北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

逆子(尾位)と首曲がり(側頭位)の見分け方

「お産なんですけど、頭が触れなくて・・・」、

難産で往診に呼ばれる時、

こういう稟告を言われることは非常に多い。

お産が始まって、

胎児の肢が2本産道に来ているのは確認できた。

正常なお産であれば2本の肢のすぐ奥に

胎児の鼻先、すなわち頭が来ている。

ところがその頭が確認できないと

「頭が触れなくて・・・」

ということになる。

なぜ頭が触れないのか?

その理由は、大きく分けると2つである。

‖杙の首が曲がって頭が真っすぐ来ていない。

胎児が逆子である。

この2つの違いをまず見極めることが

助産するにあたって何よりも大事な事になる。

,世辰疹豺腓

絶対にそのまま胎児の肢を牽引してはならない。

牽引してしまうと、側頭位になり、帝王切開をしなければ胎児は助からなくなる。

△世辰疹豺腓

そのまま胎児の肢を牽引すればよい。

,鉢△

対処方法が全く違うので

ここが、助産の何よりも大きなポイントとなる。

,両豺腓梁杙の肢は

「前肢」である。

△両豺腓梁杙の肢は

「後肢」である。

したがって

産道に来ている胎児の肢が

「前肢」なのか「後肢」なのかが判れば

この手の難産の最大の難関をクリアすることができる。

5DA928A6-9FF0-466A-8857-DF9F990DBBF9その判断のポイントは

「腕節(わんせつ)」の有無である。

産道で胎児の肢を手探りすると

まず蹄と球節があり

その手を奥に差し入れて

50〜80センチほど手を入れたところに

誰が触っても明らかな角度のある部分が確認できる。

それは

「前肢」であれば「肘(ひじ)」であり

「後肢」であれば「飛節」である。

ところが

「肘」と「飛節」との違いを

直接触って判断するのは意外に難しい。

頭が触れずに焦って助産をしていると

「肘」の部分を「飛節」と判断して

逆子と判断してしまうことが多い。

,任△襪里豊△犯獣任

そのまま胎児の肢を牽引してしまい

胎児を死なせてしまうケースが

相も変わらず非常に多い。

「頭が触れない・・・」となった時は

5DA928A6-9FF0-466A-8857-DF9F990DBBF9胎児の肢の

「球節」と

「肘」あるいは「飛節」と

その中間の形態を慎重に触ってゆくことが大切である。

「前肢」ならば

「肘」との間に「腕節」という関節がある。

32DC7608-3818-404D-836C-91116E62D3B9「後肢」ならば

「飛節」との間に関節は無い。

中間に関節が一つ有るか無いかが

重要なポイントになる。

こうして

胎児の肢が

「前肢」なのか「後肢」なのかを

100%間違うことなく判断することができる。

牛のお産では相も変わらず

857D734F-2946-4E15-B9FC-3EFDCD7F4F31逆子(尾位)と

首曲がり(側頭位)との

見極めを誤り

胎児を死なせてしまう事故が多い。

仔牛が1頭でも多く

無事に生まれる事を願って

このことは繰り返し

書いておきたいのである。


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嘔吐が治らなかった黒毛和種の仔牛

「食欲はあるのに嘔吐する」

という稟告の黒毛和種の仔牛、

月齢は約4ヶ月。 

牛が嘔吐するというのは、

反芻の時になんらかの理由で食べこぼしただけで、

その後自然と治ってしまう場合が多い。

今回の症例も

そういうケースではなかろうかと予想しつつ

経過を観察しながら

消炎鎮痛剤と抗生物質の投与が続けられた。

ところが

嘔吐が一向におさまらない。

第2診目、第3診目、も嘔吐が消えず

第4診目には血液検査をしたところ

BUN(血中尿素窒素)とγグロブリンの

若干の高値が見られた以外は

異常値は見られなかった。

だが

長引く栄養摂取不足と

飲水不足によって

削痩が進んで行った。

原因への療法が明確にできぬまま

対症療法としての栄養剤の輸液を増やさざるを得ず

毎日の点滴療法をしばらく続けることになった。

抗生物質の種類も変えながら

約10日間の対症療法が続けられた。

しかし

嘔吐は一向におさまることがなく

仔牛は削痩せてゆくばかりだった。

この仔牛はもともと体格が極端に小さく

月齢4ヶ月になったにも関わらず

体重は80kg程度だったので

