北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

「牛に感謝」(5)

「牛に感謝」をする気持ちが、

だんだん乏しくなってゆく、

「ゆゆしい」事態の、

日本の酪農業界の現実を、

説明してきた。

その「ゆゆしい」事態

を招いている原因が、

酪農の大規模化であることを、

説明してきた。

では

そもそも

酪農の大規模化というのは

detail_farming_draw03いったい誰が

やり始めたのだろうか?

乳牛を飼い

その乳を搾ってそれを売るという酪農家の

人口が減ってゆく中で

出荷乳量を維持するためには

1戸あたりの搾乳頭数が増えるのは当然だが

それを「ゆゆしい」ものとは認識せず

むしろ

その大規模化に拍車をかけているのは

大規模化を良しとする考え方である。

酪農の大規模化を良い事と考え

それを我が国の酪農に導入し

推し進めてきた人たちの

模範(モデル)になった酪農は

欧米の酪農

それも特に

アメリカの酪農である。

USFOOD020_435j我が国の酪農業界は

ここ数十年にわたって

アメリカの酪農に大きな影響を受け続け

それを良いものとして見習い

それを必死に勉強して

自国の酪農に取り入れてきた。

アメリカり酪農技術を取り入れる中で

同国の乳牛の獣医技術も

同時に勉強して取り入れてきた。

それによって

我が国の酪農の生産性というものは飛躍的に伸びた。

detail_farming_draw04牛1頭あたりの乳量

酪農家1戸あたりの乳量

共に目を見張るような伸びを見せてきた。

そのこと自体はおそらく良い事であろう。

だが・・・

良い事と思われるものの中には

必ずと言ってよいほど

弊害があることを知らねばならない。

我が国の酪農がお手本としてきた

欧米の酪農

特にアメリカの酪農にも

いろいろな弊害があることを

我々はそろそろ

気づかなければならない時が来た

と私は思っている。

模範として来ただけに

その弊害に気づかず

detail_farming_draw02むしろ

その弊害に目をつむって

アメリカの酪農をひたすら良いものとして

盲目的に取り入れて来た

という側面が

我が国の酪農業界にはある。

ここに「ゆゆしい」事態を招いている

根本的な原因がある

と私は思っている。

根本的な原因というのは

今回ずっと書いて来たテーマである

IMG_3577「牛に感謝」

をするという

気持ちの問題であり

心の問題であり

思想の問題であろう

と私は思っている。

そこをもう少し

掘り下げてみたい。 


(この記事続く)



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「牛に感謝」(4)

前回は、

酪農の大規模化が、

牛の死体に対して鈍感になる行為であり、

牛を大切にしなくなる行為であり、

IMG_3577「牛に感謝」する気持ちを乏しくする、

「ゆゆしき行為」であることを説明した。

「ゆゆしい」というのは、

「そのまま放っておくと、取り返しのつかないことになる」、

という意味である。

酪農の大規模化の「ゆゆしさ」の、

裏付けになっている事は、

まだ他にもある。

例えばまた

飼養頭数50頭のA牧場と

飼養頭数500頭のB牧場があるとする。

いま

A牧場で伝染病が1頭発生したとすると

それが接触感染してゆく恐れのある頭数は50頭である。

B牧場で伝染病が1頭発生したとすると

それが接触感染してゆく恐れのある頭数は500頭である。

もう少し具体的にいうと

例えば 

A牧場で口蹄疫が1頭見つかったとすると

殺処分する頭数は50頭であるが

B牧場で口蹄疫が1頭見つかったとすると

殺処分する頭数は500頭である。

023どちらがダメージが大きいかは

一目瞭然であろう。

(写真は動衛研HPより)

A牧場の50頭の殺処分と

B牧場の500頭の殺処分では

人員の派遣規模も

補償金額も

10倍になる。

口蹄疫は相変わらずアジアの隣国で発生しているので

いつこのような事態になるかわからない。

また、口蹄疫ではなくて

ヨーネ病の場合は

すでにもう現実に

日本のあちらこちらの酪農家で発生している。

我が町も例外ではない。

具体的な農場名はもちろん言えないが

A牧場のような50頭規模の酪農家では

定期的に

1日で50頭のヨーネ病検査のための採血と採便を続けているし

B牧場のような500頭規模の酪農家でも

定期的に

1日で500頭のヨーネ病検査のための採血と採便を続けている。

A牧場のヨーネ検査は数時間で済むが

B牧場のヨーネ検査は丸1日かかる。

検査に訪れる関係機関の労力には

10倍の開きがあり

牧場のスタッフの協力も労力も

00510倍の差があり

その疲労度は10倍になる。

(写真は動衛研HPより)

大規模酪農家の伝染病対策は

小規模酪農家の伝染病対策よりも

効率が悪くなる。

大規模酪農家の生産性が高いのは

その農場が健全に機能している時だけであり

いったん伝染病などの機能の麻痺が起こると

そのダメージは

逆に

非常に大きくなることを

理解していなければならない。

小規模酪農家よりも

大規模酪農家の方が

伝染病に弱いのである。

酪農の大規模化は

まことに

「ゆゆしき行為」

である。


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「牛に感謝」(3)

