腐敗の始まった胎児を引き出し、

胎盤を剥離して取り出し、

とりあえず仕事がひと段落ついたところで、

私は同僚のT獣医師に電話を入れた。

私が午前中終えているべき残りの診療件数を告げると、

T獣医師はそのほとんどを引き受けてくれた。

「じつは、昼からもその馬の子宮洗浄する予定なんで・・・」

「わかりました、こちらの診療は全て行きますから、大丈夫です。お疲れさまでした。」

こういう時はやはり

常にチームで仕事をこなしている診療所の

メリットが活きるのである。

ヘルプをしてもらったおかげで

私は鵑気鵑凌芭鼎諒夘佞韻鬚罎辰りと終えることができた。

そして

診療所に戻り

昼食の弁当を食べて

午後からの仕事の準備に取り掛かった。

重種馬の流産の後は

多くの場合で子宮洗浄をしておくべきである。

特に今回のような

胎児の腐敗が始まっている流産の場合は必須である。

私は再び鵑気鸞陲妨かい

IMG_5062子宮洗浄をして

仕事を終えた。

ただ

少し残念で淋しかったのは

子宮洗浄を私と飼主の鵑気鵑2人で終えたということ。

機会の少なくなった馬の診療には

若い獣医師を一緒に連れて行きたかった。 

私の若いころは

管内に今よりも10倍以上の数の馬がいたから

少しでも馬の診療の経験を積もうとして 

こんな時は必ず

先輩獣医師と一緒に付いて行って

色々細かいところまで

仕事を覚えたものである。

だが、今

これだけ繁殖雌馬の数が減ってしまうと

獣医師の馬の診療技術取得の

機会も

その必要性も

薄れてしまった。

IMG_5063私にはそれが

残念で淋しいのである。 

せめて

記事に残しておかなければ

淋しくて仕様がないのである。


 (この記事終わり)


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重種馬の気腫胎(2)

朝いつものように、

診療所で往診準備をしている時、

電話がかかってきた重種馬の流産。

最初に行ってすぐ終わらせるつもりの仕事が、

IMG_5045すでに1時間を経過。

ようやく馬を保定して、

陰部に手を入れた。

「・・・。」

「どうだい?・・・」 

「・・・やっぱり流産だね。」 

膣内には胎児の前肢が1本と

その奥に胎児の頭頂部があった。

頭部の下にもう1本の前肢の腕節があった。

「・・・鼻先が下向いて、前肢も1本折れ曲がってるよ。」 

「やっぱりダメだったか・・・」 

「・・・ちょっと引っ張ってみるか。」

私はこちらを向いている前肢を掴んで

強く引っ張ってみた。

しかし

胎児はほとんど動かなかった。

曲がっている前肢は簡単に直ったので

両前肢を掴んで引いてみたが

胎児は全く動かなかった。

分娩予定日までにはまだ3ヶ月ある流産胎児だから

引っ張れば出てくるだろう

という安易な読みは外れてしまった。

「・・・鼻先が曲がって下向いてる・・・これを直さないと出てこないか。」

胎児といえども

馬の鼻は長い。

頭部の整復は牛よりも困難である。

私は車に戻って

粘滑剤の準備をした。

IMG_5056バケツのぬるま湯に粉末の粘滑剤を溶き

カテーテルに付けた漏斗に汲んで

カテーテルのもう一方の先を膣の奥へ押し込んで

膣壁と子宮壁にへばりついている胎児を剥がすように

粘滑剤を流し込んでゆく。

途中で親馬の怒責が強くなり

IMG_5060カテーテルは何度も押し出されてしまうのだが

めげずに粘滑剤の注入を繰り返した。

胎児の両前肢を押し込んだ拍子に

胎児の鼻先がこちらに向いてきたので

さらに前肢を押し込んで

胎児の頭部を整復する事ができた。

「・・・よし、これでもう一度引っ張ってみるか。」

チェーンをかけてあった前肢をそのまま引いてみた。

しかし

胎児は思ったほど動かなかった。

努責による胎水は

少し腐敗臭がした。

「・・・中で腐って膨らんでるみたいだね、これは滑車で引くしかないか。」

私は再び診療車に戻って

産科用の滑車を持ってきて

馬の後方の柱に一方の端を結び

もう一方の端を胎児の肢のチェーンに結んだ。

飼主の鵑気鵑惑呂良’韻犬鰺かせているので馬の頭部から離れることはできず

後方での助産の作業は全て私一人でしなければならなかった。

(ここからの写真はエグいので閲覧注意)