それがさらに痩せてゆくとなると

みすぼらしさは増す一方だった。

「諦める・・・しかないか・・・」

治療を開始してから20日以上が経った時

飼主の★さんとの間で

遂にそういう話になった。

まず、この仔牛を予後不良として共済廃用とし

その後、帯広畜産大学に搬入して

病理解剖をしてもらおうと連絡を取ったが

秋の学会シーズンということで

大学の先生方を捕まえることができなかった。

止むを得ず

いつものように

地元の病畜処理場へ搬入することにした。

解剖の依頼書を付けて仔牛を搬入し

解剖結果を待った。

IMG_6178すると

処理場で病理解剖を担当しているO星先生から

剖検結果の丁寧な解説文が返ってきた。

その解説に曰く

「食道に異常を認めず、咽頭の粘膜に黒く変色した部分あり。炎症かどうかの判別はできないが、異常所見はその部位のみ。写真を参照下さい。」

IMG_6177という文章とともに

3枚の写真が添えられて

わかりやすく線と言葉が添えられていた。

これで、この仔牛は

「写真の部分の咽頭炎によって嘔吐がおさまらなかった」

ということが判明した。

生前診断が出来ずにモヤモヤとした気分が

これでスッキリとし

飼主の★さんにも説明をすることができた。

今回は残念な結果となってしまったが

明確な解剖の所見が得られたことで

何とか次に遭遇するであろう未来の症例に対して

参考になるものを残すことができた。

いつものことだが

処理場の諸先生方には

特に今回のO星先生には

感謝申し上げたい。



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F1の「半ミイラ」胎児

先日の当直の朝、

搾乳開始頃の時間に⌘フアームに呼ばれ、

乳熱(低カルシウム血症)の牛を診て、

事務所に帰ってカルテを書いていると、

再び⌘牧場から電話がかかってきた。

今度は、難産だという。

さっきついでに言ってくれれば良かったのに

と思ったが

大きな牧場では一晩に何度も往診することは

よくあることだ。

従業員の◎君の手に負えない難産ということで

そう簡単ではないだろうという覚悟をして

その牛の産道に手を入れて見ると

「・・・?」

「逆子だと思うんですけど・・・」

「・・・なんだか硬いね。」

「まだ奥にある感じで・・・」

「・・・直るかな。」

「飛節だと思うんですけど・・・」

「・・・後肢が向こう向いちゃってるね。」

手の長い◎君がそう言う通り

逆子らしき胎児は産道の奥にあった。

子宮外口(頚管)は開いているが

胎児のお尻と飛節だけが触れる

いわゆる臀位だった。

飛節から手を辿って

足根部を掴んで飛節を押してみた。

臀位の場合はこうすると

球節から蹄先が触れるようになり

球節を手で掴んでもう一度飛節を押すと

手を使っただけで後肢が整復される。

ところが今回はそれがうまくゆかない。

関節が異常に硬くて曲がりづらいのだ。

「・・・奇形かな、これは。」

反転性裂胎かもしれないと思いながら

帝王切開も視野に入れつつ

もう一度整復を試みた。

今度は足根部にチェーンをかけて◎君に軽く固定してもらい

私は全力で臀部と飛節をグイグイと押し込んだ。

硬く硬直した飛節と球節が

次第にこちらを向いてきた。

「・・・もう一度!」

◎君がチェーンで牽引している後肢が

ぐぐっと動いて

後肢の1本がようやく整復された。

もう片方の後肢も同様にして整復し

両後肢がこちらを向いた。

「・・・よし、これであとは、引っ張るだけだ。」

異常に硬くて細い感じのする後肢2本にロープを掛け直して

産科器具でで牽引すると

なにやら硬くやせ細った

怪しげな形の胎児の下半身が現れた。

かなりの抵抗があったが

ここまできたら牽引するしかない。

さらに牽引すると

急に大きくなった胎児の上半身が現れた。

そのまま一気に牽引すると

ようやく胎児がすっぽりと娩出された。

「・・・!、なんだこれは。」

「!(◎_◎;)・・・」

出てきた胎児は

上半身はまともなF1胎児だった。

IMG_6124しかし

下半身は干からびたようにやせ細り

スルメイカの様に

足は硬くねじ曲がり

関節は可動性なく

IMG_6122下半身だけミイラ化が進んでいる様な

「半ミイラ」状の胎児だった。

見た目がエグいので

この写真は閲覧注意かもしれない。

だが、こんな胎児のお産を経験することは

IMG_6128これから先

きっと無いだろうと思うので

学術的な記録として(?!)

