北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

馬の診療

野幌出張(1)

全国農業共済会が主催する、

家畜診療技術発表会の北海道地区予選会が、

野幌(のっぽろ)の北海道NOSAI研修所で、

毎年開かれている。

今回私は、その発表会に演題を持って行く事になった。

とはいっても

実は、最初からこの会に発表する予定だったのではなく

9月に旭川で行われた北海道獣医師会三学会の方へ出す予定だった

「腹腔洗浄によって回復したミニチュアホースの腹膜炎の1症例」

という発表が、十勝を襲った台風10号の被害で没になり

十勝NOSAI家畜部の計らいで

急遽こちらの発表会に参加させてもらう事になった。

職場命令の出張は、JRを使って移動することが原則になっている。

しかし、十勝地方の鉄道(JR)はまだ台風10号によって寸断されたままであり

IMG_0398札幌方面へ行くためには

未だに代行バスとJRを乗り継いで

4時間近くかけて行かなければならない。

しかも、JRの臨時特急は1日3往復しか運行していない。

そのおかげで今回の出張は

普段であれば1泊2日であるところを

2泊3日のプランに延長された。

これが、返って私にはとても有り難く

余裕の出張旅行を堪能できる事になった。

IMG_0403帯広からの代行バスは空席でガラガラだった。

そのバスでトマム駅まで行き

トマム駅からは臨時特急列車に乗り換えて札幌へ向かうのだが

その臨時特急列車もまたガラガラに空いていた。

道東から札幌方面へ行く人たちの交通手段は

現在、わざわざ高くて時間のかかるJRを使う人は

非常に少なくなっているようだった。

札幌駅に中途半端な時間に到着した私は

NOSAI研修所の研修課総括のM木先生にメールを打った。

「ご無沙汰してます!これからそちらへ伺います。」

しばらくすると返事が返ってきた。

「今日来るのは何時頃?、予定なかったら一杯やりますか。」

私の返信はもちろん、了解♪

M木先生はNOSAIの1年先輩で

十勝NOSAI時代からの長い付き合いの朋友である。

M木先生の勤務終了時刻を待ち

研修所の近くの居酒屋へ。

M木先生と飲むのは数年ぶり♪

ビールジョッキを傾けながら

ゆっくりと、色々な話をすることができた。 

IMG_0407はじめは、明日の発表会に備えて

軽〜く、飲むつもりだったのだが

話が弾んでくるに連れて

焼酎のお湯割りの注文が止まらなくなり

気が付いた時には

午後10時をとっくに回っていた(笑)

翌日

IMG_0408発表会は午後からだったので

少々飲み過ぎた頭をリフレッシュさせるべく

買い物がてら

研修所の周りを散歩することにした。

IMG_0414野幌市街の四番通り付近は

ナナカマドの並木が真っ赤に色づいていた。

消防大学校の側を通って

三番通り付近へ出ると

IMG_0415今度は銀杏並木の

明るい黄色一色の世界になった。

じつに広々とした

静かな街の佇まいだった。

私はそんな街をのんびりと徘徊しながら

午後からの発表会で

しゃべる内容などを反芻していた。


(この記事続く)


