北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

新生仔牛の中手骨骨折・再び(3)

今回の中手骨骨折の治療は成功しそうだ、

ようやくそんな気持になれたのは、

治療から2週間が経った時に撮った、

X線画像を見た時だった。

そしてその翌日、

早速私は、

♯さん宅へ往診に向かい、

キャストを巻き直すことにした。

IMG_2078前回のように

キャストを外して行くにしたがって

異臭が漂ってきたり

患肢が冷たくなっていたり

IMG_2079していないだろうかという不安は

今回は

昨日見たX線画像によってほぼ払拭されており

確実に治癒に向かっているという

IMG_2080安堵の心持ちでキャストを外すことができた。

キャストを外すと

蹄の先まで暖かく血が通い

骨折部位が癒合を始めている前肢が現われた。

化膿したり壊死していたりしていないことを確認し

IMG_2081私は再び患肢に

伸縮包帯と

アルミホイルと

キャストを

IMG_2084順に巻いて行った。

今のところ、私が行っている骨折の外固定は

こういう方法なのであるが

前回の記事のhig先生のコメントにあるように

IMG_2085もっと良く、もっと相応しい材質の下巻き

ストッキネット、エバーウールシート等、があるようなので

これをお読みの現役の獣医師の皆さんは

ぜひこれからは

IMG_2087hig先生のコメントを参考にして

より良い材質の下巻きを診療所に常備して

それを使えるよう努力して頂きたいと思う。

さて

2回目のキャスト固定が終わり

その日からまた

2週間が経過した。

IMG_2194私は再び♯牧場へ赴き

この仔牛の最後の治療をすべく

ギブスカッターで

キャストを外した。

BlogPaint患肢はほぼ完全に

骨融合をして

仔牛の中手骨骨折の治療は

これをもって終了の宣言をして

♯牧場を後にした。

ところが・・・

翌日

♯さんから

電話がかかってきた。



(この記事続く)



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新生子牛の中手骨骨折・再び(2)

産科チェーンによる牽引で、

仔牛の左右の中手骨を骨折させてしまった、

酪農家の♯さんは、

その後産科チェーンを使わず、

産科ロープを使って無理な牽引は止めている様であった。

ところが今回、またしても、

生まれたばかりの仔牛の右前肢の中手骨の骨折。

なんという不運であろうか。

そして、それを治療した獣医師の私は最初、

♯さんの稟告が嘘で、

本当はまた、チェーンの牽引によって骨折させたのではないかと疑っていた。

それも♯さんにとってはまことに不本意なことであったに違いない。

しかし

エックス線画像を診ることによって、

今回は、牽引による骨折ではなく、

親牛に踏まれたことによる骨折である可能性が高いことがわかった。

ということは

今回の骨折部位周辺の軟部組織のダメージは

前回の骨折部位周辺のダメージよりは軽度であろう

と推測することが出来た。

私も、♯さんも

今度こそは

骨がちゃんと癒合して

仔牛が助かってくれることを

心から願っていた。

そんな思いを抱きつつ

2週間が経過した。

♯さんの仔牛はとても元気だった。

BlogPaint前回の失敗したときの仔牛も元気だったから

子牛の外見からは

中手骨がちゃんと癒合しているかどうかは

全くわからない。

仔牛を寝かせて

子牛の前肢のエックス線撮影をした。

そしてその足で東部診療所へ走り

エックス線フィルムのカセッテを

現像機械へ挿入した。

祈るような気持ちで画面を見る私の

目の前のモニターに現れた画像は

左のような画像だった。

IMG_2072「・・・。」

「癒合してるんじゃないですか?」

一緒に画面を覗いていた後輩のM獣医師がそう言った。

「・・・そう?」

「大丈夫ですよ。」

IMG_2071「・・・そう、・・・だといいんだけど。」

「いいんじゃないすか。」

「・・・これがね、骨折した翌日に撮った写真なんだけど。」

私は、携帯電話に保存されている2週間前の

この子牛の骨折部位の画像をM獣医師に見せながら

それを、目の前のモニターに映し出された今日の画像と

IMG_2074比較してみた。

上が2週間前の画像で

下が今日の画像。

「・・・白い部分が出てきているみたいなんだけど。」

IMG_2075「あー、比べてみるとよくわかりますね。」

私は、今回の骨折が

何とか治癒に向かいつつあるとを確認し

胸をなでおろしたのだった。

ちなみに

最後の2枚のエックス線画像は

IMG_1843今回の症例ではなく

前回の失敗例すなわち

左右の中手骨がどちらも癒合しなかった症例の画像である。

今回のものと比べて明らかなのは

2週間たっても

IMG_1844骨折部位には

白い化骨細胞の出現が

全く見られず

むしろ黒く変化して

壊死していることである。



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新生子牛の中手骨骨折・再び(1)

