北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

不揃いの双子・part2

「∩牧場のお産で子宮捻転らしいので、行ってもらえますか?」

午前中の往診の最後の家で連絡が入った。

「了解です。」

∩牧場に着くと、

分娩房に従業員の◉君がいて、

その前に死亡した仔牛が横たわっていた。

「もう出たの?」

「はい、出しました。」

「子宮捻転だって聞いたんだけど・・・」

「はい。ちょっと捻れてたんで、でも直して出せました。」

「それは良かった!」

私はホッとした。

仔牛は死亡してしまったとはいえ

大変なところはもう◉君がやり終えてくれた。

◉君は従業員のチーフ的な存在で

∩牧場の中では最も信頼されているベテランである。

「でも、安田さん、もう1つ入ってるんですよ。」

「双子なの?」

「はい。」

親を見ると

外陰部から胎児の肢が2本覗いていた。

「今、引っ張るところなんです。」

◉君は助産用の産科道具を牛の腰に当てて

出ている2本の肢にロープをかけて

2頭目の胎児の助産をはじめた。

双子の胎児の2頭目ならば

ベテラン従業員の手にかかれば

簡単に出すことができるはずなので

私はカッパにも着替えずに

助産道具を使っているところを写真におさめた。

IMG_4713それが左の写真である。

この道具のレバーの根本の部分に

胎児の肢に繋いだロープをかけて

レバーを引けば

胎児を簡単にかつ強く牽引することができる。

IMG_4711「・・・。」

私は◉君の作業を見守っていた。

「・・・。」

胎児の肢はそれほど太くはなく

頭も産道に乗っているようだった。

「・・・あれ?・・、なんで来ないんだろう・・・」

「頭は来てるんでしょ?」

「・・・すぐそこに来てます・・・」

「じゃあ引けば出るよね。」

「・・・のはずなんだけど、なんでだろう・・・」

◉君がいつになく苦労しているので

私はカッパに着替えて助産を手伝う事にした。

牽引レバーをゆるめて

IMG_4712手を入れてみた。

「・・・ん・・・。」

「どうですか?」

「・・・ん・・・、この左側の肢なんかおかしいぞ・・・」

私は2本出ている肢の形態を手で丁寧に触診した。

右の肢には球節の次に腕節があった。

左の肢には球節の次に腕節の膨らみがなく

いきなり片方に尖ったような部分に触れた

飛節だった。

「これ・・・前肢じゃなくて後肢だよ・・・」

「え、本当ですか。」

私は後肢にかかっているロープをはずし

前肢にかかっているロープ1本だけの牽引を指示した。

すると、ロープをはずした後肢が戻って行き

前肢と頭が外へ出てきた。

そのまま道具で牽引を続けると

首と胴体が出てきた

その脇にぴったりもう片方の前肢が

後ろ向きに畳まれたまま牽引されて来た。

これでようやく2頭目の助産が終了した。

簡単に出せると思っていた2頭目の胎児は

とんでもない失位をしていたのだった。

そのアクロバット的な胎位は

獣医学的にもまだ正式な名称が無い胎位だった。

前後肢同時進入位・・・?

とでも呼べば良いのだろうか。

IMG_4715ともあれ

◉君と私は

双子の胎児を出し終えて

親牛にカルシウム剤などを補液しながら

ホッと一息ついた。

「ところで、この胎児毛色が違ってるね、白黒と白赤・・・」

IMG_4714「そうですね、二卵性ですね。」

「母親は白黒なのに・・・」

「種牛がレッドなんですよ。」

「そうなんだ・・・」

「この種牛の父親が、レッド〇〇っていう種牛で、奇形が多くて評判悪いんですよ。」

「へー、そうなんだ・・・」

私は知らなかったが

白赤の牛が多くなって来たこの頃

そんな種牛もいるらしいのでご用心。

今回は

大きさではなく

胎位と毛色が不揃いの

双子だった。


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不揃いの双子胎児

深夜の携帯電話が鳴った。

「お産なんだけど、足が変なんだ・・・」

酪農家のΘさんからだった。

「前足が来てて、頭も触るんだけど、なんか変・・・」

到着して

手を入れてみると

確かに前足が2本来ていて、頭も触れる。

「・・・。」

しかし

頭のある位置と

前肢のある位置が

普通のお産とはどこか違っている。

前肢をつかんで引いてみると

何かにつっかえているように動きが悪い。

頭も同じように可動性が少ない。

(これは奇形かもしれない・・・)

そんな思いが頭をよぎった。

(もしかして反転性裂胎!・・・)

そうであれば

深夜の帝王切開になる。

「・・・。」

不安材料は言葉にせず

黙って産道の奥へ

さらに手を入れてみると

2本の前肢と頭の隣に

肢がもう一本あった。

「・・・。」

奇形の疑いはまだ続いている。

3本目の肢の前後を確認しようと

さらに手を奥へ入れると

こつんと鼻先に触れた。

「あ・・・なんーんだ、双子だよこれは。」

奇形で帝王切開という

最悪のシナリオが

私の頭から消えていった。

「双子なの?」

「うん。どっちも前向きに来ている双子。」

私は最初に触った胎児の頭部を掴み

それを強く押し込んだ。

すると

押し込んだ頭のあった隙間へ

奥にあった2仔目の頭部が入り込んで来た。

私は同じ動作を何度か繰り返した。

最初に触った2本の前肢は

奥にあった2仔目の胎児の前肢だったのである。

今回の双子の胎児は

どちらも頭位で前向きに来ていて

一方が前足を

もう一方が頭を

それぞれ産道に進入させて

お互いにつっかえて

言わば「二人羽織」の状態になっていた。

私はかつて

「二人羽織」状態の胎児に気付かず

そのまま牽引して

胎児の前肢を骨折させてしまったという

苦い経験がある。

可動性の悪い胎児は

たとえ前足2本と頭が確認できたとしても

さらにその奥を確認するなどして

慎重に対処しなければならない。

今回はそれが解決の糸口になった。

私は前肢にロープをかけ

奥にあった頭の後頭部にループワイヤーをかけ

Θさんにゆっくりと牽引してもらった。

41A6D2F2-3124-4716-8168-740408B3B3E7胎児は既に死亡していた。

おまけに少し膨張していたので

滑車によってようやく引き出すことができた。

2仔目の胎児も既に死亡していて

同様に牽引したが

こちらは簡単に出すことができた。

「双子だったとはね、なんか変だと思ったんだよな・・・」

「もう死んじゃってたから、全然動かなかったね。」

「・・・それにしても、この仔牛・・・ずいぶん大きさが違うんでないの・・・」

F1429589-9361-4807-B760-E805ADDD0530「ほんとだ!」

胎児を2つ並べてみると

最初に出したほうは大きな♀

後に出したほうは小さな♂だった。

これだけ大きさの違う双子の胎児は

ちょっと珍しいかもしれない。

B481C93B-CE08-43B2-8058-C03C63FBE0EF「追い移植とかしてない?」

「してないよ、普通に種付けしたよ。」

最近は追い移植という

不自然な技術によって

不揃いの仔牛が生まれることがあるが

今回の仔牛は

天然の

かつ不揃いの

双子胎児であった。


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デブリードマン(3)

