北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

育成牛の胸部の外傷(2)

胸部に深い傷を負った育成牛。

創部からは肉片が垂れ下がり、

IMG_5188そこに手をいれると、

手がすっぽりと入り、

指先が肋骨に触れた。

牛は食欲がなく、

呼吸も速く、

呆然と痛みに耐えているようだった。

IMG_5190ただ、

幸いな事に、

肋骨という丈夫な防護壁のおかげで、

胸腔内までの損傷はなく、

肺そのものも無事のようだった。

それは

手を入れた時に

IMG_5192空気の漏れがなかったからだが

あらためて

肋骨という防護壁の機能を

肌で感じることができた。

創部を洗浄して

えぐれた肉片を切除した。

IMG_5196その後

できるだけ奥の方から

筋層を縫合し

皮膚を縫合し

ドレーンを装着した。

縫合したのは

IMG_5202牛の右側胸部の派手な傷で

もう一方の左側胸部の傷は

皮膚が切れておらず

挫滅しているだけだった。

他それは手で押すと

IMG_5187ブカブカと波動感があったが

あえて切開はせず

そのまま放置する事にした。

抗生物質を毎日打つように指示して

飼主の〓さんと牛は帰って行った。

翌日

牛は全く食欲がなく

立っていることが辛いのか

終始横臥していた。

傷口を下にして寝てしまうので

傷の手当てができず

仕方がないので

リンゲルやブドウ糖などの補液をして

全身症状に対する治療を続けた。

手術をしてから5日目

〓さん宅へ往診にゆくと

IMG_5208牛は立ち上がっていた。

「今朝から、すぐ立つようになったんですよ。」

〓さんの奥さんがそう言った。

「餌も、今日からだいぶ食べるようになりました。」

「・・・それは良かった。」 

IMG_5209「でも先生、この傷どうなんですか。」

「・・・。」 

「腫れ上がって来たんですけど。」 

立ち上がった牛の

左右の胸部を見ると

どちらの創部も

ハンドボールくらいの大きさに

IMG_5210腫れ上がっていた。

手術をした右胸の創部には

装着したドレーンが

もう役目を果たさずに

ぶら下がっていた。


(この記事続く) 



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育成牛の胸部の外傷(1)

「ホルの育成が胸から何か出ている・・・」

という稟告で向かった〓牧場。

「そのまま様子を見てようと思ったんですけど、元気がないので・・・」 

診ると、

右の下胸部から真っ赤な肉片のようなものが垂れ下がっていた。

「・・・どうしたの?」

「パドックで発情の牛が暴れたみたいで、この牛が扉に挟まれてたんです・・・」

「・・・扉?」

「パドックを仕切る観音開きになっている扉の、半開きの真ん中のところに乗っかってて・・・」

「・・・そのまま動けなかったの?」

「前にも後ろにも行けずに挟まってしまって、扉の鎖を切って、ようやく救出したんです・・・」

「・・・それが昨日?」

「はい、元気そうだったんですが、今日はもうボーッとしてて餌も食べなくて・・・」

「・・・ここで詳しく診るのは大変だから、午後から手術室に運んで来てくれる?」

「わかりました・・・。」

かくして

IMG_5185午後から運ばれて来た牛の

胸部の写真がこれである。

左右の下胸部に挫創があり

特に右の創部からは

布状の脂肪組織のようなものが垂れ下がっていた。

IMG_5187手術台に寝かせて

毛刈りをして

その部分に手を入れると

これがなかなか深い傷だった。

私の手はそのまますっぽりと創部に隠れ

IMG_5188進入させた指先に

肋骨が触れた。

傷の幅は15僂曚匹世

傷の深さも15儖幣紊△

その部分の筋肉と結合組織と脂肪組織が

IMG_5189えぐり出されたような傷だった。

扉の角の部分が当たっていたらしく

深くえぐられていた。

こんな外傷を見るのは

私の経験でも初めてのことだった。

深い傷だったが

胸膜には達していないようだった。

もし、胸膜が破れていたら

呼吸困難に陥っているはずだが

この牛は

呼吸が浅くて早く促迫ながらも

呼吸は出来ているようだった。

創部から空気が漏れてくることもなかった。

「・・・どうしましょうか・・。」

私と助手をしてくれたS獣医師は

IMG_5190しばし思案の後

とりあえず

傷をもう少し開いて

えぐり出された部分を切除し

そのあとの創部を

縫合することにした。


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M木先生おめでとう!!

北海道NOSAI研修所長のM木先生が、

このたび学位(博士号)を取得された。

IMG_5299その論文のタイトルは、

「重輓馬における超音波画像検査を利用した卵巣・子宮の診断基準の策定」 

というもので、

重種馬(輓馬)に関するM木先生の長年の研究の集大成である。

牛の乳房炎やその他色々、

IMG_5300牛馬の診療に関して幅広い知識と経験と、

常にその最先端を走っておられるM木先生は、

北海道にとどまらず日本全国の牛馬の獣医師の間では、

その存在を知らない人はいない。

M木先生は

私より一年早くNOSAIに就職し

IMG_5301牛馬の臨床獣医師として15年以上のキャリアを積んでから

北海道NOSAI研修所へ転身した。

そこでNOSAI新人や若手の研修指導ををしながら

自らも常に研究テーマを持ち続けて

今回その集大成をまとめられた。

普通のNOSAI獣医師ではなかなか出来ない

IMG_5302マルチなスーパー獣医師なのである。

私は、M木先生と

ほぼ同期のNOSAI獣医師として

色々と先生の仕事のお手伝いをしたり

自分の仕事に対して助言をもらったり

IMG_5322公私にわたって

長い付き合いをさせてもらっている。

特に重種馬(輓馬)の診療に関しては

共に同じ道を歩んで来た。

そんなM木先生は

IMG_5336同期の桜

と言って良い存在である。

昨日は

帯広畜産大学のN保先生の計らいで

学位取得の祝賀パーティが開催され

私もそれに招かれて出席させて頂いた。

IMG_5328畜大OBのM宅先生はじめ

現役の畜大の先生方や

開業されたI井先生や

私の同僚の十勝NOSAIの臨床家の先生方が

帯広市内のホテルに集まり

和やかなお祝いをした。

重種馬(輓馬)の繁殖

というテーマでの今回の学位取得は

生産力の低下している重種馬生産地と

そこで働く獣医師にとって

とても励みになる出来事である。

M木先生は

「これは私の新たなスタートです。」

と何度も言っていた。

先生の幅広い視野と人脈と

若い獣医師に対する抜群の指導力は

この学位取得によって

ますます磨きがかかり

輝きを増すに違いない。

M木先生の今回の学位取得は

我々のような牛馬の臨床現場の獣医師はもちろん

畜産系の大学や

業界の関係者にとって

とても嬉しく有難い

朗報だと言えよう。

M木先生

本当におめでとうございます!

