北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

hig先生・来帯(3)

馬の3大死亡原因の中の、

IMG_0488「分娩事故」は、

我々十勝の獣医師をはじめ、

どこの獣医師でも経験することがあるだろうと思う。

それは、飼主さんが馬をなぜ飼っているかといえば、

その多くが、仔馬の生産のために飼っているからである。

重種馬を飼う農家さんも、その例外ではない。

我々は、重種馬の生産地で働いているのである。

ところが今・・・

その重種馬の生産が大きな転機を迎えつつある。

重種馬を生産する農家さんが

いよいよ居なくなってしまったのである。

多くが高齢で廃業してしまった、

おきまりの後継者不足である。

その理由はいろいろだが

最も大きな理由は、おそらく

生産した重種馬の値段がずっと安く低迷し

重種馬を飼っていても利益が出なかった事だと思う。

そんな状態が10年以上も続いていた。

重種馬農家の後継者たちは

多くが馬の生産をやめ

安定収入を得るために、和牛の生産に切り替える家も多かった。

重種馬生産の辛抱も限界を超えていたのだ。

ところが、去年あたりから

重種馬の値段が、一気に上昇してきたのである。

重種馬の供給が、とうとう需要に追いつかなくなったのである。

詳しい理由は省略するが

数年前の倍以上の値段で重種馬が取引されるようになった。

とうとう値段が底を打ったのだ。

今後は、きっと

我々獣医師にも、重種馬の診療依頼が増えて来るに違いない。

IMG_0532そのような状況の中で

hig先生の「馬の分娩事故」への獣医療についての

さまざまな言葉には

我々重種馬の生産現場の獣医師にとって

とても重要な事が含まれていると思った。

まずは

「正常な分娩について知る必要がある。」

これは全く当たり前のことである。

異常なお産の時ばかり呼ばれていては

どこか異常なお産で、どこが正常なお産なのか

認識できないのでは、話にならない。

ところが、今の若い獣医師たちの実際は

馬の正常な分娩にさえ、立ちあう機会が激減してしまっている。

いちいち獣医師を呼ぶほどではない、馬の正常なお産を

若い獣医師諸君は、自ら積極的に

体験できるような働きかけが重要であると思う。

臨床獣医師として、何事もそうであるが

特にお産については

いくら本を読んで勉強しても

いくらビデオを見て勉強しても

それでは不十分なのである。

とにかくまずは、1人でも多くの獣医師が

馬の正常なお産を、実際の現場で体験してほしいと思う。

これが、「分娩事故」に対応できる獣医師になるための

最初の一歩であると思う。

それができてから、ようやく

難産介助、帝王切開、などの技術を

習得してゆくのが良いと思う。

難産介助については、hig先生曰く

「2人以上で行う。」

「20分で進展がなければ全身麻酔を考える。」

また、帝王切開については

「止血をしっかりする、胎盤は剥がさない!」

これについては

私も痛い経験があったので

全くその通りだと、身に沁みて思った。

馬の全身麻酔をする機会は

我々十勝の獣医師にはそれほど多くない。

しかし

全身麻酔の話の時に、hig先生から

「麻薬施用者の免許を取っている方はどれだけいますか?」

と、問われて

その場で手を挙げたのは

なんと、私1人だった・・・

ということは

麻薬に指定されている麻酔薬(主にケタミン)を取り扱える獣医師が

今回の聴衆の中では、私だけ、ということ。

BlogPaintこれにはちょっと、私が驚いてしまった。

十勝の獣医師全員が、麻薬施用者になる必要はないけれども

少なくとも、1診療所に1人くらいは

麻薬施用者を配置しておくべきではないかと

私は思った。


(この記事続く)


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hig先生・来帯(2)

「馬はどういう病気で死亡するのか?」

IMG_0488という問いに、

hig先生は過去のデーターに基づいて、

「腸捻転」、「分娩事故」、「骨折」、

の3つを挙げ、

それを馬の3大死亡原因であるとしている。

まず第1の、腸捻転の部の解説の中で

私の印象深かったhig先生の言葉のひとつは

腸捻転・変位の中で

最も多い、結腸の捻転・変位は、

「ほとんどが前回りである。」

というものだった。

つまり、結腸捻転の馬が立っているとしたら

その結腸は「前回り」にでんぐり返るように捻転している、ということである。

これはとても役に立つ言葉だと思われる。

実際に馬の結腸捻転に遭遇した時

この言葉を頭に入れておけば

万が一、開腹手術することになっても

腹腔内を無駄に掻き回してしまう事がないように思えるのだ。

さらに手術中の注意点として、曰く

「周囲を汚染させない、すなわち、病巣部をできるかぎり術創から離す。」

「疑わしきは、切除する。」

「血行を確保する。」

「漏れないように吻合する。」

「狭窄しないように吻合する。」

これはすべて、hig先生の長年の経験から発せられた言葉であろうと思う。

我々が万が一、馬を開腹して腸管手術をせざるを得なくなってしまった時

この言葉は覚えておけばきっと役に立つだろうと思う。

しかも、これらの注意点は

牛の腸管手術においてもまったく同じことが言えるので

我々のような牛を主に診る獣医師にとっても

大いに役に立つ言葉であると思う。

また

IMG_0499さらに

馬の疝痛の

脱水時の

内科的治療においては

「補液ではなく大量の輸液を、持続点滴すべし。」

あるいはまた

盲腸や結腸の便秘において

「従来のさまざま下剤は、流動パラフィン以外はみな疑問。」

「ヒマシ油が診療所にあったら、すぐ捨てなさい。」

「便秘には、経口の等張電解質液を1時間に5リットル、自然落下で投与。」

IMG_0489などという言葉は

我々重種馬の診療現場で

内科治療する場面があれば

もう明日からでもすぐに役立つ言葉であろう。

そしてhig先生は

疝痛の部の解説の最後を

こんな言葉で締めくくった。

「Who can save the colic horse ?」

すなわち

「誰が、その馬を、助けるのか?」

そして、曰く

「我々獣医師が助けなければ、その馬は、苦しみ抜いて死ぬだけだ。」


(この記事続く)


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hig先生・来帯(1)