この牛の腹部の傷は、

2週間以上放置されていたので、

初診時にはすでに壊死が進行し、

IMG_4405広範囲にデブリードマン(壊死組織の除去)

をしなければならなかった。

そして

デブリードマンした後気付いたのが、

IMG_4414創の幅と長さだった。

腹圧の強くかかる場所で 

この創の幅と長さでは

縫合が困難なことに気づいた。

何度か糸をかけて数針縫ってみたが

IMG_4416たちまち組織が千切れてしまうのだった。

そこで方針を変えて

縫合はあきらめて

キトサンイソジン液の塗布と

オムツによる創面の保護と

抗生物質の投与

だけで

後は自然治癒力に任せるという

半ば投げやり的な治療方針に変更した。

初診から2週間で再診した時

IMG_4496思った以上に

創面の修復が進んでいたことで

気を良くして

再び同様の処置をして

また2週間が経過した。

IMG_4589それが左の写真である。

創面の幅は

さらに狭くなっていた。

初診のデブリードマンから

数えてちょうど1ヶ月後の

IMG_4590切創の幅は

4分の1程に狭くなっていた。

このまま行けば

この1ヶ月後には

さらにその4分の1程に狭くなっている

という姿を想像する事ができた。

IMG_4592あくまでも想像だったが

それは確信に近いような想像だった。

「これでもう終わりにしてもいいかな・・・」

私は創面にキトサンイソジン液をかけながら

そう思った。

オムツを当ててガムテープでそれを覆うことは止めて

IMG_4595抗生物質の投与も中止して

このままの状態で

治療を終了することにした。

◉さんと牛が帰ったあとで

「終わりにするのはちょっと早すぎたかな・・・」

という気持ちが湧いて来た。

しかしそのような気持ちは

日々の煩雑な仕事の中で

薄れていった。

それから1ヶ月が経過した。

たまたま◉さん宅の前を通りかかり

この牛のことを思い出して

牛舎に寄って

腹部を観察した。

それが最後の2枚の写真である。

IMG_4700皮膚はほぼ予想通りに

創部を覆っていた。

ただこれが

売り物となれば

この創面の残傷が

どれだけマイナスポイントになるかは

IMG_4701想像がつかなかった。

今思えば

治療の途中の3診目あたりで

創部の皮膚を寄せる縫合ができたかもしれず

そうすればもっときれいに

跡形もなく仕上げる事ができたかもしれない。

ただし縫合すれば

たとえ吸収糸といえども

長いあいだ異物が体内に残ることになる。

縫合しなかった今回の治療では

異物は一切ない形で済ませる事ができた。

本当はどちらが良かったのか・・・

それはさらに今後の経過によって検討されて

反省点を見出すことになるだろう。

症例は「一期一会」

今回の症例が少しでも

今後の参考になれば幸いである。


(この記事終わり)


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デブリードマン(2)

オムツを腹壁に縫い付け、

さらにその上にガムテープを貼って、

そのガムテープも腹壁に縫い付ける、

という苦し紛れの処置。

創傷部の壊死が広範囲に及び、

デブリードマン(壊死組織の除去)をした部分が、

想像以上に多く、

おまけに腹圧も強い箇所だったことから、

そんな外科的処置になってしまった。

数日後

IMG_4433心配だったので

◉さんの牛の様子を見に行った。

最大の懸念は

縫い付けたオムツとガムテープが

外れてしまっていることだったが

BlogPaintそれは大丈夫だった。

牛は腹部を気にして

頻りに振り返って

違和感のある様子だった。

それから

2週間が経った。

再び連れて来られた牛は

相変わらず元気だった。

縫い付けたオムツとガムテープは

◉さん考案の腹巻きネットの補強もあって

何とか外れずに着いていた。 

牛を手術台に寝かせて

創部のオムツを剥がして行くと 

意外や意外・・・

IMG_4490新しい結合組織(皮下組織)が

筋層を隈なく覆い

皮下組織だけの

平坦な創面になっていた。

前後の幅も狭まりつつあり

創の修復が着実に進んでいた。

IMG_4493私はその創面を

水道水で良く洗い

再びキトサンイソジン液を含ませたオムツを当てて

それを腹壁に縫い付け

さらにその上からガムテープを貼り付けて

IMG_4496それも腹壁に縫い付けて

牛を覚醒した。

さらに今度は

その上から

ヘルニア整復のときに使う腹巻ネットを装着し

IMG_4498オムツとガムテープが外れないように

万全を期す処置をした。

◉さんにはまた

抗生物質を毎日注射するように指示し

牛が帰るのを見送った。

IMG_4503私はこの時点で

これはきっと

きれいに治癒するのではないか

という思いが湧いてきた。

「この牛を治して売り物にしたい。」

という◉さんの期待に

応えられそうな気がしてきた。


(この記事もう少し続く)



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デブリードマン(1)

「生後8ヶ月になる和牛のお腹が腐ってきた・・・」 

そんなおかしな電話が掛かってきた。

電話で話していてもよく分からなかったので、

実際に◉さん宅へ行って見ると、

何やら壊死したものが、

腹部にぶら下がっている。

覗くと悪臭が漂って来た。

「半月くらい前に、隣のペンの牛が発情してて、そいつに乗っかろうとして柵を跨いだのよ・・・」

「半月も前に?」

「あぁ、たいした怪我もしてないなーって思って、そのままにしてたら、なんか変で・・・」 

牛は非常に元気が良く

ぶら下がった物に触れたら足が飛んできそうだった。

「これは・・・ここじゃ何もできないから、手術室に連れて来て。」 

ということで

連れて来られた和牛に

鎮静をかけて手術台に寝かせ

仰臥で創部を良く見ると

深い切創が

約90cmにわたって横断し

強い悪臭が漂って来た。

先ずは

壊死した組織を切除。

牧柵と体重による深い切創で

出血も少なかったらしく

怪我をした日から何の手当てもなく 

2週間が経過している。

切創に伴う壊死は

腹斜筋を突き抜けて腹横筋の一部まで達していた。

IMG_4396しかし、幸いなことに

腹膜には達しておらず

腹膜炎は免れていた。

「とにかくこの黄色く変色した壊死組織を剥がそう・・・」

デブリードマン(壊死組織の除去)である。

デブ・リードマン・・・!?