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十勝馬まつり

「十勝軽種馬農協」という組織がある。

文字通り、

十勝地方の軽種馬の生産者で構成する農協である。

ここで言う軽種馬とは 、

サラブレッドのことである。

すなわちこの農協は、

十勝地方のサラブレッドの生産者で構成する農協である。

その組合員の戸数は、

わずかに10数戸。

繁殖牝馬の数は、

わずかに数10頭の、

小さな生産者団体である。 

十勝地方の馬の生産と言えば

ペルシュロンやブルトンやベルジャン、といった重種馬が主体で

サラブレッドの生産は影が薄いけれど

JRAから補助を受けながら

頑張ってサラブレッドを生産し続けているのである。 

そんな十勝軽種馬農協の事務所と

IMG_0313種牡馬の繋留所(種場所)が

我が町にある。

ここの馬たちは、NOSAIには非加入であるけれども

我々獣医師は年に何回か

ここで繋留されているサラブレッドの種牡馬や

そこへ種付けにやってくる繁殖牝馬の

診療をする機会がある。

IMG_0314先日は

ここの種牡馬の最長老が老衰で亡くなった。

種牡馬といっても昭和63年生まれの爺様

28歳という高齢で

悠々と余生を過ごしていた。

その名は「リンドシェーバー」。

競馬ファンの人であれば

きっとご存知に違いない。

朝日杯3歳ステークスで

あの名馬マルゼンスキーの樹立した記録を塗り替えてレコード勝ちした馬である。

IMG_0306それから25年。

華やかな現役時代とはうって変わって

静かな最晩年を十勝で過ごし

先日、静かに息を引き取った。

IMG_0312私はその翌日

この馬の死亡診断書を届けに

十勝軽種馬農協の事務所へ行った。

とても良い天気だった。

IMG_0310そして、その日は折しも

十勝軽種馬農協が毎年主催する

十勝馬まつりが行われている日だった。

家族連れの一般客が多く訪れ

IMG_0309ポニー馬車や

乗馬体験などがあり

地元の生産関係者と

競馬ファンと

子供達で賑わっていた。

とても和やかな

秋晴れの一日だった。


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ポニーの蕁麻疹

「皮膚にブツブツが出来てるんだけど・・・」

そんな稟告で往診した★さんのポニー。

「元気や食欲はあるんだけど・・・」

枠馬に入っていた馬は、

確かに皮膚にブツブツができていた。

蕁麻疹のようだった。

IMG_5830「これは蕁麻疹みたいですね。」

「というのは・・・?」 

「アレルギー。」

「・・・?」

「過敏症。」

「・・・?」

「ほら、人でもあるでしょ。」

「・・・。」

IMG_5831「痒くなったり、ブツブツできたり。」

「・・・うん。」

「何か刺激されて、それに必要以上に反応しちゃうやつ。」

「あー・・・。」

「何の刺激だかわからないけど。」

「変なもの食べたのかい・・・?」

「そういう可能性、ありますね。」

「何食べたんだか・・・?」

「食べた物だけじゃないかもしれない。」

IMG_5832「・・・?」

「虫に刺されたとか。」

「そんなことあるの・・・?」

「あるかもしれない。」

「・・・?」

「刺されたところを見たことはないけれど。」

「蜂とか・・・?」

「わからないけど、こういう蕁麻疹は夏から秋に多い。」

「あー・・・。」

「だいたい草や虫が元気のいい時に多い。」

IMG_5833「そうなんだ・・・。」

「痒がってないですか。」

「いやー、どうだべ・・・。」

「痒くて、あちこちに擦り付けて皮剥けちゃうのもいる。」

「それは・・・。」

「すりっぽ、ってきいたことあるでしょ。」

「あー・・・あるね。」

「それもアレルギーなんだけど、痒がってないですか。」

「いやー、あまり痒くはないみたいだけど・・・。」

「とりあえず、注射打っておきますね。」

「うん・・・お願いします。」

蕁麻疹のような過敏症の

原因を特定するのはなかなか難しいが

症状は間違いなく蕁麻疹のようなので

とりあえず

抗ヒスタミン剤を打って様子を見ることにした。

翌日

そのポニーの皮膚には

若干の模様が残っていたものの

その皮膚の変化はかなり軽減していた。

そのようなわけで、翌日は

そのまま何もせず様子を見ることにした。


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誇るべき、日本の牛、日本の馬。

音更町の家畜共進会場で、

IMG_5849第47回十勝総合畜産共進会、

肉用牛の部、種馬の部、

が開催された。

私はこの日たまたま休日をもらっていたので、

前夜の激励会と、

当日の審査会を、

ゆっくりと拝見させてもらった。

ここで出品される肉用牛は全て、

黒毛和種である。

褐毛和種(いわゆる赤牛)の部も設けられているが、

やはり、日本全国的に

黒毛の需要が圧倒的に多いようだ。

その黒毛和種の

肉用牛としての改良レベルを

十勝全体で高め

上位に選ばれた牛たちは

さらに全道(全北海道)大会、全国大会へと

コマを進めることになる。

黒毛和種の生産は、世界の中でも

言うまでもく日本が最も盛んである。

IMG_5847他国の追随を許さぬ

世界のトップレベルの

誇るべき「日本の牛」の畜産と言うことができる。

ここが、実に

酪農業界のホルスタインの生産とは違うところ

であると思う。

同様に

馬の部に出品される馬たちは

全て、農用馬と呼ばれる重種馬である。

重種馬の生産目的は

もちろん、ばんえい競馬である。

ばんえい競走用の馬の生産の

改良レベルを

十勝全体で高めるのが

馬の部の共進会の目的である。

今や、日本の重種馬は世界のどこ馬よりも

大きく、太く、逞しくなっている。

それは世界でただ一つの

ばんえい競馬が存在しているからである。

それに供用される馬たちの改良は

言うまでもく日本が最も盛んである。

IMG_5848他国の追随を許さぬ

世界のトップレベルの

誇るべき「日本の馬」の畜産と言うことができる。

ここが、実に

軽種馬業界のサラブレッドの生産とは違うところ

であると思う。


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重種馬の生産意欲の高まり

我が町の馬の繁殖シーズンも、

そろそろ大詰めを迎えている。

我が町の馬の・・・と言うよりも、

我が町を含めた道内の他町村の繁殖牝馬の・・・繁殖シーズン

と言ったほうがいいかもしれない。 

IMG_5804それだけ

我が町の重種の繁殖牝馬は

頭数が減ってしまっているのだ。

しかし

地元の牝馬の数は減っているものの

今年から供用されている

我が町の種牡馬の人気が

なかなかのものだったので

他所の町から種付けにやってくる牝馬が多く

その馬たちの発情鑑定や

IMG_5803不妊治療や

妊娠鑑定などの頭数が 

今年は、久しぶりに多かったように思う。

これはとてもありがたいことだった。

10数年前から

我が町の重種馬の飼養頭数は

恐ろしい勢いで減り続けていて

その歯止めが全くかからず

消滅寸前の様相を呈していた。

IMG_5805それにつれて

私が手がける馬の繁殖の仕事も

当然のように減り続けて

自分の仕事が激減したという虚しさだけに止まらず

重種馬の繁殖の獣医療自体が途絶えてしまうのではないかという不安が

年々増している状況だった。

ところが今年は久しぶりに

そんな不安を払拭できる要素が現れたのだ。

その最も大きな出来事は

やはり

昨年来の重種馬の高値

ということになるのだろう。

重種馬の高値がしばらく続けば

あちこちで生産意欲を高める人が

必ず現れるものである。

生産意欲が高まってくれば

その要求に従って

我々の仕事、すなわち

重種馬の繁殖の獣医療に対する期待も高まってくる。

今年の繁殖シーズンを振り返ると

そんな生産意欲の高まりと

我々の馬の繁殖獣医療に対する期待の高まりが

ほんの僅かであるけれども

感じられるようになった。

そんな期待に応えるために

我々は重種馬の繁殖診療の技術を