私が敬愛してやまない獣医師&同窓の朋友、

NOSAI日高家畜診療センターの、

ドクターhig先生が、

十勝獣医師会の講習会の講師として招かれ、

十勝NOSAIの本所で講演をしてくれた。

hig先生は、この季節にはもう何年もの間

あちらこちらの講習会や学会で講演に飛び回り

今や日本の、馬の臨床獣医師の第一人者であることは

誰もが認めているところだと思う。

帯広畜産大学や駒場の十勝牧場などには何度か来られているようだが

十勝獣医師会の講習会の講師として十勝NOSAI に来てもらったのは

今回が初めてではないかと思う。 

演題は「サラブレッドの生産地のMadicine&Surgery」

日高地区の馬の多くがサラブレツドであり

十勝地区の馬の多くが重種馬であるという事情は違うが

だからこそ

日高地区の馬の診療技術は大きく進歩して来たのであり

hig先生はその牽引役を長年努めているのだ。

その内容は

馬の臨床の先進国(主に欧米)の技術を日本に取り入れて実践した30数年間だった

とhig先生は言う。

NOSAI日高の診療センターという性質上

最初の診療(一次診療)では手に負えない

酷い怪我や重い病気にかかった馬たちが

放っておいたら死んでしまう・・・

という状態で運ばれてくる。

そういう診療所で積み重ねたデーターによれば

IMG_0488馬が死亡する原因となる病気は、主に

「腸捻転」、「分娩事故」、「骨折」

の3つ、であるという。

これが、馬の三大死亡原因、というわけだ。

この三大死亡原因の病気に対して

果敢に立ち向かって来たhig先生の

IMG_0499豊富な臨床経験と

そこで培われて来た

高度な診療技術を

我々十勝の臨床獣医師達のために

実に解りやすく披露してくれた。

IMG_0498hig先生が30数年もの長い間に

実際に手がけて来た症例の披露であり

しかもそれが、学術データーとしても

しっかりとまとめられ、考察が加えられているので

単なる症例の披露に終わる事なく

また単なるデーターの羅列に終わる事もなく

我々聴衆の頭の中にすーっと入ってくるのだった。

その詳しい内容を全てこの場に書くことは到底できないが

hig先生のブログ「馬医者修行日記」

書いている先生本人の解説付きで

ゆっくりと読ませてもらったような講義だった。

その講義の、節目節目には

hig先生の人柄がにじみ出るような

名言、格言、引用文、が織り交ぜられていた。

その全てを私が受けとめる事ができたかどうかは全く自信がないが

私なりに感銘を受けたhig先生の「名言」がいくつかあったので

それを少し書いておきたいと思う。

先ずは・・・

(この記事続く)


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初冬のピンクアイ(牛伝染性角結膜炎)

「ピンクアイみたいな牛が3頭もいるんですけど。」

〓牧場の従業員の◉君が 言った。

「育成の牛なの・・・?」

「いえ、経産牛ばかりです。」 

「まぁ・・・経産牛でも出るからねぇ・・・」 

「はい。でも今頃に出るんですか?」

「まぁ・・・冬にも治療したことは・・あったと思うけどねぇ・・・」

「ピンクアイになるのは、ふつうは夏の牧場の牛ですよね。」 

「うーんまぁ・・・そうだねぇ・・・」 

私は曖昧な返事を繰り返し

BlogPaint◉君が示す牛の目を診た。

牛は右眼だけから涙を流し

角膜の中心は白濁し

黒目(角膜)と白目(強膜)の境目が赤変し

さらにその周囲の結膜は赤く腫れていた。

IMG_0479「食欲はある?」 

「ふつうです。」

「元気良さそうだね。」

「はい。」 

体温は平熱。

食欲も元気もあった。

細菌が感染して、目が充血して赤くなるピンクアイは

ウイルスが感染して、目が充血するIBRとの鑑別が必要である。

ピンクアイは

多くが片眼で、平熱で元気も食欲もあるが

IBRは

多くが両眼で、高熱の肺炎症状を併発し食欲が落ちることが多い。

今回の〓牧場の3頭の牛は

臨床症状は間違いなく前者であり

ピンクアイが強く疑われ

IBRである可能性はほぼ無かろうという症状だった。

BlogPaint私はピンクアイと診断して

抗生物質の結膜内注射という治療を選択した。

ただ

1つだけ気になったのは

従業員の◉君も言っていたように

発症した季節である。

ピンクアイの原因菌は

夏から秋にかけて、ハエなどの昆虫によって伝播する、と

教科書には書いてあるのだが

昨日診た〓牧場にはもうハエはほとんど姿を消し

冷たい冬の季節風が吹き荒れていた。

そんな季節に、1つの農場で

ピンクアイが3頭も同時に発症した。

ピンクアイの原因菌を運ぶ媒体は

夏から秋のハエばかりではないのではなかろうか・・・?

寒い冬には、一体何が、どのようにして

ピンクアイの原因菌を運ぶのだろうか・・・?


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野幌出張(2)

家畜診療技術北海道地区発表会は、

乳牛7題、肉牛4題、馬1題、の計12演題の発表があった。

IMG_0443その中から、

優秀な発表と見做されたのは、

以下の2題、

「乳牛における分娩後子宮捻転の12症例に関する検討」

                         北海道ひがしNOSAI     風間 啓  氏

「国内で初めて確認された牛コレステロール代謝異常症の4症例」

           オホーツクNOSAI     鴇田 直子  氏

この2題は

来年の2月に東京で行われる

家畜診療技術全国発表会で講演されることが決まった。

詳しい内容は

いずれ、「家畜診療」誌に掲載されると思われるので

楽しみにしていて頂きたいが

どちらもすばらしい内容だった。

IMG_0419前者の発表は

「分娩『後』子宮捻転」、という

今までとは病態の違う珍しい子宮捻転の症例を

12例も収集し、学術的な検討を加えた報告だった。

また後者の発表は

2015年に世界で初めてドイツで報告された

「牛コレステロール代謝異常症」という新しい遺伝病を

早くも2016年に、国内で4例も確定診断したという報告だった。

どちらの先生の発表も

常日頃の症例に対して

異常を見逃さない鋭い観察力と

あくなき探究心と

新しい症例であることを裏付ける

獣医学術知見の広さとを

兼ね備えいてたたからこそできる

レベルの高い発表だった。

IMG_0420それ以外の演題発表も

さまざまな角度からの新知見

斬新な発想にあふれた内容で

とても楽しく拝聴させて頂いた。

演者の先生方のほとんどが

NOSAIに勤め始めて10年前後の新進気鋭な先生方だった。

その中に、20年勤めた先生が1人おり

さらに、私だけが

NOSAIに勤めて30年以上経っているロートル獣医師だった(笑)