IMG_5055滑車のロープは思ったよりもきつく動かなかった。

さらにぎゅーっと滑車のロープを引くと

急に楽になった

と、思ったら

チェーンをつけてある前肢が一本だけ

肩のあたりから、ちぎれて出てきた。

「・・・あー、ちぎれちゃった。」

IMG_5057胎児の腐敗が進み

片と肋骨の結合部が緩くなってちぎれてしまったのだった。

もう片方の前肢を引いても

また同じようにちぎれてしまう可能性がある。

私は仕方なく

前肢にチェーンをかけることをあきらめて

そのチェーンを胎児の首にかけて引っ張ることにした。

チェーンをかけ直してもう一度滑車を引くと

IMG_5058重い手応えとともに

胎児が引き出されてきた。

ドサッ・・・と胎児が落ちるとともに

残りの胎水が排出されてきた。

「出たかい?・・・」

「・・・うん、やっと出た・・・だけど後産がまだだいぶ付いてるから。」

私は子宮の中に手を入れて

胎盤の剥離を始めた。

妊角のほうは簡単に取れてきたが

不妊角の奥のほうに強い付着があった。

それをゆっくりと手で剥離して

IMG_5059先端までちぎれずに

なんとか胎盤も全域取り出すことができた。

この時点で

手元の時計を見たら

午前11時半を過ぎていた。

治療時間は2時間を超えていた。


(この記事続く)

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重種馬の気腫胎(1)

朝の往診先を振り分けて、

各獣医師が往診へ出かける時間帯に、

重種馬生産農場の鵑気鵑ら電話がかかって来た。

「尻から何か出てるんだけど、流産でないべか?」 

こういう稟告の時は、

ほぼ間違いなく流産である。

まずは

どの往診よりも先に

その馬の流産を確認してから

今日1日の往診を巡ってゆくことに決めた私は

往診の最初に鵑気鸞陲亡鵑辰拭

「あの馬なんだけど、今そこの枠場に入れるから。」

鵑気鵑捕まえた馬の後ろを追うように

私たちは馬を枠場の中へ誘導した。

馬は、用意した枠場に

すんなりと入った

と、思いきや

突然驚いたようにバックした。

枠場の後ろのロープを渡す暇もなく

再びゲートインのやり直しとなった。

今度は少しゆっくりと

少しずつ枠場の中へ誘導した。

馬は、ようやく

枠場の中に入った

と、思いきや

再び驚いたようにバックしようとした。

しかし今度は

鵑気鵑頭絡のロープを

前方の柱に結んでいたので

馬は後ずさりできず

首を伸ばして

柱に結んだロープを思い切り引っ張り

後肢をバタつかせた。

「・・・危ない!・・・」

と思って私は馬から離れた。

鵑気鵑惑呂料以で柱に結んだロープの端を握っていた。

IMG_5036馬は

枠場の中で後肢を滑らせて

しゃがみ込んでしまった。

横に張ったロープに首が引っかかり

苦しそうな鼻息をあげた。

「あーあ、こりやダメだ、足元が凍れて滑るんだな。」

鵑気鵑麓鵑砲かったロープを鎌で切り

IMG_5038馬の態勢を楽にさせて

一声かけると

馬は枠場の中で立ち上がり

すぐさまバックして枠馬から遠ざかった。

「この馬、枠に入るの嫌いなの?」

「そうなんだよ。すぐバイキ(バック)ばっかりしやがって、癖なんだ。」

「危ないね・・・。」

「・・・ちょっと待ってくれよ。今、砂を持ってくるから。」

IMG_5043鵑気鵑蓮∀半譴梁元に

目の荒い砂を撒き始めた。

一通り撒いたところで

鵑気鵑隼笋

馬を再び枠場に誘導しようと馬を追った。

IMG_5042ところが

馬は一向に枠場に入ろうとしない。

撒いた砂を嫌っているのか

一歩も枠場に近寄ろうとしない。

「枠場に入れるの諦めるか・・・」

「・・・その方がいいね。そこの柱にロープ渡して、寄せてやるか。」

IMG_5045鵑気鵑隼笋

馬を小屋の隅の柱に繋ぎ

馬の体にロープを巻くように保定し

尻尾を別のロープで縛り上げた。

さらに馬が暴れないように

IMG_5046鼻捻りをした。

「よし、これでようやく診れるね。」

私はカッパに着替えて

手袋をはいて

診察の準備をした。

鵑気鵑硫箸僕茲討ら

すでに

1時間近く経過していた。

私は馬の陰部に

手を挿入した。

「・・・。」


(この記事つづく)