ここにアップしておこうと思う。


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孤児馬の下痢

前回の記事は、

育児放棄された和牛の仔の下痢だったが、

今回の記事は、

孤児となった重種の仔馬の下痢である。

孤児になった原因は、

生後10日目で親馬が腸捻転で死亡してしまったことによる。

サラブレッドの生産地であれば

代用の母馬、すなわち乳母(うば)馬

が用意されて

孤児馬は乳母馬に育てられ

事無きを得ることが多いだろう。

ところが

繁殖牝馬が激減してしまった重種馬の生産地では

そう簡単には乳母馬が見つからない。

死産したり、生後の仔馬が死んでしまったりしする繁殖牝馬は

毎年現れるのだが

哺乳されなければ

その牝馬のお乳は1週間程度で出なくなってしまう。

また、タイミングよく乳母になれそうな馬がいたとしても

飼主さん同志が知り合いではなかったり

知っていても仲が悪かったりした時は

孤児馬に乳母馬に出会うことが難しく

非常にハードルの高い状況になっている。

今回の飼主の◎さんも

乳母馬を見つけることができなかった。

仕方なく、止むを得ず

生後10日の孤児馬を

人工哺育することになった。

馬の人工哺育は

牛の人工哺育よりも

はるかに体力を消耗する。

◎さんは朝6時から3時間おきに

馬用の人工ミルクを仔馬に与え続けた。

6時、9時、12時、15時、18時、21時、0時

の7回を毎日繰り返した。

毎日毎日の繰り返しだから 

午前3時だけはキツイのでパスをして 

奧さんと二人で毎日繰り返した。

途中、仔馬が熱を出したり

便がゆるくなったり

元気が無くなったりすると

診療所に電話がかかってきた。

そんなことを何度も繰り返しながら

生後5ヶ月が過ぎた。

仔馬はぐんぐん大きくなった。

5ヶ月が過ぎると

仔馬は共済の保険に加入する資格を得る。

保険に加入した後は治療代が安くなる。

先日、この仔馬の便がまたゆるくなった。

IMG_6024元気は良いのだが

下痢が治らない。

血液検査をしてみると

低タンパク、貧血が見られるものの

その他ミネラルバランスには異常がなかった。

◎さんに話を聞くと

すぐ便がゆるくなるので

離乳の餌としての配合飼料などを控えめにしていたという。

ここで、親がいる仔馬であれば

広い放牧地に親仔を放して

栄養のある青草をたっぷりと食べさせられるのだが

この孤児馬を同じ場所に放牧させるのは

色々な危険が伴うので

それは出来ず

制限された時間の中で放牧し

粗飼料の足りない分は乾草を与えていた。

当然のように粗飼料の摂取不足

配合飼料との給与バランスが崩れ

下痢気味となる。

加えて、放牧が制限されることによって

運動不足になる。

孤児の仔馬の

人工哺育と育成には

大変な苦労がつきまとう。

重種馬の生産地の

悩み事の一つである。


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初産和牛の育児放棄

初産の和牛の難産、

産道が狭く、

陣痛が弱く、

胎児は大きな♂で、

幸い無事に娩出させることができた。

IMG_5939ところが

産んだ後の親牛の行動がよくない。

産んだ仔に近づかない。

まるで恐ろしいものを見るように

警戒して近づこうとしない。

普通ならばここで少しづつ

仔牛に近づいて

我が仔として認識して

舐め初めるなどのスキンシップが始まるのだが

IMG_5938今回の牛は

自分が産んだ仔牛に興味がなく

育児をしようともしない様子だった。

酪農家の初産のホルスタインならば

そのまま普通に親子を離し

別に用意しておいた初乳を飲ませて

普通に人工哺育へ

となるのだが

和牛の繁殖農家は

仔牛を母親のお乳に付かせなければならない。

しかし

今回はそれがうまく行かず

結局

飼主さんが人工哺育することになった。

IMG_6023それから1週間後

この仔牛が下痢をしたという知らせを受け

点滴治療を3日間続けて

なんとか回復させた。

IMG_6022それからまた1週間後

この仔牛がまた下痢をしたという知らせを受け

点滴治療を2日間続けて

再び回復させた。

ここの飼主さん和牛の人工哺育法は

1日3回の授乳である。

もっと授乳回数とかかる時間を増やし

1回に与えるお乳の量を減らして

自然哺乳に近づけることが理想であるが

それは飼主さん側の負担増となり

難しくなってくる。

日本中

どこの和牛生産農家も

きっと同じ問題を抱えているはずである。

  
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ミニチュアホースの鼠径ヘルニア

生まれて間もないミニチュアホース、

元気は良くて、

お乳も吸うのだが、

股の付け根が膨れているという。

飼主の鵑気鵑それを気にして、

電話をかけてきた。

麕匸譴砲弔い匿濃,垢襪

399A92CB-9E7A-4E0D-AA2F-90B51575F4F6なるほど

内股の根元が膨れている。

触診してみると

鼠径部にヘルニアが認められた。

仔馬の腹腔によく起こるヘルニアは

臍ヘルニア



鼠径ヘルニア

がある。

前者は文字通りの

腹壁のど真ん中のお臍にできる。

そのヘルニア輪(穴)は楕円形をしていて

直径数センチ以下の小さなもヘルニア輪であれば

馬体の成長とともに相対的に小さくなり

放っておいても自然治癒することが多い。

またヘルニア輪が大きくて外科手術をすることになっても

臍は位置が良いので手術しやすく治癒率も高い。

これに対して

鼠径ヘルニア

DB93C298-218B-42A5-8563-13C9B4822B74内股の根元

すなわち腹壁と後肢の付け根との間の

間隙からヘルニアが起こる。

そのヘルニア輪(穴)は細長く

精巣からつながる精索もあるので

ヘルニア自体も複雑で

輪(穴)を閉じるのが難しい。

たとえ外科的な処置で閉じたとしても

後肢の根元は強い力が掛かって動くところなので

縫い閉じた部分が切れてしまって再発することが多い。

強い動きによって細菌感染の機会も高まり

臍ヘルニアに比べて治癒が困難である。

仔馬の鼠径ヘルニアを

縫い合わせて治すのは

なかなか難しく

私は過去3例の手術経験があるけれども

そのすべてが細菌感染により

治癒までに数週間から数か月間掛かった。

さて

今回のミニチュアホースの鼠径ヘルニアだが

ヘルニアの大きさはクルミ実程度

10410122-6A8B-4F28-9F22-2C51E61D4A3C仔馬自体は元気で哺乳も正常

ということで

何もせず

そのまま経過を観察することにした。

仔馬が大きく成長するにつれて

鼠径部のヘルニア輪が相対的に小さくなり

自然治癒することを期待することにした。

399A92CB-9E7A-4E0D-AA2F-90B51575F4F6ただ・・・

難点が一つだけある。

ミニチュアホースというのは

大きく成長しないのが特徴の馬である。

この仔馬もきっと

ミニチュアホースゆえ

大きく成長してはくれないだろうから

ヘルニアがいつ自然治癒するのか

予測は難しく

ずっと見守るしかないのである。


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飼主さんの「難産」

「仔牛が下痢でぐったりしてるから、すぐ来て欲しい。」

和牛の繁殖農家の§さんから、

電話が来たのは朝の6時頃だった。

§さん宅に着くと、

牛舎の片隅に繋がれて

ぐったりしている仔牛がいた。

仔牛はいるのだが

§さんが見当たらないので

軽くクラクションを鳴らして

往診に来たことを家に知らせた。

ところが§さんはなかなか出てこない。

しばらく待っていると

家の中から

§さんの奥さんが出て来て

少し慌てたようにこちらに向かって歩いて来た。

「・・・おはようございます!・・・」

「おはようございます。治療はこの仔牛でいいんでしょ?」

「・・・はい・・・でも今、うちの父さん、難産で・・・」

「えっ、難産の牛もいるの?、それは大変だ。その牛はどこに?」

「・・・いえ・・・、牛じゃなくて・・・」

「牛じゃない?」

「・・・本人が・・・難産で・・・」

「本人が?」

「・・・トイレからなかなか出てこないんです・・・」

「大の方?」

「・・・はい(笑)・・・」

「うははは(爆)」

§さんの奥さんは

頓知の効いた人だ。

うまいことを言うもんだと

感心しながら

大笑い。

しばらく待っていると

§さんの父さんがやって来た。

心なしか

スッキリしたような顔をしていた。

IMG_5805下痢の仔牛の治療を開始して

輸液をセットして

抗生物質を打ち

仔牛の番号を確認。

治療している間

私は

込み上げてくる笑いを

抑えることができなかった(笑)