しっかりと継承してゆかねばならないと

あらためて思った。

今年はそんな繁殖シーズンだった。

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最後の1頭、誕生♪

昨夜の深夜1時半頃、

枕元の携帯電話が鳴った。 

「・・・袋が見えてきたから、大至急頼む。」 

分娩遅延の馬のいるΑさんからの往診の依頼だった。

急いで馬小屋まで車を飛ばして、

到着した時には、

IMG_5650写真のように、 

すでに生まれていた。

仔馬の後肢2本はまだ胎胞に覆われて、

臍帯(へその緒)はまだ微かに脈を打っていた。 

生まれたばかりの仔馬と

産んだばかりの親馬は

共に寝そべり

鼻で呼吸をしていた。

その傍らに

飼い主のΑさんがしゃがんでいた。

「無事に出てよかったね。」 

「・・・。」 

「オス、メス、どっち?」

「・・・まだわからん。」 

「おっきな子だね。」

「・・・そうでもないんでないか。」 

「いやぁ結構でかいよ。」 

 「・・・ずいぶん遅れたからな。」

IMG_5663「何日遅れたの。」 

「・・・24日。」 

「予定日は?」 

「・・・24日。」 

「5月24日・・・が予定っていうことは・・・」 

「・・・だから24日だって。」 

「そっか(笑)じゃあ発情1周期まるまる遅れたっていうことだ。」

「・・・そうだ。」 

仔馬が頭を上げ始め

親馬が仔馬のことを気にし始めた。

「いま頃のお産は、寒くなくていいね。」 

「・・・。」

「メスみたいだね。」 

「・・・そうか、ま生きとったら、どっちでもいいわ。」 

「やっぱりでかいよ。」 

「・・・メスにしては肢が太いかもな。」 

「種馬はどこの?」

「・・・Mさん。」 

「いい子できたね。」 

「・・・ま、こんなもんでないか。」 

「こいつだけどうしてこんなに遅れたのかね。」 

「・・・この親は、おととしも遅れて、その時は死産だったからな。」 

「それで心配で、アリナミン何度も打ってたんだ。」 

「・・・そうだ。それが効いたんでないか。」 

「それはどうかわかんないけどね。結果オーライだね。」

「・・・この親、自分ばかり肉つきやがって。」

「そういう親、いるよね。お腹の仔がなかなか育たないのかね。」 

「・・・だから遅れんのか。」

「栄養分の行き先のちがいで、遅れたり早くなったりなのかもね。」

「・・・。」 

親馬が仔馬を舐め始めた。

「・・・一服するべ。」

私たちは

Αさんの家に上がり

居間の監視モニター画面の前に座り

この親仔を引き続き見守りながら

お茶で一服することにした。 

1時間ほど経ったところで

再び馬小屋へ行ってみると

IMG_5667親は立ち上がり

引き続き仔馬を舐めていた。

胎盤(後産)がまだぶら下がっていたので

オキシトシンの注射を打ち

そのまま帰路に着いた。

翌朝

往診の1番最初にΑさん宅に寄ってみた。

昨日の親子は

特に問題なく

普通の親仔馬の姿で

馬小屋の中に立っていた。

「後産は出たの?」 

「・・・今朝、おまえが帰ってからすぐ出た。」

「仔馬のうんち出た?」

「・・・でた。浣腸もした。」

「じやあもう大丈夫だね。」

「・・・なかなか乳首に吸い付かんのよな。」

「これだけ元気に乳探ってれば、大丈夫だよ。」

IMG_5668仔馬は親の乳を探り

親馬は仔馬の鼻先へ白い乳を漏らしていた 。

仔馬が乳首に吸いつくのは

もう時間の問題だった。

私はひと安心して

次の往診地へと向かった。 

かくして

わが町の重種馬の

今年最後のお産も 

ようやく無事に終わったのだった。 


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馬の分娩遅延

我が町内で飼養されている重種の繁殖牝馬の、

IMG_5514今年のお産も、

とうとう残す所あと1頭 となった。

かつては毎年100頭近く生まれていた仔馬も、

今では20頭を割ってしまった。

さみしい限りの状況だが、

せめてその仔馬たちの全てが、

無事に生まれてほしい。

今年は今のところ、全頭無事に生まれている。

しかし、気がかりなのは

この最後の1頭の

分娩予定日は5月の24日だということだ。

今日は6月11日だから

もう予定日から18日も遅れていることになる。

馬の分娩が、予定日から大きくずれるのはよくある事で

私も過去にそれに関する記事を書いたことがある。

しかし、よくある事と言いながら

その理由は未だによくわかっていない。

よくわかっていないから

予想ができなくて苦労をする。

苦労をしながら、みんないろいろ考える。

そして

馬の分娩遅延の理由には色々な俗説が生まれる。

例えば

(1)交配時の排卵遅延説・・・

最終交配日から排卵が大きくずれて、そのまま分娩も遅れるという説だ。

しかし、排卵は遅れてもせいぜい1週間が限度だろうし

分娩の遅延は説明できても、分娩が予定より早まる事は説明できない。

(2)個体差説・・・

妊娠期間が先天的に長い個体がいるという説。

これは、調べればそういう傾向を持つ個体が見つかるかもしれない。

逆に妊娠期間の短い個体も見つかるかもしれない。

しかし、本気で調べたデーターにはお目にかかっていない。

(3)栄養説・・・

妊娠中に摂取した栄養(エネルギー)が少ないと、分娩が遅れるという説。

母馬の栄養ばかりではなく、胎児の成長にも影響している事は推測できる。

この説はまるで、桜の開花予想に積算気温が関係しているという説に似ている。

高栄養の馬群は分娩が予定より早く

低栄養の馬群は分娩が予定より遅れる

あるいは

なんらかの理由で長期間採食量が落ちている個体は

分娩が予定より遅れる傾向がある

というのは、私の過去の経験を振り返っても

その傾向は、無くは無い・・・ような気もするのである。

しかし、これも本気で調べたデーターにはお目にかかってはいない。

他にも、どんな俗説があるのか

興味深い所ではある。

ともあれ、今はわが町の

残りあと1頭となった重種牝馬のお産が

無事に終わってくれる事を

祈るのみである。


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ミニチュアホースの腹膜炎(3)

1枚目の写真は腹腔洗浄した翌日。

それから3日間、この馬は餌を全く食べなかった。

IMG_5299排便はほとんどなく、

下腹部の術創周辺には、

盤状の冷性の浮腫(むくみ)があらわれ、

縫い終わった創部からは、

僅かだがポタポタと漿液(腹水か)が漏れ出ていた。

ドレーンを装着していれば

そこからスムーズに廃液されたと思われた。

体温は37℃台に下がり、心拍数は遅めの50台

血液検査で目立ったのは、血清たんばく質の低下だった。

リンゲル液とアミノ酸製剤の輸液と

抗生物質を投与し続けた。

2枚目の写真は腹腔洗浄をしてから5日目。

IMG_2076食欲が現れた。

便の量は僅かに増えたが、

硬い便と泥状の軟便を繰り返し排泄した。

下腹部の浮腫は少しづつ縮小し

漿液の漏出も止まっていた。

体温は37 ℃台で、心拍数も5〜60台だった。

血清タンパク質は上昇傾向に転じた。

さらにリンゲル液とアミノ酸製剤と

抗生物質の投与をし続けた。

3枚目の写真は腹腔洗浄してから10日目。

IMG_2075食欲は上昇し、活気が出てきた。

便の量も増え、形状も安定した。

外に出たがる仕草をするようになったので

日中は放牧することにした。

体温は38℃台、心拍数は7〜80台になった。

血清たんばく質も6mg/dl台に回復。

治療を中止して

様子を見ることにした。

IMG_54384、5枚目の写真は

それから1ヶ月以上経った時のもの。

他の馬たちとは、別の牧区に入れられていたが

元気、食欲、排便、歩様

全て問題はなかった。

普通の健康なミニチュアホースと同様に

IMG_5440牧場の中を元気に走り回っていた。

やっとの事で捕まえて

下腹部の術創を見たが

創部の状態も良好だった。

(今回の症例は、今年9月の上旬、旭川で開催される北海道獣医師会の学術三学会で演題発表をする予定です。興味のある方は、どうぞ聴きに来てください。)

