北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

共進会出品馬・当日の怪我

音更町の十勝共進会の、

和牛と馬の部の当番獣医師の仕事を仰せつかり、

7月18日の朝、

事務所を出て会場へ向かっていると、

共進会事務局の十勝農協連のS藤さんから、

電話がかかってきた。

「今どこでしょうか?」

「会場に向かってるところですけど。」

「馬が怪我したので、至急お願いします!」

「はい、あと10分くらいで着くと思います。」

共進会の当番獣医師は

かつて何度もやった事があるが

向かっている途中で診療依頼をされたことは未だかつて無かった。

会場に着くと

S藤さんが待っていて並んでいる厩舎小屋へ案内された。

怪我をしたのは

生後4ヶ月の当歳馬だった。

右の後肢の管部から球節にかけて

縦に約20僂寮攸呂世辰拭

水槽に後肢を突っ込んでしまい暴れたらしい。

「これは、すぐ縫いましょう。枠場はありますか。」

飼主さんばかりではなく

会場スタッフや周囲の見物客も見守る中

親と仔馬は小屋から出て枠場へ移動した。

親用の枠なので大きかったが

ロープを数本使って仔馬に合うようにして

肩と腹へもロープを巻いて保定。

飼主さんと助手さん達の手際はとても良かった。

鼻捻をかけてドミトールで鎮静し

患肢ではない方の足をロープで縛り上げると

枠場の横から患部を診察する事ができた。

ビルコン溶液でよく洗い

薄い筋層と皮下組織を連続縫合で寄せていると

仔馬が足の力を抜いて寝そうになった。

飼主さんはじめ助手の人たちが

約250kgほどの仔馬の体を支えてくれた。

皮膚を6針(だったと思う)結節縫合していると

仔馬はいよいよロープに体を預けて

息苦しそうに体をだらりと落としてきた。

飼主さん達が必死で仔馬の体を支える中

イソジンゲルを塗ったガーゼを患部に当てて

伸縮包帯を巻いて抗生物質を筋注し

なんとか処置を終えた。

だらりとした仔馬の頸静脈にアンチセダンを打ち

しばらくして仔馬に起立を促すと

仔馬はバタバタと枠場の中で立ち上がった。

診療は終了し

親仔馬は控えの小屋へ帰っていった。

IMG_5809「このまま、もう帰ろうかと思ったんだけど・・・」

飼主▪️さんが言うと

そのお父さんと思しき人が

「明日まで様子見るべ・・・」

と、この馬の出品を諦めていない様子だった。

しばらくして、共進会の初日が始まった。

IMG_5810▪️さんの親仔馬は

測尺と歩様検査に参加する事ができた。

仔馬は多少右足をかばっていたが

なんとか無事に終える事ができた。

その翌日

朝一で▪️さんの幕舎へゆき

怪我の仔馬に抗生物質を打ち

明日と明後日も同じように打つように指示し

その後地元の獣医師にガーゼの交換をしてもらうように指示し

私からも地元のNOSAIの診療所へ連絡しておいた。

雨が次第に降り始めたが

その中で

共進会二日目の

比較審査が始まった。

IMG_5813その比較審査にも

この親仔馬はなんとか出品する事ができた。

仔馬は相変わらず右足をかばっていたが

痛みも軽度のようで

歩きにはほぼ支障はなかった。

比較審査の結果の発表が行われ

IMG_5815この親仔馬は

2等賞を獲得する事ができた。

雨の中で

怪我をして

慌ただしい共進会になったが

出品された全ての牛馬の

トラブルはこの1件のみ。

当番獣医師としての仕事は

この当歳馬の治療のみ。

IMG_5820▪️さんは大変だったと思うが

当番獣医師としては

この仔馬の診療だけで

なんとか無事に

仕事を終える事ができ

ホッとしている。


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牛の処女膜

「ホルの育成牛に発情が来たけど、授精できない・・・」

▼牧場からそんな電話がかかって来た。 

よく聞いてみると、

「人工授精の注入棒が、うまく入らない・・・」

のだという。

もう少しよく聞いてみると、

「子宮頸管外口がよく分からず、奇形なのではないか・・・」 

という。

なるほど、

私もかつて何頭か、

そんな未経産の牛に遭遇したことがあった。

せっかく1年以上、その牛を育てて 

めでたく発情が来て

さあ種付け、と思った時に

そんなことになってしまうと

飼主さんの落胆は大きい。

先天的な生殖器の異常では

治療は無理であり

保険金をもらうこともできない。

繁殖用のホルスタインの雌牛が 

いきなり

食肉用の牛になってしまうという

そんな辛い診断をしなければならないのか、と思いつつ

▼牧場へと向かった。

問題の牛は

よく成長した元気なホルの育成牛だった。

「若い授精師さんが、何度も挑戦したんですが、入らないんです・・・」

外陰部が紅潮して緩んでいる。

私は長年愛用の注入棒を差し込んでみた。

すると

その棒の先がスーッと奥に進み

注入口から尿が漏れて来た。

子宮頸管ではなく

その手前の尿道に入ってしまうのだ。

何度やっても

子宮頸管外口ではなく

尿道口に入ってしまうのだ。

「・・・ははー・・・これはもしかして・・・」 

私はかつて

こういう牛にも遭遇したことがあった。

「・・・これは奇形じゃないよ、きっと・・・」

私は即座に

飼主さんに辛い診断を宣告しなくて済むだろうと思った。

「・・・膣鏡を入れてみるからね・・・」

私は注入棒を

膣鏡に持ち替えて

牛の外陰部から

その膣鏡を上向き加減に

膣の背壁を沿うような角度で挿入し

少し力を入れて

さらにその膣鏡を強く挿入した。

プツン・・・

という感触があり

膣鏡は根元まで挿入された。

挿入した膣鏡のネジを巻いて開くと

開いたところから

ドロリ・・・

と白く濁り気味の発情の粘液が流れ出して来た。