加入しているNOSAI保険の、

牛の死亡率が、

毎年毎年、

常に高いような酪農家は、

「牛に感謝」する気持ちが乏しい、

ということを前回の記事に書いた。

ここではさらに

そんな死亡率の高い酪農家の中でも

IMG_3577とりわけ

「牛に感謝」する気持ちが乏しい

と思われる酪農家に

焦点をしぼり込んでみたいと思う。

例えば今

牛の死亡率が4%の酪農家A牧場と

同じ死亡率が4%の酪農家B牧場があるとする。

A牧場の飼養頭数は50頭

B牧場の飼養頭数はその10倍の500頭であるとする。

そうすると

A牧場では1年間に2頭の牛が死に

B牧場では1年間に20頭の牛が死ぬことになる。

A牧場は約半年に1頭のペースで

牛の死体の処理をする。

B牧場は約3週間に1頭のペースで

牛の死体の処理をしなければならない。

半年に1度死体を処理する牧場主と

3週間に1度死体を処理する牧場主と

どちらが

牛の死体を処理する事に慣れているかは

一目瞭然である。

A牧場とB牧場を比べて

BlogPaintどちらが

牛の死体に対して

鈍感になっているかは

誰でもわかるはずだ。

牧場全体が

牛の死体に対して鈍感になりやすいのは

A牧場よりもB牧場のほうである。

規模の大きい牧場が

牛の死に対して鈍感になっていることは

私は日頃いやというほど感じている。

牛の死に鈍感になるということは

牛の命を大切にしない傾向になっているのであり

牛を大切にしなくなっているのである。

規模の小さい酪農家よりも

規模の大きい酪農家のほうが

IMG_2340「牛に感謝」する気持ちが

より乏しくなっているというのは

私は日頃いやというほど感じている。

半年に1頭牛が死んでゆくA牧場と

毎月1頭〜2頭の牛が死んでゆくB牧場と

NOSAI保険の死亡率が同じであっても

牧場主がと牧場のスタッフが

牛の死に直面する

その回数は

10倍の開きがある。

「牛に感謝」

をする気持ちの差も

10倍とはいわぬまでも

A(中小規模)牧場とB(大規模)牧場では

かなりの気持ちの差が有ることは

容易に想像できるだろう。

いま

依然として酪農業界は

牧場の規模拡大を推し進めている。

だが

酪農の規模拡大は

牛の死体に対して鈍感になる行為であり

牛の命を軽んじる行為であり

牛を大切に飼えなくなる行為であり

牛を不健康にする行為であり

「牛に感謝」

をする気持ちを減らしてゆく行為である

DD208694-BB64-4D20-B12C-96C24DD548BA酪農の規模拡大は

「ゆゆしき行為」

と言わざるを得ない。


(写真の記事は、5月18日北海道新聞朝刊)

酪農規模の拡大には

莫大な資金が必要であり

後戻りのできない行為でもある。

これから

自分の農場の規模拡大を

真面目に考えている

酪農家の方たちは

この事実を

もう1度

よく考えていただきたいと思う。

本当に

「牛に感謝」

の気持ちのある酪農家ならば

本当に

牛を大切にする酪農家であれば

規模の拡大とは違う道を

考えるのではないか

と私は思うのだ。

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「牛に感謝」(2)

前回の記事で、

人類は「牛に感謝」をすべきである、

ということを書かせてもらった。 

人類・・・などというと、

あまりにも漠然としているので、

これから少し対象をしぼって、

IMG_3577我々畜産関係者、

その中でも酪農に関わるの人達にしぼって、

「牛に感謝」

をすることについて 、

もう少し書かせて頂こうと思う。

 本来は子牛が飲むべき母牛の乳を

子牛に直接に飲ませることなく

その乳を売って生計を立てている酪農家と

その酪農家に出入りして仕事をしている我々獣医師

あるいは酪農関係の業者や団体の人々は

「牛に感謝」

をするべきである。

牛がいなければ仕事のない人たちである。

しかし、それらの人々の外見を見ただけでは

本当にこの人たちが

「牛に感謝」

の気持ちを持って働いているかどうかは

よくわからない。

口では感謝の意を表していても

行動が伴っていない人というのは居るものである。

それを何で判断すれば良いか。

「牛に感謝」をしているのであれば

「牛を大切にする」のは当然であり

出来るだけ「牛を健康に」飼うはずである。

その酪農家の牛が

健康であるかどうかの目安の一つとして

私は、NOSAI保険の死亡率をあげたい。

多くの酪農家はNOSAIの保険に加入している。

IMG_3644加入している酪農家と

そこに出入りしている人たちが

どれだけ「牛に感謝」をしているかの目安として

その農場の牛がどれだけ健康でいるかを示す

NOSAI保険の事故率、病傷率、死亡率、廃用率

は、良い指標になると思う。

中でも特に、死亡率が高ければ高いほど

その農場の牛たちは不健康と言うことができる。

IMG_3645保険という性格上

止むを得ない災害や

いろいろな事情によって

一時的に

NOSAI保険の死亡率が高くなることはあるだろう。

しかし、長期的に

何年間もNOSAI保険の死亡率を見てゆくと

毎年コンスタントに死亡率の高いままの酪農家が

一定の数だけ、必ず存在する。

毎年毎年、慢性的に死亡率が高く

保険金の支払いが

毎年必ず限度を超えてしまうような酪農家。

そんな酪農家に飼われている牛たちは

ほぼ間違いなく不健康であり

その牛たちは「大切にされていない」と判断できる。

牛を大切に飼っていないから

死亡率が高いのであり

その酪農家は

「牛に感謝」

をする気持ちが乏しい

と言うことができるだろう。


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「牛に感謝」(1)

我々人類は、

家畜たちに感謝をすべきである。

家畜と一言で言ってしまうと範囲が広いが、

その家畜の中でも牛は、

代表的な家畜である。

先日たまたま

職場の雑誌棚を整理していたら

明治グループが発行している機関誌があり

IMG_3578 そこに

「牛に感謝」

という言葉を見つけて

これは良い言葉だなと思った。

「牛に感謝」

をすべきことは沢山あるが

そのなかでも酪農に関しては

我々人類の多くが

その乳を飲んでいるわけである。

本来は牛の母親が

我が子に与えるための乳である。

そのような母乳の99パーセント以上を

我々人類は

牛から分けて頂いているのである。

分けて頂いている乳のはずなのに

本来それを飲むべきの子牛のほうは

母親の母乳を直接に飲むことができず

加工した粉末ミルクを

人の手から飲まされている。

我々人類は

子牛たちが飲むべき乳までも

子牛に飲まさずに

牛の母親が出す生乳の99パーセント以上を

まるで横取りするように

自分たちだけで飲んでいるのである。

その行為は

良い事なのだろうか?