(この記事おわり)


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ミニチュアホースの腹膜炎(2)

災いは忘れた頃にやってくる・・・

という言葉もあるように、

私はこのミニチュアホースのことをほとんど忘れかけていた。

図3そんな私の眼の前に、

救いようのなさそうな腹部の膨隆している、

苦しそうなその馬と再会してしまったのだ。

これはもはや、ダメではないのか・・・

図4そんな第一印象だった。

だが、飼主の△さんは、なんとか命だけでも助からないかという。

ダメもとで、外科的な処置をするほかはない・・・

そんな思いで、診療所に戻り

午後からの開腹手術の準備をした。

ドミトール+ケタラールで倒馬し

GGEとのトリプルドリップ法で麻酔を維持する。

推定の体重がわずか50圓覆里如普段使う量の10分の1だ。

IMG_2997仰臥保定して、バリカンで毛を刈り

パンパンに膨らんでいる腹部に超音波を当ててみた。

どこを当てても、エコーフリーな黒い画面がほとんどで

どこがどうなっているのかは全く把握できなかった。

「切ってみますね。」

私は立ち会っていた△さんにそう言って

正中部を約5僂曚廟擲した。

IMG_5240その途端・・・

黄色く混濁した腹水が飛び出てきた。

まるで、液体を入れた風船に穴を開けたような勢いで

創口から噴水のようにアーチを描きながら飛び出てきた。

IMG_2002「すごい量だ・・・」

手術に参加した人たちの視線が、腹水のシャワーに釘付けになった。

「やっぱり腹膜炎だ・・・」 

黄色い腹水に混ざって

卵とじのようなフィブリン様の絮片も

時折創口から飛出してきた。

腹水がほとんど出終わったところで 

助手をしているS獣医師が

創口から手を入れて、腹腔内を探索した。

すると、骨盤腔の付近に20僉15冂度の塊に触れ

その周りにフィブリン様の物質が付着していたので

それを手で剥がした。

それは、腹腔内膿瘍の自壊であることが想像できた。

(実は、一昨日の十勝獣医師会の学術研究発表会の時、「腹腔内の所見はどうだったのか」、というご質問をいただいた。その時私は、自分では腹腔内に手を入れていなかったので、はっきりした探索所見を答えることができなかった。そこで昨日助手をしたS獣医師に、腹腔内を探索した所見を聞いたところ、上記のような腹腔内の様子を語ってくれたので、ここにあらためて、質問の答えを書かせていただきました。) 

この後はもう

腹腔内を大量の洗浄液で洗うしかない・・・

「タンク、使いましょうか。」

そこで、機転を利かせたのはもう1人の助手のO獣医師だった。

重種馬の子宮洗浄に使う20リットル入りのタンクに生理食塩水を作り

IMG_5245その中に抗生物質を入れて、腹腔洗浄液とし

その液をシリコンチューブで創口へ導き

洗浄液が溢れ出てくるまで注入した。

注入したところで、腹腔内に手を入れて、液を隅々まで行きわたらせ

その後、馬を手術台ごと傾けて、洗浄液をほぼ全量排出させ

その操作を2回繰り返したところ、排液は透明感を帯びてきた。

排液が全て終わった後、生理食塩水のボトルに抗生物質を入れたものを

IMG_5249腹腔内へ注入し、閉腹した。

術後、馬は直ぐに立ち上がり

車に乗って、帰宅した。

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ミニチュアホースの腹膜炎(1)

1枚目の写真は、今から約2年前の、

図2平成26年4月に診療した△さんのミニチュアホース。

「後産が残っている」という禀告で、

手を入れてみたら、まだ胎児が居た。

側頭位の難産だった。

プラ二パートの投与と粘滑剤の注入によって、

失位した頭部を整復して、

なんとか娩出させることが出来た。

胎児は死亡していたが

その後、数日の治療で

親馬は元気を取り戻した。

このときの様子は

2014.4.20.の私のブログ記事に書いたとおりである。

2枚目の写真は

図1
それから半年たった平成26年9月、

△さんから、この馬の子宮洗浄の依頼が来たときのもの。

「発情が来たので交配したが、その後、血の混ざった粘液が出ておかしい。」という禀告。

子宮洗浄をしようとして、膣の中へ手を入れたら

子宮頚管外口部が穿孔しているのを発見。

子宮洗浄を中止した。

私は暗澹たる気持ちになった。

△さんには、

この馬はもう助からないかもしれない

と告げて、抗生物質の投与を

数日間続けた。

そうしたところ

この馬はなんと

その3日後には餌を食べ始め

元気に走り回るようになった。

このときの様子も

2014.10.17.の記事に書いた通りである


それから

1年と6ヶ月の歳月が流れた。

そしてこのミニチュアホースが

図3突然、体調を崩したのは

今年の平成28年4月だった。

△さんの禀告は

「お腹がパンパンに膨らんで、異常な大きさになっている。」というものだった。

図4熱発して呆然佇立。

腹腔を穿刺してみたところ

化膿性の腹水が吸引されてきた。

このミニチュアホースの2年前からの病歴を考えれば

腹膜炎であろう事は、容易に想像できた。

「これはもう、このままにしていたら死んじゃいますよ。」

「なんとか命だけでも助からんかい?」

「うーん、こうなったらもうお腹を切って、中の悪いものを出すしかないか。」

「手術かい?」

「はい、もうそれしか方法はない・・・、ダメもとでやってみましょうか。」

「お願いします。」

かくして私たち診療所のスタッフは

この日の午後

この馬の開腹手術をすることになった。

(その結末は・・・明日・・・十勝NOSAI本所で開催される「十勝獣医師会・学術研究発表会」でも発表します。)

(この記事続く)


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新種牡馬がやってきた!