しかし、私にはそれがとても心地よかった。

若い先生たちと同じ土俵に立って発表していると

自分も昔、どこかで学術発表をした時に感じた

緊張感のようなものが蘇って来て

新鮮な気持ちに成れたのだった。

IMG_0425発表会の合間の

休憩時間や

食事の時間などにも

若い獣医師の先生方に混じって

色々な質問や雑談を交わすことが出来たのは

今回の出張の大きな収穫だった。

発表会が終わった日の夜には

懇親会が設けられていた。

そこではさらに

参加者の先生方と

あまねく情報交換をすることか出来た。

若い先生方の中には

私のブログを読んでくれている方も意外に多く

そこでまた話が盛り上がることもしばしばだったのは

望外の喜びだった。

宴もたけなわな所で

とりあえずの締めという事になった。

M木先生から指名されていた私は、立ちあがって

今日の各症例発表との一期一会に感謝し

それから発表者の皆さんへ賛辞と

全国発表会へ駒を進めた2人の先生方の

発表の成功を祈念して万歳三唱!をして

この場をなんとか締めくくった。

懇親会には
 
北海道NOSAI連合会のH田家畜部長も

札幌からはるばる参加してくれていた。

H田家畜部長というのは、ご存知の通り

IMG_0421又の名を「頑黒之和」

あるいは又「頑黒和尚」

と名乗る人物である。

この人と私が

ひとたび隣り合わせて杯を乾せば

北海道獣医師会雑誌の文芸欄

果ては北海道の俳句界に話が及ぶのは

もう避けることが出来ない(笑)

締めの挨拶が終わった直後

隣の頑黒和尚曰く

「ここで一句、ってやらないの?」

「・・・余裕なかったよ」

「俺ならやるよ。」

「・・・そっかぁ(笑)」

頑黒和尚氏から

鋭く突っ込まれてしまった私。

いみじくも、俳人ならば

そこで一句は欲しかったわけだ(汗)

では、その代わり

今この記事で

その宿題に応えて一句・・・


 野幌の初雪解ける熱気かな   豆作



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野幌出張(1)

全国農業共済会が主催する、

家畜診療技術発表会の北海道地区予選会が、

野幌(のっぽろ)の北海道NOSAI研修所で、

毎年開かれている。

今回私は、その発表会に演題を持って行く事になった。

とはいっても

実は、最初からこの会に発表する予定だったのではなく

9月に旭川で行われた北海道獣医師会三学会の方へ出す予定だった

「腹腔洗浄によって回復したミニチュアホースの腹膜炎の1症例」

という発表が、十勝を襲った台風10号の被害で没になり

十勝NOSAI家畜部の計らいで

急遽こちらの発表会に参加させてもらう事になった。

職場命令の出張は、JRを使って移動することが原則になっている。

しかし、十勝地方の鉄道(JR)はまだ台風10号によって寸断されたままであり

IMG_0398札幌方面へ行くためには

未だに代行バスとJRを乗り継いで

4時間近くかけて行かなければならない。

しかも、JRの臨時特急は1日3往復しか運行していない。

そのおかげで今回の出張は

普段であれば1泊2日であるところを

2泊3日のプランに延長された。

これが、返って私にはとても有り難く

余裕の出張旅行を堪能できる事になった。

IMG_0403帯広からの代行バスは空席でガラガラだった。

そのバスでトマム駅まで行き

トマム駅からは臨時特急列車に乗り換えて札幌へ向かうのだが

その臨時特急列車もまたガラガラに空いていた。

道東から札幌方面へ行く人たちの交通手段は

現在、わざわざ高くて時間のかかるJRを使う人は

非常に少なくなっているようだった。

札幌駅に中途半端な時間に到着した私は

NOSAI研修所の研修課総括のM木先生にメールを打った。

「ご無沙汰してます!これからそちらへ伺います。」

しばらくすると返事が返ってきた。

「今日来るのは何時頃?、予定なかったら一杯やりますか。」

私の返信はもちろん、了解♪

M木先生はNOSAIの1年先輩で

十勝NOSAI時代からの長い付き合いの朋友である。

M木先生の勤務終了時刻を待ち

研修所の近くの居酒屋へ。

M木先生と飲むのは数年ぶり♪

ビールジョッキを傾けながら

ゆっくりと、色々な話をすることができた。 

IMG_0407はじめは、明日の発表会に備えて

軽〜く、飲むつもりだったのだが

話が弾んでくるに連れて

焼酎のお湯割りの注文が止まらなくなり

気が付いた時には

午後10時をとっくに回っていた(笑)

翌日

IMG_0408発表会は午後からだったので

少々飲み過ぎた頭をリフレッシュさせるべく

買い物がてら

研修所の周りを散歩することにした。

IMG_0414野幌市街の四番通り付近は

ナナカマドの並木が真っ赤に色づいていた。

消防大学校の側を通って

三番通り付近へ出ると

IMG_0415今度は銀杏並木の

明るい黄色一色の世界になった。

じつに広々とした

静かな街の佇まいだった。

私はそんな街をのんびりと徘徊しながら

午後からの発表会で

しゃべる内容などを反芻していた。


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搾乳パーラーで起立不能(2)