今後ともどうぞよろしくお願い致します!


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ぼちぼち始まる馬の繁殖

私が就職した30数年前は、

我が町に重種の繁殖牝馬が300頭以上いて、

飼養戸数はざっと40〜50件。

ところが今では、

重種の繁殖牝馬の数は20頭にも満たず、

飼養戸数はたったの5件。

ずいぶんと減ってしまったものである。

寂しい限りなのだが

それは全道的な傾向であった。

重種馬の生産力は

後継者不足で

がた落ちしてしまった。

そしてついに

重種馬の需要と供給のバランスが崩壊し

極度の供給不足となった。

重種馬の需要に変化がほとんどないにもかかわらず

重種馬の供給が極度に低下した。

その結果として

重種馬の価格が跳ね上がった。

それが今から約6年前の出来事だった。

その後

重種馬が高く売れるからと

新規の重種馬の生産牧場が

ぼちぼちと参入してきたが

一度減ってしまった重種馬の生産力は

そう簡単に元に戻せるものではない。

重種馬の生産牧場を

新しく立ち上げる資金のほうは

多くの資本家たちから

注ぎ込まれるようになってきたが

実際に

牧場で重種馬を養い

交配や分娩を管理する人がいないのだ。

お金や人を

なんとか集めても

生産技術を教える経験者や技術者がいない。

一度衰えてしまった重種馬生産の技術力は

そう簡単に回復させられるものではないのである。

重種馬の値段が跳ね上がってから約6年

今、我が町の重種馬の生産力は

底を打った横ばい状態が続いている。

いつになったら

重種馬の生産力が回復するのだろうか

その責務の一端は

私自身にも降りかかってくる。

そんな状態の中で

今年もまた

春がやってきた。

春の訪れと同時に

重種馬の繁殖シーズンがやってきた。

遅ればせながら我が町の重種馬たちにも

41F6AD17-6D7A-47C5-B72A-DDD661A99B0F発情が来るようになり

仔馬も生まれ始めた。

昨日は

3頭の重種馬の直腸検査をした。

83E4FD86-B1BB-4F95-A083-317A48A17EADその3頭は全て

町外の繁殖牝馬たちだった。

我が町内には

人気の種牡馬がいて

その馬を交配させるために

全道から繁殖牝馬が集まってくる。

5D029FEE-DEDB-4F9B-AB92-A250F2A78FBE種馬所のΩさんによれば

今年はすでに

15頭の種付け(交配)をしたという。

繁殖牝馬の肛門に手を入れて

馬糞をかき出しながら

私は

また重種馬の繁殖シーズンが

ぼちぼち始まったな・・・

と感じていた。


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かつて見たこともない牛糞

私が診たのは2診目だった。

F0D273C5-E7DA-4A5E-836C-047124D4C63B食欲は廃絶、

眼球は陥凹、

歩様は蹌踉、

そして何より驚いたのが、

便の性状だった。

直腸検査をして探ってみると

クリーム状の黄白色の泥状便、

AC4B6F88-D98D-4988-9EDE-C6EBEE56F12F直検手袋に張り付き

それはとても糞便というべきものではなく

化膿汁と呼んだ方がふさわしい代物だった。

生後16か月齢のホルスタイン雌

授精はひと月前に済ませていたという。

この時期のホルスタインの雌は

いわば青春真っ盛りの元気のよい頃なので

病気も少なく、たとい病気になっても回復する力を持っている。

BlogPaintそんな年頃の牛が

げっそりと体力を失い

かつて見たこともないような

クリーム色の下痢便を排泄して苦しんでいた。

その後

この牛は毎日点滴と抗生物質の治療が施された。

しかし

C1CA9A6D-3291-44D6-9CF6-4A50ED154AAB一度も好転の兆しを見せることなく

次第に衰弱し

起立困難から起立不能状態となり

第9病日に死亡してしまった。

畜主のΘさんからは最後まで諦めることなく

この牛に精いっぱいの治療をしてほしいと頼まれていた。

EF3E2632-7AC6-4A92-A1C8-EAC2F3C6B122にもかかわらず

我々の治療の効果はほとんどなく

おそらく数日の延命効果にとどまり

最悪の結果となってしまった。

後日

病畜処理場から

病理解剖の結果が送られてきた

BlogPaintそこには一枚の写真とともに

「小腸(とくに空腸後半から回腸)の充出血著明」

とだけ一言記されていた。

臨床所見では血便は肉眼では気付かなかったが

解剖所見では小腸の出血性腸炎という診断だった。

したがってこの牛の死因及び病名は

出血性腸炎。

いわゆるHBS(出血性腸症候群)の一つであったと思われる。


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火気厳禁の不妊治療(2)

