北の(来たの?)獣医師

北海道十勝地方で牛馬を相手に働く獣医師の最近考えていることを、 散文、韻文、漢詩 でつづったものです。

学者と臨床家

帝王切開部位・右派?・左派?

「これから帝王切開だそうです。」

夕方追加往診に行っていたS獣医師から連絡が入った。

診療所に残っていた私はそれを聞いて、

今日の超過勤務を覚悟した。

それから約20分後にS獣医師が戻って来た。

H獣医師らと手術室で帝王切開の準備をひと通り終えて、

さらに20分ほど経ったところで、

牛が運ばれてきた。

牛を手術台に保定するとき

私は手術台のアームがいつもとは逆の

向かって右側が伸びていることに気がついた。

「あれ、右の下けん部を切るんですか?」

「うん、いつもとは違うんだけど、やってみようかと思って。」

S獣医師からそんな答えが返ってきた。

最近の我が診療所で行われる帝王切開は

牛の頭部を向かって左側に結び

牛の左側を上側にする

いわゆる左横臥で寝かせて

左の下けん部を切開する術式がほとんどである。

その理由は

第四胃変位の手術の時と同じ保定なので慣れている。

切開部位のほぼ直下で胎児を摘出することができる。

などが挙げられるが

実は難点もある。

それは

子宮を操作している時

大きな第一胃が邪魔になるという点である。

第一胃にガスが溜まってくると

牛の陣痛に共なう怒責によって

まるで大きなエアバッグのような第一胃が

切開創から飛び出してくることがよくあり

それが手術の進行を遅らせるのだ。

それを防ぐために

私はいつも第一胃のガスを抜くための

インジェクターを用意して手術をしている。

それでもやはり第一胃の怒責は煩わしいものである。

IMG_4976「右側を切ったら、それがないからね。」

S獣医師が右横臥を試みたのはそういう理由らしい。

ただ、右下けん部切開にも難点がある。

それは

子宮を操作している時

円盤結腸の周りを走る空回腸が

怒責に伴ってニョロニョロと出てくるので

IMG_4980それを避けるのが煩わしいという点である。

右を切ったら空回腸

左を切ったら第一胃

どちらかが邪魔になる

という点では同じことなので

要はその対処法に差があるかということだが

IMG_4982それぞれ慣れてしまえば大差はないように思われる。

今回私は

助手のそのまた助手として

周辺をサポートするだけの簡単な仕事だったので

写真を撮らせてもらったが

いつもと左右が逆の手術は

IMG_4982なんとなく

鏡に映った映像のようで

撮っているだけでも不思議な気分になった。

過去を振り返ってみると

以前はよく右横臥で右下けん部切開で帝王切開をしたものだが

IMG_4985いつの間にやら

左横臥で左下けん部の帝王切開ばかりをするようになっていた。

それはなぜかというと

邪魔になる消化管云々がその理由ではなく

どうやらその理由は

第四胃変位の手術と同じ体位で横臥させる

IMG_4986ということに慣れてしまったからのようである。

牛を寝かせるまでに

何も考えずに

体が勝手に動くのは

やはり

IMG_4987第四胃変位の手術と同じ

左横臥なのである。

なんだ

そんなことか(笑)

さて

これをお読みの獣医師の方々

あなたは帝王切開の時

どんな体位でやっていますか?

IMG_4989枠場で立位ですか?

手術台で横臥位ですか?

横臥位の場合

右横臥ですか?

左横臥ですか?


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自力で分娩した牛の親子は要注意!

先日の宿直の、

18時30分頃に携帯電話が鳴った。

「今日産んだ親牛と、その仔が元気ないんですけど・・・診てもらえますか?」

酪農家の▽さんからだった。

牛舎に着くと、仔牛がいるカーフハッチに案内された。

「難産だったらしくて・・・でも親のほうは、さっき見たら餌食ってたんで、様子みることにします。仔牛のほうを診てください。」 

仔牛はカーフハッチの中でうずくまっていた。

体温35℃以下、心音が弱く、呼吸も弱かった。

「お産は、だいぶきつかったの?、いつ生まれたの?、親は初産?」

「朝5時頃だと思います。見つけた時はもう生まれてたんですけど・・・親は経産牛です。」

「自力で生まれてたのね。」 

「はい・・・」

よくある事だが

自力で分娩し終わっている牛を見つけた時は

もう事態の山場が過ぎているので

安心して仔牛を移動させて

普通に様子を見ている飼主さんが多い。

しかし

最近のホルスタインは

足腰が弱く踏ん張りがきかなくなっているので

相当な難産であったと想像するべきである。

飼主さんが介助するのが当たり前になっている中で

介助のない自力分娩をした牛の親子は

親子共々相当な体力を消耗をしている可能性が高い。

そういうお産の直後の牛の親子は

いつよりもまして注意を払っておかなければならない。

今回はまさにそういうケースだった。

時間は19時を過ぎ

夜の厳しい寒気が忍び寄って来た。

「仔牛の体温が下がりすぎてるね。外のハッチで治療するのは、ちょっとなー。」

「寒すぎますか?」 

「うん、ここじゃ寒すぎるから、どこか部屋の中に持って行こう。」 

「わかりました。」 

IMG_4973私と▽さんの息子は

冷たくなりかけている仔牛の四肢を持って

処理室の事務机の前に運び込んだ。

処理室の中はプラスの気温だったので

ここで点滴治療をすることにした。

仔牛は体温が下がっているばかりではなく

BlogPaint血圧もかなり下がっていて 

頚静脈がなかなか見つからなかった。

数分後ようやく頚静脈に留置針を差し入れることに成功し

点滴治療を開始して

明日また治療に来ると▽さんに告げて

その夜はそのまま帰路に着いた。

翌朝

事務所の外の温度計の気温は

−16℃を指していた。

診療業務が始まった頃

▽さんから電話がかかってきた。

「昨日の仔牛・・・死んでしまいました・・・」

残念な結果になってしまったが

今の時期にはよくある事だ。

繰り返しになるが

もう一度書いておく。

飼主さんが介助しないで

自力で分娩した牛の親子は

いつも以上に

体力を消耗しているので

要注意!