IMG_5715発情粘液の後から

鮮血が滲み出して

ポタポタと落ちて来た。

「・・・たぶんこれでよし・・・これは処女膜だよ・・・」

「処女膜ですか?・・・」

「・・・たまに膜が硬くて厚い奴がいるんだよ・・・」

私は膣鏡を抜いて

再び愛用の注入棒に持ち替えて

その棒の先端を膣内に挿入した。

IMG_5713もう片方の手は

直腸から子宮頸管をつかんでいる。

子宮頸管外口と思しきところへ

注入棒の先端を誘導すると

その先端は

子宮頸管外口へスーッと入った。

「・・・今度は普通に・・・頸管に入るようになったから・・・」

「ほんとですか・・・」

「・・・もう大丈夫、次回の発情で普通に授精できるよ・・・」

「ありがとうございます・・・」

私は

久しぶりに

ホルスタインの育成牛の

処女膜破りを経験したのだった。


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首の腫れ物(4)

長い間、

乳牛の診療をしていて、

頻繁に遭遇する体表の膿瘍。

その中でも今回の膿瘍は、

特に印象的な症例となった。

搾乳牛の頸部背側に、

ラグビーボールをふた周りも大きくしたような、

巨大でしかも深く、

切開して手を入れた時、

頚椎をほぼダイレクトに触れるような所まで、

膿瘍が侵入していた。

場所が場所だけに

切開に伴う出血やその他のダメージに対して

色々配慮した方が良かったという反省点も多かったが

ともあれ

何でこんなところに

こんな大きな膿瘍ができたのか?

それを解明することは重要だった。

実は

その答えは簡単だった。

写真を見て頂けれは直ぐわかると思うが

BlogPaint牛を繋いでいるタイストールの

横に渡してある2本のパイプ(ネックレール)のうちの

上の方の位置が

適正な位置ではない。

赤のペンで囲った部分は

牛の膿瘍のほぼ頂点にあたる。

黄色く囲った部分は

ネックレールが牛の頸部のその部分に当たって

対応する部分だけがテカテカに光っている。

△さんの搾乳牛が採食しているのを

ずっと観察していると

TMR(まぜ餌)が目の前に撒かれると

牛は首を伸ばしてそれを食べ始める。

65819324_2293160414234312_3676162813312630784_nその時

ネックレールが低いので

頸部がネックレールに当たる。

食欲旺盛な牛はそれに構わず

首を伸ばして餌をさぐると

牛の前半身の体重が

前肢ではなく

ネックレールに当たっている頸部にかかり

頸部背側の1点に

牛の前半身の体重がかかる。

△さんの他の牛達を観察していると

多くの牛達が

前足を浮かすほど首を差し出して

餌をがむしゃらに食べている。

よく見ると

ほとんどの牛達が

頸部背側の

ネックレールに当たる部分が

瘤(こぶ)になっていた。

コブというかタコというか

ほぼ全ての牛の頸部背側に

ネックレールダコ

が出来ていたのである。

その中で

今回の牛は特別にタコのダメージがひどく

そこに細菌が感染して

膿瘍が形成されていったものと思われる。

タイストールの

ネックレールの位置を直さない限り

この様な症例は

後を絶たないだろう。


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首の腫れ物(3)

切開手術をした翌日、

△さん宅へ様子を見に行くと、

牛は変わらぬ様子で、

普通に餌を食べていたが、

私を見るなり、

緊張した面持ちで立ち上がった。

一番心配していたのは

出血だったが

それはもう止まっていた。

IMG_5618しかし

腫れの大きさは

あれだけ大量の膿汁を

排膿したにもかかわらず

腫れがほとんど変わっていなかった。

これはどういうことなのか?

IMG_5619おそらく

膿汁に替わって

血液と漿液が充満し

そのために

腫れの大きさはさほど変わらぬように見えるのだろう。

ここで

縫合したところをすぐに抜糸して

内容を排出してしまえば

腫れは小さくなるかもしれないが

昨日切開したばかりの創部から

また出血が始まるのは嫌だったので

今日はそのまま縫合部を放置して

毎日抗生物質を投与することにした。

そして

それから1週間後

縫合部分の抜糸をした。

腫れは相変わらずのように見えたが

IMG_5639若干の

萎れた感が観察された。

更に

それから1週間後

この牛の様子を見にいった。

IMG_5706腫れは相変わらず大きかった。

切開部からは

血餅が漏れていた。

しかし

牛は元気で

普通に餌を食べているし

乳量もそこそこ出ているということなので

IMG_5707この牛に何かこれ以上

施すことも無くなったので

治療を終えることにした。

腫れはまだかなり大きい。

外見はまだグロテスクである。

しかし

手術前の腫れの大きさから比べると

手術後の腫れはその7割程度になり

IMG_5602緊張感は薄れていた。

このような頸部背側の

深い膿瘍を切開したのは

初めての事だった。

IMG_5638反省点は多々あり

なかなか綺麗には行かないものだが

今後の参考になれば幸いである。

それにつけても

なぜ

こんな大きな膿瘍が

頸部背側に出来てしまったのか?

その原因は何だったのだろうか?


(この記事つづく)



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首の腫れ物(2)

腫れ物にメスを入れてゆく。

皮膚を切り、

筋肉の層を切り、

筋肉の血管から出血のある中

更に切り進む。

切った層の深さが指の長さ以上(100mm)になっても

まだ筋肉層だった。

更に深く手を入れると

硬い膜のような物に触れた。

この硬い膜は何だろうか・・・?