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残暑の難産介助

「お産で足が変・・・らしいんだけど・・・」

昼過ぎの暑い時間帯に追加往診が入った。

「よろしくお願いします・・・今、俺共進会場にいるんで・・・ヘルパーが家にいるんで・・・」

「・・・了解。直ぐ行きます。」

きのうはホルスタインの全道共進会。

酪農家のΣさんは、牛を出品している最中だった。

牛舎に着くと、見慣れないヘルパーさんがいた。

分娩房で寝ている牛は

陣痛で力んでいる様子もなく

ぐったりと疲れ切っているように見えた。

陰部からは

胎児の肢が一本だけ見えていた。

手を入れてみると

仔の肢は後肢だった。

もう一本の肢は産道の奥の方にあり

なかなか手が届かなかったが

それも後肢だった。

なんとか球節を掴んで引っ張ってくることができ

それからは普通の尾位(逆子)の分娩介助である。

しかし尾位の介助の時

胎児が生きていると

必ずといって良いほど足を動かすものだが

今回の胎児の肢は全く動かなかった。

胎児の肢に介助ロープと滑車を取り付けて

ヘルパーさんと力を合わせて牽引すると

かなりキツかったが

大きな♂の胎児が出てきた。

胎児はすでに死後硬直が始まっていた。

陣痛微弱だったために胎児が死亡したのか

他に原因があって胎児が死亡したのか

定かではないが

残念な結果になった。

介助を終えてカッパを脱ぐと

カッパの裏側は汗に濡れ

下着も汗に濡れていた。

親牛にカルシウム剤などの補液を施し

足を洗って帰る支度をしていると

33B8249E-2401-42C9-B459-8663165B65E8Σさんのばあちゃんがやってきた。

「・・・安田さん、スイカ食べるかい?」

お盆にのせた角切りのスイカは

目にまぶしい赤い色をしていた。

「・・・あんまり甘くないかもしれんけど。」

18A95441-AF78-49DB-88C4-7A845838A1F3そのひと切れを取って

口に含むと

冷えたスイカの香りとともに

甘い果汁が口の中一杯に広がった。

「ん!、うまーい!」

E5F3BD56-29A0-40B9-AFBC-BAEF307E40D4「・・・そうかい(笑)」

残暑の中で

カッパを着る難産介助は

暑さがより身に堪えるのだが

このスイカの一切れで

それを吹き飛ばすことができた。


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牛だかり

先日の午前中最後の診療中に、

和牛の難産の追加往診が入った。

牛舎の傍に車を止めて、

難産介助を数十分。

子牛は娩出させたものの

時間が経っていたので

残念ながらすでに息は絶えていた。

ほぼ分娩予定日通りのお産だったが

産道が狭く

胎児が大きく

かつ尾位(逆子)だった。

「頭が来ていない・・・」

という稟告だったので

最悪の側頭位を心配したが

その事態は免れて

経膣で牽引するだけで済んだのは

不幸中の幸いだった。

しかし

強い牽引によって

親牛は産後しばらく立てなかった。

親牛の手当をするために

薬を取りに診療車に戻って見ると・・・

「・・・ん?・・・」

開けたままのハッチバックの周りが

IMG_5863なにやら騒々しい。

育成の牛たちが

放し飼いにされていて

それが集まって中を覗いていた。

牛だかり

が出来ていた。

好奇心旺盛な育成牛たちは

私のことに構わずに

診療車内の道具や薬を

あれこれと物色していた。

「・・・こら〜、どけどけ(笑)・・・」

IMG_5864妙に人馴れしている育成牛たちは

なかなかよけてくれなかった。

最近

和牛の子牛を

農場内で放し飼いにしているのを

よく見かけるが

流行っているのだろうか?

誰か推奨しているのだろうか?