長期不受胎の重種繁殖牝馬の、

子宮の中へ灯油を注入する不妊治療。

IMG_5257そんな物を子宮に入れることを、

よく思いついたものだ、

と思った。

が、よく考えてみると

子宮内膜の洗浄と再生を目指すために

子宮内へ注入する薬剤の

IMG_5258多くは水溶物

すなわち水に溶ける薬剤であり

水和性の高いものばかりだった。

そこへ、一つの発想転換として

水和物ではなく

油性の液体による

IMG_5259子宮内膜の洗浄と再生へと

発想が行くのは自然の成り行きかもしれない。

水で落ちない頑固な汚れは

油で落とせるのではないか

と考えるのは

クリーニングに携わる人の

自然な発想なのかもしれない。

帯広畜大のN保先生の指示に従って

前日に

灯油100ml+生理食塩水100ml=200ml

を子宮内に注入した馬の

子宮洗浄をすることにした。

いつものように道具をセットして

陰部を洗浄していると

ほんのりと灯油の匂いが鼻を突いた。

助手をしてくれたΔさんに

子宮内を還流させた洗浄液を

ガラスのコップに受けてもらった。

IMG_5279写真は

1回目の還流液

から

4回目の還流液までを

順番に撮影したものである。

IMG_5280最初の還流液には

白濁した液の中に

非常に多くの絮片が混ざり

それが

還流を繰り返してゆくたびに

IMG_5281絮片の数も白濁の程度も

少なくなっていった。

18リットルのタンク一杯の洗浄液(生理食塩水)を

ほぼ使い切って

子宮洗浄を終えた私は

IMG_5282N保先生の指示通りに

最後に抗生物質の溶液を注入して

作業を終了した。

今後は

この馬に発情が来たら

普通に種付けをすればよいという。

この馬の洗浄液の状態などを

翌日、メールでN保先生に報告したら

その返信メールに

わたくしの経験では注入後4日で交配した18歳のクオーターホース雌馬が受胎しましたので、そのくらい空ければ次の発情で交配できると思います。」

という心強い言葉が書いてあった。

この馬の今後も、楽しみである。

IMG_5283以上

とても簡単な手技であり

しかも

灯油は安価である。

長期不受胎馬を抱えて

治療に困っている飼主さんと獣医師は

ぜひ試してみていただきたい治療法である。

ただ一つ

注意しておくことは

火気厳禁!!!

タバコを吸いながらの治療は

絶対ダメである。


(この記事終わり)


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火気厳禁の不妊治療(1)

十勝管内の重種馬で、

長期にわたって不受胎の繁殖牝馬を、

その道のスペシャリストの先生に診察してもらい、

受胎率の向上を図る事業が行われている。

IMG_5253十勝農協連が主催となり、

帯広畜大のN保先生がその中心的な指導をされている。

我が町の◯牧場で飼われている重種馬1頭も

その事業のお世話になっており

昨年の暮れに検診を受け

IMG_5249先日その診断が下され

診断に従って

治療が施されることになった。

その治療法とは

ちよっと驚きの方法であった。

まず

長期不受胎の対象馬に 

プロスタグランディンとエストラジオールを投与して

子宮頸管を弛緩させる。

弛緩させた子宮頸管外口を通して

子宮の中に薬剤を注入する。

こう書けば

普通の子宮の治療のようだが

ここで使用する薬剤が 

ちょっと驚きの薬剤

IMG_5257何と

「灯油」

なのだ。

子宮内へ繋げたシリコンチューブの

IMG_5258外側に漏斗を付けて

その漏斗の中へ

灯油100ml+生理食塩水100ml

を混ぜ合わせた200mlを注入する。

「カリフォルニアなどの乾燥した地域では、この灯油に火が引火することがあるそうです。」

IMG_5259「え、ほんとですか?」

「そういう注意書きが書かれているんですよ。でも、ここは湿度があるから大丈夫ですね。今日は雪が降るみたいだし。」

N保先生はニコニコしながらそういった。

火気厳禁の先端技術なのだ。

注入した日はそれで終了。

IMG_5262「明日、子宮洗浄をお願いします。」

N保先生から

私は翌日にこの馬の子宮洗浄をするように指示を受けた。 

「子宮洗浄して、その洗浄液を見たら、驚かれるかもしれませんよ。」 

「汚れが出るんですか?」

「はい、きっと。」

IMG_5263N保先生はニコニコしながらそういった。

長期不受胎の馬の子宮内に入れる薬剤として

かつては流動パラフィンがよく用いられて来た。

それはただ入れっぱなしだった。

しかし

今回注入した灯油は

翌日に洗い流す必要があるという事だった。

「洗い終わったら、この抗生物質を入れておいてください。」

IMG_5265N保先生から手渡されたのは

子宮注入用のネオポリシダールという商品名の

抗生物質だった。


(この記事続く)



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ぬいぐるみ(2)

腹部の皮が、

およそ座布団一枚ほど、

ベロリと剥がれてしまい、

それを縫合するのに、

2時間以上を要した大怪我をした和牛。

縫合手術をした3日後の写真がこちら。

IMG_5115漿液が浸出して

腫れ上がっているのは

予想通りだった。

縫合部の一端から 

その漿液が漏れ出しているのも

IMG_5119予想通りだった。

和牛の乳房は

乳牛ではないので小さく

腫れ上がった外傷部に押しやられて

仔牛が乳首を吸いづらい状態になっていた。

しかし

それでも

お腹の空いた仔牛は

母牛の乳首を探し出して吸っているらしく

乳頭は仔牛の唾液で光っていた。

母牛の食欲は正常で

元気も良いので

このままの状態で

外傷部にはさわらずに

抗生物質の注射のみを続けることにした。

そして

それから20日経った時の写真がこちら。

母子ともに

全く普通に

IMG_5182他の親牛たちに混じって

パドックの中に放たれていた。

縫合部の腫れは

相変わらずあるものの

その腫れ具合は

4分の1程度に縮小しており

IMG_5184以前よりも

乳房がよく見える状態になっていた。

仔牛は全く普通に

母牛の乳首に吸い付いて

哺乳をしているようだった。

母牛も全く普通に

IMG_5178カメラを向ける私を警戒し

我が子をかばうように

立ちはだかって

こちらを見るのだった。


(この記事終わり)


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ぬいぐるみ(1)

