一昨日は、今年度初めての夜当番の日だった。
17時過ぎに、新しい勤務システムの終業の打刻をしたその矢先
緊急電話が鳴った。
酪農家の◎さんから
「親牛がお腹を痛がっている・・・」
という稟告。
よくある稟告なので
気軽に診療車を走らせて
(着く頃には痛みが消えているといいな)
などと都合の良いことを考えつつ
◎さんの牛舎に入り
問題の牛を診た。
食欲廃絶。
疝痛症状はまだあり
後肢で腹を蹴るような仕草をし
しばらくすると寝てしまう。
平熱で心拍もほぼ正常
種付け日が昨年の9月27日の妊娠6ヶ月で
お産とは関係のない時期だった。
乳房炎も併発していたが
乳房炎でこのような疝痛症状が出ることは無いので
普通の診断の流れで直腸検査をした。
便はやや停滞していたが
便自体に異常はなかった。
ところが・・・
「・・・あ・・・これは・・・」
便を取り除いたあとの直腸の直下に
雑巾を絞ったかのような強い捻れに触れた。
「・・・子宮捻転・・・まだ6ヶ月なのに・・・」
「えーっ・・・直るんですか?・・・」
「・・・このままじゃ無理だから・・外へ出して、転がしてみましょう。」
「えーっ・・・そうなんだ・・・」
「・・・転がしても直らなかったら・・・腹を切って手で捻れを戻すしかない。」
「えーっ・・・それは大変・・・」
「・・・でもそうするしかない。」
ということで
まずは
母体のローリングを試みた。
牛はホルスタインではなく
ジャージーだったが
寝かして転がすには
手技は全く同じだった。
転がしてから手を入れて
捻れを確認すると
「・・・あー・・・全然直ってない・・・切りましょう。」
「わかりました・・・」
妊娠6ヶ月程度の子宮は
まだ胎児も軽く
母体のローリングをしても
慣性の力は働きにくいようで
全く直らなかった。
ここからは
現地で行う帝王切開とほぼ同様の手技が必要となる。
ローリング法で寝かせてある親牛を
そのままロープで硬く保定し
鎮静剤と子宮弛緩剤を投与し
左下けん部を洗い毛を刈って消毒して
ビニールをかけて
その上からメスを入れる。
両手が入れられるほど切開して
腹腔内を探ると
妊娠6ヶ月の子宮は
思っていたよりも小さく
20Kg程度の米袋を一抱えする感じだった。
膣から頚管にかけて
反時計回りに強く捻れていたが
子宮を持ち上げると
時計回りに90度程度回転した
それを更に抱えて押し込むと
また90度程度回転した。
頚管部を確かめると
雑巾を絞ったような箇所は消失していた。
「・・・うん・・・これでなんとか直ったね・・・閉じましょう。」
抗生物質を術野と全身に投与し
腹腔を閉じて縫合した。
保定のロープを解き
抗鎮静剤を投与して数分すると
牛はスッと立ち上がった。
「・・・今日はこれで帰りますね。」
事務所に戻って
道具を片付けて
カルテを書き終わったら
時計は21時を指していた。
翌日
◎さん宅にゆくと
牛は口を動かしていた。
「痛がらなくなって、餌も食べ始めましたよ・・・」
「・・・それは良かった・・・でも・・・胎児は無事かどうか分からないから・・・」
「ですね・・・」
「・・・胎児がダメだったら流産で出てくると思う。」
「はい、そうならないことを・・・」
「・・・祈るしかないよね。」
「そうですね・・・」
かくして
私はその牛にもう一度
抗生物質だけを投与して
運を天に任せることにした。
※ ※ ※
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17時過ぎに、新しい勤務システムの終業の打刻をしたその矢先
緊急電話が鳴った。
酪農家の◎さんから
「親牛がお腹を痛がっている・・・」
という稟告。
よくある稟告なので
気軽に診療車を走らせて
(着く頃には痛みが消えているといいな)
などと都合の良いことを考えつつ
◎さんの牛舎に入り
問題の牛を診た。
食欲廃絶。
疝痛症状はまだあり
後肢で腹を蹴るような仕草をし
しばらくすると寝てしまう。
平熱で心拍もほぼ正常
種付け日が昨年の9月27日の妊娠6ヶ月で
お産とは関係のない時期だった。
乳房炎も併発していたが
乳房炎でこのような疝痛症状が出ることは無いので
普通の診断の流れで直腸検査をした。
便はやや停滞していたが
便自体に異常はなかった。
ところが・・・
「・・・あ・・・これは・・・」
便を取り除いたあとの直腸の直下に
雑巾を絞ったかのような強い捻れに触れた。
「・・・子宮捻転・・・まだ6ヶ月なのに・・・」
「えーっ・・・直るんですか?・・・」
「・・・このままじゃ無理だから・・外へ出して、転がしてみましょう。」
「えーっ・・・そうなんだ・・・」
「・・・転がしても直らなかったら・・・腹を切って手で捻れを戻すしかない。」
「えーっ・・・それは大変・・・」
「・・・でもそうするしかない。」
ということで
まずは
母体のローリングを試みた。
牛はホルスタインではなく
ジャージーだったが
寝かして転がすには
手技は全く同じだった。
転がしてから手を入れて
捻れを確認すると
「・・・あー・・・全然直ってない・・・切りましょう。」
「わかりました・・・」
妊娠6ヶ月程度の子宮は
まだ胎児も軽く
母体のローリングをしても
慣性の力は働きにくいようで
全く直らなかった。
ここからは
現地で行う帝王切開とほぼ同様の手技が必要となる。
ローリング法で寝かせてある親牛を
そのままロープで硬く保定し
鎮静剤と子宮弛緩剤を投与し
左下けん部を洗い毛を刈って消毒して
ビニールをかけて
その上からメスを入れる。
両手が入れられるほど切開して
腹腔内を探ると
妊娠6ヶ月の子宮は
思っていたよりも小さく
20Kg程度の米袋を一抱えする感じだった。
膣から頚管にかけて
反時計回りに強く捻れていたが
子宮を持ち上げると
時計回りに90度程度回転した
それを更に抱えて押し込むと
また90度程度回転した。
頚管部を確かめると
雑巾を絞ったような箇所は消失していた。
「・・・うん・・・これでなんとか直ったね・・・閉じましょう。」