今年の春から、わが診療地区のM畜産で、

新しく供用されている重種馬の種牡馬(しゅぼば)、

すなわち種馬(たねうま)の評判が上々で、

種付けの依頼が続々と集まっている。

IMG_5205その名は「インフィニティー」。

ばんえい競馬ファンの人であれば、

この馬が

一昨年のばんえい記念の1着馬で

去年のばんえい記念の3着馬で

今年のばんえい記念の4着馬という

輝かしい実績をもって引退してきた馬であることは

ご存知だと思う。

ばんえい競馬の最高峰のレースに3年連続で出場して

この好成績は伊達ではない。

先日我が町に到着して

私がその個体確認にM畜産へ行った時にも

巡回種付けの準備で、外に繋がれていた。

インフィニティの父方の祖父は

我が町で生まれた名種牡馬センショウリ(その父はジャンデュマレイ)

母方の祖父は

これも名馬ヒカルテンリュウ(その父はマツノコトブキ)

という十勝の名血統で、申し分がない。

IMG_5179数日後にまた、馬房へ行くと

インフィニティーは、飼槽の窓から顔を出して

私の手や顔に食いつかんとばかりに

顔を伸ばして、戯れるようなしぐさをした。

その精悍な顔つきが

ちょっとお茶目な悪戯小僧に見えた。

IMG_5174「インフィニティー」という言葉は

日本語で「無限大(∞)」という意味がある。

良い馬には、自然と

良い名前が付いているものである。

極度の生産不足に陥っている、今の重種馬の生産地で

数少ない繁殖牝馬をことごとく受胎させて

IMG_5215生産力回復のための

期待の星として活躍して欲しい。

種馬としての

まさに、「無限の」可能性を秘めた

新種牡馬が

我が町にやってきたのだ。


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重種繁殖牝馬の高騰

我が診療地区でもようやく、

仔馬の姿を見ることが出来る季節になった。

馬はご存知の通り、季節繁殖動物である。

馬の居る地域で仕事をしていれば、

IMG_5154生まれたばかりの仔馬を見ると

あぁ、やっと春が来たんだな、と思う。

昔は、ほとんどの日本人が

生活の中で、仔馬を見て

そこで皆、同じような季節感を抱いていたに違いない。

仔馬から感じる季節感が

そういう人たちの手で、色々な文芸に表現されることで

仔馬というものが、春の季題として

自然に選ばれて、定着して

歳時記に掲載されるに至ったのだろう。

IMG_5157仔馬と同じように

昔から、日本人は

生まれたばかりの仔牛の姿も、見ていたであろうけれども

仔牛というのは、季題にはなっていない。

昔から、日本では

生まれたばかりの仔牛は

季節を問わずに1年中見られていたのだろうと推測できる。

さて

IMG_5158そんな仔馬であるが

今、その値段がうなぎのぼりに高騰しているという。

重種馬で、それは特に著しいらしい。

その理由は、以前のブログ記事「需給バランスの、崩壊。」を読んで頂きたい。

ここではさらに

新しい情報として

重種馬の仔馬をこれから産むという母親の繁殖牝馬の値段が

今、とんでもないらしい。

どんなに血統的に悪かろうと、無名であろうと

重種の繁殖牝馬は今、受胎さえしていれば

150万円以上なのだという。

去年や一昨年であれば

おそらく50〜60万円だった孕みの繁殖牝馬が

軒並み、3倍近い値段で売買されているらしい

というのだから、驚きである。

と、同時に

重種馬の生産現場においては

農政による流通の混乱予防の対策などは皆無であり

全くの野放し状態であることで

こんな状態になっているというのが

情けなく、残念で、呆れてしまうのである。

このような有様では

これからの若い重種馬の生産者は

生業が安定して続くなどとは、とても思えないだろう。

重種馬生産の後継者が育たないのは

そんな理由も有るのではないかと思う。


 骨太の仔馬ぞ母はペルシュロン    豆作



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需給バランスの、崩壊。

牛の価格が高騰しているが、

馬の価格もなぜか高騰している。

IMG_5101ここで言う馬とは、

サラブレッドではなく

ばんえい競馬用や肉用の重種馬のことである。

初妊牛の値段がひと頃の倍になっているのと同じように、

重種馬の値段もひと頃の倍になりそうな勢いである。

その理由は

十勝馬事振興会のS々木会長さんの言葉を借りれば

「需給バランスの、崩壊。」

だそうである。

IMG_5108「需要」とはすなわち

ばんえい競馬に走らせる馬、と

九州で肉料理にする馬、である。

ばんえい競馬の厩舎には年間4〜5百頭の重種馬が入厩するが

その数には大きな変化はない。

九州の肉業者には年間数千頭の重種馬が買われてゆくが

その数は増える傾向にあるという。

日本の馬肉産業は年間7〜8千頭の重種馬を消費しており

その半数以上はカナダなどからの輸入でまかなっていたが

円安で輸送コストがかかることと

カナダ国内の馬の数も生産者の減少で減っているということで

九州の肉業者は北海道の重種馬を

今まで以上に買いに来ているらしい。

IMG_5107一方

「供給」はどうかいうと

これが最も深刻で

生産者の数はここへ来てもますます減る一方である。

これは私が日々の馬の診療の中で

強く感じていることである。

往診先がどんどん減っている。

今年のわが町の重種馬のNOSAI保険の加入頭数も

またまた過去最低を更新してしまいそうな状況である。

既存の馬の飼主さんたちは馬を増やす体力がなく

廃業を余儀なくされる馬産家が後を絶たない。

一方で、馬産を新規で始める人もなかなか現われない。

供給不足は出口が見えない状況なのだ。

そんな理由で

「需給バランスの、崩壊。」

と言う現象が起こっているのである。

この先、重種馬産業のはどうなるのか

なかなか先は読めないが

需要は底堅いものがあるのだから

供給の崩壊を食い止めれば

復活してくるのかもしれない。

IMG_5102これをお読みの畜産農家の皆さん

牛もいいけれど

馬も、今

飼ってみたら面白いかもしれませんよ。


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同世代♪

北海道獣医師会雑誌の今月号。

IMG_5027「短報」のトップに、我が親愛なるドクターH氏の報告が載っていた。

「分娩による直腸裂創を縫合した繁殖雌馬の1症例」

という臨床現場からの症例報告だ。

相変わらず、事あるごとにこのような新しい学術知見と新技術を探求し

IMG_5025それを弛まずに論文にまとめておられる姿に敬意を表し、見習いたいと思った。

ドクターH氏は、ご存知の通りこの分野では我が国の権威であり、

八面六臂の活躍をされていることは、いまさら言うまでもない。

私が素晴らしいと思ったのは

IMG_5026ドクターH氏ばかりではなく

共同報告者として名を連ねているお二人(HH氏とUT氏)とも

私と同世代の50半ばの獣医師である事だ。

そんな同世代の仲間が、学術研究の分野において

臨床現場の第一線の知見を、弛まず報告し続けている

ということの意義は非常に大きいと思う。

我々同世代の獣医師たちの励みになることはもちろん

それ以外の世代の獣医師にも

それ以外の分野の獣医師にも

大いに刺激になることである。

御三方に改めて、敬意と賞賛の意を表したいと思う。

ちなみに

この号の、この記事から30ページ程めくっていただくと

IMG_5028こういう紙面が現われる。

毎度失礼つかまつりーの

小さな文芸欄(笑)

今回は、我が敬愛する文芸派獣医師

頑黒和尚の作品と

私豆作の作品との

両者並記の揃い踏みとなった。

獣医「学術」分野と共に

獣医「文芸」分野において

同世代の50半ばの獣医師が

このように弛まず(?!)作品を書いて載せ続けている

ということの意義は

大いにある(?!)