創面を広げるように横に切り

手を深く入れて

この硬い膜のようなものに

メスを入れた。

プツリ・・・

という感触があった。

その数秒後

切った創面に

クリーム色のとろりとした液体が溢れてきた。

膿汁だった・・・

ということは

この大きな腫れ物は

血腫ではなく膿瘍であった。

牛の頸部背側の

深部にできた大きな膿瘍だった。

切開層をメスで広げて

手がすっぽりと入る大きさまで切開すると

大量の膿汁がとめどなくあふれ出てきた。

IMG_5606助手のH獣医師に

膿瘍を両手で押してもらうと

更に残りの膿汁がたくさんあふれ出てきた。

5リットル以上はあっただろうか。

膿汁の勢いが減ったところで

BlogPaint水道のホースを創部に突っ込み

その先端を膿瘍の奥へ挿入して

膿瘍の内壁を洗った。

排泄されてくる微温湯が

米のとぎ汁のように

BlogPaint次第に透明感が出て

さらにそれを続けると

排出液はほぼ透明になった。

ホースを抜いて

そのまま牛を手術台から下ろした。

創部からは出血が続いた。

IMG_5614止血のために

大きめのタオルを創部に挿入し

そのまま手術を終えるつもりだった。

ところが

しばらくすると

大量の血液を含んでヌルヌルになったタオルが

創部から出てきて落ちてしまった。

創部からは尚も出血が続いた。

数分様子を見ていたが

創部からの出血の勢いは治らなかった。

これだけ出血していると

そのまま牛を返すわけにはゆかなかった。

そこで仕方なく

創部を止血縫合することにした。

ズタズダに切れた筋層からの出血は

血管を特定することができなかったので

IMG_5615筋層を大きく針で掬い

出血が止まるまで繰り返すという

かなりラフな縫合をした。

ようやく

出血が止まったので

抗生物質を投与し

牛を△さんの元へ返すことにした。

△さんには

明日また往診して

様子を見に行くことを伝えた。

(この記事つづく)


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首の腫れ物(1)

「隣の牛、首が腫れてきたんでけど・・・」 

繁殖検診をしている途中で△さんがそう言った。

隣の牛の首を見ると

頸部の背側がラグビーボール大に腫れていた。

「・・・食欲は?」

「あります・・・食べてるからいいか・・・」

「・・・いや、でもこれはでっかく腫れてるね。」

「何なんですかね・・・繁殖に影響ありますか・・・」 

「・・・これだけ腫れてたら、ないとは言えないね。いつからこんなに?」 

「最近急に大きくなったような・・・」 

「・・・検診終わったら、穿刺してみよう。」

「はい・・・。」 

かくして

△さんの牛の繁殖検診を終えて

手持ちの注射針(18G・1-1/2)をシリンジに付けて

腫れ物にへ垂直に差し込んでゆき

シリンジのピストンを引いた。

しかし

注射器の中へは何も吸引されてこなかった。

場所を変えて何度も垂直に差し込んでは

ピストンを引くが

注射器の中へは何も吸引されてこなかった。

何度かやっていると

注射器の中にごくわずかの量の

黒っぽい血液が吸引されるだけだった。

「・・・?・・・。」 

「何ですかね・・・」

「・・・血腫じゃないのかな・・・?」 

「そうですか・・・」

「・・・血腫ならもう少し様子を見るか、小さくなるかもしれないし。」

「はい・・・」 

そんなことがあってから

約2週間後 

再び

△さんの繁殖検診の日がやってきた。 

「あの首の腫れた牛、小さくならないんですけど・・・」 

 「・・・全然?」

「はい・・・何とかなんないですか・・・」

「・・・うーん、じゃあ切ってみるか。」 

「お願いします・・・」 

かくして

その翌週の午後

△さんが

この牛を手術室に連れてきた。

BlogPaintその時の写真がこれ。

手術台に牛を寝かせ

大きく腫れている部分に

まずエコーを当ててみた。

しかし

厚い筋肉組織らしきものが映るばかりだった。

IMG_5603この腫れの正体は

血腫だと言ったものの

確証はなく

エコー画像も

診断の手助けには

いまいちならなかった。

「・・・切って見るしかないか。」

私はエコープローブを

メスに持ち替えて

腫れ物にメスを入れた。

すると・・・


(この記事続く) 


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現代の公共牧場

先日の午後からの仕事は、

ホルスタインの育成牛の妊娠鑑定を約60頭。

妊娠の有無を確認するばかりではなく、

同時に公共牧場の職員が、

これらの牛達に防虫薬のついた放牧用の耳標を、

IMG_5541耳に装着してゆく。

この仕事は、

我々畜産関係者の初夏の風物でもある。 

若い育成牛たちを

広大な公共牧場へ放ち

豊富に草が伸びた夏の放牧地で

秋まで伸び伸びと育てるのが

その目的である。

今年は何頭の牛が入牧するのだろうか?

IMG_5543わが町の小さな公共牧場なので

数百頭にとどまっているようだ。

入牧の頭数がかつてより少なくなった事に加え

おどろいたのは

入牧を希望した農家さんがたったの3件だということ。

昔は町内で何十件もの畜産農家さんが

公共の育成牧場への入牧を希望して

家畜車が何台もやってきては

次々と入れ替わりつつ

朝からお祭り騒ぎで

若牛達を入牧させたものだ。

それがなんと

最近はたったの数件なのだ。

IMG_5546もっとも

その数件の農家さんは皆規模が大きくて

1件で数百頭もの若牛を扱っているところなのだが。

牛の頭数はほとんど変わらずに

農家さんの戸数が激減した

現代の畜産の現状を

ここでも実感することができる。

ただし

公共牧場への入牧頭数と戸数が

これほどまでに減ってしまった理由は

単なる経営規模の変化ばかりではない。

もう一つの理由は

あまり言いたくはないのだが

伝染病の蔓延である。

放牧地特有のピロプラズマなどの原虫病もさることながら

最近では

特に問題視されているのが

牛白血病

牛伝染性下痢粘膜病(BVD-MD)

ヨーネ病

の3つである。

この3つの伝染病は

畜産経営の規模の拡大傾向とともに

増加の傾向を見せており

必死な清浄化対策をしているにもかかわらず

蔓延し続けている。

公共牧場への

入牧牛の減少の

大きな理由になっているのだ。


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育成牛の胸部の外傷(4)

