「あの・・・乾乳の牛に・・・パイプが突き刺さって・・・貫通してるんです!」

先日の連休の午後、◆牧場の従業員の動揺した声で往診の依頼があった。

「わかりました、すぐ行きます。」 

親牛の体に鋭利な物が突き刺さる事故はたまに起こる。

◆牧場まで診療車を運転しながら 

今回はどんな感じなのか

色々と想像した。

◆牧場の乾乳牛舎に着いて

遭遇した実際の現場は

私の想像をはるかに上回るものだった。

DSC_0175従業員の○さんが示した牛の

右横腹には

直径10センチほどの外傷があった。

DSC_0177さらにその牛の

外陰部の下方

乳房の後靭帯付近に

直径10センチほどの外傷(貫通の痕)があった。

「えっ・・・こんなに長く突き刺さったの?」

「はい、そうなんです。」

「どこで突き刺さったの?」

「こっちです。」

案内されたのは

乾乳牛舎とパドックの間の通路だった。

直径約8センチ、長さ約3メートルほどのパイプで

その通路が作られており

2本のパイプの一端が外れて先端が露出したままになっていた。

DSC_0183「これが刺さったの?」

「はい、見つけたときは、牛がパイプを振り回して歩き回っていたんです。」

「どういうこと?」

2本のパイプのうちの1本が牛の体に刺さり

牛の体に刺さったまま

そのパイプは留め金が外れてフリーになっていたという。

「写真があるので見てください。」

「えっ・・・なんだこれ・・・串刺しだよ!」

DSC_0181従業員の○さんが見せてくれた写真には

長さ3メートルほどのパイプが

牛の体を貫通しているところが写っていた。

「牛が歩くとパイプが振り回されるんで、危なくて・・・」

「だろうね・・・で、どうやって抜いたの?」


「お尻の方から引き抜きました。」

「抜いたパイプはどこにあるの?」

DSC_0182「こっちです。」

引き抜かれたパイプは

乾乳舎の片隅に置かれていた。

「こんな普通のパイプが、牛のお尻から刺さって、右横腹に突き出たの?」

「そうだと思います、見つけた時はもうビックリしました。」

「だろうねぇ・・・」

「パイプを抜いた後、牛はエサも食べるし元気なんですけど・・・」

「うーん、腹膜を突き抜けて内臓が傷ついていたら大変だけど・・・」

DSC_0180「・・・」

「とりあえず、抗生物質と血止めの注射を打って様子を見ましょう。」

「わかりました。」

私は、意外にケロッとしているこの牛に

ペニシリンとトラネキサム酸を投与し

明日また来ることを告げて帰路に着いた。

翌日・・・

◆牧場へ往診に行ったのは同僚のY獣医師だった。

Y獣医師のカルテには

「T39.3 P80 活力やや減退も採食可能。穿刺部探査、筋層間に裂創様の創口がありフィブリン付着、皮膚欠損周囲主張、鉄パイプは筋層間を通過し、腹腔への穿孔は無いと思われる。」

とあり

創口の洗浄消毒とペニシリンの筋肉注射が行われ

ペニシリンが4日間薬治された。

その後・・・

◆牧場からは

この牛についてはなんの連絡も来ていない。

きっと

無事に治癒したのだろう。

それにしても

40年の臨床経験がある私でも

このような牛の「串刺し」を診たのは

初めてのことだった。

パイプが腹腔に達しておらず

内臓にダメージの無かったことが

不幸中の幸いだったと言えるだろう。

結果オーライの

驚きの症例だった。

 ※     ※      ※


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