その行為について

あえて善悪を問えば

現代酪農というのは

あまり良い行為をしていないように思える。

子牛が飲むべき乳までも

横取りするような

現代酪農について

我々は反省すべきではないだろうか。

IMG_3577反省した先には

「牛に申し訳ない」

という気持ちが湧いてくるはずだ。

その気持ちが

「牛に感謝」

という言葉となって

現れるのは

当然のことだろう。


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搾乳牛の肩の外傷

「今朝産んだ牛が立てない・・・」

そんな、とてもありふれた稟告で、

§牧場に着いて、治療の牛を探した。

「あっちです・・・」 

§さんの指さすD型倉庫の中で、

牛が立っていた。

「・・・立ったんだね。」

「ええ。立ったんですけど・・・」

牛をよく見ると

IMG_3588左の肩に大きな傷があった。

「・・・これはどうしたの?」 

「搾乳牛舎で寝てる時に、自動給餌機が来て・・・」 

「・・・自動給餌機!、停止しなかったの?」

「はい・・・」

§牧場は繋ぎ飼い牛舎で 

牛の飼槽部を巡るように

箱型のモノレールのような

自動給餌機が

一日何回も行き来して

搾乳牛に餌を与えている。

最近よく見かけるスタイルの

繋ぎ飼い牛舎である。 

IMG_3591自動給餌機というのは障害物があると

センサーが働いて停止する。

この牛が

どんな格好をして寝ていたのかはよくわからないが

自動給餌機は停止せずに

IMG_3592産後起立不能になっていたこの牛の

左の肩の部分をえぐって行ったようだ。

私はこのような牛の怪我を見るのは初めてだった。

「・・・とりあえず、縫っておいたほうがいいね。」

「お願いします・・・」 

IMG_3600鎮静をかけて

傷を見ると

長さは約15僂世 

肩甲骨の軟骨部分が

筋層の切れ目の奥深くに見え

IMG_3602深さもそこそこあるようだ。

まずは筋層を縫合し

それから皮膚の縫合。

皮膚の縫合は四胃変位の時と同じ

吸収糸による皮内縫合をした。

IMG_3605牛がおとなしく

楽に縫い終えることができたが

この傷の部分はよく動く場所なので

傷がちゃんと閉じてくれるかどうかは

全くわからなかった。

抗生物質を5日間駐車するように指示して

治療を終えた。

3日後

IMG_3612この牛の傷の状態は

縫合部の腫れもなく良好で

元気も食欲も正常だった。

さらに

2週間後

この牛の傷の状態を

IMG_3630往診のついでに見ると

縫合部がやや膨れて

触ると波動感があった。

これはもしや

化膿したか・・・

そんな心配が頭をよぎったので

IMG_3632腫れた部分に注射器を指して

内容を吸って見ると

淡黄色透明な漿液だった。

なんとか

化膿は免れているようだった。

 
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子宮脱の多発牧場

「朝産んだ牛が子宮脱に・・・」

そんな稟告で向かった◉牧場。

またか・・・

胎盤や腟脱だったらいいのに・・・

そんな都合の良いことを考えながら診療車を走らせて

◉牧場に到着。

IMG_3565残念ながら子宮脱だった。

子宮に付着している胎盤を剥がして

適当な板切れを洗って用意して

場長の☆君と従業員の▼君に

板の左右を持ち上げて子宮を支えてもらいながら

牛の怒責の合間を見計らいながら

IMG_3567少しづつ子宮を押して

腹腔内へ戻し

さらに子宮脱整復棒を押し込み

反転している子宮の歪みを直す。

次に包帯とビューナー針で

IMG_3569外陰部の巾着縫合。

「・・・それにしても最近、子宮脱多いんじゃないの?」

私は縫いながら☆君にそう言った。

「はい・・・」

「・・・確かこの牛はカルシウム打ったって言ったよね。」 

IMG_3573「はい、子宮脱になってからですけど・・・」 

「・・・子宮脱の牛はほとんどが低カルシウムだからね。」

「今月、2頭目なんです。今年になってもう5頭目なんです・・・」

「・・・そりゃ多すぎるわ!」

◉牧場は搾乳牛150頭程度のフリーストール牧場だ。

IMG_3574従業員は場長の☆君を含めて3名。

「はい、それと・・・」 

「・・・それと?」 

「このごろ、お産の介助が早いんです・・・」

「・・・早い?」

「お産だとすぐ引っぱって出すんです・・・」

「・・・あー・・・それかも。」

「そうなんですか・・・」

「・・・自力で分娩しようとする前に、人が引っぱって子牛を出しちゃうと・・・」

「陣痛がそのあとから始まっておさまらなくて・・・」

「・・・子牛がもう子宮の中に居ないから、陣痛で子宮を産んじゃうゃうのよ。」

「子宮を産んじゃうんですか・・・」

「・・・そう。子牛を引っぱり出す前に、自力でもっとふんばらせないとダメだよ。」

「そうですか・・・」

「・・・子宮じゃなくて子牛を出すためにふんばるんだから。」

「わかりました・・・」

子宮脱の原因は

いまだに謎が多いのだが

4ヶ月の間に5例も出たという

子宮脱の多発牧場には

子宮脱を起こす大きな要因として

早すぎる牽引介助という

人為的なものがあったようである。

この事実は

子宮脱のナゾの解明の

新たなヒントになりそうだ。

 
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走る牛たち

昨日の午後からの仕事は、

☆畜産の育成牛約200頭の、

6種混合ワクチンと嫌気性3種ワクチンの注射。

育成牛200頭へワクチンを打つだけの仕事ならば、

それほど時間はかからないが、

この日の主な仕事は予防注射というよりは、

200頭の牛たちが、

町営の育成牧場へ入牧するための、

耳標(ペルタック)の装着であった。

町営牧場の職員全員と

農協畜産部職員と

役場の農林課の職員と

共済組合職員の私が

☆畜産に集合し

元気の良い若牛たちを

数10頭ずつ

一定の場所へ誘導し

1頭1頭に処置を施してゆく。

牛たちの耳標を装着する時は

追い込みの囲い

IMG_3579あるいは

連動スタンチョンで

逃げないように保定して

牧場職員の方々が

手際よく装着してゆく。

私は

IMG_3581それらの作業の

隙をついて(笑)