と、思いたいのだが・・・


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非加入馬の妊娠鑑定

午前中の往診が終わる頃、

*牧場の親方から電話がかかってきた。

「先生、馬の妊娠鑑定1頭してくれるかい。」 

「・・・いいよ。」 

「おれの馬じゃないんだけどさ。」 

「・・・。」 

「あれ、あそこの〓の沢で馬飼ってる調教師の▼さんとこに来てる馬で、保険入ってないんだよ。」

「・・・、NOSAIの保険入るつもりはないの?」

「いや、ないわ、きっと。」

「・・・じゃあそれなりの料金掛かっちゃうけれど、いいの?」 

「うん。そのことは▼さんにちゃんと言ってあるから。」 

「・・・了解。じゃあ、昼から行きます。」 

 〓の沢の馬厩舎は、かつてある土建屋の社長さんが馬の生産していたが

景気が悪くなって手を引き、立派な施設だけが残っている。

そこへ、ばんえい競馬の調教師の▼さんが馬を入れているのだった。

▼さんが引いてきたのは立派な青毛の牝馬だった。

IMG_4973「この馬の登録書とかありますか?」

「今は、手元にないんだけど、11才だ。」

「料金は、非加入の料金になりますけど・・・」

「あぁ、それはわかってるよ。」

非加入畜の診療料金と支払い方法を確認してから

私は、カッパを着て直検手袋を履いて

枠場に入れられたこの馬の肛門に手を入れ

妊娠鑑定をした。

「種付けしたのはいつですか?」

「5月に産む予定とかいってたかな。」

「じゃあ、6月の種付けですね、何ていう種馬かわかりますか?」

「いや、わからない。」

私は大方の見当をつけて、馬の腹腔を探った。

妊娠7ヶ月の馬だと、胎児に直接触れればラッキーだが

胎児に触れることができなければ

子宮の大きさと下がり具合

そして、卵巣を掴んで、その位置と遊走性等を診て

妊娠か非妊娠かを判断することになる。

これには何頭も妊娠鑑定をした経験がものをいうのである。

馬糞を掻き出しながら、大きくて深い腹腔を探っていると

想像していたより手前の方に、子宮を確認した。

さらにその子宮から辿って、左右の卵巣を掴んだ。

子宮も卵巣も、発情期に触診するものと

さほど変わらない位置と大きさだった。

「あーこれは、とまってませんね。妊娠マイナスです。」

「そうかい、わかった。どうもありがとう。」

老調教師の▼さんは、大きくうなづき

厩舎へと馬を引き連れて行った。

さて、ここで

十勝NOSAIの組合員以外の非加入の馬を

直腸検査のみで妊娠鑑定した場合

その料金がいくらになるかは

事故外カルテの料金表によって計算される。

今回の場合は

車両負担金(非加入ー大)      ・・・1,575円

妊娠鑑定・直検法・馬(非加入ー大) ・・・5,796円

となり、合計 7,371円 となる。

ちなみに

これがもし

十勝NOSAIの保険の加入馬であった場合は

車両負担金(加入事故外)      ・・・315円

妊娠鑑定・直検法・馬(加入事故外) ・・・1,050円

となり、合計 1,365円 となる。

加入馬と非加入馬で

まったく同じ診療行為をして

その差は、7,371 - 1,365  =  6,006円

となる。

私は個人的に

この差は大きすぎるのではないかと思っている。

こんなに差があるのならば

保険に入って安く診てもらおうと思う飼主さんもいるかもしれないが

それよりも、今、目の前の保険に入っていない馬が

妊娠しているかどうか知りたいのに

妊娠鑑定料金のあまりの高額に

その依頼をためらってしまう飼主さんも

多いのではないかと思うからだ。

馬の飼主さんが、妊娠鑑定の依頼をためらえば

我々獣医師の、馬の妊娠鑑定の仕事の機会が減る。

馬の妊娠鑑定間の機会が減れば

我々獣医師は、妊娠鑑定の経験を積むことが難しくなる。

経験を積むことが難しくなれば

若い獣医師の技術がなかなか向上せず

その結果、我々NOSAIの獣医師の技術は

馬の飼主さん達から信頼されなくなる。

信頼されなくなれば

ますます診療の機会が減る。

これは

馬の診療技術の継承に

悪影響を及ぼしているのではなかろうか。

そんな悪循環が

十勝地方の獣医師と馬の飼主さんの間で

ずっと続いてきたのではなかろうか。


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捻転去勢捧の馬への応用(2)