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天高く「牛馬」肥ゆる秋

「天高く馬肥ゆる秋」という言葉は、

私のような畜産関係者の間では、

まだまだ身近な現実としてある。

しかし、

我が国に飼われている馬が、

これほどに減ってしまうと、

肥えた馬の姿を探すのが大変である。

特に減っているのは農耕馬と言われていた重種馬である。

我が国にはもう農耕馬などは存在しないと言ってよいだろう。

農耕の仕事の合間に生れた「ばんえい競馬」が、

辛うじて北海道の帯広競馬場に残り、

IMG_4040かつての農耕馬が、

ばんえい競走馬として、

辛うじて生きる道(就職先)を与えられている。

かつてはどこの農家にも居た馬が

ばんえい競走用に特化して飼養される様になり

その生産や育成は

ごく一部の農場で細々と行われているにすぎない。

IMG_4365そんなごく一部の農場も

後継者が少なく

多くが廃業してしまった。

「天高く馬肥ゆる秋」

そろそろこの言葉も過去の物になってしまうのではないか

という危機感を感じないでもない今日この頃である。

天高く〇〇肥ゆる秋

肥えるのは

もちろん馬ばかりでは無い。 

先日馬の往診に行った公共牧場には

その何十倍もの数の牛が

妊娠鑑定のために集められていた。

IMG_4366馬に比べて

牛の需要は

全く衰えを見せない。

特にホルスタイン(乳牛)の雌の需要は

かつて無いほど高まっている。

その理由は色々あるのだが

一つだけ挙げておきたいのは

生乳生産の省力化という名の下に

乳牛の雌の

酪農場における

過酷な労働がある。

公共牧場の広々とした放牧地に

のんびりと草を食んでいる牛たちの

IMG_4366幸せな姿は

多分ここで終わる。

彼女たちは下牧した後

しばらくして子牛を産み

その後

搾乳牛としての過酷な労働者となる。

労働環境のよい酪農家で飼われれば

彼女たちは長生きをして

天寿を全うすることもあるが

労働環境の悪い酪農家で飼われれば

彼女たちは疲れ果てて

おどろくほどの短命でこの世を去る。

乳牛の「使い捨て」である。

その結果、乳牛の数は減り

需要に追いつかぬ「負のスパイラル」となる。

最近

そんな労働環境の悪い酪農家が増えている様な気がしてならないのは

きっと私だけではないだろう。

彼女たちの労働環境の悪化に

歯止めをかけることは

農業軽視の我が国の経済状況の中では

なかなか難しい。

彼女たちにはもちろん

「労働基準法」

も、存在しない。


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ロバ(驢馬)の難産 (3)