ワクチンを注射してゆく。

農協畜産部の職員は

☆さんの指示に従って

数10頭ずつの牛群を

小区画(パドック)ごとに入れ替える作業をする。

じつは

IMG_3582この牛群の入れ替え作業が

最も大掛かりな仕事になる。

ある小区画から牛たちを追い出し

追い出した数10頭の牛群を

耳標の装着と予防注射をする牛舎へ

滞りなく誘導するのは

IMG_3583なかなか壮観な牛追い作業である。

行く手の途中に

機械や敷料のロールなどで

壁を作りながら

誘導の道筋を作り

そこへ全員で力を合わせて

IMG_3584牛たちを1頭も逃さずに

誘導してゆく風景は

なかなか壮観な牛追い作業なのである。

群れごと追われる牛たちは

最初は警戒してためらっているが

ある数頭が心を定めて

IMG_3585小走りに動き始めると

後続の牛たちが

それに追随して走り始め

あっという間に

大きな牛群となって

地響きをあげて走り出す。

我々はその牛群を

IMG_3586はぐれる牛が出ないように

声をかけたり

両手を広げたりしながら

誘導してゆく。

牛群を追い込む作業

というのは

IMG_3587間をすり抜けようとする牛たちの

行く手を阻む作業であるとも言える。

この作業

いつも思うのだけれど

どこかしら

バスケットボールの

ディフェンスの動きに

よく似てるなぁ

と思うのだ。


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プチ同窓会・2018/4/23

我が敬愛する友人、

日本獣医生命科学大学、 野生動物動物学教授、

H山S一氏が来帯したので、

例によって十勝組の同窓生が、

帯広の居酒屋に集合した。

9E2E0F3B-2147-44AB-841D-6B910A4999C9






今回集合した6名の中で

我々同級生の中の最年長の

帯広食肉検査場所長O澤氏が初参加だった♪

O澤氏をはじめとして、

これから1年以内に還暦を迎える同級生が

この日は3人居た。

あー・・・もう我々世代は

そんな時代を迎えたんだなー

と・・・皆感慨にふけった一瞬があった。

仕事の方は皆まだバリバリにやっているけれども

そろそろピークを迎えて

これからはゆっくりと

後継者に託して

下り坂に向かう・・・そんな

立場になっていることが

顔を見せた誰からも伺われた。

アルコールが回ってくるに従って

昔の若い頃に戻ってゆくのは

いつものプチ同窓会と

なんら変わることがないのだが

なんら変わることがないところまで行くのに

だんだんと

時間がかかるようになってきたのである(笑)
 

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交配(種付け)後の馬の子宮洗浄

「種付けした後、汚れが出る・・・」、

そんな稟告で、

子宮洗浄をすることになった。

交配(種付け)後の馬の子宮洗浄は、

今シーズンになってからは、

初めてのことだ。

20年ほど前だったら、

繁殖牝馬の数が今よりも、

10倍はいたので 、

今頃は頻繁に数え切れぬほど、

交配後の子宮洗浄をしたものだが、

最近はめっきり減ってしまった。

今回はたまたま、

同僚のC獣医師が同行したので、

子宮洗浄をしているところを、

写真に撮ってもらった。

馬を枠馬に入れて

尾巻きをする。

子宮洗浄用の生理食塩水18リットルの

ポリタンクを枠馬にぶら下げる。

外陰部をスポンジに付けた石鹸でよく洗い

洗浄用の三又のついたシリコンチューブを

タンクの蛇口にセットして

コックをひねる。

三又の短い方の チューブを塞いでおいて

長い方のチューブから洗浄液を出しながら

それをまず膣内に挿入する。

子宮洗浄の前にまず膣洗浄を行う。

IMG_3483膣が洗浄されたら 

チューブの先を持った手を

手とチューブ諸共に

子宮外口から子宮内へすっぽりと挿入する。

挿入した手を魚のヒレのように動かしで

IMG_3491チューブの先から出てくる洗浄液を

子宮の中に満べんなく行き渡らせる。

子宮内に洗浄液が 満杯になったら

シリコンチューブの三又の部分の

タンクにつながっている方を封鎖して

短くついているチューブの方を解放すると

IMG_3486子宮内に溜まった洗浄液が

どっと排出されてくる。

子宮洗浄の還流液は

ガラスのコップなどで受け止めて 

その色や絮片の有無などをよく観察する。

今回の還流液は

IMG_34851回目は米のとぎ汁状に白濁していた。

2回目はそれがかなり薄まって

3回目には肉眼でほぼ透明な洗浄液になった。

絮片は認められなかった。

IMG_3488交配(種付け)後の子宮の汚れとしては

それほど重症ではない

急性の子宮内膜炎であろうと診断した。

子宮に入れている手で

IMG_3490子宮内膜を摘まんでその触感を診ても

異常な触感は認められなかった。

この馬は

排卵していたので

今回の発情での交配(種付け)これで終わり。

そういう場合に私がよく使う

子宮内注入の薬剤は

動物用イソジン液である。

シリコンチューブの短い先に

市販の漏斗を取り付けて

イソジン液を注いでもらえば

IMG_3492それがチューブを通って

子宮内へと注入される。

イソジン液が子宮内へ入ってきたら

また入れている手のひらを魚のヒレのように動かして

子宮内へ満べんなく行き渡らせて

手とシリコンチューブ抜いて

子宮洗浄が終了する。

ここで一つ大切なことは

子宮内に一度挿入した手とチューブは

手技の最初から最後まで

ずっと入れっぱなしで

手を何度も出し入れしないことだ。

出し入れするたびに

外の汚れを

子宮の中に入れてしまうことになるからである。

多くの場合

動物用イソジン液が功を奏し

このまま受胎する可能性さえあるが

再び汚れを出すようであれば

今度は交配(種付け)前にも洗浄する必要があるかもしれず

その時は汚れた液を培養して

細菌検索もすべきであろう。


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新生子牛への狐の食害

ショッキングな画像なので、

閲覧注意と言わざるを得ないのだが、

新生子牛への狐の食害は、

相変わらず後を絶たない。

私1人だけでも年間に数頭の症例があるのだから、

北海道の獣医師が遭遇する数は、

相当な数になるだろう。

親牛が産気づいて横臥すると

破水した後

胎胞が破れて

まず前足2本の蹄先が出て

それから鼻先と舌が出てくる。

IMG_1465そこから

胎児の頭部が完全に出るまでが

陣痛の山場で

胎児の鼻と舌は

親牛の外陰部から

IMG_1466しばらくは全く

無防備なまま露出される。

産道の狭い初産の親牛では特に

お産に時間がかかるので

胎児の鼻と舌が無防備なままで

露出される時間が長くなる。

BlogPaintこの状態が

狐にとっては

美味しい子牛を食べる

絶好のチャンスとなる。

お産している親牛のお尻の傍に

そーっと近づき

無防備な子牛の鼻の肉と

無防備な子牛の舌(タン)が

目の前に出てくるのを待つ。

IMG_3418これはもう

狐にとっては最高のご馳走である。

狐はきっと

出てきた子牛の鼻の肉と

柔らかな子牛の舌(タン)を

目を細めて

美味そうに食べるのだろう。

飼主や従業員の

分娩の監視が疎かになる

深夜から明け方にかけてが

狐にとっては

格好の食事の時間になるのだろう。

私が経験した

今までの症例を

振り返ってみると

分娩の監視が行き届いていない

大規模な農場に

狐が棲み着いて

繰り返し繰り返し

被害を及ぼしていることが多いようだ。

そういう牧場は

狐に居座られないような

工夫が必要だろう。


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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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「かけ」と「もり」の明と暗

日本全国で入学式が行われる季節である。

その中で今、

最も話題になっている加計学園・獣医学部の、

初めての入学式も先日行われたようだ。

入学した獣医学部の学生は147名だったという。

1つの大学の1学年の人数としては日本最大の規模である。

今後は毎年毎年、

140名前後の獣医学部の学生が増え続け、

5年後には約840名の学生が学ぶ日本最大のマンモス獣医学部になる。

6年後からは毎年140名前後の卒業生が国家試験を受けて、

おそらくその8割程度は合格するであろうから、

毎年120名程度の新卒の獣医師が、

我が国に一気に増加することになる。

今から6年後、

新卒の獣医師たちは、

どのような職業を希望し、

どのような職場に身を置くことになるのだろう。

彼らの選ぶ職場は、

それぞれの個人の自由なのはいうまでもない。

しかし

獣医師業界としては

家畜衛生関係などの

人手の足りていない職場の

人員確保をしたいという思惑があるようだ。

果たして

思惑通りに

獣医師が不足している職場へ

新卒獣医師たちは就職してくれるのだろうか?