左右の胸に深い傷を負った育成牛。

2週間の治療で、

ひとまず治癒としたものの、

創部には大きな腫れが残り、

その腫れの中身は、

炎症による浸出液(漿液)が溜まっていた。

漿液であれば

膿瘍や血腫と違って

悪影響は少ないだろうと

そのまま様子を見ることにした。

それから

約1ヶ月の時間が経過した。

先日たまたま

別件で〓さん宅に往診に行った時

例の育成牛を見せてもらった。

その写真がこちら

IMG_5379「・・・あれ・・・あんまり綺麗に治ってないね・・・」

「そうですね。」

「・・・左のほうはまぁ、腫れが引いてカサブタになってきてるけど・・・」

「そうですね。」

「・・・右側の傷、まだ汚くて腫れも残ってる・・・」

IMG_5378「そうなんですよ。」

「・・・縫ったところ、開いちやったみたい・・・」

「そうなんですよ、実はこれ・・・右側のパイプに当たっちゃうんで・・・」

「・・・?」

「餌をやると、前に出て、当たっちゃうんです・・・」

IMG_5377「・・・なるほど・・・」

「当たらないようにするのが難しくて・・・」

「・・・そーなんだ・・・」

傷の手当てと

その後の治療法も手探りで

ベストとは言えなかったが

こういう結果になっているのを

目の当たりにすると

手術の後の管理の難しさ

さらには

育成牛の飼育環境の厳しさ

などを

考えざるを得ない。


(この記事終わり)


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育成牛の胸部の外傷(3)

術後5日目にして、

ようやく普通に寝起きするようになり、

食欲が正常に戻り、

なんとか助かったな、

と思えた育成牛。

左右の胸部に深い傷を負った牛に遭遇することは

今までそれほど多くはなく

ましてやその部分に 

手術を施すなどということは

あまり経験することがなかったので

どうなることかと思っていたが

回復の兆しを見せてくれたことで

ひと安心をした。

「でも先生、この腫れは・・・」

「・・・中身はなんだろうね。」

次の課題は

左右の創部にできた

プカプカと波動感のある

ハンドボール大の腫れだった。

IMG_5214こういう腫れ物の中身を

手っ取り早く検査するには

穿刺をすればよい。

超音波診断も大事であるが

常に持ち歩いていないので

IMG_5211注射器と針があれば簡単にできる

穿刺検査を私はいつもやっている。

今回は

右側と左側でそれぞれ穿刺をしてみた。

すると

色の濃さこそ少し違うものの

IMG_5215どちらも漿液が吸引されてきた。

漿液とは

炎症が起こった時に出てくる浸出液である。

もしここで

吸引した液体が

半透明な漿液ではなく

真っ赤な血液だったら

どこかでまだ出血が起こっている可能性があり

貧血の手当てをしなければならない。

また、もしここで

吸引した液体が

半透明な液体ではなく

クリーム色の化膿汁だったら

激しい細菌感染が続いている可能性があり

抗生物質の投与とともに

切開、排膿、洗浄、などの処置をしなければならない。

IMG_5247しかし

今回はそのどちらでもなかったので

「・・・このまま様子を見ましょうか。」

ということになった。

牛は手術後2週間で

IMG_5245治療を打ち切り

あとは

自然治癒力に任せて

様子を見ることにした。

とりあえずの

治癒判定である。


(この記事終わ・・・ろうと思ったけど、もうちょっと続く)


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育成牛の胸部の外傷(2)

胸部に深い傷を負った育成牛。

創部からは肉片が垂れ下がり、

IMG_5188そこに手をいれると、

手がすっぽりと入り、

指先が肋骨に触れた。

牛は食欲がなく、

呼吸も速く、

呆然と痛みに耐えているようだった。

IMG_5190ただ、

幸いな事に、

肋骨という丈夫な防護壁のおかげで、

胸腔内までの損傷はなく、

肺そのものも無事のようだった。

それは

手を入れた時に

IMG_5192空気の漏れがなかったからだが

あらためて

肋骨という防護壁の機能を

肌で感じることができた。

創部を洗浄して

えぐれた肉片を切除した。

IMG_5196その後

できるだけ奥の方から

筋層を縫合し

皮膚を縫合し

ドレーンを装着した。

縫合したのは

IMG_5202牛の右側胸部の派手な傷で

もう一方の左側胸部の傷は

皮膚が切れておらず

挫滅しているだけだった。

他それは手で押すと

IMG_5187ブカブカと波動感があったが

あえて切開はせず

そのまま放置する事にした。

抗生物質を毎日打つように指示して

飼主の〓さんと牛は帰って行った。

翌日

牛は全く食欲がなく

立っていることが辛いのか

終始横臥していた。

傷口を下にして寝てしまうので

傷の手当てができず

仕方がないので

リンゲルやブドウ糖などの補液をして

全身症状に対する治療を続けた。

手術をしてから5日目

〓さん宅へ往診にゆくと

IMG_5208牛は立ち上がっていた。

「今朝から、すぐ立つようになったんですよ。」

〓さんの奥さんがそう言った。

「餌も、今日からだいぶ食べるようになりました。」

「・・・それは良かった。」 

IMG_5209「でも先生、この傷どうなんですか。」

「・・・。」 

「腫れ上がって来たんですけど。」 

立ち上がった牛の

左右の胸部を見ると

どちらの創部も

ハンドボールくらいの大きさに

IMG_5210腫れ上がっていた。

手術をした右胸の創部には

装着したドレーンが

もう役目を果たさずに

ぶら下がっていた。


(この記事続く) 



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育成牛の胸部の外傷(1)