先日の、

まだ寒さが厳しい頃、

午前中の往診を終えて、

診療所に戻ってみると、

和牛の親子が運ばれて来て、

親牛が手術台に仰臥保定されていた。 

IMG_5100その下腹部には、

写真のように、

巨大な切創があった。

「すごいですね、この傷は・・・」

「でしょ。」

「どうしたんですか・・・」

「古い馬小屋の馬栓棒を乗り越えて出ようとしたんみたいで。」

IMG_5101「何かに驚いたんですか・・・」

「そう、丁度尖がったところがあってね。」

「そこに引っ掛けて、ですか・・・」

「かぎ裂きになってべろっと剥がれて。」

飼主の△さんの父さんは

牛にすまなそうにそう話した。

「この親牛は随分と仔牛を可愛がるやつでね。」

手術台に寝かされた親牛の

IMG_5103顔の前には仔牛がいて

心配そうに

親牛の様子を伺っていた。

この牛の主治医はS獣医師だった。

K獣医師が助手に入り

2人で大きな切創の縫合手術が始まった。

私はまだ往診から帰って来たばかりだったので

IMG_5102昼食の弁当を食べて

再び手術の様子をうかがってみると

縫合にはかなりの時間がかかっているようだった。

単純な作業ではあるが

範囲が広いので

IMG_5104時間がかかっているのだ。

死腔を作らぬように

剥がれた皮膚と皮下組織を

丹念に拾いながらの縫合手術は

思ったより大変そうだった。

IMG_5105私は自分のカルテを書くために

何度か机に戻っては

写真を撮りに手術室を往復した。

そして約2時間後

縫合手術は終わりに近づいた。

IMG_5106S獣医師とK獣医師の額には

大粒の汗が光っていた。

最後の皮膚を縫っている時

私はふと

これはまるで

牛の大きなぬいぐるみを縫いあげているように思えた。

「これってなんだか、ぬいぐるみみたいですね。」

IMG_5110「・・・。」

「・・・。」

2人の先輩獣医師は、苦笑していた。

そんな冗談が通じないほど大変な作業だったようだ。

私はちょっと反省して

親牛の頭の方に目を移した。

IMG_5111親牛の顔の前には

仔牛が寄り添うように

しゃがんでいた。

2時間近くにわたる長い手術で

立っているのに疲れて

座っているのだった。


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重種馬の気腫胎(3)

腐敗の始まった胎児を引き出し、

胎盤を剥離して取り出し、

とりあえず仕事がひと段落ついたところで、

私は同僚のT獣医師に電話を入れた。

私が午前中終えているべき残りの診療件数を告げると、

T獣医師はそのほとんどを引き受けてくれた。

「じつは、昼からもその馬の子宮洗浄する予定なんで・・・」

「わかりました、こちらの診療は全て行きますから、大丈夫です。お疲れさまでした。」

こういう時はやはり

常にチームで仕事をこなしている診療所の

メリットが活きるのである。

ヘルプをしてもらったおかげで

私は鵑気鵑凌芭鼎諒夘佞韻鬚罎辰りと終えることができた。

そして

診療所に戻り

昼食の弁当を食べて

午後からの仕事の準備に取り掛かった。

重種馬の流産の後は

多くの場合で子宮洗浄をしておくべきである。

特に今回のような

胎児の腐敗が始まっている流産の場合は必須である。

私は再び鵑気鸞陲妨かい

IMG_5062子宮洗浄をして

仕事を終えた。

ただ

少し残念で淋しかったのは

子宮洗浄を私と飼主の鵑気鵑2人で終えたということ。

機会の少なくなった馬の診療には

若い獣医師を一緒に連れて行きたかった。 

私の若いころは

管内に今よりも10倍以上の数の馬がいたから

少しでも馬の診療の経験を積もうとして 

こんな時は必ず

先輩獣医師と一緒に付いて行って

色々細かいところまで

仕事を覚えたものである。

だが、今

これだけ繁殖雌馬の数が減ってしまうと

獣医師の馬の診療技術取得の

機会も

その必要性も

薄れてしまった。

IMG_5063私にはそれが

残念で淋しいのである。 

せめて

記事に残しておかなければ

淋しくて仕様がないのである。


 (この記事終わり)


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重種馬の気腫胎(2)

朝いつものように、

診療所で往診準備をしている時、

電話がかかってきた重種馬の流産。

最初に行ってすぐ終わらせるつもりの仕事が、

IMG_5045すでに1時間を経過。

ようやく馬を保定して、

陰部に手を入れた。

「・・・。」

「どうだい?・・・」 

「・・・やっぱり流産だね。」 

膣内には胎児の前肢が1本と

その奥に胎児の頭頂部があった。

頭部の下にもう1本の前肢の腕節があった。

「・・・鼻先が下向いて、前肢も1本折れ曲がってるよ。」 

「やっぱりダメだったか・・・」 

「・・・ちょっと引っ張ってみるか。」

私はこちらを向いている前肢を掴んで

強く引っ張ってみた。

しかし

胎児はほとんど動かなかった。

曲がっている前肢は簡単に直ったので

両前肢を掴んで引いてみたが

胎児は全く動かなかった。

分娩予定日までにはまだ3ヶ月ある流産胎児だから

引っ張れば出てくるだろう

という安易な読みは外れてしまった。

「・・・鼻先が曲がって下向いてる・・・これを直さないと出てこないか。」

胎児といえども

馬の鼻は長い。

頭部の整復は牛よりも困難である。

私は車に戻って

粘滑剤の準備をした。

IMG_5056バケツのぬるま湯に粉末の粘滑剤を溶き

カテーテルに付けた漏斗に汲んで

カテーテルのもう一方の先を膣の奥へ押し込んで

膣壁と子宮壁にへばりついている胎児を剥がすように

粘滑剤を流し込んでゆく。

途中で親馬の怒責が強くなり

IMG_5060カテーテルは何度も押し出されてしまうのだが

めげずに粘滑剤の注入を繰り返した。

胎児の両前肢を押し込んだ拍子に

胎児の鼻先がこちらに向いてきたので

さらに前肢を押し込んで

胎児の頭部を整復する事ができた。

「・・・よし、これでもう一度引っ張ってみるか。」

チェーンをかけてあった前肢をそのまま引いてみた。

しかし

胎児は思ったほど動かなかった。

努責による胎水は

少し腐敗臭がした。

「・・・中で腐って膨らんでるみたいだね、これは滑車で引くしかないか。」

私は再び診療車に戻って

産科用の滑車を持ってきて

馬の後方の柱に一方の端を結び

もう一方の端を胎児の肢のチェーンに結んだ。

飼主の鵑気鵑惑呂良’韻犬鰺かせているので馬の頭部から離れることはできず

後方での助産の作業は全て私一人でしなければならなかった。

(ここからの写真はエグいので閲覧注意)