「生まれたばかりの仔牛の足がおかしい・・・」

酪農家の♯さんからの電話だった。

♯さんといえば、

つい最近の1ヶ月ほど前に、

産科チェーンで仔牛の前肢を牽引し、

両前肢の中手骨を骨折させて、

結局治せずに処分したばかりの酪農家である。

なんと・・・また仔牛の骨折か・・・、

到着して、仔牛の右前足を診ると

着地不能でひどく腫れている。

「・・・これは、折れてるよ。」

IMG_2006「ほんとに?」

「・・・また助産で引っ張ったの?」

「いや、引っ張ってない。」

「・・・ほんとに?」

IMG_1996「ほんとに引っ張ってないよ、自然に生まれてたんだ。」

「・・・ほんとに?」

「ほんとだって。」

「・・・とにかく、またキャスト巻かなきゃダメだね。」

IMG_2008「よろしく頼みます。」

「・・・とにかく、今度こそ、治さないとね。」

あらためて触診してみても

仔牛の右前肢は間違いなく骨折していた。

IMG_2010それも、中手骨の遠位の

ちょうど産科チェーンをかけて牽引する位置である。

私は♯さんが嘘をついているのではないかと

ずっと疑っていた。

IMG_2011本当はまた産科チェーンをかけて牽引して

また仔牛の前肢を骨折させてしまったけれども

私に呆れられることが恥ずかしくて

咄嗟に嘘がついて出たのではないかと

IMG_2012ずっと疑いつつも

♯さんをそれ以上は追求せずに

前回と同じような方法で

前肢を牽引して

IMG_2017下巻きはバンデージのみ

その上にアルミホイルを巻き

その上からキャストを巻いた。

抗生物質を投与し

翌日

エックス線撮影をした。

IMG_2018その画像が

下の写真である。

骨折部位が真っ直ぐではなく

前方向に屈折したまま

キャストを巻いてしまっている。

前肢の牽引方向が悪かったことを示している。

牽引する包帯の結び目を

仔牛の前肢の掌側ではなく背側にすべきだったのだ。

そのご指摘は甘んじて受けることにして

骨折した部分をさらによく見ると

IMG_2022この骨折は

中手骨の掌側よりも背側の方に

ダメージの大きい折れ方をしていた。

これは

何か大きな圧力が

IMG_2020背側から掌側の方向へ掛って

その圧力によって骨折をしたような折れ方をしていた。

すなわち、これは

産科チェーンの牽引による骨折ではなく

親に踏まれたことによる骨折ではないか

と想像される骨折の画像だった。

♯さんは

つまらぬ嘘をついていたわけではない・・・と

この画像を見た私は

そう思い

♯さんの発言を

やっと信用することができた。


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重種馬の蹄病治療用ドリル

重種馬の蹄病を治療する機会は減ってしまった、

しかし、減ったとはいっても、

我が診療地区に重種馬が飼われている限り、

ゼロになることは無い。

1年に数回くらいの頻度ではあるが、

重種馬の蹄病治療の依頼が、

忘れそうになる頃にやってくる。

それに備えて私なりの準備をしていることは

以前の記事にも書いている。

約8年前の私のブログに書いた

電動ドリルを使った蹄病の治療法である。


その記事には

当時の私の蹄病治療の考え方と

IMG_2217手動ドリルではなくて

電動ドリルを使った治療法が書いてある。

基本的な考え方は当時と今と変わっていないのだが

8年前に比べて

重種馬の蹄病治療の機会は

明らかに減ってしまい

そして

私は8年前から比べて8歳年をとった(当たり前だ)。

その間

私の蹄病治療の考えや方法を

私よりも若い獣医師たちに

どれだけ伝達することが出来たのか・・・

と、考えると

これが大変お寒い状況であることに

今更ながら気付いた。

今もし

重種馬の蹄病の治療の依頼があったとき

私が出勤していれば私が対応することになるが

それだけでは若い獣医師たちに伝達することができないので

若い獣医師たちと一緒に往診へ向かい

彼らと一緒に治療の場に臨まなければならない。

そこで実際に治療をやって見せなければならない。

しかしそれだけではまだダメで

やって見せた手技を

こんどは彼らが実際にやってみなければ

本当の技術の伝達ができたことにはならない。

さらにそのためには

私の使っている道具を

いちいち私から借りて使うのではなく

私の使っている道具と同じ道具を

若い獣医師たちにも常に持っていてもらわなければならない。

ここでちょっと思案をした。

重種馬の蹄病治療のポイントは

蹄の炎症箇所を特定することであり

さらに特定した箇所に向けて

蹄底からドリルで穴を開けることが重要になる。

そのために必要な道具が

治療用のドリルである。

しかし

若い獣医師たちにいきなり

私が使っている電動ドリルを勧めるには

技術の取得の流れとしてはちょっと無理がある。

まずは手動ドリルを持ち歩き

それを使いこなせるだけの経験を

ある程度積んでからでないと

この技術を伝達することは難しいと考えた。

そこで

いつも懇意にしている重種馬の削蹄師

N坂氏に電話をして

手動のドリルを作ってもらうことにした。

自分でドリルを作れない私は情けないが

こういう事はその道のスペシャリストに頼んだ方が

良いものを作ってくれるものである。

IMG_2185左の写真は

そのN坂削蹄師に作ってもらった

重種馬の蹄病治療用の

手動ドリルの3点セットである。

IMG_21843点セットを3人分

我々獣医師のために

作ってくれた

削蹄氏のN坂氏に感謝!



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臍ヘルニア + 臍膿瘍 (2)

初診時は明らかなヘルニアだった子牛の臍が、

数週間後にはヘルニア輪が判らなくなり、

その代わりに臍帯の膿瘍が、

急激に大きくなって、

ヘルニア輪を埋めている。

今回の子牛の臍がそういう状態になっていたことが

手術を進めているうちに

明らかになってきた。

理想を言うならば

手術のメスを入れる前に

より詳細な超音波検査などで状態を十分に把握し

それに適した術式を選択して

手術に臨むべきところだったのだろう。

しかし

我々の診断力と経験の蓄積は

そのレベルまで至らず

臍ヘルニアと膿瘍とが

どのような具合になっているのかは

半信半疑のままで

いわゆる試験的な開腹という意味を含んだ手術だった。

IMG_2125その結果

膿瘍らしき部分を

丸ごとそっくり衛生的に摘出する事はできず

腫瘤物の腹腔側の根本にメスを入れたとき

化膿汁が吹き出るという事態になった。

IMG_2127そうなってしまったからには

そのままとにかくも切り進み

摘出できるものは出来るだけ摘出し

噴出した化膿汁は出来るだけ排除し

摘出した後の腹膜から

IMG_2128臍帯につながっている

いろいろな腹腔内の構造物を

ともかくも出来る限り洗浄した。

洗浄してからは

腹膜、僅かな筋層と皮下組織、皮膚

IMG_2131と縫い進み

閉腹して

手術を終了した。

飼主さん宅に帰ってからは

この牛には毎日

IMG_2132抗生物質の投与が行われている。

現在もまだ

抗生物質の投与を続けているが

今ところ

この仔牛はたいへん元気である。

IMG_2134気になっていた下腹術部の熱感と腫脹は

非常にゆっくりではあるが

すこしづづ治まって

正常な腹壁に戻りつつあるようだ。

そして先日

IMG_2162この牛を最後に診た同僚の獣医師も

熱感と腫脹は確実に治りつつある

という判断をしたが

念には念を入れて

さらに10日間

抗生物質だけは打ち続けてもらうように指示して

この子牛の治療を

終了した。


(この記事終了)


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臍ヘルニア + 臍膿瘍 (1)