「ホルの育成が胸から何か出ている・・・」

という稟告で向かった〓牧場。

「そのまま様子を見てようと思ったんですけど、元気がないので・・・」 

診ると、

右の下胸部から真っ赤な肉片のようなものが垂れ下がっていた。

「・・・どうしたの?」

「パドックで発情の牛が暴れたみたいで、この牛が扉に挟まれてたんです・・・」

「・・・扉?」

「パドックを仕切る観音開きになっている扉の、半開きの真ん中のところに乗っかってて・・・」

「・・・そのまま動けなかったの?」

「前にも後ろにも行けずに挟まってしまって、扉の鎖を切って、ようやく救出したんです・・・」

「・・・それが昨日?」

「はい、元気そうだったんですが、今日はもうボーッとしてて餌も食べなくて・・・」

「・・・ここで詳しく診るのは大変だから、午後から手術室に運んで来てくれる?」

「わかりました・・・。」

かくして

IMG_5185午後から運ばれて来た牛の

胸部の写真がこれである。

左右の下胸部に挫創があり

特に右の創部からは

布状の脂肪組織のようなものが垂れ下がっていた。

IMG_5187手術台に寝かせて

毛刈りをして

その部分に手を入れると

これがなかなか深い傷だった。

私の手はそのまますっぽりと創部に隠れ

IMG_5188進入させた指先に

肋骨が触れた。

傷の幅は15僂曚匹世

傷の深さも15儖幣紊△

その部分の筋肉と結合組織と脂肪組織が

IMG_5189えぐり出されたような傷だった。

扉の角の部分が当たっていたらしく

深くえぐられていた。

こんな外傷を見るのは

私の経験でも初めてのことだった。

深い傷だったが

胸膜には達していないようだった。

もし、胸膜が破れていたら

呼吸困難に陥っているはずだが

この牛は

呼吸が浅くて早く促迫ながらも

呼吸は出来ているようだった。

創部から空気が漏れてくることもなかった。

「・・・どうしましょうか・・。」

私と助手をしてくれたS獣医師は

IMG_5190しばし思案の後

とりあえず

傷をもう少し開いて

えぐり出された部分を切除し

そのあとの創部を

縫合することにした。


(この記事続く)



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M木先生おめでとう!!

北海道NOSAI研修所長のM木先生が、

このたび学位(博士号)を取得された。

IMG_5299その論文のタイトルは、

「重輓馬における超音波画像検査を利用した卵巣・子宮の診断基準の策定」 

というもので、

重種馬(輓馬)に関するM木先生の長年の研究の集大成である。

牛の乳房炎やその他色々、

IMG_5300牛馬の診療に関して幅広い知識と経験と、

常にその最先端を走っておられるM木先生は、

北海道にとどまらず日本全国の牛馬の獣医師の間では、

その存在を知らない人はいない。

M木先生は

私より一年早くNOSAIに就職し

IMG_5301牛馬の臨床獣医師として15年以上のキャリアを積んでから

北海道NOSAI研修所へ転身した。

そこでNOSAI新人や若手の研修指導ををしながら

自らも常に研究テーマを持ち続けて

今回その集大成をまとめられた。

普通のNOSAI獣医師ではなかなか出来ない

IMG_5302マルチなスーパー獣医師なのである。

私は、M木先生と

ほぼ同期のNOSAI獣医師として

色々と先生の仕事のお手伝いをしたり

自分の仕事に対して助言をもらったり

IMG_5322公私にわたって

長い付き合いをさせてもらっている。

特に重種馬(輓馬)の診療に関しては

共に同じ道を歩んで来た。

そんなM木先生は

IMG_5336同期の桜

と言って良い存在である。

昨日は

帯広畜産大学のN保先生の計らいで

学位取得の祝賀パーティが開催され

私もそれに招かれて出席させて頂いた。

IMG_5328畜大OBのM宅先生はじめ

現役の畜大の先生方や

開業されたI井先生や

私の同僚の十勝NOSAIの臨床家の先生方が

帯広市内のホテルに集まり

和やかなお祝いをした。

重種馬(輓馬)の繁殖

というテーマでの今回の学位取得は

生産力の低下している重種馬生産地と

そこで働く獣医師にとって

とても励みになる出来事である。

M木先生は

「これは私の新たなスタートです。」

と何度も言っていた。

先生の幅広い視野と人脈と

若い獣医師に対する抜群の指導力は

この学位取得によって

ますます磨きがかかり

輝きを増すに違いない。

M木先生の今回の学位取得は

我々のような牛馬の臨床現場の獣医師はもちろん

畜産系の大学や

業界の関係者にとって

とても嬉しく有難い

朗報だと言えよう。

M木先生

本当におめでとうございます!

今後ともどうぞよろしくお願い致します!