ずいぶんと変な専門用語だが

これは英語ではなくフランス語から来ているらしい。

どーりで変な言葉だと思った(笑)

IMG_4404ともあれ

最初私は

治療方針として

デブリードマンした後

創部を糸で縫合しようと考えた。

壊死組織は広範囲に及び

IMG_4405デブリードマンして行くと

創部の幅がどんどんと広がって

20cm以上の広い切創になった。

最初の方針として

ここに糸をかけて

創部の前後を寄せようとした。

IMG_4414ところが

壊死組織から正常組織に移行する部分に

縫合の糸をかけても

組織がすぐに千切れてしまい

縫合する事ができない。

たとえ縫合ができたとしても

IMG_4416数日後には

腹圧で開いてしまうのが容易に想像できた。

「縫うのは無理だね・・・」 

私は縫合をあきらめた。

方針を変更した私は

IMG_4419デブリードマンした創部を良く洗い

キトサンイソジンを塗ったオムツを

創全体に当て

そのオムツを腹壁に縫い付ける事にした。

さらにそのオムツが汚れないように

IMG_4424ガムテープでオムツを覆い

そのガムテープも腹壁に 縫いつけた。

「これでしばらく様子見るしかないね・・・」

私は◉さんに

この牛にはこれから

抗生物質(ペニシリン)を毎日打つように指示し

IMG_44262週間経ったらまた連れて来るように

と言って

牛を覚醒させた。

牛と◉さんはトラックに乗って帰って行った。


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ホル仔牛の右中足骨骨折(3)

外固定による骨折整復の一番肝心な、

1回目のキャストを巻くときに、

骨折部位の変位を触診して、

ズレを直すという作業を、

丁寧にしなかった・・・

そのせいでX線写真を見たときガッカリしてしまった・・・

085E10B6-BBE5-44E8-996E-C4A4F91988C9という今回の右中足骨骨折だった。

整復した獣医(私)はヘタクソだった。

しかし

仔牛のほうは

2F90979E-087A-42AD-8BCF-9EEE974CE3E6順調に回復していった。

2回目のキャストを外したのは

骨折してからちょうど4週目だった。

再び鎮静をかけて

ギブスカッターでキャストを切ってゆくと

B054AFF2-11CC-4998-B016-E1118E7A16BCパカッとキャストが割れて

簡単に患肢を露出する事ができた。

そのまま仔牛を覚醒させると

しばらくは

急に軽くなった患肢を持ち上げたまま

36449433-7ADD-4F0C-A984-A900EC4BAD1A着地することができなかったが

これはいつものことである。

撮ったX線写真は

まだズレはあるものの

3DC3622C-5006-4D3F-8B0D-077F941590D3そのズレた部分を

覆うような骨増生が確認された。

こうなってくればもう大丈夫である。

それからさらに2週間後

09FCA87C-D85A-4908-8CCE-E7859162CB3E仔牛の足を確認したら

ほかの仔牛と

何ら変わることなく哺育されていた。

今回の骨折治療を

振り返って見ると

ストッキネットは非常に使い勝手が良かった。

今後は、もう

仔牛の四肢の骨折は

下巻きの綿は不要!

アルミホイルも不要!

ストッキネットの二重巻きだけ!

で、その上からキャストを巻いただけで

スムーズに整復できる。

という事を

実際にやってみて

確認することができた。

そして

もっとも注意すべき事は

1回目のキャストを巻く時に

骨折部位の整合を

触診しながら

細心の注意を払って

丁寧に行う

という事も

反省点として挙げることができた。

骨折の治療の

頻度はあまり高くなく

我々十勝NOSAIの診療所の獣医師であれば

1年に1回〜数回程度であると思われる。

その頻度の低さが

骨折治療の技術の進歩を

遅らせて来たと言ってよいかもしれない。

実際まだ私もこの技術については

ヘタクソで経験が乏しい。

そうであれば

貴重な骨折治療の機会に遭遇したときは

記録を残し

ちゃんと検証をしておかなければならない

と言えるだろう。


(この記事終わり)


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ホル仔牛の右中足骨骨折(2)

ストッキネットと、

F72408C5-DFCB-479B-A834-82B96A16F49Aエバウールシートを買っておいて、

いつ骨折治療の依頼が来てもいいように準備をしていた、

今回の仔牛の中足骨骨折。

道具はほぼ最新の物をそろえていたわけだが、

E11CB630-AC91-40DE-8095-AB803AFDF4FA肝心の、

整復技術のほうがイマイチで、

相も変わらず、

詰めの甘い方法だったせいで、

整復後の骨折部位の、

左右のズレが大きいままでキャストを巻いてしまった。

それは前回の記事で書いたとおりである。

その写真をもう一度ここに載せておく。

BA86BE21-AC2E-4990-A923-EA9BF3782F54やはりかなりのズレである・・・

これほどのズレは

巻き直したほうが良いのではないか・・・

という考えが頭をよぎったか?

というと・・・

実はそうでもなかった。

私はむしろこの写真を見て

この程度のズレは

巻き直さなくてもきっと治るはずだ・・・

というふうに考えていた。

なぜそのような楽観的な考えをしたかというと

それは

私の乏しいながらも

仔牛の骨折の治療をしてきた経験が

そんな考えに至らしめたのであった。

A1406419-CF6A-4744-B325-EE5A0D020C6Dこれは決して自慢できるような事ではなく

技術のヘタクソな私のようなものが何を言うか!