「へそが腫れている」、

という稟告で診たホルスタインの仔牛の、

症状は少し複雑だった。

初診時の症状は臍ヘルニア、

腹壁には明瞭なヘルニア輪が触知でき、

そのヘルニア輪はまだ小さかったので、

しばらく様子を見ていたところ、

「へその腫れがだんだん大きくなってきた」

ということで再診をした。

IMG_2091すると

あったはずのヘルニア輪が触知出来ずに

腹壁に腫れた部分の根元は

太い臍帯で埋まっていて

可動性が無く

臍の部分は硬くて丸みを帯びた腫瘤物となっていた。

その日に往診したT獣医師が

腫れた部分を穿刺してみたら

最初は硬い漿液が少々

場所と角度を変えて再び穿刺すると

今度は茶色い腸管内容物が採取されたという。

腫れた部分を穿刺した時の内容が変化するとは

いったいどのような腫れ物なのか

これは一筋縄では行かない

複雑な症例のような気がする。

様子を見ていると腫れはどんどん大きくなってしまうようだ。

こうなってしまった以上、出来るだけ早いうちに

外科的処置を施したほうが良いだろう。

我々獣医師はそういう判断に至った。

翌日

IMG_2094午後一番にこの仔牛が運ばれてきた

一般症状が悪いわけではないので

元気一杯だったが

手術台に寝かせて

まずは超音波検査の端子を当ててみた。

IMG_2095腹壁から前後方向斜めに切り取った画像には

黒く抜けた部分にキラキラと白く光る模様が見えた。

これは典型的な膿瘍の画像だった。

そ例外の部分にも丁寧に端子を当ててみたが

結合組織ばかりで他に特徴的な画像は見えなかった。

IMG_2106腸管のヘルニアと思われた部分は

腹腔の中へ

落ちているのだろうと推測できた。

しかし、ヘルニア輪とおぼしき穴は

どこにも開いてはいなかった。

IMG_2114次に、毛刈りをして

切皮して

結合組織を剥がしつつ

腫瘤物を出来る限り

術創から独立させて

IMG_2113それを手でつかみ

もう一度穿刺を試みた。

すると、

漿液と化膿汁の混ざったものが採取された。

これはやはり膿瘍なのか。

IMG_2122根元の部分を糸で縛り

腫瘤の根元の臍帯移行部にメスを入れて

根本を切断し

膿瘍と思われる部分を

丸ごと摘出しようと取り掛かった

IMG_2124すると

メスを入れた臍帯部から

クリーム色の硬めの農汁がはみ出してきた。

「あー、やっぱり膿瘍だね。」

これは予想通りの事だったが

IMG_2125その部分から臍帯を通じて

腹腔内へ

クリーム色の農汁が

こぼれないように注意をしながら

腫瘤物を摘出するという

少々緊張する手技が必要になった。


(この記事続く)


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乳熱 + 乳頭損傷

前々日の深夜、

同僚のT獣医師が当直の時、

産後起立不能症で診た☆さんの乳牛は、

血液検査の結果低カルシウム血症だった。

立てることは立てるのだが、

まだ足元がふらついているということで、

通常時の往診でまた☆さんの牛を診ることになった。

その牛は繋ぎ牛舎の一角でうずくまっていた。

「あれから立ち上がったんで、足場の良いところに移動したんですが・・・」

浮かない顔の☆さんは話を続けた。

「またすぐ寝て、その後また立ったんですが、同居の牛に乳頭を踏まれたみたいで・・・」

「あらま・・・どこの乳頭?、寝たままじゃあ分からないけど、今は立てるの?」

「なんか、また立てないんです。」

「じゃあ、まず吊って立たせて。」

「はい。」

私はカルシウム剤とリンゲルと抗生物質を用意

その間に☆さんはこの牛の吊起の準備をした。

吊ればなんとか立つらしいので

IMG_2145まずは吊起をして立たせて

踏まれたという乳頭を診察した。

踏まれた乳頭は左前の乳頭の先端部だった。

先端から約3センチ程度が黒く変色し

皮膚が剥がれ乳管が挫滅して
IMG_2142
泌乳することができなくなっていた。

「あー・・・これは、この部分は切って落としたほうがいいね。」

「はい。」

「今、注射セットしてから、切る準備するから。」

「お願いします。」

IMG_2155私は抗生物質を打ち

カルシウム剤などの補液を開始して

再び診療車に戻り

消毒液とハサミと輪ゴムを準備した。

再び吊起ハンガーで腰を挟んだままの牛の元へ戻り

IMG_2156やっと自力で立っている牛の

左前の乳頭を掴んで洗浄し

その先端の挫滅部位がすべて取れる長さを

切断した。

IMG_2146牛はほとんど動かなかった。

痛みもあっただろうが

それよりも全身症状によって

痛がる余裕もなかったのだろう。

IMG_2149切断した乳頭の先端からは

溜まっていた乳汁が噴き出してきた。

しばらくその乳汁の勢いが続き

次第にその勢いが衰え

IMG_2152ほとんど出なくなったところで

こんどは輪ゴムを三重にして

乳頭の切断面ら1センチ程度のところに掛けて

切断面の止血をした。

IMG_2151この処置はいつもの方法と全く同じである。

「取り合えず、これでよし、注射が終わったら外してね。」

「はい。」

「乳頭に付けた輪ゴムは搾乳の時に外してね。」

IMG_2154「はい。」

私はすべての処置を終えて帰路に着いた。

翌日

同僚のK獣医師に診察してもらった時

この牛はもう立って歩くようになっていたので

その時点でこの牛の治療は終了した。

その後☆さんからは何も連絡はないので

経過は順調のようだ。


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顔の高さの大膿瘍

「腰角(ようかく)の辺りが腫れている・・・。」

そんな稟告だった★さんの搾乳牛。

IMG_2060腫れた部分を触診すると、

波動感があった。

こういう場合は、

ほとんどが膿瘍、

あるいは血腫である。

「針を刺してみましょう。」

IMG_2061空の注射器で穿刺すると、

クリーム色の膿汁が、

穿刺部分から溢れて来た。

「切開しましょう。」

腰角の大膿瘍であることが確定したので

メスで切開することにした。

汚い膿汁が床にこぼれても良い場所へ

牛を移動させて切開することになった。

最も良いのは

牛を枠場に入れることなのだが

★さんの家の枠場はもうほとんど使われておらず

土間の片隅に埃をかぶって仕舞い込まれていて

引き出して使うのも大変なので

土間の一角に頭を結んで保定して

そのまま切開をすることにした。

結果的に

これがマチガイの大元だった。

枠場に保定しておけば

牛のお尻は自由がきかない。

しかし

頭だけ繋いだ状態では

牛のお尻は扇状に

いくらでも横振りすることができる。

私はそれを甘くみていた。

さらに

この牛の膿瘍の大きさと

それが目の高さにあるということを

あまり考慮せずに

いつものように

長い手袋を履いただけで

切開手術を行ってしまった。

すなわち

カッパを着用しなかったのだ。

これもまた大きなマチガイだった。

顔の高さにある牛の大膿瘍を

枠場に保定せずに頭を繋いだだけで

カッパも着ないで

切開手術をするとどうなるか。

IMG_2062結果は

写真のごとく

切開のメスを入れた瞬間に

牛は驚いて尻を振り

私の胸から下の着衣は

嫌な匂いの膿汁を

大量にかぶり

IMG_2063カッパを着ていなかったおかげで

悲惨な状態になってしまった。

生ぬるい膿汁にまみれた私は

自分の着衣を洗いながら

30年以上

牛の臨床獣医師として仕事をして来た

自分の技術の

全く成っていないこを

大反省・・・

下手クソ・・・

ああ恥ずかしい・・・

膿汁が噴き出す写真などを撮ろうとして

肝心なことを忘れていた自分を恥じた。


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乳房からの出血(四たび!)