思惑通りに就職してくれるためには

加計学園をはじめその他の獣医学部の

6年間の教育内容が

大きく影響するのは間違いないと思われる。

聞くところによると

加計学園で教鞭をとる先生方は

東大獣医学部の関係者が多いという。

東大閥の先生方の実力がどのように発揮されるか

注目したいところである。

ともあれ

A24CC550-6E71-4A30-AE62-5E1A6737BB76加計学園獣医学部が

めでたく開学して

学校の授業が始まった途端に

この大学の設立の経緯に関する

色々な報道が一気に吹き出てきた。

IMG_3457なぜか今まで

鳴りを潜めていた様々な疑惑に関する

情報や物的証拠が

加計学園の開学を待っていたかのように

一気に表沙汰になって吹き出してきた。

IMG_3458一連の疑惑の中心人物である安倍首相は

膿を出し切ると言っているようだが

来年の8月まで国政選挙も無い

今のタイミングこそ

膿を出し切るには最良の時期であろう。

IMG_3459首相案件の

加計学園獣医学部の設立は

まんまと成功してしまった。

一方で

昭恵夫人案件の

森友学園の設立は

ものの見事に頓挫した。

「かけ」と「もり」の明と暗

が、ここへ来て

顕著になったようだ。

039AF912-18D7-4715-A5B6-BE85E8D6EB2D一連の疑惑は

きちんと説明されることがなく

モヤモヤとした不快感ばかりが残る。

しかし

一年半も先の

来年の夏の参議院選挙の頃には

そんなモヤモヤも

消えてしまって

この問題が選挙の争点になることは

きっと無いのだろう。

国民の「記憶の限り」

きっとそんな選挙になるのだろう。


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近道を選べば・・・

先日の往診の1軒目の、

沢沿いにあるЖさんの仔牛を診終わって、

2件目の高台にあるЧ牧場へ向かおうというとき、

ふと、

冬の間は通れなかった近道を行ってみようという考えが浮かんだ。

積雪期にЖさんからЧさんへ行くには、

登ってきた谷沿いの道を引き返して、

また別の谷沿いの道を登って行かなければならないのだが、

雪が解けて暖かくなったここ数日ならば、

沢に下りないで尾根づたいに行く道が使えるようになっているはずだ。

私はハンドルを山道のほうに切り

尾根づたいにЧ牧場へと向かい始めた。

途中いくつかのぬかるんだところは有るものの

道路をふさぐような残雪は全く無かった。

視界のよい場所へ出る少し前に

かなり深いぬかるみと轍が有った。

思ったよりスピードが出ていた私の車は

そこへ普通の速度で進入

・・・ガクン!・・・

前輪がわだちに入ってしまった。

あわててブレーキを踏んで停車。

これ以上前進したら立ち往生するのがわかったので

ギアをバックに入れて慎重に後進して

この場所から退散しようとしたその時

・・・ガクン!・・・

後輪も轍に入り込んでしまった。

アクセルをいくら踏んでも

シフトギアを変えていくら動かしても

車輪は空回りするばかりとなった。

・・・やってしまった・・・

918C0352-EF6F-4FD4-8121-584CEBBB39FF私はポケットの携帯を取り

「すぐ上の道で、ハマって動けなくなっちゃったんだけど・・・助けに来てくれる?」

私は1件目のЖさんの息子に、救助を要請した。

しばらくすると

Жさんの息子がトラクターで助けに来てくれた。

D413BE3C-D7F5-4BFB-AB96-0970F1F3C6CFワイヤーをかけて牽引。

診療車はめでたく

ぬかるみから脱出することができた。

「いやーどうも、ありがとう。行けると思ったんだけど・・・甘かった・・・」

8A7476AC-AA09-455C-868F-2ED6EE7D27DB「安田さん、この道はまだ駄目ですよ(笑)」

「申し訳ない・・・」

その後

沢伝いの道に戻って

Ч牧場へ着いて診療をしていると

Жさんからケータイに電話がかかってきた。

点滴中のЖさんの仔牛の

針が抜けてしまったという。

Ч牧場での仕事を終えて

再びЖさんに戻り

子牛の点滴の留置針を差しなおした。

「針の刺し方が甘かったんだろうか・・・」

「いや、仔牛がね、急に立ち上がって首が動いて抜けちゃったのさ。」

そこに居たのはЖさんの父さんだった。

「でも、針の刺し方も甘かったんだろうね、申し訳ない・・・」

「車は大丈夫かい?」

「お恥ずかしいけど、息子さんのおかげで助かったよ・・・」

「安田さん、上の道はまだ駄目だって(笑)」

「はい。申し訳ない・・・」


 近道を選べば春の泥深し   豆作



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牛の臀位の難産

「産気づいているんだけど、足が出てこない。手を入れてみたら、尻尾(シッポ)しか触らない。」