乳牛が搾乳中に立っていられなくなり、

搾乳パーラーの中で倒れ、

人が搾乳作業をしている場所へ、

ずるずると転げ落ちてしまったという、

私にはちょっと想像のつかない事故が起こった〓ファーム。

しかし

大規模酪農家の多い地帯で働いている獣医師に

色々聞いてみると

そういうパーラー内での牛の起立不能による転落事故は

それほど珍しいことでもないらしい。

私にはそれがとても意外で

酪農もずいぶん変わったものだと驚いた。

IMG_0353と同時に

搾乳中に立っていられなくなるほど

乳を搾り取られ

酷使されて

疲れ果てている

牛達がとても哀れで

より一層かわいそうに思えてきた。

昨日の

搾乳パーラーのターンテーブルから転落した牛は

どうなったのだろうか。

翌日はいつもの時間に〓ファームへ往診に出かけた。

従業員がやってきたので

早速、昨日の牛のことを聞いてみた。

「・・・昨日の夕方、立てなくなってパーラーから転げ落ちた牛、どうした?」

「あー、あの牛は、あの後しばらくして立ちました。」

「・・・ほんとに。」

「はい、今はいつものホスピタルの中にいます。」

「・・・立ったんだね。」

「はい、立って自分でドアを通って外に出たようですね。」

「・・・ちゃんと歩けたかい。」

「歩いたみたいですよ、でも今はホスピタルで坐ったままですけど。」

IMG_0359私はとりあえず

良い知らせを聞き

ホッとした。

しかし

立って歩けるようになったからといって

またこれから、相も変わらぬ方法で搾乳をしていたら

またいつかどこかで起立不能になってしまうことは

十分想像がつく。

そんなことを考えながら

ホスピタルの牛舎に行き

例の牛を診察した。

IMG_0358牛は静かに敷き藁の中でうずくまっていた。

私が近づいて、触診をしても

立ち上がるようなそぶりは全く見せなかった。

やはり相当疲れているのだろう。

この牛は

関節炎と橈骨神経麻痺に加えて

乳房炎も患っていた。

再び補液と抗生物質を投与し

今後はこの場所でしばらく治療を続けることにした。

翌日

この牛の血液検査の結果が送られてきた。

BlogPaint低カルシウム血症ではなかった。

遊離脂肪酸の上昇がみられ、飢餓状態が示唆された。

血色素やヘマトクリットの低下が見られ、低栄養が示唆された。

ガンマグロブリンの上昇が見られ、慢性の四肢の炎症が示唆された。

また、心配された低血糖は見られず

むしろ血糖値は上昇し、強いストレスの下にあることが示唆された。

・・・なんとも

可哀相な牛だ・・・


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搾乳パーラーで起立不能(1)

「搾乳中にパーラー内で倒れて立てなくなってしまったので、すぐ来て欲しいのですが・・・」

そんな往診依頼を受ける牛の獣医の診療所は、

最近、随分と増えているのではないだろうか。

その電話の相手は、

多くが大規模酪農家の従業員。

時間は搾乳開始時刻から、

およそ数十分経った頃。

(またか・・・)

この日夜間当番の私は

夕方、

そんな電話を受けて往診に向かった。

〓ファームに着いて、

搾乳パーラーの前の、

ホールディングエリアに近いところへ車を止める。

こういう場合は、だいたい

立てなくなった牛がホールディングエリアの側に引き出されて

そこでうずくまっていることが多いからだ。

「・・・牛はどこですか?」

私は、出合わせた〓ファームの従業員に尋ねた。

「アッチ、デス。」

外国人従業員が示した先は

搾乳パーラーの方向だった。

「・・・えっと、どこかな?」

搾乳中に立てなくなった牛が

よく寝かされているいつもの場所には

今日は牛が見当たらなかった。

「・・・どこだろう?」 

そこへ

いつも獣医に対応してくれる日本人従業員の◉君がやってきた。

「安田さん!、こっちなんです。」 

◉君が指している方向は

ロータリーパーラーの外縁の

人が搾乳作業をする場所だった。

「・・・そっちかい。」

「はい、ここです。」

「・・・え、どうしたのこれ?」

「搾乳してたら急に、前足がガクガク震えてきて、寝てしまって・・・」

「・・・ここに落っこっちゃったの?」

「そうなんです、ずるずると。」

「・・・。」

「こんなことになってしまって・・・」

「・・・ここじゃ、牛を吊り上げる機械は入ってこれないよね。」

「そうなんです。」

「・・・自力で立たないと、大変だなぁ。」

「なんとか立たせて下さい、お願いします。」

IMG_0352「・・・うーん。」

聞くと、この牛が分娩したのは2ヶ月前。

分娩後には起立不能症にはならなかったものの

その後、足腰の具合が悪く

関節炎と橈骨神経麻痺と診断されて

数回の治療を受けていた。

体温は39.6℃でやや発汗があった。

牛の様子と病歴から考えて

低カルシウム血症をおこして立てなくなったというよりも

それ以外の理由がありそうだった。

足の痛みに耐えられなくなって崩れ落ちたのか

低血糖のケトーシスでふらふらになった可能性もある。

とにかくこの牛が自力で立ってくれないと

今後の搾乳作業に支障が出ることになる。

IMG_0353私は治療を開始した。

血液を採取してから

リンゲルとブドウ糖の補液

副腎皮質ホルモンと抗生物質に

消炎鎮痛剤を加えて注射した。

「・・・この注射が終わったら、しばらく様子を見て。」

「わかりました。・・・夜中までに立ってくれるといいけど。」

「・・・何かあったらまた連絡してね、俺、今夜当番だから。」

「わかりました。」

(次の搾乳時間までに、自力で立ち上がって欲しい・・・)

私は、従業員の◉君と

全く同じ気持ちで

〓ファームを後にした。

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ホル仔牛の下顎の腫れ

またまた、先日、

下顎が腫れている牛の症例に遭遇した。

今度は、ホルスタインの仔牛だった。

IMG_0331仔牛の下顎の腫れは、

球形に近いものが多く、

まるで飴玉をしゃぶっているように腫れることが多く

どこか可愛らしい。

触診をすると、波動感があった。

IMG_0332穿刺をすると、化膿汁が吸引されてきた。

これまたよくある、おきまりの膿瘍であった。

ここからはもう、一本道である。

メスで切開をして

創口はできるだけ大きくして

IMG_0334排膿して、内部を洗浄。

そのまま閉じずに開放し

抗生物質の注射をして

治療を終えた。

最近たまたま、高い頻度で

IMG_0335牛の下顎を切開排膿する症例に遭遇しているが

やはり

牛という動物の下顎は腫れやすく

多くが臼歯の歯肉からの感染症であるようだ。

過去の私のブログ記事を検索していたら

IMG_0336似たような記事があった。

その反省の元

せっかく穿刺によって

膿汁を採取したのだから

せめて

細菌検査をして

データーを蓄積しておくべきだろう

BlogPaintということで

今回の膿汁の

細菌培養(好気培養)検査の結果は

α-Streptococcus(連鎖球菌)が(++)

Corynebacterium (コリネバクテリウム)が(++)

だった。


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子牛の中手骨骨折(・・・顛末記)

当ブログの今年の記事の、

4月27日4月30日5月3日

の3回にわたって書いた「子牛の中手骨骨折(1)〜(3)」。

その後、

この骨折した子牛はどうなったのだろうか・・・?