とお叱りを受けても仕方がないことでもあるのだが

過去の経験的には

今回の骨折よりももっと大きくずれた症例でも

AB3EB64E-1C50-4518-9857-4537A01DACD2骨の融合さえ順調であれば

問題なく治ってしまったことが幾度もあった。

こんな事を書くと

単なる自己弁護の言い訳にしか読めないが

E3ECF06A-AE56-433E-A709-44F9B68A15C3今回もきっと治るだろうという

変な確信があった。

1回目のキャスト巻きから14日後

すなわち第14病日

D492A78E-EFF4-425B-865D-C949E11E9C97α牧場でキャストを外した。

ストッキネットのみで

それ以外の下巻のない患部は

ギブスカッターでキャストを切ると

パカッときれいに外すことができた。

BlogPaint患部の擦過傷もほとんどなく

骨融合も順調だった。

ほぼ予想通りの経過に

私は安心した。

そして

再びエックス線写真を撮影し

E250AA44-BD70-461E-AB78-13E5044F7BC9それを隣町の事業所へ持ち込み

現像機から出てくる画像を待った。

その写真が左の写真。

前後方向の融合はほぼ問題なく融合が進んでいる。

0306B957-DF37-4164-BE8B-52CB04197C52問題の左右方向の骨の融合は・・・

うーん・・・

やっぱりけっこうズレている

が、よく見ると

骨のズレを埋めるように

新しい骨組織が造成しているのを

確認することができた。


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ホル仔牛の右中足骨骨折(1)

「仔牛の後ろ足が折れているみたい・・・」

久しぶりの骨折治療の依頼だった。

骨折の治療はここ1年近くしていなかったが、

次の依頼が来る時のための、

準備はしておいた。

F72408C5-DFCB-479B-A834-82B96A16F49A我が畏友

NOASI日高のhig先生お薦めの

ストッキネットとエバウールシートを買い

いつか必ず依頼の来るであろう骨折の治療に

E11CB630-AC91-40DE-8095-AB803AFDF4FA備えておいた。

そしていよいよ

その時がやってきた。

私はそそくさと骨折治療グッズと

エックス線撮影装置も車に載せて

α牧場へ向かった。

従業員君の言う通り

右後肢が異常に曲がり

中足骨骨折は明らかだった。

「お産で引っ張ったの?」

「いえ。引っ張ってないです、生まれたときは普通でした。」

「じゃあ、親に踏まれたのかな・・・」

「はい。たぶん。」

4563924A-BFFF-47B3-AFFE-1A2F5620F034こういう場合は

骨折部の周囲の組織は

お産で引っ張った時の骨折に比べると

比較的ダメージが少ないので

治癒する可能性が高くなるようだ。

DD3A93EA-6A41-41CA-8E07-B92717BEDA41私は早速骨折治療を開始した。

まずは鎮静をかけて

用意したストッキネットを適当な長さに切って

それを二重に患部に履かせる。

それからエバウールシートを適当な大きさに切り

55159604-326F-47CB-99D4-AB94384C124D繋ぎの部分に巻き付けて

そこへさらに長く伸ばした包帯をまきつけて

その包帯り端を持って患肢を牽引する。

ギューッと牽引して

骨折部位の変位をできるだけ少なくして

452A5195-0295-4802-9FFB-39C2A03D9924そのままキャストを巻き付けてゆく。

下巻きは必要がなく

ストッキネットの上をころころと転がすように

キャストを巻いてゆくだけでよい。

巻いたキャストが乾くのを待って

70F05744-F222-4EDA-9616-06D278C85346処置はあっという間に終了。

久しぶりの処置にしては

スムーズに終了した。

そして最後に

患部のエックス線撮影をして

6EC29DCD-ABA1-46BD-968F-74C2AF4CCFEA帰路についた。

(ほぼ、完璧かな・・・)

などと

帰りの車の中で

自画自賛のつぶやきを発しつつ

隣町の診療所にエックス線画像のデーター化を依頼して

その画像が送られてくるのを待った。

その日の夕方

患部の画像が送られてきた。

それが左の写真。

964C18D8-08DE-477D-A785-2F9024A90C36前後方向の骨のズレは

ほぼ整復されていた。

長軸方向の軸のズレも

ほぼ真っすぐに整復されているようだった。

ところが・・・

2枚目の写真を見て・・・

私は愕然としてしまった。

BA86BE21-AC2E-4990-A923-EA9BF3782F54左右方向の軸が

まだまだ大きくズレたままになっていた。

あれほど強く患肢を牽引して

骨折部位の変位を整復したつもりだったのに

こんなにズレているとは・・・


(この記事続く)



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腹壁ヘルニアか?と思われた1例

フリーバーンで多頭数の酪農家、

▲フアームで治療を依頼された牛の中の1頭は、

IMG_4319写真の様に、

腹部が異常に膨らんだ外見をしていた。

まず第一印象としては、

腹壁ヘルニアを疑った。

続いて、

可能性のある原因として、

乳静脈の破裂、

それによる腹部の大血腫なども疑った。

IMG_4320食欲はあり

起立するのにもそれほど問題ない様なので

この様な腹部の異常な膨らみを

「治療」してくれと言われても

正直言って

なす術がないのだった。

しばらく様子を見ていたが

その約1週間後に

起立不能になり

あっという間に死亡してしまった。

IMG_4321死亡したら詳しく解剖をして

膨らんだ大きな腹部が一体何だったかを

確認しようと思っていたのだが

この牧場で死亡する牛達は

普段、詳しく解剖できない業者が取りに来て

死亡した牛達を処理をしてしまうので

解剖をするタイミングを逸してしまった。

貴重な症例になりそうだったので

生前の写真を撮っておいたのだが

肝心な剖検所見を得ることができず

尻切れトンボになってしまった。

そこで、せめて

これをお読みの獣医師の皆さん

あるいは酪農家の皆さんに

こんな牛を見たことがあるかを

質問しておこうと思う。

生前の写真だけで判断するしかないのだが

いかがだろうか?