牛用の捻転去勢捧は、

サラブレッドの去勢にも充分使えることが、

hig先生のブログ記事によって明らかになったのは、

大変嬉しい事である。

サラブレッドの去勢に使えるものであれば、

十勝地方の重種馬やその他の種類の馬にも、

充分使えるであろう事は、容易に想像できる。

実は、去年

そのチャンスが巡って来たのだった。

それは、1才のドサンコだった。

しかし、安価なドサンコの場合

高価ななサラブレッドのように

完璧に麻酔を掛けて眠らせて

衛生的な施設で仰臥位にして

安全で理想的な去勢を実施することが

経済的に難しいという現実がある。

飼主さんと色々話し合った結果

実験的な試みも加えて

去勢をさせて頂けることになった。

その実験的な試みとは・・・そう

ニコイチ捻転法である。

hig先生がサラブレッドで採用した捻転法は

いわゆるヘンダーソン式といわれる

精巣を1個ずつ2回に分けて捻リ取る方法だが

実は、以前からずっと

私がやってみたかった方法は

精巣2個を同時に捻り取る

ニコイチ捻転法だった。

馬の精索を2本まとめて捧のフックに掛けて

手でゆっくりと回し

2個の精巣をいっぺんに捻り取るニコイチ捻転は

おそらく馬では

まだ誰もやっていない方法のはずだ。

枠場に入れたドサンコに

鎮静剤を投与し

さらに鼻捻と肢・肩・腹に保定ロープを取り付け

股間を洗浄消毒して、

陰嚢の正中線を1箇所

縦に切開し

皮下の結合組織を鈍性に剥がしながら

総しょう膜に覆われたままの精巣を

IMG_40532つ同時に露出させる。

精巣と皮下の結合組織は

牛よりも馬のほうが強靭に結合しているので

ここまでの作業が

牛を去勢するときよりも時間が掛かった。

しかし、ひとたび

IMG_40562つの精巣を露出させることができたならば

あとは、牛の去勢と同じように

掴んでいる2本の精索に

捻転捧のフックを掛けて

回し始めればよい。

ゆっくりと調節しながら

IMG_406120回以上回すと

回す手の抵抗がふっと消えて軽くなる。

更に捻転捧を10回も回せば

2つの精巣がその棒の先に付いて

馬の本体から離れる。

捻り取られた部位を消毒して

IMG_4063抗生物質を投与し

保定を解き放って終了。

その後5日間

抗生物質を打ってもらうことにした。

数日後、術部は若干腫れたらしいが

その後は、特に問題はなかったようだ。

IMG_4064以上で

私の初めての試みである

馬のニコイチ捻転による去勢は

無事に終了したのだった。


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捻転去勢捧の馬への応用(1)

私の敬愛する日高の馬医者、hig先生が、

我々十勝の獣医師の考案した「牛用捻転去勢捧」を、

040b117511090270d81600d006756d13_sサラブレッドの去勢に使ってもらった♪

ということを知り、

大変うれしく光栄に思っている。

その、実際に使用したときの報告は

去年アップされた「馬医者修行日記」に

2回にわたって、詳しく書かれている。

そのページをリンクしたので

興味のある方は、ぜひご覧になって頂きたいと思う。

587703c6d1772bbb1bbd8972983f252c_s高価なサラブレッドの去勢となると、さすがに

全身麻酔下の仰臥位で

局所麻酔もしっかり行って

痛みを与えず

ab93da78225f2f0fec5cb69e809aa757_s安全に行っている。

こういう意識と技術は

我々重種馬生産地の獣医師は、

もっと多くを学ばねばならないところだと思う。

hig先生は、記事の中でこう言っている。

2cba405933529b81888b5cfa8c4e7d94_s「電動ドリルも要らないし、回転の調節がしやすいし、数万円するSTONE社の去勢具も要らない。

捻転式去勢ではあるが、STONE社の器具とはまったく違う器具なので、特許上の問題もないだろう。


しかし、ステンレスの頑丈な棒を180度曲げるのはHow toと器材が要るので、自作するのは難しい。」

a139d25e6a385578410f2652198abd23_sそうなんです。

とても安く出来るのですが

私達も自作できず

とある大変器用な方に作ってもらっています。

How to はその人しか知りません。

hig先生はさらに

「北海道発の牛と馬の去勢具が、世界を席捲するようになったら、それだけで愉快だと私は思う。」

と言っている。

そうですね♪

そうなれば、もちろん

私達も、とても愉快ですね♪


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「白帯病」をなぜ「砂のぼり」と言うのか。

前回の記事のごとく、白帯病の治療を施した当歳馬。

左前蹄底の外側の白線(白帯)に穴を開け、排膿させて、

抗生物質を打つこと4日目。

「昨日まではずいぶん痛そうにしとったんだが、今日はなんぼかいいみたいだ。」

というÅさん。

仔馬の傍に行って、足の状態をよく見てみると

患肢の蹄冠部の一箇所から

化膿汁が吹き出して

蹄を伝わって垂れていた。

image「上から抜けたかもしらんな。」

「あ・・・本当だ。抜けたねこれは。」

写真をよく見てもらうと

蹄冠部から白濁した化膿汁が垂れているのがわかる。

二枚目の写真は、黄色い矢印で

蹄冠部の自壊して化膿汁が吹き出した部分を示し

4日前に白線をこじ開けて

蹄底から排膿させた部分を赤い矢印で示した。

BlogPaint部分からこじ開けた病巣は

蹄底側は治療できたが

蹄冠側はそのままになるので

病巣の化膿は

蹄壁の白帯部分を

蹄の伸びる方向と平行に

だんだんと上方へ進み

蹄冠部の組織に到達して

そこで自壊して、化膿汁を噴出する。

これは馬の蹄では普通に見られる現象であり

かつ、この病状は馬の蹄で特徴的であり 

「白線裂」あるいは

「砂のぼり」などとも呼ばれている。 

しかし今では、白帯病(White line desease)というらしい。 

この三つの病名を比べてみると

「砂のぼり」という俗称が

私のような世代の古い獣医師にはしっくりくる。

この病気の特徴と現象を 

うまく捉えたネーミングだと思う。

まあ、のぼって行くのは砂ばかりではないのだが

覚えやすく、捨てがたい言葉だ(笑)