子牛のストレスは少なく

良い飼い方なのかもしれない

と、思った。


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サラブレッド牝馬の外傷縫合の一例

十勝地方の重種馬の生産は、

ばんえい競馬が帯広に残っているおかげで、

頭数や戸数は減りつつも、

瀬戸際で何とか持ちこたえて、

絶滅の危機は免れている。

しかし

十勝地方の軽種馬の生産、

すなわちサラブレッドの生産牧場は、

いよいよ絶滅の危機を迎えているように見える。

そんな数少ないサラブレッドを生産する∇牧場から

「繁殖牝馬が怪我をして、血が止まらない・・・」

という電話がかかって来た。

∇さんの話によると

「昨日突然お尻から出血したので流産したのかと思った・・・」

ところがよく見ると

「外陰部の直下に傷があってそこからの出血だった・・・」

そして

「血はそのうち止まると思って手持ちの抗生物質を打って様子を見ていた・・・」

しかし

「今朝になってもまだ出血しているようだ・・・」

ということで

∇牧場に着いて

FBC8681B-BDEF-42BC-9DAD-111D33C030F2馬を簡易の枠場へ入れて

問題の箇所を診ると

外陰部の下にもう一つの外陰部が出来たかのような

縦に深い傷が口を開けていた。

「・・・これは縫わないとだめですね。」

4A79BDE3-6FD6-4D7E-AEAA-5DA27425834A「お願いします・・・」

しかし

このままで患部を触るのは危険である。

私は簡易枠の後方に

古畳を立ててもらい

4D8A027C-83D7-41EE-AE3C-EE4B16A7AC23蹴られても直接当たらぬようにした。

さらに

∇さんに鼻捻をしてもらった。

患部を洗浄して

触診して見ると

330EF41F-CD63-4DF2-A4B4-71DB1E563605幅約20僉⊃爾橘10僂曚匹

えぐられたような外傷で

奥の筋層からはまだ少し出血が続いていた。

馬は意外な程おとなしかった。

「20才の老齢なんでね・・・」

97D133C7-3C55-4988-A7F2-55275E8B4FA3それでも

∇さんの話では

今年の春先に

タニノギムレットという種牡馬を交配したのだという。

懐かしのダービー馬である。

ともあれ

馬が大変おとなしいので

8A6EB18E-2587-42C7-B8AC-500802474E96私は縫合処置を開始した。

創の最深部の筋層を寄せ

もう一度浅い部分の筋層と皮下織を寄せると

ようやく

出血のしたたりが止まった。

DA68EB32-A1DA-4B9E-A54A-2EEA80B79D85最後に皮膚を結節で縫合。

筋層を縫っているときは

馬はほとんど動かなかったが

皮膚を縫っているときに

馬は痛がって少し動いた。

121F78C6-547B-4FCC-91EC-08A1B5562176しかし

縫合するのにはほとんど支障のない

おとなしい痛がり方で

∇さんと私は

この牝馬をなだめて声をかけながら

最後まで縫い上げることができた。

98610F50-1F35-4D80-8E96-AD6BF07516E7サラブレッドの外傷を

往診先で縫合するのは

何年振りだろう。

重種馬では数年に1度は外傷縫合することがあるが

サラブレッドを縫うのは本当に久しぶりのことだった。

0429BC54-FFA1-4C63-A6F9-E6A3A8A4C6A6私が使っている道具は

写真のように

全く必要最小限の道具に過ぎない。

保定をする道具も

簡易枠場とロープと
52186C69-2A6C-45D3-8A96-1B1DEC0F31BC
鼻捻り一本に過ぎない。

今回は鎮静剤や局所麻酔剤を使わずに

処置をすることができたのは

ひとえに

この馬がとてもおとなしい馬だったからだ。

6CC5D679-6DB3-4CB5-8B2A-4D6E7F950AE4気性の荒い馬だったら

こうは行かなかっただろう。

そこで

現在のサラブレッドの生産地で行われている

最先端の縫合治療は

どのように保定し

どのように治療しているものか

サラブレッドの治療に詳しい先生方に

教えていただきたいと思う。


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良い酪農家・悪い酪農家

われわれ獣医師にとって、

往診した先の牧場の牧場主が、

反社会的勢力の人かどうか見極めることは大切である。

しかし、

飼われている家畜にとって、

自分を養ってくれる牧場の牧場主が、

反社会的勢力であるかどうかは全く問題ではない。

飼われている牛にとっては

自分を養ってくれる飼主が

愛情を持って飼ってくれるかどうか

それが最も重要な問題である。

人間社会の中で

飼主がどんな立場の人であれ

飼われている牛にとっては

自分に愛情を注いでくれていさえすれば

それで良い。

人間社会の中で

飼主がどんなに偉い人であっても

飼われている牛から見れば

単なる飼主なのであり

自分に愛情を注いでくれなければ

つらいだけである。

牛にとって

飼主が自分たちに愛情を注いでくれるかどうか

その一点が重要なのである。

牛に愛情をそそいでいる牧場は

良い牧場である。

その反対に

牛に愛情を注がない牧場は

悪い牧場である。

良い牧場で飼われている牛たちは

健康である。

悪い牧場で飼われている牛たちは

不健康である。

われわれ

牛を診療する獣医師は

健康な牛たちのいる

良い牧場には

ほとんど往診には行かない。

不健康な牛たちのいる

悪い牧場には

毎日のように往診に行く。

IMG_5807それは

牛の病気を診療する獣医師として

当たり前のことである。

しかし

飼育環境が

一向に改善されない

IMG_5806悪い牧場へ

毎日毎日通うことが

当たり前になってしまうのは

とてもよくない事である。

われわれ獣医師の

精神衛生的な面から考えても

とてもよくない事なのである。


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「反社会的勢力」と「畜産」

人気のお笑い芸人だから、

これだけの騒ぎになっているが、

こういうニュースを聞く度に思うのは、

我々獣医師も、

「反社会的勢力」の飼育する家畜を、

診療する可能性がある、

ということだ。

もう15年以上も前の話だが

実際、私は過去に何回か

「反社会的勢力」の幹部が出資している

という噂の牧場の馬を診療した事がある。

IMG_5823しかも、それは 

「闇営業」ではなく

その牧場の馬がNOSAIの保険に加入していたので

普通に呼ばれて「通常営業」として診療をした。

当時はそれだけで

特にトラブルはなかったが

もし何かあったら怖かったなと

今になってゾッとする。

というのも

その後

その馬の所有権か何かの事で

当時のJA畜産部の担当職員が

トラブルに巻き込まれ

「反社会的勢力」の人から恫喝され

体調を崩してしまった事があったからだ。

そんな事を思い出しながら

今回のニュースを読んでいた。

IMG_5827今は

NOSAIへの

家畜の加入の段階で

この手の悪い噂のある牧場や家畜は

もっと厳密に

事前調査されるはずである。

しかし

我々畜産関係者も

いつそのような勢力と

関わってしまうかもわからない

そんな可能性が