「乳房から血が出て止まらないんだけど・・・」

緊急用の携帯に、酪農家の∩さんの声が響いた。 

「とりあえず、押さえるかつまむかして、止めておいて・・・」

私はそう言って、∩さん宅へ診療車を走らせた。 

出血をしている牛は乾乳牛だった。

パドックの連動スタンチョンに1頭だけ繋がれた牛の

腹の横にしゃがみ込んで

IMG_2036∩さんの息子が

乳房の出血部位を布で押さえていた。

「ちょっと出血しているところを見せてくれる?」

∩さんの息子が押さえている布を少し離すと

乳房の血管から血液が勢いよく吹き出て来た。

IMG_2037「あー、了解、ここだね。縫って止血する準備するから、もう少し押さえててね。」

私は縫合の準備をし

出血部位をまず鉗子で挟み

止血縫合してから

止血剤を投与して

IMG_2038治療を終えた。

しかし

また

乳房の左右に浮き出ている乳静脈からの出血!

「これは、カラスのしわざに違いないね。」

IMG_2039「カラスっすか?」

「うん、間違いないね。」

私は傷を見たときから

そう確信していた。

それは

IMG_2040約半年前

♯牧場で

わずか3週間の間に

3頭がまったく同じ部位から

出血しているのを

IMG_2041立て続けに治療した経験に基づいた確信だった。

参考のために

過去の3回の出血の記録を

この記事に貼り付けておこう。


 2月24日の乳房からの出血(♯牧場にて)


 3月8日の乳房からの出血(♯牧場にて)


 3月17日の乳房からの出血(♯牧場にて) 


このとき

♯牧場には

カラスの大群が

牛舎の周りを取り囲み

大きな声で鳴いていた。

その後♯牧場では

ハンターを呼んでカラスの大群を追い払って 

乳房からの出血事故は

ぱったりと無くなった。

あれから半年

♯牧場で追い払われた吸血カラスの1羽が

今度は∩牧場にやって来て

また悪さを始めたのではないか

などと

心配してしまう症例だった。

∩牧場の乾乳パドックの

傍で

数羽のカラスが鳴いていた。 


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重種1才馬の鼻梁の外傷(2)

「安田君、@さんの馬の傷、化膿してるよ。」

私が初診してから4日目、

@さんに往診に行って来た同僚のK獣医師がそう言った。

「・・・そうですか。」

「あれじゃあ、共進会は出られないな。」

「・・・そう・・・ですか。」

今回の馬の外傷の処置について、

私はきれいに治せる「強い自信」は持ってはいなかったものの

なんとか治ってくれるだろうという「普通の自信」はあり

その漠然とした期待の中で

この馬の傷についてさほど気にかけていなかった。

しかし、同僚の獣医師からそう言われると

これは、失敗してしまったか・・・

という反省の気持ちが急に膨らんできた。

それから3日後

私が今度は@さんの馬を診た。

枠馬に入れて傷をよく見ると

IMG_1901なるほど、傷口は

きれいに縫い合わさってはおらず

10cmほどに渡って

腫脹して肉芽が盛り上がり

痛々しい状態になっていた。

「・・・化膿させてしまって、申し訳ない。」

「・・・。」

「・・・縫った糸は、ほどけちゃった?」

「取れてはいないようだ。」

「・・・でも、共進会は出せないか。」

「いや、出すよ。」

「・・・そうなの?」

「だから治してくれって言ってるべや。」

私は@さんがまだ

この馬の共進会出場を諦めていないことを確認した。

しかし、こうなってしまった以上

あとは、抗生物質を注射し続けて

この馬の傷口が早く

目立たなくなるのを待つことしかできなかった。

その次の@さんの診療日は

同僚のS獣医師に行ってもらった。

「安田君、@さん、共進会に出すの断念したよ。」

帰ってきたS獣医師がそう言った。

「・・・そうですか。」

「結構、傷が深かったみたいだね。」

「・・・ええ、上手く縫えたかと思ったんですけど。」

「あの腫れはなかなか引かないね。」

それから3日後

私は再び@さんの馬を診に行った。

やはり傷はきれいに治っていはなかった。

IMG_1906「・・・共進会、出すのやめたの?」

「ああ。」

「・・・そうなの?」

「これじゃお前、カッコ悪いべや。」

「・・・。」

私は@さんに

きれいに治すことができなかったことを詫びた。

最善を尽くしたつもりだったが

創口を縫合する前に

もっと清潔に洗い

メスなどで新鮮な創面を作ってから

もっと慎重に縫合すべきだったと

反省点を挙げた。

それから

数日後

共進会が終わり

この馬を治療する予定だった日に

@さんから連絡があった。

この馬を、育成屋さんに売ったので

もう治療に来なくても良いという連絡だった。

私は、売れてよかったという気持ちもあったが

無事に売れたというわけではない、と思った。

本当であれば

@さんは、この馬を共進会に出品し

商品価値が最も高くなったところで

高い値段で売りたいと思っていたに違いない。

しかし、それはできなかった。

いろいろと

反省点の多い症例となってしまった。

買われて行った先がどこかわからないので

この馬の傷の状態は

もはや確認するすべも無くなってしまった。

あとはこの馬の鼻の腫れが引いて

きれいに治ってくれることを

祈るのみとなってしまった。

反省点の多い症例だった。


(この記事終わり)


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重種1才馬の鼻梁の外傷(1)