IMG_5055滑車のロープは思ったよりもきつく動かなかった。

さらにぎゅーっと滑車のロープを引くと

急に楽になった

と、思ったら

チェーンをつけてある前肢が一本だけ

肩のあたりから、ちぎれて出てきた。

「・・・あー、ちぎれちゃった。」

IMG_5057胎児の腐敗が進み

片と肋骨の結合部が緩くなってちぎれてしまったのだった。

もう片方の前肢を引いても

また同じようにちぎれてしまう可能性がある。

私は仕方なく

前肢にチェーンをかけることをあきらめて

そのチェーンを胎児の首にかけて引っ張ることにした。

チェーンをかけ直してもう一度滑車を引くと

IMG_5058重い手応えとともに

胎児が引き出されてきた。

ドサッ・・・と胎児が落ちるとともに

残りの胎水が排出されてきた。

「出たかい?・・・」

「・・・うん、やっと出た・・・だけど後産がまだだいぶ付いてるから。」

私は子宮の中に手を入れて

胎盤の剥離を始めた。

妊角のほうは簡単に取れてきたが

不妊角の奥のほうに強い付着があった。

それをゆっくりと手で剥離して

IMG_5059先端までちぎれずに

なんとか胎盤も全域取り出すことができた。

この時点で

手元の時計を見たら

午前11時半を過ぎていた。

治療時間は2時間を超えていた。


(この記事続く)

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重種馬の気腫胎(1)

朝の往診先を振り分けて、

各獣医師が往診へ出かける時間帯に、

重種馬生産農場の鵑気鵑ら電話がかかって来た。

「尻から何か出てるんだけど、流産でないべか?」 

こういう稟告の時は、

ほぼ間違いなく流産である。

まずは

どの往診よりも先に

その馬の流産を確認してから

今日1日の往診を巡ってゆくことに決めた私は

往診の最初に鵑気鸞陲亡鵑辰拭

「あの馬なんだけど、今そこの枠場に入れるから。」

鵑気鵑捕まえた馬の後ろを追うように

私たちは馬を枠場の中へ誘導した。

馬は、用意した枠場に

すんなりと入った

と、思いきや

突然驚いたようにバックした。

枠場の後ろのロープを渡す暇もなく

再びゲートインのやり直しとなった。

今度は少しゆっくりと

少しずつ枠場の中へ誘導した。

馬は、ようやく

枠場の中に入った

と、思いきや

再び驚いたようにバックしようとした。

しかし今度は

鵑気鵑頭絡のロープを

前方の柱に結んでいたので

馬は後ずさりできず

首を伸ばして

柱に結んだロープを思い切り引っ張り

後肢をバタつかせた。

「・・・危ない!・・・」

と思って私は馬から離れた。

鵑気鵑惑呂料以で柱に結んだロープの端を握っていた。

IMG_5036馬は

枠場の中で後肢を滑らせて

しゃがみ込んでしまった。

横に張ったロープに首が引っかかり

苦しそうな鼻息をあげた。

「あーあ、こりやダメだ、足元が凍れて滑るんだな。」

鵑気鵑麓鵑砲かったロープを鎌で切り

IMG_5038馬の態勢を楽にさせて

一声かけると

馬は枠場の中で立ち上がり

すぐさまバックして枠馬から遠ざかった。

「この馬、枠に入るの嫌いなの?」

「そうなんだよ。すぐバイキ(バック)ばっかりしやがって、癖なんだ。」

「危ないね・・・。」

「・・・ちょっと待ってくれよ。今、砂を持ってくるから。」

IMG_5043鵑気鵑蓮∀半譴梁元に

目の荒い砂を撒き始めた。

一通り撒いたところで

鵑気鵑隼笋

馬を再び枠場に誘導しようと馬を追った。

IMG_5042ところが

馬は一向に枠場に入ろうとしない。

撒いた砂を嫌っているのか

一歩も枠場に近寄ろうとしない。

「枠場に入れるの諦めるか・・・」

「・・・その方がいいね。そこの柱にロープ渡して、寄せてやるか。」

IMG_5045鵑気鵑隼笋

馬を小屋の隅の柱に繋ぎ

馬の体にロープを巻くように保定し

尻尾を別のロープで縛り上げた。

さらに馬が暴れないように

IMG_5046鼻捻りをした。

「よし、これでようやく診れるね。」

私はカッパに着替えて

手袋をはいて

診察の準備をした。

鵑気鵑硫箸僕茲討ら

すでに

1時間近く経過していた。

私は馬の陰部に

手を挿入した。

「・・・。」


(この記事つづく)