依然として

ある

という事を

あらためて思うのだ。


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共進会出品馬・当日の怪我

音更町の十勝共進会の、

和牛と馬の部の当番獣医師の仕事を仰せつかり、

7月18日の朝、

事務所を出て会場へ向かっていると、

共進会事務局の十勝農協連のS藤さんから、

電話がかかってきた。

「今どこでしょうか?」

「会場に向かってるところですけど。」

「馬が怪我したので、至急お願いします!」

「はい、あと10分くらいで着くと思います。」

共進会の当番獣医師は

かつて何度もやった事があるが

向かっている途中で診療依頼をされたことは未だかつて無かった。

会場に着くと

S藤さんが待っていて並んでいる厩舎小屋へ案内された。

怪我をしたのは

生後4ヶ月の当歳馬だった。

右の後肢の管部から球節にかけて

縦に約20僂寮攸呂世辰拭

水槽に後肢を突っ込んでしまい暴れたらしい。

「これは、すぐ縫いましょう。枠場はありますか。」

飼主さんばかりではなく

会場スタッフや周囲の見物客も見守る中

親と仔馬は小屋から出て枠場へ移動した。

親用の枠なので大きかったが

ロープを数本使って仔馬に合うようにして

肩と腹へもロープを巻いて保定。

飼主さんと助手さん達の手際はとても良かった。

鼻捻をかけてドミトールで鎮静し

患肢ではない方の足をロープで縛り上げると

枠場の横から患部を診察する事ができた。

ビルコン溶液でよく洗い

薄い筋層と皮下組織を連続縫合で寄せていると

仔馬が足の力を抜いて寝そうになった。

飼主さんはじめ助手の人たちが

約250kgほどの仔馬の体を支えてくれた。

皮膚を6針(だったと思う)結節縫合していると

仔馬はいよいよロープに体を預けて

息苦しそうに体をだらりと落としてきた。

飼主さん達が必死で仔馬の体を支える中

イソジンゲルを塗ったガーゼを患部に当てて

伸縮包帯を巻いて抗生物質を筋注し

なんとか処置を終えた。

だらりとした仔馬の頸静脈にアンチセダンを打ち

しばらくして仔馬に起立を促すと

仔馬はバタバタと枠場の中で立ち上がった。

診療は終了し

親仔馬は控えの小屋へ帰っていった。

IMG_5809「このまま、もう帰ろうかと思ったんだけど・・・」

飼主▪️さんが言うと

そのお父さんと思しき人が

「明日まで様子見るべ・・・」

と、この馬の出品を諦めていない様子だった。

しばらくして、共進会の初日が始まった。

IMG_5810▪️さんの親仔馬は

測尺と歩様検査に参加する事ができた。

仔馬は多少右足をかばっていたが

なんとか無事に終える事ができた。

その翌日

朝一で▪️さんの幕舎へゆき

怪我の仔馬に抗生物質を打ち

明日と明後日も同じように打つように指示し

その後地元の獣医師にガーゼの交換をしてもらうように指示し

私からも地元のNOSAIの診療所へ連絡しておいた。

雨が次第に降り始めたが

その中で

共進会二日目の

比較審査が始まった。

IMG_5813その比較審査にも

この親仔馬はなんとか出品する事ができた。

仔馬は相変わらず右足をかばっていたが

痛みも軽度のようで

歩きにはほぼ支障はなかった。

比較審査の結果の発表が行われ

IMG_5815この親仔馬は

2等賞を獲得する事ができた。

雨の中で

怪我をして

慌ただしい共進会になったが

出品された全ての牛馬の

トラブルはこの1件のみ。

当番獣医師としての仕事は

この当歳馬の治療のみ。

IMG_5820▪️さんは大変だったと思うが

当番獣医師としては

この仔馬の診療だけで

なんとか無事に

仕事を終える事ができ

ホッとしている。


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牛の処女膜

「ホルの育成牛に発情が来たけど、授精できない・・・」

▼牧場からそんな電話がかかって来た。 

よく聞いてみると、

「人工授精の注入棒が、うまく入らない・・・」

のだという。

もう少しよく聞いてみると、

「子宮頸管外口がよく分からず、奇形なのではないか・・・」 

という。

なるほど、

私もかつて何頭か、

そんな未経産の牛に遭遇したことがあった。

せっかく1年以上、その牛を育てて 

めでたく発情が来て

さあ種付け、と思った時に

そんなことになってしまうと

飼主さんの落胆は大きい。

先天的な生殖器の異常では

治療は無理であり

保険金をもらうこともできない。

繁殖用のホルスタインの雌牛が 

いきなり

食肉用の牛になってしまうという

そんな辛い診断をしなければならないのか、と思いつつ

▼牧場へと向かった。

問題の牛は

よく成長した元気なホルの育成牛だった。

「若い授精師さんが、何度も挑戦したんですが、入らないんです・・・」

外陰部が紅潮して緩んでいる。

私は長年愛用の注入棒を差し込んでみた。

すると

その棒の先がスーッと奥に進み

注入口から尿が漏れて来た。

子宮頸管ではなく

その手前の尿道に入ってしまうのだ。

何度やっても

子宮頸管外口ではなく

尿道口に入ってしまうのだ。

「・・・ははー・・・これはもしかして・・・」 

私はかつて

こういう牛にも遭遇したことがあった。

「・・・これは奇形じゃないよ、きっと・・・」

私は即座に

飼主さんに辛い診断を宣告しなくて済むだろうと思った。

「・・・膣鏡を入れてみるからね・・・」

私は注入棒を

膣鏡に持ち替えて

牛の外陰部から

その膣鏡を上向き加減に

膣の背壁を沿うような角度で挿入し

少し力を入れて

さらにその膣鏡を強く挿入した。

プツン・・・

という感触があり

膣鏡は根元まで挿入された。

挿入した膣鏡のネジを巻いて開くと

開いたところから

ドロリ・・・

と白く濁り気味の発情の粘液が流れ出して来た。

IMG_5715発情粘液の後から

鮮血が滲み出して

ポタポタと落ちて来た。

「・・・たぶんこれでよし・・・これは処女膜だよ・・・」

「処女膜ですか?・・・」

「・・・たまに膜が硬くて厚い奴がいるんだよ・・・」

私は膣鏡を抜いて

再び愛用の注入棒に持ち替えて

その棒の先端を膣内に挿入した。

IMG_5713もう片方の手は

直腸から子宮頸管をつかんでいる。

子宮頸管外口と思しきところへ

注入棒の先端を誘導すると

その先端は

子宮頸管外口へスーッと入った。

「・・・今度は普通に・・・頸管に入るようになったから・・・」

「ほんとですか・・・」

「・・・もう大丈夫、次回の発情で普通に授精できるよ・・・」

「ありがとうございます・・・」

私は

久しぶりに

ホルスタインの育成牛の

処女膜破りを経験したのだった。


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首の腫れ物(4)

長い間、

乳牛の診療をしていて、

頻繁に遭遇する体表の膿瘍。

その中でも今回の膿瘍は、

特に印象的な症例となった。

搾乳牛の頸部背側に、

ラグビーボールをふた周りも大きくしたような、

巨大でしかも深く、

切開して手を入れた時、

頚椎をほぼダイレクトに触れるような所まで、

膿瘍が侵入していた。

場所が場所だけに

切開に伴う出血やその他のダメージに対して

色々配慮した方が良かったという反省点も多かったが

ともあれ

何でこんなところに

こんな大きな膿瘍ができたのか?