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1日に2度の子宮脱整復

「追加で1頭診て欲しいんだけど・・・流産みたいなんだよね・・・」

往診先ではよくある追加の診療だった。

酪農家の〆さんの、

乾乳にしたばかりというその牛の陰部に手を入れた。

 「ああ、これはもう胎児が産道に来てる、出すしかないね。」

私は胎児の足を2本掴んで、

そこに産科ロープを付けて、

ゆっくりとけん引した。

予定日より約2ヶ月早い流産胎児は

すんなりと頭を出して

そのまま引き出された。

と、その後

胎盤が出てきたと思ったら

それに引き続いて

子宮が裏返って

ズルズルと出てきてしまった。 

「あらら・・・、子宮脱だ。」

胎児を引っ張り出した私は

そのまま

今度は子宮脱整復術へと

治療を切り替えて

半分以上脱出した子宮を押し戻し

車から整復棒を持って来て

それで子宮の反転を直し

ビューナー針で外陰部を巾着縫合した。

「流産した牛が、そのまま子宮脱になるなんて、珍しいね。」

「引っ張りすぎたんでないのかい・・・?」

「いや、そんなことないって(笑)、普通に引っ張っただけだよ。」

「こんなこともあるんだな・・・。」

この日はとても良い天気だった。

過去の私の経験を思い出しても

2ヶ月早い流産の牛が

そのまま子宮脱になり

それを治療したという記憶はなかった。

これはとても珍しいことではなかろうか・・・

写真に撮っておけばよかった・・・

診療帰りの車の中で

私はそう思いながら

写真を撮らなかったことを悔やんだ。

それにしても

子宮脱星を支配する子宮脱大魔王は

突然現れて攻撃を仕掛けてくるから

怖いなと思った。

そして

その日の夕方

時間は午後4時を回った頃

事務所に電話がかかって来た。

「⁂さんの牛が子宮脱だそうです・・・誰か行ってもらえますか?」

今日の夜当番の獣医師は

すでに別の家の難産に向かっているところだった。

「じゃあ俺、行きます。」

⁂さんは和牛の生産農家で

往診の依頼は滅多に来ないところだった。

そんなところでよりにもよって子宮脱。

そして私は今日

午前中にも子宮脱整復をしたばかりだった。

子宮脱星の大魔王は

本当に何をしてくるか解らない・・・

IMG_4538⁂さんの牛は

牛舎で仔牛を産んだ後

そのまま立てずに子宮脱になっていた。

「まず、牛の腰にハンガーを掛けて吊り上げるから。」

⁂さんにリフトを運転してもらって

IMG_4540私は持参したハンガーを牛の腰に装着した。

「もう1人、手伝ってくれる人いるかな?」

「今、うちのやつ呼んだからすぐ来るよ。」

「じゃあ、ぬるま湯をバケツに2杯汲んで来て。」

私はそう言いながら

カッパを着て手袋を履いて

IMG_4543子宮脱整復のスタイルになった。

狭い牛舎の中に小型リフトを入れてもらい

ハンガーをゆっくりと吊り上げた。

奥さんがやって来たので

持参した整復用の板を

⁂さんと2人で持ってもらい

IMG_4544その板の上に

脱出している子宮を乗せた。

親牛の怒責はそれほど強くはなかったが

何度か押し戻されそうになりながらも

子宮を腹腔内に戻し入れ

さらに子宮脱整復棒を挿入し

IMG_4545子宮の反転を取り除いた。

子宮脱整復棒は

本日2度目の出番だった。

その後ビューナー針で

外陰部を巾着縫合した。

IMG_4547ビーューナー針も

本日2度目の出番だった。

その後

牛を吊っていたハンガーをゆっくりと下ろした。

この牛は初産で

⁂さんが昼間畑に行っている間に

誰の介助もなく自力で産んでいたという。

やや衰弱している親牛の採血と

若干の補液をし

仔牛にも栄養剤の注射をして

私はようやく

帰路に着いた。

暗い夜道には星が瞬き始めていた。

そのどこかに

大魔王の支配する子宮脱星も

不気味に輝いているのだろう・・・

翌々日

血液検査の結果が来た。

血中カルシウム濃度は

9.2 m/dl  

・・・正常値だった。

「子宮脱の牛は低カルシウムになっている」

という私の仮説は

あっさりと否定された。

子宮脱大魔王の

笑い声が

聞こえて来た様な気がした・・・


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難産・双子の方程式

「⌘さんで難産なんですけと、行ってもらえますか?」

先日の往診の途中、事務所から追加の電話だった。

「了解。」 

「予定より早いお産で、逆子のようなんだけど、足が曲がっているそうです。」 

「了解。」 

私はそれを聞いて、

このお産はきっと双子だろう、

と想像した。

逆子で足が曲がっている

というのは

すなわち「臀位」のことで

お尻が産道を塞いでいて

2本の後肢の先端は母体の奥へ向いている。

そういう難産が双子だったのを

私は何度も経験している。

胎児が子宮の中で窮屈な格好をしているのだ。

さらに

「予定日よりも早い」お産

というのも

双子である可能性を高めている。

胎児が大きくなって子宮に入りきらなくなり

予定日まで持たないで出てきてしまうのだ。

双子であることの条件が整っているのである。

私の頭の中では

「臀位」+「予定日前」= 「双子」

という方程式が成立した。

⌘さんに到着して

手を入れて見ると 

産道に尻尾があった。

その胎児のお尻をまず強く押す。

さらに右手で飛節を強く押して

そのまま左手を入れて探ると

後肢の蹄に触れた。

左手でその蹄を握り

子宮壁に引っかからないようにしておいて

右手で何度も胎児のお尻を押す。

さらに右手で飛節も押す。

すると左手でつかんでいた後肢の蹄が

クルッと反転してこちらを向く。

1本整復したら

同じ要領で2本目を整復する。

「これで普通の逆子になったから、ロープを付けて・・・」 

胎児が逆子(尾位)で娩出された。

「きっともう1ぴき入ってるはずだから・・・」 

「双子かい?」

「こういう時はだいたい双子なんだよ・・・」 

私はそう言って

再び産道に手を入れた。

ところが

胎児を触ることができない

「おかしいな・・・」

「居ないかい?」

「居ないわけがないんだが・・・」 

私は手に触れている胎盤を握って

その胎盤を引っぱって 

胎盤の一部を娩出させたあと

もう一度手を深く挿入して

子宮の中を探った。

手の先に

胎児の飛節のようなところがコツンとあたった。

「あー居たよ、やっぱり・・・」 

「そうかい。」

私はさらに胎盤を引きつけながら

2頭目の胎児の飛節をつかんで引き寄せた。

胎児の2本の蹄がこちらを向いてきたので

その2本の肢にロープをかけて

⌘さんに引いてもらった。

ところがなかなか胎児が産道に乗って来ない。

「おかしいな、ちよっと待って・・・」

「・・・」

「あ、これは、1本前肢だ・・・」

「・・・?」

ロープをかけた胎児の

後肢のつもりだった2本のうちの1本には

腕節(前肢の手根関節部)があった。

私はその肢のロープを外し

その奥にあるもう1本の後肢に付け替えて

⌘さんに引いてもらった。

胎児の後肢が産道に乗って来た。

「そのまま引いて・・・」

2頭目の胎児が娩出された。

IMG_4487胎児は2頭とも生きていた。

1頭目は♂2頭目は♀のフリーマーチンだった。