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巨乳の乳牛の四変手術

乳牛はみな巨乳である。

沢山の乳を搾るために、

そのように改良(改変)されて来たのだから、

仕方のないことであるが、

そのおかげで、

色々なところに支障が出る場合もある。

先日、

四胃変位の手術をするために連れて来られた牛は、

超・巨乳、だった。

手術台に寝かされて

仰臥姿勢にすると

巨大な乳房が

前方へはみ出して来て

四変手術の切開部位である

傍正中線付近が

すっぽりと覆われてしまった。

一部分だけ覆われて手術しづらい

という事は過去に何度もあったけれど

今回は手術予定部位がほぼ全域

超・巨大乳房によって覆われてしまう。

IMG_4830仕方がないので

この巨大乳房にロープをかけて

後方へ引っ張り

そのロープの先端を後方に固定することにした。

いつもは四肢を縛っているロープを

IMG_48311本余計に使って巨乳の固定をした。

こんなことをするのは初めてだった。

巨乳を固定した後は

写真のように普通に

バリカンで毛刈りをし

IMG_4832普通に手術を終えることができたが

こういう牛の共通項として

巨乳の割りには

体がやせ細って

腹囲が巻き上がっている。

IMG_4833そのために

巨乳が前方へはみ出して

手術の邪魔になるのである。

乳牛の体型の

遺伝的な改良が進むのは

良いことだと思うが

どれもこれも良くなるというものではなく

時には体型が崩れて

それが返ってあだになってしまう

という場合もある。

家畜の改良というのは

遺伝子ばかりを良くすることではなく 

飼われる環境も

同時に改良して行かなければ

本当の改良にはならないのだろう

と、つくづく思う症例だった。 


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ばんえいGI・第12回天馬賞馬に、あの馬が・・・

1月3日のばんえい競馬のメインレースは、

5歳重賞三冠レースの最終戦、

第12回天馬賞だった。

いつもの飲み友メンバーのH田さんと、

運転手をしてくれたS平君と3人で、

正月競馬ムードたっぷりの帯広競馬場に入った。

数レースの運試しで収支ややマイナスとなった後、

IMG_4910いよいよメインの第10レース

出走馬の表と競馬新聞の予想の印を見ると

7番のミノルシャープに人気が集まっている。

本命はどうやらこの馬のようだが

その相手がはっきりしない。

対抗馬の筆頭だった6番カネサスペシャル

病気で出走取消になってしまったので

1番メジロゴーリキ、2番ジェイワン、3番ゴールデンフウジン、8番マツカゼウンカイ

の4頭に印(人気)が分散している状態だった。

再び競馬新聞をよく見ると

IMG_49351番メジロゴーリキ

父はニシキダイジン、母はメジロルビー、とあり

生産者は我が町の§さんの生産馬だった。

そしてこの馬は5歳になる・・・

(この馬・・・もしかして・・・)

私は、5年前の§さんの仔馬の往診を思い出していた。

(メジロルビーの仔で・・・親馬の糞を食べ過ぎた・・・ということは・・・あの時の仔馬だ!)

食糞欲が旺盛で食道梗塞になり

飲んだミルクを飲み込めずに鼻から吐き出していた仔馬ではないか。

その時は日高のhig先生に相談して

絶食用の口籠を装着して

その後は事無きを得たが

何かと世話のやけるやんちゃな雄の仔馬だった・・・あの仔馬ではないか!

(色の付いている文章をクリックすると、その時のブログ記事が読めます。)