「・・・共進会に出す馬が、顔に怪我をした・・・」

そんな電話が、

馬産家の@さんからかかって来たのは、

夜間当番の早朝だった。

IMG_1866馬を枠場に入れて顔を診ると、

馬の長い鼻梁に約15cm程度の切り傷があった。

よくみると、ヨードチンキを塗布した後の色が付いており、

傷口からは出血と漿(しょう)液が垂れた後のような汚れがあった。

「これは・・・何時頃、怪我したの?」

「・・・きのうの晩。」

「ヨーチン付けてあるね。」

「・・・ああ。でも治りそうもないから、縫ってくれ。」

「たしかこの馬、共進会に出すやつだったよね。」

IMG_1862「・・・そう。」

「共進会は何日だっけ?」

「・・・あと2週間。」

「そっかー、うーん。」

「・・・縫って治してくれ。」

「まぁ、やれるだけやってみるか。」

「・・・きれいに治してくれよ。」

「うーん、まぁやってみるか。」

IMG_1869馬に鎮静剤を投与し

鼻捻をかけて保定し

傷の周囲を

ビルコン液を染み込ませたスポンジで

ジャブジャブと洗い

汚れを落として

再び傷を良く見ると

何か鋭利なもので

鼻梁をザクッと切ってしまったような傷だった。

IMG_1876長さは上下に15cm程度

頭部に近いところの傷がもっとも深く

その深さは2cmほどあった。

出血は無く

薄いピンク色の創の断面は

皮下組織がほとんどで

奥のほうは骨に達しているようだった。

私は過去に

こういう筋肉の無い鼻梁の切創を縫合した経験を

思い出せなかったので

行き当たりばったりの処置となった。

IMG_1877洗浄した創口の頭側の深い部分に

角針を刺して、吸収糸をかけて

そこを起点に連続で皮内縫合をしてゆく。

この方法は

牛の開腹手術の最後の

皮膚を皮内縫合する方法と同じだった。

熟慮してそういう縫合法を選択したのではなく

とっさに思い浮かんだのが、この縫合方法だった。

しかし、いつも牛の手術で慣れている方法なので

スムーズに縫いすすみ

縫合処置は数分で終わった。

IMG_1879縫合処置をした切創は

手で広げようとしても広がらないように

針の縫い目もわからないように

皮内縫合された。

この縫合処置によって

なんとかこの1才馬を

十勝共進会に出品させたいという

@さんの願いが叶えられるかどうか。

私は、きっとこれで何とかなるだろうと

抗生物質を投与し

あと三日間の抗生物質の投与を指示して

帰路についた。


(この記事続く)


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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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大忙しの星の下(2)

帝王切開によって、

側頭位の胎児を無事に摘出したまでは良かったが、

IMG_1949親牛の状態がどうも良くなかった。

それは、手術中に輸液をしようと、

頸静脈に針を刺した時、

留置針がなかなか血管に入らず

結局乳静脈に切り替えたことからも感じていた。

IMG_1950親牛は血圧が下がっているようだった。

血圧が下がっているから

頸静脈を圧迫してもなかなか血管が浮き出ず

針を血管に入れることが難しかったのだ。

IMG_1951その理由はよくわからないが

そのために

前肢の血流も弱くなり

手術台で下になっていた右肩付近の圧迫により

右前肢の神経麻痺が生じてしまったものと思われた。

IMG_1952麻痺によって右腕節(前膝)に力が入らず

カックン、と曲がってしまう。

「キャスト・・・しますか・・・。」

とにかく、この牛には

ちゃんと4本足で立って

IMG_1953家畜車の荷台に乗ってもらわないと困るので

応急的な処置として

右前肢の腕節がカックンとならぬようにキャストを巻くことにした。

キャストを巻き終わった牛は

ぎこちなくも、なんとか歩行して

IMG_1955家畜車の荷台に乗ることができた。

家畜車を見送り

手術室を片付けていると

診療所の職員達が

次々と出勤してくる時刻になっていた。

翌日

この牛が無事でいるかどうか

ちゃんと自力で起立できているかどうか

心配だった。

この牛の飼主さんは

搾乳牛たちを昼夜

繋ぎっぱなしで飼っている酪農家で

敷きわらをたっぷりと敷いた独房というものがない。

そういう独房がないところで飼われている牛は

足腰が弱ると、立ちたくてもうまく立てずに

そのままダメになってしまうリスクが高い。

さらに

牛の前肢にかかる体重というのは

後肢にかかる体重よりもはるかに大きく

特性樹脂のキャストを厚く巻いても

割れてしまうことがあり

この牛に巻いたキャストも簡単に割れて

キャストの効果が無くなってしまうのではないかという

心配があった。

しかし

IMG_1957往診した同僚獣医師の話によれば

牛の前脚の状態は良く

神経麻痺は消失し

寝起きは普通で食欲もあるということだった。

その翌日

IMG_1956牛の状態はさらに改善して

寝起きも食欲も良好だということで

キャストを外すことにした。

この日のキャストは

案の定、腕節から近位の部分が

IMG_1960割れてしまっていた。

しかしそれは

この牛の前肢の神経麻痺が完全に消失し

寝起きが自由にできるようになり

右前肢の機能が

完全に回復した証拠でもあった。

(この記事終わり)


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大忙しの星の下(1)

複数の獣医師がチームを組んで、

仕事についているNOSAIの家畜診療所では、

夜間の当番はその人数によって、

均等に割り振られて、

仕事量の偏りがないようにしているのが普通である。

夜間の往診の数は、

1年間の平均件数を計算してみると、

診療所チーム内のどの獣医師も、

だいたい1件〜2件の間に均等に収まるものらしい。

ところが

1ヶ月程度の短い期間でこれをみると

それぞれの獣医師によって

夜間往診の数が極端に偏ることがある。

ある獣医師は、往診が全くない0件の夜が何回も続くのに

ある獣医師は、毎回深夜まで何件もの往診に呼ばれて睡眠不足になる

という現象が起こる。

夜の往診の忙しさには波があるのだ。

その波は、診療所内の獣医師の仕事内容を

支配下に置く「大忙しの星」の気まぐれなパワーの現れのようである。

先日の

早朝5時頃

私の個人携帯に

その日の夜間当番用の携帯から

電話がかかって来た。

最近、夜間当番で大当たりが続いているS獣医師からだった。

乳牛のお産で、胎児の頭が後ろを向いた側頭位らしい。

緊急の帝王切開をすることになり

私は手術の助手をするべく診療所へ向かった。

診療所へ着くと

手術室にはすでに帝王切開の準備がされていた。

「最近よく当たるね。」

「そうですねー(笑)」

S獣医師は、前回の夜間当番の時も

深夜に乳牛の帝王切開と、早朝の和牛の難産介助をしていた。

その後数日、別の獣医師が当番をした夜は

特に難産や深夜の往診はなかったのだが

昨夜からのS獣医師の当番でまた難産が発生した。

(大忙しの星の下に完全に入っているのだ・・・)

親牛を手術台に寝かせて

術野の毛刈りと洗浄消毒を終えて

さぁこれからメスを入れて

帝王切開を始めようとした時

当番用の携帯電話が鳴った。

和牛の難産で逆子のようなので来てほしい、という往診の依頼だった。

手術に取り掛かろうとしていた私たちは

その往診依頼に対して、事情を説明し

手術をある程度終えるまで、今しばらく待ってもらうように伝えた。

IMG_1947そしてまた帝王切開に取り掛かった。

ホルスタインの母親の子宮の中で側頭位になっていた大きな♂ホル仔牛を

無事に生きて出すことができた。

「あとは、縫うだけなんで、安田さん和牛の往診に行ってください。」

「わかりました、じゃ、後はよろしく。」

私は手術から離れ

診療車に乗って和牛の難産介助に向かった。

(大忙しの星の下に私も入ってしまった・・・)