腹腔を閉じて縫合した。
保定のロープを解き
抗鎮静剤を投与して数分すると
牛はスッと立ち上がった。
「・・・今日はこれで帰りますね。」
事務所に戻って
道具を片付けて
カルテを書き終わったら
時計は21時を指していた。
翌日

牛は口を動かしていた。
「痛がらなくなって、餌も食べ始めましたよ・・・」
「・・・それは良かった・・・でも・・・胎児は無事かどうか分からないから・・・」
「ですね・・・」
「・・・胎児がダメだったら流産で出てくると思う。」
「はい、そうならないことを・・・」
「・・・祈るしかないよね。」
「そうですね・・・」

私はその牛にもう一度
抗生物質だけを投与して
運を天に任せることにした。
※ ※ ※
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最近は手でいけない時はあっさりと立位兼部切開で「開腹整復」に移行してしまいます
側頭位もそうですね
おとなしい子なら30分かそこらで終わってしまうので頼りがちです
この記事を読んで
転がすのは必須テクニックですが、ロープかけて絞めて寝かせて脚を縛って〜
の流れがきちんと若手に伝わっていない気がしてきました
ただ鎮静をかけるとかでなく、牛をコントロールするテクニックが我々獣医師からも失われていっているのではないかと急に不安になりました
危険な事を排除し、絶対安全にはお題目なんですが(私も骨折ったりいろいろやりました…)
暴れる牛をどう触るか、やりたい手術をするためにどう安全を確保するのか、子牛を手だけで寝かせるなど、今は危ないならならない、危ないことはやってもらうのが当たり前になりすぎてるかもしれません