あの仔馬が

今はもうこんなに、たくましく成長して

メジロゴーリキという名前をもらって、大きなレースに出場しているのだった。

「あの仔馬、強くなったと聞いていたけど、GIの三冠レースに出るまでになったとはなー!」

私は、感慨無量だった。

パドックでは

重賞レースということで

多くのファンが集まって

馬達に声援を送ったり

カメラを向けたりしていた。

1番の馬から10番の馬まで

全ての馬がよく仕上がっていて

馬体はみんなピカピカで美しく逞しかった。

私は、1番メジロゴーリキの姿を

IMG_4917何度もカメラにおさめた。

そして

この馬のビックレース挑戦を祝福し

IMG_49191番メジロゴーリキを軸とした応援馬券を買うことにした。

先ずは1番の単勝 を1000円

そして有力馬への連複馬券のながし

 辞◆↓ 辞、 辞А△魍300円

さらに人気薄馬へのワイド馬券のながし

 辞ぁ↓ 辞ァ↓ 辞─↓ 辞、を200円

IMG_4929合計で2700円の応援馬券を買った。

1番メジロゴーリキが来なかったら

全ては紙切れとなる馬券。

この馬券をポケットの中で握りしめ

スタート地点へ向かった。

ファンファーレが鳴り

続いて「ガシャーン」とゲートが開いた。

馬たちはもうもうと砂煙を上げながら

200メートルのコースを重い橇を引いて走りはじめた。

IMG_49241番メジロゴーリキ

スタートダッシュよろしく

先頭争いをしながら辛うじて先頭に立ち

第二障害の勝負所に差し掛かった。

登坂能力が高いという評判のこの馬は

評判通りに第二障害をひと腰で登りきり

ここもほぼ先頭で

後半勝負に持ち込んだ。

IMG_4926相手の馬たちは皆差し足が鋭く

逃げる1番メジロゴーリキ

猛然と追い詰めてくる。

ゴール地点が近付いてきた。

1番メジロゴーリキ

後続馬の追撃を逃れるように

水分の少ない重い馬場を

必死に進んでゴールした。

その瞬間

3番ゴールデンフウジン

1番メジロゴーリキを僅かにかわしたかに見えた。

着順の発表がなかなか出なかった。

場内の人びとは皆モニターに注目した。

しばらくして

ようやく写し出された着順は

1着1番メジロゴーリキ、2着3番ゴールデンフウジン、3着8番マツカゼウンカイ

だった。

「払戻金額をお知らせいたします・・・」

というアナウンスのもと次つぎと金額が発表され

単勝   760円 、馬複  辞 1470円、ワイド   辞  380円

IMG_4931私の買った3種類の馬券が

的中してしまった♪

投資額を掛けるとそれぞれ

7600円 + 4410円 + 760円 = 12770円

となった♪

IMG_4932大した考えもせず

単純に応援馬券として買った

我が町の§牧場生産馬で

五年前の思い出深いメジロゴーリキ

の馬券だったが

応援で買った馬券が

こんな当たりをしたのは

IMG_4946全く初めてのことだった。

メジロゴーリキからの

思いがけないお年玉を

逆にもらってしまったような

嬉しさのこみ上げてくる

当たり馬券だった。


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今年最初の難産介助

今年の年末年始は、

元日から2日までが私の当番だった、

静かな朝日を浴びて診療所へ向かい、

大晦日から元日まで当番だったT獣医師と新年の挨拶を交わし、

元日はT獣医師と約半分づつ仕事を振り分けて、

それぞれの往診先へ出掛けた。

午前中の最後の往診先で仔牛の治療をしているとき、

ポケットの携帯電話が鳴った。

「お産なんですけど・・・仔牛が大きくてなかなか出ないみたいで・・・」

和牛繁殖農家の★さんからだった。

到着して分娩の予定日を聞いてみると

「12月14日なんですけど・・・2週間以上遅れてるんで・・・ちょっと心配で・・・」

産道に手を入れて診ると確かに肢が太い。

頭部はその奥で少し横を向いていた。

「・・・あー、これは頭にワイヤーをかけたほうがいいね。」

「お願いします・・・」

手持ちのループワイヤーで頭部を確保し

まず頭部だけをゆっくりと牽引する。

頭部は軽い抵抗感とともに産道に乗ってきた。

次に両前肢にロープをかけてそれをセットした滑車に接続する。

滑車につないだ前肢と

ワイヤーで確保した頭部を

交互に少しづつ牽引してゆく。

頭部が最もキツくなる膣をおでこが完全に通過して

後頭部まで出たところで

前肢につないだ滑車だけを強めに一気に牽引する。

胎児の骨盤が完全に通過して

ドサッと生まれてきた。

大きな♂だった。

IMG_4903「よかった・・・無事に生まれた・・・」

「・・・今年最初のお産の仕事は、無事でよかった。」

「ありがとうございます・・・」

新年早々、これは幸先の良いことかもしれない。

そして

その夜

午後6時半過ぎに当番の携帯電話が鳴った。

「また、お産なんですけど・・・仔牛向きが悪いのか・・・なかなか出なくて・・・」

なんと、また同じ和牛繁殖農家の★さんからだった。

到着して再びカッパを着ていると★さんが来て

「昼間の牛よりも簡単に出せるかと思って・・・色々やってみたんですけど・・・」

という。

産道に手を入れて診ると、昼間の産道よりも乾燥感が強く、胎児の頭部もより奥にあった。

「・・・あー、これも頭にワイヤーをかけないと駄目だね。」

「お願いします・・・」

私はふたたびループワイヤーで頭部を確保したが

昼間の牛の胎児よりも頭部が乾燥していた。

親の陣痛が強く羊水ばかりが先に出てしまっている様子だったので

胎児の頭部にワイヤーをかけるのに倍以上の時間がかかった。

なんとかワイヤーをかけて

まず頭部だけをゆっくりと牽引する。

頭部はかなりの抵抗感とともに産道に乗ってきた。

次にすでに両前肢にかけてあったロープを滑車に接続する。

滑車につないだ前肢と

ワイヤーで確保した頭部を

交互に少しづつ牽引してゆく。

頭部が最もキツくなる膣をおでこが完全に通過して

後頭部まで出たところで

前肢につないだ滑車だけを強めに一気に牽引する。

胎児の骨盤が完全に通過して

ドサッと生まれてきた。

今度は、大きな♀だった。

IMG_4907「よかった・・・無事に生まれた・・・」

「・・・羊水がかなり抜けてたみたいで、キツかったね。」

「でも無事に生まれて・・・よかった・・・」

「・・・元日に同じ家の牛のお産を2回手伝ったの、たぶん初めてかも。」

「そうですか・・・ありがとうございました・・・」

新年早々、これは重ねて

幸先の良いことかもしれない。

気温が下がり寒い夜だったが

この日の夜の往診はそれだけだった。

翌日は、ほぼ普通量の仕事をこなして

元日から2日にかけての当番を無事に終了させることが出来た。

さて

今日(3日)から6日まで

私の正月休みが始まる♪

3日の予定は、午前中に帯広神社へ初詣。

午後からは、帯広競馬場でばんえい競馬の観戦。

4日の夜は、旧友と焼鳥屋で一杯やってから夜のジャズライブ。

5日の午後は、帯広能楽同好会の初稽古。

6日は朝から札幌で、ホトトギスと伝統俳句協会の新年句会。

予定がびっしり(笑)

天気も良さそうだ。

正月休みを思いきり楽しもうと思う♪


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和牛難産後の子宮脱(2)

朝の往診の準備中に緊急で入った子宮脱の整復。

その日になんとか整復して、

翌日の往診の時は起立していてくれないかと、

淡い期待を抱いていた。

しかし、

翌日その牛は起立できなかった。

症状は全身の発汗が見られ、

相変わらず呆然として食欲不振だった。

血液検査の結果、血清カルシウムは

6.2 ml/dl だった。

その翌日の治療内容も

血液検査の結果を参考にしながら

カルシウム製剤とマグネシウム製剤と抗生物資の投与をした。

その翌日

牛の食欲が回復。

発汗もおさまり表情に活気が出てきた。

血中のミネラルその他の性状が好転したようだった。

しかしながら

起立することができなかった。

リンゲルなどの補液とVB1などの栄養剤と抗生物質を投与した。

その翌日

22C9DA86-8091-4391-AC14-2E4CFB32703B牛の食欲はほぼ正常化。

起立しようとする意志が感じられ

過肥で重い体を前肢だけで引きずり

這いずり回すようになった。

しかしながら

起立することができなかった。

這いずり回る牛の

下腹部に異常を発見した。

6605BCF1-5012-42A9-820C-DBE14519F586右の下腹部が大きく膨れ上がり

触ると波動感があった。

腹壁ヘルニアが強く疑われた。

更に

左後肢はほとんど動かすことができないことも

だんだん明らかになってきた。

骨盤腔内の神経麻痺が疑われた。

鎮痛剤と神経賦活のためのVB1剤が投与された。

その翌日

症状はそれ以上改善することはなかった。

B9962135-C07C-4162-B347-70336C6E8E32食欲はあるものの

腹壁ヘルニアの疑われる腹部の異常は顕著で

左後肢は全く動かすことができず

這いずり回る力が

昨日より少し衰えてきたように感じられた。

ここで私は

Θさんと相談し

この牛を廃用にすることにした。

その手続きをしている間

「・・・ああ・・・かわいそうな事をしちゃった・・・牛が気の毒で・・・ごめんなさいね・・・」

Θさんの母さんは

何度も何度も

この牛に話しかけていたのが

印象的だった。 


(この記事終わり)


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和牛難産後の子宮脱(1)

「お産した後、親牛が立てないないので診て下さい・・・」

和牛繁殖農家のΘさんの母さんからだった。

時間は午前8時40分を過ぎた頃で、

ちょうど診療所の受付の最中で、

出勤している獣医師の往診先を振り分けているところだった。

「じゃあ、俺行きます。」

Θさんは私が向かう地区だったので、

私は往診先にΘさんを加えて、

診療準備にとりかかった。

するとまた、Θさんの母さんから電話がかかってきた。

「なんだか、後産じゃないようなものが出てきて・・・」

私は子宮脱を疑い

往診準備にその治療の準備も加えながら

慌ただしく診療車と薬室を往復していた。

するとまた、Θさんの母さんから電話がかかってきた。

「先ほどの牛が苦しがって、お腹が張ってきて、唸っているんです・・・」

慌ただしく午前中の往診準備を終えた私は

真っ先にΘ農場へ向かった。

途中、安全運転のために備え付けられている

診療車のドライブレコーダーが

何度もスピード注意の警告を告げていた。

約20分かかってΘ牧場に着くと

母さんが心配そうな声で

「仔牛が死んでしまったんで、母親だけでも助からないかと・・・でもこれでは・・・」

牛は右横臥で頭を投げ出し

唸り声をあげて苦しがっていた。

腹囲は極度に膨隆してパンパンだった。

E5CE6BBD-123F-4009-913B-8903C3C093BE私は直ちに極太の套管針(とうかんしん)で

パンパンに膨れている腹壁の頂点部を穿胃した。

湯気のような第一胃ガスが勢いよく吹き出てきた。

ガスが噴き出ている間に

カルシウム剤の補液と採血をして

母牛の腹囲が萎むのをしばし待った。

03C9102E-AA73-46C8-BC18-D92C889766B7「少し親牛の目つきが良くなってきたわ・・・」

Θさんの顔さんは少しほっとしたように言った。

「これから、出ている子宮を元に戻すから、まず親牛を吊り上げましょう。」

私はΘさんの嫁さんに

吊るためのハンガーとトラクターを手配するよう告げた。

「今うちの息子がいないんで・・・隣のΔちゃんに来てもらったら?・・・」

「そうしてくれるとありがたいですね。」

BA5E3556-2584-493C-97D5-54086E39B1BBしばらくして

近所の酪農家のΔ君がやってきた。

ハンガーを腰に取り付けて親牛を吊り上げようと

トラクターのフロントアームを上げてゆくと

過肥状態の親牛の腰からハンガーが外れて

牛の体はまた横臥してしまった。

348A67B8-7CE3-43CB-9982-9ECC0C951B95親牛の腰の皮下脂肪が厚く

ハンガーがどうしてもしっかりと掛かってくれない。

吊っては外れ、吊っては外れ

そんなことを3回繰り返して

結局、吊起をあきらめ

座位のままで子宮脱の整復をすることにした。

F10722BA-46C6-4CCA-B950-D308B98FEB3F用意したビニール袋を子宮の下に敷き

袋の両端を嫁さんとΔ君に支えてもらいながら

私は子宮を押し込んでいった。

子宮はそれほど苦労せず

腹腔内に納めることができた。

BEFA78F2-E4B3-46FA-8E4D-E6F16BFF218B反転整復棒を挿入して反転を直し

外陰部をビューナー針と包帯で巾着縫合し

抗生物質を投与した。

「とりあえず、これで様子を見てください。」

「わかりました・・・」

25BB41C8-5E53-4CC4-B90B-C75984BA464F「明日また来るようにしておきますね。」

「よろしくお願いします・・・この牛、立てるといいんですけど・・・」

「ですね。まぁ、立っても立たなくてもまた診ますから。」

「わかりました・・・あー昨日から息子がいないから・・・」

「でも、Δ君が来てくれて助かりました。」

「もっと早くお産に気付いていれば・・・こんな事にならなかったのに・・・」

B2BC52E3-012B-41DB-BB25-65C672F43641寝ている母牛を前にして

Θさんの母さんはしきりに悔しがるのだった。

往診の一件目で

立てない牛の子宮脱整復というのは

時間のロスが気になる仕事である。

私はΘさんの嫁さんとΔ君への挨拶もそこそこに

慌ただしく

次の往診先へ向かった。


(この記事つづく)