和牛繁殖農家の◯さん宅は診療所から車で5分程度の近い家だった。

手を入れてみると

確かに逆子だったが

その胎児の後肢の隣に前肢があり

その前肢の隣に頭が来ているという状態

すなわちそれは双子の難産だった。

後肢を押し戻すと

もう片方の前肢がその奥に現れたので

前肢2本と頭が同じ胎児のものであることを確認して

IMG_1946まず正常位の1仔目の胎児を牽引娩出

次に尾位の2仔目の胎児を牽引娩出

無事に介助が終わり

私は再び診療所へと車を走らせた。

診療所の手術室では

S獣医師が術創の最後の皮膚を縫い始めたところだった。

IMG_1948術野の縫合が終わり

牛が手術台から降ろされた。

ところが

この母牛が、今度は

IMG_1949なかなか立つことができない。

カルシウム剤を注射して

気合を入れて起立を促しても

立てなくなってしまったので

仕方なくハンガーで吊起することにした。

IMG_1950ハンガーにてなんとか吊り上げて

立たせたものの

右の前肢の負重ができず

3本足でようやく体を支えるのみ。

どうやら

右前肢の橈骨神経が麻痺してしまったようだ。

これでは歩行することもままならず

家畜車の荷台までどうやって歩かせるのか

(大忙しの星のバワーは容赦がない・・・)

さて、どうするか・・・

(この記事続く)

 

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新生子牛の「左右」中手骨骨折(3)

難産で牽引した直後に、

左右の中手骨遠位の骨折を確認し、

左右前肢にキャストを巻き、

その後、3日目にエックス線を撮影し、

それから、さらに11日が経過した。

骨折してから2週間目、

この子牛のキャストを交換する日がやってきた。

今回、私は

今まで経験してきた牛の新生児の

中手骨骨折の治療の中でも

もっとも

いろいろと気を配り

過去の失敗での反省点や

同僚獣医師の意見などを参考にして

自分の技術としては最もレベルの高い

最新の骨折整復法を施すことができたという自負があった。

そういうわけなので

この日が来るのをとても楽しみにしていた。

ギブスカッターと、エックス線装置と

撮影の防護服などを、そそくさと診療車に詰め込み

飼主の#さん宅に到着。

IMG_1837子牛はあいかわらず

非常に元気がよかったので

鎮静剤をかけて寝かせて

まずは

患部のエックス線の写真を

3方向から撮影した。

撮り終わってから

撮影装置をいったん片付けて

今度はギブスカッターによって

キャストを外してゆく

飼主の#さんと

手伝ってくれたS獣医師が

保定しながら見守る中で

私はまず左前肢のキャストを外していった。

ギブスカッターで

キャストを縦半分切り落としたとき

骨折部位の毛色が

なんとなく

暗赤色の滲みが付いているのを確認した。

その部分から遠位を手で触ってみると

なんとなく

温度が低く

子牛の体温ではないような

冷たさを感じた。

「・・・。」

私は、さらにキャストを外していった

「・・・。」

「・・・。」

#さんとS獣医師もまだ無言だった。

「・・・、あ・・・これは・・・」

「・・・。」

「・・・着いて・・・ない・・・のか。」

「・・・。」

「・・・全然・・・融合してない・・・。」

「・・・ダメですか・・・。」

「・・・ショックだぁ・・・。」

BlogPaintキャストを全て外し終わったとき

私たちは

ガックリと

失望感に包まれていた。

左右の中手骨は

両方とも、まったく骨融合しておらず

骨折部位は2週間前と全く同じように

IMG_1840クニャッと曲がってしまった。

骨折部位と外したキャストからは

ほんのりと厭な匂い(壊死臭)が漂ってきた。

治療は完全に失敗に終わった。

子牛は、残念ながら

病畜処理場へ搬入することになってしまった。

その後、私は

悔しい気持ちをずっしりと抱えたまま

隣町の診療センターへ行き

最後に撮影したエックス線画像を見た。

参考のために

IMG_1843IMG_1844






第3病日の画像を左に

第14病日の画像を右に

比較できるように並べてみた。

IMG_1845IMG_1846







骨折部位に望まれるはずの

白く濁ってゆく骨融合の変化は全く見られず

むしろ

3日目(左)よりも14日目(右)のほうが

骨折部位は黒っぽく変化し

壊死が進んでいるように見えた。

(この記事終わり)

と・・・

したいのだが・・・

私は今でも

悔しい気持ちが消えずに続いている。

今回なぜ

骨折整復がうまく行かなかったのか

ちゃんと検証して

何とか今後につながるヒントを得たいと思う。

この記事をお読みの皆さんの

ご指摘やご意見を

ぜひ伺いたいと思う。

どうか忌憚のないコメントを

よろしくお願い致します。


(この記事終わり)


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新生子牛の「左右」中手骨骨折(2)

助産の時に強く牽引し過ぎて、

中手骨を骨折してしまったホルスタインの新生児。

それも、今回は、

「左右」両方の中手骨の骨折だった。

緊急で呼ばれて、

キャストを巻き、

抗生物質を3日間打ってもらい、

今日は、その3日目だった。

「子牛の調子はどう?」

「・・・特に痛がるわけでもなく普通にしてますよ。」 

「お乳は飲んでる?」 

「・・・普通に飲んでます。」 

BlogPaint「下痢とかしてない?」

「・・・大丈夫です。」 

「立てる?」

「・・・ちょっと手伝ってやれば立ちますよ。」 

一般状態は悪くないようだった。

今日はこの牛の

骨折部位のX線写真を撮る日だった。

BlogPaintキャストを巻いたまま

X線装置を当てて

右斜め、左斜め、前方、の
3つの方向から撮影した。

撮影したカセットフィルムを

IMG_1784隣のT町にある診療センターの

デジタル現像装置に差し込んで

画像データーを映し出した。

私は今まで

キャストを巻いた時

骨折部位を真っ直ぐに整復していたつもりでも

X線画像を撮って見てみると

思っていたよりも大きくずれて(騎乗変位して)いたり

思っていたよりも曲がっていたり捻れていたり

IMG_1785していることが多かったので

今回もかなり心配だった。

しかし

画像を見る限り

過去の私の経験した症例に比べると

IMG_1786大きなズレやまがりや捻れはなく

まぁ、そこそこ

問題なく整復できているのではないか

と、自分なりには

ホッと胸を撫で下ろしたのだった。

IMG_1787飼主さんとも相談して

キャストを巻き直すことはせずに

そのままで様子を見て

2週間後に再び往診して

キャストを外して

巻き直すことにした。 

(この記事続く)



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新生子牛の「左右」中手骨骨折(1)