残念な結果になってしまったロバ(驢馬)の難産だったが、

我々農業共済組合(NOSAI)の獣医師にとっては、

珍しい症例だと思ったので、

あえて記事にしてみた。

BlogPaint血液検査も一応しておいたので

ロバの難産後の血液所見も

ここに貼り付けておく。

ロバはポニーと大きさがほぼ同じであり、

ロバの診療はポニーの診療をするようなイメージでやれば、

それほど間違うことは無いと思われる。

使う薬品の量なども

ほぼポニーの診療に準ずればよいと思われる。

ただ

ここで問題なのは 

ポニーは共済の保険診療ができるのだが

ロバは共済の保険診療ができない

という事である。

ボニーは馬なので共済保険に加入できるが

ロバは馬とは見なされず

したがって

ロバの診療については

保険の効かない非加入畜の診療料金を

飼主に請求しなければならない。

実は

これがべらぼうな金額設定になっている。

共済保険に加入していない動物

すなわち、非加入畜の診療料金の設定は

我が組合では大きく分けて3つに分類されている。

すなわち

「小」動物・・・犬や猫など

「中」動物・・・羊や山羊など

「大」動物・・・牛や馬など

BlogPaintだが、これが

実はべらぼうな金額設定になっている。

ざっと比較すると

保険加入畜の料金を1とすれば

非加入畜「小」は、その約2倍

非加入畜「中」は、その約3倍

非加入畜「大」は、その役5倍

の診療費が請求される設定になっている。

もし

保険に加入していないポニーの診療があったら

ポニーは馬なので

「大」動物という料金設定の中で、診療費が計算される。

ポニーは成馬でも体重が100キロ程度の小さな体な馬なのだが

馬であるという事で

サラブレッドや重種馬と同じ診療料金が掛かり

ちょっとべらぼうな診療料金になってしまう。

だからポニーを飼う畜主は

自分のボニーを共済保険に加入して

何かあったときにべらぼうな診療費を払わずに済むようにしている。

では

ロバの飼い主はどうかというと

ポニーのように保険に加入することが・・・できない。

農業共済保険の対象としてロバは馬とは見なされないのである。

ところが

今回のように

ロバが病気になり

共済の獣医師の診療を受けなければならなくなった時は

診療料金はボニーに準じた計算方法

すなわち、非加入畜「大」が適用されて

べらぼうな診療費がかかってしまうことになる。

IMG_3241ロバは

保険の対象としては馬と見なされず、保険に加入できないのに

診療費を計算する時は馬のような「大」動物と見なされて

べらぼうな金額の診療費が請求される

これは

何かおかしくないだろうか?

ポニーであれば保険に加入すればいいが

IMG_3240ロバにはそれができないのである。

ロバに何かがあった時には

まったく何の保障も無い

無保険診療を受ける他は無いのである。

今の診療料金体制は

見直すべきではないだろうか。

ロバの診療を経験して

そんなことを思った

今回の症例だった。


(この記事終わり)


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ロバ(驢馬)の難産 (2)

難産したロバ(驢馬)は、

IMG_4110翌日の往診の時も、

立つことができなかった。

点滴と抗生物質の治療が続けられた。

その翌日の往診の時も、

立つことができなかった。

首を投げ出したままで、

頭を上げることもできなかった。

点滴などの懸命な治療が続いた。

食欲は全くなかった。

その翌日も

親驢馬の症状は変わらなかった。

「・・・助かるんでしょうか・・・」

「頭を上げて、立ってくれればいいんだけど・・・」

「・・・あの・・・それと・・ロバは共済の保険がきかないんですよね・・・」

「そう・・・」

「・・・もう七万円くらいかかっているって聞いたんですけど・・・」

「そうなんだよね・・・」

「・・・症状がよくならないのなら・・・このままずっと治療しても・・・」

「治療代がかさむだけになる・・・」

「・・・ちょっと考えさせてもらえますか・・・」

⌘牧場の奥さんは

⌘さんと相談して

翌日からは点滴治療などを中止して

自分で抗生物質の筋肉注射をしながら

この親驢馬の看病をしたい

という希望を伝えてきた。

獣医による治療をしてやりたいが

この先治癒する見込みの薄い親驢馬の

治療費かかさんでしまう

という現実からの

苦渋の結論だった。

我々獣医師としても

前例のない驢馬の

難産後の治療について

予後を正しく判断できる知識も経験もなかった。

結局

我々は⌘さんに抗生物質を預けて

治療を中止した。

それから5日後

⌘さんの奥さんから連絡が入った。

親驢馬の症状は改善せず

ずっと苦しんでいるようであり

このままではかわいそうなので

楽にさせてやりたい

すなわち

安楽死させてほしい

という連絡だった。

IMG_4129私は⌘牧場へ向かった。

親驢馬は

以前よりも苦しそうな息をしていた。

奥さんが見ていないところで

注射を打ち

親驢馬を旅立たせた。

合掌


(この記事もう少しつづく)


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ロバ(驢馬)の難産(1)