そんな稟告で往診に行ったФ牧場。

手を入れてみると、

なるほど尻尾しか触らない。

臀部が産道に座り込むように進入し、

両後肢の先端は前方へ向いてしまっている。

いわゆる臀位(でんい)の胎児失位の難産である。

このままではどうしようもないので、

手を入れて後肢の腿から先を探ってゆくと、

胎児の右後肢の飛節に触れた。

飛節からさらに先の中足骨部にはなんとか手が届くものの

いきなり中足骨を手で握ることは不可能だった。

「まずは飛節に産科チェーンを掛けますね。」 

こういう手元から遠いところは

産科ロープよりも産科チェーンの方が操作しやすい。

軽い産科ロープの先端は飛節の上から向こうへ落としにくいが

重い産科チェーンの先端は飛節の上から向こうでタラリと垂れ下がる。

垂れ下がったチェーンの先端を

こんどは飛節の下から手を回して指で拾って手繰り寄せれば

産科チェーンを飛節に掛けることができる。

産科チェーンの操作は

重力を味方につけることができるのだ。 

めでたく産科チェーンを飛節に掛けることができたら

掛かったチェーンの手元をФさんに持っていてもらって

こんどは胎児の臀部を押して押して押しまくる。

飛節をチェーンで固定しておいて臀部を押せば

次第に飛節が産道近くへ引き出されてくる。

再び後肢を手で探ると

中足骨部から球節まで触れるようになっていた。

そこで産科チェーンのかかっている部分を

できるだけ中足骨の遠位に押しやって

もう一度チェーンを固定してもらって

私は再び胎児の臀部を押しまくる。

そして手を入れると

後肢の球節からさらにその先の蹄まで手が届くようになる。

そこでさらに産科チェーンのかかっている部分を球節にセットする。

セットした球節の部分の蹄が骨盤の内側へ向くように手で補助して

Фさんにチェーンを強く引いてもらい

それと同時にもう片方の手で胎児の臀部を強く押す。

ここが勝負どころだ・・・

グググっと胎児の右後肢が曲がって産道を通り抜け

右後肢の蹄が陰部から外に出てきた。

「よし、これで後肢が1本整復できたね。じゃもう1本。」

今度は左後肢の整復である。

もう片方の肢も

全く同じ操作をして整復をするのだが

最初の右後肢の整復の時よりも

胎児の位置と産道内に余裕ができているので

左後肢の整復は最初の右後肢の整復より

それほど時間がかからなかった。 

7BA576D9-702C-45F7-A404-15460148542Cついに後肢が2本

産道から外へ出た。

「これで、普通の逆子(さかご)と同じになったから、あとは引っ張るだけ。」

私とФさんは滑車を用意して

後肢の牽引の準備をした。

「ちょっと待って・・・、チェーンをロープに掛け替えるから。」

26F6478D-E236-41B7-AEF1-41920147725Aここは念のためなのだが

強く牽引するときは

産科チェーンよりも産科ロープの方が

胎児の肢へのダメージが少ない。

万が一とてもキツくて中足骨の骨折が起こるかもわからないと思った私は

念のために掛かっているチェーンをロープに掛け替えた。

「よし、引っ張って。」

尾位(逆子)胎児の後肢と臀部が

476D3DAC-A65E-4702-870D-8E6FF4C95D5D陣痛と共に現れて

胎児が牽引娩出された。

「お、まだ生きてるね。」

「ぶら下げて、羊水を吐き出させよう。」

私とФさんは2人で大きな胎児を抱きかかえ

近くにあった鉄柵に胎児の後半身を引っ掛けて 

1DA90C9D-18EC-4ADE-9198-7CD29201A4E2しばらく宙吊り状態にして

羊水を吐き出させた。

尾位では胎児の頭が最後まで子宮の中にあるので

羊水を飲み込んでいることが多い。

胎児が目をパチクリさせはじめたので

Фさんは胎児を床へ下ろし

E3597D2D-8D01-4146-913D-73F64336BA8B親の顔をそこへ導いた。

親牛は胎児を舐め始めた。

「そこそこの大きさの胎児だね、♂、♀、どっち?」

「・・・♀だ・・・♪」

「ちょっと待ってよ。もう1匹腹の中にいるかもしれないから。」

「え、双子だってかい?、おい、それは勘弁だなー・・・」 

「でもね、子牛がシッボから出てくるときって、双子が多いんだよ。」 

「もう片方が♂だったら、がっかりだな・・・(笑)」 

私は過去の経験から

双子の可能性を強く疑った。

恐る恐る

陰部から手を入れて

胎児がもう1つ入っていないかどうか

手をいっぱいに伸ばして子宮内を探った。

「あー・・・いないね、これ1匹だけだね。」 

「良かったー・・・♪」 

Фさんと私は

顔を見合わせて安堵した。

Фさんは60代前半

私は50代後半

息子さんと奥さんは外出中で

初老男子2名だけの

難産介助の仕事だった。


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重種馬の帝王切開 (3年ぶり)