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ぼちぼち始まる馬の繁殖

私が就職した30数年前は、

我が町に重種の繁殖牝馬が300頭以上いて、

飼養戸数はざっと40〜50件。

ところが今では、

重種の繁殖牝馬の数は20頭にも満たず、

飼養戸数はたったの5件。

ずいぶんと減ってしまったものである。

寂しい限りなのだが

それは全道的な傾向であった。

重種馬の生産力は

後継者不足で

がた落ちしてしまった。

そしてついに

重種馬の需要と供給のバランスが崩壊し

極度の供給不足となった。

重種馬の需要に変化がほとんどないにもかかわらず

重種馬の供給が極度に低下した。

その結果として

重種馬の価格が跳ね上がった。

それが今から約6年前の出来事だった。

その後

重種馬が高く売れるからと

新規の重種馬の生産牧場が

ぼちぼちと参入してきたが

一度減ってしまった重種馬の生産力は

そう簡単に元に戻せるものではない。

重種馬の生産牧場を

新しく立ち上げる資金のほうは

多くの資本家たちから

注ぎ込まれるようになってきたが

実際に

牧場で重種馬を養い

交配や分娩を管理する人がいないのだ。

お金や人を

なんとか集めても

生産技術を教える経験者や技術者がいない。

一度衰えてしまった重種馬生産の技術力は

そう簡単に回復させられるものではないのである。

重種馬の値段が跳ね上がってから約6年

今、我が町の重種馬の生産力は

底を打った横ばい状態が続いている。

いつになったら

重種馬の生産力が回復するのだろうか

その責務の一端は

私自身にも降りかかってくる。

そんな状態の中で

今年もまた

春がやってきた。

春の訪れと同時に

重種馬の繁殖シーズンがやってきた。

遅ればせながら我が町の重種馬たちにも

41F6AD17-6D7A-47C5-B72A-DDD661A99B0F発情が来るようになり

仔馬も生まれ始めた。

昨日は

3頭の重種馬の直腸検査をした。

83E4FD86-B1BB-4F95-A083-317A48A17EADその3頭は全て

町外の繁殖牝馬たちだった。

我が町内には

人気の種牡馬がいて

その馬を交配させるために

全道から繁殖牝馬が集まってくる。

5D029FEE-DEDB-4F9B-AB92-A250F2A78FBE種馬所のΩさんによれば

今年はすでに

15頭の種付け(交配)をしたという。

繁殖牝馬の肛門に手を入れて

馬糞をかき出しながら

私は

また重種馬の繁殖シーズンが

ぼちぼち始まったな・・・

と感じていた。


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かつて見たこともない牛糞

私が診たのは2診目だった。

F0D273C5-E7DA-4A5E-836C-047124D4C63B食欲は廃絶、

眼球は陥凹、

歩様は蹌踉、

そして何より驚いたのが、

便の性状だった。

直腸検査をして探ってみると

クリーム状の黄白色の泥状便、

AC4B6F88-D98D-4988-9EDE-C6EBEE56F12F直検手袋に張り付き

それはとても糞便というべきものではなく

化膿汁と呼んだ方がふさわしい代物だった。

生後16か月齢のホルスタイン雌

授精はひと月前に済ませていたという。

この時期のホルスタインの雌は

いわば青春真っ盛りの元気のよい頃なので

病気も少なく、たとい病気になっても回復する力を持っている。

BlogPaintそんな年頃の牛が

げっそりと体力を失い

かつて見たこともないような

クリーム色の下痢便を排泄して苦しんでいた。

その後

この牛は毎日点滴と抗生物質の治療が施された。

しかし

C1CA9A6D-3291-44D6-9CF6-4A50ED154AAB一度も好転の兆しを見せることなく

次第に衰弱し

起立困難から起立不能状態となり

第9病日に死亡してしまった。

畜主のΘさんからは最後まで諦めることなく

この牛に精いっぱいの治療をしてほしいと頼まれていた。

EF3E2632-7AC6-4A92-A1C8-EAC2F3C6B122にもかかわらず

我々の治療の効果はほとんどなく

おそらく数日の延命効果にとどまり

最悪の結果となってしまった。

後日

病畜処理場から

病理解剖の結果が送られてきた

BlogPaintそこには一枚の写真とともに

「小腸(とくに空腸後半から回腸)の充出血著明」

とだけ一言記されていた。

臨床所見では血便は肉眼では気付かなかったが

解剖所見では小腸の出血性腸炎という診断だった。

したがってこの牛の死因及び病名は

出血性腸炎。

いわゆるHBS(出血性腸症候群)の一つであったと思われる。


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火気厳禁の不妊治療(2)

長期不受胎の重種繁殖牝馬の、

子宮の中へ灯油を注入する不妊治療。

IMG_5257そんな物を子宮に入れることを、

よく思いついたものだ、

と思った。

が、よく考えてみると

子宮内膜の洗浄と再生を目指すために

子宮内へ注入する薬剤の

IMG_5258多くは水溶物

すなわち水に溶ける薬剤であり

水和性の高いものばかりだった。

そこへ、一つの発想転換として

水和物ではなく

油性の液体による

IMG_5259子宮内膜の洗浄と再生へと

発想が行くのは自然の成り行きかもしれない。

水で落ちない頑固な汚れは

油で落とせるのではないか

と考えるのは

クリーニングに携わる人の

自然な発想なのかもしれない。

帯広畜大のN保先生の指示に従って

前日に

灯油100ml+生理食塩水100ml=200ml

を子宮内に注入した馬の

子宮洗浄をすることにした。

いつものように道具をセットして

陰部を洗浄していると

ほんのりと灯油の匂いが鼻を突いた。

助手をしてくれたΔさんに

子宮内を還流させた洗浄液を

ガラスのコップに受けてもらった。

IMG_5279写真は

1回目の還流液

から

4回目の還流液までを

順番に撮影したものである。

IMG_5280最初の還流液には

白濁した液の中に

非常に多くの絮片が混ざり

それが

還流を繰り返してゆくたびに

IMG_5281絮片の数も白濁の程度も

少なくなっていった。

18リットルのタンク一杯の洗浄液(生理食塩水)を

ほぼ使い切って

子宮洗浄を終えた私は

IMG_5282N保先生の指示通りに

最後に抗生物質の溶液を注入して

作業を終了した。

今後は

この馬に発情が来たら

普通に種付けをすればよいという。

この馬の洗浄液の状態などを

翌日、メールでN保先生に報告したら

その返信メールに

わたくしの経験では注入後4日で交配した18歳のクオーターホース雌馬が受胎しましたので、そのくらい空ければ次の発情で交配できると思います。」

という心強い言葉が書いてあった。

この馬の今後も、楽しみである。

IMG_5283以上

とても簡単な手技であり

しかも

灯油は安価である。

長期不受胎馬を抱えて

治療に困っている飼主さんと獣医師は

ぜひ試してみていただきたい治療法である。

ただ一つ

注意しておくことは

火気厳禁!!!