そんな気がかりを、解消する機会が、

昨日やってきた。

久しぶりにε牧場へ親牛の治療に行った時だった。

「そういえば春に、産科チェーンの引っ張りすぎで骨折した子牛、どうなった?」

「・・・えーっと、どうだったかしら・・・」

「ギブスまいたやつ、憶えてる?」

「・・・あー、あのメスの子牛ですね・・・それだったら、あちらのパドックにいるはずです・・・」

ε牧場の奥さんは、思い出したようで

パドックへ案内してくれた。

BlogPaint「・・・確か、この牛だったような・・・」

「左の前足だったよね。」

「・・・台帳・・・見て来ますね・・・」

私は、それらしい牛の

左前足の球節から近位の中手骨付近を

じっと凝視した。

なんとなく、左のほうが

ごく僅かに太くなっているようにも見えた。

しかし

IMG_5199骨折の治療をしたときに撮ったエックス線画像のような

中心軸が前方へ反り返っているような

そういう変形は無く

歩様も左右のバランスよく

跛行は全く診られなかった。

IMG_2033骨折をしたのが4月下旬。

それから約半年が経過していた。

本当にこの牛が骨折した牛なのかどうか

疑わしくなるほどの姿だった。

そこへε牧場の奥さんが戻ってきた。

IMG_5333「・・・その牛で間違いないです。台帳に、骨折って書いてありましたよ・・・」

「そうか、じゃあ間違いないね。」

「・・・きれいに治っちゃいましたね・・・」

「そうだね、それは良かった。」

「・・・骨折れてるって聞いたときは、正直ダメかと思ったんですよ・・・」

「そうなの?(笑)」

この牛の骨折治療の経過を

3回に分けてブログにアップしたときは

色々なコメントが寄せられた。

その中には

私と比べてずっと高度な技術をお持ちの先生方からのコメントがあり

その中には大変厳しい内容のものもあった。

それを読んだ時、私は

自分の骨折整復の技術が実に未熟な低レベルの技術であることを知り

恥ずかしい気持ちになったことを憶えている。

IMG_0355しかし、今こうして

そんな私の、低レベルの技術でも

このように治癒してくれた牛の患肢を

目の前にしてみると

恥ずかしく思っていた自分の技術に対して

IMG_0356少し自信を取り戻したような気がした。

もちろん

今の低レベルな技術のままに甘んじているつもりはない。

ただ

この症例から現在までの半年間に

子牛の中手骨の骨折治療をする機会には

まったく遭遇していないので

技術のレベルアップをする機会がない

というのも

また事実である。

この先どれほどの

子牛の中手骨骨折の症例に出遭うことになるのか

ちょっと想像がつかないのである。

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「牛のニコイチ捻転去勢法」

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育成和牛の下顎の腫れ

「育成の和牛のアゴからクビにかけて、腫れてるんですけど・・・」

先日追加で診せられた診療は、

そんな稟告(りんこく)だった。

BlogPaint牛の頭を保定してもらって、

触診をしてみると、

硬く膨らんでいる。

これは、どういうタイプの腫れ物だろうか。

常に超音波装置を携帯していれば、

直ぐに超音波検査が出来るのだが、

残念ながら、十勝NOSAIの獣医師はまだ

1人1台づつを携帯するまでには至っていない。

それでも、こういう症例では

穿刺検査が有力な診断方法である。

腫脹している部分の

なんとなくもっとも柔らかそうな部分を

IMG_0261注射針で穿刺した。

「・・・あー、これは・・・」

「膿瘍だね。切開しましょう。」

「・・・お願いします。」

一見して、かなり硬かったので

骨組織の腫れかも?・・・

と思ったのだが

実際は

下顎の深部の肉厚な膿瘍だった。

育成の和牛は売り物でもあるし

あまり長い時間を掛けて治療をしていると

増体に影響し

売るタイミングを逸することもあるので

ここは、即日の切開排膿を選択した。

IMG_0265メスで切開した創口からは

思ったよりも多くの

クリーム状の化膿汁が出てきた。

500mlはあっただろうか。

切開創が肉厚なので

出血がかなりあったが

ここで出血を気にしすぎて

切開創を小さいままにすると

創口がすぐ閉じてしまって

膿汁の出口が塞がって

再び膿瘍が形成されてしまう。

ここは、思い切って大きく切開するべきなのである。

IMG_0267切開創を7〜8センチ程度に開大し

膿瘍の中身を消毒液で洗浄し

抗生物質を投与し

創口は開放のままとして

治療を終えた。

後日

BlogPaint膿汁の

細菌培養の結果が来た。

グラム陽性球菌が検出された。

しかし

菌種の同定までは至らなかったようだ。

ブドウ球菌だったのだろうか?

連鎖球菌だったのだろうか?

それとも

コリネバクテリウムだったのだろうか?  

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「舌切り仔牛」の正念場

Ф牧場のスタッフのK君から相談を受けた。

「生まれる時に、舌を噛み切られた仔牛なんですけど・・・」 

「あーあれね。どうなった?」 

「ハッチ飼いから、育成の群に入れたんです・・・」 

「うん。どう?」 

「群に入ると・・・」 

「・・・。」

「元気がないんですよ・・・」

「・・・。」

「食い負けちゃうんですよ・・・」

「うーん、食べれないの?」 

「いえ、食べてはいるんですけど、遅いんで・・・」 

「競争に負けちゃう?」

「そうなんですね・・・ペースが合わないみたいで・・・」 

「ハッチで1頭にしたら、普通によく食べるんですけど・・・」

「そっかー、負けちゃうか。体格は、どう?」

「普通に大きくなっているんですけど、他のやつと一緒にすると・・・」

「見劣りする?」

「そっすねー、やっぱりちょっと小さいかなー・・・」

「今はどうしてるの?」

「しょうがないんで、またハッチに戻して1頭で飼ってるんです・・・」
 
「あーこの牛だね。」

「はい・・・こうしてれば、普通に食べるんですよ・・・」 

「ちょっと口の中、見せてくれる?」

IMG_0208「はい・・・」

舌切り仔牛の口の中には

切られて短くなった舌があった。

その舌の先の傷跡は

きれいに治っていたが

その舌は

仔牛の口の外にはまったく出てこないほど

短いものだった。

「でもよくこれで、食べてるよね。」 

「そうなんですよ、見た目は変わりなく、食べてるんですけど・・・」 

「でもどっかが違う食べ方、なんだろうね。」 

「なんですかね・・・」 

「もうしばらく1頭で飼うしかないか。」

「そうですね・・・もうちょっと大きくなればいいかなって・・・」

「なんとか、もう一回頑張って。」

BlogPaint「もう少し大きくなれば負けなくなると思うし・・・」 

「うん。」

「群に入れる時の頭数も・・・もっと少ないところから始めようかって・・・」

「そうだね。ぜひ、やってみて。」

IMG_0209「はい・・・」

私はФ牧場のスタッフのK君の

この牛に対する

あたたかな思いを感じた。 

育成の仔牛達は、ある日突然

1頭飼い、から

群飼い、へ

という
「競争社会」へ放り込まれる。

育成の仔牛達は

そこで、誰もが正念場を迎えるのだ。

そこでは、強い仔牛と弱い仔牛、という格差が生まれてくる。

そのなかでも特に、この舌切り仔牛は

どうしても、食い負けてしまう

いわば「社会的弱者」である。

そんな社会的弱者でも

ちゃんと育つことのできる牧場には

K君のような心優しいスタッフが

必要なのだと思った。


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仔牛の臍帯炎

「仔牛のヘソが腫れている・・・」

という症例は日常茶飯事である。

仔牛のヘソの腫れ(いわゆるデベソ)で、先ず、

鑑別しなければならないのは 、

それが臍ヘルニアなのか?