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「第三の手」初産の和牛の子宮脱

朝の往診先の振り分けがおわり、

Σ牧場の仔牛の治療の準備をしていると、

Σ牧場から再び電話がかかってきた。

「さっき分娩した初産の和牛が子宮脱なんで、すぐ来てください!」

これは直ちに行かなければならない。

それにしても、

この間も朝イチで和牛の子宮脱があったばかりだ。

私は今、どうも

あの忌まわしい子宮脱星の支配下に入ってしまい

子宮脱星人になっているようである。

Σ牧場へ着くと

Σさん兄弟が分娩房で

悪戦苦闘していた。

しかし、子宮脱の経験は過去に何度かあったようで

脱出した子宮の下に清潔なマットを敷いて

EB55BF5E-D4A2-437E-8FF6-106A7FCB54A0ぬるま湯を用意して

手袋をはいて

Σさんはすで自分の手で

子宮を約半分押し込んでいるところだった。

「この牛、立てないの?」

「ええ、さっき産んだばかりで、仔牛が大きくて結構キツかったんで・・・」

「これなら、そのまま残りを押し込めそうかな?」

「はい、出ている部分はあと半分くらいなんで、なんとか・・・」

「わかった、じゃあ一緒にやりましょう。」

私はΣさんと場所を交代し

押している子宮をそのまま引き受けた。

F2B3CFFD-084A-4505-B880-3AAE090EFABAその時

両手で子宮を押しながら

Σさんに

子宮脱整復棒で一緒に押してもらうように頼んだ。

この棒は

本来であれば

子宮を完納した後

腹腔の中の子宮の反転を直すために使う道具なのだが

12570983_948233651925150_1223774235_n[1]今回とっさに思いついたのは

飼主さんの手が空いているので

この棒によって

自分の両手に加えて

「第三の手」として飼主さんにも子宮を押してもらう

という方法だった。

親が立てず

腰も吊り上げないままに整復を始めて

そのまま半分まで押し込んだのならば

親牛の努責に負けずに

間髪入れずに

さらに子宮を押し込むのが最も早い方法である。

私の両手と

Σさんの整復棒よる「第三の手」が協力して

間もなく子宮は腹腔内に完納された。

そしてその後は

子宮脱整復棒の本来の使い方で

腹腔内の子宮の反転を取り除き

陰部をビューナー針と包帯で巾着縫合し

D6B8D977-AD1C-4211-96DF-95752291B622抗生物質とリンゲルの補液と

念のためのカルシウム剤を投与した。

親牛は横臥したままだったが

努責は治まっているようだった。

私は明日また来ることを告げて

そそくさと、次の往診に向かった。

翌日

血液検査の結果が来た。

BlogPaintこの牛の血中カルシウム値は

8.3 /dl

だった・・・

今回の子宮脱のおもな原因は

低カルシウム血症とは考えにくく

強い努責が有り余った物理的なものだったのだろうか?

相変わらず

子宮脱というのはナゾの多い疾病である(笑)

Σ牧場に行ってみると

120F1FB1-7993-4E7E-AA5F-B5A0D23C6550昨日の牛は

昨日のうちに立ちあがり

今朝からは食欲も正常に回復していた。

生まれた子牛も元気だった。

それを確認した私は

陰部の縫合部を抜糸し

抗生物質を投与し

治療を終了した。


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削蹄後の跛行(4)

削蹄の次の日から右後肢の跛行を呈し、

飛節から蹄冠までの腫れが引かず、

X線検査によって近位趾関節の亜脱臼が疑われた、

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3初産のホルスタイン。

患部にキャストを巻いて、

暫くは痛みが和らいだかに見えたものの、

その後幹部のキャストずれの傷から細菌感染を起こし、

患部が化膿して大きく腫れてしまった。

IMG_4694その後、

キャストを外し、

抗生物質の投与を再開して、

痛みと跛行は小康を得たようだった。

しかし、

IMG_4890腫れは変わらず

その1週間後

食欲が無くなったと言うことで往診したら

第四胃変位になってしまっていた。

第四胃変位になったと同時に

66820447-4AD0-43B0-8AA5-C197EA4EB607泌乳量はほぼゼロになってしまった。

普通は乳牛が第四胃変位になったら

即刻開腹手術を実施するのだが

この牛の場合

足が悪く歩行や起立が困難な事と

泌乳量が全くないことで

開腹手術をしたところで

この牛の飼養価値はあるのだろうか

と言う考えが

飼主のΛさんの脳裏にはあったのだろう。

結局手術は延期され

内科治療が施された。

内科治療を数日施したら

8D8762EC-5AC2-4949-9371-AD12E9A06465元気が出現し食欲も回復して来た。

しかし

泌乳量はゼロのままだった。

すなわち、お乳はもう上がってしまったのだった。

Λさんはそのままこの牛を、足場のよい乾乳牛の群へ移動させた。

そこに入れると、起立や歩行が楽になると言う事だった。

Λさんはこの牛の即刻の自家淘汰を考えたが

起立や歩行が楽そうなので

そのまま飼い続けて

うまく行けば肉をつけて

屠場へ肉として出荷する予定にした。

それから2週間近く

この牛はΛさん宅の乾乳牛舎で飼われ続けた。

しかし

牛の状態は思ったほど良くならなかったらしい。

先日、往診に行った同僚獣医師の話によると

この牛は、残念ながら

食肉にすることもできず

病畜処理場へ運ばれて

処分されてしまったそうだ。

泌乳量はゼロで

共済保険の適用も難しく

肉にもなれず

残念な結果になってしまった。

乳用牛が思わぬ事故にあい

ひとたびその飼養目的に叶わなくなり

理想の飼養目的から外れざるを得なくなると

このような結果になってしまう。

家畜という牛の

運命は

哀れである。


(この記事終わり)


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削蹄後の跛行(3)