先週の月曜日、

午前の往診の最中の携帯に、

珍しく隣町の先輩のO獣医師から電話がかかってきた。

「馬の難産なんだけど、変だ。胎児は死んでるみたいで、陣痛が全く無い。」

私は、電話口から帝王切開を一緒にやろうという雰囲気を感じた。

とりあえずもう一度、経膣の分娩介助を試みて、

駄目だったら、また電話をしてくるという事で一度携帯を切った。

しばらくしてまた電話が鳴った。

「やっぱり駄目だ。切るしかないから、頼むわ。」

「わかりました。じゃあ、2時に連れて来て下さい。」

案の定の展開だった。

私も覚悟を決め

こちらの診療所の若い獣医師たちに

手術の準備と麻酔の準備としておくように頼み

午前中の往診を終えて

昼食を急いで食べ終えたところへ

隣町のИさんの馬が運ばれてきた。

牛用の手術台を使う、重種馬の帝王切開が始まった。

導入はドミトールとケタラール

維持はGGE+ドミトール+ケタラールのトリプルドリップ

879134D4-C072-468E-A431-0EAE1C9CAC2F右横臥で左下部を切開。

保定は牛よりも頑丈に縛る。

麻酔がしっかりできれば

あとは牛の帝王切開と同じ流れで

腹腔をあけて

子宮をあけて

胎児を縛って吊り上げて摘出。

今回の胎児はすでに死亡して時間がたっており

F224476D-6952-420D-AE4E-2FEF42D2A3C270キロ以上はあろうかという胎児で

胎位は尾位だった。

母馬は2日前まで乳を漏らしていたが

その後乳か上がって陣痛も全く消えてしまっていたという。

羊水はほとんど消えて粘調の悪露になりつつあった。

胎盤は無理に剥がすと出血多量になるので臨機応変にすべきだが

今回は胎盤も簡単にはがれたので全部摘出した。

C5D99E86-1961-45B2-A8AA-DF68BEC1FA36子宮の縫合も牛と同様の一層縫合。

子宮を生食でよく洗い腹腔へ戻した。

腹壁から皮膚までの縫合は

牛よりも頑丈に

腹膜、筋層筋膜、皮筋皮下、皮膚、の4層をそれぞれに縫った。

縫い終わる頃に維持麻酔を止め

7571B35C-61AA-4876-92DF-A0AA195276A8リンゲルなどの補液に切り替えた。

右横臥のまま寝ている母馬をそのままにして

スタッフ一同後片付けを始めた。

牛の帝王切開と違って

全身麻酔をしているので

手術が終わってから直ぐに叩き起こしてはいけない。

A69DAA24-52E2-4DEE-8F10-BD62F3BB773C麻酔が覚めるのをゆっくりと待つことが大切である。

今回は横臥から座位になるまで約30分かかった。

座位になってから起立するまで約10分かかった。

起立してから歩行し始めるまでさらに約10分かかった。

術後約50分でようやく家畜車に乗り

馬は隣町へと帰っていった。

FB2109BD-5556-4118-A458-CC80E9BC50BDそれから3日後

先輩のO獣医師から

電話がかかってきた。

母馬は

食欲も回復し

経過は順調だという事だった。

仔馬は駄目だったけれども

CE90DEFB-CA36-43F5-9A31-C718E5FA3EC1親馬が助かったことで

また次の繁殖への望みをつなぐことができたのは

良い事だった。

診療地区の重種馬の数が

激減してしまった中で

自分の執刀した帝王切開は

じつに3年ぶりだった。


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育成牛の中足骨骨折(その後)

「先生、去年骨折したあの牛なんだけど・・・」

⌘牧場の妊娠鑑定をしていたら、

息子さんがそう言い出した。

「なんだか少し足が曲がってきたみたいなんですよね・・・」

去年の6月末に、

IMG_136115ヶ月齢の育成ホルスタインが、

右の中足骨を骨折して、 

キャストによる外固定の治療を施し、

治癒した症例を、

ブログの記事にしたのだが、

その牛の事だった。

「曲がってきたの?」

「なんとなく最近そう見えるんですよね・・・」

「右の後足だったよね、骨折は治っているはずだけど。」

「そうなんですけどねー、種付けして妊娠して、そろそろ売りたいんですけど・・・」

「足が曲がってたら売り物としては、買い叩かれるか。」

「ええ、まぁそれは市場に出すときに言うからいいんですけど・・・」

「どんな感じ?、今その牛どこにいるの?」

「そこの隣の仕切りの中に居ますよ・・・」

IMG_3322私は⌘さんの息子の指差す方へ向かって

右後肢の中足骨部分に注目した。

「あれからもう9ヶ月か、大きくなったねぇ。」

「はい、右後肢のところ、わかりますか?・・・」

IMG_3323「・・・曲がってる?」

「後ろから見ると、なんとなく凹脚になってません?・・・」

「・・・あー、そう言われてみればそーかなー。」

私はこの牛の骨折の部位が

IMG_1513どこだったかを思い出せずに居た。

事務所に帰ってから

この牛のことを書いたブログの記事

を見直してみた。

IMG_1364骨折部位は

右の中足骨の近位だった。

⌘牧場の息子さんが

「なんとなく凹脚になってきた・・・」

と言ったのは

IMG_1512きっとこの骨折部位から遠位の中心軸に

内側方向へわずかな角度がついてしまったことで

飛節から下が成長するにつれて

だんだんと凹脚が目立つようになったのではないか

と思われた。

IMG_3325牛は元気でピンピンしているし

きっと普通の搾乳牛として育ってくれると思うが

市場に出る・・・

と言うことになると

目敏い買い手から

アラを探されて

買い叩かれることは

間違いないだろう。

IMG_3324私としては

あの牛の骨折が治って

ここまで大きくなってくれたことが

嬉しかったが

完全に現役復帰となるためには

なかなか色々なハードルがあるものだと思った。


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牛の発汗とミネラル代謝

先日の当直の朝、

和牛繁殖農家の◎さんの牛が起立不能、

という往診が入った。

この日の朝はよく晴れていて、

放射冷却で気温は氷点下10℃を大きく下回る、

シバレついた朝だった。

真冬のきついシバレ程ではないが、

まだまだ3月の朝は気温が下がる。 

IMG_3328起立不能になった親牛は

舎外のパドックでうずくまっていた。

周りの他の牛たちと様子が違い

この牛だけは

体毛が真っ白に霜がついていた。

この牛だけ発汗して

その汗の水分が体毛に付着して

毛に付着した水分が

朝の冷気によって急激に冷やされて

真っ白い霜となって

黒毛の牛の体表を覆っていた。

これぞホントの「霜降り」牛である・・・

体温37.8℃、心拍数80、呼吸数約10 

「ずいぶん汗かいてるね。お産はいつ?」

「分娩は確か去年の暮れだったと思うけど・・・」 

「お産は関係ないか。でも、こんなに汗かいて。」 

「体温が下がってる・・・」 

「これはきっと低カルシウムだと思うから、カルシウムを打つね。」 

「お願いします・・・」 

IMG_3330牛は馬と比較すると

あまり汗をかく動物ではない。

牛が汗をかく時というのは

私の経験的に感じているのは

ミネラルの代謝が異常な時が多いようだ。

特に多いのは分娩前後のミネラルの代謝異常の時で

低カルシウム血症をはじめ

低リン血症の時も

モウモウと湯気を上げて汗をかくことが多い。

「今回はお産は関係ないけれども多分低カル、念のために血液とって調べてみるね。」

私は、この牛の血中ミネラル濃度が

どのような状態になっているのか

ちょっと楽しみだった。

きっと異常な値を示すに違いない

そうなれば

牛の発汗の機序が少し分かるかもしれない。

翌日、この牛は起立して

食欲も回復したので

もう1度カルシウムなどのミネラルを投与し

様子を見ることになった。

牛はあっさり治ってくれた。

これはやはり

思惑通り

投与したカルシウムなどのミネラルが効いてくれたのだろう。

そう思って

検査センターから送られてきた検査結果を見た。

初診時の血中濃度は・・・


BlogPaint カルシウム     8.9 mg/dl

 無機リン         3.9 mg/dl

 マグネシウム  1.8 mg/dl


あれっ・・・???