それとも臍帯炎なのか?

である。

ヘルニアは先天的なもので

触診をすると、必ずどこかに

腸管が出てくる穴(ヘルニア輪)がある。

小さなもの(指2本以下の輪径)はそのまま放置しても治る。

大きなもの(指3本以上の輪径)は 圧迫処置をした方がよく

それ以上のものは外科手術の対象になる。

ヘルニアかどうかの診断は、触診の経験を積めば

それほど難しいものではない。

では

ヘルニアではないデベソの場合

すなわち臍帯炎は 

後天的な感染症である。

触診をすると

ヘルニアとは違って波動感がなく硬い。

ヘルニア輪は存在せず

軽く握ると必ず痛みがある。

感染症なので熱発や哺乳不振が見られる。

臍帯炎の初期段階は 

それで簡単に診断できる。

ところが

臍帯炎の症状が急性期を過ぎ

臍帯に膿瘍を形成してしまうと

臍ヘルニアとの鑑別が難しくなってくる。

外見はいずれも大きなデベソであり

触ると波動感がある。

熱も平熱に下がり、食欲もある。

IMG_0221こういう時は

デベソの部分の超音波検査をすればよい。

しかし

超音波装置は常に持ち歩いていないので

IMG_0223急に追加で診断をする時にはそれも使えない。

先日の〆さんの仔牛はそんな状況だった。

「急にデカくなってきたんだよね・・・」

〆さんのその言葉で私は大体見当がついた。

これは後天的な臍帯感染から

IMG_0224臍帯の膿瘍が形成され

それが急激に肥大化した可能性が高い。

触診をしてみると、波動感がある。

しかし、ヘルニア輪のような穴はない。

「針を刺してみるね。」

私は患部に、注射針を刺した。

IMG_0227注射器に膿汁が入ってきた。

「これは化膿してる、切って出した方がいい。」

私は早速

仔牛を鎮静剤で寝かせて

患部にメスを入れて切開排膿した。

IMG_0228切開創の中を消毒液で洗浄して

ヨーチンをスブレーして

抗生物質と鎮静剤の拮抗剤を打って

切開手術を終了した。

後日

IMG_0252膿汁の培養検査の結果が来た。

Proteus (3+)

E.coli (大腸菌)(3+)

ということだった。


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若牛のキック!(◎_◎;)

ここ半月のあいだに、

私は、若牛(ホル育成牛)のキックに見舞われた。

IMG_0237それも立て続けに、

先週は左足の太ももを、

昨日は右足の太ももを、

どちらも、

家は違うが、

ホルスタインの育成牛の、

繁殖検診をしている最中だった。

最初の左足の時は

妊娠マイナスの牛の治療のために

シダー(膣内貯留型黄体ホルモン剤)を挿入しようとして

後ろに近づいた途端

その牛が後ろ蹴りを放ち

IMG_0236私の左太ももをヒットした。

膝の皿の上の筋肉だったから良かったものの

しばらくは歩行困難に陥った。

その痛みと傷が癒えないうちに

昨日

別の家でホルスタインの育成牛の

繁殖検診をしようと

ある牛の肛門へ手を入れようとした瞬間に

その牛の右隣の牛が

左後ろ回し蹴りを放ち

IMG_0235私の右太ももをヒットした。

これもまた

膝の皿の上の筋肉だったから良かったものの

しばらくは歩行困難に陥った。

幸いにどちらも

軽い打撲で済んだようで

一夜明けた今朝は

普通に歩行ができるようになった。

牛から、立て続けに

こんなキックを連続で見舞ったことはなかったので

油断したというか

歳を感じるというか

情けない気持ちが先に立つ。

同僚の獣医師たちに迷惑をかけたらそれこそ大変だ。

私の注意不足が

最大の原因であり

ちゃんと保定をしてもらわないうちに

牛にちゃんと声もかけずに

不用意に近づいた私が悪く

弁解の余地はほとんどない。

しかし

一言だけ言わせてもらいたいことがある。

それは

最近のホルスタインの育成牛は

人に馴れていないのが

多くなったのではないだろうか。


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牛は放線菌症で採食困難になるのだろうか?

およそ3年ほど前に、

「牛の放線菌症に思うこと」

と題して、ブログの記事を書いたことがある。

それを抜粋してみる・・・

比較解剖学者の好著「ウシの動物学」(著者・遠藤秀紀)によれば
『ウシの採食メカニズムは、進化史上の最高傑作に映る。それは、まるでヒトの大脳皮質をみるときのような"神の創り給うた"究極の構造だ。』
『・・・けっきょく、ウシをして草地の覇者たらしめる一因をここにみることができる。』
などと書いてある。
そのウシの採食メカニズムの主役こそ
歯と舌である事は言うまでもない。
そんな、ウシにとっての重要な器官である歯と舌を
我々はあまり治療する事が無いというのは
それだけ牛の歯と舌というものが
強靭で故障の少ない最高傑作だ、ということなのだろう。
ただ・・・
ウシの歯や舌に直接の故障が無い反面
よく故障が出る場所がある。
顎(あご)である。
上顎も下顎も、どちらも
よく腫れるのである。
腫れの原因として最も良く知られているのは
放線菌の顎への感染である。
おそらくは強靭な歯の根元から
放線菌が顎の骨へと侵入して増殖し
炎症を起こして、硬い腫瘤を作り上げる。
その腫瘤は、バスケットポールくらいの大きさになるものさえ有る。
ここでもなお、驚くべき事は
そんな大きな顎の感染腫瘤ができて居ながらも
ほとんどの牛達は
食欲が落ちもせずに、歯と舌を
相変わらず毎日休み無く動かしては
採食と反芻を、一日中行っているのである。
歯の痛みは無いのか、心配になるのだが
巨大な腫瘤を抱えていても、特に痛くもなさそうに
草をムシャムシャ食べ続ける牛がほとんどなのである。
飼い主さんが心配して、電話をくれるのはそんな時だ。
「なんだか顎が腫れて来たんだけど、ちょっと診てくれる?、食欲は有るんだけど・・・」
放線菌症の時の稟告は
大抵、こういう内容である。
そして、その治療といえば
ただペニシリンの筋肉注射のみ、数日間
と相場が決まっていて
牛の口を開けて、歯や舌に直接治療を施すようなことは
まず、ほとんど無いのである。

BlogPaintそして今

牛の臨床獣医師を30年ほど続けて来て

あらためて放線菌症の治療経験を

振り返ってみて

思うのは

放線菌症で採食困難になった牛を診たことがあっただろうか?