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死後硬直

午後2時過ぎに、

▲畜産から難産の追加往診が入り、

同僚のK獣医師が往診に行っていた。

そのK獣医師から3時頃連絡が入り、

帝王切開することになった。

分娩予定日はほぼ今日だという。

胎児の臀部が産道に進入している

いわゆる「臀位」なのだが

手に触れるのは臀部ばかりで

後肢の手がかりは全くなく

胎児は子宮の奥深くに下がったままらしい。

連れてこられた難産の親牛は

まだ2産目の元気な牛だった。

「もう一度手を入れて、難産介助してみますか?」

K獣医師がそう言った。

「いえ、その必要はないです。すぐ帝王切開しましょう。」

帝王切開の準備をしていた私と同僚のT獣医師は

口を揃えるようにそう答えた。

ひとたび帝王切開をする事を決めた牛を

診療所の手術室に連れて来たときに

方針変更をして

経膣分娩を試みることはよくある事だ。

しかし

記憶を過去に遡って

その結果を振り返ってみると

帝王切開を中止して経膣分娩に切り替えて

娩出した牛の親子には

ロクなことが起こらなかった。

多くの胎児が結局は死亡し

多くの親牛が産後の疾病に悩まされた

という経験ばかりが

私の記憶の中に入っていた。

「切る(帝王切開)と決めて連れて来たのだから。」

「ムダなことはしないで、すぐ切りましょう。」

「はい、そうですね。」

我々3人の意思は一致した。

牛を寝かせて

左下けん部を切開し

そこから手を入れて子宮を探る。

牛の陣痛とともに第1胃が膨らみ

それがまるでエアバッグのように

創口から飛び出して来る。

目当ての子宮は腹腔の奥底に沈んでいて

胎児を掴む手がかりが乏しい。

しかし、何とか

沈んだ子宮の表面に胎児の肘(ひじ)の部分を発見して

それを手掛かりとして子宮ごと胎児を掴む。

用意しておいたインジェクターで第1胃ガスを抜き

第1胃を腹腔内へ押し込む。

この時

もう1人の獣医師が子宮を掴んだまま

頑張って支えていると

その下に第1胃を押し込むことによって

子宮が創口の方へ上がって来る。

「・・・ようやく、子宮を持ってこれた・・・」

「創口から(子宮を)出せますか?」

「・・・いや〜、それは無理・・・」

「じゃあ、(腹腔の)中で切りましょうか。」

「・・・そうして下さい・・・」

私は、子宮を手で支えながらそう言った。

K獣医師がメスで子宮をまず10僂曚廟擲した。

その切開創から手を入れて

胎児の前肢を掴むことができた。

「・・・足を掴んだんだけど・・・」

「持って来れますか。」

「・・・なんだか変・・・硬いですね・・・」

「奇形、ですか?」

「・・・そうかも・・・」

掴んだ胎児の前肢の球節は硬く曲がったままだった。

さらに、その隣にある頭部に手を回し

前肢と頭部を創口から露出させた。

そこに産科チェーンを巻き付け

そのチェーンを備え付けのチェーンブロックのフックに掛けて

IMG_4721ゆっくりと胎児を引っ張り上げてゆく。

途中で、創口をメスで拡げながら

ゆっくりと胎児が引き出される。

「・・・胎児の体が曲がってますね・・・」

「硬直してますね。」

IMG_4718「・・・奇形というよりは、死後硬直ですか・・・」

「そうですね、時間経ってますよ。」

「・・・すぐ切って正解でしたね・・・」

「これは(経膣では)直せない。」

「・・・ですね・・・」

IMG_4716摘出された胎児は

目が暗く窪んでいて

四肢や体幹が硬直しており

子宮の中に収まっている形のまま

前肢2本を

まるでカマキリのように

空中に遊ばせて

死後硬直していた。


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不揃いの双子・part2

「∩牧場のお産で子宮捻転らしいので、行ってもらえますか?」

午前中の往診の最後の家で連絡が入った。

「了解です。」

∩牧場に着くと、

分娩房に従業員の◉君がいて、

その前に死亡した仔牛が横たわっていた。

「もう出たの?」

「はい、出しました。」

「子宮捻転だって聞いたんだけど・・・」

「はい。ちょっと捻れてたんで、でも直して出せました。」

「それは良かった!」

私はホッとした。

仔牛は死亡してしまったとはいえ

大変なところはもう◉君がやり終えてくれた。

◉君は従業員のチーフ的な存在で

∩牧場の中では最も信頼されているベテランである。

「でも、安田さん、もう1つ入ってるんですよ。」

「双子なの?」

「はい。」

親を見ると

外陰部から胎児の肢が2本覗いていた。

「今、引っ張るところなんです。」

◉君は助産用の産科道具を牛の腰に当てて

出ている2本の肢にロープをかけて

2頭目の胎児の助産をはじめた。

双子の胎児の2頭目ならば

ベテラン従業員の手にかかれば

簡単に出すことができるはずなので

私はカッパにも着替えずに

助産道具を使っているところを写真におさめた。

IMG_4713それが左の写真である。

この道具のレバーの根本の部分に

胎児の肢に繋いだロープをかけて

レバーを引けば

胎児を簡単にかつ強く牽引することができる。

IMG_4711「・・・。」

私は◉君の作業を見守っていた。

「・・・。」

胎児の肢はそれほど太くはなく

頭も産道に乗っているようだった。

「・・・あれ?・・、なんで来ないんだろう・・・」

「頭は来てるんでしょ?」

「・・・すぐそこに来てます・・・」

「じゃあ引けば出るよね。」

「・・・のはずなんだけど、なんでだろう・・・」

◉君がいつになく苦労しているので

私はカッパに着替えて助産を手伝う事にした。

牽引レバーをゆるめて

IMG_4712手を入れてみた。

「・・・ん・・・。」

「どうですか?」

「・・・ん・・・、この左側の肢なんかおかしいぞ・・・」

私は2本出ている肢の形態を手で丁寧に触診した。

右の肢には球節の次に腕節があった。

左の肢には球節の次に腕節の膨らみがなく

いきなり片方に尖ったような部分に触れた

飛節だった。

「これ・・・前肢じゃなくて後肢だよ・・・」

「え、本当ですか。」

私は後肢にかかっているロープをはずし

前肢にかかっているロープ1本だけの牽引を指示した。

すると、ロープをはずした後肢が戻って行き

前肢と頭が外へ出てきた。

そのまま道具で牽引を続けると

首と胴体が出てきた

その脇にぴったりもう片方の前肢が

後ろ向きに畳まれたまま牽引されて来た。

これでようやく2頭目の助産が終了した。

簡単に出せると思っていた2頭目の胎児は

とんでもない失位をしていたのだった。

そのアクロバット的な胎位は

獣医学的にもまだ正式な名称が無い胎位だった。

前後肢同時進入位・・・?