「・・・飼っているロバが立てなくなった。」

という電話が⌘牧場から掛かってきたのは、

先日の昼過ぎだった。

午後からの公共牧場の繁殖健診の前に、

IMG_4030⌘牧場のロバを診に行った。

ロバは写真のようにうずくまり、

なんとも苦しい表情をしていた。

「・・・昨日は普通に立って歩いたんですけど、さっき来たらこんなで・・・」

お腹が大きく膨らんでいる。

急性腹症かとも思ったが

直検をしようとしたら

胎児の肢が産道にあるのを発見した。

「お産の予定日はいつ?」

「・・・それはわからないです・・・」 

⌘牧場のロバたちは

雌雄同じ場所に飼われていて

いつ交配したのかは全くわからない状態であった。 

「普段は勝手に生まれているのね。」 

「・・・はい、そうなんです・・・」

「これはお産で、出なくて苦しいんだよ。」

「・・・そうだったんですか・・・」 

膣内を探ってみると

産道の奥に胎児の頭部も確認出来た。

IMG_4033しかし

前肢も頭部も潤いがなく

既に死亡しているようだった。

「とにかく、このお腹の子を引っ張って出すしかない。」

「・・・はい・・・」 

「粘滑剤作るからバケツにぬるま湯と、胎児を引くロープ持ってきて。」 

「・・・わかりました・・・」 

ロバの難産介助というのは

初めての経験だった。

ただし、これに似た仕事として

ポニーの難産介助はよくやるから

それに準ずればよかった。

しかし

ロバの胎児の頭部は大きかった。

ロバ(驢馬)の体型というのは

ポニーよりも四肢が細く

耳が大きく頭が大きく

四肢の割には胴体が太い。

いま難産している驢馬の胎児も

頭部がようやく出たものの

それから先が

なかなか出てこなかった。

粘滑剤をたっぷり入れて

滑車ロープで牽引するのだが

IMG_4036頭が出てからも

なかなかそれ以上進まず

親驢馬もろ共にロープで引きずられてしまう。

仕方がないので

親驢馬の頭側をもう一本のロープで固定して

胎児の前肢に付けたロープを牽引した。

滑車の強い牽引力をもってしても

IMG_40373人がかりの

キツイ難産だったが

ようやく親驢馬と胎児は

引き裂かれるようにして

なんとか娩出することができた。

産後の親驢馬はもちろん立つことはできず 

呆然と首を投げ出し

空虚になったお腹を晒していた。

IMG_4038既に死亡していた胎児は

毛が抜けて皮が露出している部分もあった。

私は親驢馬に点滴をセットして

明日また治療に来ること告げて

次の往診へ向った。


(この記事つづく) 



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研修医制度

先日、

帯広畜産大学の、

研修医の先生たちと一緒に、

IMG_3845往診に回る機会があった。

大学を卒業して、

その後数年、

色々なところで働いていた獣医師の中で、

再び学問の道をメインに、

IMG_3847進もうとされている、

若き精鋭である。

大学病院における二次診療ばかりではなく

我々のような現場の末端の獣医師の

一次診療の経験を

IMG_3849少しでも積み上げたいという事のようだ。

今回は特に

産業動物の獣医療の中でも

今やなかなか経験することの少なくなった

重種馬の診療を

IMG_3850一緒に経験したいという事だった。

この日はたまたま

午前中に1件(蹄葉炎)

午後から2件(発情鑑定と蹄病)

重種馬の診療が有ったので

IMG_3853研修医の先生たちは

私の診療車の後に付いて回ることになった。

研修医の先生たちは

さすがに社会人の経験もある方ばかりなので

IMG_3854往診もスムーズだった。

右も左もわからない大学生の実習生を

手取り足取りしながら連れて歩くのも

それなりに面白いけれども

現場の事情をある程度わかっている

IMG_3856研修医の若い先生たちとの仕事は

受ける質問の内容なども鋭くて

とても充実した中身の濃い

仕事ができたように思う。

私としては

IMG_3857特別な事は何もするわけもなく

ただ普段どおりの事をしただけなのだが

それが

研修医の先生たちには

初めてのことが多かった。

IMG_3860これはつまり

いかに重種馬の診療の機会が減ってしまったのか

ということであり

ちょっと寂しい思いもしたが

それはまた有意義な機会を提供できた

IMG_3862という事でもあり

私は複雑な思いだった。

この日の最後の往診先に

たまたまタイミングよく

重種馬の削蹄師のN坂さんがいた。

IMG_3863一連の写真は

全道を股にかけて

重種馬の削蹄している

N坂削蹄師の

削蹄と蹄病治療の技である。

IMG_3866これを

研修医の先生たちに

体験してもらったのは

この日の

予定外の

収穫だったと思う。



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重種馬の下顎骨切歯部の骨折(2)