右後肢の外側蹄の、

基節骨と中節骨との関節、

すなわち「近位趾関節」に外力が加わって、

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3ズレ(亜脱臼)を起こし、

痛みと腫れが治らないという 、

今回の初産のホルスタイン。

困った末に 

苦しまぎれの治療法として

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4F患部をキャストで巻くという

普段やっている単純なナックルの整復法を試みた。

キャストを巻いた後の数日間は

寝起きもスムーズで

うまく行ったように思われた。

ところが

IMG_4827キャストを巻いてから4日目の朝

飼主のΛさんから電話がかかってきた。

「また痛くなってきたので、痛み止めでも打ってもらえないだろうか・・・」 

そこで、痛み止めとしてスルピリンをしばらく打ってもらうように指示した。

その後、10日間は音沙汰がなかったが

11日目に電話がかかってきた。

「やっぱり痛がるんで、キャストはもう外してもらえないだろうか・・・」

再びΛさんの牛舎に行って

キャストを外しはじめると

なにやら嫌な匂いが立ちこめてきた。

キャストの上端の辺りの皮膚が擦れて

そこから細菌が感染し

IMG_4828化膿していた。

化膿の範囲は思ったより広く

キャストを巻いた部分の

上半部の傷から

大量(約200ml)の膿が出てきた。

「・・・抗生物質を使わないと」

「痛み止めだけじゃだめだったか・・・」

「・・・キャストを巻いたことで蹄の負担は軽くなってよかったんだけど」

「体重が今度は足の上の方にかかって擦れちやった・・・」

「・・・もっと早くから抗生物質打っておけば良かったかもしれないね」

私は、キャストを外し終えた後

IMG_4829化膿して自壊している箇所を洗い

イソジンゲルを塗布したガーゼを当てて

その上からバンデージを巻いた。

「・・・これから毎日抗生物質を続けて、来週包帯の交換に来ますね」

「お願いします・・・」

IMG_4889そして翌週

包帯を交換し、抗生物質を続け

そのまた翌週も

包帯を交換し、抗生物質を続け

そのまた翌週

IMG_4890包帯を外して

そのまま包帯は装着せずに様子を見ることにした。

それからまた1週間が経ち

再び、Λさんから電話がかかってきた。 

「あの牛、食欲がなくなってきたんだけど・・・」

その日Λさんに往診に行ったのは

同僚のK獣医師だった。

K獣医師が往診から戻って来て言った。

「あの牛、四ぺん(第四胃左方変位)だよ・・・」 


 (この記事、もう少し続く)


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削蹄後の跛行(2)

簡単におさらいすると、

今回の初産のホルスタインの、

削蹄の次の日から始まった右後肢の跛行。

初診から毎日、

消炎剤の注射と塗布、

および抗生物質の注射を、

10日間続けたが、

治療には全くと言って良いほど反応がなく、

飛節から蹄冠部までの腫脹も変化することがなかった。

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4F10診目のX線検査によって、

外側蹄の近位趾関節のズレ、

亜脱臼らしき画像が得られた。

原因は定かではないが

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3何か尋常ではない外力が

牛の右後蹄にかかり

近位趾関節がダメージを受けたと思われる

そんなX線画像だった。

BlogPaintそれを参考にして

治療を考えなければならない。

私の技術レベルでゆくと

あと残された方法は

キャストによる外固定

それしかもう残されてはいなかった。

翌日さっそく

それを実行した。

IMG_4694写真のように

患部をキャストで巻くだけである。

この方法は

いわゆるナックル状態になっている球節を

外固定する方法と同じである。

IMG_4698しかし

いわゆるナックル状態(腱の異常)と

今回の近位趾関節脱臼(関節の異常)との

大きな違いは

患部が腫れている

ということである。

腫れて膨らんでいる患部を

キャスト固定したらどうなるのか

いろいろ想像されて

どれもあまりよろしくない姿が思い浮かぶのであるが

それでも

もう残された方法はこれしかないということで

やるだけやってみた

IMG_4699そんな

今回のキャスト固定だった。

だが

キャストを巻き終えた牛は

意外にも

患肢をすんなりと着地して

すくっと立ってくれた。


(この記事続く)



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削蹄後の跛行(1)

「削蹄した次の日、足が痛くなって腫れてきた・・・」

そんな稟告で診たΛさんのホルスタイン。

右後肢の飛節から球節にかけて腫脹し、

負重困難、水腫様の腫れも認められた。

打撲なのか、

関節炎なのか、

あるいはフレグモーネか、

とりあえず、考えられる処置として

消炎鎮痛剤と抗生物質の投与、

患部へ直接の消炎剤の塗布、

が続けられた。

普通このような治療を1週間程続ければ

ほとんどのケースで治癒に向かうものである。

122C074A-B552-4F5B-A891-47C43637744Aところが・・・

今回の牛の跛行は

一向に改善する気配がなかった。

抗生物質の種類を変えて

再び数日間の投与を続けてみた。

しかし・・・

それでも今回の跛行は

一向に改善する気配がなかった。

何やら難しい症例になりそうだったので

跛行を始めた日から数えて9日目に

患部のエックス線撮影をすることにした。

その画像がこれである。

6CCC241A-DA9D-4241-834D-2734A577CAF3相変わらず下手くそな写真であるが

よく見ると

外側の基節骨と中節骨の関節面が

ズレているように見える。

関節面のズレとともに

73E5E815-B47C-45D3-8A4F-F9C54A5B62C1関節が前方へ突出しているように見える。

骨折はないようだが

関節面がズレているということは

脱臼しているといっても良いのではなかろうか。

この牛の肢には

24F75BAD-CB34-476A-9163-79FAD8DD3D4Fいったいどんな外力が加わって

このような姿になったのだろうか。

そんなエックス線画像を

目の前に置いて

しばしの思案。

0E5FDF60-A635-4EAE-83BC-F972B629DAF8さて

これからこの牛に

どのような治療をすればよいかと< />
あれこれと

考えなければならなくなった。


(この記事続く)



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帝王切開部位・右派?・左派?