とでも呼べば良いのだろうか。

IMG_4715ともあれ

◉君と私は

双子の胎児を出し終えて

親牛にカルシウム剤などを補液しながら

ホッと一息ついた。

「ところで、この胎児毛色が違ってるね、白黒と白赤・・・」

IMG_4714「そうですね、二卵性ですね。」

「母親は白黒なのに・・・」

「種牛がレッドなんですよ。」

「そうなんだ・・・」

「この種牛の父親が、レッド〇〇っていう種牛で、奇形が多くて評判悪いんですよ。」

「へー、そうなんだ・・・」

私は知らなかったが

白赤の牛が多くなって来たこの頃

そんな種牛もいるらしいのでご用心。

今回は

大きさではなく

胎位と毛色が不揃いの

双子だった。


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不揃いの双子胎児

深夜の携帯電話が鳴った。

「お産なんだけど、足が変なんだ・・・」

酪農家のΘさんからだった。

「前足が来てて、頭も触るんだけど、なんか変・・・」

到着して

手を入れてみると

確かに前足が2本来ていて、頭も触れる。

「・・・。」

しかし

頭のある位置と

前肢のある位置が

普通のお産とはどこか違っている。

前肢をつかんで引いてみると

何かにつっかえているように動きが悪い。

頭も同じように可動性が少ない。

(これは奇形かもしれない・・・)

そんな思いが頭をよぎった。

(もしかして反転性裂胎!・・・)

そうであれば

深夜の帝王切開になる。

「・・・。」

不安材料は言葉にせず

黙って産道の奥へ

さらに手を入れてみると

2本の前肢と頭の隣に

肢がもう一本あった。

「・・・。」

奇形の疑いはまだ続いている。

3本目の肢の前後を確認しようと

さらに手を奥へ入れると

こつんと鼻先に触れた。

「あ・・・なんーんだ、双子だよこれは。」

奇形で帝王切開という

最悪のシナリオが

私の頭から消えていった。

「双子なの?」

「うん。どっちも前向きに来ている双子。」

私は最初に触った胎児の頭部を掴み

それを強く押し込んだ。

すると

押し込んだ頭のあった隙間へ

奥にあった2仔目の頭部が入り込んで来た。

私は同じ動作を何度か繰り返した。

最初に触った2本の前肢は

奥にあった2仔目の胎児の前肢だったのである。

今回の双子の胎児は

どちらも頭位で前向きに来ていて

一方が前足を

もう一方が頭を

それぞれ産道に進入させて

お互いにつっかえて

言わば「二人羽織」の状態になっていた。

私はかつて

「二人羽織」状態の胎児に気付かず

そのまま牽引して

胎児の前肢を骨折させてしまったという

苦い経験がある。

可動性の悪い胎児は

たとえ前足2本と頭が確認できたとしても

さらにその奥を確認するなどして

慎重に対処しなければならない。

今回はそれが解決の糸口になった。

私は前肢にロープをかけ

奥にあった頭の後頭部にループワイヤーをかけ

Θさんにゆっくりと牽引してもらった。

41A6D2F2-3124-4716-8168-740408B3B3E7胎児は既に死亡していた。

おまけに少し膨張していたので

滑車によってようやく引き出すことができた。

2仔目の胎児も既に死亡していて

同様に牽引したが

こちらは簡単に出すことができた。

「双子だったとはね、なんか変だと思ったんだよな・・・」

「もう死んじゃってたから、全然動かなかったね。」

「・・・それにしても、この仔牛・・・ずいぶん大きさが違うんでないの・・・」

F1429589-9361-4807-B760-E805ADDD0530「ほんとだ!」

胎児を2つ並べてみると

最初に出したほうは大きな♀

後に出したほうは小さな♂だった。

これだけ大きさの違う双子の胎児は

ちょっと珍しいかもしれない。

B481C93B-CE08-43B2-8058-C03C63FBE0EF「追い移植とかしてない?」

「してないよ、普通に種付けしたよ。」

最近は追い移植という

不自然な技術によって

不揃いの仔牛が生まれることがあるが

今回の仔牛は

天然の

かつ不揃いの

双子胎児であった。


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デブリードマン(3)

この牛の腹部の傷は、

2週間以上放置されていたので、

初診時にはすでに壊死が進行し、

IMG_4405広範囲にデブリードマン(壊死組織の除去)

をしなければならなかった。

そして

デブリードマンした後気付いたのが、

IMG_4414創の幅と長さだった。

腹圧の強くかかる場所で 

この創の幅と長さでは

縫合が困難なことに気づいた。

何度か糸をかけて数針縫ってみたが

IMG_4416たちまち組織が千切れてしまうのだった。

そこで方針を変えて

縫合はあきらめて

キトサンイソジン液の塗布と

オムツによる創面の保護と

抗生物質の投与

だけで

後は自然治癒力に任せるという

半ば投げやり的な治療方針に変更した。

初診から2週間で再診した時

IMG_4496思った以上に

創面の修復が進んでいたことで

気を良くして

再び同様の処置をして

また2週間が経過した。

IMG_4589それが左の写真である。

創面の幅は

さらに狭くなっていた。

初診のデブリードマンから

数えてちょうど1ヶ月後の

IMG_4590切創の幅は

4分の1程に狭くなっていた。

このまま行けば

この1ヶ月後には

さらにその4分の1程に狭くなっている

という姿を想像する事ができた。

IMG_4592あくまでも想像だったが

それは確信に近いような想像だった。

「これでもう終わりにしてもいいかな・・・」

私は創面にキトサンイソジン液をかけながら

そう思った。

オムツを当ててガムテープでそれを覆うことは止めて

IMG_4595抗生物質の投与も中止して

このままの状態で

治療を終了することにした。

◉さんと牛が帰ったあとで

「終わりにするのはちょっと早すぎたかな・・・」

という気持ちが湧いて来た。

しかしそのような気持ちは

日々の煩雑な仕事の中で

薄れていった。

それから1ヶ月が経過した。

たまたま◉さん宅の前を通りかかり

この牛のことを思い出して

牛舎に寄って

腹部を観察した。

それが最後の2枚の写真である。

IMG_4700皮膚はほぼ予想通りに

創部を覆っていた。

ただこれが

売り物となれば

この創面の残傷が

どれだけマイナスポイントになるかは

IMG_4701想像がつかなかった。

今思えば

治療の途中の3診目あたりで

創部の皮膚を寄せる縫合ができたかもしれず

そうすればもっときれいに

跡形もなく仕上げる事ができたかもしれない。

ただし縫合すれば

たとえ吸収糸といえども

長いあいだ異物が体内に残ることになる。

縫合しなかった今回の治療では

異物は一切ない形で済ませる事ができた。

本当はどちらが良かったのか・・・

それはさらに今後の経過によって検討されて

反省点を見出すことになるだろう。

症例は「一期一会」

今回の症例が少しでも

今後の参考になれば幸いである。


(この記事終わり)


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デブリードマン(2)

オムツを腹壁に縫い付け、

さらにその上にガムテープを貼って、

そのガムテープも腹壁に縫い付ける、

という苦し紛れの処置。

創傷部の壊死が広範囲に及び、

デブリードマン(壊死組織の除去)をした部分が、

想像以上に多く、

おまけに腹圧も強い箇所だったことから、

そんな外科的処置になってしまった。

数日後

IMG_4433心配だったので

◉さんの牛の様子を見に行った。

最大の懸念は

縫い付けたオムツとガムテープが

外れてしまっていることだったが

BlogPaintそれは大丈夫だった。

牛は腹部を気にして

頻りに振り返って

違和感のある様子だった。

それから

2週間が経った。

再び連れて来られた牛は

相変わらず元気だった。

縫い付けたオムツとガムテープは

◉さん考案の腹巻きネットの補強もあって

何とか外れずに着いていた。 

牛を手術台に寝かせて

創部のオムツを剥がして行くと 

意外や意外・・・

IMG_4490新しい結合組織(皮下組織)が

筋層を隈なく覆い

皮下組織だけの

平坦な創面になっていた。

前後の幅も狭まりつつあり

創の修復が着実に進んでいた。

IMG_4493私はその創面を

水道水で良く洗い

再びキトサンイソジン液を含ませたオムツを当てて

それを腹壁に縫い付け

さらにその上からガムテープを貼り付けて

IMG_4496それも腹壁に縫い付けて

牛を覚醒した。

さらに今度は

その上から

ヘルニア整復のときに使う腹巻ネットを装着し

IMG_4498オムツとガムテープが外れないように

万全を期す処置をした。

◉さんにはまた

抗生物質を毎日注射するように指示し

牛が帰るのを見送った。

IMG_4503私はこの時点で

これはきっと

きれいに治癒するのではないか

という思いが湧いてきた。

「この牛を治して売り物にしたい。」

という◉さんの期待に

応えられそうな気がしてきた。


(この記事もう少し続く)