「♂♀だったね・・・」

「でも生きててよかったわ。」

「やっぱり双子だった・・・」

「もう1ぴき入ってないかい?(笑)」

IMG_4488 2「そうか!・・・」

私は念のため

また子宮の中へ手を入れて

胎児を探った。

子宮の中には

胎児はもういなかった。


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2頭の起立不能牛の比較

同じΔ農場で、

2頭の産後起立不能症を診療した。

この2頭の牛の耳標番号は1つ違い、

すなわちΔ牧場で続けて生まれた2頭だった。

生年月日はそれぞれ

A牛は、平成25年4月30日

B牛は、平成25年4月15日

誕生日が15日違いの牛同志だ。

この2頭の牛は、生まれてから

ほぼ同じ環境で哺育され

ほぼ同じ環境で育成され

ほぼ同じ環境で受胎して

ほぼ同じ環境で分娩し

ほぼ同じ環境で搾乳され

ほぼ同じ環境で再び受胎して

搾乳牛としての生活を続けていた牛同志である。

2頭の牛が先日

ほぼ同じ時期に分娩した。

A牛は平成30年10月5日分娩

B牛は平成30年10月12日分娩

488FE51B-B9F3-4CD3-925E-AAEBF0A58180両方ともお産の直後に起立不能になった。

どちらの牛も

初診の獣医は私だった。

A牛は

翌日に起立可能となり

そのまま普通の搾乳牛群に戻った。

ところが

B牛は

翌日も立つことができず

その後5日間治療を続けたが

結局立つことができず廃用となった。

両者の運命を分けたものは何か?

その最大の理由は

前回の分娩からの日数にあった。

A牛の前産は、平成29年9月2日

分娩間隔は、398日

B牛の前産は、平成28年8月21日

分娩間隔は、779日

約2倍の開きがあった。

623B87D2-AA8E-4BC2-8A41-D9737A603E92これだけの開きがあると

A牛とB牛の体型(ボディコンディション)は大きく違っていた。

どちらがオーバーコンディションだったかは言うまでもないだろう。

2枚の写真はいずれもA牛。

B牛の写真を撮っておけばよかったのだが・・・

ちなみに

血液検査において

差が見られた項目を書いておこうと思う。

A牛

Ca 3.5 、 NEFA 0.59 、Glu 124 、GOT 78

B牛

Ca 7.3 、 NEFA 1.38、Glu 76 、GOT 112

だった。

当然の結果

と言えるだろう。


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ロバ(驢馬)の難産 (2)

難産したロバ(驢馬)は、

IMG_4110翌日の往診の時も、

立つことができなかった。

点滴と抗生物質の治療が続けられた。

その翌日の往診の時も、

立つことができなかった。

首を投げ出したままで、

頭を上げることもできなかった。

点滴などの懸命な治療が続いた。

食欲は全くなかった。

その翌日も

親驢馬の症状は変わらなかった。

「・・・助かるんでしょうか・・・」

「頭を上げて、立ってくれればいいんだけど・・・」

「・・・あの・・・それと・・ロバは共済の保険がきかないんですよね・・・」

「そう・・・」

「・・・もう七万円くらいかかっているって聞いたんですけど・・・」

「そうなんだよね・・・」

「・・・症状がよくならないのなら・・・このままずっと治療しても・・・」

「治療代がかさむだけになる・・・」

「・・・ちょっと考えさせてもらえますか・・・」

⌘牧場の奥さんは

⌘さんと相談して

翌日からは点滴治療などを中止して

自分で抗生物質の筋肉注射をしながら

この親驢馬の看病をしたい

という希望を伝えてきた。

獣医による治療をしてやりたいが

この先治癒する見込みの薄い親驢馬の

治療費かかさんでしまう

という現実からの

苦渋の結論だった。

我々獣医師としても

前例のない驢馬の

難産後の治療について

予後を正しく判断できる知識も経験もなかった。

結局

我々は⌘さんに抗生物質を預けて

治療を中止した。

それから5日後

⌘さんの奥さんから連絡が入った。

親驢馬の症状は改善せず

ずっと苦しんでいるようであり

このままではかわいそうなので

楽にさせてやりたい

すなわち

安楽死させてほしい

という連絡だった。

IMG_4129私は⌘牧場へ向かった。

親驢馬は

以前よりも苦しそうな息をしていた。

奥さんが見ていないところで

注射を打ち

親驢馬を旅立たせた。

合掌


(この記事もう少しつづく)


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ロバ(驢馬)の難産(1)

「・・・飼っているロバが立てなくなった。」

という電話が⌘牧場から掛かってきたのは、

先日の昼過ぎだった。

午後からの公共牧場の繁殖健診の前に、

IMG_4030⌘牧場のロバを診に行った。

ロバは写真のようにうずくまり、

なんとも苦しい表情をしていた。

「・・・昨日は普通に立って歩いたんですけど、さっき来たらこんなで・・・」

お腹が大きく膨らんでいる。

急性腹症かとも思ったが

直検をしようとしたら

胎児の肢が産道にあるのを発見した。

「お産の予定日はいつ?」

「・・・それはわからないです・・・」 

⌘牧場のロバたちは

雌雄同じ場所に飼われていて

いつ交配したのかは全くわからない状態であった。 

「普段は勝手に生まれているのね。」 

「・・・はい、そうなんです・・・」

「これはお産で、出なくて苦しいんだよ。」

「・・・そうだったんですか・・・」 

膣内を探ってみると

産道の奥に胎児の頭部も確認出来た。

IMG_4033しかし

前肢も頭部も潤いがなく

既に死亡しているようだった。

「とにかく、このお腹の子を引っ張って出すしかない。」

「・・・はい・・・」 

「粘滑剤作るからバケツにぬるま湯と、胎児を引くロープ持ってきて。」 

「・・・わかりました・・・」 

ロバの難産介助というのは

初めての経験だった。

ただし、これに似た仕事として

ポニーの難産介助はよくやるから

それに準ずればよかった。

しかし

ロバの胎児の頭部は大きかった。

ロバ(驢馬)の体型というのは

ポニーよりも四肢が細く

耳が大きく頭が大きく

四肢の割には胴体が太い。

いま難産している驢馬の胎児も

頭部がようやく出たものの

それから先が

なかなか出てこなかった。

粘滑剤をたっぷり入れて

滑車ロープで牽引するのだが

IMG_4036頭が出てからも

なかなかそれ以上進まず

親驢馬もろ共にロープで引きずられてしまう。

仕方がないので

親驢馬の頭側をもう一本のロープで固定して

胎児の前肢に付けたロープを牽引した。

滑車の強い牽引力をもってしても

IMG_40373人がかりの

キツイ難産だったが

ようやく親驢馬と胎児は

引き裂かれるようにして

なんとか娩出することができた。

産後の親驢馬はもちろん立つことはできず 

呆然と首を投げ出し

空虚になったお腹を晒していた。

IMG_4038既に死亡していた胎児は

毛が抜けて皮が露出している部分もあった。

私は親驢馬に点滴をセットして

明日また治療に来ること告げて

次の往診へ向った。


(この記事つづく) 