「今日は、枠に入れんのか?」 

「いや、もう入れなくていいよ。もう一度抗生物質を打って、あとは様子見てね。」

抗生物質を打とうとして近づいたら

 imageこの当歳馬は、耳を寝かせて

すごい形相で私を警戒した。 

「もうこれで終わりだから。」 

私は当歳馬を、なだめて、なだめて

治療を終えた。 



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とねっこ(当歳馬)の白帯病の1例

「とねっこの足が痛い・・・」

そんな往診依頼で向かったÅ牧場に到着するやいなや、

「とねっこ、連れてくるの手伝ってくれ・・・」 

私が手渡されたのは、ナスカンのついた引き綱だった。

Åさんと私は、馬の放牧してあるパドックに入り

足の痛い当歳馬よりも、まずその親馬を捕まえた。

この当歳馬は、まだ親から離してはいないのだった。

Åさんが親馬をつかんだ後、私が当歳馬に近づいて、頭絡に綱をつけた。

「枠馬まで連れてくから・・・」

私は、Åさんの引く親馬の後から、足の痛い当歳馬を引いて行こうとした。

ところが・・・

この当歳馬の跛行がひどく、なかなか歩こうとしない。

左の前肢を着地するのを嫌う、重度の支跛だった。

「引っ張らないで、後ろからボッてくれんか・・・」

私は当歳馬の後ろに回り、尻や尻尾を押した。

ところが・・・

パドックから枠場までの道が

先日の雪と雨と、今朝のシバれで

つるつるのスケートリンク場になって、うまく押す事ができない。

当歳馬は足が痛いから、依然として歩くのを嫌っている。

歩きを嫌がる当歳馬は、当歳といっても

すでにもう7ヶ月齢にもなっている重種馬だから

体重は300キロはゆうに超えている。

そんな当歳馬を私一人で押しても、足元が滑るだけだった。

「親の尻尾に、とねっこ結ぶから、引き綱こっちへかしてくれ・・・」

Åさんは私の持っていた綱をとって、親馬の尻尾へ結び

IMG_4812親馬を、枠場のほうへと歩かせ始めた。

すると、さすがに重種馬の1馬力である。

当歳馬はいやがおうにも、親に引っ張られて

左前足をかばいながら、ピョヒピョコと跛行しながら歩き出した。

やっとの思いで、枠場に入れて

肩ロープをして、さらに後ろ足を跳ねて飛び出さぬように縛り

IMG_4798鼻ネジをかけて、ようやく

患肢を挙上させる事ができた。

検蹄器で左前蹄を挟んで行くと

蹄外側のすこし割れているような部分の鉗圧に反応があった。

そこを軽く削蹄し、白線の部分の汚れを取り

黒さが消えないところに、葉状刀を差し込んで穴をこじ開けて行くと

「!!!・・・」

当歳馬は激しく痛がり、枠の中でバタバタと暴れた。

しかし、大きく暴れる0コンマ数秒前に

私の葉状刀は、患部の病巣を捉えていたので

IMG_4794そこから灰色の化膿汁が出た。

さらにもう少し、こじ開けると

黒っぽい血の混じった液が出てきた。

「もういいんでないか・・・」

「うん。蹄病軟膏つけたガーゼ、詰めとくから。」

IMG_4795「やってくれ・・・」

私は、蹄病軟膏をたっぷりとガーゼに取り

こじ開けた穴にそれを充填した。

「抗生物質、打つからね。」

ベニシリンを筋注し、残ったペニシリンを差し出して

IMG_4799「明日から三日間、打っといてくれる?」

「俺がか?・・・」

「無理?」

「おまぇ無理に決まってるべや、こんなウルサいとねっこ・・・」

「そうだね(笑)・・・わかった。明日は注射だけ打ちにくるね。」

IMG_4807「頼んだぞ・・・」

かくして、われわれ診療所の獣医師は

しばらくÅさんの、この当歳馬の治療に

毎日通う事になった。

Åさんについて一言付け足すと

IMG_480580歳を超えた、超ベテランの馬屋さんである。

老夫婦二人で、まだ重種馬の生産をしているのだ。

重種馬を、飼ってくれているだけで

私にとっては大変ありがたい存在なのである。

私を含めて、獣医師達は

IMG_4803Åさんの馬でどれだけ馬の勉強をさせてもらったことか

その感謝の気持ちを持って

この馬の治療をしなければならないと

私は思っているのである。


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中標津出張

根室地区青年獣医師会の会長さんから、

勉強会の講師の依頼があったのは約2ヶ月前だった。

内容のテーマは「馬の診療」ということだったので、

喜んで承諾し、楽しく準備をしていた。

IMG_4605それが先日の、11月19日 の夜

中標津町の、北海道ひがしNOSAI根室北部事業所で行われた。

十勝管外への出張講師は今年はこれが2回目で

内容もだいたい同じ「重種馬」の事だったので

準備するプレゼンなどは、少し改訂しただけでよくありがたかった。

IMG_4606時間はおよそ、19時00分〜20時30分の予定だった。

最初の30分は、主に「重種馬生産地の現状」について

(これは去年の秋、札幌の俳句集団【itak】で使ったプレゼン)

次の30分を、主に「重種馬の繁殖」について

(これは今年の春、釧路農協連で使った生産者向けのプレゼン)

最後の30分を、主に「重種馬の診療」について

(これは、ブログネタの馬関係の症例をかき集めたプレゼン)

という時間割で、喋らせていただいた。

青年獣医師会、という事だけあって

聴きに来ていただいた方は

20歳代〜30歳代の若い獣医師ばかりで

総勢40名ほどが、真新しい会議室の椅子を埋めて

みなさん最後まで、とても真剣に聴いていただいている感じが

喋っている私の席まで終始、伝わってきた。

途中で飽きのこないように

「ここで一句!」の俳句(?!)短冊と嘶き効果音を散りばめていたが

そんな事をしなくても、途中で質問が入ったりして

とても面白そうに、楽しそうに聴いて頂けていたようだった。

特に、後半の「日頃よく診る馬の診療」の時は

皆さんの経験や疑問点を解決したいという意欲が

いろいろな質問となって飛び出してきて

それに対する私も、過去の経験と頭をフル回転させて

なんとか、冷や汗をかきながらも答えて

とても良いディスカッションができたように思った。

「以上で全て終了です。」

と私が、プレゼンを終えた時には

柱時計の針は、21時頃を指していた。

さらにその後、4人の方から質問をいただき

質疑応答が終了したのは21時半頃だった。

IMG_4604それから

中標津市街地へ場所を移し

懇親会を開催していただいた。

ここにも若い獣医師の皆さんが

IMG_4607総勢12人も集まってくれた。

乾杯をしてから、しばらくは

皆さん、ひたすら箸と口を動かして

食べ物を口に入れていた。

全員、お腹が空いていたのだ(笑)

IMG_4611空腹が満たされた後は

楽しい話に花が咲き

私は、至福の時間を過ごす事ができた。

そんな中でも、やはり獣医師。

日頃の馬の診療の質問や意見がまだまだ続き

例えば、瀉血の是非、去勢法、麻酔法、PGの容量、牛馬の違いなど・・・

そして、やはり嬉しいのは、北獣会誌の俳句や漢詩や都々逸の話など・・・

IMG_4613若い獣医師の皆さん方と飲むお酒は

いつも楽しいが

今回の根室の青獣の皆さんとのお酒は

とびきり楽しかった♪

皆さんどうもありがとうございました。


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