「お産がキツくて、強く引っ張ったら・・・」

前足が折れてしまった、

という稟告。

何度も経験している症例である。

せっかく生きて出せたのに、

前脚が折れてしまった子牛を見るのは辛い。

到着して、

子牛の前脚を触診するまでもなく

中手骨の遠位部が

ポッキリと折れているのを確認した。

IMG_1739「産科チェーン使ったの?」

「・・・そうなんです。」

「あれっ・・・これは両方の足が折れてる・・・」

「・・・やっぱり・・・実は最初に折れた後、マズイと思ってチェーンを外したんです。」

「それからどうしたの?」

「・・・その後、紐に付け替えて引っ張ったんだけど・・・」

「また折れちやった?」

「・・・そう、その時、親が急にバタンと倒れて、その拍子に・・」

「2本目の足も、折れちゃった?」

 「・・・そうなんです。」

IMG_1742我々は、早速

骨折の整復に取り掛かった。

子牛の中手骨骨折については

以前、このブログで

IMG_1749自分の整復方法について 

いろいろとコメントをいただき

自分の方法がかなり旧式な方法で

未熟であることを知らされていたので

IMG_1751今回はそれらのご意見を思い出しながら

できるだけ改善点を取り入れて

キャストを巻いてみた。

まず

患肢をしっかりと牽引する。

IMG_1752今回はとっさの判断で

包帯を患肢の繋ぎに巻いて牽引してもらいながら

持ち合わせの伸縮包帯を巻き

下に巻くものはそれだけで

綿による下巻きはせず

IMG_1753その上にキャストを巻いた。

左右両方の中手骨が折れているので

飼主さんに両方を

写真のように牽引してもらって

キャスト巻きの作業を

IMG_1754左右で繰り返し行った。

キャストは転がすように

腕節から蹄先まで巻いた。

巻き終えてから

患部の感染を予防するために

抗生物質を打ち

それを3日間打つよう指示した。

この日は、金曜日の午後遅くだったので

次回は、月曜日に

エックス線写真を撮ることを告げて

帰路についた。


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育成牛の中足骨骨折(2)

約15ヶ月齢の牛の中足骨の骨折の、

初診から1ヶ月経過したキャストを、

「治癒の見込みが有る」という理由で、

再度巻きなおしたのは、

私は初めてのことだった。

「これはきっと治ってくれるだろう」、

という思い込みがあったせいで、

私の巻いたキャストは、

初診でO獣医師の巻いたキャストよりも

大分薄く、やや短かった。

それで充分だろうと思っていたのだ。

ところが

その日に撮ったX線写真の骨折部位を見ると

思ったよりも骨融合が進んでいないように見え

骨折端の騎乗変位と軸ズレが明らかだったので

それから私は

2回目のキャストの巻き方が甘かったのではないだろうかと

しばらく落ち着かない日々を過ごしたのだった。

もし、2回目のキャストを巻いた後に

骨折の癒合部位に異変が生じたら

せっかくの骨融合が破綻して

この牛の治療は一巻の終わりになってしまう。

冷や汗をかきつつ、悶々とした日々を過ごしたが

飼主の〓さんからの、この牛に関する連絡は来なかった。

だが、便りの無いのは良い便り、だった。

その後は

異変の心配が、次第に治癒への確信へ、と変わってゆき

とうとう、2回目に巻いたキャストを外す日がやってきた。

初診から2ヶ月が経っていた。

体重350kgはゆうに超える育成牛を

IMG_1511鎮静剤で寝かせ

ギブスカッターでキャストをはずした。

キャストを外したところで

エックス線撮影をした。

IMG_1512その後、鎮静の拮抗剤を打って

牛はたちどころに目覚め

4本の肢を着いて

に歩き始めた。

IMG_1513初診は今年の3月12日

キャストを巻き直したのが4月10日

終診が5月8日だった。

もう一度

IMG_1364IMG_1525






4月10日のX線写真と

5月8日のX線写真とを

IMG_1363IMG_1522






左右に並べてみると

骨折部位の変位と軸ズレがあるものの

癒合が進んでいる様子がわかる。 


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育成牛の中足骨骨折(1)

初診は同僚のO獣医師、

当直明けの就業時間直前に、

「育成牛の足が折れている・・・」、

という連絡が入ったという。

右の中足骨骨体部で完全骨折、

鎮静下でキャスト固定し、抗生物質を投与、

と、カルテには書いてあった。

それから1ヶ月が経ち、

この牛のキャストを交換する日がやってきた。

何かと多忙なO獣医師に代わって、

私がこの牛の足の様子を見に行くことになった。

それは、今年の4月10日の事だった。

往診に行く前に、カルテを見直すと

この牛の生年月日は12月19日と書いてあった。

ということは

この牛が骨折をしたのは約3ヶ月齢か・・・

と、一瞬私はそう思い

その程度の月齢での中足骨ならば

よくあることで、何とかなるな・・・

と、思って

O獣医師に経過を聞こうと

もう1度カルテを見ると

この牛の生年月日は、なんと・・・

平成27年12月19日

と書いてあることに気づき

ちょっと驚いた。

「えっ!・・・おととしの12月生まれなの?」

「そう・・・。」

「デカいやつかい・・・。」

「そう・・・、15ヶ月齢の育成で・・・、どうなってるかわからないんですけど・・・。」

私はそう聞いて

恐る恐る

飼主の〓さん宅へ向かった。

「牛はどこ?」

「あー、あの牛かい・・・あそこの小屋の中にいるよ。」

〓さんの親父さんは、何気なくそう言って私を案内した。

IMG_1353「今日は、何か、するのかい?」

「うん。キャストを交換する日なんだけど・・・様子はどう?」

「どーなんだべ・・・」

「歩いてる?」

「うーん、1週間前くらいまでは痛くて全然つけなかったんだけどな・・・」

「・・・。」

「それが、この間から、なんだか、足をつくようになってきたのよ・・・」

「ほんとに?」

「あぁ、ほんとだよ。だいぶん歩けるようになったんでないかな・・・」

「そうなんだ。とりあえず牛を寝かせて、キャストを外したいんだけど。」

「おぅ、わかった・・・息子呼んでくるわ。」

私は、〓さんの息子が来るのを待って

それから鎮静剤を打って牛を寝かせ

ギブスカッターでキャストを外した。

IMG_1355骨折部位は化骨が始まっているようで

周囲の軟部組織には損傷もなく

細菌感染もしていなかった。

キャストを巻き直し

IMG_1359そのあと

この足の骨折部分の

エックス線写真を撮った。

鎮静剤の拮抗剤を打ち

IMG_1361牛はその後

すっと立ち上がって

スタスタと歩き始めた。

私はその後

隣町の診療センターへ

撮影したカセットフィルムを持ち込み

現像した画像データーを

画面に映し出し

IMG_1363さらにそのデーターを

我が診療所でも見られるように

共通フォルダに入れて

帰路についた。

IMG_136415ヶ月齢の育成牛が

中足骨の骨折をして

キャストによる外固定をし

それから約1ヶ月後の状態が

この2枚のX線写真だった。


(この記事続く)