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当直三夜連続の帝王切開

夜の当番は、

毎月5回(5夜)のペースで回って来る。

その時の緊急往診の平均件数は、

年間に均せば1夜につき1件〜2件程度であるが、 

実際は、

1件も往診の入らない夜もあれば、

5件以上も来る夜もある。

またその内容も、

子牛の治療ばかりの夜があったり

乳房炎の治療ばかりの夜があったり

難産ばかりの夜があったり

と色々である。

9月に入って

私の夜当番の日は

なぜか急に往診が沢山入るようになっていた。

その内容は

お産がらみの往診ばかりが増えた。

9月11日の夜は

★畜産の難産だった。

初産で過肥の牛の産道が狭く

正常位にもかかわらず

胎児の頭部が産道に乗らず

経膣分娩をあきらめ

T獣医師に電話して助手を頼み

深夜の帝王切開となった。

胎児は既に死亡していた。

過肥でぶくぶくの親牛の術後の体調が心配されたが

若いのが幸いして普通に搾乳しているようだ。

9月17日の夜は

難産が3件もあった。

そのうち最も時間が掛かったのは

また★畜産の牛の難産だった。

従業員の経験が浅く

逆子(尾位)だろうと判断し

前肢を牽引してしまい

側頭位になってしまった難産だった。

頭部が触れないので

即決の帝王切開

従業員君たちを助手にして

手術室で深夜の帝王切開。

胎児は幸いにまだ生きていた。

9月26日の夜は

◉牧場の牛の子宮捻転だった。

用手整復を試みるも駄目で

ローリング法に切り替えると

捻転は整復されたが

胎児の位置が下胎向のまま

分娩予定日を10日以上も過ぎた大きな胎児の

肢が太く

頭部が産道に乗ってこないので

結局、帝王切開で出すことにした。

T獣医師に電話をして助手を頼み

IMG_4324手術室で深夜の帝王切開。

胎児は大きなホル♂だったが

幸いにまだ生きていた。

夜当番で帝王切開をするのは

よくある事だ。

しかし

当番のたびに

三夜続けて帝王切開をしたという記憶はなかった。

これはもしかすると記録的なことなのかもしれない。

しかも、また次の当直の夜に難産が入り

帝王切開することになるかもしれない。

IMG_4322そうなれば

四夜連続となるが

そうならない事を願うのみである。

9月に入り

私は職場から

休日をもらって

俳句大会やら

コラボ展示会やら

遊び呆けていたので

夜当番の時くらいはしっかり仕事をせよ

という

畜産の神様からのお告げなのかもしれない(!?)

 

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「牛の乳房炎」のガイドブック

北海道はすっかり秋らしい気候になって来た。

普段なら、

秋の爽やかな空の下で、

夏バテ気味の牛たちの健康は回復し、

日々の往診件数は少なくなり、

獣医師の仕事は時間的に余裕が出来る。

出来た余裕で、

秋の学会シーズンを迎え

新しい勉強に励んだり(学問・読書の秋)

色々なイベントに参加して

自分の趣味に打ち込んだり(芸術・スポーツの秋)