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デブリードマン(1)

「生後8ヶ月になる和牛のお腹が腐ってきた・・・」 

そんなおかしな電話が掛かってきた。

電話で話していてもよく分からなかったので、

実際に◉さん宅へ行って見ると、

何やら壊死したものが、

腹部にぶら下がっている。

覗くと悪臭が漂って来た。

「半月くらい前に、隣のペンの牛が発情してて、そいつに乗っかろうとして柵を跨いだのよ・・・」

「半月も前に?」

「あぁ、たいした怪我もしてないなーって思って、そのままにしてたら、なんか変で・・・」 

牛は非常に元気が良く

ぶら下がった物に触れたら足が飛んできそうだった。

「これは・・・ここじゃ何もできないから、手術室に連れて来て。」 

ということで

連れて来られた和牛に

鎮静をかけて手術台に寝かせ

仰臥で創部を良く見ると

深い切創が

約90cmにわたって横断し

強い悪臭が漂って来た。

先ずは

壊死した組織を切除。

牧柵と体重による深い切創で

出血も少なかったらしく

怪我をした日から何の手当てもなく 

2週間が経過している。

切創に伴う壊死は

腹斜筋を突き抜けて腹横筋の一部まで達していた。

IMG_4396しかし、幸いなことに

腹膜には達しておらず

腹膜炎は免れていた。

「とにかくこの黄色く変色した壊死組織を剥がそう・・・」

デブリードマン(壊死組織の除去)である。

デブ・リードマン・・・!?

ずいぶんと変な専門用語だが

これは英語ではなくフランス語から来ているらしい。

どーりで変な言葉だと思った(笑)

IMG_4404ともあれ

最初私は

治療方針として

デブリードマンした後

創部を糸で縫合しようと考えた。

壊死組織は広範囲に及び

IMG_4405デブリードマンして行くと

創部の幅がどんどんと広がって

20cm以上の広い切創になった。

最初の方針として

ここに糸をかけて

創部の前後を寄せようとした。

IMG_4414ところが

壊死組織から正常組織に移行する部分に

縫合の糸をかけても

組織がすぐに千切れてしまい

縫合する事ができない。

たとえ縫合ができたとしても

IMG_4416数日後には

腹圧で開いてしまうのが容易に想像できた。

「縫うのは無理だね・・・」 

私は縫合をあきらめた。

方針を変更した私は

IMG_4419デブリードマンした創部を良く洗い

キトサンイソジンを塗ったオムツを

創全体に当て

そのオムツを腹壁に縫い付ける事にした。

さらにそのオムツが汚れないように

IMG_4424ガムテープでオムツを覆い

そのガムテープも腹壁に 縫いつけた。

「これでしばらく様子見るしかないね・・・」

私は◉さんに

この牛にはこれから

抗生物質(ペニシリン)を毎日打つように指示し

IMG_44262週間経ったらまた連れて来るように

と言って

牛を覚醒させた。

牛と◉さんはトラックに乗って帰って行った。


(この記事続く)


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ホル仔牛の右中足骨骨折(3)

外固定による骨折整復の一番肝心な、

1回目のキャストを巻くときに、

骨折部位の変位を触診して、

ズレを直すという作業を、

丁寧にしなかった・・・

そのせいでX線写真を見たときガッカリしてしまった・・・

085E10B6-BBE5-44E8-996E-C4A4F91988C9という今回の右中足骨骨折だった。

整復した獣医(私)はヘタクソだった。

しかし

仔牛のほうは

2F90979E-087A-42AD-8BCF-9EEE974CE3E6順調に回復していった。

2回目のキャストを外したのは

骨折してからちょうど4週目だった。

再び鎮静をかけて

ギブスカッターでキャストを切ってゆくと

B054AFF2-11CC-4998-B016-E1118E7A16BCパカッとキャストが割れて

簡単に患肢を露出する事ができた。

そのまま仔牛を覚醒させると

しばらくは

急に軽くなった患肢を持ち上げたまま

36449433-7ADD-4F0C-A984-A900EC4BAD1A着地することができなかったが

これはいつものことである。

撮ったX線写真は

まだズレはあるものの

3DC3622C-5006-4D3F-8B0D-077F941590D3そのズレた部分を

覆うような骨増生が確認された。

こうなってくればもう大丈夫である。

それからさらに2週間後

09FCA87C-D85A-4908-8CCE-E7859162CB3E仔牛の足を確認したら

ほかの仔牛と

何ら変わることなく哺育されていた。

今回の骨折治療を

振り返って見ると

ストッキネットは非常に使い勝手が良かった。

今後は、もう

仔牛の四肢の骨折は

下巻きの綿は不要!

アルミホイルも不要!

ストッキネットの二重巻きだけ!

で、その上からキャストを巻いただけで

スムーズに整復できる。

という事を

実際にやってみて

確認することができた。

そして

もっとも注意すべき事は

1回目のキャストを巻く時に

骨折部位の整合を

触診しながら

細心の注意を払って

丁寧に行う

という事も

反省点として挙げることができた。

骨折の治療の

頻度はあまり高くなく

我々十勝NOSAIの診療所の獣医師であれば

1年に1回〜数回程度であると思われる。

その頻度の低さが

骨折治療の技術の進歩を

遅らせて来たと言ってよいかもしれない。

実際まだ私もこの技術については

ヘタクソで経験が乏しい。

そうであれば

貴重な骨折治療の機会に遭遇したときは

記録を残し

ちゃんと検証をしておかなければならない

と言えるだろう。


(この記事終わり)


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ホル仔牛の右中足骨骨折(2)

ストッキネットと、

F72408C5-DFCB-479B-A834-82B96A16F49Aエバウールシートを買っておいて、

いつ骨折治療の依頼が来てもいいように準備をしていた、

今回の仔牛の中足骨骨折。

道具はほぼ最新の物をそろえていたわけだが、

E11CB630-AC91-40DE-8095-AB803AFDF4FA肝心の、

整復技術のほうがイマイチで、

相も変わらず、

詰めの甘い方法だったせいで、

整復後の骨折部位の、

左右のズレが大きいままでキャストを巻いてしまった。

それは前回の記事で書いたとおりである。

その写真をもう一度ここに載せておく。

BA86BE21-AC2E-4990-A923-EA9BF3782F54やはりかなりのズレである・・・

これほどのズレは

巻き直したほうが良いのではないか・・・

という考えが頭をよぎったか?

というと・・・

実はそうでもなかった。

私はむしろこの写真を見て

この程度のズレは

巻き直さなくてもきっと治るはずだ・・・

というふうに考えていた。

なぜそのような楽観的な考えをしたかというと

それは

私の乏しいながらも

仔牛の骨折の治療をしてきた経験が

そんな考えに至らしめたのであった。

A1406419-CF6A-4744-B325-EE5A0D020C6Dこれは決して自慢できるような事ではなく

技術のヘタクソな私のようなものが何を言うか!