ということだ。

BlogPaint教科書には

アゴの腫れを放置していると、いずれは採食困難になる

と書いてあるが

実際の私の経験に照らし合わせてみると 

アゴの腫れを放置している牛はかなりの数にのぼり

それらは皆、採食困難にはなっておらず

放線菌症の採食困難で死亡した牛や

放線菌症という病名で共済の3号廃用になった牛を

私は思い出すことができないのである。

放線菌症で

採食困難になって

死亡したり廃用になったりした症例を

ご存知の方は

ぜひ教えていただきたいと思う。


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ポニーの蕁麻疹

「皮膚にブツブツが出来てるんだけど・・・」

そんな稟告で往診した★さんのポニー。

「元気や食欲はあるんだけど・・・」

枠馬に入っていた馬は、

確かに皮膚にブツブツができていた。

蕁麻疹のようだった。

IMG_5830「これは蕁麻疹みたいですね。」

「というのは・・・?」 

「アレルギー。」

「・・・?」

「過敏症。」

「・・・?」

「ほら、人でもあるでしょ。」

「・・・。」

IMG_5831「痒くなったり、ブツブツできたり。」

「・・・うん。」

「何か刺激されて、それに必要以上に反応しちゃうやつ。」

「あー・・・。」

「何の刺激だかわからないけど。」

「変なもの食べたのかい・・・?」

「そういう可能性、ありますね。」

「何食べたんだか・・・?」

「食べた物だけじゃないかもしれない。」

IMG_5832「・・・?」

「虫に刺されたとか。」

「そんなことあるの・・・?」

「あるかもしれない。」

「・・・?」

「刺されたところを見たことはないけれど。」

「蜂とか・・・?」

「わからないけど、こういう蕁麻疹は夏から秋に多い。」

「あー・・・。」

「だいたい草や虫が元気のいい時に多い。」

IMG_5833「そうなんだ・・・。」

「痒がってないですか。」

「いやー、どうだべ・・・。」

「痒くて、あちこちに擦り付けて皮剥けちゃうのもいる。」

「それは・・・。」

「すりっぽ、ってきいたことあるでしょ。」

「あー・・・あるね。」

「それもアレルギーなんだけど、痒がってないですか。」

「いやー、あまり痒くはないみたいだけど・・・。」

「とりあえず、注射打っておきますね。」

「うん・・・お願いします。」

蕁麻疹のような過敏症の

原因を特定するのはなかなか難しいが

症状は間違いなく蕁麻疹のようなので

とりあえず

抗ヒスタミン剤を打って様子を見ることにした。

翌日

そのポニーの皮膚には

若干の模様が残っていたものの

その皮膚の変化はかなり軽減していた。

そのようなわけで、翌日は

そのまま何もせず様子を見ることにした。


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嵐の中の子宮捻転

当直ではない普通の日の深夜に、

私の携帯電話が鳴った。

その日の夜当番をしている先輩獣医師Sさんからだった。

「帝王切開、手伝ってくれる?」

「はい・・・。」 

「子宮捻転で、直らないのさ。」

「わかりました。」 

当直以外の日の夜中に、

往診や手術の応援に出かけて行くことは、

年に必ず数回はある。

その内訳で最近もっとも多いのは

牛の帝王切開手術の助手である。

帝王切開に踏み切る理由はいろいろあるが

その中でも、子宮捻転というのは

理由として最も多いものの一つである。 

この日の夜は

子宮捻転星からのレーザービームがS獣医師を捕らえ

その反射光が、家で寝ていた私の顔を照らしたのだった。

診療所に牛が運ばれて来たのは0時を回っていた。

IMG_0130それからSさんと

飼主の〓さんにも手伝ってもらいながら

大きな♂の仔牛を摘出。

仔牛は無事だった♪

IMG_0132〓さんの家畜車の荷台には

懐かしいリヤカーがあった。

そのリヤカーを手術室に入れて

大きな仔牛を積んで帰って行った。

IMG_0133前回の記事で

最近、子宮脱が立て続けに3件発生したと書いたが

じつは、子宮捻転もこれで2件目。

8月末から台風が何度も襲来し

荒れに荒れているの十勝の空の

雨雲の遥か向こうには

子宮脱星と

子宮捻転星が

不気味な輝きを

増しているように思える。

皆さんのところはいかがですか・・・?


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嵐の前の子宮脱

台風10号は十勝地方に大きな爪痕を残し、

1週間近く経った現在でも、

行方不明者が見つからず、

交通機関は寸断されたままで、

大変な事態が続いている。

それでも私の身の回りは、

幸いにも甚大な被害は至らず、

普段の生活を送ることができている。

そんな、特大の嵐が十勝地方にやってくる頃の

8月末から9月初めにかけての数日間に

我が診療地区の牛達に

子宮脱が3頭も発生した。

そのうちの1頭は、私が遭遇した。

朝の往診を振り分け

獣医師達が皆準備を終えて出発し始めた頃

「今朝産んだ牛の子宮が出てきた!」

という電話が酪農家の▼さんから掛かってきた。

それが、たまたま私の回る予定の地区だったので

私が ▼さんに行くことになった。

IMG_0026子宮脱星の大魔王は

私のことをなかなか解放してくれないようだ・・・

とりあえず牛舎に行くと

産んだ後で、子宮の脱出した牛が座っていた。

最近私はこういう場合

すぐに子宮脱整復に取り掛からず

血液を採取して

カルシウム剤500mlを1本投与することにしている。

そうしながら、お湯や板や踏み台やらの

整復の準備を飼主さんにしてもらいながら

IMG_0028牛の状態をよく観察する。

カルシウム剤を打ち終わってから

おもむろにカッパを着て手袋を履いて

自分の整復準備に取り掛かる。

このブログで何度も繰り返し書いている通り

子宮脱になっている牛は

私の調べている限りでは

全ての牛で血中カルシウム濃度が低くなっている。

今回もそれを予想し

まずは牛の全身症状を改善してから

牛を吊起して起立させて 

その後、子宮の整復に取り掛かった。

IMG_0029子宮は意外に簡単に

腹腔へ納めることができた。

子宮内感染を抑えるために抗生物質を投与し

整復した後は怒責による再脱出を予防するために

ビューナー針と包帯を用いて

外陰部の巾着縫合をした。

翌日

血液検査の結果かが送られてきた。

BlogPaint血中Ca濃度は

5.0 mg/dl

予想通りの低値だった。

8月末の

大きな台風がやってくる頃の

およそ1週間くらいの間に

立て続けに3頭

我が診療地区の牛が子宮脱を起こした。

子宮脱の発生要因として

低カルシウム血症もさることながら

台風の接近

あるいは低気圧の接近も

その要因として考えられる

と感じている獣医師は

きっと

私ばかりではないだろうと思う。

皆さんのところの牛達は

いかがでしたか?