タバコを吸いながらの治療は

絶対ダメである。


(この記事終わり)


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火気厳禁の不妊治療(1)

十勝管内の重種馬で、

長期にわたって不受胎の繁殖牝馬を、

その道のスペシャリストの先生に診察してもらい、

受胎率の向上を図る事業が行われている。

IMG_5253十勝農協連が主催となり、

帯広畜大のN保先生がその中心的な指導をされている。

我が町の◯牧場で飼われている重種馬1頭も

その事業のお世話になっており

昨年の暮れに検診を受け

IMG_5249先日その診断が下され

診断に従って

治療が施されることになった。

その治療法とは

ちよっと驚きの方法であった。

まず

長期不受胎の対象馬に 

プロスタグランディンとエストラジオールを投与して

子宮頸管を弛緩させる。

弛緩させた子宮頸管外口を通して

子宮の中に薬剤を注入する。

こう書けば

普通の子宮の治療のようだが

ここで使用する薬剤が 

ちょっと驚きの薬剤

IMG_5257何と

「灯油」

なのだ。

子宮内へ繋げたシリコンチューブの

IMG_5258外側に漏斗を付けて

その漏斗の中へ

灯油100ml+生理食塩水100ml

を混ぜ合わせた200mlを注入する。

「カリフォルニアなどの乾燥した地域では、この灯油に火が引火することがあるそうです。」

IMG_5259「え、ほんとですか?」

「そういう注意書きが書かれているんですよ。でも、ここは湿度があるから大丈夫ですね。今日は雪が降るみたいだし。」

N保先生はニコニコしながらそういった。

火気厳禁の先端技術なのだ。

注入した日はそれで終了。

IMG_5262「明日、子宮洗浄をお願いします。」

N保先生から

私は翌日にこの馬の子宮洗浄をするように指示を受けた。 

「子宮洗浄して、その洗浄液を見たら、驚かれるかもしれませんよ。」 

「汚れが出るんですか?」

「はい、きっと。」

IMG_5263N保先生はニコニコしながらそういった。

長期不受胎の馬の子宮内に入れる薬剤として

かつては流動パラフィンがよく用いられて来た。

それはただ入れっぱなしだった。

しかし

今回注入した灯油は

翌日に洗い流す必要があるという事だった。

「洗い終わったら、この抗生物質を入れておいてください。」

IMG_5265N保先生から手渡されたのは

子宮注入用のネオポリシダールという商品名の

抗生物質だった。


(この記事続く)



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ぬいぐるみ(2)

腹部の皮が、

およそ座布団一枚ほど、

ベロリと剥がれてしまい、

それを縫合するのに、

2時間以上を要した大怪我をした和牛。

縫合手術をした3日後の写真がこちら。

IMG_5115漿液が浸出して

腫れ上がっているのは

予想通りだった。

縫合部の一端から 

その漿液が漏れ出しているのも

IMG_5119予想通りだった。

和牛の乳房は

乳牛ではないので小さく

腫れ上がった外傷部に押しやられて

仔牛が乳首を吸いづらい状態になっていた。

しかし

それでも

お腹の空いた仔牛は

母牛の乳首を探し出して吸っているらしく

乳頭は仔牛の唾液で光っていた。

母牛の食欲は正常で

元気も良いので

このままの状態で

外傷部にはさわらずに

抗生物質の注射のみを続けることにした。

そして

それから20日経った時の写真がこちら。

母子ともに

全く普通に

IMG_5182他の親牛たちに混じって

パドックの中に放たれていた。

縫合部の腫れは

相変わらずあるものの

その腫れ具合は

4分の1程度に縮小しており

IMG_5184以前よりも

乳房がよく見える状態になっていた。

仔牛は全く普通に

母牛の乳首に吸い付いて

哺乳をしているようだった。

母牛も全く普通に

IMG_5178カメラを向ける私を警戒し

我が子をかばうように

立ちはだかって

こちらを見るのだった。


(この記事終わり)


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ぬいぐるみ(1)

先日の、

まだ寒さが厳しい頃、

午前中の往診を終えて、

診療所に戻ってみると、

和牛の親子が運ばれて来て、

親牛が手術台に仰臥保定されていた。 

IMG_5100その下腹部には、

写真のように、

巨大な切創があった。

「すごいですね、この傷は・・・」

「でしょ。」

「どうしたんですか・・・」

「古い馬小屋の馬栓棒を乗り越えて出ようとしたんみたいで。」

IMG_5101「何かに驚いたんですか・・・」

「そう、丁度尖がったところがあってね。」

「そこに引っ掛けて、ですか・・・」

「かぎ裂きになってべろっと剥がれて。」

飼主の△さんの父さんは

牛にすまなそうにそう話した。

「この親牛は随分と仔牛を可愛がるやつでね。」

手術台に寝かされた親牛の

IMG_5103顔の前には仔牛がいて

心配そうに

親牛の様子を伺っていた。

この牛の主治医はS獣医師だった。

K獣医師が助手に入り

2人で大きな切創の縫合手術が始まった。

私はまだ往診から帰って来たばかりだったので

IMG_5102昼食の弁当を食べて

再び手術の様子をうかがってみると

縫合にはかなりの時間がかかっているようだった。

単純な作業ではあるが

範囲が広いので

IMG_5104時間がかかっているのだ。

死腔を作らぬように

剥がれた皮膚と皮下組織を

丹念に拾いながらの縫合手術は

思ったより大変そうだった。

IMG_5105私は自分のカルテを書くために

何度か机に戻っては

写真を撮りに手術室を往復した。

そして約2時間後

縫合手術は終わりに近づいた。

IMG_5106S獣医師とK獣医師の額には

大粒の汗が光っていた。

最後の皮膚を縫っている時

私はふと

これはまるで

牛の大きなぬいぐるみを縫いあげているように思えた。

「これってなんだか、ぬいぐるみみたいですね。」

IMG_5110「・・・。」

「・・・。」

2人の先輩獣医師は、苦笑していた。

そんな冗談が通じないほど大変な作業だったようだ。

私はちょっと反省して

親牛の頭の方に目を移した。

IMG_5111親牛の顔の前には

仔牛が寄り添うように

しゃがんでいた。

2時間近くにわたる長い手術で

立っているのに疲れて

座っているのだった。


(この記事続く)