とお叱りを受けても仕方がないことでもあるのだが

過去の経験的には

今回の骨折よりももっと大きくずれた症例でも

AB3EB64E-1C50-4518-9857-4537A01DACD2骨の融合さえ順調であれば

問題なく治ってしまったことが幾度もあった。

こんな事を書くと

単なる自己弁護の言い訳にしか読めないが

E3ECF06A-AE56-433E-A709-44F9B68A15C3今回もきっと治るだろうという

変な確信があった。

1回目のキャスト巻きから14日後

すなわち第14病日

D492A78E-EFF4-425B-865D-C949E11E9C97α牧場でキャストを外した。

ストッキネットのみで

それ以外の下巻のない患部は

ギブスカッターでキャストを切ると

パカッときれいに外すことができた。

BlogPaint患部の擦過傷もほとんどなく

骨融合も順調だった。

ほぼ予想通りの経過に

私は安心した。

そして

再びエックス線写真を撮影し

E250AA44-BD70-461E-AB78-13E5044F7BC9それを隣町の事業所へ持ち込み

現像機から出てくる画像を待った。

その写真が左の写真。

前後方向の融合はほぼ問題なく融合が進んでいる。

0306B957-DF37-4164-BE8B-52CB04197C52問題の左右方向の骨の融合は・・・

うーん・・・

やっぱりけっこうズレている

が、よく見ると

骨のズレを埋めるように

新しい骨組織が造成しているのを

確認することができた。


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ホル仔牛の右中足骨骨折(1)

「仔牛の後ろ足が折れているみたい・・・」

久しぶりの骨折治療の依頼だった。

骨折の治療はここ1年近くしていなかったが、

次の依頼が来る時のための、

準備はしておいた。

F72408C5-DFCB-479B-A834-82B96A16F49A我が畏友

NOASI日高のhig先生お薦めの

ストッキネットとエバウールシートを買い

いつか必ず依頼の来るであろう骨折の治療に

E11CB630-AC91-40DE-8095-AB803AFDF4FA備えておいた。

そしていよいよ

その時がやってきた。

私はそそくさと骨折治療グッズと

エックス線撮影装置も車に載せて

α牧場へ向かった。

従業員君の言う通り

右後肢が異常に曲がり

中足骨骨折は明らかだった。

「お産で引っ張ったの?」

「いえ。引っ張ってないです、生まれたときは普通でした。」

「じゃあ、親に踏まれたのかな・・・」

「はい。たぶん。」

4563924A-BFFF-47B3-AFFE-1A2F5620F034こういう場合は

骨折部の周囲の組織は

お産で引っ張った時の骨折に比べると

比較的ダメージが少ないので

治癒する可能性が高くなるようだ。

DD3A93EA-6A41-41CA-8E07-B92717BEDA41私は早速骨折治療を開始した。

まずは鎮静をかけて

用意したストッキネットを適当な長さに切って

それを二重に患部に履かせる。

それからエバウールシートを適当な大きさに切り

55159604-326F-47CB-99D4-AB94384C124D繋ぎの部分に巻き付けて

そこへさらに長く伸ばした包帯をまきつけて

その包帯り端を持って患肢を牽引する。

ギューッと牽引して

骨折部位の変位をできるだけ少なくして

452A5195-0295-4802-9FFB-39C2A03D9924そのままキャストを巻き付けてゆく。

下巻きは必要がなく

ストッキネットの上をころころと転がすように

キャストを巻いてゆくだけでよい。

巻いたキャストが乾くのを待って

70F05744-F222-4EDA-9616-06D278C85346処置はあっという間に終了。

久しぶりの処置にしては

スムーズに終了した。

そして最後に

患部のエックス線撮影をして

6EC29DCD-ABA1-46BD-968F-74C2AF4CCFEA帰路についた。

(ほぼ、完璧かな・・・)

などと

帰りの車の中で

自画自賛のつぶやきを発しつつ

隣町の診療所にエックス線画像のデーター化を依頼して

その画像が送られてくるのを待った。

その日の夕方

患部の画像が送られてきた。

それが左の写真。

964C18D8-08DE-477D-A785-2F9024A90C36前後方向の骨のズレは

ほぼ整復されていた。

長軸方向の軸のズレも

ほぼ真っすぐに整復されているようだった。

ところが・・・

2枚目の写真を見て・・・

私は愕然としてしまった。

BA86BE21-AC2E-4990-A923-EA9BF3782F54左右方向の軸が

まだまだ大きくズレたままになっていた。

あれほど強く患肢を牽引して

骨折部位の変位を整復したつもりだったのに

こんなにズレているとは・・・


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腹壁ヘルニアか?と思われた1例

フリーバーンで多頭数の酪農家、

▲フアームで治療を依頼された牛の中の1頭は、

IMG_4319写真の様に、

腹部が異常に膨らんだ外見をしていた。

まず第一印象としては、

腹壁ヘルニアを疑った。

続いて、

可能性のある原因として、

乳静脈の破裂、

それによる腹部の大血腫なども疑った。

IMG_4320食欲はあり

起立するのにもそれほど問題ない様なので

この様な腹部の異常な膨らみを

「治療」してくれと言われても

正直言って

なす術がないのだった。

しばらく様子を見ていたが

その約1週間後に

起立不能になり

あっという間に死亡してしまった。

IMG_4321死亡したら詳しく解剖をして

膨らんだ大きな腹部が一体何だったかを

確認しようと思っていたのだが

この牧場で死亡する牛達は

普段、詳しく解剖できない業者が取りに来て

死亡した牛達を処理をしてしまうので

解剖をするタイミングを逸してしまった。

貴重な症例になりそうだったので

生前の写真を撮っておいたのだが

肝心な剖検所見を得ることができず

尻切れトンボになってしまった。

そこで、せめて

これをお読みの獣医師の皆さん

あるいは酪農家の皆さんに

こんな牛を見たことがあるかを

質問しておこうと思う。

生前の写真だけで判断するしかないのだが

いかがだろうか?