それを解明することは重要だった。

実は

その答えは簡単だった。

写真を見て頂けれは直ぐわかると思うが

BlogPaint牛を繋いでいるタイストールの

横に渡してある2本のパイプ(ネックレール)のうちの

上の方の位置が

適正な位置ではない。

赤のペンで囲った部分は

牛の膿瘍のほぼ頂点にあたる。

黄色く囲った部分は

ネックレールが牛の頸部のその部分に当たって

対応する部分だけがテカテカに光っている。

△さんの搾乳牛が採食しているのを

ずっと観察していると

TMR(まぜ餌)が目の前に撒かれると

牛は首を伸ばしてそれを食べ始める。

65819324_2293160414234312_3676162813312630784_nその時

ネックレールが低いので

頸部がネックレールに当たる。

食欲旺盛な牛はそれに構わず

首を伸ばして餌をさぐると

牛の前半身の体重が

前肢ではなく

ネックレールに当たっている頸部にかかり

頸部背側の1点に

牛の前半身の体重がかかる。

△さんの他の牛達を観察していると

多くの牛達が

前足を浮かすほど首を差し出して

餌をがむしゃらに食べている。

よく見ると

ほとんどの牛達が

頸部背側の

ネックレールに当たる部分が

瘤(こぶ)になっていた。

コブというかタコというか

ほぼ全ての牛の頸部背側に

ネックレールダコ

が出来ていたのである。

その中で

今回の牛は特別にタコのダメージがひどく

そこに細菌が感染して

膿瘍が形成されていったものと思われる。

タイストールの

ネックレールの位置を直さない限り

この様な症例は

後を絶たないだろう。


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首の腫れ物(3)

切開手術をした翌日、

△さん宅へ様子を見に行くと、

牛は変わらぬ様子で、

普通に餌を食べていたが、

私を見るなり、

緊張した面持ちで立ち上がった。

一番心配していたのは

出血だったが

それはもう止まっていた。

IMG_5618しかし

腫れの大きさは

あれだけ大量の膿汁を

排膿したにもかかわらず

腫れがほとんど変わっていなかった。

これはどういうことなのか?

IMG_5619おそらく

膿汁に替わって

血液と漿液が充満し

そのために

腫れの大きさはさほど変わらぬように見えるのだろう。

ここで

縫合したところをすぐに抜糸して

内容を排出してしまえば

腫れは小さくなるかもしれないが

昨日切開したばかりの創部から

また出血が始まるのは嫌だったので

今日はそのまま縫合部を放置して

毎日抗生物質を投与することにした。

そして

それから1週間後

縫合部分の抜糸をした。

腫れは相変わらずのように見えたが

IMG_5639若干の

萎れた感が観察された。

更に

それから1週間後

この牛の様子を見にいった。

IMG_5706腫れは相変わらず大きかった。

切開部からは

血餅が漏れていた。

しかし

牛は元気で

普通に餌を食べているし

乳量もそこそこ出ているということなので

IMG_5707この牛に何かこれ以上

施すことも無くなったので

治療を終えることにした。

腫れはまだかなり大きい。

外見はまだグロテスクである。

しかし

手術前の腫れの大きさから比べると

手術後の腫れはその7割程度になり

IMG_5602緊張感は薄れていた。

このような頸部背側の

深い膿瘍を切開したのは

初めての事だった。

IMG_5638反省点は多々あり

なかなか綺麗には行かないものだが

今後の参考になれば幸いである。

それにつけても

なぜ

こんな大きな膿瘍が

頸部背側に出来てしまったのか?

その原因は何だったのだろうか?


(この記事つづく)



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首の腫れ物(2)

腫れ物にメスを入れてゆく。

皮膚を切り、

筋肉の層を切り、

筋肉の血管から出血のある中

更に切り進む。

切った層の深さが指の長さ以上(100mm)になっても

まだ筋肉層だった。

更に深く手を入れると

硬い膜のような物に触れた。

この硬い膜は何だろうか・・・?

創面を広げるように横に切り

手を深く入れて

この硬い膜のようなものに

メスを入れた。

プツリ・・・

という感触があった。

その数秒後

切った創面に

クリーム色のとろりとした液体が溢れてきた。

膿汁だった・・・

ということは

この大きな腫れ物は

血腫ではなく膿瘍であった。

牛の頸部背側の

深部にできた大きな膿瘍だった。

切開層をメスで広げて

手がすっぽりと入る大きさまで切開すると

大量の膿汁がとめどなくあふれ出てきた。

IMG_5606助手のH獣医師に

膿瘍を両手で押してもらうと

更に残りの膿汁がたくさんあふれ出てきた。

5リットル以上はあっただろうか。

膿汁の勢いが減ったところで

BlogPaint水道のホースを創部に突っ込み

その先端を膿瘍の奥へ挿入して

膿瘍の内壁を洗った。

排泄されてくる微温湯が

米のとぎ汁のように

BlogPaint次第に透明感が出て

さらにそれを続けると

排出液はほぼ透明になった。

ホースを抜いて

そのまま牛を手術台から下ろした。

創部からは出血が続いた。

IMG_5614止血のために

大きめのタオルを創部に挿入し

そのまま手術を終えるつもりだった。

ところが

しばらくすると

大量の血液を含んでヌルヌルになったタオルが

創部から出てきて落ちてしまった。

創部からは尚も出血が続いた。

数分様子を見ていたが

創部からの出血の勢いは治らなかった。

これだけ出血していると

そのまま牛を返すわけにはゆかなかった。

そこで仕方なく

創部を止血縫合することにした。

ズタズダに切れた筋層からの出血は

血管を特定することができなかったので

IMG_5615筋層を大きく針で掬い

出血が止まるまで繰り返すという

かなりラフな縫合をした。

ようやく

出血が止まったので

抗生物質を投与し

牛を△さんの元へ返すことにした。

△さんには

明日また往診して

様子を見に行くことを伝えた。

(この記事つづく)