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重種馬の気腫胎(3)

腐敗の始まった胎児を引き出し、

胎盤を剥離して取り出し、

とりあえず仕事がひと段落ついたところで、

私は同僚のT獣医師に電話を入れた。

私が午前中終えているべき残りの診療件数を告げると、

T獣医師はそのほとんどを引き受けてくれた。

「じつは、昼からもその馬の子宮洗浄する予定なんで・・・」

「わかりました、こちらの診療は全て行きますから、大丈夫です。お疲れさまでした。」

こういう時はやはり

常にチームで仕事をこなしている診療所の

メリットが活きるのである。

ヘルプをしてもらったおかげで

私は鵑気鵑凌芭鼎諒夘佞韻鬚罎辰りと終えることができた。

そして

診療所に戻り

昼食の弁当を食べて

午後からの仕事の準備に取り掛かった。

重種馬の流産の後は

多くの場合で子宮洗浄をしておくべきである。

特に今回のような

胎児の腐敗が始まっている流産の場合は必須である。

私は再び鵑気鸞陲妨かい

IMG_5062子宮洗浄をして

仕事を終えた。

ただ

少し残念で淋しかったのは

子宮洗浄を私と飼主の鵑気鵑2人で終えたということ。

機会の少なくなった馬の診療には

若い獣医師を一緒に連れて行きたかった。 

私の若いころは

管内に今よりも10倍以上の数の馬がいたから

少しでも馬の診療の経験を積もうとして 

こんな時は必ず

先輩獣医師と一緒に付いて行って

色々細かいところまで

仕事を覚えたものである。

だが、今

これだけ繁殖雌馬の数が減ってしまうと

獣医師の馬の診療技術取得の

機会も

その必要性も

薄れてしまった。

IMG_5063私にはそれが

残念で淋しいのである。 

せめて

記事に残しておかなければ

淋しくて仕様がないのである。


 (この記事終わり)


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重種馬の気腫胎(2)

朝いつものように、

診療所で往診準備をしている時、

電話がかかってきた重種馬の流産。

最初に行ってすぐ終わらせるつもりの仕事が、

IMG_5045すでに1時間を経過。

ようやく馬を保定して、

陰部に手を入れた。

「・・・。」

「どうだい?・・・」 

「・・・やっぱり流産だね。」 

膣内には胎児の前肢が1本と

その奥に胎児の頭頂部があった。

頭部の下にもう1本の前肢の腕節があった。

「・・・鼻先が下向いて、前肢も1本折れ曲がってるよ。」 

「やっぱりダメだったか・・・」 

「・・・ちょっと引っ張ってみるか。」

私はこちらを向いている前肢を掴んで

強く引っ張ってみた。

しかし

胎児はほとんど動かなかった。

曲がっている前肢は簡単に直ったので

両前肢を掴んで引いてみたが

胎児は全く動かなかった。

分娩予定日までにはまだ3ヶ月ある流産胎児だから

引っ張れば出てくるだろう

という安易な読みは外れてしまった。

「・・・鼻先が曲がって下向いてる・・・これを直さないと出てこないか。」

胎児といえども

馬の鼻は長い。

頭部の整復は牛よりも困難である。

私は車に戻って

粘滑剤の準備をした。

IMG_5056バケツのぬるま湯に粉末の粘滑剤を溶き

カテーテルに付けた漏斗に汲んで

カテーテルのもう一方の先を膣の奥へ押し込んで

膣壁と子宮壁にへばりついている胎児を剥がすように

粘滑剤を流し込んでゆく。

途中で親馬の怒責が強くなり

IMG_5060カテーテルは何度も押し出されてしまうのだが

めげずに粘滑剤の注入を繰り返した。

胎児の両前肢を押し込んだ拍子に

胎児の鼻先がこちらに向いてきたので

さらに前肢を押し込んで

胎児の頭部を整復する事ができた。

「・・・よし、これでもう一度引っ張ってみるか。」

チェーンをかけてあった前肢をそのまま引いてみた。

しかし

胎児は思ったほど動かなかった。

努責による胎水は

少し腐敗臭がした。

「・・・中で腐って膨らんでるみたいだね、これは滑車で引くしかないか。」

私は再び診療車に戻って

産科用の滑車を持ってきて

馬の後方の柱に一方の端を結び

もう一方の端を胎児の肢のチェーンに結んだ。

飼主の鵑気鵑惑呂良’韻犬鰺かせているので馬の頭部から離れることはできず

後方での助産の作業は全て私一人でしなければならなかった。

(ここからの写真はエグいので閲覧注意)

IMG_5055滑車のロープは思ったよりもきつく動かなかった。

さらにぎゅーっと滑車のロープを引くと

急に楽になった

と、思ったら

チェーンをつけてある前肢が一本だけ

肩のあたりから、ちぎれて出てきた。

「・・・あー、ちぎれちゃった。」

IMG_5057胎児の腐敗が進み

片と肋骨の結合部が緩くなってちぎれてしまったのだった。

もう片方の前肢を引いても

また同じようにちぎれてしまう可能性がある。

私は仕方なく

前肢にチェーンをかけることをあきらめて

そのチェーンを胎児の首にかけて引っ張ることにした。

チェーンをかけ直してもう一度滑車を引くと

IMG_5058重い手応えとともに

胎児が引き出されてきた。

ドサッ・・・と胎児が落ちるとともに

残りの胎水が排出されてきた。

「出たかい?・・・」

「・・・うん、やっと出た・・・だけど後産がまだだいぶ付いてるから。」

私は子宮の中に手を入れて

胎盤の剥離を始めた。

妊角のほうは簡単に取れてきたが

不妊角の奥のほうに強い付着があった。

それをゆっくりと手で剥離して

IMG_5059先端までちぎれずに

なんとか胎盤も全域取り出すことができた。

この時点で

手元の時計を見たら

午前11時半を過ぎていた。

治療時間は2時間を超えていた。


(この記事続く)

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