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1日に2度の子宮脱整復

「追加で1頭診て欲しいんだけど・・・流産みたいなんだよね・・・」

往診先ではよくある追加の診療だった。

酪農家の〆さんの、

乾乳にしたばかりというその牛の陰部に手を入れた。

 「ああ、これはもう胎児が産道に来てる、出すしかないね。」

私は胎児の足を2本掴んで、

そこに産科ロープを付けて、

ゆっくりとけん引した。

予定日より約2ヶ月早い流産胎児は

すんなりと頭を出して

そのまま引き出された。

と、その後

胎盤が出てきたと思ったら

それに引き続いて

子宮が裏返って

ズルズルと出てきてしまった。 

「あらら・・・、子宮脱だ。」

胎児を引っ張り出した私は

そのまま

今度は子宮脱整復術へと

治療を切り替えて

半分以上脱出した子宮を押し戻し

車から整復棒を持って来て

それで子宮の反転を直し

ビューナー針で外陰部を巾着縫合した。

「流産した牛が、そのまま子宮脱になるなんて、珍しいね。」

「引っ張りすぎたんでないのかい・・・?」

「いや、そんなことないって(笑)、普通に引っ張っただけだよ。」

「こんなこともあるんだな・・・。」

この日はとても良い天気だった。

過去の私の経験を思い出しても

2ヶ月早い流産の牛が

そのまま子宮脱になり

それを治療したという記憶はなかった。

これはとても珍しいことではなかろうか・・・

写真に撮っておけばよかった・・・

診療帰りの車の中で

私はそう思いながら

写真を撮らなかったことを悔やんだ。

それにしても

子宮脱星を支配する子宮脱大魔王は

突然現れて攻撃を仕掛けてくるから

怖いなと思った。

そして

その日の夕方

時間は午後4時を回った頃

事務所に電話がかかって来た。

「⁂さんの牛が子宮脱だそうです・・・誰か行ってもらえますか?」

今日の夜当番の獣医師は

すでに別の家の難産に向かっているところだった。

「じゃあ俺、行きます。」

⁂さんは和牛の生産農家で

往診の依頼は滅多に来ないところだった。

そんなところでよりにもよって子宮脱。

そして私は今日

午前中にも子宮脱整復をしたばかりだった。

子宮脱星の大魔王は

本当に何をしてくるか解らない・・・

IMG_4538⁂さんの牛は

牛舎で仔牛を産んだ後

そのまま立てずに子宮脱になっていた。

「まず、牛の腰にハンガーを掛けて吊り上げるから。」

⁂さんにリフトを運転してもらって

IMG_4540私は持参したハンガーを牛の腰に装着した。

「もう1人、手伝ってくれる人いるかな?」

「今、うちのやつ呼んだからすぐ来るよ。」

「じゃあ、ぬるま湯をバケツに2杯汲んで来て。」

私はそう言いながら

カッパを着て手袋を履いて

IMG_4543子宮脱整復のスタイルになった。

狭い牛舎の中に小型リフトを入れてもらい

ハンガーをゆっくりと吊り上げた。

奥さんがやって来たので

持参した整復用の板を

⁂さんと2人で持ってもらい

IMG_4544その板の上に

脱出している子宮を乗せた。

親牛の怒責はそれほど強くはなかったが

何度か押し戻されそうになりながらも

子宮を腹腔内に戻し入れ

さらに子宮脱整復棒を挿入し

IMG_4545子宮の反転を取り除いた。

子宮脱整復棒は

本日2度目の出番だった。

その後ビューナー針で

外陰部を巾着縫合した。

IMG_4547ビーューナー針も

本日2度目の出番だった。

その後

牛を吊っていたハンガーをゆっくりと下ろした。

この牛は初産で

⁂さんが昼間畑に行っている間に

誰の介助もなく自力で産んでいたという。

やや衰弱している親牛の採血と

若干の補液をし

仔牛にも栄養剤の注射をして

私はようやく

帰路に着いた。

暗い夜道には星が瞬き始めていた。

そのどこかに

大魔王の支配する子宮脱星も

不気味に輝いているのだろう・・・

翌々日

血液検査の結果が来た。

血中カルシウム濃度は

9.2 m/dl  

・・・正常値だった。

「子宮脱の牛は低カルシウムになっている」

という私の仮説は

あっさりと否定された。

子宮脱大魔王の

笑い声が

聞こえて来た様な気がした・・・


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難産・双子の方程式

「⌘さんで難産なんですけと、行ってもらえますか?」

先日の往診の途中、事務所から追加の電話だった。

「了解。」 

「予定より早いお産で、逆子のようなんだけど、足が曲がっているそうです。」 

「了解。」 

私はそれを聞いて、

このお産はきっと双子だろう、

と想像した。

逆子で足が曲がっている

というのは

すなわち「臀位」のことで

お尻が産道を塞いでいて

2本の後肢の先端は母体の奥へ向いている。

そういう難産が双子だったのを

私は何度も経験している。

胎児が子宮の中で窮屈な格好をしているのだ。

さらに

「予定日よりも早い」お産

というのも

双子である可能性を高めている。

胎児が大きくなって子宮に入りきらなくなり

予定日まで持たないで出てきてしまうのだ。

双子であることの条件が整っているのである。

私の頭の中では

「臀位」+「予定日前」= 「双子」

という方程式が成立した。

⌘さんに到着して

手を入れて見ると 

産道に尻尾があった。

その胎児のお尻をまず強く押す。

さらに右手で飛節を強く押して

そのまま左手を入れて探ると

後肢の蹄に触れた。

左手でその蹄を握り

子宮壁に引っかからないようにしておいて

右手で何度も胎児のお尻を押す。

さらに右手で飛節も押す。

すると左手でつかんでいた後肢の蹄が

クルッと反転してこちらを向く。

1本整復したら

同じ要領で2本目を整復する。

「これで普通の逆子になったから、ロープを付けて・・・」 

胎児が逆子(尾位)で娩出された。

「きっともう1ぴき入ってるはずだから・・・」 

「双子かい?」

「こういう時はだいたい双子なんだよ・・・」 

私はそう言って

再び産道に手を入れた。

ところが

胎児を触ることができない

「おかしいな・・・」

「居ないかい?」

「居ないわけがないんだが・・・」 

私は手に触れている胎盤を握って

その胎盤を引っぱって 

胎盤の一部を娩出させたあと

もう一度手を深く挿入して

子宮の中を探った。

手の先に

胎児の飛節のようなところがコツンとあたった。

「あー居たよ、やっぱり・・・」 

「そうかい。」

私はさらに胎盤を引きつけながら

2頭目の胎児の飛節をつかんで引き寄せた。

胎児の2本の蹄がこちらを向いてきたので

その2本の肢にロープをかけて

⌘さんに引いてもらった。

ところがなかなか胎児が産道に乗って来ない。

「おかしいな、ちよっと待って・・・」

「・・・」

「あ、これは、1本前肢だ・・・」

「・・・?」

ロープをかけた胎児の

後肢のつもりだった2本のうちの1本には

腕節(前肢の手根関節部)があった。

私はその肢のロープを外し

その奥にあるもう1本の後肢に付け替えて

⌘さんに引いてもらった。

胎児の後肢が産道に乗って来た。

「そのまま引いて・・・」

2頭目の胎児が娩出された。

IMG_4487胎児は2頭とも生きていた。

1頭目は♂2頭目は♀のフリーマーチンだった。

「♂♀だったね・・・」

「でも生きててよかったわ。」

「やっぱり双子だった・・・」

「もう1ぴき入ってないかい?(笑)」

IMG_4488 2「そうか!・・・」

私は念のため

また子宮の中へ手を入れて

胎児を探った。

子宮の中には

胎児はもういなかった。


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2頭の起立不能牛の比較

同じΔ農場で、

2頭の産後起立不能症を診療した。

この2頭の牛の耳標番号は1つ違い、

すなわちΔ牧場で続けて生まれた2頭だった。

生年月日はそれぞれ

A牛は、平成25年4月30日

B牛は、平成25年4月15日

誕生日が15日違いの牛同志だ。

この2頭の牛は、生まれてから

ほぼ同じ環境で哺育され

ほぼ同じ環境で育成され

ほぼ同じ環境で受胎して

ほぼ同じ環境で分娩し

ほぼ同じ環境で搾乳され

ほぼ同じ環境で再び受胎して

搾乳牛としての生活を続けていた牛同志である。

2頭の牛が先日

ほぼ同じ時期に分娩した。

A牛は平成30年10月5日分娩

B牛は平成30年10月12日分娩

488FE51B-B9F3-4CD3-925E-AAEBF0A58180両方ともお産の直後に起立不能になった。

どちらの牛も

初診の獣医は私だった。

A牛は

翌日に起立可能となり

そのまま普通の搾乳牛群に戻った。

ところが

B牛は

翌日も立つことができず

その後5日間治療を続けたが

結局立つことができず廃用となった。

両者の運命を分けたものは何か?

その最大の理由は

前回の分娩からの日数にあった。

A牛の前産は、平成29年9月2日

分娩間隔は、398日

B牛の前産は、平成28年8月21日

分娩間隔は、779日

約2倍の開きがあった。

623B87D2-AA8E-4BC2-8A41-D9737A603E92これだけの開きがあると

A牛とB牛の体型(ボディコンディション)は大きく違っていた。

どちらがオーバーコンディションだったかは言うまでもないだろう。

2枚の写真はいずれもA牛。

B牛の写真を撮っておけばよかったのだが・・・

ちなみに

血液検査において

差が見られた項目を書いておこうと思う。

A牛

Ca 3.5 、 NEFA 0.59 、Glu 124 、GOT 78

B牛

Ca 7.3 、 NEFA 1.38、Glu 76 、GOT 112

だった。

当然の結果

と言えるだろう。


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