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11ヶ月齢の黒毛和種♂の臍ヘルニア

「10ヶ月齢の黒毛和種の、

あまり発育の良くない痩せた肥育素牛を、

市場で買ってきて1ヶ月ほど養ったところ、

おヘソがぷっくりと膨らんできた。」

という稟告。

診てみると

臍ヘルニアだった。

買った時はひどく痩せていて

臍の腫れはなかったそうだ。

しかし食欲が増して成長するにつれて

臍が腫れてきたという。

私の知る限り、牛の臍ヘルニアは

幼少時には目立っていても

成長するにつれて目立たなくなってゆくものだが

今回の場合はその逆パターン(?!) だった。

「放っておいて良いだろうか?」

という飼主さんの問いに

私は首を縦に振る事ができず

早期にヘルニア輪を縫合して閉じる手術を勧めた。

そして昨日

その手術をすることなになった。

ヘルニア輪は4指が入る程度のものだったが

11ヶ月齢の食欲旺盛な若牛だったので

前日から絶食をしてもらって腹圧を減らしておいた。

術前の写真をうっかり撮り忘れたので

術後の写真のヘルニアの部分を加工して

BlogPaint術前の垂れ下がったヘルニア嚢を

黄色い色で塗りつぶして再現してみたのが

最初の写真である。

鎮静剤によって寝かせて

手術台に仰臥保定。

ヘルニア整復の術式は簡単だ。

ただし

♂の場合は臍帯のすぐ後方に尿道口があり

手術中に排尿したり

術後の創部が汚染したりしやすいので

BlogPaint切開部分は写真のように

尿道口を避けるような

前方に弧を描く半円形(U字形)で切開する。

この方法は

十勝NOSAIの同僚のM島獣医師が考案したものである。

こうして切開して

皮下の結合組織を注意深く剥がしてゆき

ヘルニア輪を露出させる。

そこにヘルニア嚢を落とし込み

IMG_1677ヘルニア輪を縫合する。

ヘルニア輪の縫合は

ベストオーバーパンツ縫合という

衣服を重ねるような仕上がりにする縫合法だ。

IMG_1678糸を二重に使い

腹壁への針の入れ方は

上から下 → 上から下 → 下から上 → 下から上

と縫って行けばよい。

今回はそれを3針入れて

IMG_1680ヘルニア輪を十分に閉じる事ができた。

それから

死腔を造らぬように

結合組織の寄せ縫いをして

U字形に離れている臍帯の皮膚を

IMG_1683術創に蓋をするように縫い付けて

整復手術は無事終了した。

鎮静剤の拮抗剤を打ち

牛は数分で元気を取り戻した。

IMG_1684飼主さんに抗生物質を渡し

3日間投与するように指示し

牛を家畜車に乗せて

帰って行く家畜車を見送った。


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夜間当番の「大停電」

昨夜の当番の、

午後8時を過ぎた頃、

突然、宿直室が真っ暗になった。

停電だった。

そろそろ寝ようと思っていたので、

そのまま布団に入って寝ていたら、

携帯に警備会社から電話がかかってきた、

「事務所が停電のようですが、まだ復旧しませんか?」

「はい。」

「復旧したら、教えてください。」

「はい。」

しばらくして今度は

本所のM家畜部長から電話がかかってきた。

「安田さん。まだ復旧してないですか?」

「してないですね。」

「停電、ウチだけみたいなんですよ。」

「え、本当に?」

窓から外の風景を見渡すと

周囲の電灯はもう明々と灯っていた。

「事務所のブレーカー確認してくれます?」

「了解。」

1階へ降りてポイラー室の配電盤のブレーカーを見たが、

全てONで、落ちているブレーカーは見当たらなかった。

再び、M部長から電話

「雨でどこか漏電してるみたい、北電、行ってませんか?」

再び外を見ると

北側の松並木の一角に

電線工事の車が止まって

暗い雨の中で照明を当てて

何やら工事を始めていた。

「あ、居た居た。誰か来て工事してる。」

「これから私もそちらへ行きます。A課長と2人で行きますから。」

「はい。」

停電から30分ほど経っていた。

周囲はすでに復旧しているのに

我が診療所だけ真っ暗のまま、復旧していなかった。

さらに30分ほど経って

M部長とA課長が雨の中やって来た。

IMG_5962「そういえばあの松の木、去年の8月の台風の時倒れて・・・

「そうでしょう。」

「うちの松の木じゃなくて、町の所有物で・・・」

「そうそう。」

IMG_1637「倒れたままでも、特に何でもなかったから・・・」

「撤去しないでいたら・・・この雨で。」

「漏電起こしちゃったのかな。」

1時間ほど経って

IMG_1633工事をしていた北電の人が

事務所にやって来た。

その説明によると

漏電した配線は

IMG_1635北電の管轄の部分ではなく

うちの事務所の部分なので

この後は独自で電気工事を依頼して

配線を復旧させてください

とのことだった。

これを聞いて我々は

今夜中に復旧することはほぼ不可能と知った。

M部長とA課長はE総務部長やO所長などと連絡を取りつつ

今日電子カルテに打ち込んだ診療データーの送受信と

明日の朝の受付電話やファクスの配線を

何とか、明日の朝までに

終わらせるための段取りを確認して

真っ暗闇の事務所を後にして

2人は自宅へ帰っていった。

翌朝、早々

私が当直室で目を覚まして

1階の事務所に降りると

O所長とA課長がすでに来ていた。

しばらくするとM部長も牛群検診車に乗ってやって来た。

牛群検診車に搭載されている発電機を使って

昨日の診療データーの送信と

今朝の電話とファクスの受付の

電源を確保する、という作戦だった。

我々は早速

発電機と緊急配線の準備に取り掛かった。

ひと通りの配線を終えた頃

高圧電線工事を依頼したS電気の工員が大勢やって来た。

空は雨だったが

復旧工事は昼頃には終わるだろう、とのことだった。

8時30分の始業時刻には

何とか

通常通りの業務を

開始することができた。

私はいつものように往診に出発し

午前中の診療を一通りこなして

昼に事務所に戻った時は

まだ停電は復旧していなかったが

しばらく雑務をしていると

事務所の電気機器が

一斉に息を吹き返した。

雨雲で暗い空しか見えない事務所の

照明が点灯した。

時計の針はちょうど

12時00分を指していた。

昨夜の午後8時から続いていた

17時間にわたる大停電が

ようやく完全復旧したのだった。

(ヤレヤレ・・・)


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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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