どれも正常値の範囲内だった。

牛が発汗をしている時によくあると感じていた

ミネラルの異常が見られなかった。

私の経験則は

全くあてにならないことが判明した・・・

そして私は

牛が汗をかく機序が

ますます分からなくなってきた・・・

牛の発汗と

ミネラル代謝について

どなたか詳しい人がいたら

教えて欲しい・・・


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NOSAI保険の切り替え

1年毎に掛けられるているNOSAIの保険は、

今月末で終了し、

来月からはまた新しい年度の保険が始まる。

昨日から、

うちの診療所の事務室と会議室は、

その保険の年度切り替えの業務で大忙しである。

入れ替わり立ち替わり、

組合員さんがあらわれ、

手続きを終えて帰ってゆく。

私のような下々の獣医師が、

その引き継ぎ業務の手続きに関わる仕事は、

デスクワークではなく、

実際に牧場へ赴いて、

事務所で交わした契約内容に間違いがないかを確認する作業である。

すなわち

保険にかけた家畜の個体に間違いがないか

その頭数に間違いがないかを確認する作業である。

IMG_3230昨日は

町内の組合員さんの中で

主に馬を飼育している牧場を中心に

その個体の確認と

頭数の確認に回って来た。

IMG_3231病気やケガの往診と違って

あまり切迫感のない仕事ではあるが

1頭たりとも間違ってはならない

重要な仕事でもある。

少しでも疑問点があれば

IMG_3233飼い主さんを呼ぶか

あるいは電話をかけて

疑問点を解決しなければならない。

昨日はたまたま

うちの診療所に実習に来ている学生さんを連れて

IMG_3235個体と頭数の確認作業に回った。

学生さんは馬が好きだということで

馬屋さんを回る私の車に同乗した。

種雄馬の農家さん

繁殖牝馬の農家さん

IMG_3237育成馬の多い農家さん

乗馬やポニーの多い農家さん

などを順に回り

最後のオマケに見て回ったのは

驢馬も飼っている農家さん

馬小屋に驢馬を飼って

驢馬の繁殖をしているのだ。

IMG_3241驢馬の親子は

馬よりも長い耳を動かして

とても可愛らしい(笑)

もっとも

驢馬は

NOSAIの保険の対象ではないので

加入はできないのだが。


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牛の黒色便

「黒い便をして、餌を全く食べなくなった・・・」

当直の夜、そんな電話が入った。

酪農家のЭさんからだった。

IMG_3125「昼間はまだ餌食べてたので、様子見てたんですけど・・・」

「便が真っ黒だね。」

「急にこんな炭みたいな色の便になって、夕方からは全然食べなくなって、これはヤバイなと思って・・・」

「これは、小腸のどこかから出血してるようだね。出血性腸炎かもしれない。」

IMG_3121「腸炎ですか・・・」

「うん、それも胃に近い方のね、便が真っ黒だから。」

「コーサイレージがちよっとカビてたんですよね・・・」

「それは関係あるかもしれないね。」

私は10年近く前に、このブログで

牛のHBS(出血性腸症候群)について記事を書いたことがある。

それから年に数例

IMG_3123HBS(出血性腸症候群)を疑うような症例に

出会うことがあるのだが

今回の症例のように

飼主さんの

「餌のコーンサイレージがカビていた。」

IMG_3124という情報があると

これはHBS(出血性腸症候群)の可能性が

グンと高まってくる。

私はHBS(出血性腸症候群)を強く疑った。

体温 38.5℃   心拍数 110  

普段よりも量の多い補液とトラネキサム酸と抗生物質を投与。

初診の血液検査で

Ht(ヘマトクリット)17.4%  Hb(ヘモグロビン)6.2 g/dl

だった。

翌日からも同様の治療が続いたが

牛の可視粘膜は貧血感を増してゆき

寝起きも困難になってフラフラ状態が数日続いた。

便は黒色泥状便。

第5病日の血液検査では

Ht(ヘマトクリット)7.6% !    Hb(ヘモグロビン)2.4 g/dl !

これは・・・ひどい貧血だ。

この日から牛はとうとう起立不能となってしまった。

半ば諦めムードの中で

さらに3日間の治療が続けられた。

すると牛の顔つきがやや良くなり

食欲が出てきた。

便の色が次第に正常な色へと回復してきた。

しかし、自力起立ができず

可視粘膜は真っ白な貧血感のままだった。

第8病日の血液検査では

Ht(ヘマトクリット)12.6%      Hb(ヘモグロビン)3.6 g/dl 

これは・・・貧血が改善してきた。

さらに治療を続けると

食欲は少しづつ増加し

便の色は正常な色となった。

さらに4日間治療が続けられ

牛の顔つきは良く

食欲は1/2程度まで回復。

しかし

可視粘膜の色は蒼白

そして

どうしても自力で起立することができなかった。

四肢は脱力

麻痺が進行していた。

そして

初診から14病日

飼主のЭさんとの相談の結果

この牛を廃用処分にすることにした。

残念な結果になってしまった。



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乳房からの出血(六たび!)

朝の往診の準備をしていると、

「乳房から血が噴き出しているのですぐ来て欲しい・・・」 

という電話、

£牧場からだった。

 「乳房から血が・・・」

という言葉で、

すぐピーンと来るのは

カラスの突っつきである。

私はこの約一年間で

カラスに突っつかれたことによる

乳房からの出血を

5回も経験している。

過去の5回の乳房出血の記録は

以下の通りである。


 2月24日の乳房からの出血(♯牧場にて)


 3月8日の乳房からの出血(♯牧場にて)


 3月17日の乳房からの出血(♯牧場にて) 


 8月20日の乳房からの出血(∩牧場にて)


 10月1日の乳房からの出血(♯牧場にて)


♯牧場での症例が4回

∩牧場での症例が1回

今回は初めて£牧場だったが

「乳房から出血・・・」 

という言葉 で

きっとカラスによるものだろうという事が

容易に想像できたのだった。

£牧場に着いて

繋がれている牛を見ると

IMG_3174案の定

乳房の側面の

乳静脈の

お決まりの位置からの

IMG_3176出血だった。

これはカラスの突っつきによる出血に

間違いがなかろうと思った。

牛が横臥をしている時に

乳房が後ろ脚の脇からはみ出して
IMG_3177
乳静脈が露出される。

その乳房に走っている乳静脈が

脚に止まったカラスから

突つきやすいような

IMG_3178乳房の真上に露出された時

カラスが突っついて

出血させるのだ。

過去5回とも

IMG_3181出血する位置が

見事に一致している。

「これは間違いなくカラスだね。」

「・・・そうですか。」

IMG_3186私は従業員君に

牛を保定してもらい

ここ1年間の

過去の5回の症例と

全く同じように

出血している部分の縫合処置をした。

「最近カラス多いでしょ?」

「・・・はい、追い払ってるんですけど。」

「一度覚えたカラスは、何度もやるみたいだから注意してね。」

「・・・はい、わかりました。」

過去に

この症例が

4回も繰り返し起こった

♯牧場のようなことに

ならないことを願いつつ

私は£牧場を後にした。
 

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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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