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首の腫れ物(1)

「隣の牛、首が腫れてきたんでけど・・・」 

繁殖検診をしている途中で△さんがそう言った。

隣の牛の首を見ると

頸部の背側がラグビーボール大に腫れていた。

「・・・食欲は?」

「あります・・・食べてるからいいか・・・」

「・・・いや、でもこれはでっかく腫れてるね。」

「何なんですかね・・・繁殖に影響ありますか・・・」 

「・・・これだけ腫れてたら、ないとは言えないね。いつからこんなに?」 

「最近急に大きくなったような・・・」 

「・・・検診終わったら、穿刺してみよう。」

「はい・・・。」 

かくして

△さんの牛の繁殖検診を終えて

手持ちの注射針(18G・1-1/2)をシリンジに付けて

腫れ物にへ垂直に差し込んでゆき

シリンジのピストンを引いた。

しかし

注射器の中へは何も吸引されてこなかった。

場所を変えて何度も垂直に差し込んでは

ピストンを引くが

注射器の中へは何も吸引されてこなかった。

何度かやっていると

注射器の中にごくわずかの量の

黒っぽい血液が吸引されるだけだった。

「・・・?・・・。」 

「何ですかね・・・」

「・・・血腫じゃないのかな・・・?」 

「そうですか・・・」

「・・・血腫ならもう少し様子を見るか、小さくなるかもしれないし。」

「はい・・・」 

そんなことがあってから

約2週間後 

再び

△さんの繁殖検診の日がやってきた。 

「あの首の腫れた牛、小さくならないんですけど・・・」 

 「・・・全然?」

「はい・・・何とかなんないですか・・・」

「・・・うーん、じゃあ切ってみるか。」 

「お願いします・・・」 

かくして

その翌週の午後

△さんが

この牛を手術室に連れてきた。

BlogPaintその時の写真がこれ。

手術台に牛を寝かせ

大きく腫れている部分に

まずエコーを当ててみた。

しかし

厚い筋肉組織らしきものが映るばかりだった。

IMG_5603この腫れの正体は

血腫だと言ったものの

確証はなく

エコー画像も

診断の手助けには

いまいちならなかった。

「・・・切って見るしかないか。」

私はエコープローブを

メスに持ち替えて

腫れ物にメスを入れた。

すると・・・


(この記事続く) 


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現代の公共牧場

先日の午後からの仕事は、

ホルスタインの育成牛の妊娠鑑定を約60頭。

妊娠の有無を確認するばかりではなく、

同時に公共牧場の職員が、

これらの牛達に防虫薬のついた放牧用の耳標を、

IMG_5541耳に装着してゆく。

この仕事は、

我々畜産関係者の初夏の風物でもある。 

若い育成牛たちを

広大な公共牧場へ放ち

豊富に草が伸びた夏の放牧地で

秋まで伸び伸びと育てるのが

その目的である。

今年は何頭の牛が入牧するのだろうか?

IMG_5543わが町の小さな公共牧場なので

数百頭にとどまっているようだ。

入牧の頭数がかつてより少なくなった事に加え

おどろいたのは

入牧を希望した農家さんがたったの3件だということ。

昔は町内で何十件もの畜産農家さんが

公共の育成牧場への入牧を希望して

家畜車が何台もやってきては

次々と入れ替わりつつ

朝からお祭り騒ぎで

若牛達を入牧させたものだ。

それがなんと

最近はたったの数件なのだ。

IMG_5546もっとも

その数件の農家さんは皆規模が大きくて

1件で数百頭もの若牛を扱っているところなのだが。

牛の頭数はほとんど変わらずに

農家さんの戸数が激減した

現代の畜産の現状を

ここでも実感することができる。

ただし

公共牧場への入牧頭数と戸数が

これほどまでに減ってしまった理由は

単なる経営規模の変化ばかりではない。

もう一つの理由は

あまり言いたくはないのだが

伝染病の蔓延である。

放牧地特有のピロプラズマなどの原虫病もさることながら

最近では

特に問題視されているのが

牛白血病

牛伝染性下痢粘膜病(BVD-MD)

ヨーネ病

の3つである。

この3つの伝染病は

畜産経営の規模の拡大傾向とともに

増加の傾向を見せており

必死な清浄化対策をしているにもかかわらず

蔓延し続けている。

公共牧場への

入牧牛の減少の

大きな理由になっているのだ。


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育成牛の胸部の外傷(4)

左右の胸に深い傷を負った育成牛。

2週間の治療で、

ひとまず治癒としたものの、

創部には大きな腫れが残り、

その腫れの中身は、

炎症による浸出液(漿液)が溜まっていた。

漿液であれば

膿瘍や血腫と違って

悪影響は少ないだろうと

そのまま様子を見ることにした。

それから

約1ヶ月の時間が経過した。

先日たまたま

別件で〓さん宅に往診に行った時

例の育成牛を見せてもらった。

その写真がこちら

IMG_5379「・・・あれ・・・あんまり綺麗に治ってないね・・・」

「そうですね。」

「・・・左のほうはまぁ、腫れが引いてカサブタになってきてるけど・・・」

「そうですね。」

「・・・右側の傷、まだ汚くて腫れも残ってる・・・」

IMG_5378「そうなんですよ。」

「・・・縫ったところ、開いちやったみたい・・・」

「そうなんですよ、実はこれ・・・右側のパイプに当たっちゃうんで・・・」

「・・・?」

「餌をやると、前に出て、当たっちゃうんです・・・」

IMG_5377「・・・なるほど・・・」

「当たらないようにするのが難しくて・・・」

「・・・そーなんだ・・・」

傷の手当てと

その後の治療法も手探りで

ベストとは言えなかったが

こういう結果になっているのを

目の当たりにすると

手術の後の管理の難しさ

さらには

育成牛の飼育環境の厳しさ

などを

考えざるを得ない。


(この記事終わり)


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