する季節である。

しかし

今年はちよっと勝手が違う。

先日の大地震と

それに伴う大停電によって

牛たちの、特に乳牛たちの健康が

いつものように回復していない。

我が診療地区の乳牛たちは

JA(農協)や出荷先(よつ葉乳業)の

停電に対する防災意識が比較的高かったおかげで

大事に至る事は無かった。

しかし、乳牛の職業病である

乳房炎はなかなか減ってくれない。

そのような中で

麻布大学のK合先生をはじめ

私の身近に居る

乳房炎に詳しい獣医師の方々から

IMG_4263「乳房炎抗菌剤治療ガイドブック」 

という冊子が

紹介されたので

ここに貼り付けることにした。

酪農関係者の方々に目を通していただき

活用して頂いて

乳牛の健康を少しでも取り戻す為に

役立てて欲しいと思う。 


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難産胎児の誤嚥性肺炎

「和牛の難産で側頭位、昼から帝王切開。」

昨夜の当直だったK獣医師から、

そんな連絡を受けていた。

IMG_3965午後から手術室で待機していると、

△さんの牛が運ばれて来た。

「ちょっと手を入れてみるかい?」

「はい。」

胎児を探ってみると

側頭位だったという胎児の頭部の

眼窩と鼻梁を簡単に触れることができ

それを掴んで

押し引きしていると

胎児の頭部がこちら向きに変わり

失位を整復することができた。

「直りましたよ。」

「そうかい!、じゃあそのまま牽引しよう。」

二人の獣医師と△さんの3人で

胎児を経膣で

簡単に引き出すことができた。

「お、まだ生きてるよ。」

「心臓は動いてますね。」

「でも、呼吸がない・・・」

私とK獣医師は

直ちに子牛の蘇生に取り掛かった。

K獣医師が人工呼吸をしている間に

私はジモルホラミン(呼吸刺激剤)を投与。

さらに人工呼吸を繰り返し

子牛はようやく自発呼吸を始めた。

IMG_3963「なんとか助かった!」

親牛を手術室へ運ぶと決めた時点から

約6時間が経過していた。 

側頭位ということで

胎児は死亡している可能性が高かったが

この胎児の場合は

生きていたので

自発的に首を動かし

手術室に連れてこられる間に

胎位が直ったのだと思われた。

IMG_3964「生きててよかったですね。」

飼主の△さんも

喜んで親子を荷台に運び入れ

めでたく帰路に着いた。

ところが

それから3日後

「子牛の様子がおかしくなった・・・」

という連絡が入り

この子牛が

誤嚥性肺炎を引き起こしていることが判明。

高熱と呼吸の速迫が続いた。

それから毎日

点滴と抗生物質の投与を繰り返し

懸命な看病を続けた。

しかし

この子牛は

とうとう

生後9日目に

死亡してしまった。

残念な症例になってしまった。


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乳牛の過敏(アレルギー)症

「牛の顔が腫れて来た・・・」

そんな往診依頼の電話が来た。

酪農家の♭さんの、

その牛の顔を見ると、

両目が開けられないほどに、

IMG_3831眼瞼が腫れていた。

良く見ると、

眼瞼ばかりではなく、

鼻腔や外陰部などにも、

充血と熱性の浮腫があった。

外傷は全く見当たらない。

これは何かの過敏(アレルギー)反応の結果であることは間違いなかった。

IMG_3827頻度はあまり高くはないが

牛ではたまに

過敏反応による体表の軟部組織の

充血と浮腫が起こり

それが顔に出て

治療を依頼されることがある。

IMG_3828「何か変なものを食ったんでしょうかね・・・」

「・・・かもしれないねー」

「カビてるサイレージかな・・・」

「・・・それならまず下痢するかなー」

「何か虫にでも刺されたんでしょうかね・・・」

「・・・どうなんだろうねー」

IMG_3832「ハチとかアブとかかな・・・」

「・・・まぁこういうのは夏に多い気もするけどねー」

「あまりヤバそうな虫は飛んでないですけどね・・・」

「・・・山の中でもないしねー」

「やっぱり何か変なもの食ったんですかね・・・」

「・・・うーん、でも何でこの牛だけこうなるのかなー」

「こいつだけ過敏なんですかね・・・」

「・・・まぁ、そういうことになるのかなー」

飼主さんとの話は

だいたい何時も

堂々巡りになり

ちやんとした診断や

原因の究明は

できぬままになる。

一体、何がどのように

牛の体を刺激して

それがどのような仕組みで

このような過敏反応を起こすのだろう?

いつもよく解らぬままである。

しかし

治療法はといえば

単純明快で

抗ヒスタミン剤の投与

それだけでよかった。

翌日には

顔の腫れもすっかり引いて

食欲もめでたく回復し

元の牛になったという連絡をもらった。

こういう往診は

いつもこのような流れで

大事に至らず終わるので

記憶にも記録にも

とどまりづらい。

せめて

出た症状の写真を撮り

この場にUPしておくことにした。


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遠藤誠一のこと

「安田さん。ボクは、ノーベル賞を取りますよ!」

コンパの席で隣に座った遠藤が、

IMG_3841真面目な顔をして、

私にそう言った。

その言葉は

今でも忘れられない。

オウム真理教幹部の、

先日死刑になった遠藤誠一は、

帯広畜産大学の獣医学科で、

IMG_3840私の1年後輩だった。

私は微生物学研究室に所属し

遠藤は公衆衛生学研究室に所属していた。

両研究室は、隣同士で仲が良く

忘年会やコンパを合同ですることが多かったので

私は遠藤とは何度か一緒に酒を飲んだことがあった。

彼は体がとても華奢で小さく 

ちょっと見は、まるで小学6年生のような雰囲気があった。

コンパが終わって、数人で

大学キャンパスの隣にある遠藤の住んでいる下宿屋に流れ

そこでまた遠藤も交えて二次会をしたことがあった。 

酒があまり飲めない遠藤は

終始目立つこともなくその場にいた。

遠藤と交わした会話はほとんど憶えていないが

その日、私は酔っ払って

その下宿屋の遠藤の部屋まで行ったのを憶えている。

遠藤誠一の部屋の中はとてもシンプルで

勉強机と備え付けのタンスと本棚があるばかりの

非常にあっさりとした印象の部屋だった。

趣味やポスターなどで壁を飾ることもなく

ちよっとシンプルすぎるほど普通の勉強部屋だった。 

ただ一つだけ印象に残っているのは

本棚にある雑誌だった。

遠藤の本棚には

「Big Tommorow (ビッグ・トゥモロー)」 という雑誌が

創刊号からズラーっと並んでいた。

1つの本棚に

この雑誌だけが

几帳面に並んでいたのを

私はよく憶えている。

私の記憶の中の遠藤誠一は

とても純粋で、幼い

青年というよりは

少年、だった。

その後彼は

帯広畜大の大学院から

京都大のウイルス研究所へ出向き

そこへ通っている間に

オウム真理教にスカウトされたのは

マスコミの報じている通りである。 

その後、数年経って

私は遠藤誠一という名前を

オウム真理党の党員として

衆議院議員選挙の千葉3区の

立候補者名簿の中に見つけた。

そして、その数年後に

地下鉄サリン事件が起こった。 

IMG_3842




この北海道新聞の

コラムにある通り 

オウム真理教によって引き起こされた

この事件を

風化させてはならない。


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研修医制度

先日、

帯広畜産大学の、

研修医の先生たちと一緒に、

IMG_3845往診に回る機会があった。

大学を卒業して、

その後数年、

色々なところで働いていた獣医師の中で、

再び学問の道をメインに、

IMG_3847進もうとされている、

若き精鋭である。

大学病院における二次診療ばかりではなく

我々のような現場の末端の獣医師の

一次診療の経験を

IMG_3849少しでも積み上げたいという事のようだ。

今回は特に

産業動物の獣医療の中でも

今やなかなか経験することの少なくなった

重種馬の診療を

IMG_3850一緒に経験したいという事だった。

この日はたまたま

午前中に1件(蹄葉炎)

午後から2件(発情鑑定と蹄病)

重種馬の診療が有ったので

IMG_3853研修医の先生たちは

私の診療車の後に付いて回ることになった。

研修医の先生たちは

さすがに社会人の経験もある方ばかりなので

IMG_3854往診もスムーズだった。

右も左もわからない大学生の実習生を

手取り足取りしながら連れて歩くのも

それなりに面白いけれども

現場の事情をある程度わかっている

IMG_3856研修医の若い先生たちとの仕事は

受ける質問の内容なども鋭くて

とても充実した中身の濃い

仕事ができたように思う。

私としては

IMG_3857特別な事は何もするわけもなく

ただ普段どおりの事をしただけなのだが

それが

研修医の先生たちには

初めてのことが多かった。

IMG_3860これはつまり

いかに重種馬の診療の機会が減ってしまったのか

ということであり

ちょっと寂しい思いもしたが

それはまた有意義な機会を提供できた

IMG_3862という事でもあり

私は複雑な思いだった。

この日の最後の往診先に

たまたまタイミングよく

重種馬の削蹄師のN坂さんがいた。

IMG_3863一連の写真は

全道を股にかけて

重種馬の削蹄している

N坂削蹄師の

削蹄と蹄病治療の技である。

IMG_3866これを

研修医の先生たちに

体験してもらったのは

この日の

予定外の

収穫だったと思う。



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IMG_2775
左の写真の道具を使う


「牛のニコイチ捻転去勢法」

の動画をYouTubeにアップしています。

ここを→クリックして
 
見ることが出来ます。  



 



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