「これから帝王切開だそうです。」

夕方追加往診に行っていたS獣医師から連絡が入った。

診療所に残っていた私はそれを聞いて、

今日の超過勤務を覚悟した。

それから約20分後にS獣医師が戻って来た。

H獣医師らと手術室で帝王切開の準備をひと通り終えて、

さらに20分ほど経ったところで、

牛が運ばれてきた。

牛を手術台に保定するとき

私は手術台のアームがいつもとは逆の

向かって右側が伸びていることに気がついた。

「あれ、右の下けん部を切るんですか?」

「うん、いつもとは違うんだけど、やってみようかと思って。」

S獣医師からそんな答えが返ってきた。

最近の我が診療所で行われる帝王切開は

牛の頭部を向かって左側に結び

牛の左側を上側にする

いわゆる左横臥で寝かせて

左の下けん部を切開する術式がほとんどである。

その理由は

第四胃変位の手術の時と同じ保定なので慣れている。

切開部位のほぼ直下で胎児を摘出することができる。

などが挙げられるが

実は難点もある。

それは

子宮を操作している時

大きな第一胃が邪魔になるという点である。

第一胃にガスが溜まってくると

牛の陣痛に共なう怒責によって

まるで大きなエアバッグのような第一胃が

切開創から飛び出してくることがよくあり

それが手術の進行を遅らせるのだ。

それを防ぐために

私はいつも第一胃のガスを抜くための

インジェクターを用意して手術をしている。

それでもやはり第一胃の怒責は煩わしいものである。

IMG_4976「右側を切ったら、それがないからね。」

S獣医師が右横臥を試みたのはそういう理由らしい。

ただ、右下けん部切開にも難点がある。

それは

子宮を操作している時

円盤結腸の周りを走る空回腸が

怒責に伴ってニョロニョロと出てくるので

IMG_4980それを避けるのが煩わしいという点である。

右を切ったら空回腸

左を切ったら第一胃

どちらかが邪魔になる

という点では同じことなので

要はその対処法に差があるかということだが

IMG_4982それぞれ慣れてしまえば大差はないように思われる。

今回私は

助手のそのまた助手として

周辺をサポートするだけの簡単な仕事だったので

写真を撮らせてもらったが

いつもと左右が逆の手術は

IMG_4982なんとなく

鏡に映った映像のようで

撮っているだけでも不思議な気分になった。

過去を振り返ってみると

以前はよく右横臥で右下けん部切開で帝王切開をしたものだが

IMG_4985いつの間にやら

左横臥で左下けん部の帝王切開ばかりをするようになっていた。

それはなぜかというと

邪魔になる消化管云々がその理由ではなく

どうやらその理由は

第四胃変位の手術と同じ体位で横臥させる

IMG_4986ということに慣れてしまったからのようである。

牛を寝かせるまでに

何も考えずに

体が勝手に動くのは

やはり

IMG_4987第四胃変位の手術と同じ

左横臥なのである。

なんだ

そんなことか(笑)

さて

これをお読みの獣医師の方々

あなたは帝王切開の時

どんな体位でやっていますか?

IMG_4989枠場で立位ですか?

手術台で横臥位ですか?

横臥位の場合

右横臥ですか?

左横臥ですか?


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自力で分娩した牛の親子は要注意!

先日の宿直の、

18時30分頃に携帯電話が鳴った。

「今日産んだ親牛と、その仔が元気ないんですけど・・・診てもらえますか?」

酪農家の▽さんからだった。

牛舎に着くと、仔牛がいるカーフハッチに案内された。

「難産だったらしくて・・・でも親のほうは、さっき見たら餌食ってたんで、様子みることにします。仔牛のほうを診てください。」 

仔牛はカーフハッチの中でうずくまっていた。

体温35℃以下、心音が弱く、呼吸も弱かった。

「お産は、だいぶきつかったの?、いつ生まれたの?、親は初産?」

「朝5時頃だと思います。見つけた時はもう生まれてたんですけど・・・親は経産牛です。」

「自力で生まれてたのね。」 

「はい・・・」

よくある事だが

自力で分娩し終わっている牛を見つけた時は

もう事態の山場が過ぎているので

安心して仔牛を移動させて

普通に様子を見ている飼主さんが多い。

しかし

最近のホルスタインは

足腰が弱く踏ん張りがきかなくなっているので

相当な難産であったと想像するべきである。

飼主さんが介助するのが当たり前になっている中で

介助のない自力分娩をした牛の親子は

親子共々相当な体力を消耗をしている可能性が高い。

そういうお産の直後の牛の親子は

いつよりもまして注意を払っておかなければならない。

今回はまさにそういうケースだった。

時間は19時を過ぎ

夜の厳しい寒気が忍び寄って来た。

「仔牛の体温が下がりすぎてるね。外のハッチで治療するのは、ちょっとなー。」

「寒すぎますか?」 

「うん、ここじゃ寒すぎるから、どこか部屋の中に持って行こう。」 

「わかりました。」 

IMG_4973私と▽さんの息子は

冷たくなりかけている仔牛の四肢を持って

処理室の事務机の前に運び込んだ。

処理室の中はプラスの気温だったので

ここで点滴治療をすることにした。

仔牛は体温が下がっているばかりではなく

BlogPaint血圧もかなり下がっていて 

頚静脈がなかなか見つからなかった。

数分後ようやく頚静脈に留置針を差し入れることに成功し

点滴治療を開始して

明日また治療に来ると▽さんに告げて

その夜はそのまま帰路に着いた。

翌朝

事務所の外の温度計の気温は

−16℃を指していた。

診療業務が始まった頃

▽さんから電話がかかってきた。

「昨日の仔牛・・・死んでしまいました・・・」

残念な結果になってしまったが

今の時期にはよくある事だ。

繰り返しになるが

もう一度書いておく。

飼主さんが介助しないで

自力で分娩した牛の親子は

いつも以上に

体力を消耗しているので

要注意!


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巨乳の乳牛の四変手術

乳牛はみな巨乳である。

沢山の乳を搾るために、

そのように改良(改変)されて来たのだから、

仕方のないことであるが、

そのおかげで、

色々なところに支障が出る場合もある。

先日、

四胃変位の手術をするために連れて来られた牛は、

超・巨乳、だった。

手術台に寝かされて

仰臥姿勢にすると

巨大な乳房が

前方へはみ出して来て

四変手術の切開部位である

傍正中線付近が

すっぽりと覆われてしまった。

一部分だけ覆われて手術しづらい

という事は過去に何度もあったけれど

今回は手術予定部位がほぼ全域

超・巨大乳房によって覆われてしまう。

IMG_4830仕方がないので

この巨大乳房にロープをかけて

後方へ引っ張り

そのロープの先端を後方に固定することにした。

いつもは四肢を縛っているロープを

IMG_48311本余計に使って巨乳の固定をした。

こんなことをするのは初めてだった。

巨乳を固定した後は

写真のように普通に

バリカンで毛刈りをし

IMG_4832普通に手術を終えることができたが

こういう牛の共通項として

巨乳の割りには

体がやせ細って

腹囲が巻き上がっている。

IMG_4833そのために

巨乳が前方へはみ出して

手術の邪魔になるのである。

乳牛の体型の

遺伝的な改良が進むのは

良いことだと思うが

どれもこれも良くなるというものではなく

時には体型が崩れて

それが返ってあだになってしまう

という場合もある。

家畜の改良というのは

遺伝子ばかりを良くすることではなく 

飼われる環境も

同時に改良して行かなければ

本当の改良にはならないのだろう

と、つくづく思う症例だった。 


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