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旭川出張

8月31から9月3日まで、

IMG_0043旭川へ出張します。

平成28年度北海道地区学会と、第67回北海道獣医師大会に、

出席参加します。

8月31日(水)は昼から、プロダクションメディスン研究フォーラム2016にも参加し傾聴します。

IMG_00429月1日(木)は、地区学会を傾聴します。

同日の夕方には獣医師大会に出席し、そこで私は、

我が町内の犬猫病院長のO橋先生の代わりに、

代理で表彰状を受け取る役目をおおせつかってしまいました。

IMG_0037これは全く初めての経験なので、正直照れ臭いです(笑)。

その後のパーティーには、もちろん出席します。

パーティー会場で豆作を見つけたら、

どうぞ気軽にお声を掛けてください!

IMG_00389月2日(金)は産業動物部門の第2会場で、

私は本名で(当たり前か・・・)発表をします。

エントリーNoは78番なので、時間は11時20分頃になる予定です。

久しぶりの発表なので、照れと緊張と懐かしさを今から感じています。

IMG_0039演題は「腹腔洗浄によって回復したミニチュアホースの腹膜炎の1症例」

興味のある方は、どうぞ聴きに来てください。

そして、遠慮なくガンガン質問していただけると嬉しいです。

馬の研究発表の会場に組み込まれたので

IMG_0040我が敬愛する同窓のドクターhig先生の発表なども同じ会場で

興味深い発表が沢山拝聴できそうで、楽しみです。

その夜もまた旭川市内のホテルに宿泊し

9月3日(土)の朝出発するノースライナー(都市間バス)で帰る予定です。

できるだけ多くの学術情報を吸収し

できるだけ沢山の人との出会いを求め

充実した楽しい3泊4日の出張の旅をしてこようと思っています。

IMG_0044ただ・・・

非常に気がかりなのは・・・

今、家の外で荒れ狂っている風と雨・・・

台風10号による暴風雨が十勝地方を襲っている・・・

半端ではない、すごい音がしている・・・

我が街を流れる札内川の上流の雨量がヤバく・・・

札内川の水位は警戒水域を超えたらしい・・・

札内川の河川敷に近い町内会には避難勧告が出されたようだ・・・

うちの町内会はまだ大丈夫だが・・・

明日(31日)の朝、無事に

旭川行きのバスが出てくれるといいのだが・・・


※十勝毎日新聞電子版からの情報

台風10号の接近に伴う大雨の影響で、帯広市は31日午前2時20分、災害対策本部を設置。同2時半、十勝川と札内川に氾濫の恐れがあるとして約1万6730世帯、約3万2110人に避難勧告を出した。

帯広開発建設部と釧路地方気象台は31日午前3時20分、十勝川に氾濫危険情報を発表した。氾濫危険水位に達し、氾濫の恐れが高まっている。

 浸水想定地区は、帯広、清水、芽室、音更、幕別、池田、豊頃、浦幌


これは、もうダメだな・・・(泣)


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育成和牛の起立不能(5)

今回の記事の(1)〜(4)で、

神経麻痺の育成和牛の起立不能症を、

2ヶ月以上もに渡って治療し、

なんとか助けようと頑張った様子を書いてきた。

IMG_5802飼主の○さんは、毎日毎日

この立てない牛を

一生懸命に介護して

本当に頭の下がる思いだった。

私たち獣医師もその熱意を感じて

粘り強く治療に当たったのだった。

しかし

結局治癒させる事ができず、

廃用にして殺処分としてしまい、

飼主の○さんも我々獣医師も

大変悔しい思いをしたのだった。

ただ

ここに及んで

ちょっと冷めた目で

冷静に考えてみると

これだけ頑張って育成和牛の治療に励む事ができたという

その背景には

肉用牛の市場価格の高騰、という事情があったのは

間違いのない事だろうと思う。

もし治癒させることができたならば

共済廃用の保険金などよりも

はるかに高い金額で牛を売る事が出来るからだ。 

先日の北海道新聞の記事によれば

十勝産の肉用牛の価格はもう4年連続で過去最高を更新しているらしい。 

どうしてそんな事になっているかというと

肉用牛は依然として全国的に不足しているからなのだそうだ。

特に本州の肉用牛の生産が落ち込んでいるらしい。

肉用牛が全国的に不足している中で

十勝の肉用牛の生産はそれほど減ってはいないので

今や十勝の肉用牛の市場価格が高騰し続けているのだそうだ。

IMG_5899





その煽(あお)りを受けているのが

乳用牛のホルスタインである。

今や多くのホルスタインのメスのお腹の中には

ホルスタインではなく和牛やF1が受胎している。

ホルスタインの親からホルスタインの子牛を取るよりも

和牛やF1の子牛を取ったほうが断然高く売れるからだ。

そんな状況が長く続けば

ホルスタインの後継牛が不足してくるのは当然で

今や、日本全国で不足しているのは

肉用牛の和牛やF1ばかりではなく

乳用牛のホルスタインも不足し始めているのだ。

日本全国牛不足・・・である。

本州の肉用牛生産者や酪農家は

廃業に歯止めがかからないらしい。

牛の畜産家の戸数は、他の農業と同じく

急速に減っているらしい。

日本全国農業者不足・・・である。

さらに、戸数の減少に伴って

残った畜産家の規模の拡大化が進み

牛の多頭飼育化が進む。

政府はこういう多頭飼育化を推奨している・・・のである。

牛の多頭飼育化が進めば

牛1頭1頭に対する人の監視力が低下し

牛の健康状態は悪くなってくることは

以前に私は何度も書いている。

牛1頭1頭に対する人の監視力が低下し

牛の健康状態が悪化すれば

牛は早く死ぬようになり

牛の廃用も増える、すなわち

牛の寿命が短くなる。

牛の寿命が縮まれば

牛の数はますます減ってゆく。

牛の数が減れば

牛の価格はますます高騰する。

これから

日本の牛はどうなってしまうのだろう・・・

(このシリーズ終わり)


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