「今日治療している時に写真を撮ればよかったです、あれほど酷かったとは思えないくらい落ち着いています。」

さらに、

「草はがっつり詰まっていましたが・・・。感染や過形成に注意します。」

この馬が帰って行った数日後、

競馬場のF獣医師からそんな連絡が入った。

さらに数日後、

「調子よく食べているようです。」

再びF獣医師から連絡が入り、

32243674_1973453589635316_540315991167467520_n撮った写真を送ってくれた。

左の写真がそれで

詰まった食べ物を洗い流した後の

傷口がまだ生々しい。

「こんなことがあっても懲りずに鎖を噛んでいる、と厩務員氏がぼやいていました。」

ということだった。

それからさらに

1週間後

「ここ1週間来院していないので、経過を見せに近々来てもらうようにお願いしてみます。」

という連絡が入り

それから、しばらくは

音沙汰がなかった。

便りのないのは良い便り・・・

と思って

約1ヶ月経過した頃

F獣医師から久々に連絡が来た。

「臭いもなく、過形成もなく順調です。レースにも勝ってます。相変わらず綱を噛む癖はあり、懲りてませんが(笑)、厩務員氏はよろこんでます。ありがとうございました。」

というメッセージとともに

IMG_3680数枚の写真が送られて来た。

経過はとても順調のようだ。

今回私は

たまたま初診を担当したが

IMG_3682創部の摘出以外は特に何もしていない。

それよりも

怪我の後の

F獣医師の続けた丁寧な治療によって

IMG_3683順調に回復することができたと思われる。

したがって

お礼を言いたいのは

こちらの方である。

どうもありがとうございました!


(この記事おわり)



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重種馬の下顎骨切歯部の骨折(1)

「下顎の歯が折れて、骨も折れたみたい・・・」

という稟告の、▽さんの若馬。

競馬場から下げてきたという現役競走馬だった。

枠馬に入れて、

鎮静剤を打って、

IMG_3526下唇をめくってみると、

下顎の右側の3本の切歯が、

根こそぎ外側へ変位していた。

「・・・これは、どうして」

「頭絡を左右の鎖で繋いでたら、その鎖を口でイジっていて・・・」

「・・・鎖ですか」

「何かに驚いて暴れた時に、鎖が口に引っかかったみたいで・・・」

IMG_3529「・・・歯が根こそぎエグれてますね」

「もうビックリしちゃって・・・」

「・・・グラグラしてますね」

「直らないですか・・・」

「・・・顎は動かすところだから、取ってしまうしかないでしょう」

「大丈夫ですか・・・」

「・・・鎮静剤が効いているうちに取っちゃいましょう」

「そうですか・・・」

IMG_3530私は

有り合わせの道具で

グラついている3本の切歯の根元を削ぎ落とし

最後はメスを使って結合組織を切断し

変位している部分を摘出した。

「あ、取れた・・・」

「・・・大きな骨には異常がないから、噛めるでしょう?」

「それは大丈夫みたいです・・・」

「・・・歯が抜けた穴からばい菌が入るから、抗生物質を続けてください」

IMG_3533「わかりました・・・」

「・・・抜歯したようなもんですから、大丈夫ですよ」

「そうですか・・・」

「・・・あとは競馬場の先生にお任せしましょう」

抗生物質の注射をして

競馬場へ戻して

今後はそこの診療所の先生に

経過を診てもらうようにした。

治療を終えて

事務所に戻った。

IMG_3536事務所には馬の下顎の骨格標本があったので

摘出した部分の切歯部をよく洗い

それを並べて置いて

標本と比べてみた。

切歯3本ばかりではなく

下顎骨の先端もかなり削げ落ちていた。

IMG_3537「抜歯したようなもんですよ・・・」

などと軽く言ってしまったが

こうやって見ると

摘出した部分は意外に大きくて深く

今後のことが

ちよっと心配になってきた・・・


(この記事続く)



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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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